IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

22 / 110
今回も、何話かに分けようかと思います。
どちらが男子なのか判らない様に描くのって、意外としんどいですね・・・。


第一章 の2 IS学園~ニューフェイス~
第16話 2人の転校生(1時限目前)


―――――5月9日(月)―――――

 

 この日も、IS学園周辺は雲一つ浮かんでいない快晴であった。5月ももうじき中旬だからか、1組の生徒たちは登校で流れた汗をSHRが始まっても未だ額に滲ませたままだ。

 しかし1組の副担任である真耶は、生徒たちとは種類の違う汗を流していた。その汗は暑いから流しているモノではなく、言うなれば「困惑」「焦燥」から来るモノであった。

 

「え、えーと…。きょ、今日は「転校生」を紹介したいと思います」

 

 本日、1組担任である千冬からSHRを任された彼女は転校生と思しき2人に度々視線を送っていた。

 千冬はその様子を、腕を組みながら心配そうに見守っている。

 

 彼女がこれほどまでに動揺している理由は、昭弘の心の声がそのまま代弁してくれた。

 

(無理もない。鈴音の転校から1ヶ月も経ってないってのにもう新しい転校生。しかも2人と来た。更には全校集会も無しにいきなりだ。それが自分の受け持つクラスに2人とも入るなんて、山田センセイからすれば「意味不明」の一言に尽きるだろう。おまけに…)

 

 そこで昭弘の心の声は途切れるが、今度は生徒たちの不気味に過ぎる静寂が昭弘の思いを声も無しに代弁する。

 皆一様に口を半開きに目を大きく見開いたまま、2人の転校生を凝視していた。何故ならば、2人の服装が少なくとも()()()()()()()()()()()からであった。

 

 兎にも角にも、先ずは2人に自己紹介を促す真耶であった。それに対して、先ずは『金髪の少年?』がニコやかに応じる。

 

「皆さん初めまして。『シャルル・デュノア』と申します。出身国はフランスです。一応「2人目」の男性IS操縦者になるのかな?異性の身で色々と御迷惑をお掛けする事もあると思いますが、1年間宜しくお願いします」

 

 直後、クラス全体を無言の静寂が覆った。

 しかし昭弘は何となく理解した。これは只の静寂ではないと。

 

 その少年は非常に中性的な顔立ちをしており、長い髪を襟足の部分で1つに結んでいた。睫毛はまるで女性の様に長く、小さく可愛いらしい口が彼の笑顔を更に上の次元へと昇華させていた。

 そんな美少年のまるで「天使」の様な笑顔を目の当たりにした女子生徒一同が、終始無言のまま終わる筈も無く…。

 

「「「「「きゃぁぁぁーーーーーーッ!!!!!」」」」」

 

 昭弘の左耳に衝撃が雪崩れ込んで来る。それは昭弘の脳内を激しく掻き回し、右耳から濁流の如く放出された。その突然すぎる女子生徒たちの黄色い歓声に、昭弘は耳を塞ぐ間も無く唯々歯を食い縛って耐えていた。

 一同はそれだけ叫んでも飽き足らず、怒号にも似た声をそのままに各々の感想を口にしていく。

 

「3人目の男子ッ!!!」「しかも織斑くんやアルトランドさんとは違う護ってあげたくなる系!」「天使だわ!」「わ、私夢でも見てるのかしら」

 

 彼女たちは、ここぞとばかりに“鬱憤”を爆発させる。エリートとは言え、彼女たちも思春期真っ只中の女子高生。イケメンと言える男子が一夏しか居なかった現状では、彼女たちにとって正に朗報中の朗報と言えよう。

 そして彼女たちの熱い視線は、もう1人の転校生にも飛び火する。

 

「ネェネェじゃああの子も?」「流石に女子じゃない?髪長すぎるし小柄過ぎるし」

 

 期待と疑問を秘めながら、彼女たちはその「少年?」の容姿を小声で伝え合う。

 

 シャルルとは真逆の印象を受ける「少年?」であった。

 何処までも冷えきった紅い瞳。その瞳を更に際立たせる様な鋭い目つきをしていながら、顔はまるで人形の如く美しく整っていた。左目はアイパッチで覆われていたが、その美しい顔には不釣り合いであった。銀色の髪は色素を削がれた様に生気が無く、脚の脹脛まで伸びていた。

 服装はシャルルとは少しばかり異なり、ズボンの膝から下はロングブーツで覆われていた。

 

「み、皆さんお静かに!自己紹介の続きに入りますよ!」

 

