IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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 毎度の事ながらテンポ悪すぎで泣きたくなる。描写したい内容が多すぎて・・・。
 残り2、3話くらいでこのガバガバトーナメント編も終わりますんで、皆さんどうか耐えて下さい。是非、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。


第28話 エネミーフィールド

―――――西暦20??年?月?日(?)―――――

 

 ごく普通の家庭に、ごく普通の少女が居た。

 

 普通の学校に通い、友人の数も普通、そしてISの教育も人並みに受けていた。

 特徴らしい特徴と言えば、スポーツ観戦も含めたスポーツ全般が好きと言った所だろうか。

 

 そんな彼女にも「好きな人」がちゃんと居た。

 

 液晶テレビが絶え間なく垂れ流す映像の一つに「その人」はいた。

 何処か浮世離れしている様な凛とした顔立ち。黒く煌びやかな髪。そして人の心を見透かしてしまう程の、透き通った瞳。

 当時未だ幼かった少女は、その人を見る時の感情の正体が良く解らなかった。確かな事は度々テレビに映る奇麗なその人を観るのが好きだった、と言う事だけ。

 

 

 時が流れ、その感情が「恋」だと知った頃にはその人の正体にも行き着いていた。世界最強の兵器IS。それを使った競技で、文字通り頂となった人。

 

 その人の存在により、夢も無くただ何となく生きていた彼女は初めて目標と呼べるモノを見出す。

 手の届く筈の無い天上の人。少しでもその人の近くに居たい。

 そして願わくば、一度だけで良いからその人に会いたい。更なる我儘が許されるのなら、その人に告白したい。

 

 以来、彼女は我武者羅に努力した。才能無き自身を憎みながらも。

 

 その人が居る場所「IS学園」へ入学する為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――6月3日(金) 13:11 アリーナAピット内―――――

 

 整備科の先輩方が、呼吸の如くラファールリヴァイブの機体チェックを済ませていく。

 

 その搭乗者である谷本がベンチに腰掛けながら何処か神妙な面持ちをしているので、気になった昭弘は計らずしも声を掛ける。

 

「…準決勝で緊張するか?」

 

「それもありますけど…“あの2人”が勝ち上がって来るのが意外過ぎて…」

 

 当然、先刻の簪たちの試合を観ている昭弘と谷本は、例の量産機コンビが誰なのか把握している。昭弘ですら予想外の2人だ。

 

「織斑センセイの言っていた事がそのまま現実になった…か」

 

 昭弘の言葉に頷きつつも、谷本は神妙さを維持したまま問いに移行する。

 

「作戦どうしましょうか?例の「猛獣みたいになるヤツ」使えないんですよね?」

 

 今大会における量産機最大の強みは、試合試合において武装を変更出来る点だ。だからか、昭弘も谷本も相手がどんな手段に出るか読みあぐねていた。

 又、試合や模擬戦等に使われるISには「競技用リミッター」の設置が義務付けられている。マッドビーストは発動時にそのリミッターも解除されてしまう為、使用自体が禁止されている。

 

(…どの道『マッドビースト擬き』は決勝戦まで使うつもりはねぇ。間違いなくオルコットや凰はこの試合を観ている)

 

 奥の手は最後まで隠しておくと言う事だろう。情報ほど頼りになる味方と厄介な敵はいない。

 

「いつも通りで進めるしかない。後は状況次第だ」

 

 昭弘が2機同時に相手取り、谷本がそれを援護する。そのやり方が彼等の言う「いつも通り」であった。

 

 

 

 時間は過ぎ去り、場面はフィールド上空へ。

 

《癒子ーッ!アルトランドさーんッ!宜しくゥ!》

 

 気さくに声を掛けて来るのは、打鉄の搭乗者である相川清香だ。相変わらず元気そうに右手を振っている。

 相川に合わせる様に、ラファールを操っている鏡ナギも遠くから昭弘たちに手を振る。

 

 改めて昭弘と谷本は思った。まさか準決勝戦でこの顔ブレが出揃う事になろうとは、と。

 失礼ながら、2人は相川と鏡を侮っていたのだ。トーナメントまで登り詰める事はないと。

 

 そんな感慨に浸る時間も短く、昭弘は2人が付けている黒いゴーグルに着目する。

 アレでは「試合中にスタングレネードを使うよ」と教えている様なものだ。

 

(此方を近付かせない為のブラフだな)

 

 スタングレネードの有効範囲は、半径にして凡そ15m。それが来ると分かっているのなら、普通は距離を置く。

 それこそが相手の狙いと見た昭弘は、谷本に専用回線を開き指示を出す。

 

「ゴーグルに気を取られるな。普段通りで良い」

 

《了解!》

 

 そうして4人共心の準備が完了した所で、お馴染みのブザーが試合開始の合図を告げる。

 

ヴーーーーーーーーーーッ!!!

