IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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前話にて細かい所に「抜け」がありましたので、少し修正を加えておきました。

それとすみません。今回、殆ど会話ばっかです。
次回は確実に戦闘回になるとして・・・・・・・・・決勝戦、次回で終わるといいなぁ・・・(遠い目)


第29話 蛮人と貴人は表裏一体

 昭弘と谷本は、決勝戦に備えてISの最終調整を行っていた・・・訳ではなく、出店が無数に並んでいる通りで小休止を挟んでいた。

 万全の状態で決勝に挑む為、少しでも身体に残る「疲れ」を取り払っておきたいのだ。それ故かは分からないが、昭弘も谷本も「ぐでーん」と椅子に凭れ掛かっており、空を眺めながらソフトドリンクを飲んでいた。

 

 そんな2人と同じテーブルで休んでいるラウラと箒は、やれやれとお互いを見合った後、言葉を掛ける。

 

「・・・休むのは良いが、大概にしとけよ?実際に戦った私だから解るが、今のオルコットの実力は正に“別格”だ。」

 

「うむ、セシリアだけではない。凰も、未だ何か“奥の手”を隠している様に思える。」

 

 珍しく、今回は昭弘が「お節介を焼かれる」側となってしまった。

 それが少し恥ずかしかったのか、昭弘と谷本は姿勢を正しながら言葉を返す。

 

「未だ試合迄、1時間以上はある。今の内に、頭をスッキリさせておきたいんだ。」

 

「あと10分もしたら、ピットに移動するよぉ。」

 

 谷本の意外な程落ち着いた反応に、ラウラは鋭い目を大きく見開く。

 

「・・・怖くないのか?谷本。凰もオルコット程ではないにしろ、十分「化物」だぞ。」

 

 ラウラの問いに対し、谷本は少しだけ考えた後、特に動じる事無くつらつらと答え始めた。

 

「・・・皆「化物」だよ。甘い敵なんて、誰一人居やしない。一々目の前の試合に怖がってたら、キリがないよ。」

 

 最早今の谷本には、代表候補生と一般生徒の明確な違いが判らなくなっていた。武器を手にした時点で、どの相手も“等しく脅威”。それが、今の彼女の認識であった。

 それ程、先の「相川・鏡」戦は、彼女の中に残留している固定観念を崩すには十分過ぎた。

 

(・・・人は変わるものだな。)

 

 元々、ISの事なら何でも吸収していった谷本。昭弘と共に何度も空を駆けた彼女が、一体どれだけの事を学んだのか、ラウラには想像も出来なかった。

 自身の知らない内に、良い意味で大きく変貌してしまった谷本に対し、ラウラは一抹の寂しさを抱いた。

 

「・・・よっこいしょ。」

 

「!・・・・・・オイ。」

 

 その寂しさを紛らわす為かは分からないが、ラウラは椅子に腰掛けている昭弘の鼠径部に、重ねる様に臀部を押し付けながら腰掛ける。

 ラウラの性別が未だに判然としない箒と谷本は、彼の大胆な行動に勢い良く立ち上がる。そんな2人を無視しながら、ラウラは昭弘に声をそのままに話し掛ける。

 

「・・・まったく、随分と谷本に無茶をさせている様だな昭弘?」

 

「・・・お前さんが甘過ぎなんじゃないか?」

 

「フッ・・・まぁ否定はしないさ。」

 

 そんな2人の会話も、谷本の頭に入って来るには、今の「状況」は刺激が強過ぎた。

 しかし、箒の「行動」は早かった。彼女はラウラの肩を右手で掴むと、力を強めながら引き攣った笑みを浮かべる。

 

「ボーデヴィッヒよ、昭弘も疲れているのだから降りた方が良いんじゃないかと、私は思うが?」

 

 そんな箒の心情を見透かす様に、ラウラも又ニヤつきながら口を開く。

 

()()()()にもな。」

 

「・・・良いから降りろ。即刻。」

 

 そんな2人のやり取りを、昭弘は珍しく察する事が出来なかった。

 

 彼が箒の想いに気付く日は、果たして来るのだろうか。

 

