IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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クソみたいに投稿が遅くなって申し訳ございません・・・。

ただその分、怒涛のテンポで話を進めました(当人比)
けど、短文で相手の強さを表現するのって難しいですね。


第26話 続行

「いやはや、今日は随分と僥倖に恵まれた日ですな!まさかISの二次移行を生で観れるとは!」

 

「全くですわ。まるで映画みたい。」

 

 先の事態を「レーゲンの暴走」とは汁程も思っていないVIPたちは、能天気な感想を互いに溢し合う。フィールドに乱入した昭弘の事も、「何らかの演出」程度に思っているのだろう。

 

 そんな中、スコールは不機嫌を隠そうともせず、腹の底から大きな溜め息を吐き出す。

 

「・・・期待して大損ね。ま、所詮は「弟」って訳かしら。」

 

 やはりスコールは、今大会で一夏の実力を見定めておくつもりだった様だ。場合によっては、自身の部隊に引き入れる算段もあったのかもしれない。

 他の誰よりも「戦い」に精通している彼女の事だ。恐らく今回の試合で、一夏の「IS乗りとしての限界」がある程度解ってしまったのだろう。

 

「お前の期待が大き過ぎなのだ。「姉」が異常過ぎるだけで、アタシは織斑くんも「いい線」行っていたと思うが?」

 

 申し分程度に一夏を擁護するトネードだが、そんな事でスコールの機嫌が変動する筈もなく、舌打ちを響かせながら脚を組み換える。

 そんなスコールに対し、トネードは冷たくあしらう様に言い放つ。

 

「何なら先に帰っても良いぞ?」

 

「・・・・・・残るわよ。VIPの途中退館って、“何かと”面倒臭そうだし。」

 

 そんな「渋々」としたスコールとは対称的に、トネードは普段の無表情が崩れる程度には上機嫌だった。

 

(ハァ・・・・・・アルトランドくん。君は一体どれ程アタシを夢中にさせれば気が済むのだ。)

 

 己の意を貫く為に、自らの「命」をも白刃の前に差し出す。その有り様は、「大人の命令」でしか己の命を賭けられない少年兵と比べると、明らかに異質と言えた。トネードはそんな「異」を放った元少年兵に、改めて“不思議な魅力”を感じたのだ。

 そんな彼の恍惚な瞳は、今昭弘が居るであろうピットを射抜く様に見つめていた。

 

 

 

 ピットに戻って来た昭弘の胸部には、箒の額が重々しく寄り掛かっていた。彼女は涙を流しながら、両手の拳を昭弘の盛り上がった胸筋に何度も叩き付けていた。

 

「もう・・・「あんな事」・・・・・・2度としないでくれ!」

 

 箒のそれは、余りに真っ当な反応であった。

 しかし、昭弘は「こう言った反応」に極めて不慣れであった。前の世界、常に生きるか死ぬかの「極限空間」に身を置いていた彼からすれば、箒の取り乱し様は正に異常そのもの。

 

「・・・オイッ!」

 

 小声でそう言ったラウラは、昭弘の右肩を「スパン!」と叩く。

 それでどうにか気を取り直した昭弘は、取り敢えず「この場面」に相応しかろう言葉を模索する。そんな3人のやり取りを、整備科生たちはニヤつきながら流し見していた。

 

「・・・・・・・・・心配掛けた。・・・スマン。」

 

 そう言い、昭弘は己の武骨な手を箒の肩に優しく添える。しかし、それでも尚箒の涙腺から流れ出る滴は中々治まらなかった。

 

 

 箒が落ち着いた所で、昭弘は「次なる目的」を果たすべく、ピットを出ようとする。

 

「オイ、何処へ行く。」

 

 訊ねるラウラに、昭弘は普段通りのトーンで返す。

 

「保健室だ。一夏の様子を見に行く。」

 

「私も行くぞ昭弘。」

 

 しかし、そんな調子の昭弘と箒を、ラウラは静かに制する。

 

「・・・織斑のアレは、只の疲労だと聞いている。気持ちは解るが、私には「聴取」があるし、昭弘も確実に呼び出されるだろう。第一、今はお互い次の試合に集中すべきではないのか?」