 

 開始早々、昭弘と谷本はトラップを設置しにグラウンドへと向かう鏡に迫る。

 

ヒュゥンッ!!

 

 グシオンリベイクと谷本ラファールの手前辺りに、打鉄から謎の豪速球が飛んでくる。その距離100m以上。

 それがスタングレネードだと気付いたのは、視界が真っ白に染まった正にその瞬間であった。

 

 IS・MPSを纏っていても、人間である以上その光を網膜に焼き付けてしまえば身体の自由は奪われる。

 

(初っ端からブン投げやがったッ!)

 

 予想が大きく外れ、面食らう昭弘。

 

 それはそうだろう。不意を突いて投げ捨てたり、山形に投げ込むならまだ解る。

 いくら相川がハンドボール部とは言え、出端からISの怪力に任せてスタングレネードを100m先の相手に真っ直ぐ投擲する等、誰に予想出来ようか。

 

 前屈みに身体を丸める2機に対し、打鉄は急接近して容赦なく火花を降らせる。

 その右手にはグシオンに向けたコンバット・ショットガン『AA ー12』が、左手には谷本ラファールに向けた『焔備』が握られていた。

 

ダァォ ダァォ ダァォ ダァォ ダァォ ダァォ ダァォ ダァォ!!!

 

ダダゥン!ダダダダダダダダダダダダゥゥン!!!

 

 絶え間無き散弾が、グシオンのSEを奪う。更には両手に携えていたビームミニガンと滑腔砲も、其々破壊されてしまう。

 ラファールもSEを削られる。

 

 そして駄目押しと言わんばかりに最後の一投が放たれる。

 

ボンッ!

 

 発煙手榴弾だ。黒色の煙が、グシオンとラファールを瞬く間に覆い尽くす。

 

 ISのハイパーセンサーには、機体の位置情報補足機能が備わっている。敵機や僚機を見失っても凡その居場所は特定可能。

 しかしあくまで凡そだ。正確な位置までは把握できない。その影響は、銃弾の命中精度にも如実に現れる。

 

《今度は煙幕!?》

 

 閃光から暗黒へ急激に移り変わる視界。谷本は軽いパニック状態に陥る。

 

「落ち着け!先ずは煙幕から脱出だ」

 

 素早く指示を出す昭弘だがもう遅い。昭弘たちは相川と鏡の術中に嵌まってしまった。

 

バシュバシュバシュバシュゥッッ!!!

 

 鏡がグラウンド中に仕掛けたばかりの発煙装置を作動させ、フィールド中が黒煙に包まれる。

 

 

 

(このゴーグル、暗視装置にも早変わり出来るんだよね~)

 

 黒煙の中で相川は得意げにせせら笑う。

 

 通常、暗視装置で煙を透過する事は出来ない。

 しかし現代における透過能力の優れた暗視装置ならば、ハイパーセンサーと併用させる事で像をハッキリ捉える事が可能だ。

 

「ナギっち」

 

《今大急ぎで設置してるよー。スイッチで自由自在に爆破可能ー。多分コレであの2人はフィールド端に行けない筈》

 

 元々整備科志望である鏡は、基本的にこうしたトラップ仕掛けや相川のサポートに徹する事が殆どだ。射撃武装も、一部を覗いて保有していない。

 

 

 

 込み上げるパニックを抑えながら谷本がフィールド端に行くよう提案するが、昭弘はソレを却下する。鏡のフィールド中を周回する様な動きは、レーダーでも確認済みだ。

 

「恐らく区画シールドに爆弾を張り巡らせている」

 

《けど流石に広大なシールド全体に張り巡らせる量の爆弾、いくらラファールの拡張領域でも…》

 

「今時の爆弾なんざ、いくらでも小型化できるさ。爆発範囲をそのままにな」

 

《そんな…》

 

 己の楽観が外れ、谷本に絶望が這い寄る。

 

 覚悟を決めるしかない。もうこのフィールド自体が敵なのだ。

 

