IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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セシリアにだけやたら辛辣な昭弘すき。


第22話 一夏の焦燥

ーーーーー5月14日(土) 07:03ーーーーー

 

「こう、ズバーーーッ!!と言う感じで、バキッ!グシャーーッ!!と言った感じだ!!」

 

「だからさっきから何度も言ってるでしょーが、「感覚」よ「感覚」。」

 

「ですから!!左斜め45度から出力を瞬時加速の一歩手前位まで押さえながら接近し、敵に一撃を与えると思わせつつ更に右斜め53度から敵の背後に回り込み、左斜め136度から斬り上げるのが一番効率的だと、先程も言ったではありませんか!!」

 

「?・・・・・・???」

 

 土曜の朝であるにも関わらず、昭弘たちはアリーナBでタッグトーナメントに向けた練習に励んでいた。流石にこの時間帯なら、他の生徒は未だ布団に籠っている様だ。

 そんな中、箒、鈴音、セシリアの3人が、スタンドで一夏に対して熱心に指導をしていた。お世辞にも上手な教え方とは言えないが。

 

 そんな勢いに任せる彼女たちへ、昭弘が物申す。

 

「・・・お前ら自主練でもしてろ。オレが教える。」

 

 その一言を聞いて、混乱していた一夏は歓喜の表情を浮かべるが、女衆は反発する。

 

「何よ昭弘!また一夏を独り占めする気?」

 

「魂胆が見え透いているのですわ。そんなに独り占めしたいのなら、せめてもう少し言葉を選んで立ち回ったらどうですの?」

 

「いや、何故そう言う話になる?それとオルコット、「言葉を選んで立ち回れ」だぁ?今のお前こそ言葉を選んでもう少し解りやすく教えたらどうだ?」

 

「アラまぁ、ここに来て粗探しですの?心の狭い男ですわね。」

 

「おうおう、こんな野蛮人ごときの言葉に反論出来ないのか?貴族令嬢様?」

 

「はぁ?野蛮人風情、相手をする労力すら惜しいだけですわ。」

 

「だぁもうッ!!喧嘩するなら別のアリーナ行ってよね!!」

 

 もう嫌と言う程見てきた昭弘とセシリアの口論に、鈴音が割って入る。

 

 そんな中、隙を突いた様にシャルルが一夏の傍まで赴く。

 

「一夏。良ければ僕と一緒にどう?射撃武器について色々と教えられるかもしれないし、僕自身も白式には興味があるんだ。」

 

「お、おう!喜んで!!」

 

 今の状況では、一夏にとって正に好都合なのだろう。シャルルの提案を一夏は快諾する。

 

 しかし、念の為「箒」の顔色を伺う。こういう時箒が機嫌を損ねると言う事を、流石の一夏も学んだらしい。理由は当然解っていないが。

 

「と言う訳で・・・シャルルとフィールドまで下りるけど・・・・・・い、良いよな?箒。」

 

 そう恐る恐る聞くも、箒の返答は驚く程淡白なものであった。

 

「うん?ああ、別に良いのではないか?」

 

 むつける訳でもなければ、反発する訳でもない。一夏は安心と言うよりも、一周回って不気味なものを感じた。

 

(・・・後で変な制裁受けなきゃ良いけど・・・。)

 

 

 箒自身も、余りに淡白過ぎる自分自身に驚いていた。それは恐らく、好きな異性が2人居ると言う特殊故。心の余裕・・・と言うよりも、以前の様な一夏一人に対する「独占欲」と言うものが薄れているのだ。

 今の彼女は、もう一夏だけを意識する訳には行かないのだから。

 

 

 

 一先ず落ち着いた一同は、一夏とシャルルによる訓練をスタンドから眺める事にした。

 シャルルのIS名は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。全体的に橙色の装甲は頭部以外の大部分を覆っており、ブルー・ティアーズや甲龍と比べると幾らか重厚感がある。更に背部から伸びる4本のウイングが、当機の存在感をより激しく主張していた。

