今回は確実に10000字は超える事が予想されるので、前編と後編に分けることにしました。
残念ながら、前編は昭弘の出番は余りございません。観客スタンドの状況や学園側の対応等、面倒なことを先に済ませておきました。なので、昭弘は後編に凝縮することにしました。
パリィン!
上空から
“何事か”と、一夏と鈴音が割れた音の方角を見上げるより先に―――
ドォガァァァァン!!!
シールドを外側から破壊した“ビーム”はそのまま地面へと突き刺さり、巨大な爆炎は土煙を纏う。白式と甲龍はその衝撃に吹き飛ばされてしまう。
しかし2機ともどうにか受け身が間に合い、シールドに激突することは無かった。
「何だってんだ一体!?鈴!無事か!?」
《大丈夫!一夏こそ怪我無い!?》
「今のところはな!と言うか何が起こったんだ一体!?土煙で何も見えねぇ!」
《落ち着きなさい!多分上空からの砲撃よ!それとハイパーセンサーが着弾地点に反応しているわ!…これは…IS?》
確かに白式のハイパーセンサーもISの反応を示している。
一夏と鈴音は取り合えず、シールドに密着する形で土煙が晴れるのを待つことにした。もう既にシールドの割れた部分は自己修復が完了しているので、脱出できないのだ。
今のところ観客スタンドの生徒たちや来賓の方々に被害は無い様だが、突然の事態に大いに混乱している。
そして少しずつ、舞い上がった土煙が重力に従いながらゆっくりと落ちていき薄ぼんやりと人形の輪郭が見え始める。
とうとう土煙が完全に晴れ、一夏と鈴音の瞳に飛び込んできたソレの形状は正に“異形”そのものだった。
その
《一夏!来るわよッ!》
鈴音の掛け声と同時に、その白銀のISは白式へと突っ込んで来る。
昭弘は懸命に頭を巡らせていた。
しかし周囲の喧騒もフィールド内の状況も今の彼の頭には入らず、有るのはハイパーセンサー越しに映るタロの事だけであった。
―――何故タロが此処に?
―――何故一夏たちを撃った?
―――そもそもアレは本当にタロなのか?
しかし、昭弘が頭を巡らせるのもそこまでだった。いや、考えるよりも先に身体が動いてしまっていたのだ。
昭弘は念の為インナーとして着込んでいたISスーツを露にし、今現在背中の阿頼耶識に接続している待機形態のグシオンに意識を集中する。忽ち青白い粒子に追随するかの様に、鋼鉄の肉体が昭弘を覆い尽くす。
昭弘はグシオンリベイクを完全に展開すると周囲に生徒たちが居ないことを確認し、スラスターを吹かせて飛び立った。
《何をしているアルトランド!一生徒が勝手にMPSを展開するな!》
「すいません織斑センセイ。罰は後で受けます」
管制塔の千冬からの叱責を昭弘は短くあしらうと、直ぐ様タロへの専用回線に切り替える。
「タロッ!オレだ昭弘だ!一体どういう事だ!?」
らしくもなく口調を荒らげる昭弘。
本来生徒によるIS・MPSの展開は、教員の許可が必要である。有事の際も基本的に鎮圧を行うのは教員の仕事であり、生徒の主な役目は避難誘導やISによるそれらの護衛等である。
無論昭弘自身そんな事は百も承知だ。しかし自分の家族が今正に人を傷つけようとしている時に、悠長に規則を守ってなどいられない。
《…》
しかしタロからの返事は無く、その赤い単眼はただ機械的に昭弘を見つめていた。
そんなタロの反応に対し昭弘は憤る気持ちを抑えながら、今度は口調を落ち着かせてタロに尋ねることにした。
「何故フィールドを攻撃した?…束からの命令か?」
《…》
尚もタロは答えない。
段々と昭弘の憤りは恐怖に取って代わっていった。昭弘の知るタロは、兎に角お喋りでお調子者。そんなタロが一言も喋らないなんて昭弘には今の今迄想像もできなかったし、したくもなかった。
そんなやり取りとすら言えないやり取りの中、昭弘は漸くハイパーセンサー上に表示されている新たなISの存在に気づく。
今の今迄、タロしか視界に捉えていなかったからだろうか。ハイパーセンサーには、白式と甲龍の他にジロの反応もある。更に上空にはサブロ、シロ、ゴロの反応も。
そんな中昭弘は気づく。ハイパーセンサーに表示されているISの位置だ。フィールド内に、白式と甲龍とジロの3機が固まっているのだ。嫌な予感が、昭弘の脳裏を過る。
そして少しずつフィールド内の土煙が晴れていき、3機のISの姿が露わになる。
(オイまさか……止せ…ジロ…!)