 兎も角、区画シールドに接近し過ぎない程度に動き回るしかない。これでは良い的だ。

 狙いも先ずは鏡に絞る。これ以上トラップを仕掛けられては敵わない。

 

 2人はハイパーセンサーの位置情報とレーダーを頼りに鏡を狙うが、やはり当たらない。

 凡その位置情報だけでは、動く的を狙い撃つには無理がある。

 

 そんな悪状況に更なる追い打ちをかけるが如く、AA-12の吐き出す散弾がグシオンとラファールに降り注ぐ。連続で襲い掛かるソレは、もう1つのビームミニガンをも損傷させる。

 2人は急遽武装を拡張領域に収納する。これで昭弘の射撃武装は滑腔砲1丁のみ。

 

 もう射撃武器は使えない。出せば散弾に食われる。近接格闘も、この視界じゃ空しく宙を切るだけ。

 時間経過によって黒煙が晴れたとしても、それまで打鉄からの猛攻にグシオンのSEが耐えられるか怪しい。

 

(こっちも小細工に走るしかないな)

 

 直後、グシオンの背部ユニットと腰部シールドが青白い粒子へと変わり、グシオン全体を覆い尽くす。

 次の瞬間には、分厚い装甲に覆われた深緑色のグシオンがその姿を現す。

 

「谷本、オレの背後ヘ回れ!」

 

《え!?ア、ハイ!》

 

 今の所打開策が思い付かない谷本は、無我夢中でラファールを動かす。

 

 

 

 フィールド上方からグシオンとラファールを狙う相川は、ゴーグル越しに表情を曇らせる。そうなった原因は重装甲のグシオンにある。

 

(攻撃が当たらない、機動力も意味無し。だから攻撃力も機動力も捨てて防御に徹する、か)

 

 このまま何もせず時間が経てば煙幕も晴れる。そうなれば、フィールドはグシオンの独壇場となってしまう。

 

 相川は専用回線をグシオンへと繋ぎ、言葉による心理攻撃を仕掛ける。

 

「装甲厚くしたって煙幕が晴れた頃にはSEなんて枯渇寸前ですよー?そーゆーの焼け石に水って言うんじゃありません?」

 

 しかし昭弘からの返答は無かった。見え見えの揺さぶりでは、昭弘の地中深くまで固定された精神は微動だにしない。

 

「…私、アナタたちの様な「専用機持ち」、前々からいけ好かなかったんですよね」

 

《?》

 

 それは果たして挑発なのだろうか。その割には声のトーンが重々しい様に、昭弘には感じられた。

 

「今の言葉を挑発と取るか私の本心と取るかはご自由に。と言うか出来れば忘れて下さい」

 

 その言葉を最後に、相川は専用回線の相手を再び鏡に戻す。

 

「ちょっと早いけど仕上げに入るよ!!」

 

《了解!フィールドの天辺まで上がるね!》

 

 鏡に指示を飛ばした後、相川は御望みとあらばと言わんばかりにグシオンに大量の銃弾を浴びせ始める。

 

 先ずは焔備。弾が切れたらリロードして同じ事を繰り返す。

 そうしてマガジンも含めた焔備の弾薬が費えた所で今度はIS用重機関銃『ヴィッカースISM』を構え、焔備と同様に弾薬を全て使い切る。

 最後に、AA-12の残弾とマガジンを全て使い果たす。

 

 これで打鉄の中で残弾の有る武装は、護身用のサブマシンガン『イングラムM11』のみ。

 

(グシオンのSE残量は30%強。ギリギリ“アレ”で削り取れる)

 

 自身の予想を信じて、相川はフィールドの天辺にて“ソレ”を抱える鏡の元へと向かう。

 

「ナギっち。出来ればグシオンに直撃させて欲しいんだけど…」

 

 不安気に訊ねる相川に対し、鏡は表情を自信に満たして強く頷く。

 

 そして鏡は、両手で持っていた特大サイズのソレを手放す。

 

 

 

 

 

―――

 

―――――5月某日 放課後―――――

 

 今にも小雨が降ってきそうな、どんよりとした放課後の廊下。

 

 千冬は何度も呼吸に溜め息を織り交ぜながら、目的の場所へと重たい脚を運ばせる。

 

放課後、校舎裏で待ってます。

 

