IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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只管に戦闘回です。ただ、やはり昭弘VSセシリア以上の戦闘描写は難しいですね・・・。
あと、ヴォーダン・オージェのとこ結構うろ覚えです。


第25話 私は「何」 (前編)

―――――6月3日(金) 09:00 アリーナA―――――

 

 白・橙・黒・黒。

 無機質なフィールド上にて、互いの存在をアゲハ蝶よりも激しく主張するが如く堂々と中空に佇む4機のIS。

 それらを操る戦士たちは、相手を見据える眼に力を入れながら試合開始のブザーを今か今かと待ち侘びていた。

 

 スタンド席の観衆はその姿を目に焼き付けながら、各々が感じたものを心中で呟く。

 

 

 勝敗は兎も角、悔いだけは残さないで欲しい。

 どちらが勝って欲しいと言った気持ちはないが、そう思わずにはいられない昭弘。あわよくば、この試合を通じて一夏とラウラを遮る壁が無くなってくれればと、そんな甘い事を考えているのだろうか。

 

 

 管制塔に身を置く千冬は、己の昂りを抑えるのに必死だった。

 楽しみなのだ。『昭弘』と言う特異な存在が、ラウラにどんな影響を与えたのか。そして、一夏がどれ程腕を上げたのか。

 

 

 VIP専用の観戦エリアにて、リィアこと『スコール』は身を乗り出しながら白式を見つめる。

 目立つ行動を慎む様リィアを嗜めるロイもとい『トネード』も、妹と同じ様に身を乗り出していた。

 

 そんな2人に、他の富豪たちは困惑の眼差しを送っていた。

 

 

 そして、遂に「その時」は訪れる。

 

 

 

ヴーーーーーーーッッ!!!

 

 

 

 鳴り響くブザーと共に、4機はスラスターを勢い良く点火。

 

 先ず最初に鍔迫り合うは白式と打鉄。ブレード同士が互いの刃を押し付け合い、青白い火花が散っている。

 

 箒の打鉄は、通常の打鉄よりも装甲を大幅に増やしてある。これは敵の弾幕を容易に突破する為だが、無論装甲が増えた分機動力も下がる。

 それを補う為の追加ブースターによって、拡張領域を全て埋め尽くしてあるのだ。よって、箒の打鉄はグシオンリベイク並みにゴツい外見をしている。

 そうなると箒の武装は近接ブレード1本になるが、箒にとっては充分だった。重装甲のISが、超高速で、達人並の剣術を以て突っ込んでくるのだ。射撃武装を主軸としたISにとってこれ程恐ろしい事は無い。

 

 しかし白式との相性は最悪。

 打鉄も白式も至近距離での斬り合いが主軸となるが、全体的な性能では専用機である白式の方が上だ。

 

 様々な角度から刃を振り下ろし、突き出し、振り上げていく両者。時代劇における殺陣を彷彿とさせるその様は、スタンドを大いに沸き立たせる。

 しかしいくら装甲とブースターを増やした打鉄でも、機動力・反応速度で白式に後れを取る以上SEは少しずつ削れて行く。

 箒もシャルルのラファールを狙おうとしたのだが、それも一夏に読まれていた。一夏も、タッグマッチでラウラに勝つ為のプランは十全に練っているのだ。

 

(勝たせて貰うぜ箒!オレと箒と昭弘、「3人の安寧」の為なんだ!)

 

(負けられん!私は強くなるのだ!)

 

 互いにこの試合に対する想いを心中で叫ぶ両者。

 もし仮に想いの強さが試合に何らかの影響を及ぼすとするなら、やはりより“偽りのない”想いが勝敗を制するのだろうか。

 

 どの道2人がそんな事を考えた所で、現実に存在するSEは「技量・性能・時間」と言った要因によって着実に減っていく。

 

 

 

 ラウラも又、ラファール相手に苦戦を強いられていた。

 55口径アサルトライフル『ヴェント』を右手に、62口径連装ショットガン『レイン・オブ・サタディ』を左手に夫々持ちながら、シャルルはレーゲンに銃弾の雨霰を降らせていた。これでは、有効範囲の狭いAICは使えない。

 又、AICの発動には多大な集中力が必要になる。例えAICで対象の銃弾を止めたとしても、ラファール以外に対して無防備になる。それでは白式に「どうぞ攻撃して下さい」と言ってる様なものだ。

 なのでラファール本体を停止させ、透かさず強力な一撃を加えたい所。

 

