昭弘の入学までは、もう少し時間がかかるかもしれません。できれば、第3話辺りから入学させたいと思っております。
西暦…そんな年号を昭弘は聞いたことがなかった。
自身が生きていた時代の年号は『P.D.(
それに自身は一ヶ月間意識がなかったと、束は言った。少なくとも昭弘の感覚では、自身が死んだのはついさっきだった。死んだ場所もこんな緑生い茂る雑木林ではなく、赤茶色の荒野。あの荒野で戦っていた一ヶ月前に、こんな雑木林に訪れた記憶もない。
昭弘はこういうことを深く考えるのが苦手だ。戦場においても考えるより先にブッ潰す戦い方をしていた彼は、今回も不本意ながらそれに倣ってみることにした。
「……こんなこと言ったら笑われると思うが敢えて言うぞ。オレはついさっき、確かに「死んだ」筈なんだ。そしてこんなこと訊いたらそっちも混乱するかもしれないがそれでも聞くぞ。此処は『死後の世界』ってヤツなのか?」
それはもう昭弘自身もビックリする程の単刀直入な質問だった。だがそうとしか訊けないのだからしょうがない。
「…」
当然、いきなりそんな事を訊かれて即座に答えられる程、人間は反射で生きていない。
まるで時間が止まった様な両者の沈黙に対し、やっぱり不味かったかと昭弘が思った瞬間―――
「やっぱり?」
「は?」
「やっぱり君って!『別次元の世界』から来た人なんだぁぁぁ!!ヒャッフゥゥゥゥイ!!!束さん大☆発☆見!!!!」
兎耳女が発狂した。
何故束がこうもあっさり昭弘の言葉を受け入れたのか、昭弘には理解できなかった。しかし、少なくとも束が常識の通用するタイプの人間でないということは昭弘も薄々勘付いてはいたので、そこに関しては昭弘も気にするだけ無駄だと判断した。
その後の話は比較的スムーズに進んだ。
昭弘は取り敢えず、自身の一生に関して束とタロにざっくりと話した。海賊の襲撃による肉親の死、それから奴隷のように売り飛ばされる日々、そんな日々の中で背中に埋め込まされた『
《……何ト言イマスカ》
「波乱万丈すぎない?」
20年にも満たない歳月でなに常人の一生分にも匹敵しそうな人生送ってんだと、束は昭弘の途方の無い経歴に顔を引き攣る。
タロに表情は無いが、もしあったら束と似たような顔をしてたのだろう。
「…そうなのか?」
「うん、そだね」
束がつい慣れない突っ込みを入れてしまった。人生観の違いとは恐ろしいものである。
「それにしても、そのモビルスーツとか阿頼耶識システムとかいうのはちょっと、いんや、かなぁ~~~り興味あるかも!是非是非詳しく!!」
「かまわないが、モビルスーツなら兎も角阿頼耶識に関しては感覚的な事しか説明できないぞ?」
「ダイジョブダイジョブ☆束さん天才だし!」
束は子供みたく自身の胸部の真ん中をドンと叩いてそう言って見せる。
《家事全般整理整頓ハスッカラカ「何か言った?タロ?」…イエ》
そのやり取りを見て、昭弘は「クスッ」と微笑を零した。本当にごく自然と零れた笑みだった。
「お前らのやり取り見てると、此処が死後の世界だなんてとても思えなくなってくる」
それは本当に、何処にでもありそうな現実の世界そのものな光景だったのだろう。
「まぁ束さん達にとっては、現実世界以外の何物でもないしぃ~。昭弘…『アキくん』でいいや☆アキくんも素直に『この世界』を受け入れちゃえば?」
急に渾名で呼ばれて昭弘は一瞬言い淀むものの、意を決したかの様に口を開く。
「いや、それでもオレはやっぱり此処を死後の世界と割り切ろうと思う」
それは今決めたのか、それとも目覚めた時から変わらぬ本心なのか。
「なんでさ?」
束がキョトンとしながら疑問符を浮かべる。
此処が死後の世界だろうと現実の世界だろうと、束の言う別次元の世界であろうと、昭弘が今後この世界で生きていくことに変わりはない。何故そんなに此処が死後の世界であることに昭弘が固執するのか、束には理解できなかったのだ。
「あの世界で家族と過ごした日々、
確かに昭弘は、この世界で一人の人間として生きていくのかもしれない。
だが昭弘は、あの世界で生まれてそして死んだのだ。その事実だけは譲れなかった、譲ってはいけない様な気がした。
対して、束もタロもただ黙って聞いていた。肯定も否定もせずに。
すると束がタロの懐から「何か」を取り出し、昭弘にポイッと投げ渡した。それは折り畳み式の果物ナイフであった。
「アキくんアキくん☆まだ
束がそう言うと、昭弘も「そういえばそうだったな」と納得する。
昭弘はナイフの切っ先に何も塗られていないことを確認し、右手にナイフを持ち、それで左手の指先に短く浅い切り傷をつけた。
当然の帰結として“痛み”と同時に“血”が流れ出てきた。生きている人間なら誰にでも流れている生命の雫だ。
痛みと血。それらはあの世界でのソレと匂いから何まで寸分違わない様に感じられた。
「この世界をどう解釈しようとアキくんの自由だよ。けどこれだけは忘れないで。君は
考えてみればごく当たり前のことだった。自身の血と彼女の言葉、それこそが唯一無二の答えだった。
それでも、昭弘の考えが変わることは無かった。
「そうだな…ありがとう束。お陰でこの「死後の世界」で生きていく覚悟が固まった気がする」
「死後の世界で生きていくって、何か変な感じするけどね!」
《私ハ珍シクマトモナ事言ッテル束様ノ方ガ、遥カニ変ナ感ジシマスガ》
「あっ、言ったなこいつぅ☆」
冗談を口に出すタロに、束が肘打ちを食らわす。
「てかアキくんって、割と深く考え込むタイプなんだね」
そこを突かれて、昭弘は苦笑する。確かに自分らしくないとは思った。しかしながら
その後、昭弘はモビルスーツや阿頼耶識のことを粗方説明し終えると、気が付いたらホットティーを全部飲み干してしまっていた。自身でも気付かない内に随分とこいつらのことを信用してしまっている様だと、昭弘はまたも苦笑を零した。
「さて、そろそろそっちの情報も寄越してくれないか?」
先程から昭弘が気に掛けていた「あいえす」だけに留まらず、世界情勢や生きていく上での社会的常識など、吸収せねばならない知識は盛沢山だ。
「お~っとその前にぃ!アキくんには、ある条件を提示したいと思いまぁ~す!!」
「…条件?」
「そ!この条件を吞んでくれれば世界情勢とISのこと、それに束さんのあ~んなことやこ~んなことも教えちゃうよ☆」
所謂取引というやつだと昭弘は解釈した。吞むかどうかは内容にもよるが、一先ず聞いてみることにする。
束のあんなこんなはどうでもいいとして。
「…言ってみろ」
「ちょっとIS学園ってとこに入学してくんない?」
昭弘ってガチムチとか脳筋とか言われてますけど、意外と悩んだり葛藤したりするとこあるんですよね。
さて、いよいよ次回はIS学園への入学に向けて、色々と準備するみたいな回になると思いますので、自分の文章でどこまで説明できるか不安ですが、頑張って早めに投稿したいと思っております。
あと今更ですけど、私はIS原作を読んだことがないです。二次創作を読んで、それで大まかな流れを把握している程度です。