 

 早速、両名はフィールド上で楽し気に斬り結ぶ。そんな2人を、鈴音とセシリアは苦々し気に見下ろす。

 

「フンッ!何よ一夏の奴。男同士で楽しそうにしちゃってさ。」

 

「全くですわね。・・・まさか一夏、本気で()()()()()でもあるのでは?」

 

「バ、バカ言わないでよッ!!」

 

 等と不満を垂れ流す2人とは対照的に、昭弘と箒はシャルルの実力や機体性能を冷静に分析していた。

 

「ラファール・リヴァイヴのカスタム機か・・・・・・。20種に及ぶ武装を収納出来る、膨大な拡張領域が主な特徴だな。機動性こそ第3世代機に多少劣るが、その手数の多さは脅威だろう。」

 

 どうやら昭弘は、第3世代機以外の専用機をも粗方調べ上げている様だ。

 隣に居た箒は、ISスーツが食い込んだ昭弘の麗しい肉体に顔を赤らめながらも、自身の見立てを述べる。

 

「近接戦においても、十分な実力を備えている様だな。一夏が未だ慣らし程度とは言え、彼の剣戟とほぼ互角とは・・・。」

 

 多彩な武装に十分な近接戦闘能力。

 2人の分析を合わせると、シャルルのラファールは今までの機体の中で、最も「全方面」に特化した機体と言う事になる。

 

ドヒュゥゥーーッ!!!

 

 そんな中、2人は突如フィールド上に現れた『漆黒のIS』に目を奪われる。

 しかし、ドス黒いボディの上を揺らめく美しい「銀髪」を見た彼等は、それが誰なのか一瞬で把握する。

 

「チッ!あの馬鹿・・・!」

 

 昭弘はそんなラウラを確認すると、急いで直近のピットへと向かう。

 

「昭弘!私はセシリアたちを留めておく!!」

 

「スマン!頼むッ!!」

 

 去り際に、昭弘はそう叫ぶ。

 セシリアと鈴音は、未だにラウラへの敵意を解いてはいない。感情的になって、これから昭弘が「しようとしている事」の邪魔をされては敵わない。

 昭弘はその辺りを理解してくれている箒に、心の中で短く感謝する。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・!」

 

「何?アイツが一夏をブン殴ろうとした奴?・・・丁度良いわ、一夏に加勢するついでに軽く痛め付けておこうかしら。」

 

 そんな今にもピットへ駆け込もうとする2人を、箒は必死に宥めようとする。

 

「ま、まて!2人共!!」

 

 箒は2人をどう宥めるか必死に考える。そして、この場において考えうる最良の言葉を思い付く。

 

「い、一夏とデュノアが、あんな奴に遅れをとる筈がなかろう!ここは一夏を信じて、見守るべきだ!」

 

 その言葉は、一夏を愛している彼女たちを留めておくには十分であった。

 

「・・・・・・まぁ。」

 

「それも・・・そうですわね。」

 

 

 

 折角のシャルルとの楽しい一時を邪魔された一夏は、憎々しげにラウラを睨み付ける。

 

ーーー相も変わらずムカつく奴だ。何を得意気に嗤っている?オレの嫌がる顔がそんなに面白いか?ーーー

 

そんな心の中で暴れる言葉を必死に押さえながら、一夏はラウラに訊ねる。

 

「・・・・・・何の用だよ?」

 

 半ば投げやりにそう訊ねる一夏に対し、ラウラはどこか得意気に言い放つ。

 

《織斑一夏、私と戦え。》

 

 そう言われると、一夏は不安気なシャルルを見つめる。

 一夏自身は戦っても良かったが、コイツ如きの為に態々シャルルを困らせたくはないし、シャルルと訓練を続けていた方が遥かに有意義だ。

 そんな一夏は、あくまで口調を荒げずに答える。

 

「嫌だね。する理由がねぇよ。」

 

 しかし、無論ラウラは引き下がらずに、右肩の長大なカノン砲を向ける。

 

《お前にはなくても私にはある!!》

 

ドァォオンッ!!!

