IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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【PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)】

 ISの機動に必要不可欠な装置で、全てのISに搭載されている。
 物体の動作には、常に「慣性(他から力の作用を受けると、現在の運動状態も変化すると言う性質)」が働いているが、これを取り消す為の装置(即ち、空中機動の際にISが受ける重力や風圧等を取り除く為の装置)である。これと大小の推進翼が、ISの空中における加減速や静止行動を可能としている。
 又、PICは搭乗者の思考によって「マニュアル操作」が可能であり、それにより複雑な機動を行う事も出来る。例えばPICを弱めて慣性が働く様にすれば、ISは重力に従って降下・落下していくが、それを応用した空中機動も可能ではある。


第27話 すれ違う羨望

ーーーーー6月3日(金) 12:31 アリーナAーーーーー

 

「・・・では、試合序盤の“段取り”はその様に。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・うん。」

 

 ピット内にて、セシリアと鈴音は次なる試合の作戦を丁度纏め終えた所であった。そんな中、やはり気分が滅入っている鈴音に対し、セシリアは再び声を掛ける。

 

「・・・鈴、先程私は「目の前の試合に集中しろ」と言いましたが・・・ソレは無視して頂いて結構です事よ。」

 

 あくまで優し気にそう言うセシリアに対し、鈴音は控えめに反論する。

 

「・・・・・・いや・・・何言ってるのよ?アンタの言う通り、試合に集中するのは・・・当たり前だし・・・一夏だって、それを望んでるだろうし・・・。」

 

 すると今度は一変。語調を強めてセシリアは鈴音に問い掛ける。

 

「・・・・・・“貴女の望み”は、何ですの?」

 

「・・・アタシの?」

 

「ええ。何事にも気を遣わず、自由に戦ってみなさいな。一夏の事を考えるも良し、溜まった鬱憤を箒にぶつけるも良し。」

 

 セシリアがそう諭すと、鈴音は考え込む様に少しだけ俯く。そんな“我儘”が、試合中に許されるのかと。

 またも難しく考え込む鈴音に対し、セシリアは間を置いて再度口を開く。

 

「・・・鈴、貴女に「不自由」は似合いませんわ。・・・もっと「貪欲」で「我儘」で「自由」な貴女を見せて下さいまし。」

 

 セシリアの「その言葉」は、無理に慰めるものでもなければ、強要するものでもなかった。しかし、何処か「温かさ」を感じるそれは、自然と鈴音の脳内に定着していった。

 

ーーー・・・・・・フーン、良いんだ。()()()アタシで。

 

 

 

 

 

 同時刻。場面は変わって別のピット内。

 ラウラは、既に聴取を終えていた。聴取と言うよりも、「身体検査」と言った表現の方が正しいのかもしれない。その結果としても特に肉体的、精神的な異常は見られなかった。シュトラールの方も同様で、VTシステムはその役目を果たしたかの様に、綺麗サッパリ無くなっていた。

 聴取らしい聴取と言えば、精々「VTシステムが搭載されていた事実をラウラ自身知っていたのか」と言う事だけだった。無論、ラウラの答えは「NO」だ。

 

 当のラウラはと言うと、入念なストレッチを行っていた。彼はISスーツのまま脚を180°左右に開き、そのまま上半身全体をペタリと床に付ける。

 ラウラの身体の柔軟さに感心しながらも、箒は彼に声を掛けた。

 

「・・・なぁ、ボーデヴィッヒ。本当にシュトラールは大丈夫なのか?流石に、武装が1つも無いようでは・・・。」

 

 ラウラは、ストレッチを続けながら返答する。

 

「仕方無かろう。今のシュトラールは、拡張領域に武装を詰め込めないのだ。」

 

 今、シュトラールの拡張領域にはレールカノン、ワイヤーブレード、プラズマ手刀が詰め込まれている。しかし、これらはシュトラールのISコアによって拡張領域ごと「ロック」が掛けられており、ラウラ自身も使用出来ない常態なのだ。それは即ち、武装を取り出す事も、他の武装を捩じ込む事も出来ないと言う事だ。

