IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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いんの「山田先生との模擬戦どうすっかな・・・。セシリア強化しちゃったから、原作通りの圧勝とは行かないし・・・。」

いんの「そうだ!ゴーレムと組ませよう!!」


第17話 2人の転校生(初日終了)

─────5月9日(月) アリーナA─────

 

 今回の実技は1組と2組による合同演習だ。しかも、1時限目と2時限目を丸々使いきる拡大版ときた。

 態々合同演習と言う形を採った理由は、千冬があるモノをより多くの生徒に見せたいが為だ。

 

 

『タッグトーナメント』

 

 

 2対2で執り行われるトーナメント戦であり、先月のクラス対抗戦を凌ぐ規模の一大イベントでもある。

 

 無論、皆IS学園の一生徒として練習はしている。景品も当然欲しい。

 しかし圧倒的戦力を誇る専用機持ちの存在が、彼女たちの意識を沼の底まで沈めていた。どうせ勝てないけど、一大イベントだから仕方なく練習する。そんな意識で練習をした所で、時間ばかりが過ぎ行くだけだ。

 

 

「オルコット!凰!これからお前たちには「模擬戦」をして貰う」

 

 千冬にそう言われて、当人たちは渋々と重たい足を運ぶ。

 

「面倒くさぁ~…」

 

 代表候補生の風上にも置けぬ言葉を、鈴音はボソリと溢す。

 

「こう言うのは「見せ物」みたいで、気乗りしませんわね…」

 

 セシリアも『オルコット親衛隊』の熱視線をこれでもかと言う程に浴びているのに、当の本人は乗り気では無い様だ。

 

 そんな2人に発破をかけるべく、千冬が魔法の言葉をボソリと呟く。「一夏」と。

 

 瞬間、2人の表情は夏の朝日に照らされる。

 

「織斑教諭直々の指名とあらば、イギリス代表候補生筆頭として全身全霊を持ってお応えしますわ!」

 

「やってやろうじゃないの!」

 

(チョロくて助かる) (とか思ってんだろうな) (何で突然やる気満々に?)

 

 千冬、昭弘、一夏が夫々全く違う事を思っていると、鈴音とセシリアが早速睨み合っている。

 今にもISを展開しそうな2人を、千冬が静かに制する。

 

「落ち着け恋する少女(ガキ)ども。別にお前たち2人の模擬戦を見せたい訳では無い」

 

 千冬はそう言うと同時に、僅かに羊雲がかかっている青空を見上げる。

 すると雲に小さな黒点が映り出した。その黒点は大きさを増して行き、形状が肉眼で確認できる頃には生徒たちが既に「回避行動」を取っていた。

 

「ど、どいて下さぁぁぁいッ!!!」

 

 久方振りの搭乗だからか、訓練用の『ラファール・リヴァイヴ』を纏った真耶がコントロールを失ったままフィールド目掛けて突っ込んで来たのだ。その矛先に選ばれてしまった不幸な人間は、一夏であった。

 

 慌てて白式を展開し、衝撃に備える一夏。ラファールは白式を巻き込みながら、小規模のクレーターを作ってしまった。

 昭弘や箒らが、安否を確認すべく駆け寄る。

 

「はぁ…これで教師とはな」

 

 偶然昭弘の近くに居合わせたラウラから、聞き捨てならない台詞が聞こえてくる。

 だが、咎めるよりも先ずは2人の安否だ。

 

 しかし、昭弘は心配して駆け寄った事を酷く後悔する。一夏が真耶に覆い被さって、彼女の大きな乳房を鷲掴みにしているのだ。

 その様な体勢となった原因は不明だが、当の一夏も不本意であろう大胆不敵な行為により、4人は顔を真っ赤に染め上げていく。真耶は「羞恥心」から、箒・鈴音・セシリアの3人は「怒り」から。

 

 そんな3人の一夏に対する激昂を、千冬の昂った声が遮る。

 

「おぉーっと!そろそろ「特別講師」の登場だ」

 

 千冬は前歯を白くギラつかせながら言うと、先程と同じ様に青空を見上げる。

 生徒たちも釣られて顎を上げると、小綺麗に編隊を組む3つの光が見えた。それらはあっと言う間にアリーナ上空へと到達し…。

 

ゴォォオン!!!