 そんな手紙にも劣るメモ紙を読むのも、今年に入ってもう6回目だ。

 教師である以上、断る事等最初から分かり切っている生徒からの「愛の告白」。千冬を悩ませるのは、それをどう角を立てずに断るかであった。

 

 多忙な身分である彼女だ。そんな紙切れ無視しても良い筈だが、誰が送り付けて来たのかは一応把握しておきたいらしい。

 そう言う所はやはり教師だ。

 

 

 そうして校舎裏に辿り着いた千冬。こう言う行きたくない時、慣れた道のりが異常に短く感じる。

 

 そこには、千冬を見た途端赤面しながら動揺する1人の女子生徒が。

 しかし千冬も時間が惜しい。相手の様子に構う事なく用件を聞き出す。

 

「…何の用だ『相川』」

 

 そう訊ねてくる千冬に、相川はらしくもなくモジモジしながら無意味に髪を弄る。緊張の余り、声が出ないのだろうか。

 しかし意を決したのか相川は両手を強く握り締め、自身の気持ちを言葉に表す。

 

「あ、あのっ!…タッグトーナメントで優勝したら、何でも欲しいモノ貰えるんですよね?」

 

「…限度はあるがな」

 

 「限度」と言う単語を聞いた相川は、数秒程表情を曇らせる。しかしここから先を伝えなければ、勇気を振り絞って千冬を呼び出した意味がない。

 だから彼女は伝える。

 

「その…あ、あの…えと……もし私が優勝したら…私と付き合って下さい!…なーんて」

 

 言い切った後「言ってしまった」と彼女は瞳を潤わせながら、握っていた両手を所在無さげに後ろで組む。

 

 愛の告白どころではない。「~出来たら付き合って」と言う要求・約束事であった。それをどの様に捉えるのかは、千冬自身なのだが。

 どの道「教育者」である以上、千冬はこの約束を断らねばならない。

 

「…」

 

 千冬は無言のまま、彼女の目を見る。

 

 千冬の目を恐れながらも健気に見つめ返してくる彼女を見て、千冬は相川の大会への本気度を再確認した。動機はどうあれそれ程強い意欲を持った生徒を冷たくあしらう事等、千冬には出来ない。

 それ故に考えた折衝案を、千冬は彼女に言い渡す。

 

「…1日デート券で我慢しとけ」

 

 それを聞いた彼女はパァッと表情を輝かせ、千冬に深く一礼した後その場を去って行った。

 

(堕ちたものだな私も)

 

 相川の意欲を削がない為とは言え、自分を餌に彼女を駆り立てた事に対し、千冬は嫌悪感を示した。

 同時に、相川がどれ程成長するのか楽しみな千冬も確かに存在した。

 

―――

 

 

 

 

 

 腕を前面にクロスさせながら、昭弘は上空の2機を見やる。

 

 もうこれで打鉄は凡そ弾切れだろう。鏡ラファールに至っては、抑々射撃武装を殆ど積んでいない筈。

 

 そんな昭弘の予想に反して、鏡ラファールが「何か」を手放す。ソレは此方に向かって、重力に従いながら落下してくる。

 どの道避けるまでもない。例えSE残量が40%を切っていようと、この重装甲なら余程の攻撃じゃない限り十分防ぎきれる。

 

 

 “余程の攻撃”じゃなければだが。

 

 

 

コォン!

 

 巨大なソレがグシオンに触れた瞬間―――

 

ドォォッガァァォォォォォゥンッッ!!!!!

 

 衝撃波に従いながら、火炎がフィールド全体を一瞬で覆い尽くした。

 

 それを目の当たりにした観客は叫ぶ事すら出来ず、ただ目を見開き口を丸く開け、一瞬で炎化粧が施されたフィールドを凝視する事しか出来なかった。

 

 

 

 航空機搭載型のUGB(無誘導爆弾)『Mk.84』。

 それの炸裂による爆風は打鉄と鏡ラファールの元まで届き、互いのSEが僅かに削れる。爆発地点から優に200mは離れていようか。

 その爆風は煙幕を一瞬で消し飛ばし、代わりに爆発によって生じた粉塵が再度フィールドを満たしていく。

 

《グシオン!SEエンプティ!!》

 

 それが聞けて、ホッと胸を撫で下ろす相川と鏡。

 

 しかし、直ぐに一言足りないアナウンスに気付く。

 グシオンの僚機であるもう1機の名前。それが何を意味するのか、先に鏡が通信越しに答える。

 