 

 相手の許可なく一方的に放ったソレは、超高速で白式目掛けて飛来する。余りにも突然の砲撃に対し、反応すら出来ない一夏は直撃を覚悟した。

 ・・・・・・しかし、一夏が予想した衝撃は、傍に居たシャルルがラファールのシールドによって防いだ。

 

「シャルルッ!!」

 

 そんなシャルルを睨みながら、ラウラは毒付く。

 

《・・・ヤルのか?フランスの第2世代機(アンティーク)風情が。》

 

 そんなラウラに対し、シャルルも口調を強めて返す。

 

《ドイツの第3世代機(ルーキー)よりは、戦えると思うけど?》

 

 シャルルの意趣返しを火蓋に、ラウラは「瞬時加速」を敢行して突っ込んで来る。他の「飛び道具」を警戒していた2人は、ラウラの予想外な突進に対してまたもや反応が遅れてしまう。しかし・・・・・・

 

ガギィィインッ!!!!!

 

 まるで先程のシャルルの動きを焼き増した様に、「巨大な影」がシールドを翳してラウラの突撃を防ぐ。その巨体の後姿を拝んだ一夏は、喜色を取り戻してその名を叫ぶ。

 

「昭弘!!グシオン!!」

 

《ア、アルトランドくん!?》

 

 

 

 2人の異なる反応に対し、昭弘は「無機質なツインアイ」を一瞥だけ後ろに向けると、再びラウラに相対する。

 

「よぉ、チィと「おイタが過ぎる」んじゃないか?ボーデヴィッヒ。」

 

 通信越しに聞こえる、昭弘の少しくぐもった声を聴いたラウラは、自嘲する様に口角を釣り上げる。

 

《・・・・・・ハッ!お前が正しいよ!!アルトランド。そりゃあそうだ、私の様な「鼻つまみ者」に肩入れするメリットなど、お前には無いものなぁ?友達でもないなら猶の事なぁ!?》

 

 ラウラの少し演技掛かった返答を聞いた昭弘は、キッパリと否定の意思を示す。

 

「違うな。オレが乱入した一番の目的はな・・・ボーデヴィッヒ、お前と一度戦ってみたかったからだ。」

 

《・・・・・・何?》

 

 突然の告白に、ラウラは短い単語を発する他なかった。シャルルも、目を大きくしながら昭弘に再び振り向く。

 

「・・・悪いか?友人のISが、技量が気になっちゃあ・・・。悪いか?闘技場(フィールド)で戦闘への欲求を満たしちゃあ・・・。」

 

 最後に、昭弘は「止めの一言」を発した。

 

「・・・ま、勝てない相手に戦いを挑むのは、お前にとっちゃ無謀に過ぎるか。」

 

ブツン

 

 ラウラは「謎の音」を脳内に響かせると、ターゲットを一夏から昭弘へと変える。しかし、ラウラの顔にずっと張り付いていた「陰鬱な笑み」は消え失せ、代わりに「無邪気な笑み」が浮かび上がっていた。

 

《・・・面白い。お前のSEを削り切ってから、織斑一夏も叩き伏せる・・・!》

 

 まんまと乗ってくれたラウラを見て、昭弘はフルフェイスマスクの中でほくそ笑む。

 そして、一夏とシャルルへの通信も忘れない。

 

「つー訳だ。阿呆のボーデヴィッヒはオレが押さえておくから、2人は訓練に集中してくれ。」

 

《う、うん!!ありがとう!アルトランドくん!!》

 

 シャルルは、快活に感謝の言葉を述べる。しかし・・・

 

「?・・・・・・一夏、どうした・・・?」

 

 

 

