IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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前話にて細かい所に「抜け」がありましたので、少し修正を加えておきました。

それとすみません。今回、殆ど会話ばっかです。
次回は確実に戦闘回になるとして・・・・・・・・・決勝戦、次回で終わるといいなぁ・・・(遠い目)


第29話 蛮人と貴人は表裏一体

 昭弘と谷本は決勝戦に備えて最終調整を行っていた…訳ではなく、出店が無数に並んでいる通りで小休止を挟んでいた。

 

 万全の状態で決勝に挑む為、少しでも心身に残る疲労を取り払っておきたいのだ。

 そう言う訳で昭弘も谷本もぐでーんと椅子に凭れ掛かっており、空を眺めながらソフトドリンクを飲んでいた。

 

「怖くないのか谷本。凰もオルコット程ではないにしろ十分化物だぞ」

 

 そんな2人と同じテーブルには、もう試合なんて控えてない故気楽そうなラウラと箒も居た。

 ラウラの問いに対し谷本は少しだけ考えた後、つらつらと答え始める。

 

「…甘い敵なんて居ないよ。一々怖がってたらキリないし」

 

 最早今の谷本には、代表候補生と一般生徒の明確な違いが判らなくなっていた。武器を手にした時点で、どの相手も等しく脅威。それが今の彼女の認識であった。

 先の「相川・鏡」戦は、彼女の中に残留していた固定観念を崩すには十分過ぎた。

 

 元々、ISの事なら何でも吸収していった谷本。昭弘と共に何度も空を駆けた彼女が、一体どれだけの事を学んだのかラウラには想像も付かなかった。

 

 

 彼等がそんなやり取りを繰り返しているからか憩いはあっと言う間に過ぎ去り、昭弘と谷本は重たい腰を上げる。

 行きたいけど行きたくない、戦いたいけど休みたい。本番前のこれだけは、どんな場面どんな人間でも避けられない感情だ。

 

 そんなどんよりした背中を向けて去ろうとする彼等に、箒は後ろから「待った」と声を掛ける。

 

「……私たちの分まで頑張ってくれ!」

 

 それは、箒の無念が凝縮された激励だった。

 彼等には、優勝へ向けた箒の想いは分からない。だが同時に、アレ程の戦いを繰り広げるのに一体どれ程肉体を酷使したのか想像するのも容易だった。

 

 そんな箒の優勝への想いが、決して小さい筈が無かった。

 

 

 

 ピットへ続く道の途上、昭弘は谷本の強張った表情に気付く。上手く気持ちを切り替えたのかと思ったが、それは間違いだった。

 

「……自分なんかに、決勝に進む資格あるんでしょうか」

 

 それを聞いて首を傾げる昭弘。勝ったのだから当たり前だ、とでも言いたいのだろう。

 そんな彼を他所に、谷本は少し俯きながら続ける。

 

「清香の執念、アル兄も感じたでしょう?あそこまで本気な彼女、私初めて見ました。…きっと、優勝して絶対に叶えたい願いがあったんじゃないかな」

「篠ノ之さんだってそうですよ。刀一本の打鉄で、専用機にあれ程食い下がるなんて…」

 

 比べて谷本の目的は「一夏とのお付き合い」だ。そりゃ彼女だって付き合えたら嬉しいが、無理なら無理で別にと言う程度だ。

 

 強い望みがあるからと言って、必ずその試合に勝てる訳ではない。そんな単純な事、谷本だって解ってはいる。

 しかし大した望みも無い自分自身が決勝に進む事自体、何処か納得が行かないのだ。

 

 そんな彼女に対し、今度は昭弘が問い掛ける。

 

「…じゃあお前は何でそんなに強くなれたと思う?」

 

 それは勿論ラウラの教えや昭弘と共に潜り抜けた数多くの試合、そして何より彼女自身の努力の賜物だ。

 しかし、昭弘はそんな事を訊きたいのではない。それを解っていた谷本は、もっと別の答えを探し出した。

 

「…多分、ISが好きだから…です」

 

「何処がだ?」

 

 昭弘が更に突っ込んだ質問に乗り出すと、ISについて考え出した谷本は強張った表情を少しずつ元に戻していく。

 

「格好いいし、自分で色々カスタマイズしたりセッティングしたりするのも面白いし、純粋に空を飛ぶのが楽しいし…」

 

 その後少し間を置いた谷本は、一番肝心な部分を答えた。

 

「そして名前の通り、無限の可能性を与えてくれる所が大好きです」

 

 彼女の様な凡人でも嵐を巻き起こす事が出来るのだと、彼女はISから教わった。

 そんな彼女とISは、どんな力でも切り離せない程強く結び付いていた。

 