 しかしラウラも歴戦の代表候補生。

 機体を仰け反らせながら錐もみ回転させて銃弾を躱し、そのまま螺旋を描く様なロール軌道で急接近した後、ワイヤーブレードを2本叩き込む。

 

《ウグッ!》

 

 シャルルは苦悶の表情を浮かべるが、直ぐ様体勢を立て直す。

 

 ラウラは歯噛みしていた。AICの有効範囲までは接近出来ず、更には今の所ダメージも五分。

 このままの状況が続けば、一番最初に打鉄のSEが尽きる。そうなれば、ラウラは専用機2機を相手取る羽目になる。

 今現在のラウラと箒の状況は、正に「1対1戦法」を逆手に取られたようなものだ。

 

 打鉄の援護に回れば、ラファールの弾幕に押し潰されるだろう。

 ならば、打鉄が落ちるよりも先にラファールを潰すしかない。そうなれば2機がかりで白式を沈められる。

 

 ラウラは作戦を纏めると、早速行動に出た。

 彼はラファールの弾幕を躱しつつ、ワイヤーブレード6本を肌が露出している部分近くに展開。更には顔面を覆い隠す様に両腕を交差させる。

 そしてそのまま上下左右に伸びる複雑な曲線軌道を描きながら、ラファールに急接近。

 

 

 レーゲンが距離を縮めれば縮める程、弾丸はレーゲンのボディに吸い込まれSEを削り取っていく。しかしレーゲンが展開しているワイヤーブレードに阻まれ、絶対防御を発動させるには至らない。

 そして遂に、AICの射程圏内まで接近されてしまうシャルロット。高速切替でシールドを展開するが、案の定レーゲンが右手を掲げた途端動きを封じられてしまう。

 

(不味いッ!)

 

 シャルロットの心の叫びを間近で聞いていた様に、ラウラはほくそ笑む。

 そして装甲で覆われていない腹部を狙い、そこに『大口径レールカノン』をお見舞いする。

 

ダァゴォォンッッ!!!

 

 唯でさえ高威力なレールカノンの、近距離での直撃。露出部である腹部に命中した事による絶対防御の発動。ラファールのSEは、かつてない程大幅に減少してしまった。

 衝撃で吹き飛ぶラファールを必至に制御し、どうにか区画シールドにぶつかる前に体勢を立て直す。

 

 しかしラウラはレールカノンの爆風によるダメージも気に留めず追撃してくる。

 

 

 

 一夏は防戦一方の打鉄に刃を斬り込ませながら、吹っ飛ばされるラファールを見やる。

 しかし一夏はこれを好機と捉える。

 

(ボーデヴィッヒの奴は、恐らく「オレが先ず最初に打鉄を墜とす」と踏んでいる筈!)

 

 

 突如自身から距離を取る白式に、箒は目を見開く。

 白式が向かう先は、今正にラファールに対して追撃を行っているレーゲンであった。

 

「させるかッ!」

 

 見開いた目を剣幕へと変えた箒は、白式に追い縋るが…。

 

(…駄目だ速すぎるッ!)

 

 ここでも、白式と打鉄の性能差は如実に現れていた。

 

 

 

 ラウラは歯噛みしていた。

 AIC、ワイヤーブレード、レールカノン。千冬の戦闘スタイルから懸け離れたそれらを、やはりラウラは使いたくないらしい。

 しかし、それらを使わなければこの試合に勝つ事は出来ない。

 

―――勝つ?何故?どんな目的があって…?

 

 脳内を、何かグルグルとしたモノに侵食されるラウラ。

 この試合に勝って、この大会で優勝して、自分の望む物が手に入るのか。抑々、千冬のスタイルを無視している時点で、自分の望む物など自ら手放している様なものではないのか。

 いや抑々、自分の望む物は本当に千冬…

 

ガギャイィィィンッ!!

 

 自身のグルグルとした思考は、横薙ぎの一閃によって吹き飛ぶ。

 斬撃を食らった方向に目をやると、白式を纏った一夏が笑みを浮かべながら雪片弐型を構えていた。

 しかし、直ぐその場から離れて打鉄からの追撃をヒラリと躱す。

 

ダギンッ!!! ドドドドドドドドドドドゥン!!!