 一夏は、先程の喜色溢れる表情を消し飛ばし、ただ茫然と立ち尽くしていた。

 その引き金となったのは、先程昭弘が「一番の目的」を言い放った時だった。

 

ーーーまただ、またしてもコイツに昭弘を奪われた。ーーー

 

 「昭弘が割って入って、ラウラを遠ざけてくれた」と言う客観的事実は今の一夏には映らず、暗黒の思考が“別の主観的事実”を網膜に映し出していた。

 そんな一夏を現実に引き戻すべく、シャルルが声を震わせる。

 

《ねぇ、一夏・・・・・・いっ、一夏ッ!!!》

 

「ッッ!!!」

 

 まるで永い眠りから意識を取り戻したかの様に、一夏はシャルルへと振り向く。

 

《と、取り敢えず、僕たちは下がっていよう。アルトランドくんが、どうにかしてくれるみたいだし・・・。》

 

 シャルルはラファールで白式の手を掴み、後方へと下がる。しかし、グシオンから離れれば離れる程、一夏の表情は険しさを増していく。その瞳には、仲睦まじそうに見つめ合う昭弘とラウラの姿が映っていた。昭弘の表情はマスクで見えないが、一夏にはそう見えてしまった。

 そして一夏は、「思ってはいけない事」を思ってしまった。

 

ーーーこんな事なら、さっきボーデヴィッヒをぶっ潰しとけば良かったーーー

 

 

 

「(『シュバルツェア・レーゲン』か。ドイツの最新鋭機だな)おっとそうだ、なぁボーデヴィッヒ。」

 

 相手の機体名を確認した後、昭弘はラウラにある提案を言い渡す。

 

「射撃武装は、無しにしないか?一夏とデュノアに流れ弾が飛んじまう。」

 

 しかしラウラは、その提案を嘲りながら却下する。

 

《知るか!!飛び道具に当たる方が悪いだ・・・ッ!!!??》

 

 ラウラは最後まで台詞を言えず、反射的に腹部を両腕で防御してしまう。その交差させた両腕には、グシオンリベイクの武骨で鈍重な「右足」が減り込んでいた。

 

「オイオイ、もうとっくに始まってるんだぜ?撃つ気満々なら、先に「ヤクザキック」なんて食らうんじゃねぇよ。」

 

 昭弘が更に挑発すると、ラウラは歯を食い縛りながらも笑みを浮かべる。

 

《・・・ミスったのは貴様だ、アルトランド。今のが正真正銘「最後のチャンス」だったと言うのに、近接武器を使わないとはなぁ!!》

 

 

 序盤、レーゲンは下手に接近せず、高機動を活かしてグシオンを翻弄しようとする。しかし、グシオンはその場に佇んだままだ。

 業を煮やしたラウラは、背後から擦れ違い様に右手の『プラズマ手刀』をお見舞いする。ソレを読んでいたグシオンは、振り返りながら左手に腰部シールドを持ってガードする。更にその動きを読んでいたラウラは、左手のプラズマ手刀も発動させ、グシオンの顔面に向かわせる。そのジャブ並みに速い突きは、奇麗に直撃する・・・が

 

ガギッ・・・

 

 直ぐ様引き抜こうとした手刀は、あっさりとグシオンの右手に捕まってしまう。

 

(早いッ!!抜く事に十分意識を集中させていたと言うのに・・・!)

 

 両腕が塞がったラウラは、またしても驚愕に支配される。

 

(背中に・・・腕!?)

 

 既にグシオンの右サブアームにはハルバートが握られており、ラウラの予想通りの軌道でソレは振り下ろされる。

 

ギィン!