 かと言って、シュトラール専用の「外付け武装」を短時間で作れる筈も無い。

 

 意地の悪い様に思えるシュトラールに対し、ラウラは自分なりに纏めた推測を述べる。

 

「他のアリーナは、2・3年生が明日以降の試合に備えて貸し切っている。このアリーナAも言わずもがな、本番中だ。シュトラールの慣らし運転は出来ない。」

 

 ラウラがまともに シュトラールを動かしたのは、一夏をブン殴ったあの一瞬だけだ。つまり、実質次の試合が「ぶっつけ本番」と言う事になる。

 

「要するに「慣れてもいない常態なんだから、他の武装は未だ使わない方が良いんじゃない?」と言う、シュトラールなりの気遣いだ。」

 

「・・・・・・気遣いと言うより、余計な「お節介」と言った方が正しいのではないか?」

 

 箒が呆れ気味にそう言うが、どうやらラウラの考えは違うらしい。

 

「どの道、私にとってもその方がシンプルで良い。それに、こいつの事を良く解らないまま、武装を選ぶのもナンセンスだ。」

 

「うむぅ・・・確かにそうも言えるが・・・。」

 

 何処か納得した様な、納得してない様な箒に対し、ラウラは少々ぶっきら棒に微笑み掛ける。

 

「なぁに、どうにかなる。」

 

 箒は、ラウラのそんな根拠無き言葉よりも、彼の表情に目を奪われてしまった。

 そこには今迄の、何処か不安気な、何処か空し気なモノは無く、大空を見つめる瞳は何処までも純粋で、そして美しかった。

 箒も又、彼と同じ様に大空を覗いてみる。当然、その時の自分が「どんな表情」をしているのかは箒には分からないが、感じたモノはラウラと一緒であった。

 

ーーー折角のバトルだ、楽しもう。

 

 あの大空の下に出てしまえば、やる事は皆同じ。力のぶつけ合いだ。その事実は、箒の頭中に発生している靄を晴らすには十分だった。

 

 

 

 

 

 フィールド上空にて、箒は葵を中段に構え、ラウラは左目を覆っているアイパッチを外す。後は開始のブザーを待つだけだ。

 そんな折、箒は鈴音からの鋭い「眼光」に気付く。

 しかし、残念ながら箒の狙いはブルー・ティアーズだ。重装甲高機動型にカスタマイズされた打鉄は、ティアーズの様な弾幕を張るタイプの方がやりやすい。ラウラも、打鉄がティアーズを狙う事は分かっている。

 

ヴーーーーーーーーーーーーッ

 

 ブザーと同時に、早速箒とラウラは各々の獲物に対して突っ込もうとする。がーーー

 

「ッ!?」

 

 先んじたセシリアの行動に、箒は思わずたじろぐ。

 何と、ビット6機全てを甲龍の護衛に付けたのだ。これでは、弾幕量の減ったティアーズを狙う意味が少なくなる。

 又、近接格闘型であるシュトラールがビット相手では不利だと判断した箒は、やむ無く狙いを甲龍へと変える。

 基本的に箒との連携攻撃はしないラウラも又、甲龍からティアーズに目標を変える。

 

ガギィィン!!

 

 打鉄の葵と甲龍の双天牙月が勢い良くぶつかり、そのまま鍔迫り合う両者。

 そんな常態で鈴音は「ニヤリ」とほくそ笑み、同時に全てのビットが再びティアーズの元へと戻って行く。

 

(ッ!おのれぇッ!!)

