IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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 毎度の事ながらテンポ悪すぎで泣きたくなる。描写したい内容が多すぎて・・・。
 残り2、3話くらいでこのガバガバトーナメント編も終わりますんで、皆さんどうか耐えて下さい。是非、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。


第28話 エネミーフィールド

ーーーーー西暦20??年?月?日(?)ーーーーー

 

 ごく普通の家庭に、ごく普通の少女が居た。

 普通の学校に通い、友人の数も普通、そしてISの教育も人並みに受けていた。特徴らしい特徴と言えば、スポーツ観戦も含めた“スポーツ全般”が好きと言った所だろうか。

 

 そんな彼女にも、「好きな人」がちゃんと居た。

 

 液晶テレビが絶え間なく垂れ流す映像の一つに、「その人」はいた。

 何処か浮世離れしている様な凛とした顔立ち。黒く煌びやかな髪。そして人の心を見透かしてしまう程の、透き通った瞳。

 当時未だ幼かった少女は、「その人」を見る時の感情の正体が、良く解らなかった。確かな事は、度々テレビに映る奇麗な「その人」を観るのが好きだった、と言う事だけ。

 

 時が流れ、その感情が「恋」だと知った頃には、「その人」の正体にも行き着いていた。世界最強の兵器「IS」。それを使った競技で、文字通り“頂”となった人。

 

 「その人」の存在により、“夢”も無くただ何となく生きていた彼女は、初めて「目標と呼べるモノ」を見出す。

 手の届く筈の無い“天上の人”。少しでも、「その人」の近くに居たい。そして願わくば、一度だけで良いから「その人」に会いたい。更なる我儘が許されるのなら、「その人」にーーー告白したいーーー。

 

 以来、彼女は我武者羅に努力した。才能無き自身を憎みながらも。

 「その人」が居る場所「IS学園」へ入学する為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー6月3日(金) 13:11 アリーナAピット内ーーーーー

 

 Aブロック対Bブロックの準決勝が行われた後は、言わずもがな今度はCブロック対Dブロックの準決勝戦が始まる。昭弘と谷本の出番と言う訳だ。

 そんな中、整備科の先輩方は淡々とラファールリヴァイブの機体チェックを済ませていく。その搭乗者である谷本が、ベンチに腰掛けながら何処か神妙な面持ちをしているので、気になった昭弘は計らずしも声を掛ける。

 

「・・・どうした?緊張するか?」

 

「まぁ、準決勝だし、するっちゃあしますけど・・・それより、まさか“あの2人”がここまで勝ち上がって来るのが、意外過ぎて・・・。」

 

 当然、先刻の簪たちの試合を観ている昭弘と谷本は、“例の量産機コンビ”が誰なのか把握している。しかも、その内1人はまさかの整備科志望者だ。

 

「・・・事実は事実だ。織斑センセイの言っていた事が、そのまま現実になったって事だろう。」

 

 昭弘の言葉に頷きつつも、谷本は神妙さを維持したまま言葉を続ける。

 

「・・・作戦、どうしましょうか?アル兄も、例の「猛獣みたいになるヤツ」使えないんですよね?」

 

 今大会における量産機最大の“強み”は、試合試合において武装を変更する事が出来ると言う点だ。だからか、昭弘も谷本も相手がどんな手段に出るか読みあぐねていた。

 又、試合や模擬戦等に使われるISには、「競技用リミッター」の設置が義務付けられている。しかしグシオンの『マッドビースト』は、発動時にそのリミッターも解除されてしまう為、使用自体が禁止されている。

 

(・・・どの道、件の『マッドビースト擬き』は、決勝戦まで使うつもりはねぇ。・・・間違いなく、オルコットや凰はこの試合を観ている。)

 

 「奥の手」は最後まで隠しておくと言う事だろう。

 

「・・・いつも通りで進めるしかないだろう。後は状況次第だ。」

 

「・・・リョーカイ。」

 

