IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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気が付けば11話分も戦いを描いちゃってました。
福音戦もそうですが、何故11話分になるのか。


第79話 学園島攻防戦 ⑪

 IS学園本校舎に、大きな風穴が空いていた。

 穴は校舎の屋上から地上1階まで斜めに貫いており、周囲の窓ガラスは衝撃波と振動により割れていた。周囲の壁にも、同様の事象によりひびが入っていた。

 

《さて、昭弘は・・・》

 

 その穴を作った張本人の一人である三日月が、トンネルを潜るように屋上から1階教室へと降り立つ。

 初めて入るIS学園の内部。

 グシオンは、目視では確認できなかった。あるのは瓦礫の山と、散乱した机や椅子のようなものばかりだ。

 

 即座に、レーダーで再確認する三日月。

 レーダーに反応あり。

 敵機を示す赤い点は、眼前の瓦礫の山を指していた。

 

ドガララァン!!

 

 三日月が気付いた時には、飛び出たグシオンがバルバトスの腰に組み付いていた。

 反応が遅れた三日月は、そのまま黒板まで押しやられてしまう。

 敢えて何も得物を持たぬが故の速度。もしグシオンがシザーシールド等得物を持っていれば、三日月も反応が間に合ったろうに。

 

《昭弘・・・!》

 

 三日月は猛禽類の如き両手で、グシオンを無理矢理引き剥がそうとする。

 

ガシィッ!

 

 しかし、同時にグシオンの両サブアームが展開し、バルバトスのレクスネイルと組み合う。

 腰に組み付かれたことによる、蹴り技及び頭突きの封印。両腕もサブアームにより封じられている為、腕部滑腔砲を向けることもできない。

 残すはテイルブレードだが―――

 

《これなら尻尾も動かせねぇだろ》

 

《考えたね昭弘。脳筋のくせに》

 

 バルバトスは今、背部が壁と密着した状態だ。これではテイルブレードを伸ばせない。即ち、全ての武装を封じられたことになる。

 飛翔しようにも、この狭い空間でのスラスター噴射は却って悪手。寧ろ踏ん張りが効かなくなり、より相手に押し込まれる。

 それはグシオンも同じだが、2人は勝利条件が違う。昭弘の場合、このまま待っていれば勝ちなのだから。

 

 だが当然、三日月がこの膠着状態を許す筈もなく。

 

《けど、サブアームでどこまで持つ?》

 

ググググ・・・

 

 三日月はバルバトスの怪力で以て、サブアームごと押し潰そうとする。

 

《クッ・・・》

 

 歯を食いしばり、踏ん張る昭弘。

 二次移行を果たしたグシオンは、サブアームの強度も膂力も大きく向上している。各武装とは違い、SEにも保護されている。

 それでも、バルバトスの怪力には耐えられない。間接部からは、青白い漏電のようなものが見え隠れしている。

 バルバトスの豪腕に対するサブアームの絶妙な力加減により、辛うじて均衡が保たれている状況だ。これもまた、人機一体の為せる技だった。

 

 昭弘は千冬に通信を送りたかった。「あと何分だ」と。

 だが今、ほんの一瞬でも意識を他のことに回せば、忽ちサブアームは握り潰されてしまう。それだけ集中力が必要な、綱渡りじみた状況だった。

 故に、先の見えない暗闇の中を耐えるしかなかった。救援という光が射すまで。

 

 或いは、何でも良いから戦い自体が終わって欲しいと、心の何処かで思っているのかもしれない。

 親友と戦うのも、親友に学園を破壊されるのも、これ以上は耐えられそうになかった。

 

 

航空自衛隊 人工島空域到達まで残り3分30秒

 

 

 

 

 

 アリーナAフィールド内。

 そこでは今、来訪者及び生徒ら関係者が安心したような不安が拭えないような、神妙な様子で各々待機していた。

 そんな非戦闘員の中には、既に撤退済みの普通科教員や整備科教員も含まれていた。つまりは、出撃した打鉄とラファールリヴァイヴは、補給や撤退の際には格納庫ではなくアリーナAのピットを使用する手筈となっている。生身の人間が、すぐにでもフィールド内へ待避できるように。

 それでも尚、それなりの整備科教員がフィールド内で待機しているということは、補給に戻る機体は少ないということだろう。

 そんな中、整備科教員の一人が真剣な面持ちでタブレット端末を操作している。

 