 

 しかし、今度は昭弘が驚愕する番になってしまう。

 ソレは・・・強いて言うなら「縄」もっと誇張表現するなら「触手」とでも言えば良いだろうか。レーゲンの左腰に付随しているユニットから伸びて来た3本のソレらは、先端の刃でハルバートを完璧に防いでみせた。

 

(成程な、そういうのもある訳だ。『バルバトス』のテイルブレードを思い出すな・・・。念のため左手のサブアームは隠しておいて正解だったぜ。)

 

 昭弘はそんな事を思うと、直ちに左サブアームを繰り出して、その手にグシオンハンマーを呼び出す。そして、先程のハルバートと同じように鉄の塊を振り下ろす。

 だが、レーゲンは右腰のユニットからも3本のワイヤーブレードを出現させ、先程と同じようにハンマーを防ぐ。

 

(チィッ・・・これは・・・。)

 

(・・・膠着状態、と言う奴か?)

 

 グシオンは4本の腕が塞がれ、レーゲンもこの至近距離でレールカノンを打てば、衝撃でダメージを受ける。

 しかし、そんな膠着状態は長く続かなかった。

 ラウラは右手のプラズマ手刀と6本のワイヤーブレードを引っ込めると同時に、右肩を思いっきり引いて身体を真横に逸らす。その帰結として体勢が崩れたグシオンに蹴りを放ち、左腕の束縛を解く。

 

 その後、空中で幾度となく激しく斬り結ぶ2機。目まぐるしいまでに交差する、プラズマ手刀とハルバート。その斬り合いにワイヤーブレードやサブアームまで加わっているのだから、第3者からは「異形の怪物同士」の戦いに見えるだろう。

 

 しかし、昭弘の中にある疑問が生じ始める。

 無論の事、昭弘はレーゲンの事も粗方調べている。当然、レーゲンが搭載している「特殊兵器」の事も然りだ。未だにラウラがソレを使わない事が、昭弘は不思議でならないのだ。

 

 

 

「・・・・・・妙ですわね。」

 

「ええ。ボーデヴィッヒの奴、何で“アレ”を使わないのかしら?」

 

 その不可思議は、セシリアと鈴音も感じ取っていた。

 代表候補生である2人も、どうやらレーゲンの情報は網羅している様だ。

 

 そんな中、イマイチ状況を把握出来ていない箒を見かねて、セシリアは自ら説明に入る。

 

「レーゲンが持つ「特殊能力」の事ですわ箒。」

 

「特殊・・・能力?」

 

「平たく言えばそうなりますわ。「1対1」の勝負では反則級の力を発揮する能力なのですが・・・何故それを使わないのか・・・。まぁしかし、いずれは使うでしょうから、どんな能力かは観てみれば解りますわ。」

 

 セシリアが言い終えたタイミングで、鈴音は思い出したかのように口を開く。

 

「・・・そう言えば、結局一夏たちは戦わずに終わっちゃったわね・・・・・・。」

 

 少し残念そうな鈴音に対し、箒は今の状況を肯定する。

 

「・・・・・・いや、寧ろそれが良いのだろう。正直、一夏とボーデヴィッヒは、余り関わらせない方が良い様な気がするしな。」

 

 箒の余りにも平和的な意見を聞いて、鈴音とセシリアは先程の好戦的な自分自身を恥ずかしく思ってしまう。

 

 

 

(・・・クソッ!)

 

 互いの剣先を交互に繰り出しながら、ラウラは忌々しくグシオンを見つめる。

 飛び道具を封じている今のグシオンに勝つことは、ラウラにとって造作も無い事であった。それが、レーゲンの特殊能力なのだから。

 では何故使わないのか?それは恐らく、射撃兵装を使わずに向かってくるグシオンの姿勢、そのものにあるからだろう。

 

(・・・駄目だ、やはり使えない。射撃兵装を自ら封じている相手に『AIC』を使うなど・・・卑怯だ。そんな物に頼っている様では、教官の様にはなれない。)

 

 結局ラウラは、ここでも千冬の幻影に囚われているのだ。もっと言うなら、千冬を目指しているラウラにとって、この「特殊兵器」そのものが不要なのだろう。

 