 昭弘が2機同時に相手取り、谷本がそれを援護する。そのやり方が、彼等の言う「いつも通り」であった。

 

 

 

 時間は瞬く間に過ぎ去り、フィールド上空には3機のISと1機のMPS。

 

《癒子ーーーッ!!アルトランドさーーーんッ!!ほんじゃまぁ宜しくゥ!!》

 

 気さくに声を掛けて来るのは、打鉄の搭乗者である『相川清香』だ。相変わらず元気そうに右手を振っている。

 

《決勝には行かせて貰いますよ~?》

 

 相川に合わせる様に、ラファールリヴァイブを操っている『鏡ナギ』も、遠くから昭弘たちに声を掛ける。

 

 改めて、昭弘と谷本は思った。まさか準決勝戦でこの顔ブレが出揃う事になろうとは、と。

 そんな感慨に浸る時間も短く、昭弘は2人が付けている「黒いゴーグル」に着目する。

 

(・・・アレじゃあ「試合中にスタングレネードを使うよ」と、相手に教えている様なもんだ。・・・恐らく、此方を近付かせない為のブラフだな。)

 

 スタングレネードの有効範囲は、半径にして凡そ15m。それが来ると分かっているのなら、普通は距離を置く。それこそが相手の狙いと見た昭弘は、谷本に専用回線を開き、指示を出す。

 

「谷本、相手のゴーグルに気を取られるな。普段通りで良い。それと、案の定打鉄は『葵』を取っ払っている様だ。他の武装を警戒しろ。」

 

《了解!》

 

 そうして、4人共心の準備が完了した所で、お馴染みのブザーが試合開始の合図を告げる。

 

ヴーーーーーーーーーーーーーーッ!!!

 

 

 開始早々、昭弘と谷本は「トラップ」を設置しにグラウンドへと向かう鏡ラファールに迫る。がーーー

 

ヒュゥンッ!!!

 

 グシオンリベイクと谷本ラファールの手前辺りに、打鉄から「謎の豪速球」が飛んでくる。その距離100m以上。

 それが「スタングレネード」だと気付いたのは、視界が真っ白に染まった正にその瞬間であった。

 

===ッ!!

 

 IS・MPSを纏っていても、人間である以上「その光」を網膜に焼き付けてしまえば、身体の自由は奪われる。

 

(相川の奴・・・!初っ端からブン投げやがったッ!!)

 

 自身の予想が大きく外れ、面食らう昭弘。

 それはそうだろう。不意を突いて「ポイ」と投げ捨てたり、山形に投げ込むならまだ解る。だが、出端からISの怪力に任せて、スタングレネードを100m先の相手に真っ直ぐ投擲する等、誰に予想出来ようか。

 前屈みに身体を丸める2機に対し、打鉄は急接近して容赦なく「火花」を降らせる。その右手にはグシオンに向けたコンバット・ショットガン『AA ー12』が、左手には谷本ラファールに向けた『焔備』が握られていた。

 

ダァォ ダァォ ダァォ ダァォ ダァォ ダァォ ダァォ ダァォ!!!

 

ダダゥン!ダダダダダダダダダダダダゥゥン!!!

 

 絶え間無き散弾が、グシオンのSEをゴッソリとかっ拐う。更には、両手に携えていたビームミニガンと滑腔砲も、其々破壊されてしまう。ラファールもグシオン程ではないが、SEを削られる。

 そして、駄目押しと言わんばかりに“最後の一投”が放たれる。

 

ボンッ!

 

 発煙手榴弾だ。黒色の煙が、グシオンとラファールを瞬く間に覆い尽くす。

 ISのハイパーセンサーには、機体の位置情報補足機能が備わっている。敵機や僚機を見失っても。凡その居場所は特定可能だ。

 しかし、あくまで“凡そ”だ。正確な位置までは把握できない。その影響は、銃弾の命中精度にも如実に現れる。

 

《あわわわわわ!今度は煙幕!?》

 

 急激なる閃光からの、急激なる暗黒。度重なる視界への負担に、谷本は軽いパニック状態に陥る。

 

「落ち着け!先ずは煙幕から脱出するぞ!!」

 

 素早く指示を出す昭弘だが、もう遅い。昭弘たちは相川と鏡の術中に嵌まってしまったのだ。

 

バシュバシュバシュバシュバシュゥッッ!!!

