IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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長い戦いでした。この3週間、本当に長い戦いでした・・・。シフト増えるわ(最大要因)、展開が全く思いつかないわ、何度も書き直すわで・・・。

と言う訳で、何度目になるかは分かりませんが、大変お待たせ致しました!

シャルとデリーの会話は、後の「解決編」か次回に持ち越そうかと思います。話の構成的に、その方が良いかと判断しました。

武装の「使用制限(ロック)」辺りはうろ覚えでした・・・(小声)


第30話 蛮人と貴人の「決着」

 開始早々。

 

 セシリアがバイザー越しに見据えていたグシオンリベイクは巨大マチェットを振り翳し、サブアームに呼び出したミニガンを乱射しながら一気に距離を詰めてきた。そこまでは良い、セシリアは距離を取るだけだ。

 

 問題はそのスピード。

 瞬時加速と見紛う程のソレは、ブルー・ティアーズを決して逃してはくれなかった。

 

 今なお向かって来るグシオンに対し、セシリアはビームビットとスターライトMkⅢで牽制する。

 

 

(鈴、ラファールは任せましたわよ?)

 

 その言葉は勿論鈴音を信頼しているが故であったが、何よりセシリア自身ビットを甲龍の援護に回す余裕など無かった。

 文字通り全てを出し切らなければ勝てない相手だと、セシリア自身良く解っているのだ。

 

 そんなセシリアが一切の慢心をかなぐり捨てた弾幕を、グシオンはスピードを維持したまま上下左右に躱していく。

 

 セシリアは距離を取るグシオンに対し、今度はミサイルビット2機を展開。ソレから射出された小型ミサイルは、グシオンを執拗に追い回す。

 

 

 

 昭弘にとって、意外にもミサイルは厄介な相手であった。理由はその追尾能力。

 確かに逃げ続けていればいずれミサイルの方が燃料切れになるし、何なら射撃武装で撃ち落とせば良い。しかしどんな軌道で飛ぼうとしつこく迫って来るミサイルは、嫌でも昭弘の意識を分散させる。

 

 そうこうしてる内にティアーズ本体の周囲を護る様に浮遊していたビームビット4機は、既にグシオンを取り囲んでいた。

 

 「悪夢のオールレンジ攻撃」の始まりである。

 

 

 

 

 

 谷本の目的は決勝戦だろうと変わらない。グシオンの援護、そして相手の妨害だ。

 

 鈴音の場合はティアーズの邪魔をさせない事、グシオンへの援護を分断する事が今試合の目的であった。

 

 そんな2機が真正面からぶつかり合う事は、最早予定調和と言って良いだろう。

 

 一先ず谷本が甲龍に対してすべきは、兎にも角にも近づかせない事。近接特化の甲龍に対して、谷本の戦術は実にセオリー通りと言えるだろう。

 ()()()()()ならばの話だが。

 

デュルルルルルルルルルルルゥンッ!!!

 

「!?」

 

 彼女が驚くのも納得だ。

 連射型に改良された衝撃砲など、今までセシリア以外誰も見た事がない。

 

 しかし彼女が真に驚いているのは、ソレが自身に当たると言う点だ。

 砲身が見えないのは鈴音も同じ事。ならば散弾の様に空気弾を撃ち出さない限り、当てるのは困難を極める。

 

 

 

 連射型にセッティングし、その上更なる改良を加えた左肩の衝撃砲。その予想以上の性能に、鈴音は満足していた。

 発射する際、生成された空気砲身を振動させる事で、連射時に集弾されている筈の空気弾を拡散させているのだ。これなら散弾時の命中範囲をある程度維持し、有効射程も大幅に伸ばす事が可能。

 

(衝撃砲の真髄はこっからよ!)

 

 鈴音は甲龍の機動力を存分に活かしながら、フィールド中を縦横無尽に飛翔する。

 

 

 

 既に衝撃砲が連射拡散型に改造されていると見抜いた谷本は、IS用重機関銃『ブローニングXM2020』とアサルトライフル『FN F2000』で応戦する。

 見えないとは言え、集弾率と弾幕なら此方が有利と踏んだのだろう。

 

 絶対防御をなるべく発動させない為、彼女は肌の露出を極限まで抑える様にラファールの追加装甲をセットしていた。機動力を損なわない様、出来るだけ薄く小さく。

 

 そんな衝撃砲対策も万全な谷本であったが…。

 

(何この動き!?)

