IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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今回は、昭弘の束のラボでの過去話が大半を占めています。
描いている自分が言うのも何ですが、ゴーレムクッソかわいいですね。・・・あ、そうでもない?
まぁけど、やはりクラス対抗戦までは若干急ぎ足になってしまった感は否めないですね。

あと、今回からゴーレムタグを付けようと思います。


第10話 望まぬ再会

―――――2月13日(日)―――――

 

 束のラボにて昭弘は無人ISである『タロ』『ジロ』と共にいつも通りの訓練を終えた後、雑談しながら束が今現在籠っている研究室へと向かっていた。

 純白で無機質な廊下を、1人と2体の足音が根本から異なる音響を奏でながら進んでいく。

 

「にしても相変わらず強いなお前ら。こうも負けが重なると流石にショックを受けるな…」

 

 昭弘の力無い一言に、タロが長い腕を小さく振りながら反応を示す。

 

《ゴ謙遜ヲ!未ダ調整段階ノグシオンダトイウノニ、モウジロ程度ナラ少シズツ勝チ星ヲ取レテキテイルデハアリマセンカ!コノママ順調ニ進メバゴーレム最強デアル私ニ対シテモ、十分勝チ越セルヨウニナルカト》

 

 そんな上から目線なタロに、ジロが苦言を呈する様に昭弘へ警告する。タロとは正反対の白銀のボディが、より一層タロへの反発心を露わにしているかの様な光景だ。

 

《昭弘様、コイツノ言葉ハ真剣ニ聞クダケ無駄カト。力ニ己惚レテイル様ナ奴ノ言葉ナド、所詮ハ高ガ知レテオリマス故》

 

《昭弘様、ドウヤラジロハ私ノ実力ノ高サニ嫉妬シテイルヨウデス。温カイ目デ見守ッテアゲテ下サイ!》

 

《抑々戦闘面以外ノスペックナラ、貴様ヨリ私ノ方ガ全テニオイテ上ダ。貴様ハモウ少シ己ノ置カレテイル立場ヲ再認識スベキダ》

 

 要するに調子に乗るなとジロは言いたいのだ。

 

 タロとジロによるいつもの口論が始まると、昭弘は心中で懲りない奴らだと呟く。

 元気でお調子者なタロ、冷静で常に客観的な思考のジロ。毎回そんな2体による衝突の間に挟まれる自分の身にもなって欲しいと、昭弘は思わず溜め息を吐く。その上辛辣な部分はお互い共通しているので尚たちが悪い。

 

 すると、丁字の角の部分で「水色に白い斑点模様」のゴーレム『サブロ』と遭遇する。サブロは、自身の右肩の部分に銀髪の少女『クロエ』を乗せていた。

 

「お疲れ様です昭弘様。訓練の方は如何でしたか?」

 

 動物は五感の内一つを失うと、他の感覚がその機能を補うようになると言われている。人間に於いても例外ではない。

 クロエもその例に漏れず、靴音から生じる昭弘の体重、匂い、大気の流れの変化等から情報を読み取ったのだ。

 

「まずまずってところだな。タロを倒すにはもう少し時間が掛かりそうだ。…そう言うお前はどういう風の吹回しだ?サブロの肩に座ったりして」

 

 少しばかり彼女を小馬鹿にするかの様に昭弘が訊ねると、彼女は恥じらいながら答える。

 彼女だって別に好きで乗っている訳ではない。

 

「サブロが「疲れているだろうから乗ってください」と…。私、まだ10歩程度しか歩いておりませんのに」

 

《イエ昭弘様。クロエ様ハ明ラカニ疲レテオイデデシタ》

 

「…本心は?」

 

《クロエ様ヲ僕ノ肩ニ乗セタカッタダケデス》

 

 そんなこんなで昭弘は、合流したクロエたちと共に束の籠る研究室へと歩を進める。どうやらクロエも束に呼び出されてる様であった。

 

 

 

