IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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あらかじめ言っておきますが、この物語はアフリカや中東での「紛争・内戦」と大きく関わっていきます。
第一章(福音戦まで)ではそう言った描写が少なくなってしまいますが、今回の様に描写できる機会があればどんどん描写していこうと思いますので、堅苦しかったらごめんなさい。

後半は、ちょこっと亡国機業サイドの描写を追加しとこうと思います。









けどやっぱ自信ないッス・・・。


第20.5話 四角い世界

 ラウラが昭弘に手刀を打ち込んでいる時、丁度テレビの画面がラウラの観たかった内容に切り替わる。

 

 箒の恨めしそうな視線など我関せずに、ラウラは映像にかじりつく。

 昭弘もニュースが流れていたら観る様に習慣付けているので、自然と視界の中心をテレビに向ける。

 2人に合わせる様に、箒も視線をテレビに向ける。彼女自身なるべくニュースは観るようにしているので、嫌々と言う訳ではない様だ。

 

《こんばんは。9:00のニュースをお伝えします》

 

 壮年のニュースキャスターがそう挨拶した後、テロップが画面右からスライドして来る。

 そのテロップには『アフリカ情勢、新たなる展開か』と表示されていた。テロップに合わせながら、キャスターが言葉を紡ぎ出す。

 

《コンゴ民主共和国で現在も尚進行中の「武力抗争」に、新たな動きがあった模様です》

 

 キャスターがそう述べると、背景の液晶パネルの映像が切り替わる。

 

《近年、再度勢力を増してきた反政府勢力SHLA。これに対し、『M・A(モノクローム・アバター)』と呼ばれる武装集団が大規模な掃討作戦を展開しております。ウガンダ政府を中心とした周辺諸国や複数の武装勢力から多大な支援を受けており、SHLAへの掃討作戦としては過去に類を見ない規模となっております。突如として戦場に現れた組織M・Aとは、一体どのような…》

 

 『SHLA(Shi Honor Lord Army):神を尊びし軍勢』とは30年以上にも渡って活動を続けている反政府武装勢力であり、ウガンダ、コンゴ民主共和国、中央アフリカ、南スーダンを主な活動地域としている。

 元々はウガンダでの反政府活動が主な目的であったが次第に過激な武力活動へと発展していき、略奪や現地民の殺戮、強姦、誘拐等は当たり前になっていった。特にコンゴやウガンダでは、それらの残虐行為が顕著であった。

 戦闘員の90%近くは「少年兵」が占めており、その殆どは誘拐された子供だと言われている。更に近年ではMPSの登場によって少年兵への需要が増していき、推定誘拐者数は2万人から5万人へと急増した。

 

 キャスターの台詞も未だ途中な所で、昭弘がラウラに口を挟む。

 

「M・A…聞いたことあるか?」

 

「『亡国機業(ファントムタスク)』と言う犯罪シンジケートの実働部隊だな。流石に実態までは何も解らんが」

 

 何故そんな組織の部隊がと昭弘は訊かずに、心の中で思い留めた。話し合うのは、もう少しニュースが進んでからでも良い。

 しかし箒は自身の中で引っ掛かる事でもあるのか、未だ馴れていないラウラに対して辿々しく口を開く。

 

「SHLAは5年前の掃討作戦によって、その規模を大幅に縮小させた筈では…?」

 

 流石は天災の妹と言った所か。世界の情勢には常にアンテナを伸ばしているらしい。

 

「簡単なことさ。弱体化したSHLAを脅威と見なさず野放しにした→SHLAが再び子供を拐い始め少年兵を増やした→周辺の武装勢力を取り込んで更に勢力を拡大させた。それだけの事だ」

 

 事実、近年ではウガンダ北部の都市『グル』にまで火種が広がっており、其処では既に数十人の民間人が殺害されている。

 

 ラウラは何げなく答えるが、箒はまだまだ疑問点が多く残っているのか納得しきれていない様子だ。

 箒の反応も尤もだ。アフリカで度々起こる内乱や紛争は、情報が発信されにくいのだから。

 