昭弘のそんな願いが届く筈も無く、ジロは白式に突っ込んで行きそのままフィールド内にて交戦が開始されてしまう。
「止せェェェェェッ!!!」
昭弘は雄叫びの様に静止の声を張り上げながら、フィールドを覆っているシールドへと突っ込もうとする。
ガゴォン!!
しかしタロの長い右腕による殴打を食らい、グシオンのSEが減少する。
(……どうしてだ)
昭弘はアリーナ外へと吹っ飛ばされてる最中、頭の中で問いを繰り返す。
(どうしてなんだタロ!ジロ!)
いくら自問を繰り返した所で時は待ってなどくれない。今はタロたちを止める方が先だ。
昭弘は頭の中に充満している問いを半ば無理矢理取り払うと、各部スラスターを器用に小さく吹かしながら体勢を整える。直後、グシオンの全スラスターを後方へと思一気に吹かしタロへと躍りかかる。
管制塔にて千冬は事態の収拾に追われていた。真耶の方は、観客スタンドの避難誘導に向かっている。
クラス対抗戦の最中にて突然の襲撃。千冬は直ちにエマージェンシーコールを掛け、教員部隊の出撃命令を下した。しかし事態は最早最悪の一歩手前辺りまで来ていた。
一つ、襲撃ISの異常なまでの火力である。
アリーナのフィールドに使用されてるシールドバリアの強度は当然のことながら並大抵のものでは無く、如何に火力重視のISであれ破壊することなど到底不可能だ。
そんな代物をしかもたったの一撃で破壊してしまう程の火力を秘めている怪物が、今まさにシールドの内側で暴れているのだ。もし奴の流れ弾がシールドを突き破って観客スタンドに直撃したら怪我人程度では済まない。
もう一つは、そのアリーナAの観客スタンドから誰一人出られないのである。アリーナ全体のシステムに異常が発生したのか、どのエリアのゲートも扉も開かなくなってしまったのだ。
その事が混乱に更なる拍車を掛けて、最早観客スタンドは恐慌状態と化していた。
3つ目はシールドがこちらの操作を一切受け付けなくなっているのだ。これではフィールド内の一夏と鈴音に増援を送ることができない。
幸いフィールド直上に佇んでいた黒色のISは昭弘が上手くアリーナAから引き離してくれたが、それでも無断でMPSを起動させたのは決して関心できた物ではない。
《こちら教員部隊!織斑先生、出撃準備完了しました》
「了解、少々予定を変更する。指示があるまでそのまま待機」
《し、しかし!それでは生徒たちの安全が…》
「現在のアリーナAは、最早生徒も含めた観客全員が人質に取られた様なものだ。フィールド内のIS以外にも、上空では既に3機の未確認ISが確認されている。悪戯に奴らを刺激して、観客席を攻撃されては敵わん。歯痒い気持ちは解るが…」
《…了解…しました》
通信先の教員は無理矢理自身を落ち着かせた様な低く張った声で返事をすると、通信を後にした。
一番不気味なのは敵の目的がまるで判らないところだ。
もし仮に世界初の男性IS操縦者である一夏の身柄が目的だとしても、ならば何故一斉に襲い掛かって来ないのか。何故上空の3機はずっと待機しているのか。
千冬は襲撃犯に得体の知れない不気味さを感じながらも、直ぐ別の心配事に思考を塗り潰される。
(勝てとは言わん。せめて無事でいてくれ一夏、鈴音)
今フィールド内では自身の弟とその幼馴染が懸命に戦っている。しかもこれは演習ではなく実戦で、下手をすれば命に係わる。そんな状況に置かれている弟を心配しない姉など居はしない。千冬もその一人だ。
しかし今の彼女はあくまで一教師。ISと言う名の装甲に護られている2人と、無防備な状態で観客スタンドに取り残された生徒たち。どちらを優先するかは最早語るに及ばずだろう。
すると、管制塔に一本の通信が入る。
観客スタンドでは、悲鳴と怒号が行き交っていた。
「何で開かないのよッ!」「出してよぉぉっ!死にたくないぃぃ!!!」「ちょっと押さないでよ!!」「み、皆さん落ち着いて下さい!ゲートに殺到しないで下さい!」
その群に理性は無かった。あるのは「生」を掴もうとする本能のみ。それは視界を狭め思考を遮断し行動を弾純化させる。故にゲートと言う名の「一点」に集まり群衆は尚も膨れ上がる。