 

 煙幕を脱出する前に、鏡ラファールがグラウンド中に仕掛けたばかりの発煙装置を作動させ、フィールド中が黒煙に包まれる。

 

 

 

(ヘヘーン、こっちからはよぉーく見えるよぉ~?実はこのゴーグル、「暗視装置」にも早変わり出来るんだよね~~。)

 

 黒煙の中で、相川は得意げにせせら笑う。

 通常、暗視装置で煙を透過する事は出来ない。しかし、現代における透過能力の優れた暗視装置ならば、ハイパーセンサーと併用させる事で像をハッキリ捉える事が可能だ。

 

「ナギっち。そっちの状況はどう?」

 

《今大急ぎで設置してるよー。いつも通り、スイッチで自由自在に爆破可能ー。多分コレで、あの2人は()()()()()()()()()()()筈。》

 

 元々整備科志望である鏡は、基本的にこうした「トラップ仕掛け」や相川のサポートに徹する事が殆どだ。射撃武装も、一部を覗いて保有していない。

 

 順調に作戦が進んでいる事を確認出来た相川は、浮かべた笑みをそのままにAA-12を下方のグシオンに向ける。

 

 

 

《アル兄ィ!一旦フィールド端に行きましょう!!此処じゃあ何がどうなってるのか判りません!!》

 

「いや!駄目だ!」

 

 込み上げるパニックを抑えながら谷本が提案するが、昭弘はソレを却下する。

 

「・・・鏡のまるでフィールド中を周回する様な動き、レーダーでも見ただろう?・・・恐らく、区画シールドに爆弾を張り巡らせている。」

 

《え?・・・いや、けど流石に、広大なシールド全体に張り巡らせる量の爆弾、いくらラファールの拡張領域でも無理じゃ・・・。》

 

 谷本の疑問に、昭弘は周囲を警戒しながら答える。

 

「・・・今時の爆弾なんざ、いくらでも小型化できるさ。爆発範囲をそのままにな。」

 

《そんな・・・。》

 

 そのまま昭弘は、声にドスを含ませながら言葉を続ける。

 

「・・・覚悟するしかねぇ谷本。もう、このフィールド自体が“敵”だ。」

 

「兎も角、区画シールドに接近し過ぎない程度に動き回るぞ!これじゃあ良い的だ!」

 

《ハイッ!じゃあ先ずは、2機係でナギっちから仕留めましょう!》

 

 そう互いに言い聞かせ、2人はハイパーセンサーの位置情報とレーダーを頼りに、鏡を狙うが・・・。

 

(クソッ!当たらねぇ!!・・・凡その位置情報だけじゃ、動く的を狙い撃つには無理があるか・・・。)

 

 そんな悪状況に更なる追い打ちをかけるが如く、AA-12の吐き出す散弾がグシオンとラファールに降り注ぐ。連続で襲い掛かるソレは、もう1つのビームミニガンをも損傷させる。

 それを目の当たりにした2人は、急遽武装を拡張領域に収納する。これで、昭弘の射撃武装は滑腔砲1丁のみとなった。

 

(・・・もう射撃武器は使えねぇ。出せば散弾に食われるだけだ。・・・近接格闘も、この視界じゃあ空しく宙を斬るだけだろう。)

 

 時間経過によって黒煙が晴れたとしても、それまで打鉄からの猛攻にグシオンのSEが耐えられるとも、昭弘には思えなかった。

 

(・・・不本意ではあるが、こっちも小細工に走るしかない様だな。)

 

 直後、グシオンの背部ユニットと腰部シールドが青白い粒子へと変わり、グシオン全体を覆い尽くす。次の瞬間には、分厚い装甲に覆われた深緑色のグシオンがその姿を現す。

 

「谷本ッ!オレの背後ヘ回れ!!」

 

《え!?・・・ア、ハイ!!》

 

 今の所打開策を思い付いてない谷本は、無我夢中でラファールを動かす。

 

ーーーこうなったらこっちのSEが尽きるか、向こうが弾薬切れになるかだ!!