 

 真耶と同様に多少の土煙を巻き上げたまま、ソレらは勝手に会話を進める。

 

《良シ!奇麗ナ着地ダ!》

 

《君ハモウ少シ静カニ降リル癖ヲ付ケヨウトハ思ワナイノデスカ?》

 

《ソウダ、フザケ過ギルト生徒タチニ嘗メラレルゾ》

 

 土煙が晴れるまでも無く、その機械音声だけで生徒たちはソレらが何なのか理解し仰天する。

 

 何故ゴーレムが此処に。抑々外に出して良いのか。

 等と言った生徒の疑問を千冬は一切無視し、やたら楽し気に話を進める。

 

「これから諸君に見せたいモノは「オルコット・凰」ペアと「山田・ゴーレムペア」による模擬戦だ!ゴーレムたちには安全措置としてリミッターを施してるから安心しろ」

 

 楽し気な千冬の言葉に対し、セシリアと鈴音は顔を顰める。代表候補生である彼女たちに対し、訓練機とリミッターを掛けられた無人機が相手と来れば、嘗められてるとも思ってしまう。

 

 かくして、異色のタッグマッチが幕を開けることとなった。

 

 

 

 観客スタンドにて箒と一夏は呆気に取られ、昭弘は気を抜かずに観戦していた。

 生徒たちの予想を裏切って、戦況は真耶・サブロペアに大きく傾いていた。

 

「これってどっちも初タッグなんだよね?訓練機で専用機を圧倒するなんて…ヤマダ先生って強いんだね」

 

 シャルルが昭弘にそんな言葉を零すと、昭弘は補足を織り交ぜて返答する。

 

「それもあるが、やはり一貫した戦法を取れているのが大きい。山田センセイもサブロも、中距離射撃戦の利点を良く理解している」

 

 今回セシリアはビット4機を操り、遠距離からスターライトMkⅢで狙撃すると言う普段通りの戦法を取っていた。何せ鈴音とのタッグは初。アサルトモードで激しく動き回れば、機動力特化の甲龍を妨害してしまう恐れがある。

 

 しかしそれが仇となってしまう。

 真耶はセシリアが援護に徹すると見抜くと、瞬時加速で一気に距離を詰めて来た。セシリアはビットをラファールに差し向けるが、振り返り様に放たれた51口径アサルトライフル『レッドバレット』によって、ビット2機を落とされてしまう。

 中距離寄りの近距離まで接近されたセシリアは、最早狙う余裕もアサルトモードに切り替える余裕も無く、距離を取るべく逃げるしかなかった。

 

 鈴音もラファールに接敵しようと務めるが、サブロの執拗な妨害に悪戦苦闘を強いられる。ラファールに接近しようとすればビームの嵐を降らされ、サブロに斬りかかろうとすれば直ぐ様距離を置かれて撃たれまくる。

 鈴音がそうこうしている内に、ブルー・ティアーズのSEは着実に減っていった。

 

 

 そんな中、昭弘は少し離れた所で一人観戦しているラウラの姿を目にする。

 

 昭弘はそんなラウラの隣に座し、取り留めの無い話を切り出す。

 

「随分と夢中になってるな」

 

 そんな昭弘を一瞥すると、ラウラは無表情のまま冷たく返す。

 

「気安く話しかけるな」

 

 しかし、威嚇に構うこと無く昭弘は続ける。

 

「アンタも代表候補生だったか?」

 

「それがどうした?」

 

「なら話が早い。ドイツの代表候補生として、この試合を詳しく批評してはくれないか?勉強になりそうだ」

 

 昭弘がそんな話題を切り出した途端、ラウラは語調に喜色を織り交ぜながら話し出す。

 

「何より目を見張るのは、あの無人ISと山田教諭の戦況判断能力だな。無理なチームプレイに徹するよりも「1対1・1対1」という状況を作り上げる方が、より効果的に相手にダメージを与えられると瞬時に判断したのは見事だ。山田教諭への陰口は訂正せざるを得んな。専用機の2人もぶっつけ本番にしては悪くない動きだが、相手が悪すぎたな。何より皮肉な所は、“チームプレイに徹しよう”とした方が“チームプレイに徹しない”相手に見事に翻弄されている点だな」

 

 そこまで言い終えると、ラウラはハッとした様に昭弘を一瞥する。そこには、優し気な笑みを浮かべた昭弘の顔があった。

 

「お前さん、戦い(バトル)については随分饒舌になるんだな。…まるで織斑センセイみたいだ」

 

 昭弘のそんな反応に対してラウラは恥ずかしそうに舌打ちをすると、今度は不機嫌そうに席を立つ。

 

「…もう私に構わないでくれないか?一人が好きなんだ」

 

