IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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またオリキャラを出してしまった・・・。


第12話 波紋

 某所の最上階。更にそのプライベートルーム。

 

 内装は黒一色に染まっており、壁をよく見ると何かの花の模様が無数に掘られている。

 テーブルと椅子だけがまるで激しく自己主張しているかの様に、白く輝いていた。その丁度真上には山吹色のダウンライトが1つだけポツンと。

 ガラスの外は何処までも漆黒となっており、下には人工による無数の光点が延々と続いていたが、それらに掻き消されている上の光点は風前の灯みたいに弱々しかった。内側の人間に対しては美景を魅せるそのガラスも、外側の人間には内の一切を見せる事はない。

 

 そんな一室にて2人の男女が向かい合って座していた。男は純白のスーツに黒のYシャツを、女は露出度の高いワインレッドのドレスを身に纏っていた。

 しかし首から上だけ見れば、2人の顔が瓜二つと言うのもありまるで美女が鏡を覗いている様な光景であった。

 

 2人はとある組織の2トップ。不定期にではあるが、こうして毎度場所を変えながら意見交換や情報交換を行っている。

 

「最近「そっち」はどうなのだ?」

 

 そんな中、男が女性の様に甲高くも麗しい声を発し女に他愛もない話を切り出す。しかし、女は澄まし顔で上等そうなコニャックを傾けながら話の流れを絶つ。

 

「それよりさっさとに本題に入ったら?」

 

 面倒事は先に済ませておきたい性分の女。

 誰もが嫉妬してしまいそうな美しいアッシュブロンドの髪を静かに撫でなから、女は尊大な態度を崩さない。

 

「せっかちは相変わらずで安心した。まぁアタシはお前とは違って優しいからな、要望通りさっさと本題に入ってやろう」

 

 男も又、女の態度に一切動じること無く無表情のまま左胸辺りで束ねてある自身の髪を弄る。女の髪と全く同色の美しいその髪を。

 

「本部にこんなモノが届いた」

 

 そう一言だけ口にすると胸ポケットから半透明なケースを徐に取り出し、女に中身を見せる。

 

「…SDカードがどうかしたの?」

 

「少し待ってろ」

 

 男はそう言うとSDカードを楕円形で掌サイズの機械に挿入し、映像のホログラムを観せた。

 映像にはとある学園で暴れる2機の全身装甲ISと、そのISを撃破する1機のMPSと更に2機のISが映っていた。

 

 この映像の最も肝心な所は、2機のISは襲撃IS1機相手に手も足も出なかったのに対し、MPSは単独で襲撃ISの内の1機を撃破している点である。

 

「へぇ。あのアルトランドくん(坊や)がねぇ」

 

「同封されていた手紙には「好きに使え」と書かれていた」

 

 数秒程女は夜景を観た後、男に質問を投げ掛ける。

 

「相手は判ったの?」

 

「あらゆる手を尽くして探している最中だ。アタシの予想が正しければ、その人物は見つからんだろうがな」

 

 「見つからん」という言葉で、女も誰が送り主なのか察する。

 

「…天災ちゃん?」

 

「ああ。そもそも最新鋭セキュリティの塊であるあの学園で、これ程鮮明な映像を誰にも気付かれずに撮れる者などアタシは天災しか思い浮かばん」

 

 当然、学園側でも今回の件には厳しい緘口令が敷かれている筈。恐らく今現在この映像を持っている者はごく一部の人間かこの男だけか。

 

 すると女は話を強引に進める。

 

「で?私にどうして欲しい訳?」

 

「話が早くて助かる。明日の幹部会で、この映像における全てのISとMPSの戦力評価をして欲しいのだ。「実動部隊トップ」であるお前なら容易いだろう『スコール』」

「理由は言わずとも解るな?」

 

 観ての通り、これは世界をひっくり返しかねない爆弾映像だ。状況が多少異なるとは言え、IS2機掛かりで倒せなかった敵の1体をMPSが倒したのだから。

 そんなお宝映像を幹部連中に「相手が弱かった」だの「どんぐりの背比べ」だのと思われては敵わない。

 

 その女『スコール』は、少しばかり考えた後男の要望に応じる。

 

「ええ。別に構わないわよ。偶には幹部会に顔出しておこうと思ってたし。けど実動部隊も暇じゃないの。連中には遅れるって伝えて貰える?」

 

「良いだろう」

 

 男の即答を聞いた後、スコールは一番肝心な事を彼に訊ねる。しかし、スコールの口調はまるで男の返答が分かり切っているかの様であった。

 