 いつまでも静まる気配が無い生徒たちを、真耶は懸命に制する。

 

 クラスが静まり返ると、真耶はその銀髪の転校生に自己紹介をするよう促す。

 

「…」

 

 しかし真耶の言葉の一切を無視するかの様に、転校生は無言を貫く。

 

 それを見かねた千冬が、大いに困惑する真耶に助け船を渡す。

 

「…『ボーデヴィッヒ』自己紹介をしろ」

 

「はいッ教官!」

 

 『ボーデヴィッヒ』は大きな張りのある声で短く返事をすると、クラス一同に向き直る。

 真耶の時とはまるで異なる反応を示したボーデヴィッヒに対し、皆疑問を浮かべる。その時、昭弘も含めたクラス全員が「教官」という単語を決して聞き逃さなかった。

 

「『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だ」

 

 ラウラがたったそれだけ口にすると、真耶は顔を引き攣らせながら恐る恐る訊ねる。

 

「あのぅ…以上でしょうか?」

 

「以上だ」

 

 真耶の問いに対し、ラウラは淡々と即答する。

 

 

 

 ラウラが自己紹介を終えた後、昭弘はクラス一同とはまったく別の事に頭を巡らせていた。

 

(もしデュノアの言っている事に嘘偽りが無いとするなら、デュノアが男でボーデヴィッヒが女って事になるのか。いやしかし、デュノアには悪いが「男」と言い張るには()()()()()()()()

 

 昭弘のそんな感想は、至極的を得ていると言って良い。

 高校生にもなれば、例え制服越しだろうと男女の身体的相違は否応無しに現れる。その最たる例が肩幅であるが、シャルルのソレは男子高校生にしては余りにも狭すぎるように昭弘には感じられた。

 しかし勿論身体の成長には個人差があるので、昭弘の疑念は所詮推測の域を出ない。

 かと言って、それはラウラも同じ事。結局の所、直接確かめる事が出来ない限りはどうしようも無い。

 

 そんな事を考えていると、昭弘は突如ラウラから嫌な気配を感じ取る。

 

 

 一夏も又、他のクラスメイトたちとはまるで別の反応を示していた。

 

(名前からして「ドイツ人」…だよな?それに千冬姉の事を「教官」と言っていた…って事はやっぱり)

 

 一夏はそこまで考えると、瞼を僅かに細めてラウラを凝視する。それはまるで見たくもないモノを見る様でもあり、因縁を投げかけている様でもあった。

 

 ラウラはそんな一夏の視線に気付くと、彼の直ぐ目の前まで歩を進める。それは一見すると今迄通りの無表情に見えるが、その瞳はしっかりと一夏を捉えていた。

 

「おい()()()

 

 千冬の制止も構うことなく、ラウラは席に座っている一夏の目の前に佇む。一夏の顔を正面に捉えるとラウラの無表情は我慢の限界を迎えたかの様に崩れ去り、そこには憎悪に彩られた鬼の形相があった。

 

「…貴様が…!」

 

 そう言うとラウラは右手を強く握り締めて「拳」を作り、それを天高く掲げる。

 

「ッ!?」

 

 余りにも突然の事に驚いた一夏は、反射的に左頬を両腕で覆う。

 クラス一同は制止の声すら掛ける猶予も無く、唯々表情を驚愕に染める事しか出来なかった。

 シャルルは未だ傍に立っていたからか対処が早く、ラウラの右腕を押さえようと動く。しかしラウラが拳を降り下げる方が早いであろう事は確かであった。

 

 一夏が衝撃を覚悟した瞬間、右後方の席からドスの利いた低い声が静かに響く。

 

「止めとけ」

 

 その一言は見えない手となって振り上げた腕を掴み、ラウラの動きを止める。

 

 声の主である先程から最後列で静かに座している「巨漢」を睨み付けると、ラウラは臆する事無く抑揚の無い声で問い質す。

 

「何だ貴様は?」

 

「『昭弘・アルトランド』だ」

 

 その青年『昭弘』は軽く名乗り終えると、初対面である事を気にも留めずに自身のお節介を述べていく。

 

「お前が一夏とどんな関係なのかは知らんが、そういうのはお前の為にならん。だから止めておいた方が良い」

 

 対して、どういう意味だとラウラは更に問い詰めようとする。

 

パンッ!