 

 彼等がそんなやり取りを繰り返しているからか、10分はあっと言う間に過ぎ去り、昭弘と谷本は重たい腰を上げる。

 背中を向けて去ろうとする彼等に、箒は後ろから「待った」と声を掛ける。

 

「・・・・・・・・・私たちの分まで、頑張ってくれ!」

 

 それは、箒の「無念」が凝縮された一言だった。

 彼等には、優勝へ向けた箒の想いは分からない。だが同時に、アレ程の戦いを繰り広げるのに一体どれ程肉体を酷使したのか、想像するのも容易だった。そんな箒の優勝への想いが、決して小さい筈が無かった。

 

 

 ピットへ続く道の途上、昭弘は谷本の「強張った表情」に気付く。

 

「流石に切り換えが早くなってきたな。感心だ。」

 

「ん?・・・ああ、すいません。そんなんじゃあないんです・・・。」

 

「?」

 

 これからの試合に対してではないのなら、一体「何」に対して表情を強張らせているのかと、昭弘は眉を顰める。

 

「んまぁ、ちょっと考えちゃって・・・。「自分なんかに、決勝に進む資格があるのか」って。」

 

 それを聞いて、増々首を傾げる昭弘。「勝ったのだから当たり前だ」とでも言いたいのだろう。そんな彼を他所に、谷本は少し俯きながら続ける。

 

「清香の執念、アル兄も感じたでしょう?あそこまで本気な彼女、私初めて見ました。・・・きっと、優勝して絶対に叶えたい願いがあったんじゃないかな。」

 

「篠ノ之さんだってそうですよ。刀一本の打鉄で、専用機にあれ程食い下がるなんて・・・。」

 

「比べて私の目的なんて・・・「織斑くんとのお付き合い」ですよ?そりゃあ、付き合えたら嬉しいですけど・・・正直、無理なら無理で「しょうがない」って程度だし・・・。」

 

 強い望みがあるからと言って、必ずその試合に勝てる訳ではない。

 そんな単純な事、谷本だって解ってはいる。しかし、大した望みも無い自分自身が決勝に進む事自体、何処か納得が行かないのだ。

 

 そんな彼女に対し、今度は昭弘が問い掛ける。

 

「・・・じゃあお前は、何で自分がそんなに強くなれたと思う?」

 

 それは勿論、ラウラの教えや昭弘と共に潜り抜けた数多くの試合、そして何より彼女自身の努力の賜物だ。

 しかし、昭弘はそんな「当たり前な事」を訊きたい訳ではない。それを解っていた谷本は、もっと別の答えを探し出した。

 

「・・・・・・多分、ISが好きだから・・・です。」

 

「ISの何処が好きなんだ?」

 

 昭弘が更に突っ込んだ質問に乗り出すと、谷本は強張った表情を少しずつ元に戻していく。

 

「そりゃあ、何と言っても格好いいし、自分で色々カスタマイズしたりセッティングしたりするのも面白いし、純粋に空を飛ぶのが楽しいし・・・。」

 

 その後少し間を置いた谷本は、一番「肝心な部分」を答えた。

 

「そして・・・名前の通り、「無限」の可能性を与えてくれる所が、大好きです。」

 

 彼女の様な凡人でも、「嵐」を巻き起こす事が出来るのだと、彼女はISから教わった。

 そんな彼女とISは、「どんな力」でも切り離せない程、強く強く結び付いていた。

 

 彼女の想いを聞けた昭弘は、優しく微笑みながら言葉を返した。

 

「なら、それで良いんじゃないのか?・・・ISが好きだから、自分の中にある無限の可能性を試したいから、戦う。その「想い」は、箒や相川の「願い」にも、十分引けを取らないと思うがな。」

 

 それが、昭弘の自論であった。

 

「・・・」

 

 それを聞いた谷本は、少しの間押し黙った後、語調を強めながら改めて「自身の意志」を口にする。

 

「・・・本当、怖い事言いますねアル兄は。・・・だとしたら私、益々“負けられない”じゃあないですか。」

 