 

 再度ティアーズに向かいたい箒だが、位置的に甲龍がティアーズを背にしている。そんな常態で鍔迫り合っていては、そう易々とは動けない。

 

《引っ掛かったわね!?篠ノ之ッ!》

 

「貴様・・・!」

 

 箒にとっては、余り嬉しくない試合展開となってしまった。後はどうにか隙を突いてティアーズに突っ込むか、最悪甲龍を自力で倒すしかない。

 

 

 

 ラウラがシュトラールでまともに飛ぶのは、これが初めてだ。

 しかし、やるべき事は最初から決めていた。それは「疾く飛ぶ」事。瞬時加速と同じくらい、いやそれよりもっと疾く。白式を殴り抜けた時、ラウラは理解していた。己の「左目」が最も活きる、最高の「単一仕様(ワンオフ)」を。

 

ーーーーー単一仕様能力『ゴルトロム』発動。

 

 同時に、左目の瞳が黄金色に輝き出す。

 直後、観客はシュトラールの姿形を捉える事が出来なくなった。シュトラールの居た空間は次の瞬間には「過去の場所」となり、シュトラールの輪郭が生み出した無数の黒い線と黄金色の一本線を残した。

 

 

 セシリアは己の目を疑った。

 バイザー越しに映る「黒き小さなIS」は、瞬時加速を使った訳でもない。なのにそのISの速度は瞬時加速と同等かそれ以上、更には上下左右前後縦横無尽にフィールド内を駆け巡るのだ。

 しかし、高機動用バイザーを付けているセシリアは、どうにかシュトラールを目で追えていた。

 彼女はスラスターを無駄なく放出させながら相手との距離を一定に保ち、4機のビームビットを自身の周囲に展開させていた。

 ミサイルビットは、この試合に於いては使わないつもりの様だ。追尾能力があるとは言え、あの超機動を追えるとは思えないし、何より制御するビットが増えるだけだ。脳波でコントロールする以上、増えれば増える程ビットの動きは鈍くなる。

 

(・・・瞬時加速ではありませんわね。エネルギーの減りが少な過ぎるし、スラスターの勢いも無さ過ぎる。)

 

ーーー・・・・・・アレが単一仕様能力?

 

 少ないエネルギーでの「超音速機動」を可能にする能力、即ち「エネルギー変換効率の大幅な改良能力」なのではと、セシリアは予想する。

 

(未だこちらに攻撃を仕掛けて来ないのも、機体の動きに慣れる為・・・と言った所でしょうか。)

 

 だとしたら今が攻め時ではある。

 だが、ビットを誘い込んでいる様にも見える。あの超越的なスピードなら、不意を突いてビットを破壊する事は十分可能だ。若しくは、ビットに無駄撃ちをさせて、ビームを消耗させる狙いもあるのかもしれない。

 

 故にセシリアは、ビットを自身の周囲に配置し、牽制射撃に勤めた。

 

 

(相手はあのオルコットだ。恐らく此方の単一仕様能力にも既に勘付いているだろう。)

 

 ラウラはそんな予想を立てながら、ティアーズからの牽制射撃を躱していく。

 

(にしても、凄まじい弾幕だ・・・。本当に牽制射撃なのか疑いたくなるな。・・・・・・昭弘が警戒するのも頷ける。)

 

 牽制射撃と言っても、相手の銃口はアサルトモードのスターライトMkⅢとビームビット4機の計5門だ。例え実力者でも、これを突破出来る人間はそうざらには居ないだろう。

 ただし・・・。

 

(・・・良し。そろそろ『アレ』を試してみるか。)

 

 ラウラとシュトラールは例外だが。

 

 

 突如として此方に突っ込んで来るシュトラール。

 しかしセシリアは動じずに、ビット2機とスターライトMkⅢの3門から光線を放つ。

 シュトラールは身体を捻る様にソレらを躱し、ティアーズの下方を取ろうとする。

 シュトラールのそんな動きを先読みしていたセシリアは、残り2機のビームビットでシュトラールの軌道先を狙うがーーー

 

ーーーッ!!?

 

 流石のセシリアも、表情を激しく歪ませてしまった。何と、シュトラールが空間を“蹴った”のだ。そのままバネの様に上方へとジャンプしたシュトラールは、ティアーズに向けて足刀を勢い良く突き出す。

 

 これは端的に纏めると、『AIC』を超高速戦闘向きに応用したモノである。

 「手」若しくは「足」を進行方向に向けた状態で、手先足先だけが空間で停止する様にAICを発動させる。これにより、まるで空中で着地した様な挙動をISが取り、タイミング良くAICを解除する事で空間を蹴る事が出来るのだ。

 だが、これは超高速機動中における「PIC」の微調整が必要であり、超絶的な技量が要求される。

 

 余りの速さに迎撃する余裕等無いセシリアは、どうにか身体を反らす。直後、黒い装甲で覆われた足刀が、セシリアの眼前を下から横切って行く。

 

 

(オイオイ、今のを躱すか?)