 

 それを聞いて、昭弘と箒は似た様に押し黙る。どの道今の2人には、「あんな常態の一夏」に何と声を掛けたら良いかまるで解らなかった。

 

 そんな時、ドンピシャなタイミングでピットに千冬が現れる。

 彼女は「凶悪な笑み」を浮かべながら昭弘を視線で射止め、親指で自身の後方を指し示す。「来い」と。

 

(・・・そりゃあキレるわな。)

 

 そう諦めながら、昭弘は千冬の後に続く。

 

 

 

 管制塔に連れられた昭弘を待っていたモノは、千冬と教員部隊からの度重なる「叱責」であった。

 クラス対抗戦でのゴーレム襲撃、そして今回の事態、2度に渡っての独断行動。更には、試合中のフィールド上に生身で侵入すると言うとんでもない暴挙。怒られない方が不思議だろう。昭弘の行動は、あくまで「結果的に上手くいった」に過ぎないのだから。

 

 そして多少の議論の末、昭弘が受けるべき「罰」が決まった。

 

「昭弘・アルトランド。今大会に於いて、お前個人への景品は全て取り消しとする。更に、反省文を30枚、期日までに提出せよ。」

 

「・・・分かりました。」

 

 千冬から言い渡された罰を、昭弘は静かに受け止める。

 少々「甘い罰」かもしれないが、まぁ妥当な落とし所だろう。昭弘を大会から棄権させれば、相方である谷本まで迷惑を被る事になる。

 昭弘には可哀想だが、「規律」を破った事への罰は与えておかないと、他の生徒まで規律を軽んじかねない。それが傍から見てどれ程「英雄的行動」に見えようとも、規律は規律、罰は罰なのだ。

 

 漸く説教が終わり、教員部隊が全員退室したタイミングで、昭弘も最後に管制塔を出ようとする。その時だったーーー

 

「アルトランド!」

 

 千冬に強く呼び止められ、ゆっくりと後方を振り向く。昭弘の瞳に映ったモノは、深々と頭を垂れる千冬の姿であった。

 

「・・・・・・ありがとう。()()()()()()してくれて。管制塔から観ていた私にも解る。アレはお前のお陰だ。・・・今度、何か奢らせてくれ。」

 

 千冬が今回、一番言いたかった言葉がソレだった。「泥でできた千冬」を脱ぎ捨てた時のラウラは、千冬が今迄見た事がない程、清々しい表情をしていたのだろう。

 その想いは、昭弘の独断行動や危険行為に対する憤りを軽く凌駕していた。

 

 そんな千冬に対し、昭弘は微笑を浮かべながら会釈する。「大した事はしていない」とでも言いたげに。

 

 

 結局、大会に関してはこのまま「続行」する形となった。

 レーゲンの暴走に関しては、殆どの観客から「二次移行が完了するまでの一時的な不具合」程度にしか見なされていない。怪我人や設備の異常等も、今の所報告は上がっていない。

 第一、2・3年生の試合、それを査定する各企業、学園内に出店している各テナント、今この時も試合を待ち侘びている一般観衆やVIP、そして今迄、「この大会」の為に動いてきた“カネ”、これから動くであろう“カネ”等々。それらを考慮すると、流石に「IS1機の異常」程度で大会を中止にする訳には行かないのだ。

 

 

 

 

 

ーーー6月3日(金) 詳細時刻不明 保健室ーーー

 

 寒さすら感じない深淵から、一夏はまるで逃げる様に浮上する。ある程度浮上すると「パッ」と外界の景色が映る様になり、同時に五感も甦った。

 

「一夏!!・・・良かった、本当に只の疲労だったんだね。」

 

 そんなシャルロットの一言で、一夏は漸く今まで自身が気を失っていた事に気付く。

 そして、既に分かりきっている事を意味もなく彼女に訊ねる。

 

「・・・・・・・・・試合は・・・どうなった?」

 

 その質問に、シャルロットは目を逸らしながら答える。

 

「・・・試合は、僕たちの「負け」・・・だよ。結局、試合上でのSE判定が、そのまま結果に反映されたみたい。」

 