 そんなラウラのジレンマを見破ったかの様に、グシオンは滑腔砲を構える。いきなり約束を破って来た昭弘に対して激怒する間もなく、ラウラは反射的に「両手」を前方へと掲げてしまう。

 瞬間、グシオンの動きはピタリと「停止」してしまう。と同時に、昭弘から専用回線で通信が入る。

 

《・・・何故、最初から使わなかった?》

 

 『|AIC《Active Inertial Canceller》』慣性停止結界。手を翳すだけで相手の動きを完全に封じる事が出来る、レーゲン専用の特殊兵装だ。無論、射程距離や集中力等、発動には様々な条件が必要になるが、一度発動に成功すれば無類の強さを誇る。

 

 そんな昭弘の問い掛けに対し、ラウラも「約束を違えた」事に関して小言を繰り出そうとする。しかし良く良く見てみると、グシオンは滑腔砲を“逆向き”に持っていた。

 ラウラはしてやられたと思いながらも、昭弘の問い掛けに答えようとする。

 

「・・・」

 

 しかし、言葉が上手く出てこない。言いたくないのか、それとも何と答えれば良いのか解らないのか。

 そんなラウラに対し、昭弘はグシオンのマスクを解除しながら言葉を贈る。

 

《・・・()()()、もう好きな様に戦ったらどうだ?ISってのは、自分の「好き」が許される存在だろう?》

 

 ラウラはその聞き慣れない言葉を、心の片隅に閉じ込めておく。

 

「・・・・・・気が変わった。今日の所は、引き下がるとしよう。中々楽しいバトルだったぞ、アルトランド。」

 

 そう言ってピットに戻ろうとするラウラに対し、昭弘は最後の疑問をぶつける。

 

《・・・結局、何で一夏に挑もうとしたんだ?》

 

「・・・・・・“任務”兼“私怨”だ。」

 

 「私怨」に関しては、昨日千冬から話を聞いている。「任務」に関しても、一夏に挑んだ事を鑑みれば、白式のデータ収集であろう事は昭弘にも予想出来た。

 成程確かにそう考えると、ラウラにとってこの戦いは憎き一夏を痛め付け、更には白式のデータ収集も可能。正に一石二鳥と言う訳だ。

 

 そんな結論に至った昭弘は、一夏が無事に済んだ事への「安堵」と、ラウラの任務を害してしまった事への「自責」を、同時に抱いた。

 

「・・・・・・それとな()()・・・私を「友人」と言ってくれた事・・・その、悪い気はしなかったぞ?」

 

 少し照れ臭そうにしながら、ラウラは最後にそんな言葉を放った。

 

 

 

ーーーーー5月14日(土) 20:01 128号室ーーーーー

 

 ここ最近一夏の様子がどうにも可笑しい。口数は以前よりも減り、笑い方もどこかわざとらしい。

 そんな一夏に対し、シャルルは気不味そうに一声掛ける。

 

「い、一夏、それじゃあ僕、先にシャワー浴びてくるね?」

 

「・・・・・・・・・うん?あ、ああ!りょーかいりょーかい!!」

 

 無理に明るく振る舞う一夏を見て、シャルルはやりきれない思いを抱きながら、バスルームへと赴く。

 優しくも何処か弱々しい彼を見ていると、シャルルは己の“愚行”が心底嫌になる。「他人を騙してまで、今の自分に明日を生きる資格があるのか?」と。

 

 

 ふと、一夏はある事に気付く。

 

(・・・シャルルの奴、自分のリンス忘れてやがるな。もう遅いだろうけど、一応届けておくか。)

 

 一夏は重たい腰を上げながら、それをバスルームへと届けに行く。

 そして、ノックもせずドアを開けた先に映ったモノは・・・・・・・・・。

 