 

 最善のタイミングで放った渾身の一撃。ソレを躱されたラウラは、改めてセシリアとティアーズの回避力に脱帽する。中距離戦で右に出る者が居ない彼女の強みは、そのズバ抜けた回避力にもある様だ。

 

(だが、これならどうかな!?)

 

 そうほくそ笑むラウラは、ティアーズの直上の空間に左手をつき、しゃがむ様に折り畳んだ左肘と右膝を思い切り突き伸ばす。それにより生み出される超音速の鋼踵(こうしょう)が、セシリアの頭頂部に迫る。

 

(いくら回避力に秀でていようと、こう言った「鋭角的な軌道」には慣れていまい!貰っ・・・ッ!?)

 

 しかしシュトラールの右踵は、ラウラが欲した「手応え」とは大分異なった。

 シュトラールの「動き」にもう対応し出していたセシリアは、連続して回避行動を取ったのだ。更には、ビームビットによるカウンター付きで。

 シュトラールの蹴りはティアーズの右腕装甲に命中したが、シュトラールも又ビットの放ったビームを浴びてしまう。

 

(・・・威力の低いビットからの光線だと言うのに、SEがゴッソリ持って行かれたか。予想はしていたが、シュトラールの防御力は壊滅的だな・・・。)

 

 見た目の通り、機動力と柔軟性に重きを置いているシュトラールは、拳部足部以外の装甲が極めて薄い。その分、通常のIS以上にSEの消費が激しいのだ。

 

 

(ッ!!何て威力ですの!?装甲で受けたと言うのに、このダメージ!?)

 

 

 互いが互いに直感した。「短期決戦」になると。

 

 

 

 一方、打鉄と甲龍の戦いは今の所拮抗していた。箒は甲龍からの度重なる斬撃を、どうにか葵と追加装甲で凌いでいく。

 そんな技の応酬の真っ只中、甲龍から「専用回線」で通信が入る。

 

《そう言や、アンタ結局どっちを選ぶのよ?》

 

「ッ!・・・何の真似だ凰。戦闘中に・・・。」

 

《質問に答えなさいよ。》

 

 箒は、その質問に何処となく心当たりがあった。更には、誰にも聞かれぬよう専用回線で問い質して来ると言う事は・・・。

 

「・・・確かに、私は昭弘と一夏の狭間で揺らいではいる。・・・ハッキリしない女だと、罵りたいなら好きにしろ。そんな心理攻撃で、私の剣技は揺るがない。」

 

 剣戟を続けながらも、箒はそう言い返した。

 その後も口八丁による挑発が来るのかと箒は身構えたが、鈴音の反応は予想と大分異なった。

 

《・・・・・・アタシね、そんなアンタが羨ましいのよ。》

 

「は?」

 

 “羨ましい”。一体自分の何処をそう感じたのかと、箒は忙しなく斬撃を繰り出しながら眉を潜める。

 

《羨ましいわよ。“一夏以外”を好きになれるアンタが・・・!「異なる恋」で悩めるアンタがっ!》

 

 鈴音が言葉を発するにつれ、双天牙月も又重々しく伸し掛かって来る。彼女の鬱憤を体現するかの様に。

 

《結局アタシにとって昭弘は、何処までも友達でしかなかったッ!!》

 

 鈴音にとって、一夏こそが異性の中での唯一無二。もし、自身の内に秘めた激情を、一夏が受け入れてくれなかったら・・・。それでも、彼女は一夏1人を愛し続ける事が出来るのだろうか。

 そんなジレンマを抱えた鈴音は限りなく苦しそうで、そして少し“誇らしげ”にも見えた。

 

《アンタも一夏の幼馴染なら解るでしょう!アタシの気持ちがッ!》

 