 そう言うと、再び谷本は表情を強張らせる。しかし、同じ強張りでも「先程のソレ」とはまるで“別物”であった。

 彼女はISが大好きだ。本気で好きだからこそ、今迄ずっと負けたくなかったし、これからも勝ち続けて行きたいのだ。

 

 そんな彼女に倣う様に、昭弘も緩ませていた表情を引き締めた。

 優勝する為の明確な目的が無い彼も、谷本と同じ心境だからだ。

 谷本に対する先程の言葉は、もしかしたら昭弘自身にも言い聞かせていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 ピット前にて、セシリアと鈴音は「ある意外な人物」に遭遇していた。

 初対面故セシリアはキョトンと首を傾けるが、鈴音は唇を震わせながら、その人物を見詰める。

 

「・・・・・・お父・・・さん?」

 

 鈴音が頭に浮かんだ単語を自然に呟くと、男も又砕けた調子で鈴音に話し掛ける。

 

「ヨォ!!久しぶりだなぁ!!鈴・・・うぉっとォ!!」

 

 彼が台詞を言い終える前に、鈴音は涙ながらに彼に抱き付き、心に浮かんだ言葉を纏めもしないで口にする。

 

「お父さんッ!!とうして此処に!?お店は!?ネェ!!ネェ!!?」

 

 余りにも唐突な、何年かぶりの実父との再会。言いたい事、訊きたい事は、互いに山の如く積み重なっているだろう。

 

「だー!もう落ち着けぇ!!お店は今日だけ臨時休業だよぉ!!・・・電車の乗り間違えとかで、随分と遅くなっちまったがな。」

 

 男がそう言うと、鈴音は更に抱き締める力を強くする。

 男は、そんな余りにも周りを気にしない鈴音を一旦制する事にした。

 

「鈴ちゃん、抱き締めてくれるのは父ちゃんも嬉しいんだがよ、そろそろ「お隣さん」の事も紹介してくれるかい?」

 

 そう言われると、鈴音はハッとしながらセシリアに振り向くが、セシリアは先に自己紹介を始めてしまっていた。

 

「御初に御目にかかります。鈴音さんのお父様。『セシリア・オルコット』と申します。僭越ながら、今大会における鈴音さんのパートナーを務めさせて頂いております。」

 

「おっと、こいつぁどうもご丁寧に・・・。『劉楽音』と申します。一応、日本で「中華料理屋」を営んでおります。」

 

 男『楽音』は、後頭部を掻きながら辿々しく自己紹介を終えると、再び鈴音に向き直る。

 

「んで?どうでぇ鈴ちゃん、自信の程は。いけそうかい?」

 

 楽音がそう訊ねると、鈴音は涙を拭いながらも、力強く答える。

 

「当然よ!!控え目に言って、アタシ今絶好調だし!」

 

 箒との真っ向勝負以降、鈴音の精神面は驚く程安定していた。心に沈殿していた不安も含めて、全てを綺麗さっぱり出し切ったからだろうか。

 

「本当にぃ?オルコットさんに迷惑掛けてないん?」

 

「かっ!掛けてな・・・・・・いとも言えないけど・・・。」

 

「んまぁ、多少は掛けても良いんじゃないの?お互いフォローし合うのが、タッグマッチってもんだ。」

 

「ま~たそうやって知ったか振る~。」

 

「ハッハッハ!るせぇやい!」

 

 久しぶりの再会でギクシャクすることも無く、仲睦まじく会話を続けていく両者。

 セシリアはその光景を、何処か「遠い眼差し」で見詰めていた。もう永遠に、セシリア自身には訪れる事の無い、“その光景”を。

 

 

 結局、試合前の鈴音とセシリアを気遣ってか、楽音は10分やそこらでその場を後にした。

 

「いやぁ、ホント大会が中止になんなくて良かった~!まさか父さんが駆け付けてくれるなんて、思っても見なかった・・・わ?」

 

「・・・」

 

 ピット内にて、未だ「再会の喜び」に浸っている鈴音。そんな彼女に対し、セシリアは何と返したら良いのか解らず、ただ静かに頬笑む事しか出来なかった。

 