 彼女の想いを聞けた昭弘は、豪快さを含んだ優しい微笑みを浮かべながら言葉を贈った。

 

「ならそれでいい。ISが好きだから、自分の中にある無限の可能性を試したいから戦う。その想いは箒や相川の願いにも、引けを取らないと思うがな」

 

 それが、昭弘の自論であった。戦いに資格なんて要らない。ただ本心に従って戦えばいいのだ。

 

 それを聞いた谷本は少しの間押し黙った後、語調を強めながら改めて自身の意志を口にする。

 

「…怖い事言いますね。だとしたら私、益々負けられないじゃないですか」

 

 そう言うと、再び谷本は表情を強張らせる。しかし同じ強張りでも、先程のソレとは別物であった。前方のもっと奥を見据える様な、そんな表情であった。

 

 彼女はISが大好きだ。

 本気で好きだからこそ今迄ずっと負けたくなかったし、これからも勝ち続けて行きたいのだ。

 

 

 そんな彼女に倣う様に、昭弘も緩ませていた表情を彫像の如く引き締めた。

 優勝する為の明確な目的が無い彼も、谷本と同じ心境だからだ。

 

 谷本に対する先程の言葉は、昭弘自身にも言い聞かせていたのだ。

 

 

 

 

 

 ピット前にて、セシリアと鈴音は「ある意外な人物」に遭遇していた。

 

 初対面故セシリアはキョトンと首を傾けるが、鈴音は唇を震わせながらその人物を見詰める。

 

「お父…さん?」

 

 鈴音が頭に浮かんだ単語を自然に呟くと、男も又砕けた調子で鈴音に話し掛ける。

 

「ヨォ!!久しぶりだなぁ鈴…うぉっとォ!」

 

 男が台詞を言い終える前に鈴音は涙ながらに男に抱き付き、心に浮かんだ言葉を纏めもしないで口にする。

 

「お父さんッ!とうして此処に!?お店は!?」

 

 余りにも唐突な、何年かぶりの実父との再会。言いたい事訊きたい事、互いに山の如く積み重なっているだろう。

 

「だーもう落ち着けぇ!!お店は今日だけ臨時休業だよぉ!!電車の乗り間違えとかで、随分と遅くなっちまったがな」

 

 男がそう言うと、鈴音は更に抱き締める力を強くする。日本の電車迷路が苦手な部分も父娘そっくりだ。

 

「鈴ちゃん、抱き締めてくれるのは父ちゃんも嬉しいんだがよ、そろそろお隣さんの事も紹介してくれるかい?」

 

 そう言われると鈴音はハッとしながらセシリアに振り向くが、セシリアは先に自己紹介を始めてしまっていた。

 

 男『劉楽音』は後頭部を掻きながら辿々しく自己紹介をセシリアに返すと、再び鈴音に向き直る。

 

「んで?どうでぇ鈴ちゃん自信の程は」

 

 楽音がそう訊ねると、鈴音は涙を拭いながら力強く答える。

 

「控え目に言って絶好調よ!」

 

 箒との真っ向勝負以降、鈴音の精神面は驚く程安定していた。心に沈殿していた不安も含めて、全てを綺麗さっぱり出し切ったからだろうか。

 

「本当にぃ?オルコットさんに迷惑掛けてないん?」

 

「かっ、掛けてな…いとも言えないけど」

 

「ハッハッハ!」

 

 久しぶりの再会でギクシャクすることも無く、仲睦まじく会話を続けていく両者。

 

 セシリアはその良き父親良き娘を、何処か遠い眼差しで見詰めていた。もう永遠に、セシリア自身には訪れる事の無いその光景を。

 

 

 

 結局、試合前の鈴音とセシリアを気遣ってか、楽音は10分やそこらでその場を後にした。

 

「ホント大会が中止になんなくて良かった~!まさか父さんが駆け付けてくれるなん…て」

 

 ピット内にて未だ再会の喜びに浸っていた鈴音だが、何と返せば良いか解らず静かに頬笑むしかないセシリアを見て、漸く彼女の境遇を思い出す。

 

「ごめんセシリア。アンタはその…」

 

 先程の様子から一変。罰の悪そうな反応を示す鈴音に対し、セシリアは普段の調子で言葉を返す。

 

「久方振りのお父上との再会ですもの。周囲の反応を気にする事こそ、可笑しな事だと思いましてよ?」

 

 しかし彼女の言葉はそこで終わらず、「ただ…」と隙間風の様に続いた。

 

「私の両親ならどんな反応をしただろうと…そんな事を考えてしまいましたの」

 

「セシリア…」

 

 鈴音は必死に言葉を探す。だがどれだけ頭を捻っても奇麗事しか思い浮かばない鈴音は、情けない自身の頭を殴った。

 