《清香、気を付けて!癒子のラファールはSE以外全部健在!》

 

 対して葵を外している打鉄の残武装は、サブマシンガン『イングラムM11』1丁。鏡ラファールは、護身用の『グロック18C』1丁しか持ち合わせていない。

 

 しかし、相川はあくまで冷静に支持を下す。先の一撃でグシオン諸共仕留め切れなかったのは痛いが、想定の範囲内だ。

 

「この粉塵が煙幕代わりになる!それにさっきナギっちが仕掛けた爆弾もまだまだ生きてる」

 

 その言葉を皮切りに、2機はギリギリの戦いにその身を投じていく。

 

 

 

 当たる直前、組んでいた両手両足を広げたグシオン。それにより谷本への爆風が更に遮られ、ラファールのSEはどうにか持ち堪えるに至った。

 

 谷本は気付いていた。昭弘は自ら楯となる事で彼女に全てを託したのだ。

 それは即ち、昭弘にとって谷本は最早単なる随伴機ではない事を意味していた。

 たった1機取り残されたとしても、その苦境を打破する事の出来る実力、頭脳、そして更なる伸びしろを昭弘は見抜いていた。

 

―――けど出来るのだろうか。代表候補生でもないごく普通の一生徒である自分なんぞに

 

 自分を信じられない谷本に、昭弘から通信が届く。

 

《谷本、お前は強い。だから勝つビジョンだけ見据えろ》

 

 そう言い残した後、グシオンはピットへと戻って行く。

 

 たったそれだけであったが、今の谷本にとってはこれ以上無い程的確な助言であった。

 

「…ありがとうアル兄。やってみせます」

 

 先ず谷本は、粉塵の比較的少ない地表付近へと移動。

 そこで動き回りながら、状況を整理していく。

 

 相手のSEは両機共ほぼ満タン、おまけに暗視装置付き。対して此方のSE残量は30%以下。

 打鉄とラファールの拡張領域を鑑みると、相手の武装は護身用のサブマシンガンくらいしか無い筈。火力なら此方に分が有る。

 区画シールドに張り巡らされた爆弾も、未だ健在の可能性が高い。

 

 どの道、視界的には谷本が不利だ。向こうからはラファールの姿形がハッキリと見えている。

 そこで谷本は、先ずこの邪魔な粉塵を蹴散らす。

 

 彼女は全スラスターと脚部の追加ブースターを吹かしながら、粉塵に突っ込んでは脱出してを繰り返していく。

 

 時折相手が放ってくる小弾丸を食らおうと、一切気にせずに同じ事を反復する。

 

 そうしてまるでラファールの軌道に巻き込まれるかの様に、粉塵が薄くなった時だった。

 

―――見えた!

 

 微かに輪郭の見えた鏡ラファールに対し、谷本は左手に持った『ブローニングXM2020』の12.7mm弾をお見舞いする。

 

 

 

 戦闘全般が苦手な鏡は、グロックをチョクチョクと連射しながら谷本の目を引いていた。

 そんな谷本に、相川はM11を向けながら突っ込む。

 

「ツッ!」

 

 しかし、谷本が右手に出現させたアサルトライフル『FN F2000』が打鉄に対して火を噴く。

 M11の有効射程50m前後に対し、F2000の有効射程は500m。距離を取られれば、とても撃ち合いでは敵わない。

 

 更に相川は指示を飛ばす。

 

「今度は私が癒子を区画シールドに追い遣ってみる!タイミング見て起爆して!」

 

《わかった!》

 

 相川は谷本がフィールド端に移動する様あらゆる角度から接近しては撃ち殴り蹴り突進するが、谷本は軌道を大きく変えようとしない。

 

 そうこうしている間にも、打鉄と鏡ラファールのSEはどんどん減って行く。

 

 火力だけではない。追加ブースターを抜きにしても、高度な機動性を谷本は見せていた。相川がどうにか食らいついて行ける程の。

 その機動を見ただけで一体どれ程彼女が努力してきたのか、嫌でも相川は理解してしまう。

 そして遂に―――

 

《ゴメン清香。弾切れ…》

 

 その通信の後、再びアナウンスが響き渡る。

 

《ラファール鏡機!SEエンプティ!!》

 

 好機を逃さなかった谷本の猛攻に、鏡は耐えられなかった。

 