 そんなセシリアの“様子”を見て、漸く鈴音はセシリアの「境遇」を思い出す。

 

「あ、いや・・・ごめんセシリア。アンタは、その・・・。」

 

 先程の様子から一変し、罰の悪そうな反応を示す鈴音に対し、セシリアは普段の調子で言葉を返す。

 

「いえ、仕方の無い事ですわ。久方振りのお父上との再会ですもの。抑、再会の喜びよりも周囲の反応を気にする事こそ、可笑しな事だと思いましてよ?」

 

 しかし、彼女の言葉はそこで終わらず、「ただ・・・」と続いた。

 

「私の両親なら、どんな反応をしただろうと・・・そんな事を、考えてしまいましたの。・・・・・・無意味な想像だと、解っている筈ですのに。」

 

「セシリア・・・。」

 

 鈴音は、必死に言葉を探す。だが、やはりどれだけ頭を捻っても奇麗事しか思い浮かばない鈴音は、情けない自身の頭を殴った。

 

 そんな鈴音を他所に、セシリアは益々感慨の深淵に浸っていく。

 

(思えば、「あの事故」から全てが始まったのでしたわね・・・。)

 

 皮肉な事に、「今のセシリア」を形作った起因こそが、“両親の死”なのだ。

 もし彼女の両親が生きていたならば、彼女は「ごく普通の貴族令嬢」として育てられただろう。家を守る為に、「国家代表」と言う絶大な地位と肩書を手に入れよう等と、夢にも思わなかっただろう。

 今の「強さ」、今の「人格」。“両親の死”と言う切っ掛けでそれらを手にし、その結果「今この大会」における決勝まで進むに至った。そう考えると、確かに「両親が生きていたら」等と言う仮定は、今のセシリア自身を否定するが如き「無意味な妄想」だ。

 

(・・・では、「あの男」ならどう思うのでしょうか。)

 

 彼女は、不意に昭弘の存在を頭に思い浮かべる。彼も又、セシリアと同様に家族を失った人間だ。

 

(・・・何を馬鹿な。境遇が少し似ているとは言え、奴の答えを予想して何になると言うのか。価値観も生き方も、全てが正反対だと言うのに。)

 

 家族を失った事で、種類は違えど永い時間孤独を味わった昭弘とセシリア。

 その孤独を紛らわす為に、「両親との思い出」の詰まった家と言う“過去”を守り抜くセシリア。その「奮闘」が何の因果か、今はIS学園と言う「友」に溢れた、孤独とは程遠い場所に身を置くに至る。この場所で得た様々な「出会い」は、セシリアにとって“過去と同じ位大切なモノ”となっていた。

 一方、孤独と絶望に心を炙られ、只管に“今”を生き抜く事しか許されなかった昭弘。そうして生き抜いた結果、過去を振り返る間もなく『鉄華団』と言う新しい家族に出会い、再び「今生の別れ」を遂げる。新たに辿り着いたIS学園と言う平穏な場所で心の余裕が生まれた昭弘は、漸く“過去”に想いを馳せる事が出来る様になっていた。

 

 価値観や生き方もそうだが、そうした孤独に起因する「現在と過去の認識」の違いこそが、昭弘とセシリアを決定的に分けるものなのかもしれない。

 

(思えば、「数奇なモノ」ですわね。そんなアルトランドと私が、決勝戦でぶつかる事になろうとは。)

 

 それも又、因果なのだろうか。それとも単なる偶然か。

 正反対な様で、同じな様で、やはり何処か異なる2人。決勝でその2人が激突すれば、互いに何かが解るのだろうか。抑々何が解ると言うのだろうか。解った所で何だと言うのか。

 互いに、もう家族に会えないと言う事実は、決して揺るがないと言うのに。

 

 

 何れにしろ、「今のセシリア」はそんな事にいつまでも浸ってなど居られない。彼女のパートナーである鈴音も、この学園で新たにできた“大切なモノ”の一つなのだ。

 だからセシリアは、自分如きの為にいつまでも頭を抱える鈴音を、そのまま放っておいたりしない。

 