 布仏本音は、その画面を興味深げに覗き込んでいた。

 

「先生~誰か居ました~?」

 

「布仏さん」

 

 教員が見ていたものは、この周辺区画に設置されている防犯カメラ。そのリアルタイムな映像であった。

 どうやら、取り残された人間が居ないか確認しているようだ。

 

「念の為ね、安心したくて見てるだけよ。・・・布仏さんは大丈夫?不安は勿論だけど、誘導で疲れたでしょう?」

 

「大丈夫で~す!」

 

 大丈夫ではなかった。

 本音は内心、不安で一杯だった。そうでなければ相川と谷本を差し置いて、気分転換に外の映像を見たりしない。

 大好きなあの人はまた帰ってきてくれるのか、大切なあの子は無事なのか。そんな思いばかりが、本音の内側で延々と回転していた。全ての思考を巻き込みかねない程に。

 そういう心境を笑顔で覆い隠すことに、この少女は慣れてしまっていた。だがその笑顔でいつも皆が救われているのも、また然りだった。

 事実、目の前の教員も安心したように表情を弛緩させていた。

 

 だからか、教員が画面から本音へと視線を移している手前、ソレを本音が先に見つけるのは自明であった。

 

「・・・」

 

 映像を見て、笑顔から真顔へと変貌する本音。

 直後に彼女は立ち上がり、そして走り出す。

 

 不審に思った教員は、再度画面に視線を戻す。映像はアリーナAと本校舎の、丁度間辺りの区画だった。

 

「ッ!?」

 

 生身の人間が映っているのを見て、教員は驚愕するよりも先に声を張り上げた。

 

「誰かぁ!!あの子を止めて!!」

 

 皆が、声の主である教員を見て、更に彼女が指差す方向を見やる。

 本音は既に、教員と生徒会にのみ与えられているカードを翳し、通用口のシールドを一時解除。フィールド外へと出て行く。

 

「「本音!!」」

 

 我先にと、相川と谷本が本音を追う。しかし、彼女たちのカードでは通用口のシールドは解除されず、その場で立ち往生する。

 事情を説明され、後から駆け付けた他の整備科教員が、代わりにカードを翳して出て行く。

 本音の姉であり同じく生徒会である布仏虚も、カードを翳してちゃっかり付いていく。

 

「私たちも!」 「離して下さいよ!!」

 

「落ち着きなさい!」

 

 相川と谷本はその場で教員らに捕まり、ただ藻掻くしかなかった。

 

 

 

 アリーナ外に出た本音は、先の映像と思しき場所へ走る。遠方では、様々な発砲音と爆発音が競い合うように鳴り響いていた。

 彼女が教員に報告せず、敢えて一人で飛び出した理由は2つある。

 1つは、映像に映っていた男の風体だ。顔まではよく見えなかったが、後ろ手に縛られていた事だけは確かだった。つまりは、学園側が拘束していた暴漢の一人ということになる。報告した所で、見捨てられる可能性が高いと判断したのだ。

 もう1つは、単純に時間が惜しいということだ。いつアリーナ周辺が戦場になるとも分からない状況で、悠長に上の指示を待っていては、次の瞬間には流れ弾で肉塊となっているかもしれない。

 

(みんな・・・ゴメンね)

 

 良からぬことをしていると、本音自身も自覚はある。安全な場所で静かに待機しているのが、現状での正解なのだろう。

 では、丸腰のまま戦火から逃げ惑う人々を見かけたら。そしてそれが、自身の手が届く範囲の出来事だとしたら。放っておけないのが、布仏本音という少女なのだ。

 例えそれで事態が悪化するとしても、お人好しを絵に描いたような彼女は、きっと行動してしまうのだろう。

 

「布仏さん!戻りなさい!」

 

 教員らと虚が、本音を追うべくアリーナ外へ出ようとする。

 

タタタタタ・・・

 

 しかし、どこからか聞こえてくる発砲音で彼女たちの背筋が凍る。それは、彼女たちの足を止めるには十分だった。

 そして次の瞬間には、30メートル先のアスファルトが、まるで柔らかい泥のように連続で爆ぜた。

 

「本・・・音」

 

 虚はその場にへたり込んでしまった。

 死を目前にしたことへの恐怖、妹を失うという絶望。その両方が、彼女の身体を自然と留まらせた。

 他の教員も、それ以上先には進めなかった。もし自身が、30メートル先まで走っていたらと思うと。もし本音が彼女たちの言葉通り、30メートル先まで戻っていたらと思うと。