 束の保有する実戦投入可能な無人ISは全部で136機。世界各国で実戦配備されているISが総計322機と考えると、相当な軍事力を束が保有しているのが解る。

 近距離・遠距離万能対応型の『ゴーレムタイプ』が10機、遠距離・中距離射撃特化型の『メテオタイプ』が26機、索敵・支援・陽動特化型の『エイジェンタイプ』が100機と言った構成となっている。

 

 ゴーレムタイプは創造日が古い順から『タロ、ジロ、サブロ、シロ、ゴロ、ムロ、ナロ、ハロ、クロ、ジュロ』といった名前が付けられている。どの個体も極めて高い戦闘力を誇っており、その実力は平均的な国家代表候補生をも凌ぐ。タロ・ジロに至っては国家代表とタメを張れるレベルだ。

 メテオタイプも代表候補生級の実力を備えており、ゴーレムタイプと同様個体ごとに名前が付けられている。

 エイジェンタイプは索敵や後方支援等が主な目的だが、素の戦闘能力においても現行の量産型ISを大幅に上回る。即ち、索敵も支援も戦闘もこなせるある意味ゴーレム以上の万能機なのだ。エイジェンタイプにも1機1機に態々名前を付けているらしい。

 

 真に恐るべき事は、束にとってこれらがあくまで必要最低限の戦力に過ぎないと言うことだ。彼女がその気になれば、あっという間に500機でも1000機でも無尽蔵に戦力を増やせる。

 そうしない理由は単に彼女の目的が侵略行為に非ず、自衛の戦力だけで十分だからだ。現在束が推し進めている『計画』を優先する為にも余計なことに労力は使わないべきであるし、何より余分な戦力は管理も周辺各国の目も厳しくなるだけなのだ。

 

 

 

 脱線した話をレールに戻す。

 

 昭弘は会話に夢中になっていた為か、気が付いたら研究室のすぐ前まで来ていた。

 中に入ると、束が忙しなくホログラムキーボードを指先で叩いていた。同じく青白くホログラム化されている画面を真剣に見つめていた束は、入室してきた昭弘たちに振り向くと作業を中断させて笑顔で駆け寄ってくる。束を手伝っていたジュロも、その巨体を昭弘たちの下へゆっくりと向かわせる。

 

「来たねぇ?皆の衆☆」

 

 束はそう言うと、クロエに視線を移す。レディーファーストと言う事でクロエが先らしい。

 

「ハイこれ☆」

 

 束は上品そうな白いシルクの布を捲ると、その中に静かに佇んでいる『黒い直方体』をクロエに手渡す。

 

 突然謎の物体を渡されて困惑するクロエに対し、束は両手を腰に当てると得意げに説明する。

 

「君の専用IS『黒鍵』だよぉ☆一応電脳戦に特化した第3世代機なんだけど、それ以外の部分は通常のISとほぼ一緒だから安心して☆詳しい説明は後程ねっ!」

 

 よくよく見るとその待機状態のISはピアノの盤上における「黒鍵(こっけん)」と同じ形状をしており、ネックレスの様な細い鎖が通されていた。

 

「おっとぉ2人とも「何故今更?」とか思っているでしょ?正直私としては、くーちゃんを“兵器”としてのISには乗せたくないんだけどね。けど今後はアフリカ中東勢力がより活発化していくから、護身は今迄以上の方がいいでしょ?」

 

 現にこの黒鍵、電脳戦以外にも防御力や機動力には異常なまでに特化している。確かにいざという時逃げるには打って付けだ。

 

「あ、ありがとうございます束様。大切に使わせて頂きます」

 

《良カッタデスネクロエ様。コレナラ昭弘様ヤ僕タチトモット遊ベルヨウニナリマスヨ》

 

(アフリカ中東勢力か…)

 

 束の計画と何か関係あるのだろうかと昭弘が考えていると、思考を遮るように束が昭弘の方へと振り向く。

 

「さて、アキくんにはグシオンの“設定”の件で話があるんだっ☆」

「今迄はグシオンの戦闘データに基づいて、束さんが細部を設定してきたでしょ?今後はアキくんが自分の戦闘経験に基づいて自分で設定してみて欲しいんだ☆」

 