 昭弘も又、ラウラの返答に片耳を傾けていた。その時の昭弘は表情にこそ出さなかったが、歯を強く食い縛っていた。

 昭弘の頭は「少年」という単語に支配されていた。敵であろうと味方であろうと、子供が子供を殺すという狂気。それが現地では常態化しているのだ。元少年兵である昭弘がその狂気に無関心でいられる筈もなく、まるで自分事の様な寒気に襲われる。

 今も尚命を散らしている少年たちの断末魔が、聞こえてもいないのに昭弘の中で木霊する。

 

 すると丁度テレビの画面が切り替わり、現地のリポーターがキャスターの代わりにより詳細な状況を伝える。地理的に離れている為か、リポーターの反応は毎回数秒程度遅れる。

 

《……はい!私は現在、ウガンダ北部の都市グルに来ております。こちらのグル市役所付近では戦闘の痕跡は見られませんが、先程から装甲車や軍用トラックが度々往来し、物々しい雰囲気が犇々と伝わって来ます。しかし既にウガンダ全域の掃討作戦は一昨日までに完了しており、以降は散発的な銃声すらもピタリと止みました。コンゴ民主共和国東部州の掃討作戦も本日完了し、残すは南部地域のみとなりました》

 

 頭の中に記憶してある文章をハキハキと読み進めていくリポーターに対し、キャスターがこちらも台本通りであろう質問を繰り出す。

 

《M・Aに関しては、何か詳細な情報を掴めましたでしょうか?》

 

《……はい!ここ数日、多くの軍関係者に対し取材を試みて来たのですが、皆一様にM・Aに関しては堅く口を閉ざしており、有力な情報は得られませんでした》

 

 そこまで言った後、リポーターは驚愕の情報をキャスターに暴露する。

 

《只、現地住民の方々の話によりますと、M・Aと思しき部隊とSHLAが人型兵器を使用しているのを目撃した、との事です》

 

 リポーターの発言に激しく反応したのは壮年のキャスターでなく、テレビ画面を凝視していた箒であった。

 

「馬鹿な!ISの軍事利用は禁止さてれいる筈だ」

 

 「IS運用協定」通称『アラスカ条約』においては確かにその通りだ。

 しかし、明文の解釈によっていくらでも兵器運用が可能となっているのが現状だ。明文には「あくまで自衛の為の戦力であるならば、その保有を可能とする」と記されている。その癖「自衛の範疇」に関しての詳細は一切明文化されていない為、軍事基地や軍事工場への攻撃も「自衛」と見なされる可能性が高いのだ。

 

 どの道、犯罪シンジケートである亡国機業にとってはどうでもいい事なのかもしれないが。

 

 箒の驚愕を代弁する様に、キャスターも詳細を訊ねる。

 

《つまり今回の掃討作戦には、ISが投入されていると言う事でしょうか?》

 

《……いえ、話によるとISではないそうです。外見の特徴としては全身を鋼鉄の鎧で完全に覆っており「空中を浮遊していたり、地上をホバー移動していた」そうです》

 

 リポーターからの情報を聞き、昭弘とラウラは状況を飲み込んだが箒は未だに話が見えて来ない。それもその筈で、MPSが実戦配備されていると言う事実は一部の人間しか知らない。

 昭弘とラウラは、その事実を箒に教えるべきか考えていた。しかしやはり一般人が知るべき情報ではないし、無用な混乱を招く可能性もあるので2人は頭を抱えている箒をそのまま放置する事にした。

 

 そんな3人の心境など知る由も無いキャスターは、番組内での進行を乱す事無く話を進める。

 

《ではISとも違う「第2の人型兵器」が、今回の掃討作戦で使われていると言う事でしょうか?》

 

《……はい、極めて進度の早い掃討作戦からしてもその可能性が高いと思われます。しかし、戦闘区域及びその周辺ではマスメディア等の立ち入りが異常なまでに厳しく制限されております。よって証拠となる映像や音声も存在せず、今のところ信憑性の高い情報は何一つ得られていません》

 

 リポーターがそこまで言い終えると、疑問を解消するどころか猶更増やしていくニュースに苛立つ箒が口を開き始める。

 

「…解せない事だらけだな」

 

 未だ思考の整理すら儘ならない箒に対し、昭弘は助け舟を渡す事にした。

 

「どうせ不確定な情報なんだ、第2の人型兵器の件は置いとこう。それより何故今になって亡国機業とかいう犯罪組織が、SHLAの掃討を買って出たのかが気になるな…」

 