 

 いくら甲龍が高機動型とは言え撃ちながら飛ぶとなると、それに応じて空中機動も限定的になる。それは、銃口・砲口を敵機に向ける必要が有るからだ。

 だが甲龍の衝撃砲の射角は無限だ。どの角度、どんな体勢でも相手に銃口を向ける事が可能。

 

 これこそ衝撃砲の真骨頂。

 射撃武装を使っているとは思えない程の、自由な空中機動。双天牙月を両手に携えたまま、縦に横に回転しようと急激な加減速・旋回を行おうと、見えない銃口はしっかりとラファールを捉えている。

 

 谷本はそんな常に止まらず縦横無尽に動き回る甲龍を、更には見えない弾幕に晒されながら狙わねばならない状況にあった。

 

 

 

 

 

 ビットによって様々な角度から放たれる閃光を、グシオンは最小限の動きで躱していく。

 

 しかしビットのオールレンジ攻撃に加えて、 ティアーズ本体からも止めどなくビームの嵐が降り注ぐ。ビットの合間を縫う様に、細かく分断された光の糸がグシオンに襲い掛かる。

 単純なエイミングの高さ。ライフルの引き金に合わせたビットの絶妙な配置転換。恐らくはその両方であろう神業だ。

 

 更には2機のミサイルビット。ミサイルが燃料切れで墜ちていったら、また追加の小型ミサイルを発射してくるのだ。

 そんな八方塞がりな状況では、流石の昭弘でも全弾は捌き切れない。

 

 勿論、グシオンもただ逃げ惑っている訳ではない。

 両手両サブアームに呼び出した計4丁のビームミニガンと滑腔砲で、ビットを蹴散らそうとする。

 

 そんな中、1機のビームビットが炸裂弾の破片を浴びて墜ちる。

 

 するとどうした事か、ビットのスピードが上がった。

 

 操っている物体が1つ減った為、ビット1機当たりにおけるセシリアの集中力が上がったのだ。単純計算で1機当たり16~17%から、20%に増えたと言った所だろうか。

 結局ビットを全機落とさない限り、状況は余り変わらないらしい。

 

 どの道、先ずはビットに集中するしかない。

 ビットとティアーズ本体に攻撃を分散させれば、飽和攻撃に押し負ける。

 

 

 

 

 

 試合前父親に言った通り、鈴音は正に絶好調であった。

 いつも以上に機体が良く動き、それでいて視点はブレない。かと言って慢心も無く、何処までも冷静で落ち着いていた。

 

 だと言うのに、戦況は今の所拮抗していた。

 

(速いわね…!無駄弾も少ないし地味に堅い)

 

 どれだけ接近しようと努めても、ラファールは弾幕を駆使して甲龍を突き放そうとする。

 

 

 

(考えるな!躊躇うな!兎に角弾幕を!!)

 

 しかし甲龍の勢いは衰える事無く、相も変わらず見えない弾丸を連射しながら突っ込んで来る。

 

 谷本目掛けて飛んでくる、無数の透明なる凶器。

 

 奥底から沸き上がってくる得体の知れない恐怖を感じながらも谷本は敢えて避けず、甲龍からの斬撃だけを警戒する様後退しながら弾幕を張る。

 広範囲に且つ疎らに飛来する弾丸は、避けても避けなくても結局命中してしまう。それなら細かな回避運動よりも射撃に意識を回した方が、寧ろ相手を狙い易い。

 大事なのはより多く撃ち、より多く命中させる事だ。

 

 

 

 緊迫したドッグファイトは尚も続く。

 ラファールは5.56mm弾をばら蒔いて撹乱し、12.7mm弾を甲龍に叩き込む。

 だが甲龍は、衝撃砲を放ちながら尚も迫って来る。

 

 ある程度接近すると、今度は右肩の散弾型衝撃砲をも導入する甲龍。

 対してラファールは高速切替を使い、取り回しの良いサブマシンガン『FN P90』『Cz EVO3A1 スコーピオン』を其々呼び出す。

 

ドゥルルルルルルルルルルルルルン!!!