 確かにその方がより感覚的な部分まで調整が行き届くだろうし、IS学園への入学に備えて今の内に慣れておいた方がいいだろう。

 だが昭弘は、ISの設定・整備関係はまだ勉強段階だ。最初の内は束が昭弘に付き添うのだろう。

 

「悪いな、何から何まで」

 

「いいって事よ☆…で、武装の方は満足行ってる?」

 

 束が若干心配そうに尋ねると、昭弘は喜々として答える。

 

「どれも良い武装だ。T.P.F.B.が考案したんだったか?」

 

「流石は裏で悪どい商売しているだけのことはあるよねぇ」

 

 正式名称『非接触式炸裂榴弾』は、考案も開発もT.P.F.B.だ。砲弾の側面に特殊なセンサーが埋め込まれており、例え外しても目標との距離が10m以内ならセンサーが反応して爆発し、破片が広範囲に飛び散るのだ。更にセンサーは砲弾の側面にしか付いておらず、直撃させることも可能。

 

「性能面でこの束さんに折り紙付きと言わせるなんて、認めたくはないけど大したもんだよ」

 

《結局、ビームミニガンヲ開発スル技術ハ持チ合ワセテイナカッタ様デスガ》

 

 ビームミニガンを創った束を神格化する様な、T.P.F.B.を見下す様な口ぶりのジュロ。流石は、普段から誰よりも近くで束の研究開発を手伝っているだけある。

 

 ジュロが会話に混ざり更にゴーレムが増えた事で、視界が無人ISだらけになった昭弘は自然と次の言葉を発す。

 

「お前たちにもいつも感謝している。訓練とか……家事とか」

 

《…ソレダケデスカ?》

 

 いきなり何か言い出したと思いきやまるで誉め言葉を思い付いていない昭弘に対し、タロが赤いカメラアイを更に紅く光らせる。

 

「い、いやちょっと待て。他にも沢山あるぞ?………」

 

 昭弘が真剣に頭の中で褒められるような事を探す。タロ、ジロ、サブロ、ジュロが昭弘を4方向から囲み始める。彼らに表情は存在しないが、どうやら昭弘を急かしている様だ。

 束とクロエは、そんな光景を目の当たりにして懸命に笑いを堪えている。

 

 昭弘は漸く思いついたのか、顔をゆっくりと上げる。

 

「…アレだ。今更こんなこと言うのも恥ずかしいんだが…」

 

 少し顔を赤らめながらも、昭弘は思い切って“その言葉”を口に出す。

 

 

「いつもありがとな、一緒に居てくれて」

 

 

 

 

 

 

 

―――――4月25日(月) 3時限目―――――

 

 「ISコアの感情」は、既に入学初日に行われている授業内容である。しかし今回の授業では「本当にISコアに感情はあるのか」「ある場合はどう立証するのか」と言った、よりコアについて深く理解していく内容となっている。

 ISにとってISコアは最も重要な部位と言っても過言では無い。コアについて深く理解することは、今後社会においてISと関わっていく者の定めなのだ。

 

 先ず始めに、千冬はコアに感情が“ある”派と“無い”派の意見をそれぞれ黒板代わりの巨大なタッチボードに取り上げていくことにした。

 

 

 意見としては“無い”派の方が圧倒的に多かった。その理由は「科学的に第三者に証明できないから」といったものが殆ど。

 コアとの意思疎通に成功したというIS操縦者は一定数存在するが、コア自身は搭乗者にしか己の感情を見せない。いくら彼女たちが「私は自身のISのコアと意思疎通をした」等と体験を語った所で、第三者に且つ科学的に証明できなければ意味がない。

 人間の脳とは違ってISコアの中身は完全なる“ブラックボックス”状態であり、名立たる科学者たちがいくら英知を振り絞っても何一つ解明できないでいた。無論そんな状況でISコアの感情を観測出来る筈も無く、しかも自分以外の人間には一切感情を見せてくれないともなれば、感情があると結論づける事はできない。

 

 しかし感情がある派の中には、中々興味深い意見を持ち出す者も居た。拡張領域に「ぬいぐるみ」や「フィギュア」等、武装以外の物を入れてみてISコアがどのような反応を示すのか確かめてみるといった奇抜な意見もあった。