 

 

 

(・・・・・・へぇ、そう来るかぁ。)

 

 フィールド上方からグシオンと谷本ラファールを狙う相川は、ゴーグル越しに表情を曇らせる。そうなった切っ掛けは、やはり重装甲のグシオンにある様だ。

 

(「攻撃が当たらない」「機動力も意味を成さない」。だから「攻撃力も機動力も捨てて、防御に徹する」か。アルトランドさんらしいや。)

 

 このまま何もせずに時間が経てば、自然と煙幕も晴れる。そうなれば、フィールドはグシオンの独壇場となってしまうだろう。

 

 相川は専用回線をグシオンへと繋ぎ、言葉による「心理攻撃」を仕掛ける。

 

「アルトランドさーん。いくら装甲を厚くしたって、煙幕が晴れた頃にはSEなんて枯渇寸前ですよー?そーゆーの“焼け石に水”って言うんじゃありませんでしたっけ?」

 

《・・・》

 

 しかし、昭弘からの返答は無かった。

 

「・・・私、アナタたちの様な「専用機持ち」、前々からいけ好かなかったんですよね。・・・まぁアナタは違うか。」

 

《?》

 

 それは果たして「挑発」なのだろうか。その割には声のトーンが重々しい様に、昭弘には感じられた。

 

「ま、今の言葉を単なる「挑発」と取るか、私の「本心」と取るかはアナタのご自由に。と言うか、出来れば忘れて下さい。」

 

 その言葉を最後に、相川は専用回線の相手を再び鏡に戻す。

 

「ナギっち!ちょっと早いけど“仕上げ”に入るよ!!」

 

《了解!フィールドの天辺まで上がるね!》

 

 鏡に指示を飛ばした後、相川は「御望みとあらば」と言わんばかりに、グシオンに大量の銃弾を浴びせ始める。

 

 先ずは焔備を構え、引き金を引き続ける。弾が切れたら、リロードして同じ事を繰り返す。そうしてマガジンも含めた焔備の弾薬が費えた所で、相川はグシオンのSE残量を確認する。

 

(うわ、ちょこっと削れた程度かな?)

 

 今度は、IS用重機関銃『ヴィッカースISM』を構え、焔備と同様に弾薬を全て使い切る。

 そして最後に、AA-12の残弾とマガジンを全て使い果たす。これで、打鉄の中で残弾の有る武装は、護身用のサブマシンガン『イングラムM11』のみとなった。

 

(・・・これでグシオンのSE残量は、30%強って所かな。多分、ギリギリ“アレ”で削り取れる・・・筈。)

 

 自身の予想を信じて、相川はフィールドの天辺にて“ソレ”を持つ鏡ラファールの元へと向かう。

 

「ナギっち。出来ればグシオンに直撃させて欲しいんだけど・・・どう?行けそう?」

 

 不安気に訊ねる相川に対し、鏡は語調に自身を込めて答える。

 

《大丈夫!当てるって!》

 

 その言葉を聞いて、顔を綻ばせる相川。

 それを「投下の合図」と判断した鏡は、両手で持っていた特大サイズの“ソレ”を手放す。

 

 恐らく、「この一撃」で決まる。決勝に進むペアが。・・・そして、相川のーーー

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーー5月某日 放課後ーーーーー

 

 今にも小雨が降ってきそうな、どんよりとした放課後の廊下。千冬は何度も呼吸に溜め息を織り交ぜながら、「目的の場所」へと重たい脚を運ばせる。

 