 

 そして、此処が既に戦場であることを、2機分のジェット音と風切り音が告げてきた。

 蒼い機体と紅い機体の。

 

 

 アスファルトが弾ける音を背中で感じながらも、本音はその男を発見する。

 年齢は20代後半程度、金髪のオールバックでピアスをつけており、顎髭を濃く生やしていた。服装もいかにもなスカジャンを着ており、俗に言うチンピラといった風貌だった。

 

 しかしその厳つい見た目とは裏腹に、表情は恐怖で歪んでいた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 そう言いながら駆け寄る本音に、男は涙声で縋る。

 

「な、なぁアンタ!助けてくれよ!校舎に馬鹿デカイ何かが落ちて・・・酷く揺れて・・・。も、もうこんなことしねぇからさ!だから頼むよぉ!オレも安全なとこ入れてくれよ!死にたかねぇよぉ!!」

 

 男の願いを聞き、本音は短く考える。

 

(ここからだと、もう校舎よりアリーナの方が近い。フィールド内は入れてもらえないかもだけど、アリーナの中までなら)

 

 どちらにせよ、屋外に放置しておくよりも、屋内で待機させた方が生存率も飛躍的に上がる。

 そう考えを纏めた本音は、男を連れてアリーナへ戻ろうとする。

 

「姿勢を低くして!私の後に続いて下さい!」

 

「あ、ああ!」

 

 後ろ手に縛られたままの男は、本音に腕を引かれながら歩き出す。言われた通り、その熊の如き巨体を丸めて。

 幸いこの道は、ベンチや街灯、高い植え込みや塀などの遮蔽物が多い。戦闘自体も、流れ弾は先の重機関銃によるものだけで、そこまで酷い状況ではない。

 アリーナまで生きて辿り着ける可能性は十二分にある。

 

 そう思った矢先だった。

 

ズガガガガガガガガ!!

 

 本音と男の直ぐ隣で、何かがアスファルトを削った。

 

「ヒィィーッ!」

 

「!」

 

 男は恐怖の余り蹲り、それきり立ち上がれなくなってしまう。

 対する本音は、蹲る男を庇うようにしゃがむ。その瞳は、削り切った終点に居るであろう何かを注視していた。

 粉塵で良く見えないが、まるで不時着したような音と削り方だった。

 そして粉塵が晴れ、鋼鉄の四肢がその姿を現す。何らかの衝撃で、ここまで吹き飛ばされたのだろう。そのISはアスファルトを抉った両脚で踏ん張るように立ち、前傾姿勢のまま片手を地に着けていた。

 

 蒼いそのISを纏う少女は、本音の良く知る少女だった。

 

「セッシー」

 

 

 

 地面を抉りながら着地したことで、自身が不利だということは理解したセシリア。

 だが此処が何処で、周囲に何があるのかは、まるで認識の外であった。彼女には、視界の中心に降り立ってきた紅い怨敵以外、何も見えていないのだから。

 殺意はただ、消すべき標的を消せと、機械的な行動を淡々と促してくる。どんなに苦戦していようと、どれほど消耗していようと。

 

《セッシー》

 

 その柔らかい声で、その名を呼ばれたことで、僅かに殺意が揺らぐセシリア。極寒の只中で、焚火の明かりを見つけた時のようだった。

 それは誰の声だったか、自分は何の為に戦っていたのか、心の奥底で叫び続けるコレは何なのか。

 その答えを求めるように、声の主へと振り返るセシリア。ハイパーセンサーで見えてる筈なのに、それでも真正面に捉えようとするのは、間違いなく殺意以外の感情によるものだった。

 

 そして、その顔を認識する。敵を仕留めることにのみ固執し、忘れていたその顔を。

 心配しているような、安堵もしているような表情。だがそんなものは、些細な違いなのかもしれない。布仏本音の顔であることに、変わりはないのだから。

 心の海底から、泡のように何かが浮いてくる。それはまるで大昔に失くしていたような、懐かしく温かいものだった。つい先程まで、共にあった筈なのに。

 仄かに生温かいそれらはやがて目に到達し、雫となって頬へと伝った。奥底で泣き喚くセシリアを再現するように。

 

 愛を、セシリアは思い出した。思い出してしまった。

 