 

 議論が白熱している中、昭弘は全く別のことを考えていた。

 先日、会えるかどうか駄目元で束に相談してみた昭弘であったが、余りにあっさり断られたことが少しショックなようだ。

 

(まぁあいつは指名手配の身だから、しょうがないことなのかもしれんが…)

 

 昭弘が残念そうな顔をしていると、突然千冬から指名される。

 

「アルトランドはどう思う?コアに感情はあると思うか?」

 

 突然の指名に昭弘は僅かに狼狽するが、直ぐに思考を切り替える。

 

「…オレは、あると思います」

 

「何故そう考える?」

 

 何故。昭弘は、千冬からそう訊かれて答えを出すことができなかった。

 昭弘は彼等のことについて何も考えたことが無かったのだ。何故感情が与えられたのか、その感情は自分達人間と同じモノなのか異なるモノなのか。そんなことを考える前に、昭弘は彼らを家族として受け入れていた。それだけ、彼らの存在は昭弘にとって最早自然そのものだったのだ。

 

「…すいません、理由は解らないです」

 

 故にそう答えるしか無かった。

 

「そうか。元々MPS使いであるお前にはISコアの感情なんて縁の無い話かもしれんがな、ISをより深く知りたいのならそういった所もしっかり考えておけよ?」

 

「…ハイ!」

 

 昭弘は自身を戒める様に、低くドスの利いた声で短く返事をした。

 

 

 

―――――3時限目終了後 休み時間―――――

 

「一夏、放課後の訓練はどうする?」

 

「おう!今日もよろしく頼むぜ昭弘!…正直()()()()もあるし、訓練にせよ何にせよお前と一緒じゃないと心細いんだよ…」

 

 そんな2人のやり取りを見て、箒とセシリアは危機感を募らせていた。ここ最近、一夏が何時でも何処でも昭弘と一緒に居るからだ。少しでも一夏と男女の距離を縮めたい彼女たちからすれば、これは由々しき事態だ。

 

 なればこそ女なら即行動と、2人は手始めに放課後の特訓を自分たちとしようではないかと一夏に提案する。

 

「いや別にいいけど…昭弘も一緒じゃなきゃ嫌だぞ?」

 

「ウッ……分かり…ましたわ」

 

 渋々セシリアが了承した後、箒が尋ねる。

 

「…一夏、そんなに昭弘が好きなのか?」

 

 箒はそう言いながら、嫉妬の眼差しを向ける。ただし、彼女の場合()()()()()()()()()()()()()のか判らないが。

 

「好きだけど?」

 

「「「「「えええぇぇぇぇぇぇ!!?」」」」」

 

 箒とセシリアを含めた女子生徒たちの叫びが、クラス中に木霊する。

 そんな壮大な勘違いをしているクラスメイトたちに、昭弘は心の中で「馬鹿共」と毒づく。

 

 そんなやり取りが1年1組を満たしている頃。

 

(……何だこの感じは)

 

 突如、昭弘は背中から“何か”を感じ取った。冷たい手で背中を撫でられているかの様な感覚。少なくとも、良いモノでは無いということだけははっきりと解った。

 

 昭弘はあくまで表情は変えずに、ゆっくりと首を冷気が漂ってくる方に向けていく。

 そこに居たのは、IS学園の制服を纏った一人の女子生徒だった。

 丁度教室の入り口付近に佇んでいて、扉に寄り掛かっていた。学年は黄色いリボンからして2年生、まるで空に溶け込んでしまいそうな美しい水色の髪型は外ハネ、深紅の瞳は間違いなく昭弘を捉えており口元は静かに笑みを零していた。

 右手には扇子を持っており広げたソレは彼女の口元近くに在るのだが、彼女はその扇子で笑みを隠そうともしない。

 

 彼女は昭弘と2~3秒程視線を交わした後、ゆっくりとその場から立ち去った。

 

(……何だったんだ今のは?)