 

ダダダゥン!! ダダダゥン!! ダダダゥン!!

 

 P90の弾丸を甲龍の軌道先に送り付け、スコーピオンの三点バーストで確実に弾丸を当てに行く谷本。

 甲龍はある程度食らおうが構う事無く、遂に双天牙月の片方をラファールの左脚に滑り込ませる。

 

ガィィン!

 

 激しい金属音にも怯まず、ラファールは尚も全速後退しながら撃ち続ける。

 

 しかし斬撃と同時に放った甲龍の空気散弾がラファールに降り注ぎ、P90が破損。

 どうにか距離を取った谷本はサブマシンガン2丁を引っ込めると、再びアサルトライフルと重機関銃を高速切替で呼び出し同様に弾幕を張る。

 

 

 そんな撃ち合いを続けて、もうどれ程の時間が経過しただろうか。

 何が何でも接近し、斬る。何が何でも後退し、撃つ。それらしか頭に無い彼女たちは、互いのSEにも互いの弾数にも気付いていない。互いの目に映っているのは迫る甲龍、逃げるラファールだけ。

 

 そして―――

 

カチッ カチッ

 

 先に弾薬が切れたのは、ラファールの重機関銃とアサルトライフルであった。

 

 これで残武装はサブマシンガン1丁と―――

 

ジャゴンッ!!

 

 重機関銃に代わる谷本最後の切り札、IS用ガトリング砲『GAU‐0 アトラクター』であった。

 

 25mmの砲弾が、高速回転する7連砲身から硝煙と共に放たれる。

 

ガァルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!!

 

 今迄とは比べ物にならない量の砲弾が、甲龍を突き刺さんと迫る。

 

 

 

 

 

 今正に昭弘が感じている音速の世界。

 完全なるマッドビーストではないからか相手の動きがスローモーションで映る事は無く、目に映る物全てが目まぐるしく変化していった。

 

 それ程まで底上げされているグシオンでも振り払えない5機のビット。しかも、1機落とす毎に機動力が上がっていく。

 

(ッ!そこッ!!)

 

 ミニガンから放たれた無数の閃光の内、1本がビームビットを貫いた。

 結果更に速度を増すビット兵器。そして相も変わらず鳴り止まないミサイルアラートと、ティアーズからの援護射撃。

 グシオンのSEは、もう大分削れてしまっていた。

 

 ミサイルビット自体は、スピードが上がろうと脅威度は然程変わらない。全ては、ビットが射出した小型ミサイルの追尾次第だ。

 逆にもしミサイルビットを先に撃ち墜としてしまえば、残るビームビット2機の速度が更に上がってしまう。

 それもセシリアの狙いなのかもしれない。

 

 しかし、動きこそ速いがビームビットの数は残り2機。リロードの関係もあるのか、弾幕自体は大分薄くなっている。それを把握した昭弘は回避と言う選択を捨て、ビームビットを墜とす事に全神経を集中させた。

 

 

 

 セシリアの予想通り、ビットはグシオンによって次々と撃破されていった。

 しかし、グシオンのSE残量は50%を切っている。射撃兵装に至っては、ビットに残弾の殆どを使ってしまった。

 

(やはりミサイルビットは破壊しない様で)

 

 セシリアは口角を上げる。バイザーで両目が隠れている分、その様はかなり不気味だ。

 

 そして遂に、最後のビームビットが破壊されると…。

 

ダァォゥンッ!!!