「で?「運営トップ」のアンタとしてはこの映像をどう使うつもりなの?『トネード』」

 

 男『トネード』は先程のスコールの様に夜景を数秒程眺めた後、ゆっくりと口を開き始める。

 

「無論ばら撒くさ。主に『アフリカ・中東地域』にな」

 

 上手く行けば彼等に「MPSでもISに対抗できる」という認識を植え付けられるだろう。トネードはそれらも明日の幹部会で、ばら撒く対象の組織やタイミング等詳細を決定する腹積もりなのだ。

 

 トネードの返答を聞いて、スコールは口角を釣り上げる。

 

「量産化されているMPSの性能が右肩上がりな今、正に絶好の機会って訳ね」

 

「ああ」

 

 そう短くトネードは答えると、グラスに注がれている赤ワインを舐める様に眺めながら更に言葉を連ねる。その時の彼は、全ての人間を優しく包み込むかの様な柔らかい微笑みを浮かべていた。

 

「今現在この惑星に我が物顔で踏ん反り返っている先進人共は、思い知ることになるだろう。この惑星の“正当な支配者”が一体誰なのか」

 

 その呟きを皮切りに、トネードはグラスの中身を一気に飲み干す。

 

 その後も『ミューゼル兄妹』は雑談の様に情報交換を繰り返して行った。

 

 中でも重要だったのはT.P.F.B.から「ご要望の『究極のMPS』がもう直完成する」という旨の連絡が、スコールに届いていたことであった。

 その情報によって、2人はある一つの確信を持つ。それはこの映像を送りつけて来たであろう天災が、自分たちの計画を知っていると言う事だ。スコールに究極のMPSに関する連絡が届いた矢先、まるでそれを後押しするかの様な映像が送られて来たのだ。そう考えるのが自然である。

 

 ただ一つ2人にとって気掛かりなのは、自分たちの計画を後押しして天災にどんなメリットが有るのかということだ。どの道折角の情報だから有難く使わせて貰うだけなのだが。

 

 

 そしてある程度話が纏まると、2人は何事も無かった様にその空間から出て行った。個室の窓から辛うじて視認できた天然の光点たちは、広い雲が掛かり完全に見えなくなってしまった。

 

 

 

亡国機業(ファントムタスク)

 

 それが、彼らの組織の名であった。

 

 

 

 

 

―――――T.P.F.B. 某研究所―――――

 

 とあるデータを閲覧した技術主任は、髪を「七三分け」に固めている男に自身の興奮をぶつけていた。

 

「んーとぉそんなに凄いんです↑?このデータ」

 

 そんな七三男の微妙な反応に、技術主任は口調を荒げる。

 

「そんな次元ではありませんよ!この戦闘データと先の「ブルー・ティアーズ戦」のデータがあれば、従来のMPSを大幅に上回る「新型MPS」の量産が可能となる!超短期間で!」

 

 技術主任はモニターに映っている呪文の様な数式の羅列を指差して、七三男にそう告げる。

 技術主任の反応を確かめた後、七三男は今自身が2番目に気に掛けていた事を技術主任に尋ねる。

 

「その新型、戦力としては何機でIS1機分になりますぅ↑?」

 

「少なく見積もっても、2機でラファール・リヴァイヴ1機分相当の戦力にはなるかと」

 

 驚愕の事実を聞いて、七三男は金魚の様に目を丸くする。

 従来のMPSは戦場で重宝されていたにしろ、ISの足元にも及ばない性能であった。その次元は精々20機でIS1機に太刀打ち出来るかどうか。

 それがまさかの「2機でIS1機相当」と言う途方も無い戦力のインフレーションを成そうとしているのだ。

 

 その事実に心踊らせた後、七三男は「1番気掛かりな事」を技術主任に訊ねる。

 

「…それじゃあミューゼル様からご依頼があった『究極のMPS』も…いけますぅ↑?」

 

「勿論です。寧ろこのデータはそちらが本命なのでは?」

 

 自信満々にその技術主任が答えると、七三男は満面の笑みを浮かべて両腕でガッツポーズを取る。その際、七三男の黄緑色に彩られたブレザーの裾が上下に荒ぶる。

 

(いいですねぇ↑いいですねぇ↑!束様と昭弘様には、本当に感謝感激雨霰ってヤツですねぇ↑!)