 気が付けば、セシリアはその手を伸ばしていた。本音の頬へと。触れれば傷つけてしまいそうな恐れを、密かに内包しながらも。

 そして手が、手を模した鋼鉄のマニピュレーターが、本音の頬を撫でる。

 本音もまた、少し戸惑いながらもその手に頬を預ける。此処が戦場であることに恐怖していても、隣に助けるべき一般人が居ても、その求めには逆らえなかった。

 

 

 スミルは少女2人の様子を、邪魔するでもなく遠巻きに観察していた。

 両親を殺めて10年、漸くあそこまで芽吹いた蒼の少女。それが嘘のように、安らかな顔をもう一人の少女に向けている。

 それが気に食わない。等という感情はスミルの中に毛頭無く、寧ろ吉兆のようなものを彼は感じ取っていた。

 己の心に従順な彼は、突き動かされるように重機関銃を天へと向け、凶悪な笑みを浮かべては引金を引く。それはまるで、これから先に待っている更なる享楽を、確信しているかのようだった。

 

ドドドドド!!

 

 死を告げる音で我に返ったセシリアと本音は、各々警戒態勢に戻る。

 セシリアは本音の前に立ち塞がり、MTも扇状に展開させる。それは正しく、大切な人を護る為だけの構えだった。

 発狂的な怒りとも、刺し貫くような殺意とも違うその様子を、スミルは確認する。まさしく彼の予想をそのままなぞる反応であった。

 狂乱に殺意、そのどちらもスミルにとっては堪らなかったが、これはもしや―――

 

「・・・ケハッ」

 

 そしてスミルは天才的、悪魔的なことを思いついた。

 

ゲハハハハハハハハハハ!!!

 

 獣のような、けたたましい虫のような笑い声を、彼は周囲にぶちまける。

 慣れたセシリアは変わらずその様子を注視し、本音は突然の発狂に訝しみ、蹲った男は失禁していた。

 

「蒼の嬢ちゃんよぉ。そぉんなに大事かぁ?大事なんだよなぁ?その女が」

 

 ここまで言えば解るだろうと、挑発的にスミルは問い質した。

 

 セシリアは5秒ほど放心する。理解するまで時間を要したからではない。その間は言わば、怒髪天を突くまでの緩衝地帯であり、助走であった。

 そしてその小柄な五体が、禍々しき怒りのオーラを纏い始める。そのオーラに支配されるように、ブロンドの髪もまた重力を無視して逆立っていく。宛ら蛇の髪を持つメドゥーサが如く。

 

「・・・・・・この子をどうなさると言うのですか」

 

 そう返しながらも、それ以上先を言うなとセシリアは念じていた。

 もしこれ以上奴の言動を許せば、セシリア自身どうなってしまうか分からない。

 確かなことは、取り乱した挙げ句、怨敵に殺される未来だけだ。純然たる殺意ですら勝てない相手なのだから。

 

 スミルもまた、思いついたまでは良いものの、言うか言わないかの板挟みに合っていた。

 大切な人を殺す、犯す、拐う、言葉はそのどれでも良かった。その末に蒼の少女がどうなってしまうのか、ただそれが見たくて堪らなかった。

 だがそんなちゃちな言葉だけで、本当にこの少女は完成するのだろうか。自分は真に満たされるのか。そうも考えてしまっていた。

 そんな訳で、勃起しながらも懸命に耐えていた。舞台は此処ではないと、一番の好物は最後に取っておけと。

 

 殺すのは駄目だ、蒼き少女がショックで壊れてしまう。

 犯すのも駄目だ、少女の愛する人間が傷物になってしまう。

 故に彼は虎視眈々と狙っていた。親亡き少女が大切にしている相手を、掻っ攫える隙を。

 

 護る、奪う。更新された両者の目的により生まれた膠着状態。

 セシリアは待っていた、時間が過ぎるのを。

 スミルは待っていた、その時が来るのを。

 

 

航空自衛隊 人工島空域到達まで残り1分

 

 

 

 

 

 熱波により、円形に干上がった海。更にそこへ周囲の海が雪崩れ込み、円の部分だけが複雑にうねっていた。そして周囲の空域には、大量の水蒸気が生じていた。

 スコールはそんな霧の中で、満身創痍に佇んでいた。

 一瞬の内に膨大な熱量を発生させた為、同じく熱を必要とする各武装も使用不能となっていた。加えて、熱波により起きた水蒸気爆発で、ゴールデン・ドーンのSEは残り僅か。

 これ程の代償を支払った結果は如何にと、スコールは霧が晴れるのを恐る恐る待っていた。

 