 そんな鈴音を他所に、セシリアは益々感慨の深淵に浸っていく。

 

 思えば「あの事故」から全てが始まった。

 

 皮肉な事に「今のセシリア」を形作った起因こそが、両親の死なのだ。

 もし彼女の両親が生きていたなら、彼女はごく普通の貴族令嬢として育てられたろう。家を守る為に「国家代表」と言う地位と肩書を手に入れよう等と、夢にも思わなかったろう。

 今の強さ、今の人格。両親の死と言う切っ掛けでそれらを手にし、その結果今この大会における決勝まで進むに至った。

 

 そう考えると、確かに両親が生きていたら等と言う仮定は、今のセシリア自身を否定するが如き無意味な妄想だ。

 

(…では「あの男」ならどう思うのでしょうか)

 

 彼女は、不意に昭弘の存在を頭に思い浮かべる。

 彼も又、セシリアと同様家族を失った人間だ。

 

 家族を失った事で、種類は違えど永い時間孤独を味わった昭弘とセシリア。

 

 その孤独を紛らわす為に、両親との思い出の詰まった家と言う過去を守り抜くセシリア。

 その奮闘が何の因果か、今はIS学園と言う友に溢れた孤独とは程遠い場所に身を置くに至る。この場所で得た様々な出会いは、セシリアにとって過去と同じ位大切なモノとなっていた。

 

 一方、孤独と絶望に心を炙られ、只管に今を生き抜く事しか許されなかった昭弘。

 そうして生き抜いた結果、過去を振り返る間もなく『鉄華団』と言う新しい家族に出会い、再び今生の別れを遂げる。

 新たに辿り着いたIS学園と言う平穏な場所で心の余裕が生まれた昭弘は、漸く過去に想いを馳せる事が出来る様になっていた。

 

 価値観や生き方もそうだが、そうした孤独に起因する現在と過去の認識の違いこそが、昭弘とセシリアを決定的に分けるものなのかもしれない。

 

(数奇ですわね。そんなアルトランドと私が、決勝戦でぶつかる事になろうとは)

 

 それも又因果なのだろうか。それとも単なる偶然か。

 

 正反対な様で同じな様で、やはり何処か異なる2人。決勝でその2人が激突すれば、互いに何かが解るのだろうか。抑々何が解ると言うのだろうか。解った所で何だと言うのか。

 互いにもう家族に会えない事実は、決して揺るがないと言うのに。

 

 

 何れにしろ「今のセシリア」は、そんな事にいつまでも浸ってなど居られない。彼女のパートナーである鈴音も、この学園で新たにできた大切なモノの一つなのだ。

 

 だからセシリアは、自分如きの為にいつまでも頭を抱える鈴音をそのまま放っておいたりしない。

 

「鈴、私に「奇麗事」を言って下さいまし。…皮肉等では御座いませんのよ?言って頂けるだけで、本当に私は嬉しいのですわ」

 

 例え表面だけだろうと、奇麗に越した事は無いのだ。

 

「…」

 

 未だ罪悪感の拭えない鈴音は、噛み締めながらもセシリアに奇麗事を並べる。

 

「…アンタの母さんや父さんだって…きっとアタシの父さんみたいに笑っていたと…思うわよ」

 

 その言葉は、今のセシリアにとって贅沢過ぎる一言であった。奇麗事だと分かっていても。

 その証拠にセシリアは、心の底から自然と笑みを零した。

 

 そんな彼女を見て、鈴音は胸が張り裂けそうになった。

 今の鈴音から見たセシリアは、自身を心配させない為に敢えて笑っている様に見えてしまっていた。

 

―――いつもアタシは助けられてばかり

 

 そんな鈴音は、自身の目的とは関係無しに次の言葉をセシリアへ贈らずにはいられなかった。

 

「セシリア……必ずアンタを勝たせるよ」

 

 力強い声の中に、弱々しさが滲み出ていた。こんな事でしかセシリアに恩返しが出来ないのだから。

 

 鈴音からそう言われてセシリアは目を見開くが、直ぐに表情を戻して鈴音に言葉を贈り返す。

 

「ありがとうございます、鈴。私も 貴女を勝たせますわ」

 

 

 

 

 

 時間は過ぎ去り、いよいよ決勝戦直前まで迫った。

 

 後数分程度で、数日間の激戦を勝ち抜いてきた4人の兵がフィールド上空にその姿を現すであろう。

 当然、観客席は満員御礼だ。皆握り拳に汗を滲ませながら、戦士たちが現れるのを待ち望んでいた。

 

 

 そんなただ中、生徒会長『更識楯無』の透き通った声が、スピーカーによってスタンド中を駆け巡っていた。

 

《今年の決勝戦は正に「異色の組み合わせ」です!何と4機の内1機はMPS!更にもう1機は量産機ッ!》

 