 

 まるで重厚な鎖から解き放たれた様に、グシオンは勢い良くスラスターを吹かせる。

 ビームビット(邪魔者)が居なくなったからだろう。グシオンは両手に持った巨大な刃物をギラつかせながら、ティアーズに迫る。

 

 セシリアとしても本当は距離を取って迎え撃ちたい所なのだが、流石のティアーズでも今の状態のグシオンからは逃げられない。余りにも速過ぎる。

 よってグシオンの斬撃を躱し続けるしかない。

 

 その割に、彼女は何処か楽し気であった。

 

 己との実力が拮抗するであろう好敵手。

 その存在は目的に囚われがちな日々における新鮮なスパイスとして、彼女の心を刺激する。

 

 同時にその存在は彼女を酷く不安にもする。

 もし敗北すれば、実力の程を思い知らされるから。そしてそれは目的を更に強大なものにしてしまい、己の心を圧迫する。

 

―――それを支えてくれるのが友人…か

 

 セシリアはIS学園に来て知った。目的だけでは駄目なのだと。

 目的を成す為の近道となり、遠回りにもなる好敵手。それらを見据えて励む自分を見守ってくれる友人。

 今と言う瞬間を生きていく以上、目的を持つ人間にはそれらが必要なのだ。

 

 

 

 ティアーズに追い付いたグシオンは、右手のマチェットを振るうと見せかけて左手のハルバートを突き出す。

 フェイクに騙されたセシリアは避けられないと判断し両腕をクロスさせ、胸部を覆う。斧の先端が腕の装甲を突き、ティアーズのSEが減少。

 

 ティアーズは吹っ飛ばされながらもビームを放ち、何発かがグシオンに命中する。

 そのまま後退しながら乱射し続けるが、グシオンはサブアームで腰部シールドを掲げながら構わず突っ込んで来る。

 

 斬る、防ぐ、斬る、防ぐ。躱す、撃つ、躱す、撃つ。そんな攻防を何度も繰り返す両者。

 高速で且つ何度も入れ違う2機の軌道は、フィールド上に美しい二重螺旋を描いていった。

 

 

 

 

 

 VIP専用の観覧席にて、今日も2人のセレブが身を乗り出しながら試合を観ていた。

 他の紳士淑女らは、そんな彼女たちに冷やかな視線を目一杯送り付けていた。

 しかし2人は周囲に一切の興味が無いのか、まるで気にする素振りを見せない。

 

 もう完全に一夏の事など眼中にないスコールは、今目の前で繰り広げられる戦力と自軍の戦力を比較し分析する。

 

(量産機乗り…ああ言う娘も居るんだ。おまけに専用機とは違って誰にでも扱えるとなると…ウチの戦力ももう少し見直す必要がありそうね)

(それにアルトランドくんとグシオン。反応速度、エイミング、姿勢制御、どれを取っても国家代表レベル)

 

 その昭弘が敵に回る可能性。

 スコールは否定出来なかった。例え短くとも平穏な空間で生きてきた人間は、心をも「平和」と言う名の取り除き難い細菌に侵食されるのだから。

 故に彼女は次の様に焦る。

 

―――もっと「彼」と「彼のMPS」を強くしないと

 

 彼とは恐らく、先の紛争で白いMPSに乗っていた少年だろう。

 

 常にあらゆる可能性を考慮しているスコールは、昭弘と彼が激突する展開をも視野に入れるしかなかった。

 

 

 

 

 

―――――龍砲左肩部、エネルギー残量無し。

 

 頭内に響くアナウンスを聞いて漸く気付いた鈴音。

 

 しかし未だラファールしか見えてないからか、尚も鈴音は胸の昂ぶりをそのままに追い縋る。

 

 同時に、ある疑問が鈴音の中に生まれる。それは相手の目的だ。

 第2世代型の量産機で、何故そこまで食い下がれるのか。彼女をそこまで駆り立てるモノは何なのか。

 

 砲弾の嵐を掻い潜る中、気が付けば鈴音は専用回線を開いていた。

 

「随分な腕前だけど、そうまでして優勝したい理由は何なの?」

 

 谷本は突然の通信に驚くが、冷房でフィールドを満たす様にアッサリと答えた。

 

《大した事でもないけど、織斑くんと付き合えたら良いなって》

 

―――大した事でもない?