 素肌、シャルルの裸体が佇んでいた。まぁシャワーを浴びた後なのだから、それはまだ解る。

 問題はその“外観”にあった。肩幅は男子とは思えない程狭く、腰に至っては更にソレが顕著であった。その割に臀部はやけに膨らんでおり、タオルで隠れた胸部も山の様に盛り上がっていた。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 両者とも微動だにしないまま見合っていたが、シャルルは段々と顔を赤く染め上げていった。一夏はと言うと、真顔のまま静かに洗面所から出ていった。

 

 「バタン」と言うドアの閉止音を響かせてから、数秒程経過すると・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!??」

 

 己の怒声と共に、一夏は漸くシャルルが女性であると言う事実に驚愕する。

 

 

 時間がある程度経過し、漸く落ち着きを取り戻した一夏は、何故“この様な行為”に至ったのかをシャルルに訊ねる。

 

「・・・・・・アハハ・・・もう、バレちゃったものは、しょうがないよね・・・。全部、話すよ。」

 

 シャルルはその質問に対して、なるべく手短に己の「目的」と「境遇」を纏めた。

 

 彼女の目的・・・と言うよりも、彼女の「父親」の目的が、一夏と白式のデータ奪取にあったのだ。

 大手IS企業『デュノア社』の代表取締役を務めていた彼女の父親は、男性操縦者である一夏に近付かせる為に、己の娘を男装させてIS学園に転入させたのだ。男装させたシャルルを、会社の宣伝の為に利用する目的もあった。それだけを聞いても、余りに無茶苦茶な内容であった。

 更に胸糞が悪いのは、シャルルの扱いであった。正妻が子供を産めない体質であった為、シャルルの父『アルベール』は、自身と愛人の娘であるシャルルに目を付けたのだ。

 

「父の愛人である母親と2人暮らしだったんだけど、母が他界してからは、デュノア家に引き取られたんだ。・・・それからの日々は・・・・・・何と言うか、まるで「監獄」みたいな日々だった。」

 

 「愛人の娘」と言う立場上、社内でも居場所が無かったシャルルは、今迄一切面識のなかった父親の命令通りに日々を過ごしていた。

 更に、IS適性が高いと言う事実が判明してからは、テストパイロットとしての過酷な訓練を強いられて来たと言う。

 

「・・・父の会社も、よっぽど切羽詰まっているんだろうね。僕にこんな無茶な男装をさせてまで、データの奪取なり、会社のPRなりを画策するんだから。」

 

 その後、彼女は諦めた様な笑みを浮かべると、己の心境を述べた。

 

「・・・・・・今となっては、もうどうだっていいんだけどね。正体がバレた以上、本国に強制送還されるか、最悪「裁判」にかけられる事になるだろうし。」

 

「・・・・・・そう・・・なるよな・・・・・・。」

 

 今一夏の胸には、様々な思いが去来していた。

 何処にも逃げ場がないシャルルへの哀れみ、理不尽を突き抜けるが如き外道を貫く父親への怒り。

 しかし、父親の指示とは言え、シャルルの行為はれっきとした犯罪だ。その事実を誰にも報告せずに隠すと言う事は、最悪一夏まで同罪になりかねない。

 未だ子供の一夏にはそんな小難しい事など頭に無く、あるのはシャルルを「助けたい」と言う思いと、『昭弘』を頼るか否かと言う判断基準だけであった。

 

(・・・・・・やっぱり、先に昭弘に相談した方が・・・いや、けど・・・・・・。)

 

 一度昭弘の事を考えた途端、一夏の脳裏にあるシャルルへの思いは、段々と昭弘一色へ滲んでいく。

 

ーーー昭弘には報告しない方が良いぜ?