 決勝戦まで勝ち進めるのは、例年「専用機」と相場が決まっていた。

 その事実を良く知っている多くの観客は、胸の昂ぶりをそのまま声に出していた。

 

《織斑先生織斑先生!この状況どう見ます!?》

 

 隣に控えていた千冬に、楯無は解説を任せた。

 

《実力の高さもあるだろうが、量産機のカスタマイズやセッティングが、彼女の実力をフルに引き出せたのだろう。これはトーナメントにおける全ての量産機に言える事で、最初から完成されている専用機には難しい芸当だ。味方のMPSも、ラファールに大いに助けられてる印象が強い》

 

 遠回しに整備科生の事も褒め称えながら、無難に纏める千冬。

 

 

 そんな進行を欠伸混じりで聞きながら、観客スタンドに座している『デリー・レーン』は無人のフィールドを景色の一部の様にボーッと眺めていた。

 

(何でもいいから早く始めて下さいよ~。夕方から打ち合わせがあるんですから~)

 

 特段VIP扱いでもない彼は、大会初日と本日の決勝戦だけ観に来ていた。

 恐らく「昭弘の勝敗」を最初に知っておきたいのだろう。MPS操縦者である昭弘の優勝は、今後彼の商売にも大きな影響を及ぼす。他は、御得意先への挨拶回りと新たなコネを作る為の営業が主な目的だ。

 生の女子高生を拝む為の理由付けでもあるが。

 

ストン

 

 そんな彼の右隣に、見慣れない服装の生徒が腰掛ける。

 どこがどう見慣れないのかと言うと、ほぼ女子生徒しか居ないIS学園で何故か「男子の制服」を身に纏っているのだ。

 その顔が整った金髪の美少年に、デリーは心当たりがあった。

 

(……あぁ↑!『デュノア社』の↑!)

 

 左手の平を右拳でポンと叩きながら、デリーは右隣の彼がデュノア社の御曹司である事を記憶を頼りに思い出した。

 

 そこまで来れば彼の行動は早い。

 相手はIS企業の御曹司。ここで関係を作っておいて損はないだろうと、彼は営業スマイルを浮かべながら『シャルル・デュノア』に声を掛ける。子供相手とは言え名刺も忘れない。

 

 

 デリーの思惑と並行して、楯無の進行も恙無く続いた。

 

 彼女の進行に従い、3機のISと1機のMPSがピットから飛び出す。

 

 その貫禄に満ち溢れた雄姿を目の当たりにした観客は、心の内に押し留めていた興奮を爆発させる。

 

 

 

 フィールド中に、緊迫した雰囲気が充満していく。

 深海の水圧の如く押し潰しにかかるソレを、4人は必死に耐えていた。

 

 しかし特に作戦らしい作戦は、両者共考えていない。

 

 昭弘たちからすれば、相手は2機共専用機。しかもその片方は、ビット兵器によってどんな戦況にも対応可能なブルー・ティアーズ。

 作戦や小細工で打破出来る相手ではない。

 

 それはセシリアたちも良く解っていた。

 純粋な強者である自分たちを相手に、今更ラファールが貧弱な装備で挑む筈もないと。

 

 両者が最大に警戒しているのは、未だ隠しているであろう相手の「奥の手」だ。

 だから、いやそうでなくとも、互いに奥の手を序盤から曝け出すつもりでいる。出し惜しみをしていたら間違いなく先に食われる。

 そしてこの期に及んで機を伺える程、彼・彼女たちの闘争本能は生易しくない。

 

 闘争本能に従う様に、4人はその張り詰めた空気をすんなりと受け入れながら、ただ只管に待つ。

 最後の試合開始のブザーを。

 

 互いに息を飲む。互いに眼力を強める。互いに汗を滲ませる。互いに耳を澄ませる。

 

 

 

ヴーーーーーーーーーーーーーー ッ!!!!!

 

 

 

 そんな4人の状態等何処吹く風と、最後のブザーはごくいつも通りに鳴り響いた。

 

 

 一瞬の内に、昭弘はこの瞬間まで大切に温存しておいた「とっておき」を起動させる。

 

 大会迄に研鑽を重ねに重ね、脳への負担から何度も気を失いかけ、漸く手に入れたマッドビーストの完全制御。

 グシオンの「筋力面」だけリミッターを維持する事で最大パワーを抑制し、攻撃する相手への安全性を確保。

 

 千冬からも、大会ギリギリでどうにか許可を得られた奥の手。その性能の程は如何に。




久し振りのデリー登場。しかもシャルと絡むとは・・・。自分で書いといて何ですが、この2人の会話は全く予定にありませんでした。自分でも驚きです。

鈴音の親父さんは、前々から登場させる予定でした。

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