 レーゲンは、ラファールの放ったグレースケールがトリガーとなって、VTシステムを発動させた。しかし、その時点でもSEは未だ僅かに残っていたのだ。その「SE残量」は二次移行が完了した後もそのまま継続され、最終的にSEの残っていた機体はレーゲン改め『シュバルツェア・シュトラール』だけだったと言う訳だ。

 

 「そうか」と一言だけ静かに呟いた一夏は、シャルロットのある「異変」に気付く。先程から、一夏と目を合わせようとしないのだ。目の焦点はハッキリとせず、瞳は上下左右を往復している。それはまるで、「話したくない相手と同じ空間に居る」時の反応と似ていた。

 恐らく、彼女も昭弘や箒と同様、一夏とどう接すれば良いのか解らないのだろう。彼女の目に映るのは、もう今までの一夏ではない。一夏の「明るくて優しい外壁」の内に隠れた“翳り”を知ってしまった以上、もう今迄の様には接し難いのだろう。

 

 当然、一夏も先の試合での「一件」を詫びようとはしていた。

 しかし、同時に「謝ってどうなるのだ」とも感じていた。一夏が犯した愚行は、ガチガチに固めた外面による謝罪で済む問題ではない。己の激情のせいで勝機を逃し、シャルロットの考えも録に聞こうとせず、更には生身の昭弘の存在も考慮せずに、零落白夜を発動して突撃すると言う危険極まりない行為。

 

 だからか、敢えて一夏はこう言う。

 

「・・・・・・ごめん、シャルロット。出てってくれないか?・・・今は、一人で居たいんだ。」

 

「一夏・・・。」

 

 今の自分と一緒に居た所で、彼女が苦しいだけだ。そう思い至っての発言だった。

 

「・・・・・・分かった。また、後で来るね?」

 

 そう優しく言い残し、彼女は保健室を後にした。

 

 常勤の保険医が別の生徒に付き添っている今、そのカーテンで仕切られた空間には一夏一人が残されていた。

 しかし、望んでいた筈の「一人の時間」は、「ラウラに敗北した」と言う厳しい現実を思い出させる。その現実は、彼を絶望の淵へと沈めんとばかりに重くのし掛かる。

 

ーーー・・・これから、オレはどうしたら・・・?

 

 昭弘や箒との今後の関係、婚約の件、そして自身の「アイデンティティ」の喪失。

 それらの問題は、一夏一人で抱え込むには、余りに重すぎた。しかし、今更どの面下げて昭弘に相談しようと言うのだろう。ラウラに敗北した自分自身に、昭弘は愛想を尽かしているに決まっている。例え相談出来たとしても、自身の勝手な判断で押し進めた「シャルロットの一件」まで打ち明けてしまえば、確実に昭弘から激しい「叱責」を受けるだろう。それを切っ掛けに、もしかしたら嫌われてしまうかもしれない。

 

 一夏のそんな考えは、流石に「下降思考」が過ぎる。しかし、端から「昭弘から見た自分」をそう思い込んでいた一夏は、項垂れながら頭を抱えることしか出来ない。「相手がどう思っているか」なんて、相手にしか解らないのだから。

 

 

 

 

 

ーーーーー1年生トーナメント 第2試合(Bブロック)ーーーーー

 

 少しの時間を置き、漸く再開されたトーナメント戦。

 既に試合は大きく動いており、半ば「大詰め」に差し掛かっていた。

 

《そぅらそぅら!!こんな程度!?「専用機持ち」様ッ!!》

 

「グッ!」

 

 打鉄相手に、鈴音は存外にも苦戦を強いられていた。

 

 相手は2機共『打鉄』であり、装備も「追加装甲+IS用重機関銃『ブローニングXM2020』+アサルトライフル『焔備』」で統一している。尚、両機共近接ブレード『葵』を取っ払っており、その分取り回しの良いサブマシンガン『FN P90』を装備している。

 

 基本的に甲龍は、こうした「中距離で弾幕を張る相手」が苦手だ。加えて、千冬の教育が予想以上に行き届いている為か、相手の実力も代表候補生に引けを取らないレベルだった。どれだけ甲龍が距離を取ろうとしても、逆に距離を詰めようとしても、相手はそれに応じて中距離を保ち続けた。

 しかし、鈴音を追い詰めていた大本の原因は、やはり鈴音自身の“心境”にあった。

 

ーーー・・・一夏!