 箒にとってそんな鈴音は、例えるなら「研ぎ澄まされた刃」。

 どんな異性が現れても揺らぐ事の無い、余りにも真っ直ぐで哀しい程純粋な想いを秘めた彼女を、箒はつい尊敬してしまった。

 そして、鈴音が箒を羨む様に、箒もそんな鈴音を羨ましく思った。鈴音にとっての初恋は、もうその時点で「刃」が完成されていたのだ。その刃に一夏しか映らない程に。

 だからか、箒は次の言葉を吐き捨てずにはいられなかった。

 

「・・・まるで解らないな。貴様の気持ちなど。」

 

《何ですって!?》

 

「貴様だって解らないだろう。想い人が2人居る、私の苦痛が!」

 

《何処が苦痛だって言うのよ!?》

 

 2人の想いは、何処までも平行線を辿っていた。それを知った箒は、まるで諦めた様に言葉を返す。

 

「もう十分だろう凰。衝撃砲を使え!!」

 

 箒は、鈴音が意識的に衝撃砲の使用を避けている事に気付いていた。

 

《・・・いいえ。()()()()()にとっては、このスタイルが一番しっくり来るわ!》

 

 実際、重装甲である箒の打鉄に対しては、衝撃砲よりも双天牙月の方がSEを削り安いのだ。白式と同じ道理である。

 

 

 

 フィールドのもう半分では、追うシュトラール、逃げるティアーズと言う構図が出来上がっていた。

 シュトラールは鋭角軌道と曲線軌道を組み合わせながら、ティアーズに迫る。ティアーズはそんなシュトラールを近付けさせまいと、出来るだけ広範囲にビームをばら蒔き続ける。

 その内の2発がシュトラールに命中し、SEを大きく削り取る。しかし、ティアーズの方もーーー

 

(ビームの残量は、ビット、ライフル合わせて残り僅か。シュトラールのSEを削り切るには、足りませんわね・・・。)

 

 小型且つ超音速、そして予測が難しいシュトラールの軌道は、流石のセシリアでも命中させるのに難儀していた。その必然として、 ビームの消費も激しくなる。

 

ーーー・・・致し方がありませんわね。

 

 打開策を思い付いたセシリアは、中空に静止したまま、ビームビット4機に意識の全てを集中させる。途端、ビットたちは荒れ狂う様にティアーズの周囲を旋回し始める。

 

 

(何だ?ビットの動きが・・・速い!?)

 

 ラウラの瞳には、露出部を覆う様に身を丸めて、防御体勢を取るティアーズの姿が映った。その周囲には、砲身を「外側」に向けながら旋回する4機のビットがあった。

 ラウラはセシリアが取ったその行動だけで、直ぐ様彼女の考えを読み取る。

 

(・・・こちらの攻撃を誘っているのか。ビーム省力の為とは言え、大胆なマネを・・・。)

 

 確かに、相手が近ければ近い程、飛道具の命中精度は高まる。だが、それは同時に己の身も危険に晒す事になる。

 

(強みである回避力を捨ててまでビームを当てに来るか。・・・面白い。どの道私とシュトラールには、殴るか蹴るかの二択しかない。やる事は変わらん!)

 

 

 セシリアの予想通り、シュトラールは彼女を包囲する様に「電光石火」の如く飛翔する。その軌道は宛ら「音速のピンボール」を彷彿とさせる。恐らく、どのタイミングで打撃をデリバリーするのか伺っているのだろう。

 ビームビットは、一発撃つと多少のリロード時間が必要になる。よって、4機同時にビームを発射するのは避けたい所だろう。その事を念頭に置きながら、セシリアは唯々待つ。シュトラールからの攻撃の瞬間を。

 

 そして、「その瞬間」はあっさりと訪れる事になる。がーーー

 

ーーー止まった!!?

 

 シュトラールの予想外過ぎる行動に、セシリアの反応は僅かに遅れてしまう。

 正確には、シュトラールは止まった訳ではない。そのまま足刀で突撃するのではなく、ティアーズの直近で“空間を踏んだ”のだ。

 そして、セシリアの予測結果が再度頭中に現れる。

 

(来奴ッ!「この一撃」で決める気ですか!?)