 そんな昭弘の疑問を嘲笑うかの様に、ラウラは答える。ラウラにとっては、考えるまでもなく解る事だからだ。

 

「どうせコンゴに眠る鉱物資源が目当てなのだろう。…あの辺りの紛争はいつだってそうだ。革命やら反乱やらで政権が変わろうと、中身は何も変わらん。民族衝突、資源獲得競争、その結果起こる内戦・紛争、その繰り返しだ」

 

 冷たくそう言い放つラウラ。

 

 だが抑々そうした民族対立が起きるようになった原因は、元を辿ればかつての列強諸国による「分割統治」に行き着くのだ。

 支配する際、1つの民族には富を与えもう1つの民族には富を与えない。民族同士で敢えて差を付ける事で互いを争わせ、不満の矛先が自分たちに向く事を防ぐのだ。

 

 勿論ラウラだってそんな事は解ってる。それを踏まえた上での発言だ。

 

 だがら昭弘もラウラに物申さない。

 昭弘自身、子供を戦争の消耗品として使う様な連中に同情など一切しない。

 

 2人のそんなやり取りを見て、箒もまた今回の紛争で感じたことをポツリポツリと口に出す。

 

「…結局ISと言う夢のマシンが生まれようとも、争いはなくならないのだな。…どの時代、どんな場所でも」

 

 箒はそんな言葉を口にした後、増々力無く俯いてしまう。

 箒が今、姉である天災科学者のことをどう思っているのかは定かではないが、影響は受けている筈なのだ。ISへの想いを、ISへの願望を、ISへの期待を。だからこそ箒はやるせないのだ。本来なら人を幸せにする為のマシンであるのに実際はどうだ、と。

 

 そんな箒のISに対する想いを大まかに察しつつも、ラウラはあくまで冷淡に現実を突き付ける。

 

「当然だろう。ISによっていくら利便性が増えようと科学技術が進歩しようと、人間という生物から争いが消える事はない。自分の利益の為に、どこまでも合理的に利用するだけだ」

 

 ラウラ自身も、その為に生み出された人間の一人だ。だから言い切れる。夢のマシンなんて言葉、人間が人間を踏み台にして益を取る為の方便に過ぎないと。

 

 ラウラの冷えきった正論を聞いて、箒は俯いたまま膝の上に置いている両拳を強く握った。その拳は現実に対してか、それとも考え方が甘かった自身に対してか。

 

 だが大体ラウラや箒がISの事であーだこーだ言えるのも、先進国で生まれ育ったが故だ。財政が芳しくない発展途上国は、ISコアを保有すらできないのだから。

 

 

 2人の会話を真ん中で聞いていた昭弘は、自身が今居る世界と前居た世界を比較しながら心の中で嘆く。

 「どの時代、どんな場所」どころじゃない。どんな「時空」、どんな「次元」の世界だろうと戦争からは逃れられないのだ。其処に人間が居る限り。

 此処IS学園は、偶々平和なだけなのだ。

 

 

 3人がそんなやり取りを繰り返している間、壮年のキャスターは次のニュースに移ろうとしていた。

 

《コンゴ民主共和国の情勢変化によってアフリカ全体がどの様に変わっていくのか、今後の動きが注目されます。では次のニュースです》

 

 所詮どんなに彼等がアフリカの紛争について頭を巡らせようと、液晶テレビに移っている「四角い世界」には何一つ干渉など出来ない。

 テレビはただ、己の四角い画面から淡々と情報を提供するだけだ。戦場とは遠く離れた、安全で平和なこの空間に。

 

 

 彼等3人は遣り切れない思いを抱えたまま、各々の部屋へと戻って行った。

 

 

 

 

 

―――――5月10日(火) 某作戦指令室―――――

 

 スコールは退屈そうにモニターを眺めていた。モニターには自身の保有するMPS部隊が、SHLAのMPS部隊を造作もなく殲滅していく様子が映し出されていた。

 鮮血が飛び散り焼け爛れた身体の一部が無造作に映し出されても、スコールが表情を変える事は無かった。

 

「…了解。司令、東部州の制圧がたった今完了したとの報告が入りました」

 

「そう。予定通りにと伝えておいて」

 