 

 谷本のどうでも良さげな言い方は、まるで自身の想い、延いては一夏そのものを馬鹿にされた様に鈴音には感じられた。

 

 鈴音は相手の言葉を心の中で反復した後、熱風の様な怒りに心を煽られる。

 

 

 

 谷本の挑発通り、怒りに任せた鈴音は甲龍のスラスターで大気を熱した。

 

 しかし怒りをそのまま「良い勢い」に昇華してしまう鈴音に対して、挑発は場合によっては逆効果だ。

 

 先の嫌な言い方は、そのまま谷本の本心なのだ。

 

―――大した目的で無くて何が悪い?好きだから強くなって何が悪い?

 

 負けられないのは谷本だって一緒だ。ISが、ISに関わる全てが好きだからだ。

 そして何より、彼女自身が友に言ったのだ。「届かない頂など無い」と。そんな彼女がここで負けては、余りに格好が付かない。

 

 谷本は身体ごとガトリング砲を甲龍に向けたまま、完全に後ろ向きの状態で飛行し始める。その姿勢は安定した照準を生み出し、絶え間ない砲弾は甲龍の接近を許さない。

 しかし極めて連射性の高いガトリング砲は、直ぐに弾切れを起こしてしまう。

 

(そうなる前に削り切る!)

 

 決して近付けさせない。かと言って離れ過ぎては、命中率が悪くなる。

 その事を意識しながら彼女は脚部スラスターと全身のバーニアを微調整し、甲龍との適切な距離を保つ。

 

 鉄塊を絶え間無く噴射するラファールに対し、甲龍は大きく上下に回避軌道を取りながら迫る。

 

 

 

 最適なコースで、ラファールをシールド際まで追い詰めようとする甲龍。

 しかし間隔の短い弾幕は、やはりどうしても何発か命中してしまう。しかも命中したそれらは25mm砲弾。一発一発のダメージは大きい。

 

 それでも鈴音は弱味を見せない。

 

 如何に撃たせ、如何に避けるか。

 鈴音はそんな思惑を、激情と共に甲龍へと乗せる。

 

 

 

 

 

 ビームビットの無い今のティアーズは、マッドビーストを発動しているグシオンの敵ではない。現に近接戦以降、グシオンのSE以上にティアーズのSEは大分削れてしまっていた。

 ミサイルビットも弾切れだ。

 

(だと言うのに何だこの威圧感は。何でそんな楽しそうに笑っていられる)

 

 まだ何か隠している。それは昭弘にも解っていた。

 

 それを抜きにしても、昭弘はセシリアに少なからず恐怖していた。前の世界ですら、滅多な事で恐怖などしなかったと言うのに。

 

―――…またオレはこうして過去を思い出す。何故だ?何故オレは此処の皆と関わっていると、いつもこうなるんだ?

 

 そんな昭弘の動揺に巻き込まれるかの様に、グシオンの動きも段々と精細さを欠いて行った。

 

 

 

 グシオンの僅かな挙動の変化を、セシリアは見逃さなかった。

 

 彼女は今迄通りの軌道を維持し、グシオンの攻撃を待つ。そうしてマチェットとハルバートによる斬撃を真横に回避するティアーズ。

 

 その直ぐ後ろから、隠れていたミサイルビットが姿を現す。

 

カチッ

 

 グシオンがミサイルビットから離れるより先に、セシリアはミサイルビットの自爆スイッチを押していた。

 

ドォォゥン!!!

 

 小規模な爆風が、またもグシオンのSEを奪っていく。

 

 

 

 ミサイルビットも撃ち落としておけば良かったと後悔するより先に、昭弘は兎に角動きながら頭のモヤモヤを掃おうとする。

 しかし、思考の道は霧で見えなくなるばかり

 

 そんな調子の昭弘に付け入る形で、ティアーズは最早後退もせずにビームを乱射しながら突っ込む。

 

 そのまるで後先を考えない戦い方は“今この瞬間”に徹底している様に、昭弘には感じられた。

 

―――…“今”?