 

 本来打撃とは、地面を蹴る事で威力を増幅させるもの。左足で空間を踏みしめ、それによって生まれた「力」を右脚へと送り届けたシュトラールの蹴りは、最早今迄の比ではない。ラウラ自身も、ビームを食らう前提でこの攻撃手段に出ている。シュトラールのSEがギリギリ持つと踏んだのだろう。

 

 刹那、セシリアは考える。

 

ーーーどうする?ビット4機による一斉射撃に出るか?しかしその後、こんな至近距離でスターライトMkⅢが間に合うのか・・・!?

 

 セシリアの下した決断はーーー

 

ーーーえぇいッ!!「当てれる時」に全部当てるッ!!!

 

 

 直後、シュトラールの足刀がセシリアの背部に減り込むと同時に、ビットが放った4本のエネルギー体も又シュトラールに全弾命中する。

 

ーーーーーブルー・ティアーズ SE残量1.3%

ーーーーーシュバルツェア・シュトラール SE残量3.8%

 

 余りの膂力に、ティアーズは大きく前方へ吹っ飛ばされる。

 ギリギリ仕留め損ねたシュトラールは、最後の一撃を加えるべく、超音速でティアーズに追い縋る。ここで仕留めておかないと、ビット4機のリロードが間に合ってしまい、猛反撃を受けて終わりだ。

 吹っ飛ばされた事で、自身とシュトラールとの間に距離が生まれたティアーズは、身体を反転させながら即座にスターライトMkⅢを構えようとする。

 アサルトモード時特有の短銃身がシュトラールを捉えた時には、既にシュトラールの左爪先がセシリアの間合いに入ろうとしていた。もし通常時の長銃身であったら、近すぎて銃口を向けられなかったであろう。

 セシリアは冷静にビームの着弾予測点を見極め、引き金を握る。

 

 目を見開き、奥歯を激しく噛み締めるセシリア。鋭い眼を更に釣り上げ、歯を剥き出しながら口を大きく開けるラウラ。

 

 そして、黒鋼の脚と黄緑色の熱線が交差し、両者の眼前に迫る。タッグマッチに於いては公平性の為、先にSEの尽きたISが自動停止するよう設定されている。

 先に「動きを止めた」のはーーー

 

 

《シュバルツェア・シュトラール!SEエンプティ!!》

 

 セシリアは、バイザーの手前でピタリと静止する、シュトラールの爪先を冷汗混じりで凝視する。

 

(・・・・・・生まれて初めてですわ。この私が、近接格闘メインのISに、これ程まで追い詰められる等・・・。)

 

 射撃兵装による弾幕と近接格闘、どちらが有利なのかは語るに及ばずだろう。ましてやセシリアクラスの実力者が相手となると、近接格闘で勝つ事は不可能に等しい。

 だのにこの僅差である。セシリアは思わず肩の力が抜けてしまう。

 

 数秒程経ち、漸くシュトラールを動かせる様になったラウラは、左脚を静かに下ろす。

 

《「あの時」のリベンジをと思ったんだがな・・・。流石だ、セシリア・オルコット。さぁ、私のパートナーを撃ち伏せに行くがいい。》

 

 しかし、セシリアは今も尚剣を振るい続ける両者を見詰めながら、ラウラの提案を却下する。

 

「・・・そうしたい所ですが、色んな意味で私の割り込む余地がございませんわ。」

 

 そんな、何処か満足気な笑みを見せるセシリアに習い、ラウラも箒たちの「戦い」に目を向ける。

 

《・・・成程。貴様の判断は合理的ではないが、間違ってもいない。どの道、敗者である私に口出しをする権利はない。》

 

 勝者であるセシリアが、箒と鈴音の戦いを見届けたいと言っているのだ。なればこそ敗者であるラウラは、その言葉に従うまで。

 

 

 

 躍動的に双天牙月を振るう甲龍に対し、打鉄は一閃一閃無駄なく葵を振り抜いて行く。迫る双剣を受け流し、弾き返し、そして時に装甲を利用しながらやり過ごす箒。

 

ーーー強い筈・・・!アタシの“想い”の方が・・・強い筈ッ!