 

 その名に支配されていた彼女の頭は、「戦闘」と言う高密度な状況に“暗雲”を落としていた。それはまるで鈴音と甲龍の繋りが、その名前によって遮られているかの様だった。

 ブルー・ティアーズによるビットの援護があって尚、鈴音は「気迫」で相手に押されていた。

 

 

 

 鈴音の不調を既に感じ取っていたセシリアは、4機のビームビットを甲龍の元に向かわせていた。そんなブルー・ティアーズを支えるのは、スターライトMkⅢと2機のミサイルビットのみ。しかしーーー

 

《ダァッ!!何故当たらない!?》

 

「・・・」

 

 アサルトモードのティアーズとセシリアを相手に、弾の飛ばし合いで優位に立てる事はなかった。どんな角度、どんなタイミングで引き金を引いても、弾道は空しく線を引くばかり。

 そして止めとばかりに、セシリアは相手の死角からミサイルビットを撃ち込み、SEを削り切る。

 

《駄目かぁ~~!》

 

 相手の落胆した声に耳を傾ける間も無く、セシリアは直ちに甲龍の援護に入る。

 

(鈴ッ!!)

 

 

 

 そうしてどうにか試合には勝てたが、甲龍のSEはたったの2%しか残ってなく、ブルー・ティアーズもSEが大きく削れていた。「こんな調子では・・・」と、2人は今後の試合に大きな不安を覚えた。

 

 

 険しい表情でピットに戻って来たセシリアと鈴音。

 セシリアは、鈴音の「不調の原因」が何なのか、ある程度予想が付いていた。しかし、それでも鈴音を心配してか、つい口が開いてしまった。

 

「・・・鈴、大丈夫ですの?・・・悩みがあるようなら、少しばかりは力になれるかもしれませんわ。」

 

 そんな風に声を掛けてくるセシリアに対し、鈴音は少しばかり「憤り」を含んだ声で返す。

 

「・・・・・・逆に訊くけど、アンタは何とも思わないの?・・・一夏の事で。」

 

「・・・」

 

 先の試合、突如として豹変し、そして遂には気を失ってしまった一夏。そんな想い人の現状を、心配しない人間が何処に居ようか。

 無論、それはセシリアとて同じ事。単にセシリアは、「気持ちの切り替え」が上手いだけに過ぎない。

 

 その後若干の間を置いて、セシリアは在り来たりな言葉を鈴音に贈る。

 

「・・・心配なのは、私も同じですわ鈴。ですが、今は目の前の試合に全神経を注ぐべきと存じますわ。・・・きっと一夏も、そう望んでおられる筈ですもの・・・。」

 

「・・・・・・・・・うん、ごめん。」

 

 そう短く、そして力無く返事をする鈴音。そんな彼女を見てセシリアは、自分の言葉が所詮は「付け焼刃」であった事に気付く。

 そして遂に、セシリアはそれ以上の言葉を思い付かなかった。彼女も又、鈴音と同じ「苦しみ」を携えているからだ。だからこそ鈴音の気持ちは痛い程解るし、解るからこそ「安易な言葉」を掛け辛いのだ。「それらの言葉」に何の効力も無いという事に、同じく苦しむセシリアは気付いてしまったのだろう。

 

(・・・・・・何かないものでしょうか。鈴を震い立たせる「切っ掛け」が・・・。)

 

 

 

 

 

ーーーーー1年生トーナメント 第3試合(Cブロック)ーーーーー

 

 トーナメントまで勝ち上がって来た生徒ともなると、いくら昭弘でも一筋縄では行かない。例え相手が量産機であったとしてもだ。

 しかし、セシリアたちの試合と比べると、安定した結果を出せていた。グシオンリベイクのSEはある程度余裕があり、谷本とラファール・リヴァイブもこれと言った「不調」は見られない。

 彼等も一夏の容態が気掛りなのだろうが、上手い事気持ちを切り替えられている様だ。

 