「鈴、私に「奇麗事」を言って下さいまし。・・・皮肉等では御座いませんのよ?言って頂けるだけで・・・本当に、私は嬉しいのですわ。」

 

「・・・」

 

 未だ罪悪感の拭えない鈴音は、噛み締めながらもセシリアに奇麗事を並べる。

 

「・・・アンタの母さんや父さんだって・・・きっと、アタシの父さんみたいに、笑っていたと・・・思うわよ。」

 

 「その言葉」は、今のセシリアにとって「贅沢過ぎる一言」であった。例え奇麗事だと、分かっていたとしてもだ。

 思わずセシリアは、心の底から自然と「笑み」を零した。

 

 そんな彼女を見て、鈴音は胸が張り裂けそうになった。

 今の鈴音から見たセシリアは、自身を心配させない為に「敢えて笑っている」様に見えてしまっていた。

 

ーーーいつもそうだ。いつもアタシは助けられてばかり。・・・本当、情けない。

 

 そんな鈴音は、自身の目的とは関係無しに、次の言葉をセシリアに贈らずにはいられなかった。

 

「・・・・・・セシリア。必ず・・・必ずアンタを勝たせるよ。」

 

 突然鈴音からそんな事を言われて、セシリアは少し目を見開くが、直ぐに表情を戻して鈴音に言葉を返す。

 

「ありがとうございます、鈴。私も、貴女を勝たせますわ。」

 

 

 

 

 

 時間は過ぎ去り、いよいよ決勝戦直前まで迫った。後数分程度で、数日間の激戦を勝ち抜いてきた4人の(つわもの)が、フィールド上空にその姿を現すであろう。

 当然、観客席は満員御礼だ。皆、握り拳に汗を滲ませながら、戦士たちが現れるのを待ち望んでいた。

 

《ハイハイハーイ!!皆さんお待ちかね!決勝トーナメントの幕が、もうじき上がっちゃいまーーす!!!》

 

 生徒会長『更識楯無』の透き通った声が、スピーカーによってスタンド中を駆け巡る。

 

《今年の決勝戦は、正に「異色の組み合わせ」です!!何と!4機の内1機はMPS!更にもう1機は量産機ッ!!》

 

 決勝戦まで勝ち進めるのは、例年「専用機」と相場が決まっていた。

 その事実を良く知っている多くの観客は、胸の昂ぶりをそのまま声に出してしまった。

 

《織斑先生織斑先生!この状況、アナタならどう見ます!?》

 

 隣に控えていた千冬に、楯無は解説を任せた。

 

《実力が高かったと言うのもあるだろうが、その量産機のカスタマイズやセッティングが、彼女の実力をフルに引き出せたのだろう。これはトーナメントにおける、全ての量産機に言える事で、最初から「完成」されている専用機には難しい芸当だ。味方のMPSも、ラファールに大いに助けられてる印象が強い。》

 

 遠回しに整備科生の事も褒め称えながら、無難に纏める千冬。楯無は「ウンウン」と頷きながら進行を続ける。

 

 

 そんな進行を欠伸交じりで聞きながら、観客スタンドに座しているデリーは「無人のフィールド」をボーッと眺めていた。

 

(何でもいいから、早く始めて下さいよ~。夕方から打ち合わせがあるんですから~。)

 

 特段VIP扱いでもない彼は、大会初日と本日の決勝戦だけ観に来ていた。

 恐らく、「昭弘の優勝」と言う情報を最初に知っておきたいのだろう。MPS操縦者である昭弘の優勝は、今後彼の商売にも大きな影響を及ぼす筈だ。

 しかし、当然勝てる保証が何処にも無い事も、又事実だが。

 

ストン

 

 そんな彼の右隣に、「見慣れない服装の生徒」が腰掛ける。

 どこがどう見慣れないのかと言うと、ほぼ女子生徒しか居ないIS学園で、何故か「男子の制服」を身に纏っているのだ。

 その「顔が整った」金髪の美少年に、デリーは何処か「心当たり」がある様であった。

 

(・・・・・・・・・・・・あぁ↑!『デュノア社』の↑!)