 

 箒に芽生えた「もう1つの恋」を羨む反面、自身の「一途な恋」の優位性をも欲すると言う矛盾。だが、いくら箒を羨んだ所で、一夏以上の恋愛対象が2度と現れない事も、鈴音自身良く解っていた。

 だからこそ、彼女は箒に対して証明しなければならないのだ。自分こそが、一夏を一番愛しているのだと言う事を。その証明手段が、ISによる真っ向からの斬り合いと言うのは、鈴音らしいと言えば鈴音らしいのかもしれないが。

 

 

 両者共スラスター等をほぼ使わずに、只管剣戟だけで互いのSEを削り合っていた。しかし、性格から戦闘スタイルまで何もかも正反対な2人だと言うのに、不思議な程拮抗は崩れない。

 その様はまるで、「歪んだ鏡」に自身を写しているかの様だった。動きは全く異なるのに、“何か”が似ているのだ。

 

ガギィィィンッ!!!

 

 剣戟の最中、両者の思考が偶然にも一致したからか、1本の剣と2本の双剣が真正面から激突する。「ギリリ」と言った金属音が脳内を掻き毟る中、箒は鈴音の瞳を見据える。

 

ーーー・・・・・・腹立たしい程に、綺麗で真っ直ぐな瞳だな。

 

 「この瞳」に比べて、迷いを抱えた自分の瞳は一体どれ程不安定で弱々しいのかと、思わず目を反らしたくなってしまう箒。そんな事、箒を見据えている鈴音にしか分からない。

 

 

 鍔迫り合いの最中、鈴音の視界は箒の瞳を中心に捉えていた。

 

ーーー・・・・・・何でよ。迷っている癖に、どうしてそんな「強い眼差し」か出来るのよ!?

 

 「この瞳」に比べて、自分の瞳は一体どれ程狭く卑しく曇っているのかと、鈴音は思わず歯を食い縛る。そんな事、鈴音を見据えている箒にしか分からない。

 

 

 お互い、そんな自身への不満をぶつける様に、鍔迫り合ったままスラスターを爆発させる。それにより、互いの剣は益々けたたましい悲鳴を上げる。しかし、互いのスラスターの出力が一致しているからか、双方ビクとも動かない。

 

===ならば・・・!

 

 2人が「ソレ」を思い付くのも、実行に移すのもほぼ同時だった。

 

鍔迫り合ったままでの瞬時加速。

 

ダァオオォォォォォォォォォゥンッ!!!!

 

 余りに無謀、無鉄砲、大胆不敵。

 本来SEとは、IS本体のエネルギーを源に稼働している。エネルギーが減ればそれに比例してSEも減少していく。則ち、瞬時加速の様な「エネルギーを多量に消費する行動」は、SEの大幅な減少に繋がるのだ。

 その瞬時加速同士でぶつかり合っている為、SEは二重の要因で更に減少していく。

 

 それだけの圧力を互いに掛け合っていて尚、2機のISは中空に静止したままだ。背部・脚部夫々のスラスターから放出される青白いエネルギー体により、鍔迫り合う2機を真横から観た光景は宛ら“1匹の蝶”を彷彿とさせた。

 

 

 しかし、互いのSE残量が10%を切った時、唐突に「終わり」が訪れるーーー

 

 

 

バギンッ!!

 

 

 

 IS2機分の全開出力。例えIS用に拵えた機械刀だろうと、そんな圧力にいつまでも耐えられる事はなかった。そして、甲龍が持つ極太の双天牙月、打鉄が持つ細身の葵。割れたのは、言うまでも無く後者であった。

 そして、支えていたものが無くなった結果、両者は瞬時加速のまますれ違うしかない。箒は折れた葵に気を取られながら、鈴音はそのまま双天牙月を打鉄の装甲に滑り込ませながら。

 

 直後、打鉄は動きをピタリと止め、勢いの余った甲龍は区画シールドに激突する。

 

 

 

《打鉄!SEエンプティ!!勝者、オルコット・凰ペア!!》

 