放課後、校舎裏で待ってます。

 

 そんな手紙にも劣るメモ紙を読むのも、今年に入ってもう6回目だ。教師である以上、断る事等最初から分かり切っている、生徒からの「愛の告白」。千冬を悩ませるのは、それをどう「角を立てずに断るか」と言う事であった。

 多忙な身分である彼女だ。そんな紙切れ無視しても良い筈だが、誰が送り付けて来たのかは一応把握しておきたいらしい。そう言う所はやはり「教師」の様だ。

 

 

 そうして、あっと言う間に校舎裏へと辿り着いた千冬。そこには、千冬を見た途端赤面しながら動揺する、1人の女子生徒が。

 しかし、千冬も時間が惜しい。相手の様子に構う事なく、用件を聞き出す。

 

「こんな所に呼び出して、何の用だ『相川』。」

 

 そう訊ねてくる千冬に、相川はモジモジとしながら無意味に髪を弄る。緊張の余り、声が出ないのだろうか。

 しかし意を決したのか、相川は両手を強く握り締め、自身の気持ちを言葉に表す。

 

「あ、あのっ!織斑先生!・・・タッグトーナメントで優勝したら、“何でも”欲しいモノを貰えるんですよね?」

 

 告白かと身構えていた千冬は、ソレを聞いて思わずズッこけそうになる。「そんな事を訊く為に態々?」と。しかし、秒で気を取り直して「生徒からの質問」に答える。

 

「・・・そうだ。限度はあるがな。」

 

 「限度」と言う単語を聞いた相川は、数秒程表情を曇らせる。しかし、ここから“先”を伝えなければ、勇気を振り絞って千冬を呼び出した意味がない。だから彼女は「伝える」。

 

「その・・・あ、あの・・・えと・・・・・・もし、私が優勝したら・・・私と付き合って下さい!!・・・なーんて。」

 

 言い切った後、「言ってしまった」と彼女は瞳を潤わせながら、握っていた両手を所在無さげに後ろで組む。

 

 結局、愛の告白・・・どころではない。「~出来たら付き合って」と言う要求・約束事であった。それをどの様に捉えるのかは、千冬自身なのだが。

 どの道、「教育者」である以上、千冬はこの約束を断らなければならない。

 

「・・・」

 

 千冬は無言のまま、彼女の目を見る。

 千冬の目を恐れながらも健気に見つめ返してくる彼女を見て、千冬は相川の「大会への本気度」を再確認した。

 動機はどうあれ、それ程強い意欲を持った生徒を冷たくあしらう事等、千冬には出来なかった。それ故に考えた「折衝案」を、千冬は彼女に言い渡す。

 

「・・・ハァ、「1日デート券」で我慢しとけ。」

 

 それを聞いた彼女は「パァッ」と表情を輝かせ、千冬に深く一礼した後その場を去って行った。

 

(・・・堕ちたものだな、私も。)

 

 相川の意欲を削がない為とは言え、自分を餌に彼女を駆り立てた事に対し、千冬は少なからず嫌悪感を示した。

 がしかし、それと同時に相川がどれ程成長するのか楽しみな千冬も、確かに存在した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 重装甲のまま腕を前面にクロスさせながら、昭弘は上空の2機を見やる。

 

(・・・良し、もうこれで打鉄は凡そ弾切れだろう。鏡のラファールに至っては、抑々射撃武装を殆ど積んでいない筈だ。)

 

 そんな昭弘の予想に反して、鏡ラファールが「何か」を手放す。ソレは此方に向かって、重力に従いながら落下してくる。

 だがどの道、避けるまでもないのだろう。例えSE残量が40%を切っていようと、この重装甲なら“余程の攻撃じゃない限り”十分防ぎきれる。

 

 

 “余程の攻撃”じゃなければだが。

 

 

 

コォン!