 

 その単語を心中で復唱した後、昭弘は漸く気付いた。恐怖、そしてセシリアをライバル視する全ての理由が。

 

―――そうか…オルコットは“過去のオレ”なのか

 

 今を生きる。

 セシリアの過去など知る由も無い昭弘は、彼女を前の世界の自分と重ねてしまっていたのだ。

 

 あの日あの時、今と少しの未来だけ考えていても尚激動の様に過ぎ去って行った日々。それだけで昭弘は、その日々を十分楽しめていた。過去を振り返らずとも。

 それと似た様なモノを、昭弘はセシリアから感じ取っていた。明確な目的を持ち、此処での日々を全力で楽しむ彼女から。

 

 だから怖いのだ、過去の自分と重ねたセシリアに負けるのが。それに負けると言う事が、今迄此処で過ごして来た自分自身を否定する様で。

 

 今の昭弘が過去の昭弘より強いのかなんて解らない。

 それでも昭弘は、今の昭弘で戦うしかない。過去を想わずにはいられない、今の昭弘でだ。

 

 確かに負けるのは怖い。だがそれ以前に―――

 

―――オレは過去のオレに勝ちたい

 

 短くも、此処「IS学園」で過ごしてきた日々。

 その日常は、昭弘の記憶を鮮やかに彩っていた。そして知った。己の価値観とは懸け離れた、新たなる世界を。

 だから勝ちたいのだ、信じたいのだ。鉄華団に勝るとも劣らない、こんなにも素晴らしい仲間が居る今の昭弘の強さを。過去に想いを馳せる事を許してくれた、戦いの楽しさを教えてくれた、この居場所を。

 

 直後、グシオンは再び狂獣を取り戻す。

 

 迫るティアーズに対しグシオンは目にも止まらぬ速さで背後に回り込み、ハルバートを振り下ろす。

 ティアーズは寸での所でそれを躱すが、回避先を読んでいた昭弘はサブアームに呼び出していたミニガンを斉射。命中はしたが、グシオンの残弾はこれで全て空だ。

 

 だが寧ろ好都合。これで迷いなく近接戦に集中出来る。

 

 昭弘はグシオンの両手にハルバートとマチェット、両サブアームに腰部シールドとグシオンハンマーを呼び出し、フル装備でティアーズに突撃する。

 

 

 

 ティアーズは迫るグシオンに向かって、牽制射撃を行う。

 

ガチンッ!

 

 こちらも、マガジンを含めた全ての残弾が費えてしまった。

 

(まだまだッ!)

 

 セシリアは最後のミサイルビットを自身の背後に隠す。機を見て叩き込むつもりだ。

 そんな事お見通しである筈の昭弘だが、勢いを止める事は無かった。

 

 ティアーズはグシオンの動きを一瞬封じる為、敢えて防御態勢を取った。絶対防御が発動しない限り、1発分なら持つと踏んだのだろう。

 

 しかし昭弘もティアーズが動かないと読んでいたのか、ハンマーを大降りに掲げる。

 最大の攻撃力を以て、一気にSEを減らすのだ。

 

ガゴォゥンッ!!!

 

 膨大な衝撃が上から雪崩れ込む。SEが大幅に削られる中、どうにか吹っ飛ばされずに堪えたティアーズ。そして―――

 

チュドォォン!!!

 

 ハンマーの直撃前、グシオンの背後に回しておいたミサイルビットが特攻、爆散。

 その隙に大きく距離を取ったセシリアは、爆炎を見詰めながら唾を飲み込む。

 

 が、グシオンは爆炎から飛び出し、今度こそティアーズを仕留めんと迫る。

 

「チィッ!!!」

 

《オルコットォォォォォッッ!!!》

 

 既に互いのSE残量はギリギリだ。弾丸1発でも掠ればそれで終わる。

 それが解っているセシリアは、後退しながら何かを捻り出す様に強く瞼を閉じる。

 

―――間に合って!!!