 

 しかし、問いはその軽快な一拍子によって遮られる。その音を発した張本人である千冬が、合掌していた右手と左手を切り離すと有無を言わさず次に進もうとする。

 

「自己紹介は以上だ!デュノアとボーデヴィッヒは事前に指定されてる席に座れ」

 

 その雷の様な一声がクラス中を痺れさせ、シャルルは多少慌てながら、ラウラは渋々と自分の座席に着いた。

 

 一先ず表面上は落ち着いた様に見えるが、ラウラの中で燻っている憎しみの炎は、未だ衰える事を知らなかった。

 

(今日の所は引いてやろう『織斑一夏』。だが私は認めない。貴様があの人の弟だなどと…認めるものか…!)

 

 

 その後どうにか動揺を押し留めた真耶は、残り僅かな時間を使って今日の予定を伝達していた。

 

 

 この際男性云々は後回しにして、先ずラウラをどうにかすべきだろう。かと言って、シャルルを一夏に任せきりにする訳にもいかない。

 

 そんな事を考えた後、昭弘はこれから確実に訪れるであろう「波乱」を想像してしまい思わず深い溜め息をついた。

 

 

 

―――――SHR終了後 休み時間―――――

 

 昭弘がラウラに話し掛けようと立ち上がると、いつもの様に一夏が駆け寄って来る。普段と違う点は、箒の代わりにシャルルが居る点だ。

 どうやら、2人は互いの自己紹介を既に終えている様だ。

 

「昭弘、さっきはサンキューな!デュノア、紹介するよ。もうテレビとかで観ただろうけど彼が『昭弘・アルトランド』。寡黙そうでおっかなく見えるけど、優しい奴だから安心してくれよな」

 

 シャルルはそんな一夏に合わせる様に、改めて自身の名前を口にする。

 

「改めて宜しくねアルトランドくん。『シャルル・デュノア』です。同じ男子生徒として仲良く接して貰えると嬉しいな」

 

 シャルルが短い自己紹介を終えると、昭弘もその巨躯を立ち上がらせ己の紹介に入ろうとする。

 立ち上がった昭弘によって生み出された巨大な影が、シャルルに上から覆い被さる。その迫力に、シャルルは顔を蒼褪めながら僅かに後ずさりしてしまう。

 

「『昭弘・アルトランド』だ。宜しく」

 

 その後、昭弘は巨大な右手をシャルルに差し出す。シャルルはその武骨な右手を、恐る恐る自身の華奢な右手で握り返す。

 

(近くで見ると本当におっきいなぁ…。手なんて僕の2倍くらいあるんじゃないかな。…言っちゃあ悪いけど、無言だと確かに凄く怖い)

 

 

 そんな光景を遠目から見ていたセシリアが、箒に他愛もない感想を零す。

 

「ああして見てみると、本当に同い年の男子とは思えませんわねあの2人」

 

「…うむ」

 

 微妙な反応を示す箒を見てみると、寂しげな視線を一夏に送っている彼女が其処に居た。

 セシリアは今の箒の心境を察すると、更に言葉を連ねる。

 

「仕方がありませんわ箒。転校生に対して親身に接するのもクラス代表としての立派な勤め。今は辛抱なさって下さいな」

 

 セシリアにそう宥められて、箒は渋々と一夏に向けていた視線をセシリアへと戻す。

 

 

 自己紹介の後、一夏は昭弘にある提案を持ち出す。

 

「でさ、この後実技だろ?更衣室まで、3人で固まって行かないか?」

 

 その時の一夏は、少しばかり焦っている様にも見えた。

 

 IS学園では基本的に女子が教室で着替えるので、男子は仮設の更衣室まで移動せねばならないのだ。

 一夏自身1人で移動した時は多数の女子生徒に絡まれ、授業時間に間に合わない事があった。増してやシャルルは誰もが認める絶世の美男子。絡まれるどころか最悪の場合集団で追い回される様な事は、流石の一夏でも想像出来た。

 そこで昭弘の出番である。大多数の女子生徒から怖がられている昭弘が一緒に居れば、被害を大幅に減らせると一夏は考えたのだ。

 

「ああ」

 

「よし!そんじゃ遅れない様にとっとと移動しようぜ」

 

「な、なんかゴメンね僕の為に…」

 

 未だ学園の雰囲気に慣れていないシャルルは、健気に笑みを浮かべながらもどこか落ち着きが無い様に見えた。

 

 昭弘はそんなシャルルを気に掛けつつ、クラス内を軽く見渡す。

 すると、良く目立つ「銀色の髪」がクラスの何処にも見当たらない事に気が付く。先に更衣室へ移動したのか、自分たちが話している間に教室で着替えたのか。

 そんな事を考える間もなく、一夏が昭弘に声を掛けてくる。

 