《ウォォォォアアアァァァァッッ!!!!みっちゃん!!グシオンめっさ怖いって!!!あと谷本ラファールが死ぬほど邪魔!!》

 

 敵のラファールにビームと炸裂弾を撒き散らしながら、もう片方の打鉄を追い回すグシオン。マチェットとハルバートを構えた相手に追い回されれば、そんな奇声を上げたくもなるだろう。

 そんな打鉄の搭乗者はグシオンに銃口を向けたくとも、谷本ラファールからの執拗な弾幕に妨害されてしまう。

 

「いやマジゴメンって!!!けどこっちも躱すので手一杯・・・あ。」

 

 『みっちゃん』の奮闘も空しく、近くで起爆した炸裂弾の破片を浴び、SEが尽き果てる。

 

《みっちゃーーーーーんッ!!!おのれィ!私一人でも凌ぎき・・・て無理無理無理ィィィィィ!!!!》

 

 みっちゃんの耳を、相方の断末魔が貫いた。その直後、試合終了のブザーが優しくみっちゃんの耳を撫でた。

 

 こうして、「圧勝」とまでは行かないが、昭弘と谷本は上々な滑り出しを見せた。

 

 

「いやはや、余裕でしたね♪やっぱり私、ラファールにしといて正解だったのかも!」

 

 そんなあからさまに慢心している谷本を、昭弘は軽く叱責する。

 

「余裕なもんか。1回戦目であの実力なんだぞ?準決勝では更に手強くなる。優勝するまでは気を引き締め続けろ。」

 

「ヘイヘーイ。」

 

 そう気だるげに生返事をする谷本。

 試合の時とは違い、大分普段通りの意識に戻って来た彼女は、チョクチョクと「気になる事」を口から漏らし始める。

 

「にしても、織斑くん大丈夫ですかね。気を失った事じゃなくて、その・・・。」

 

 谷本がその後言わんとしている言葉を先読みするが如く、昭弘は言葉を返す。

 

「・・・一夏の豹変ぶりは、正直オレも驚いた。だがな、何処と無く“嫌な予感”はしていたんだ。」

 

「あー、仲悪かったですもんねーあの2人。けど、何であそこ迄怒り狂ったんですかね?レーゲンの異変が切っ掛けの様に見えましたけど・・・。」

 

 一夏は、千冬の姿を模したレーゲンを見た途端、ああなった。その事実を思い返すと、やはり昭弘の脳裏には、一夏が過去に発した「あの言葉」が浮かび上がる。

 

ーーー千冬姉を・・・。

 

(織斑センセイをどうしたいと言うんだろうか。・・・守りたい?超えたい?それとも・・・?)

 

 いくら予想を立てた所で、本人の口から直接聞いてみない限りは、答えなど出ないだろう。そしてそれは、今の昭弘には叶わない。

 谷本もその事を悟ったのか、話題を少しずらす。

 

「レーゲンと言えば、「二次移行」格好良かったですよねぇ!まさに“覚醒”って感じで!」

 

「新機体の名は『シュバルツェア・シュトラール』と言うらしい。間近で見たが、特に地面を蹴る時の「脚の動き」が、最早人間の動きそのものだった。」

 

 「間近」と言う単語で思い出したのか、谷本は唐突に話題を変える。

 

「と言うかアル兄、よく生身でフィールドに乱入するなんて馬鹿やらかしましたよね。目茶苦茶怒られたでしょう?」

 

「ああ、それはもう怒られたさ。ただまぁ、お前には連帯責任だのペナルティだのは無いから、安心しろ。」

 

「ホッ、良かった~~。」

 

 谷本の反応を見て、昭弘は「何処までも現金な奴だ」と困り果てた笑みを浮かべる。

 

 そう笑いながらも、昭弘はある「2つの大きな感情」に苛まれていた。

 ラウラが「自分」を見つけられた事は昭弘だって嬉しいが、それと対をなす様に崩れ堕ちていく一夏への“憂い”も又、同じ位大きい。それらは例えるなら、昭弘の心に生じている“熱風”と“冷気”。一体そのどちらに意識を向ければ良いのか、今の昭弘には解らなかった。

 