 

 憎しみの籠った瞳を白式へ向けた直後、ラファールの61口径アサルトカノン『ガルム』とマシンガン『ホッチキス Mle2022』が、仕返しとばかりにレーゲンのSEを奪い去る。

 再びラファールに意識を向けると、一度離れた白式がまたもや舞い戻って来る。そこで漸く、ラウラは一夏の戦法に気付く。

 

「ヒットアンドアウェイかァッ!!」

 

 

 

 予想通りの接戦により、スタンド席は宛らライブ会場の様な熱気に包まれていた。

 

 そんな中、昭弘だけはいつも通り腕を組みながら静かに座っていた。彼は一夏と箒の急激な成長っぷりを目の当たりにして、普段の仏頂面を別人の様に緩めていた。

 しかしそんな快晴の嬉しさの中に、不気味に佇む灰色のわた雲が1つ。先程白式の斬撃を食らったレーゲンから、“謎の紫色の漏電”が見えたのだ。その後ラファールからの反撃を受けた際も、同色の放電がチラリと見えた。

 

 よもや専用機に限って、整備不良と言う事もないだろう。

 

 ではレーゲンに纏わりつく様に迸った、あの電流は一体何なのか。

 そんなレーゲンの姿は、まるで“何か”を封じ込めているかの様な。少なくとも昭弘にはそう映ってしまった。

 

 

 

 箒も一夏の戦法に気付く。

 そこで、箒は急遽ターゲットをラファールに変更する。もし上手く行けば「打鉄対ラファール」「レーゲン対白式」と言う、箒とラウラにとって都合のいい状況を作り出せるかもしれない。

 

 しかし、それこそが一夏とシャルルの狙いだった。

 

《篠ノ之ォ!後ろだぁッ!!》

 

 ラウラからの一声で、箒は直ぐ後ろに迫っていた白式の存在に気付く。しかも零落白夜を発動している。今の打鉄のSE残量では、零落白夜に耐える事は出来ない。

 

―――どうする?白式を迎え撃つか?それともこのままラファールに突っ込むか!?

 

 打鉄の機動力では白式から逃れられない。かと言って、白式に近接戦を挑んでもジリ貧だ。レーゲンの援護も、ラファールが張り付いている限り期待は出来ない。

 ならば。

 

「瞬時加速ならァッッ!!」

 

 一か八か、瞬時加速を使ってラファールに突っ込む。しかしこれなら、さしもの白式も瞬時加速を使わない限り打鉄には追い付けない。

 それにラファールはレーゲンに集中している。当たるかもしれない。いや、当てる。

 

 一本線の軌道が、フィールド上に煌めく。

 

 

 

 打鉄の目標変更を察知したシャルロットは、高速切替によって右手にシールド、左手にヴェントを装備。そしてヴェントによってレーゲンを牽制しつつ、打鉄の斬撃に備える。

 しかし打鉄の取った行動は―――

 

(瞬時加速ゥ!?)

 

 彼女が驚愕した時には、もう打鉄のブレードがシールドに減り込んでいた。

 

ガゴォォォゥン!!!

 

 衝撃と同時に、大きく後方へと追いやられるラファール。シールドで防いだとは言え、瞬時加速の衝撃によるダメージは無視出来ないものであった。

 しかし、衝撃によるダメージは打鉄も同じ。今迄のダメージもあって、打鉄のSEは風前の灯となっていた。

 

 

 

《篠ノ之ォォッ!早く離れろォォ!!》

 

 ラウラはラファールのばら撒く銃弾を気にも留めずに、そう叫びながら突っ込む。

 しかし、今の打鉄は弾丸数発分程度しか耐えられない。離れた所でラファールに蜂の巣にされるか、今も尚向かって来ている白式に斬られてお釈迦だ。

 

「スマン!ボーデヴィッヒ!今の私にはこれ位しか…」

 

 そう言いながら箒はラファールのシールドを左手で掴み、右手に持った近接ブレードを素早く振り上げる。

 それでもシャルルは、未だにレーゲンへの牽制を続けている。一夏の刀を信じて。

 

《間に合えええぇぇぇぇ!!!》

 

 既に零落白夜を解除した一夏は、そう叫びながら打鉄に向けて刃を滑らせる。

 

ガギィィンッ!! ガシュゥゥッッ!!