 

 当然の疑問が、昭弘の脳内を埋め尽くす。

 唯一戦士としての直感が捉えたことは、彼女がとてつもなく強いということだけ。恐らく自身やセシリアよりも。

 

 

 

 

 

―――――4月29日(金) 5時限目―――――

 

 クラス対抗戦当日、天候は晴れ。

 今回のクラス対抗戦は放課後だけではとても時間が取れないとのことで、5時限目以降全て対抗戦で埋め尽くされている。

 IS学園人工島の丁度中心に位置するアリーナAにおいて、昭弘は観客スタンドの丁度中腹部分に大仏の如く腰掛けていた。

 

(しかしまさか、いきなり1回戦目から一夏と凰がぶつかるとはな)

 

 昭弘はそんなことを考えながら、2人の試合を今か今かと待ち望んでいた。彼の左隣には相川が座しており、相川の更に左隣には谷本が腰掛けていた。

 先日のパーティを機に、相川も谷本もすっかり昭弘と打ち解けた様だ。

 

 箒とセシリアは一夏の姿をより近くで拝みたいのか、スタンドの最前列に腰掛けていた。

 

 そして昭弘の数列後方には先日昭弘に殺気を送っていた水色の髪の少女が腰掛けており、今も彼に気を限界まで静めた視線を送っていた。

 

(今のところ妙な動きは無し。何か事を起こすとしたら、今日は絶好の日なのだけれど。…もしこの前送り届けた殺気が効いているのならこの上無く嬉しい限りだわ)

 

 どうやら彼女は、昭弘に対して強い懐疑心を抱いている様だ。

 T.P.F.B.が絡んでいる時点で怪しいとは感じていた様だが、同じ男子生徒である一夏が居るのに態々一人部屋にされるともなれば、更に強い懐疑心を抱くのも無理はないだろう。

 

「『生徒会長』、今の内に休まれては?私が目を光らせておきますので」

 

 左隣に座していた三つ編みの少女が、心配そうに声を掛ける。

 

「大丈夫大丈夫虚ちゃん!試合が始まったら交代して貰おうと思ってた所だから」

 

(それでは私が試合を観れないではありませんか…)

 

 何処までも都合が良く自由奔放な『更識楯無』生徒会長は、そう冗談を言いながらも監視を続ける。

 

 

 

 一夏と鈴音は、既にピットから飛び立ってフィールド上にて待機していた。

 一夏は少々気不味く感じながらも、鈴音を見つめる。ハイパーセンサーに表示された相手のIS名は『甲龍』。全体的なカラーリングは紫檀色で、所々小紫色の部分もある。脚部は比較的鋭角的で踵が異常なまでに後方へと伸びていた。上背部からは非接触式の小さい翼の様なユニットが浮かんでいる。

 

 すると先に鈴音から専用回線で通信が入る。

 

《一夏、アタシが何であの時アンタを引っ叩いたのか知りたい?》

 

 突然の鈴音からの通信に半ば意表を突かれるが、一夏は気をしっかり持ちながら答える。

 

「知りたいね」

 

《でしょうね》

 

 鈴音はそう短く返した後、まるで考えるかの様な素振りを見せながら更に続ける。

 

《…アタシに勝てたなら教えてあげるわ。勿論この前引っ叩いたことも謝罪する。但しもしアタシが勝ったなら……こっ今度一緒に買い物に付き合って貰うから!》

 

「お、おう!上等だよ!(買い物関係あんのか?)」

 

 一夏が鈴音とそんな約束を交わした直後、試合開始のブザーがアリーナ全体を揺らす。

 

 

 

 昭弘は一夏と鈴音の闘いを冷静に観ていた。どうやら甲龍も近接格闘メインのISらしい。巨大な青龍刀『双天牙月』と白式の雪片弐型が、金属音を撒き散らしながら激しくぶつかり合う。

 すると…。

 

ドォン!!