 

 巨大なソレがグシオンに触れた瞬間ーーー

 

ドォォッガァァォォォォォゥンッッ!!!!!

 

 衝撃波に従いながら、火炎がフィールド全体を一瞬で覆い尽くした。

 それを目の当たりにした観客は叫ぶ事すら出来ず、ただ目を見開き、口を丸く開け、一瞬で炎化粧が施されたフィールドを凝視する事しか出居なかった。

 

 

 

 航空機搭載型のUGB(無誘導爆弾)『Mk.84』。それの炸裂による爆風は打鉄と鏡ラファールの元まで届き、互いのSEが僅かに削れる。爆発地点からは、優に200mは離れていようか。

 その爆風は煙幕を一瞬で消し飛ばし、代わりに爆発によって生じた粉塵が再度フィールドを満たしていく。

 

 そして、相川の待ち望んだアナウンスが、フィールドに響き渡る。

 

《グシオン!SEエンプティ!!》

 

 それが聞けて、ホッと胸を撫で下ろす相川と鏡。

 

 しかし、直ぐに()()()()()()()()()()()に気付く。グシオンの僚機であるもう1機の名前、そして「勝者」と言う単語も未だ聞けていない。それが何を意味するのか、先に鏡が通信越しに答える。

 

《清香、気を付けて!癒子のラファールは健在!しかも・・・あー不味い。そう言や癒子のラファールは武装を何一つ失ってない!!》

 

 対して、葵を外している打鉄の残武装は、サブマシンガン『イングラムM11』1丁。鏡ラファールは、護身用の『グロック18C』1丁しか持ち合わせていない。

 しかし、相川はあくまで冷静に支持を下す。

 

「ダイジョブ!この粉塵が煙幕代わりになる!それに、さっきナギっちが仕掛けた爆弾も、まだ何個かは生きてる筈!」

 

 その言葉を皮切りに、2機はギリギリの戦いにその身を投じていく。

 

 

 

 谷本は気付いていた。昭弘は自ら楯となる事で、谷本に全てを託したのだ。

 それは即ち、昭弘にとって谷本は最早「単なる随伴機」ではないと言う事を意味していた。たった1機取り残されたとしても、その苦境を打破する事の出来る実力、頭脳、そして更なる「伸びしろ」を、昭弘は見抜いていた。

 

ーーーけど、出来るのだろうか。代表候補生でもない、ごく普通の一生徒である自分なんぞに。

 

 未だ自分を信じられない谷本に、昭弘から最後の通信が届く。

 

《・・・一つ助言だ、谷本。・・・・・・お前は“強い”。だから「勝つビジョン」だけ見据えろ。》

 

 そう言い残した後、グシオンはピットへと戻って行く。たったそれだけであったが、今の谷本にとってはこれ以上無い程的確な“助言”であった。

 

「・・・ありがとう、アル兄。やってみますよ。」

 

 先ず谷本は、粉塵の比較的少ない地表付近へと移動する。そこで動き回りながら、自身と相手の状況を整理していく。

 

(相手のSEは両機ともほぼ満タン、おまけに暗視装置付き。対してこっちのSE残量は、凡そ30%。)

 

(打鉄とラファールの拡張領域を鑑みると、多分もう相手の武装は護身用の拳銃かサブマシンガンくらいしか無い筈。・・・射程と火力、残弾数ならこちらに分が有る。)

 

(区画シールドに張り巡らされた爆弾も、未だ健在・・・の可能性が高いよね。)

 

 どの道、視界的には谷本が不利だ。向こうからはラファールの姿形がハッキリと見えている。

 そこで谷本は、先ずこの邪魔な粉塵を蹴散らす事にする。

 

(・・・頼むよ?レッグブースター。)

 

 そう念じ、谷本は全スラスターと脚部の追加ブースターを吹かしながら、粉塵に突っ込んでは脱出してを繰り返していく。時折相手側が放ってくる小弾丸を食らおうと、一切気にせずに同じ事を反復する。

 そうして、まるでラファールの軌道に巻き込まれるかの様に、粉塵が薄くなって来た時だった。

 

ーーーッ!見えた!!