 少しずつ、じわじわと、相川の背後に敗北と言う名の死神が近づいて来る。

 

 しかし、それでも相川は諦めなかった。

 未だ残っている粉塵と煙幕の濃い部分をどうにか隠れ蓑に使いながら、打鉄は尚もラファールに追いすがる。

 

 だが、死神の魔の手は遂に相川の肩にその手を掛ける。M11の残弾数が、遂に残り1発となってしまったのだ。

 対するラファールのSE残量は、未だに11%。これではどの道仕留めきれないと、相川は嫌でも悟ってしまう。

 

(まだッ!良く狙って「絶対防御」を発動させれば―――)

 

 相川はラファールからの銃口に気付き、思考を中断して反射的にM11の銃口を向け返す。その距離は40mも無い。確実に仕留める為に敢えて向こうから接近してきたのだろう。

 

 2機は互いに静止したまま動かない。

 相川の場合、動いた所で撃たれて終わりだと解っているから。

 谷本の場合、絶対防御さえ気を付ければ最早動く必要すらないから。

 

 

 そんな中、先に相川が引き金ではなく口を開く。諦観に侵食されながらも、諦観から逃げようと足掻く様に。

 

「…残酷…だよね癒子。結局IS乗りとしての優劣は稼働時間、機体の性能、そして適性。そう言う「持ってる」人たちだけ頂に手が届いて、それ以外の人たちは頂に振り向いてすら貰えない」

 

 結局それらを持たない者は、この手あの手に頼るしかない。相川の様に。

 

 まるで谷本に訴えかける様な共感を求める様な、相川の心からの声。ここで「そうだね」と頷く事が、彼女の望みなのだろう。

 だが谷本は彼女に同意する訳にいかない。同じ持たざる者として。

 

《…清香、私ね…最初はアル兄のおまけと割り切ってたんだ。居ないよりはマシ程度に》

《けど実際はそんな甘くなかった。皆私が弱いからって、私を先に落とそうと躍起でさ。逆もあったよ?アル兄ばかり狙うタッグとか。そう言う相手を「攪乱しろ!」って無茶言われたり》

 

 それは一見、相川と同じ様な嘆きに聞こえるが、次の力強い言葉が丸々全てを飲み込んだ。

 

《そしてこの試合で漸く気付いた。私はおまけじゃないって。それを教えてくれたのはアル兄と…清香とナギっちだよ》

《だからさ…そんな事言わないでよ。届かない頂なんて…この世の何処にも無いよ》

 

 届かない頂きは無い…甘い言葉だ。現に相川は今回、頂きに届かないではないか。千冬に触れられないではないか。

 

 それでも相川は、量産機を纏いし谷本の言葉を聞いて小さく笑った。

 弱者である相川の意志が今、同じく弱者である谷本に継承された様な気がしたからだ。

 

 

 直後、2人は同時に引き金を引いた。

 

ドゥルンッ!!!

 

ダダダダダダダダダゥンッ!!!

 

―――嗚呼、負ける。「あの人」が遠退いていく。後少しで届くと思ったんだけどなぁ

 

 

 

《打鉄!SEエンプティ!!勝者、アルトランド・谷本ペア!!》

 

 

 

 

 

 ピットでは、一人であろう女子生徒の泣き声が響き渡っていた。

 

 整備科生の邪魔にならない程度に、千冬はその泣き声の主を懸命に探す。

 

 すると隅っこで鏡に慰められながら、周囲を一切気にせずに泣き崩れる相川の姿があった。瞼や鼻から流れ出る透明な液体が、彼女の顔を醜く仕立て上げていた。

 

 そんな彼女に対し千冬は近づいて片膝を突き、次の言葉を優しく贈り届けた。

 

「良く頑張った。……本当に良く頑張った」

 

 

 その本心を言葉にすると相川は増々泣き崩れ、千冬の胸に飛び込む。

 

 

 それ以上の言葉が見つからない千冬は、泣き止まない彼女を優しく撫でる事しか出来なかった。




チフキヨと言う誰得すぎるカップリング。

映画のエクスペンダブルズで「AA-12」を目の当たりにした時の衝撃は、今でも忘れられません。あの音すき。


さて、次回はとうとう昭弘とセシリアによる因縁の対決が始まります。前半後半に分けるかもです。
皆さんはどちらのタッグが勝つと思いますか?



追記:説明不足なシーンがあったので、ほんの少しだけ描写を追加しておきました。

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