 

 直後、まるでこれから試合が大きく動く事を示唆する様に、アナウンスがアリーナ中に響き渡る。

 

《打鉄!SEエンプティ!!》

 

 

 

 己の援護が間に合わず歯噛みを隠せないラウラに、安全圏迄退避した打鉄から通信が入る。

 

《…本当にすまない。私の力量不足だ》

 

 箒の力無い声を聞いたラウラは、自身の感想を正直に言い放つ。

 

「いや。最後まで諦めず、よくぞ戦い抜いてくれた。礼を言うぞ、誇り高き剣士よ」

 

《ボーデヴィッヒ…。ありがとう、健闘を祈る》

 

 僅かな可能性を捨て去らず、最後の最後でも残された自身の為にラファールのSEを削いでくれた事が、ラウラは純粋に嬉しかった。

 

(…私も全てを出し切ってみるか)

 

 勝つ為の目的が見つかった訳ではないが、どんな状況でも常に「本気で全力」な箒の姿を見て、ラウラはそう思わずには居られなかった。

 

 そして、左目を覆っている眼帯に触れる。その眼帯の奥には、今迄1度も使った事の無い禁じ手が封印されていた。

 

 全てを出し切ろうと誓ったばかりのラウラだが、やはり躊躇ってしまう。自分如きに扱える代物なのか、抑暴走しないのだろうか、使ったら自分はどうなってしまうのだろうか。

 

 そんな得体の知れない恐怖が自分を襲う時、ラウラは思い出す様にしていた。「あの男」の顔を、言葉を。

 何故ならそれらは、迷った自分の背中を優しく撫でてくれるからだ。

 

―――お前さんならモノに出来るさ。その“力”をな

 

 あの男“昭弘”ならそんな事を言うのだろうなと思った時には、ラウラは既に左目の眼帯を外していた。

 この先どんな絶望が待ち受けて居ようと、自身の心を昭弘の言葉が支える限り、必ず最後に胸を張ってみせる。

 

―――――擬似ハイパーセンサー『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』起動を確認。

 

 左目に映った外界の景色が引き金となり、レーゲンの機械音声がラウラを音速の世界へと誘う。

 

 

 

 今正に次なる一撃を加えようとしていた一夏とシャルロットは、レーゲンの変貌ぶりに目を奪われる。

 

 速い、途轍もなく疾い。

 

 狙えるとか狙えないとかそんな次元の話ではなく、ハイパーセンサーで捉える事すら困難なレベルの速さだ。

 レーゲンは瞬時加速にも匹敵する速度を維持したまま、複雑な軌道を描いて白式に迫る。

 

「こんのぉッ!」

 

 白式も激しく動き回りながら迎撃の構えを取るが、それより速くレーゲンのプラズマ手刀が擦れ違い様に横腹を斬る。

 

 一夏は悶絶の表情を浮かべながら、白式のSEが大きく減少するのを肌で感じ取る。

 

 

 

「グゥゥゥォオオォ!!?ア、頭が破裂するゥ…ッ!!」

 

 越界の瞳とは、一言で言い表すなら「ハイパーセンサーを備えた肉眼」。

 肉眼に擬似的なハイパーセンサーを生み出す為のナノマシンを移植し、ソレとIS本体のハイパーセンサーを同調させる事で、超高速戦闘下における「脳への視覚信号伝達」と「動体反射」を大幅に強化させるのだ。

 ブルー・ティアーズの高機動用バイザーも、肉眼への処置を除けばこれに近いシステムを用いている。

 尚、越界の瞳が発動されると同時に、レーゲン本体も自動的に超高速機動状態となる。

 

 そんな今、正にラウラは暴れ馬の手綱を引いた状態と言っても過言ではない。

 普段の何倍もの速度で移り変わる景色。それらは大量の情報として、ラウラの脳に殺到する。もし越界の瞳が無ければ、ラウラは何が起こっているかも解らず只管レーゲンに振り回されていただろう。

 しかし、それでも手綱を引くのでラウラは精一杯だった。今の彼にはAICもレールカノンも、ワイヤーブレードすらも使う余裕はなかった。

 

(な…何でも良い!兎に角…近くに居る方をッ!)

 

 辛うじてそんな事を考えるラウラは、再び白式に狙いを定める。

 

 しかし昭弘の目に映った紫色の電流は、先程以上に激しく迸っていた。

 

 

 

《一夏ッ!僕の後ろヘ!!》

 

 シャルロットは白式を庇う様に、レーゲンに対して弾幕を張る。ホッチキスで牽制している間に、シャルロットは器用にもヴェントのマガジンを交換。

 

《レーゲンに何が起こったかは解らないけど、多分向こうは今のレーゲンを扱いきれていない。ワイヤーブレードもAICも使わないのがその証拠だよ》

 

 事実、レーゲンの空中機動も今迄の精細さを維持しているとは言い難かった。どちらかと言うと、暴れる機体を押さえつけている感じさえ伝わって来る。

 

「…まだチャンスはあるって事だな?」

 

 2人は通信を専用回線に切り替えると、レーゲンからの猛攻をやり過ごしながら即興の作戦を練る。

 

 

 