 

 微かに輪郭の見えた鏡ラファールに対し、谷本は左手に持った『ブローニングXM2020』の12.7mm弾をお見舞いする。

 

 

 

 谷本ラファールによって、フィールド上方に固まっていた粉塵を全体に分散されてしまった相川と鏡。

 

《清香!私が癒子を引き付けている内に、早く!》

 

「分かってるって!」

 

 戦闘全般が苦手な鏡は、グロックをチョクチョクと連射しながら谷本の目を引いていた。

 そんな谷本ラファールに、相川はM11を向けながら突っ込む。

 

「ツッ!!!」

 

 しかし、谷本が右手に出現させたアサルトライフル『FN F2000』が、打鉄に対して火を噴く。

 M11の有効射程50m前後に対し、F2000の有効射程は500mだ。距離を取られれば、とても撃ち合いでは敵わない。

 

「ナギっち!今度は私が癒子を区画シールドに追い遣ってみる!アンタはタイミング見て起爆して!」

 

《わかった!》

 

 相川は谷本がフィールド端に移動する様仕掛けるが、谷本は相当区画シールドを警戒しているのか、軌道を変えようとしない。

 そうこうしている間にも、打鉄と鏡ラファールのSEはどんどん減って行く。堅牢な打鉄でさえもだ。

 

(・・・駄目!どんなに接近しても、当たらない!!)

 

 火力だけではない。脚部に追加ブースターを付けた谷本ラファールは、M11の乱射等まるで意に介さない程、高速かつ複雑にフィールド中を飛翔して行く。否、追加ブースターを抜きにしても、異常な機動性を谷本は見せていた。その機動を見ただけで、一体どれ程彼女が努力してきたのか、嫌でも相川は理解してしまう。

 そして遂にーーー

 

《!・・・ゴメン、清香。弾切れ・・・。》

 

「!?」

 

 その通信の後、再びアナウンスが響き渡る。

 

《ラファール「鏡機」!SEエンプティ!!》

 

 好機を逃さなかった谷本ラファールの猛攻に、鏡ラファールは耐えられなかった様だ。

 

 少しづつ、じわじわと、相川の背後に「敗北」と言う名の死神が近づいて来る。

 しかし、それでも相川は諦めきれなかった。

 ある程度薄くなってしまった粉塵と煙幕をどうにか「隠れ蓑」に使いながら、打鉄は尚もラファールに追いすがる。

 

 だが、「死神の魔の手」は遂に相川の肩にその手を掛ける。

 M11の残弾数が、遂に残り1発となってしまったのだ。対するラファールのSE残量は、未だに11%。これではどの道仕留めきれないと、相川は嫌でも悟ってしまう。

 

(・・・・・・未だッ!良く狙って「絶対防御」を発動させれば・・・ッ!!)

 

 相川はラファールからの銃口に気付き、思考を中断して反射的にM11の銃口を向け返す。その距離は40mも無い。恐らく、確実に仕留める為に敢えて向こうから接近してきたのだろう。

 2機は互いに静止したまま動かない。相川の場合、動いた所で撃たれて終わりだと解っているからだろうか。谷本の場合、絶対防御さえ気を付ければ、最早動く必要すらないからだろうか。

 そんな中、先に相川が引き金ではなく口を開く。

 

「・・・・・・残酷・・・だよね癒子。結局、IS乗りとしての優劣はISの稼働時間、機体の性能、そして適性・・・。そう言う人たちだけ“頂”に手が届いて、それ以外の人たちは“頂”に振り向いてすら貰えない。」

 

 相川の言う通りだ。結局それらを持たない者は、“この手あの手”に頼るしかない。相川の様に。

 それを理解していて尚、谷本は言葉を返す。

 