「了解」

 

 部下からの報告にも、声色を変える事なく淡泊に指示を出す。

 

 しかしそんなスコールも自軍の「あるMPS」が映し出された瞬間、表情に喜色を浮かべる。

 純白のボディは混沌とした戦場において幻想的な輝きを放っており、右手には敵の返り血が乱雑にペイントされた巨大な金棒が握られていた。

 

 楽し気にそのMPSを見つめているスコールであったが、唐突に邪魔が入る。左手側のホログラムには自身の顔が映し出されていた…様に見えたが、よくよく観ると自身の顔ではなかった。

 

《退屈と言う事は順調の様だな》

 

 自身の数少ない楽しみを邪魔されたスコールは、不機嫌そうにトネードに返答する。

 

「順調過ぎると、何か裏を感じてしまうものでしょ?最新型MPSの量産が間に合っていれば、もっと安心して構えていられるんだけど。それに今回の作戦はISを使えないでしょう?『オータム』と『エム』が「私たちも殺したい」って煩くて…」

 

《だが順調と言う事は、現地でしっかりと指揮を取っているのだろう。現地民から忌避される様な言動を犯していなければ良いのだが》

 

 先程ラウラは、M・Aの目的を鉱物資源と予想していた。無論それもあるのだろうが、真の目的はどうやら違う様だ。

 今判っている事は、SHLAを倒す事で現地民の支持を得る事。ISではなくMPSで敵を圧倒する事により、MPSの有用性をより強固なものにする事。そしてそれらの目的は、先進各国には知られたくない様だ。

 

《彼の調子はどうだ?》

 

 「彼」と言われると、スコールは再びモニターに映っている純白のMPSを見つめる。あのMPSに搭乗しているのが、トネードの言う彼なのだろう。

 

「そっちも順調よ。後は「究極のMPS」の完成を待つだけ」

 

《そうか。『イスラエル侵攻』に間に合えばそれでいい》

 

 トネードが短く返すと、スコールは少し拍子抜けた様に目を丸める。

 

「未だ用件があるんじゃないの?」

 

 妹に見透かされたトネードは短く息を吐くが、無表情のまま自身の要求を述べる。

 

《…IS学園「タッグトーナメント」、観に行くのだろう?》

 

 トネードの言葉は「IS学園を襲撃する」と言う暗喩ではない。そのまんまの意味だ。

 言わずもがな、亡国機業トップとしての素顔は隠して行くのだろう。

 

「ええ。使えそうな子、脅威になりそうな子を見定めておこうと思って。アンタも観に行くっての?」

 

《ああ。観戦の理由はお前とほぼ一緒だ。アタシも運営トップとして、その辺りの事もある程度は把握しておかねばな》

 

 トネードの在り来たりで面白みの無い返答を聞いて、スコールは嘲りながら確信に近い憶測を述べる。

 

「大好きなアルトランドくんに会いたいだけでしょ?」

 

 スコールの予想を聞いたトネードは僅かに笑みを零すが、否定はしなかった。

 

《そう言うお前こそ織斑くんの試合を観るのが一番の目的だろう?》

 

「イヤン!バレちゃった♡ま、お互いその日までには「目先の仕事」を片付けておきましょうか」

 

《ああ、健闘を祈る》

 

 トネードは再び無表情に戻ると、その言葉を最後に通話を切った。

 

 スコールはまたしてもモニターを見つめ始めたが、純白のMPSは既に映っていなかったのでつまらなそうに溜め息を吐いた。

 

 

 彼等の計画は、まだまだ途上も途上だ。




申し訳程度の中東要素。

SHLAの元ネタは、皆さんで調べて頂ければ分かるかと思います。
アラスカ条約の「自衛云々」は自分で適当にアレンジしました。

あとすみません。今更気づいたのですが、MPSが少年にしか使えない理由について、全く触れていませんでしたね・・・。理由は鉄血本編と同じく、生体ナノマシンが成長期の子供にしか定着しないからです。第3話に修正入れときました。

純白のMPSを操る少年は、一体何者なのか・・・。







と言うか、やっぱ話のテンポ遅すぎますね・・・。けどやっぱしシャルル・ラウラ編は今迄で最長になる事は分かり切っていたので、どうにか挫けない様頑張ろうと思います。

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