 更に、ラウラは昭弘を突き放す言葉を付け加える。

 

「それに、私の標的は『織斑一夏』唯一人だ」

 

 ラウラはそこまで言うと、更に離れた席に移動してしまう。追おうとした昭弘であったが、その頃にはもう試合が終わってしまっていた。

 

 

 

 フィールド上空にて完封勝利に喜ぶ相手チームをジトリと見つめながら、鈴音は口を「ヘ」の字に曲げていた。

 

《申し訳ございません凰さん。戦法を誤りましたわ》

 

 セシリアが謝罪の言葉を贈ってくると、いやとんでもないと鈴音も謝罪で返す。

 

「こっちこそゴメン。ゴーレムに気を取られ過ぎた」

 

 そう言い終えた後、鈴音は千冬の思惑を大方予想する。

 

(アタシとセシリアは「ダシ」に使われたって訳ね)

 

 

 

 

 模擬戦闘終了後、再び生徒達をフィールド上へと呼び戻した千冬は伝えたい言葉を前置き無しに述べる。

 

量産機でも、専用機には勝てる。…確かに山田先生やゴーレムの様に、技量も戦術も必要だ。だが機体の性能なんざ、タッグマッチではそこまで役に立たん。それが今回の模擬戦で解ったろう」

 

 千冬のそんな激励にも似た言葉は、先の模擬戦を観て燻っていた生徒たちの動力炉に火をつけるには十分過ぎた。

 

 生徒たちの目がやる気の炎に満ち満ちた所で、千冬は思い出したかの様にもう一つの警告と言う名の冷水をぶっかける。

 

「…お前ら、今後これを機に「教師」に対する態度には気を付けろよ?教師が一体どれだけ強いのかよぉ~く解ったろう?」

 

 それは正に、真耶に対する生徒たちの接し方を指摘するものであった。まるで同級生宛ら当然の様にタメ口で真耶に接する1組の生徒たちには、千冬自身前々から憤りを感じていたのだ。

 特に…。

 

ギロリ…

 

 猛虎の如き眼光を以て、千冬は銀髪の生徒を激しく睨みつける。ラウラの真耶に対する陰口は、千冬の耳にしっかりと届いていた。

 ラウラは痛烈な眼光を受けて、顔を強張らせながら大量の冷や汗を掻く。そして自然と気を付けの姿勢を取ってしまう。

 

 

 

 千冬からの激励後、生徒一同は「代表候補生・専用機持ち・ゴーレム」から教えを乞うべく夫々別れていた。

 

 一番人気はやはりと言うか、一夏とシャルルであった。

 群がりすぎないよう千冬や真耶から指示が飛び、どうにか均一に分かれてはいったが。

 

 

 それと、ゴーレム3体に質問攻めをしている生徒も意外と多かった。整備科志望者が多い以外にも、先程のチームプレイに感銘を受けたのだろう。

 

《「コツ」ト言エルカ分カリマセンガ、相手ノ嫌ガル事ヲスルト効果的デスヨ。ソウイウ意味デハ、相手ノ情報ヲ集メル必要ハアリマス》

《ソレト射撃兵装デスガ、威力ヤ取リ回シノ良サナラビーム兵器ノ方ガ上デス。シカシ実弾兵器ノ方ガ種類モ豊富デスシ、戦術的ニハ相手ニ読マレニクイデス。何ヨリ整備ガ楽カト》

 

 殆どゴロが回答していたが。

 先程からのやり取りも踏まえて、段々とゴーレム3体の関係性や性格が無駄に解ってきた生徒たちであった。

 

 

 

 昭弘も、生徒たちからの要望や質問に答えられる範囲で答えていた。

 

 しかし、またしても昭弘の視界に長い銀髪が飛び込んで来る。観客スタンドでの光景の焼き回しの様に、1人暇そうにしている。

 今朝の出来事を考えれば、1組の生徒が近寄らないのも頷ける。そうでなくとも、あれ程に誰も寄せ付けない雰囲気を醸し出されては2組の生徒でも近付くのに難儀する。

 

───私に構わないでくれないか?