 

 左手の平を右拳でポンと叩きながら、デリーは右隣の彼が「デュノア社の御曹司」である事を思い出す。

 そこまで来れば、彼の行動は早い。自身と縁の無いIS企業の御曹司とは言え、ここで関係を作っておいて損はないだろうと、彼は「営業スマイル」を浮かべながら『シャルル・デュノア』に声を掛ける。

 

「あのぅ、少し宜しいでしょうか?失礼ですが、貴方もしや『シャルル・デュノア』様では、御座いませんでしょうか↑?」

 

 彼がそう訊ねると、シャルルは瞳を何度か右往左往させた後、コクリと頷いた。

 

「あ、急に話し掛けられて驚かれましたよね!?大変失礼致しました↑!実は私、こう言う者でして・・・。」

 

 そう言いながら、デリーは自身の名刺入れをビジネスバッグから取り出し、そこから一枚抜いた名刺を彼に手渡した。

 

 

 そんな彼等のやり取りと並行して、楯無の進行も恙無く続いた。

 

《こぉれは専用機持ちもウカウカしていられませんよね~!・・・っとォ!前座はこの位にして、いよいよ4機のISとMPSが、その姿を現しますよぉ~?》

 

 彼女の進行に従う様に、3機のISと1機のMPSが、ピットから飛び出す。

 その貫禄に満ち溢れた雄姿を目の当たりにした観客は、心の内に押し留めていた興奮を爆発させる。

 

 

 

 フィールド中に、緊迫した雰囲気が充満していく。深海の水圧の如く押し潰しにかかるソレを、4人は必死に耐えていた。

 

 しかし、特に作戦らしい作戦は、両者共考えていない様だ。

 

 昭弘たちからすれば、相手は2機共専用機だ。しかもその片方は、ビット兵器によってどんな戦況にも対応可能なブルー・ティアーズ。作戦や小細工で打破出来る様な相手ではない。

 第一、「本来の昭弘」は考えて戦う様なタイプではない。小難しい事に意識を割くよりも、目の前の「闘争」に集中する方が、「本来の力」を発揮し易いのだ。

 

 それは、セシリアたちも良く解っていた。「純粋な強者」である自分たちを相手に、今更ラファールが貧弱な装備で挑む筈もないと。

 

 両者が最大に警戒しているのは、未だ隠しているであろう相手の「奥の手」だ。

 だから、いやそうでなくとも、互いに「奥の手」を序盤から曝け出すつもりでいる。出し惜しみをしていたら、間違いなく先に「食われる」から。そして、この期に及んで機を伺える程、彼・彼女たちの「闘争本能」は生易しくないから。

 

 闘争本能に従う様に、4人はその張り詰めた空気をすんなりと受け入れながら、ただ只管に待つ。最後の“試合開始のブザー”を。

 互いに息を飲む。互いに眼力を強める。互いに汗を滲ませる。互いに耳を澄ませる。

 

 

 

ヴーーーーーーーーーーーーーー ッ!!!!!

 

 

 

 そんな4人の状態等「何処吹く風」と言わんばかりに、最後のブザーはごくいつも通りに鳴り響いた。

 

ーーー意識しろ・・・。相手を「傷つけない」程度に、「破壊する」ビジョンを・・・。グシオン(オレ)ならソレが出来る筈だ・・・!

 

 一瞬の内に、昭弘はこの瞬間まで大切に温存しておいた「とっておき」を起動させる。

 大会迄に研鑽を重ねに重ね、脳への負担から何度も気を失いかけ、漸く手に入れた「マッドビーストの完全制御」。

 グシオンの「筋力面」だけリミッターを維持する事で最大パワーを抑制し、攻撃する相手への安全性を確保。

 

 千冬からも、大会ギリギリでどうにか許可を得られた「奥の手」。その性能の程は如何にーーー。

 

 

 

後編へ続く




久し振りのデリー登場。しかもシャルと絡むとは・・・。自分で書いといて何ですが、この2人の会話は全く予定にありませんでした。自分でも驚きです。

鈴音の親父さんは、前々から登場させる予定でした。

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