《・・・・・・マジィ?》

 

 少し間の抜けた、それでいて嗚咽に似た笑い声でスコールは呟く。

 

 簪と打鉄弐式は、未だ生きていた。

 不動岩山の片方と春雷2門、多大なSEを失ってはいたが、それでも満身創痍とは程遠かった。

 

 簪が咄嗟に気付いたのは、自身を縛るプロミネンスからだった。

 万全を期すのなら、不足の事態に備えて片腕は空けておく筈。なのにスコールは、態々両腕のプロミネンスで打鉄弐式を縛った。そしてその強度は、二重の鞭で縛っているにしては弱々しかった。

 炎の鞭を放つ瞬間まで、ゴールデン・ドーンは水中に居た。水による冷却が弱点かと、だからこその最終手段だったのではないかと、少ない情報から簪は読み取ったのだ。

 そう考えた簪は熱波を放つ直前、敢えて海面を荷電粒子砲で何度も穿ち、大量の水柱を発生させた。熱波の威力を落とす為に。

 結果、簪は賭けに勝った。ゴールデン・ドーンが大量の海水を一気に浴びたことで、熱波の威力は低下。更には、巻き上がった海水が天然の防壁となり、ダメージの軽減に繋がった。2つの事象が重なり、熱波の威力が半減されたことで、片方の不動岩山のみでの防御に成功したのだった。

 

 必殺だった筈の、捨て身覚悟の一撃。それすら不発に終わった。

 即ち、機体状態的にも精神的にも、2人の勝敗は決したも同然だった。

 互いにそれを悟っていた。簪の勝利を、スコールの敗北を。

 

 簪は宛ら処刑人のように、夢現を構えながら促した。

 

《・・・投降するのなら、命までは取らない》

 

 現に何人もの命を刈り取ってきた者が放つ言葉。本気なのだろうと、スコールは感じ取った。

 深呼吸をし、打鉄弐式より更に奥の青空を見上げるスコール。どの国でも変わらない、日々変わり続ける空。それを見ていると、死への恐怖が薄れていくような気がした。

 代わりに思い起こすのは、この日を迎えるまで準備してきた過去、この先に成される革命という未来。兄であり己の分身でもある、トネードとの約束。

 彼女の答えは、最初から決まっていた。命を選ぶには、その大義は余りに重すぎた。

 

《アナタの優しさには感謝するわ。けれどね、命に換えてでも引けない時ってのが、大人にはあんのよ。アナタも何年かすれば分かる》

 

 そう言うとスコールは、両腕を前に出し構える。負けても尚、諦めきれない者が放つ淡い光が、その瞳に宿っていた。

 

 その様を見届けた簪は、スコールより少し短い深呼吸をし、仕留める為の前傾姿勢を取る。

 そして、瞬時加速で一気に決めようとした時だった。

 

 唐突に割り込んできた通信により、簪の行動は止められてしまう。彼女だけ時間ごと停止したように。

 王手直前の横槍。その嫌なタイミングに、簪は妙な悪寒を覚えた。

 通信の内容は、以下のものだった。

 

 

《・・・ウィンターより戦闘中の各機へ。直ちに武装解除し、投降せよ。アリーナAが敵の手に落ちた為、戦闘継続が不可能となった。繰り返す、直ちに武装解除し―――》

 

 

《・・・・・・え?》

 

 低い地鳴りのような千冬の声を聞いて、混乱と当惑が簪を襲った。

 纏まらない頭で人工島を見てみると、降伏の意思表示と思しき信号弾が3発、地上から上空へと放たれていた。

 通信を利用した敵の攪乱戦術などではなく、本当のようだ。

 そう理解した途端、今も変わらず見えている自分たちの学園島が、知らない島国のように遠く感じた。

 

 それ以上、何も考えられなかった。学園の皆は、親友はどうなっているのか、それら心配だけが心中に滞在していた。

 故に、身体はただ命令通り構えを解くだけだった。

 

 対するスコールは、心底安堵したように脱力して呟いた。

 

《ギリッギリ過ぎよ『ダリル』》




アリーナAで一体なにが起きていたのか、次回詳しく描写したいと思います。
できればその後の「交渉」についても。

個人的に一番描いていて楽しかったのは、やっぱ簪の戦闘シーンですかね。成長したキャラのメチャ強描写って、何と言うか描き応えがあるんですよね。
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