パニックに陥りかけている箒も又、群の仲間入りを果たす一歩手前だ。
「このままではフィールド内で暴れている奴の流れ弾が、バリアを割って飛んでくるぞ!」
そんな風に取り乱す箒を、セシリアは普段の口調で制する。
「落ち着きなさい箒。確かに事態は深刻ですが、未だ最悪という段階ではございませんわ」
「先程フィールド内で暴れている敵性ISの流れ弾がシールドバリアに直撃したのですが、私が見た限りではシールドバリアは
「どう言うことだ?」
混乱から疑問へと切り替わった箒に、セシリアは考える素振りをしながら返答する。
「最初に砲撃を行ったISよりも威力が低いタイプなのか、エネルギーを消耗してしまったからなのか、それとも意図的に威力を抑えているのか」
「だがそうと解れば、周囲の人たちにもその事を伝えて落ち着かせないと!」
箒はあたふたと周囲を見回すが、セシリアは相変わらず氷の如く淡々と最新の状況を伝える。
「現状ではやるだけ無駄かと。この恐慌状態では誰も話など聞いてはくれませんわ」
「そんな…。そうだ!セシリアのブルー・ティアーズなら、ゲートを破壊できるのではないか!?」
この方法ならいけると思った箒だが、セシリアは苦虫を嚙み潰した様な表情をしながら上空を見上げる。
「先程私も、ハイパーセンサーを部分展開し索敵したのですが…遥か上空にも3機、敵性ISが待機している様ですわ。しかも砲塔をこちらに向けて」
「ッ!…それはつまり」
箒は今度こそ絶望する。その内容を、セシリアは無情に告げる。
「こちらが妙な動きを見せれば、砲撃される危険性は十分に有り得ますわ」
「要するに私たちは「人質」ってことよ」
箒とセシリアが打開策を話し合っていると、あらぬ方向から凛とした声が返ってきた。声がした方に振り向いてみると、そこには水色の美しい髪を持った生徒が悠然と立っていた。
「貴女は…更識生徒会長!」
セシリアがその名を呼ぶと、楯無は融和な笑みを零す。
「ソッ!皆のだぁい好きな更識生徒会長で~す!…と、おふざけはこの位にして、2人共真剣に話し合ってるとこ悪いんだけど、現段階で打開策は無いわ」
楯無の冷徹な一言に、箒が物申す。
「…では何ですか?このまま指を咥えて唯々見ていろと?」
「はいそうカッカしな~い。実はさっき、管制塔に「ある通信」を入れておいたの。もうちょっと待ってて」
直後、アリーナ中に設置されているスピーカーから大音量で「指示」が飛んでくる。誰もが知っている力強いその声は、群を構成する知能が著しく低下した者たちに気付けの氷水をぶっ掛ける。
《こちらは管制塔である。現在フィールド内に居る敵性ISの砲撃だが、シールドバリアを突き破る程の威力は無いということが判明した。もう1機の敵性ISも、今現在はアリーナAから引き離されている。故にアリーナから無理に退避する必要性は無い。アリーナの機能不全に関しては目下調査中である。教員並びに生徒会員の指示に従い、安全な体位で待機せよ。又、周囲に傷病者等がいる場合はこれの応急処置に努めよ。繰り返す…》
管制塔からの千冬の言葉に教員たちは安堵の息を漏らし、恐慌状態にあった観客たちも比較的落ち着きを取り戻し始める。
「成程。つまりは更識会長も、事態の凡そは把握しているという事ですのね。上空の3機は、伝えれば更に無用な混乱を招く恐れがあるから敢えて伝えなかったと」
「そこは織斑先生の判断だけどね」
楯無が千冬に伝えたのは、フィールド内の敵性ISがシールドを破壊できないという旨だけだ。
「シールドが破壊されない、上空からの攻撃も今のところは無いのなら、下手に動く必要も無いでしょう?」
未だ安全とは程遠い状況にあることに変わりはないが、先ずは観客を落ち着かせることが重要だ。先の状況は正に、群衆雪崩が起きる一歩手前の状況であったのだ。
既にその恐慌が原因で怪我人も出始めていた。
「2人共思う所もあるとは思うけど、今は“限られた状況”でやれることをやるしかないわ」