 因みに谷本の昭弘に対する「呼び方」は、苗字呼びがいい加減面倒臭くなったからだそうだ。「さん」も付けて8文字では、口も疲れるだろう。名前で呼べばいい気もするが、そこは谷本なりの拘りでもあるのだろう。

 

 

 

 

 

ーーーーー1年生トーナメント 第4試合(Dブロック)ーーーーー

 

 フィールド中空に、4機のISがブザーを待ちながら佇んでいた。

 

 そんな中、日本の代表候補生である簪は、最新の専用機に身を委ねていた。打鉄の後継機である第三世代型IS『打鉄弐式』。ボディは全体的に水色で、両脇に「ロケット」の様な非固定ユニットを夫々浮遊させていた。武装は背部に外付けされてある連射型荷電粒子砲『春雷』と、対複合装甲用超振動薙刀『夢現』の2つのみ。

 ところがこの機体、未だ「完成形態」ではないのだ。話によると、何らかの要因が重なった為に、開発が途中で頓挫したとか何とか。それを、簪自身の手で今日まで創り上げて来たのだが、残念ながらISTTには間に合わなかったようだ。

 しかし、専用機とは言え未完成の機体で此処迄勝ち上がって来た戦績は、見事としか言いようがない。

 

 それだけの実力があって尚、簪は安心したいが為、相方の横顔をチラリと覗き込む。打鉄を纏った本音はそんな簪の視線に気付くと、いつも通りの笑顔を見せてくれた。

 簪は、いつも親友が見せてくれる“この笑顔”が大好きだった。彼女の笑顔を見た後だけは、不思議と手の震えが止まるからだ。改めて簪は、本音とペアを組めた事に感謝を示した。

 

(・・・打鉄弐式の高機動と私の実力を信じよう。本音だってついてる。それに・・・どんな理由であれ、本音はオルコットさんではなく、私と組んでくれた。・・・その事実を前にして、見っともない試合はしたくない・・・!)

 

 この時だけ、簪は姉への「劣等感」から解放されていた。彼女の頭は、フィールドでいつも自分の傍に居てくれる、親友の存在に埋め尽くされていた。

 

ヴーーーーーーーーーーーーッ!!!!!

 

 そんな彼女たちの善戦を願うかの様に、試合開始のブザーが高らかに鳴り響いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーしかし・・・。

 

 

 

 時は過ぎ去って試合も後半。簪は、無意識に歯軋りを続けていた。それは単に苦戦故か、それとも先の自信に満ち溢れた自分に対してのものなのか。

 だが、簪自身は別段調子が悪い訳でもなく、夢現による突きや払いのキレも良い。その辺りは本音も同様だった。にも拘わらず、SE残量は相手の方が僅かに上だった。

 

(な、何なの・・・この相手!?・・・2機共量産機の筈なのに・・・!!)

 

 今迄予選で下してきた相手とは、明らかに次元が違っていた。それは単に“強い”と言うのもあるが、「戦い方」が一癖も二癖も異なっていたのだ。更に言うなら、とても「ISらしい戦い方」と呼べる代物ですらなかった。

 もっと具体的に例えるなら、まるで「フィールド全体が襲い掛かって来る」かの様な、そんな感覚を簪と本音は覚えた。

 

《カンちゃん!!》

 

 区画シールド沿いに居た本音は、弐式に執拗な波状攻撃を仕掛けている相手の打鉄を狙おうとするが・・・

 

ドガァンッ!!!

 

《ッ!!!》

 

 突如、本音の居た直ぐ近くの区画シールドが爆炎を吐き散らし、彼女を地面へと吹き飛ばす。彼女は地面に激突する直前でどうにか体勢を立て直すが、今度はその地面から爆炎が上がり、更に打鉄のSEを削り取る。

 

(・・・このままじゃ負ける・・・!)

 

 そう思い至り、敵打鉄からの攻撃をやり過ごしながら、簪は勝利への糸口を探すべく頭を振り絞る。

 しかし、余りにも相手の「動き」が読めなさ過ぎて、簪は確実な“決定打”が中々見出せない。こうやって「戦闘への意識」を疎かにさせる事も、相手の策略なのではないかと簪は思ってしまった。

 

(・・・考えても仕方が無い!こうなったら一気に距離を詰めて、夢現でこの打鉄から捻じ伏せる・・・!その後、「トラッパー」であろうラファールを、本音と2人掛かりで・・・!)