 

 

 アナウンスが鳴り響いて5秒程経過した後、会場全体から拍手喝采が止めどなく溢れ出す。

 区画シールドによってそんな歓声等聞こえない鈴音は、未だに折れた葵を見つめる箒に目を遣る。鈴音の表情は、何処か納得しきれていない様であった。

 

 そんな鈴音に、ティアーズがゆっくりと近付いて来る。

 

《勝てましたわね、鈴。・・・あんなキレの良い貴女の剣技は、私も初めて見ましたわ。》

 

「・・・・・・ううん、あんなんじゃ駄目。確かに、試合には勝てたけど、気持ちでは完全に負けてた。」

 

 「あの鍔迫り合い」の後にこの台詞である。「自分では分からないと言うのは末恐ろしいものだ」と、セシリアは良くも悪くも大いに呆れ返ってしまう。

 

《・・・全く、本当に強情なのですから。貴女も箒も・・・。》

 

「はぁ?どういう意味よソレ。」

 

《いえ?ただ、貴女と箒、やっぱり“何処か似ている”と思いましたの。》

 

 セシリアの爆弾発言を聞いた鈴音は、激しく憤る。

 

「はぁ!!?アタシがあんな「根暗女」と似ているですってェ!?」

 

 “いつも通り”の鈴音に戻った事を確認したセシリアは、「クスリ」と小さく笑った。

 

 

 

 折れた葵は、正に箒の「敗北」そのものを象徴しているかの様だった。

 今の彼女を支配している感情は「焦り」。それはまるで、周囲が高みに登り詰める中、自分だけが後方へと取り残されている状況に似ていた。

 

(・・・・・・何がいけないと言うのだ・・・。やはり、私にも「専用機」が必要なのだろうか?いや抑々、私如きに専用機を乗り回す資格があるのか・・・?)

 

 「鈴音に負けた」と言う現実は、どんどん彼女の思考をマイナス方面へと引っ張って行く。

 そんな箒を見かねたラウラは、脇から軽く肘打ちをかます。

 

「!」

 

《いつまでもウジウジするな。貴様がどれ程凰を羨もうと、“無い”ものは“無い”のだ。》

 

 厳しい現実を容赦なく突き付けるラウラに対し、箒は悪態を付く。

 

「・・・流石は、「持っている人間」は言う事が違・・・!」

 

 箒の発言を遮ったものは、彼女の視界が捉えたラウラの「震える両拳」であった。

 

《・・・悔しいのは、貴様だけではない!》

 

 当然である。誰だって「勝ちたい」に決まっている、「負けたくない」に決まっている。そんな、人間なら誰しも抱いている当たり前の感情を思い起こし、箒は黙って俯く。

 

《難しく考えるな。「もう悔しい思いはしたくない」、それだけ考えれば良い。》

 

《・・・兎も角戻るぞ。予備SEがそろそろ心許ない。》

 

「・・・・・・・・・ああ。」

 

 箒は力無く頷き、ラウラに続いた。

 

 

 鈴音が羨む程の「2つの最愛」を持つ箒。

 彼女は、この2つの内どちらかを選び抜く「強さ」を手に入れる事が出来るのだろうか。

 それとも、最愛を2つ持っているからこそ、箒は強くなれるのだろうか。




昭弘から見て一番一途なのは箒、けどその箒から見て一番一途なのは鈴音と言うね。・・・と言うかまさかの昭弘未登場。
新しくカスタマイズされた衝撃砲に関しては、決勝戦で御披露目したいと思います。

PICの内容は確かこんな感じだった筈・・・です。
シュトラールの単一仕様能力とかその名前とか考えるのに、滅茶苦茶時間を削がれました。AICを上手く文章で絡めるのも、中々厳しかったです。
改めてイズル氏の凄さを感じさせられました。

最後に、気がついたらUAが50000を超えててビックリ仰天しました。お気に入り登録者数もまさかの300超え・・・。
これも皆さんのご愛読のお陰です。本当にありがとうございます!今度はUA100000を目指せるよう、より一層努力しようと思います。

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