 

 これで亡国機業からの莫大な益と信用を得られれば、T.P.F.B.の安寧は最早不動のものとなる。

 

 七三分けの男『デリー・レーン』は気分を高揚させながら、そのままスコールに電話を掛ける。

 

 トネードの下に件の映像が届いたのは、その僅か1日後だったと言う。

 

 

 

 

 

―――――4月30日(土) 03:02―――――

 

 ベッド身を預けていた昭弘は未だ意識が朦朧とするからか、此処の正確な場所が把握できないでいた。しかし仰向けで寝ている事を考えると恐らく…。

 

「起きたかアルトランド」

 

 横たわっている昭弘の左腕手前辺りに、ここ最近ですっかり見慣れた人物の顔があった。

 

「…織斑センセイ、此処は?」

 

「お前の自室だ。…すまない、未だ保健室にはお前の背中に対応したベッドが無くてな。やむを得ず此処で応急処置を取った」

 

「応急処置…ですか?」

 

 昭弘は、今放った言葉に「事の顛末を教えてくれ」と言う思いを密かに乗せていた。視線は未だに千冬を捉えたままだ。

 それを察してくれたのか、千冬は事細かに一から説明してくれた。

 

「お前があの無人ISを撃破した後、お前はグシオンを纏ったまま2時間程意識が無かったのだ」

 

 話によると、グシオンが待機状態に戻った後も昭弘は今の今迄ずっと意識が途切れたままだったらしい。一応簡易的な検査も施したが、肉体精神共に目立った異常も見られなかった。

 意識が無い状態で待機形態のグシオンを引き剥がすのも危険だと千冬らは判断し、 未だ昭弘の背中にはグシオンが付いたままとの事だ。

 

 本日の午後保健室にてより詳しく検査すると言った後、千冬は何故か押し黙ったまま昭弘の右腕側に目配せをすると意味深な笑みを零す。

 

「それにしてもモテモテだなアルトランド。そいつらだけはいくら言ってもこの場を離れなくてな」

 

 千冬の発言により、昭弘は漸く自身の右腕側に視線を移した。そこには2人の男女が居り女は椅子の上で、男は壁にもたれ掛かって寝息を立てていた。彼らは眠気に負けてしまった様だ。

 

「箒…一夏…」

 

 昭弘は2人の名を口にすると、仏頂面を柔らかい微笑に変える。一先ず2人の無事が分かって、少しばかり安堵した。

 幾らか心が落ち着いたのか、昭弘は今自身が訊きたい事をポツリポツリと吐き出していく。

 

「学園の被害は…どうでしたか?」

 

「多少施設は壊されたが安心しろ。犠牲者は一人も出ておらん。怪我人は出たが、全員軽傷で済んだ」

 

 千冬の返答で、昭弘の安堵は大きくなっていった。

 

 しかし次の質問に移ろうとすると、昭弘の中から安堵の思いは消え失せる。

 

「…襲撃犯である無人ISは?」

 

 昭弘の次なる質問に対し、千冬も又笑顔を消し去る。そして少しだけ間を置いてから答える。

 

「…すまないアルトランド。その件は未だ何処まで話せばいいのか…。お前は無人ISを撃破したとは言え、あくまで一生徒の域を出ない」

 

 そう突き返される事を予想していた昭弘ではあったが、実際に言われると中々に堪える。

 自身が気絶していた間家族(ゴーレムたち)がどうなってしまったのか、何処に連れていかれたのか、今の昭弘には想像も付かない。と言うよりも「想像したくない」と言った表現の方が、寧ろ正しいのかもしれない。

 知りたい様な知りたくない様な、昭弘はそんな感情が心底から浮き上がって来るのを感じた。

 

「いえ、結構です」

 

 昭弘は必死に自身のはち切れそうな想いを隠しながら、萎れた声で千冬にそう返した。

 

「本日、土曜日ではあるが学園全体に緘口令を敷く為に全校集会を開く」

 

 既に全生徒に緘口令のメールは送っているが、実際に伝えた方が効果があると学園側が判断したのだろう。

 が、千冬としては次の思惑の方が強かった。

 

「今回騒動に巻き込まれた生徒に対する「事情聴取」の意味合いも含めてはいるがな。特にアルトランド、お前に関しては生徒会長が直接聴取したいと言っていてな。…ここだけの話だが更識には気を付けろ。奴はどうにも、今回の騒動に関してお前に何らかの疑惑を持っていてな」

 

「…分かりました」

 

 昭弘がそう淡々と答えると、千冬は「私も同席するから安心しろ」と軽く笑いながら返してきた。

 