 

 ラウラの言葉を思い出す昭弘。

 しかし本人の要望とは言え、それを大人しく聞き入れる程昭弘のお節介は生易しくない。クラス内で孤立する事が、本人にとっても周囲にとっても良い影響を与えない事は昭弘も何となく理解している。

 

 ()()()()()()()()()()()のだが、昭弘は未だその事に気付いていない。

 

「すまん相川、ちょっと待っててくれ」

 

 そう言うと、昭弘は暇そうに座り込んでいるラウラに再度近付く。

 ラウラはそんな昭弘を見て渋い顔をすると、気ダルそうに口を開く。

 

「…ほっとけと言ったろうが」

 

「…ちょっと手伝ってくれ」

 

 突然の申し出に、ラウラは「あ?」と苛立ちを含みながら短く威圧した。

 

「オレはIS操縦者じゃない。戦術や感覚面なら教えられても、ISに関するより突っ込んだ部分となるとそうもいかん」

 

 口実の為に言ったその言葉は、然れど事実であった。どの道先程のままでは、いずれ教えるのに限界が来ていた。

 

「教えとは乞うものだろう?何故私から教えに行かねばならん」

 

 大人が好みそうな正論でラウラは突っ返すが、昭弘は尚も食い下がる。

 

「だから今こうしてオレが教えを乞いている」

 

「雌共の代わりにな」

 

「そう言う訳じゃない。…頼む、無学なオレを手伝ってくれ」

 

 そう言って昭弘は頭を下げる。

 

 そんな昭弘を、ラウラは真っ直ぐに見つめる。その普段より深い紅を帯びた瞳は、少しばかりの驚きが潜んでいる様にも見える。何故自分如きに頭を下げてまで頼み込むのか、と。

 

「……少しだけだぞ」

 

「恩に着る」

 

 ラウラの渋々とした返事に対し、昭弘は更に深々と頭を下げる。

 

(頼まれたからにはしょうがない。それに、教官の前で駄々を捏ねる訳にも行くまい)

 

 

 

 昭弘は臨時指導員として、ラウラを皆に紹介する。

 

「皆すまない。やはりオレだけじゃ指導には限界があるんで、急遽ボーデヴィッヒに助っ人を頼んだ」

 

 他の専用機持ちは生徒の指導でいっぱいいっぱいだ。昭弘の人選は相川たちも納得していた。

 しかしどこからどう見ても不機嫌なラウラを見て、不安を覚えない筈もなく。

 

「心配すんな。ボーデヴィッヒはこう見えて結構良い奴だ」

 

 それは、彼女たちの不安を紛らわせる為の一言に過ぎなかった。

 しかし昭弘の何気無い一言は、ラウラの胸中に深々と染み込んだ。

 

(…「良い奴」か。部隊以外の奴からそう言われるのは初めてかも知れんな)

 

 心の中でそんな感慨に浸っていると、ラウラは自然と溢れそうになる笑みを堪えた。

 

 

 ラウラが加わった事で、相川たちへの指導はよりスムーズに進んだ。

 

《ど、どうだった?》

 

 空中機動を終えた谷本が打鉄を纏ったままラウラに訊ねると、ラウラは先程の気だるげな雰囲気を微塵も感じさせずに答える。

 

「軌道が単調すぎる。それでは戦闘機と変わらん。もっと脚部スラスターを有効活用しろ。自身の脚でより複雑な軌道を生み出す為のソレだ。そうだな…暫くは脚部スラスターだけで飛んでみて、慣れて来たら背部スラスターを織り交ぜてみろ」

 

《う、うん!》

 

 谷本が快活に返事をすると、ラウラは他の生徒たちに向き直る。

 

「皆、ISにおけるスラスターと言う物を勘違いしている節がある。戦闘機と違い何故其々脚や背中等、全く別の位置にスラスターが付いていると思う?」

 

 そこでラウラは一旦区切ると、人指し指で自身の側頭部を軽く2回程突く。

 

「脳だけでコントロール出来るからだ。例えば右脚部スラスターをどれ程吹かして背部スラスターをどれ程抑えるかと言ったエネルギーの微調整は、手動では限界がある」

「ISがあんな形をしているのも、各スラスターを脳で自由自在に操るのに人型が最も適しているからだ。背中で加速し両脚で泳ぐ…どうだ?実際イメージし易いだろう」

「各員次からは、その事を念頭に入れて飛ぶように」

 

「「「「「ハイッ!!」」」」」

 

 少女たちの返事に、最早先程の不安は見え隠れしていなかった。

 ラウラの教え方に感心していた昭弘も、彼女たちに合わせる様に気持ちを切り替える。

 

 しかし、谷本が再びラウラの元へ駆け寄る。笑顔のまま顔面スレスレの所まで急接近されたので、ラウラは軽く驚いて後退りしてしまう。

 

「ボーデヴィッヒさんって「見掛けに依らない」って良く言われるでしょ?」

 