《・・・清香、私「この大会」を通じて、気付いた事があるの。・・・私、最初はアル兄の“おまけ”と割り切ってたんだ。「居ないよりはマシ」程度に。》

 

《けど、実際はそんなに甘くなかった。皆、私が「弱いから」って、私を先に落とそうと躍起でさ。逆も勿論あったよ?アル兄ばかり狙うタッグとか。そう言う相手を「攪乱しろ!」って、アル兄から無茶言われたり。》

 

《そしてこの試合で、漸く気付いたの。私は“おまけじゃない”と言う事に。それを教えてくれたのは、アル兄と・・・清香とナギっちだよ。》

 

《だからさ・・・そんな事、言わないでよ。届かない頂なんて・・・そんなの、この世の何処にもないよ!》

 

 今準決勝(この場)量産機(自分たち)が戦っている事自体、相川の言う「理不尽な道理」から大きく外れているのだ。

 その事に気付いたのか、それとも薄々感づいていたのか、相川は少しだけ笑った。

 

 直後、2人は同時に引き金を引いた。

 

ドゥルンッ!!!

 

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダゥンッ!!!!!

 

ーーー嗚呼、負ける。「あの人」が遠退いていく。後少しで、届くと思ったんだけどなぁ・・・。

 

 

 

《打鉄!SEエンプティ!!勝者、アルトランド・谷本ペア!!》

 

 

 

 クタクタになりながらピットに舞い戻って来た谷本。「兎も角水分が欲しい」と、彼女はさっさと打鉄から降りる。

 そんな彼女に、昭弘が特大サイズのスポーツ飲料を渡して来る。

 

「・・・あざっす。」

 

 谷本はそう一言だけ添えると、両手でそれを鷲掴みにして冷え冷えの液体を喉の奥に流し込む。その間に、昭弘も又一言だけ呟く。

 

「・・・良くぞ勝ってくれた。・・・そんだけだ。」

 

 谷本は一旦口を離した後、謙虚な言葉を以て返す。

 

「・・・アル兄の作戦あってこそですよ。・・・てか、いよいよですね。」

 

 谷本の言葉に、昭弘は強く頷く。

 

「ああ、「いよいよ」だ。」

 

 勝利の余韻に浸っている場合などではない。次の試合こそが“肝”なのだから。

 「奴」の顔を、「奴」のISを思い出す度、昭弘は握り拳が震えてしまう。

 

(・・・戦場ですら、滅多に震えなかったオレが・・・こうまで堪えるとはな。)

 

 それは恐らく、「恐怖」と同時に襲い掛かる「昂ぶり」「武者震い」が、彼をそうさせているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 もう一つのピットでは、女子生徒の泣き声が響き渡っていた。

 整備科生の邪魔にならない程度に、千冬はその「泣き声」の主を懸命に探す。

 すると、隅っこで鏡に慰められながら、周囲を一切気にせずに泣き崩れる相川の姿があった。瞼や鼻から流れ出る透明な液体が、彼女の顔を醜く仕立て上げていた。

 

 そんな彼女に対し、千冬は近づいて片膝を突き、次の言葉を優しく贈り届けた。

 

「・・・良く頑張った。・・・・・・本当に・・・本当に良く頑張った。」

 

 その本心を言葉にすると、彼女は増々泣き崩れ、千冬の胸に飛び込む。それ以上の言葉が見つからない千冬は、泣き止まない彼女を優しく撫でる事しか出来なかった。




チフキヨと言う誰得すぎるカップリングでした。・・・と言うか主人公何人居るんですかねこのSS。

映画のエクスペンダブルズで「AA-12」を目の当たりにした時の衝撃は、今でも忘れられません。あの音すき。


さて、次回はとうとう昭弘とセシリアによる因縁の対決が始まります。前半後半に分けるかもです。
皆さんはどちらのタッグが勝つと思いますか?



追記:説明不足なシーンがあったので、ほんの少しだけ描写を追加しておきました。

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