 ラウラはレーゲンを懸命に制御しながらも、謎の悦を感じ取っていた。 

 

 近接武器を用い、疾さと純粋な戦闘能力だけで勝利を捥ぎ取る。今の彼は、今迄の中でも限り無く千冬に近いのかもしれない。

 

 しかしそれは所謂錯覚に過ぎない。

 何故なら彼は暴れるレーゲンを制御する為に、プラズマ手刀以外の武装を封じているだけなのだから。自分の為に武装を限定するのではなく、ISの為に武装を限定する。その時点で、ラウラはISを自由自在に支配する千冬から寧ろ遠ざかっているとも言える。

 

 すると、ラウラの視界に奇行を繰り返す白式が飛び込んで来る。区画シールドの付近を、まるでラウラを誘う様に飛行しているのだ。

 

 そんな白式に対し、ラウラは迷う事なく突っ込む。

 罠だと解っていても、今のラウラはそんな事にまで構っている余裕など無かった。織斑一夏を倒し、己の優位性をこの戦いで確立させる。今の悦に浸っているラウラにとって、それが「勝つ為の目的」だと信じているから。

 

 相も変わらずレーゲンから逃げるだけの白式に対し、ラウラは情け容赦なく背後からプラズマ手刀を叩き込もうとする。

 しかし、逃げながら白式はレーゲンの方に向き直る。

 

 すると、雪片弐型の刃体をまるでラウラに見せびらかす様に構える。

 

カッ!!!

 

「!!??」

 

 何とそのまま零落白夜を一瞬だけ発動させたのだ。

 

「グギィ゛ヤ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッ!!!」

 

 左目を覆いながら、ラウラは突如として発狂し出す。

 視覚信号伝達を大幅に強化している今のラウラにとって、零落白夜が放つ光は最早眩しいだけでは済まない。無論姿勢制御を行う事など叶わず、そのまま区画シールドに激突する。

 更にレーゲンを下後方から付けていたラファールが、区画シールドで悶えているレーゲンに組み付く。

 

「き、きき貴様ァァァ!!!」

 

《終わりだよボーデヴィッヒさん》

 

ズドオォンッッ!!!

 

 69口径パイルバンカー『灰色の麟殻(グレースケール)』通称:盾殺し(シールド・ピアース)が、火花と共に射出された。

その衝撃は凄まじく、絶対防御が発動しているにも関わらずラウラの腹部に突き刺さる様な鈍痛が残る。

 

 それらの衝撃と鈍痛によって、悦に彩られていたラウラの脳内に再び先程のグルグルが舞い戻って来る。

嫌なグルグル、自分が何の目的も無い人形だと言う事実を突きつけてくる冷たいグルグル。零落白夜による閃光も相まって、今のラウラの思考は最早グチャグチャになっていた。

 

―――教官

 

 しかも一発ではない。シャルロットは無慈悲に、相手のSEが切れるまで何発も穿ち続けた。

 

―――貴女の様になりたかっただけなのに…結局私は

 

 SEの減少に比例する様に、レーゲンがそこら中から放つ放電の勢いは増していく。

 

―――…いや、「織斑千冬の様に」って何だ?

 

《シャルッ!何かレーゲンの様子が変だッ!一旦離れろッ!!》

 

《え!?ウ、ウン!!》

 

―――スマン昭弘。もう答えを探すのも疲れた…。誰か教えてくれ…空っぽな私に

 

教えてあげようか?

昭弘の助言なんかより、よっぽど明確で解りやすい“答え”を

 

 

―――――SE残量、危険域に突入。搭乗者保護の為、これより『VTシステム(ヴァルキリー・トレース・システム)』を起動します。

 

 

 

 

 

 アリーナ中が一斉にどよめき出す。

 

 

 彼等の目が捉えたモノは…

 

 シュバルツェア・レーゲンから溢れ出す、真っ黒な泥。それらはやがてレーゲンを取り込み、搭乗者であるラウラをも静かに包んで行った。

 そしてレーゲンよりも一回り程大きくなったソレは、やがて「己があるべき姿」へと形を整えていく。

 ソレは人と同じ形状へと変貌し、右手と思しき部分には雪片と同形状の刀が握られていた。両脚部は太くどっしりとしていて、背部には2枚のウイングが伸びていた。ISを彷彿とさせるソレは、やがて頭部の形状も定めて行った。

 

 その姿は正しく。

 

「織斑…センセイ?」

 

 

 

後編へ続く




次回、遂に一夏が発狂します。
そして滅茶苦茶熱い展開になりますので、乞うご期待下さい。

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