「あぁ?どう言う意味だ?」

 

「御想像にお任せしまーーす♪」

 

 脈絡も無しに言いたい事を言い終えた谷本は、今度こそ鎮座している打鉄に向かって行った。

 

 ラウラはむず痒い気持ちに襲われながらも、そのまま普段通りを装い続けた。

 

 

 

 合同演習終了後。

 後片付けの最中、ラウラは昭弘の元へヅカヅカと無遠慮に向かって来る。

 

「オイデカいのッ!今度こそこれ以上私に構うなよ!?」

 

「…」

 

「聞いてるのか!?オイッ!」

 

「…」

 

 

 

───3時限目終了後───

 

「ボーデヴィッヒ、トイレが何処か分かるか?」 「知っている。失せろ」

 

「じゃあ男子用のトイレは?」 「知っている。失せろ」

 

「食堂は何処か知ってるか?」 「知っている。失せろ」

 

「さっきの授業で何か解らない所はあるか?」 「無い。失せろ」

 

 

 

───昼休み───

 

「しつこい奴だなお前は本当にィッ!」

 

「そう言うなって。一緒に昼飯食おうぜ」

 

「断ァる!」

 

「アナタたち!廊下を走らないの!」

 

「「すいません!!」」

 

ダッダッダッダッダ……

 

「走るなっつってんだろがぁッ!!」

 

 

 

───屋上───

 

 正にピクニック日和と言い切れる青空の下、一夏たちはシャルルを誘って昼食を摂っていた。

 シャルルは最初こそ遠慮気味であったが、一夏たちのお蔭か大分笑顔が目立つようになっていた。

 

 そんな中、箒だけはどうにも浮かない顔を滲ませていた。

 

(…一夏と2人きりと思ったらこれだ。昭弘も居らんしな…って何故そこで昭弘が出てくる!?)

 

 箒の無意識な寂しさにまるで同調するかの様に、一夏も憂色を含んだ声を上げる。

 

「やっぱ昭弘が居ないと締まらないよなぁ。大黒柱がポッカリ抜けたと言うか」

 

 またしても昭弘の事に意識を向けている一夏に対し、鈴音とセシリアが憤慨する。

 

「アタシらじゃ不満だっての?」

 

「全くですわ。それに大黒柱なら一夏の方が万倍相応しいですわ」

 

 威圧的な鈴音とセシリアに対し、一夏は尻込みしてしまう。女性に対して弱腰になってしまう所は、彼の悪癖の一つだ。

 急変してしまった雰囲気に飲み込まれたシャルルの笑顔は、再び不安に覆い尽くされてしまう。こ奴らのコレはいつもの事なので、そんなに怖がる事でもないのだが。

 

 

 すると不穏な雰囲気をリセットするかの様に、屋上に続く扉が開く。そして、中から誰もが知っている見知った巨漢がヌルリと現れる。

 

「「昭弘!」」

 

 箒と一夏が、待ってましたを声に出すまでも無く身体中に纏いながら昭弘に駆け寄る。先ずは何故汗だくなのか訊こうとするが、昭弘からの質問が一歩早かった。

 

「ボーデヴィッヒが来なかったか?」

 

 その質問を受けて箒も一夏も同じように固まってしまうが、その後の反応はまるで異なった。

 

「いや、来ていないが?」

 

「…」

 

 ごく普通に答える箒に続く様に、シャルルたちも首を左右に数回振る。

 しかし、何故か一夏は不機嫌そうに目を背けるだけであった。一夏の反応が気懸りだった昭弘だが、一先ず事情を説明することにした。

 

「アイツを昼食に誘おうと思ったんだが、逃げられちまってな」

 

「それは御愁傷様ですこと」

 

 セシリアが若干皮肉交じりに返したタイミングで、一夏も表情を切り替えて昭弘に昼食を摂るよう促した。

 昭弘はもう一度ラウラを探そうと一瞬考えたが、空腹がそれを許してはくれなかった。

 

 

 売店で買っておいたチキンバーガーを勢い良く頬張る昭弘に対し、鈴音が呆れの混ざった声で軽く訊ねる。

 

「アンタも物好きと言うか、お人良しよねぇ。ボーデヴィッヒって、SHRでいきなり一夏をブン殴ろうとした奴でしょ?」

 

 どうやら、ラウラの蛮行は1組以外のクラスにもしっかり認知されている様だ。噂話を媒体として。

 昭弘は「それがどうした?」と言わんばかりに、ラウラの悪印象を修正しようとする。

 