 

 何の前触れも無く白式が吹っ飛ぶ。

 

「うわっ何々今の!?突然白式が吹っ飛んだよ!?」

 

 相川がお手本の様な良いリアクションを見せる。

 

「…衝撃砲、不可視の砲撃だ」

 

「知ってるんですか?」

 

 実は昭弘、第3世代機の事は暇な時間を見つけては粗方調べ上げている。相変わらず勉強熱心な事だ。

 

「原理は解らないが空間に強い圧力をかけてその場に砲身を作り、衝撃を砲弾の様に打ち出しているらしい。要するに空気砲だ。しかも空間圧縮によって見えない砲身を作り上げている訳だから、相手が何時どのタイミングで自分を狙っているのか分からないし射角も無限だ」

 

 つまり衝撃砲に死角は存在しない。

 昭弘の説明を聞いた谷本は顔を青ざめながら、力無く言葉を吐き出す。

 

「そんなの一体どうやって倒せば…」

 

 現に吹っ飛ばされてからの白式は、衝撃砲を警戒してか明らかに攻めあぐねていた。

 だが、完全無欠の兵器なんてこの世に存在しない。どんな兵器にも必ず欠点はある。

 

「考えてもみろ。砲身が見えないのは凰だって同じ筈だ。的を狙って撃つ際、持つ銃の砲身が見えないのは致命的。その的が高速で動いてるのなら猶の事な」

 

「けどさっきは普通に当たってましたよね?単純に近かったから…?」

 

「恐らくな。現に、距離を取っている白式には未だ1発も当たっちゃいない。いや、もしかしたら()()()()()()のかもな」

 

 何やら意味有り気な昭弘の発言に、相川と谷本は互いを見合って答えを探ろうとする。

 

「命中精度が低いなら、散弾の様に銃弾をバラまくのが常道だ。衝撃砲もそうだとするなら、散弾という特性上距離があればある程威力は弱まる」

 

 だから距離を取っている白式に当たっても、僅かなダメージにしかなっていないのだろう。

 

「しかもさっきから観ている限り、そこまで衝撃砲の連射性は高くない。案外、付け入る隙は結構あるかもしれないぞ?」

 

 昭弘の言った通りなのか、少しずつ白式が攻勢に出始めた。

 まるでタイミングを見計らっているかの様に、甲龍に対してヒットアンドアウェイを繰り返しているのだ。

 実はこれ、昭弘が一夏に戦術の一環として教えたものだ。昭弘は今回、2人の戦いに水を差すまいと敢えて一夏に甲龍の情報を与えなかった。故に今一夏は、自分で考えた上で最適な戦法を繰り出しているのだから大したものだ。

 

 だが鈴音も代表候補生。すぐさま白式の変化に気付いて戦法を変え、序盤の近距離戦へと再び移行すべく白式を追い回す。

 

 2人とも中々良い戦いっぷりである。特に一夏は短期間でよくぞここまで強くなったものだ。相手は代表候補生だと言うのに。

 昭弘はそんな2人の熱戦を微笑ましく観戦していた。

 

「アルトランドさん何か」

 

「子供の試合を観戦している“お父さん”みたいですね」

 

「身体がデカいからそう見えるだけさ」

 

 昭弘たちは観戦しながらそんな談笑を繰り返していた。

 

 瞬間―――

 

 

 

 

 

ドガァァァン!!!!!

 

 

 

 

 

 フィールド中央で巨大な爆発が起こると同時に、衝撃でアリーナ全体が激しく震える。

 

「「うわっとぉッ!!?」」

 

「何だ何が起こった!?」

 

 辺りは騒然となり未だに事態が把握できずに固まって動けない者も居れば、一目散にスタンドの出口へと駆けていく者もいた。

 昭弘はフィールドに視線を戻すが、巻き上がった土煙で内部の状況がまるで判らない。

 

 ならばと、昭弘は上空へと視線を移す。先程の爆発が上空からの攻撃であることは、昭弘も既に把握していた。上空には人型の何かが移っていた。

 

(クソッ良く見えん)

 

 昭弘はグシオンのハイパーセンサーを部分展開させ、再度人型の飛行物体を確認する。

 

 人型の“ソレ”は、ハッキリとハイパーセンサーに映し出された。

 

 

 そう、残酷なまでに()()()()と。

 

 

 

 

(…………タロ?)




次回からは、結構原作ブレイクが多くなるかと思われます。

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