ーーーいや、けどオレ一人でどうこう出来る問題じゃ・・・。

ーーー出来るさ。何たってオレは『ブリュンヒルデ』の弟なんだからな。

ーーー・・・・・・それは、関係無いだろ・・・。

ーーーそれに、良いのか?ここで昭弘に「良いとこ」見せておかないと、本当に愛想尽かされちまうぞ?唯でさえクソッタレのボーデヴィッヒに入れ込んでるんだからな。ここは一つ、「オレ一人でもどうにかなる」って形だけでもアピールしとかないと。

ーーー・・・・・・。

ーーーほーら見ろ、反論しない。

ーーー・・・・・・・・・じゃあ、何をどうしろって言うんだよ。

ーーーバーカ。「あの人」が居るだろ?世界中の誰もが知っているあの人さ!

 

 心の中でそんな鬩ぎ合いをしている内に、一夏はある「悪魔的な事」を思いついてしまう。しかし、恐らくそれは“人”としてやってはいけない事だと、一夏自身も自覚しているのだろう。

 しかし、どの道千冬や他の教員に報告した所で、シャルルが犯罪者として本国に強制送還される可能性は極めて高い。

 

「・・・・・・い、一夏?」

 

 すると一夏は、まるで縋るような目で己を見つめているシャルルに気付く。

 一夏は先程の陰鬱な表情を満面の笑みで直隠すと、シャルルに再び向き直る。

 

「・・・良しッ!!オレが何とかしてやるよ!!」

 

「・・・・・・え?な、何とかって・・・何をどうするの?」

 

 完全に諦めかけていたシャルルは、一夏の思わぬ反応に対して首を傾げる。

 

「良い方法を思い付いたんだ!・・・ただその代わり、一つだけ確認しときたい事があるんだ。」

 

 シャルルは一夏の言う「確認」を聞くと、特に迷う素振りもなく肯定の意を示す。

 

「・・・うん、僕はそれでも構わないよ。母の居ないあの国に未練はないし、それに“犯罪者”として生きていく位なら・・・。」

 

「・・・良し、分かった。」

 

 一夏は短く返事をすると、シャルルの肩にやさしく手を置く。あの時、昭弘が自分にそうした様に。

 

「大丈夫、オレが守ってやるよ。女を守るのは男の使命みたいなもんだからな!」

 

 一夏にそう言われると、シャルルは安心した様に口許を綻ばせる。

 

「・・・ありがとう。一夏って「優しい」ね。僕は、君から白式のデータを盗もうとしていたのに・・・。」

 

 その「優しい」と言う言葉は、一夏の心を深々と抉った。自分は優しくなどない。シャルルの事を本気で想っているのであれば、本来なら昭弘に一度相談すべきなのに、自分の「焦り」を優先して勝手に押し進めてしまった。

 そんな事を考えながら、一夏は視線を逸らして小さく頷く。

 

「それと・・・・・・一夏にだけは教えるけど、僕の本名は『シャルロット・デュノア』って言うんだ。」

 

 今までタイミングを見計らっていたのだろう。『シャルロット』が「自身の真」を曝け出すと、一夏も改めて「自身の真」を口に出す。

 

「うし!そんじゃこっちも改めて!『織斑一夏』だ!宜しくなシャルロット!」

 

 そんな2人は、異性同士である事を忘れるが如く、固い握手を結ぶ。

 

 シャルロットは、一夏の先程の様子などすっかり忘れ去っていた。

 そんな彼女が、今一夏の中で犇めいている「翳り」など、よもや観測出来る筈もなかった。

 

 

 

 一旦寮を出た一夏は、「ある人物」に連絡を取るべく、スマホの液晶をスライドする。そして、該当人物の名前が現れると、液晶をタッチする。

 

 

 液晶画面には『篠ノ之束』と表示されていた。




少しずつ成長する箒ちゃん。
IS学園特記事項にある外部からの干渉うんぬんだと、単なる「問題の先伸ばし」になってしまうので、天災科学者にお願いする事にしました。その代償が、昭弘・箒・一夏の関係性を更に複雑にしていきますので、今後も是非御期待ください。
無論、シャルロットの問題もこれだけでは終わりません。

と言うか早くトーナメント本戦まで進めなきゃ。

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