「私はそろそろお暇するが、その2人はどうする?起こすか?」

 

 千冬にそう言われて、昭弘は意外にも思い悩む。

 安らかな寝顔だ、2人を起こすのは悪い。いやしかし折角この時間まで居てくれたのに、目覚めた事実を伝えないと言うのも…。

 

 思い悩んだ末、昭弘は2人を起こすよう千冬にお願いする。

 千冬は2人の頬に軽く平手をお見舞いしながら、彼女なりに優しく起こす。

 

 もう少し優しく起こせないのだろうかと昭弘が苦笑を零していると、先に箒が唸り声を上げながら目覚める。

 

「昭弘ッ!」

 

 その直後、一夏も同じ様に目覚め背もたれを解く。

 2人は全身から心配のオーラを発しながら、問い質す様に昭弘に迫る。

 

「本当に何とも無いのか!?」「お前本当に昭弘だよな!?変な別人格とかだったりしないよな!?」「私が判るか!?」「オ、オレが判るか!?一夏だよ一夏!」

 

 昭弘とグシオンの「あの動き」を見た後では、2人のそんな反応も無理はない。2人も怖かったのだ。昭弘が昭弘でなくなっているのではないかと、2度と昭弘が目覚めないのではないかと。

 昭弘もそんな2人に困惑こそしつつも、自身を心配してくれていると言うことだけは分かった様だ。

 

「ああ、別に何とも無い。心配掛けてすまなかったな」

 

 昭弘の口から流れ出る普段通りの重低音に箒と一夏の興奮は沈められ、代わりに安堵をもたらした。

 

 その後昭弘は、こんな深夜まで自身の為に残ってくれた3人に感謝の言葉を贈った。

 

 

 

 3人が退出すると、再び昭弘だけの時間が訪れる。

 一人の時間。今の自身を見ている者が居ない時間。考える事は、自身がこの手に掛けてしまった家族の事であった。

 

(……オレが……殺した)

 

 昭弘は心の中で、一つの事実を大した意味も無く復唱する。

 昭弘は前世で家族を失う事こそあったものの、自分の手で殺めたことは一度たりとも無かったのだ。

 

(「罰」なのだろうか…オレへの…)

 

 この世界には、昭弘と同じ境遇の少年が数えきれない程存在する。その少年たちは親も居なければ、寝る場所すらも無い。そんな中、昭弘だけが平穏な生活を送っているという事実。そんな自身への罰だと思うと、昭弘は何も言える筈が無かった。

 若しくは「何てことは無い、少年兵(彼ら)が今正に感じている絶望と比べれば」と、そんな事を考えているのかもしれない。

 

 

 

―――こいつは鉄華団を裏切った

 

―――オレがこんな思いしている間…ッ!アンタだけ「家族」と幸せに…ッ!

 

 

 

 彼の脳内にて、前世で聞いた言葉が再生される。

 家族を殺した自分に対して、三日月は何を思うのだろうか。

 報いを受けた自分を見て、(昌弘)は自分を赦してくれるのだろうか。

 

 今は亡き家族たちの言葉にどれだけ意識を向けようと、タロはもう戻っては来ない。そんな当たり前の事に、かなりの時間を要して漸く気づいた昭弘であった。

 

 

 今は先ず、ジロたちの現状を確認するのが先だ。

 

 そう心の中で意識を切り替えると、彼は明日の取り調べに備えて己の情報を纏める。

 中でも彼を悩ませているのが、束の事を何処まで話すかだ。束のことは、少なくとも「昭弘と深い繋がりがある」点は生徒会にも言うべきだろう。ただあの狡猾な兎女が、昭弘に対して何の「口封じの策」を講じていないとも思えない。

 

 昭弘が束と自身の関係を脳内で説明用に構成していると、今度は束との今後について頭が巡ってしまう。

 

(…オレは今後アイツとどう接するべきなのだろうか。家族にあんな事をさせたアイツと…)

 

 束の狙いが何なのかは相変わらず分からない。そもそも、彼女が今回の首謀者であるという証拠すら無い。

 それでも唯一つだけ解ったことがある。それは、少なくとももう束とは「今迄の様な関係」では居られないということだ。

 

 昭弘はある程度情報を纏めると、残りの時間を睡眠に割くべく瞼を閉じる。

 

 ジロたちの無事を祈って。

 

 

 そして願わくば、いつもの日常に戻れることを祈って。




出来れば次回か次次回あたりで、学園のゴタゴタを片付けたいです・・・。

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