 

 そう今後のプランを固めた簪は、タイミングを見計らってスラスターを一気に爆発させる。そして、相手に肉薄したその瞬間ーーー

 

ポイッ

 

 相手が自身に向かって投げ捨てたモノを、簪は数瞬遅れて理解した。

 

ーーースタングレネード!?しまっ・・・

 

 気付いた時にはもう遅く、大量の光が簪の視界に雪崩れ込む。結果として身体を丸める様に体勢を崩す弐式だが、相手は投げる瞬間に目を腕で覆っていた為、直ぐ様反撃に転じる事が出来た。サブマシンガンで軽く弐式のSEを削った後、今度はIS用重機関銃のストックを使って弐式を地面へと叩き落とす。

 落ちる弐式を待っていたものはーーー

 

ドォォゥン!!!

 

 轟音と同時に地面が爆発した。それらの連続攻撃に、残り少ない弐式のSEは耐える事が出来なかった。

 

《打鉄弐式、SEエンプティ!!》

 

 簪は歯噛みしながら、ズル賢い相手の打鉄を見上げる。しかし、当然その打鉄はSEの尽きた弐式には見向きもせず、残った本音の打鉄へと向かって行った。

 そんな光景を見た簪は、トボトボとピットに戻りながら、本音の奮闘を祈る事しか出来なかった。

 

 しかし、本音の実力は決して低くはないものの、代表候補生に届くレベルではない。彼女の打鉄も「追加装甲・葵・焔備にサブマシンガン『H&K MP7』2丁」と、特段穿った武装と言う訳ではない。

 そんな本音が残りSEの少ない状態で、打鉄とラファールを相手取れる筈もなく、遂には「試合終了」のブザーが鳴り響いてしまう。

 

《打鉄、SEエンプティ!!勝者、『××××・〇〇〇』ペア!!》

 

 

 例え代表候補生だろうと、専用機だろうと、想いが強かろうと、負ける時は負けるのだ。“勝負”に“絶対”はない。

 簪と本音は、特段悔いがある訳ではなかったが、この試合を通じて“その事”を再認識した。

 

(・・・早く打鉄弐式を完成させよう。・・・そうすれば、戦術の幅も広がる。)

 

 簪は危機感を覚えていた。今後は「代表候補生」だの「専用機」だの、そんな肩書に甘える事は出来なくなる。「一般生徒」でも「量産機」でも、戦い方によっては猛者を食らえるのだ。

 しかし、同時に「良い体験をした」とも感じていた。これを切っ掛けに、打鉄弐式をより実戦向きに改良できるかもしれない。そうなれば、もしかしたら『(あの人)』を超えられるかもしれない。

 

(・・・・・・やっぱり、もうちょっと頑張った方が良いのかな~~。)

 

 本音はこの「頑張る」と言う単語に、少し壮大な「考え」を練り込んでいた。

 彼女は「操縦者の道」を進むか「整備士の道」を進むか、未だ決めかねていたのだが、この戦い、そして今迄の戦いを通じて気付いた事があったのだ。それは、結局ISに関わる以上、「操縦者としての経験」と「整備士としての知識」の両方が必要だと言う事。ISに対する知識欲が人一倍豊富な彼女は、それらの「経験・知識」をフルに活用できる道を選ぼうと考えたのだ。

 普段何処か「フワフワ」している彼女も、やはりこういった所は列記とした「IS学園の生徒」なのだろう。

 

 

 

 

 

 こうして、昭弘と谷本の「次なる対戦相手」が決まった。




原作主人公が気絶している間に、とっとと進んじゃうタッグトーナメントくん。・・・いや、流石に中止は無理でしょう、規模的に・・・。
ラウラの聴取やシュトラールに関しては、次回色々と説明を入れようと思います。

簪と打鉄弐式をも凌駕する「謎の強敵」現る。一体誰なんだ・・・?

次回、「セシリアVSラウラ」「鈴音VS箒」 乞うご期待下さい。

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