「どうした?昭弘。早く行こうぜ」

 

 

 

 

 IS学園の廊下にて、女子生徒たちは極めて歯痒い想いに襲われていた。

 

 俗に言う正統派イケメンである織斑一夏と、中性的な可愛らしさを秘めたシャルル・デュノアが並んで歩いている光景。

 しかし本来ならば群がるなり写真を撮るなり質問攻めに興じるなりの行動に出る筈の彼女たちが、何故か立ち尽くしているのだ。

 その理由は、彼等と共に歩いているもう一人の巨漢の存在にあった。制服越しからでも良く解る程の屈強な肉体。顔面も、その肉体に良く似合う強面であった。そんな男がしかも不機嫌そうに歩いていては(実際は不機嫌でも何でも無いのだが)、近づくのも躊躇われると言うもの。

 

「そんなに怖いかな?昭弘の事」

 

 一夏の素朴な疑問に、昭弘が抑揚の無い声で返す。

 

「外見だけが理由じゃ無いだろうさ。元々オレは「人殺し」を生業にしていたからな。怖いと思わない方が珍しいさ」

 

 付け加えるなら、前回のゴーレム戦の影響も強く表れているのだろう。

 戦いの最中、突如豹変したグシオン。その豹変っぷりと余りに異次元的過ぎる力を目の当たりにしてしまえば、恐怖に似た感情を抱いても不思議ではない。

 

 昭弘の淡々とした受け答えを聞いて、一夏は思わず目を伏せて黙り込んでしまう。 

 友人をそんな風に思っている周囲の人間が腹立たしいのか、どうにも変え難い現実という理不尽が気に入らないからか、周囲からそう思われている昭弘をまるで利用しているかの様な自分自身が嫌になったのか。

 今の一夏には、黙り込む原因などいくらでも思い当たった。

 

 そんな気不味い空気を払拭する為に、シャルルが慌てながら話題を変える。

 

「そ、そう言えば仮設の更衣室ってどんな感じなの?」

 

 シャルルの質問に答えるべく、一夏は気持ちを切り替えて顔を上げる。

 

「仮設っつっても、そこら辺は天下のIS学園だから結構奇麗で広いぜ?」

 

 それを聞いて、シャルルはホッと胸を撫で下ろした。

 

 

 

 更衣室に着いた3人は、遅れない様に急いで着替え始める。否、正確には急いで着替えているのは一夏と昭弘の2人だけだ。

 シャルルは、何故か一夏の露出した素肌を見て顔を赤らめている。恥ずかしがる様に、視線を逸らすシャルル。しかし、視線を変えたシャルルの瞳にあるモノが飛び込んで来ると。

 

「うわぁあッ!!」

 

「ど、どうした!?」

 

 一夏が、両手で目を塞いでいるシャルルに声を掛ける。シャルルの真正面にあるモノは…「筋肉」、大小様々な形状をしていた筋肉の山であった。その持ち主である昭弘も、シャルルの様子を確認する。

 

「何だ?」

 

「そ、それ程に凄いか?昭弘の筋肉」

 

 2人がシャルルに訊ねると、シャルルは慌てて目を塞いでいた両手を取っ払う。

 

「そ、そう!余りにもアルトランドくんの筋肉が凄すぎてビックリ仰天しちゃった!じゃ、じゃあ僕隣の列で着替えるね!」

 

 そう言い終えると、シャルルは逃げる様にそそくさと着替えを持って移動する。

 

「?…っとぉ!オレらも急いで着替えないとな!」

 

「……ああ」

 

 シャルルに向けていた意識を、直ぐ目の前まで迫っている授業に向け直す一夏。

 しかし昭弘は、シャルルの反応に不信感を抱いたまま着替えを続けていた。

 

(…普通男が男の裸見て、あんな反応するか?)

 

 昭弘も余り考えたくはないが、もし仮にシャルルが()()()()性別を偽っているとしたら。

 

 どうにも、不吉な予感を振り払えない昭弘。

 ラウラだけではない、シャルルも何か途轍も無い「爆弾」を抱えている。昭弘は先程のシャルルの反応と行動に、そんな事実が見え隠れしている様な気がしてしょうがなかった。

 

 2人が転校してから未だ初日、しかも1時限目前。波乱はまだまだ始まったばかりだ。




単にホモなだけかもしれない。

ラウラと昭弘は次回もっとしっかり描写しますんで。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。