「未遂で終わったんだ、大したことじゃ無い。皆、何時までも気にし過ぎなんじゃないのか?」

 

 実際、谷本や相川はもう大分ラウラに懐いている。

 しかし、ここぞとばかりにセシリアが鈴音の側に付く。相変わらず、昭弘とは色々と合わない様だ。

 

「お前が止めていなければ、奴は確実に一夏を殴り抜いていましたわ。そんな危険人物、警戒しない方が可笑しくてよ」

 

「…オレが止めなくたって、アイツは途中で拳を止めてたさ」

 

 昭弘にしては根拠に欠ける言い分に、鈴音とセシリアは瞼を細めていた。

 

 誰の目から見てもラウラを庇っている昭弘に対し、箒は出来る限り中立を装って訊ねる。

 

「何故そこまでしてアイツを構うのだ?転校生なのだから親身に接するのは解るが…本当にそれだけか?」

 

 箒の鋭い観察眼に、昭弘は感服する。

 

 そう、昭弘がラウラを構うのは単に転校生だからという理由だけではない。恐らく彼は重ねてしまっているのだ。ラウラに、今は亡き弟である「昌弘」の面影を。

 当然、外見が似ている訳でもないし性格も掛け離れている。しかし孤独を貫き通そうとするラウラを見ていると、どうしても弟の「死に際の表情」がチラついてしまうのだ。

 家族を殺され、「奴隷(ヒューマンデブリ)」として売り飛ばされてきた弟。そしてとうとう新しい家族を得る事も叶わず、最後に昭弘の姿を瞳に焼き付けて息絶えた。

 そんな死ぬ間際、昌弘が何を想っていたのか昭弘には解らない。

 

 確かな事は、昌弘が絶望的なまでに永い間孤独を味わっていた事だけ。

 ラウラにもそんな思いをさせたくはないという身勝手な感情が、昭弘を激しく突き動かしていたのだ。

 

 

 しかしそんな想いと同じ位大きな感情が、昭弘の中で確かに芽生えつつあった。昭弘はその感情を惜しげも無く、箒に対する答えとする。

 

仲良くなりたいのに、理由が必要か?

 

 飾り気の無い一言だった。

 しかし、箒は珍しく笑みを零しながら昭弘の答えを受け止める。

 

「…ならこれ以上、私もとやかく言えんな」

 

 箒も同じだ。昭弘たちとは今後も仲良くしていたいし、1組の皆とももっと仲良くなりたいと思っている。そこに理由や打算なんて無い。

 だから昭弘のそんな単純にして明確な答えは、箒が最も聞きたかった答えだ。

 

 他の3人も、昭弘の言いたい事に自然と理解を示した。解らないが解ると言う具合に。

 

 しかし一夏だけはどこか表情に“影”を落としていたのを、昭弘は見逃さなかった。

 

 

 その後、鈴音が自作の酢豚を一夏に食べさせた事により、箒・鈴音・セシリアの間で軽い諍いが起こった。その結果として、セシリアが一夏に「自作のBLTサンド」を分け与える事になったのだが……。

 

 これ以上は、一夏の為にも明記しないでおく。

 その後真相を確かめるべく味見した昭弘が、小姑の如く甘いだの甘すぎるだの脳に味噌じゃなく砂糖が詰まってるのかだのとセシリアへ罵声罵倒を繰り出したせいで、普段通りいや普段以上のいがみ合いが発生したとだけ伝えておく。

 

 

 

 

 

───5時限目終了後───

 

「ボーデヴィッヒ、結局昼食はちゃんと済ませたか?」 「済ませた。失・せ・ろ」

 

「部屋番号は?」 「『212号室』だ。失・せ・ろ…ってしまった!」

 

 

 こうして、昭弘にとって長いようで短い学校が今日も過ぎていった。

 

 

 そしてこの日が波乱の一端に過ぎないという事を、昭弘は何となく察していた。




責任者だからって色々と好き放題やっちゃうチッフでした。ゴーレム辺りはTNP悪くならない様に、出来るだけ不自然無く削ったつもりです。
あと、今回大分昭弘をハッチャケさせてしまいました。まぁでも声のトーンは普段通りだからセーフって事で・・・許して貰えませんか・・・。
ラウラは、一応原作通りっぽくしたつもりでしたが、まぁチョット優しさ20%増し位にしました。
一夏はこっからどんどん精神的に病んでいっちゃいます。無論、病んだまま終わらせはしませんが。

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