楯無のその言葉を受けてセシリアは力強く頷き、箒は力無く頷いた。
「そんじゃっ!私は生徒会長としての役目を果たさなきゃだから、ここらで一旦さよならするわね」
そう言いその場を後にする楯無。流石は生徒会長、事態への落ち着き度なら教員にも匹敵するか。
「箒、私は本音を探してまいりますわ。無事だとは思うのですがどうにも心配で…」
どうやらセシリアも、観客スタンドが落ち着くのを待っていたようだ。今なら安全に移動もできよう。
「……強いな、セシリアも皆も。私なんか慌てて取り乱してばかりだ」
箒はそう言うが仕方が無い。昭弘は突然飛んで行ってしまい、一夏はフィールド内に取り残されてしまう。心を支える友人たちがそんな状況になっては、心も乱れよう。
だからか、セシリアは少し間を置いてから優しく微笑んで言った。
「私だって本当は怖くて怖くて仕方がありませんわ。今もこうして戦っている一夏の身にもしものことがあったらと思うと…考えるだけで背筋が凍りますわ。私はそんな思いを必死に隠しているに過ぎません」
だから怖いのは箒一人だけではない、勝手に自分一人を責めるな。
要はそう言いたかったセシリアは、安全な体位を心掛けながら動き出す。この状況だから仕方が無いが、その様は貴族令嬢とは程遠かった。
その後姿を見送った後、箒は苦笑を浮かべながら「敵わないな」と小さく呟いた。
鈴音はフィールド内の敵性ISに激しい憤りを感じていた。それは正に、毒々しい怒りの炎に彼女の心中が包まれているかの様だった。
自身と一夏による、2人っきりの真剣勝負を邪魔されたのだ。憤りを覚えるのも当然だろう。
しかし…。
(ったく!図体の割にメチャクチャ速いわねコイツ!)
鈴音は、敵性ISの機動力の高さに思わず愚痴を溢しそうになる。
機動力だけで無く、乗っている者の実力も相当なものだ。鈴音と一夏が件のISと交戦してから未だ2~3分程度しか経っていないが、少なく見積もっても代表候補生以上の実力が有ることだけは解る。
ただ例の砲撃の威力が、アリーナを最初に攻撃した一撃よりも低くなっているのは少々気懸りだった。初撃を担ったISよりも威力が低いタイプなのだろうか。
ミ゛ューーーーーーーーン!!!
白銀のISが両腕の先端に2門ずつ付いている砲塔から、合計4本の極太のビームを放つ。白式はそれを既の所で避けると、一気に距離を潰して斬り掛かろうとする。先程鈴音に対して行っていたヒットアンドアウェイ戦法だ。
あれ程の威力があるビームじゃリロードにも相当時間が掛かると踏んだ一夏は、このタイミングなら行けると考えた。
しかしそれは敵の罠だった。
デュゥルルルルルルルルゥン!!!!
砲と砲の間に仕込まれていた窪みから、ビームの雨霰が飛んでくる。その内何発かが白式へと直撃し、SEが減少する。
《グアッ!クッソッ!!》
鈴音も白式とほぼ同時に、敵の右腕に斬り掛かろうとしていた。しかしこちらもギリギリの所で避けられ、お返しとばかりに右手による裏拳を貰ってしまう。
(なんて奴なの!わざと大出力のビームを放ってこっちの攻撃を誘った!?)
しかしその思考より若干遅れて、鈴音は「ある重要な事柄」に気がつく。
見間違いだろうかあのIS、自身を殴った時
もしソレが鈴音の見間違えで無いと言うのなら、件の敵性ISは“人間”ではないと言うことになる。腰が360度1回転する様な人間など、この世に存在しない。
(じゃああのISは…)
鈴音は相手の出方を伺いながら、一夏にも確認を取ることにした。
「ねぇ一夏。アンタ見た?あのISの動き」
《ああ腰の動きの事だろ?バッチリ見たぜ》
一夏のハッキリとした返答を聞いて、鈴音はほぼ確信を持った。と言うよりも、半ば無理矢理確信付ける事にした。
敵の正体が曖昧なままだと、こちらの心理的な負担が無駄に大きくなるだけだ。
直後、鈴音と一夏の出した答えは内容もタイミングも完璧に一致していた。
「《無人機》」
てな具合の話になりました。
少々退屈だったかもしれませんが、後編は昭弘をいっぱい出しますので、乞うご期待ください!