 

 数秒後、彼女の右手に護身用のコンバットナイフ『インターセプター』が呼び出される。普段近接武器を一切使用しない分、呼び出すのに時間が掛かってしまった。

 ソレを、迫るグシオンに向かって弾丸の如く投擲する。

 

 しかし、最後の切り札もグシオンの腰部シールドに阻まれてしまった。

 

 これでティアーズは完全に丸裸だ。

 

 セシリアは、青褪めながらも必死に機体を動かす。

 絶対に負けたくない。今迄この瞬間に至るまで、一体どれ程の時間と労力を費やして来たのか他でもないセシリア自身が一番良く知っている。

 だが現実に、もう敗北は目の前まで来ている。よもやシュトラールの様に拳足で立ち向かえる程の格闘技術など、セシリアにある筈もなく。

 

―――また…また負けると言うのですか!?結局また…

 

 己の弱さに落胆するセシリア。同じ相手に負けると言う悔しさが、「また」と言う単語を何度も吐き出させた。

 

 守りたい家が、愛する人が遠のく。

 

 それでも噛み締めるしかなかった。

 

 悔いは無い、持てる全てを出し切った、今はこれが限界なのだ。

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 遂にGAU-0の全砲弾が尽きてしまったラファール。

 一方の甲龍は、まだ僅かに右肩衝撃砲のエネルギーが残っていた。

 

 直後、鈴音も谷本も初めて己のSEを確認する。互いにもう5%を切っていると確認した両者は、一気に距離を縮め始める。

 甲龍は双天牙月を振り翳しながら。ラファールはフルオートに切り替えたスコーピオンを構えながら。

 

 弾丸を掻い潜り、刃をやり過ごしていく2機は、狭い空間に似て非なる放物線を描いていく。

 

 しかしそんな近距離で全ての攻撃を躱し切れる筈も無く、終わりは直ぐ訪れる。

 

 両機のSE残量が1%に達した時だった。高速戦闘の最中、偶然にも互いの銃口が向き合う。

 僅かな弾丸、僅かなエネルギーを、目の前の敵にぶつけようとする。

 

 

 刹那の出来事であった。

 

 鈴音の視界の端に、ティアーズとグシオンが入り込んだのだ。丁度、ティアーズがグシオンに対してコンバットナイフを投げた直後だ。

 

 空気砲をラファールに向けたまま、鈴音は一瞬の内に思考する。

 試合も終盤。このタイミングで射撃武装ではなく、ナイフをしかも投げると言う事は…ティアーズの武装はもう…。

 

 瞬間、鈴音はティアーズとグシオンに向けて牙月をブン投げた。

 理由は彼女にも解らない。極めて感覚的なモノだ。

 

 だが、確かな事が1つだけあった。

 それは鈴音が「あの約束」を片時も頭から離さなかったと言う事だ。「セシリアを勝たせる」と言う口約束を。

 

 そして甲龍の手から双天牙月の片方が離れた瞬間互いの弾丸が命中し、アナウンスが響き渡る。

 

《甲龍、及びラファールリヴァイブ。SEエンプティ!!》

 

 互いの動きがピタリと止まる中、巨大な青龍刀だけが回転しながら突き進んで行った。

 

 

 

 

 

 向かってくるソレに対し、セシリアは思考を放棄して無我夢中で手を伸ばす。

 

 「後付武装は他者の使用に制限がかかっている」「だが初期装備なら」「持ち主のSEが尽きたら或いは」。そんな事を考える余裕など、あればとっくに勝利している。

 

 伸ばした手にはまるで牙月の柄が自然と吸い寄せられていく様に、ピタリと収まった。

 

 そして既にマチェットとハルバートを大きく振り上げているグシオンに向けて、振り返り様に一刀を力の限り振り下ろした。

 

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 

 

「ウォオ゛ォォォォラ゛ァァァァァァァッッ!!!!!」

 

 

 

ガァギャァァァァァンッ!!!!!

 

 

 

 激しくぶつかる金属同士。

 向かい合ったまま、同じ姿勢で硬直する2機。

 

 先にSEが尽きたのは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《グシオンリベイク!SEエンプティ!!》

 

《優勝!オルコット・凰ペア!!》

 

 

 

 甲龍から託された牙月の切っ先は、グシオンの鋼鉄のボディに到達していた。

 

 グシオンが放ったマチェットの刃は、セシリアの肩峰直前で静止していた。

 

 

 それがこの試合のごく“一部”であり、“結果(全て)”であった。




次回、試合後における各々の心情を描写します。ある意味ではこっちが本編と思う方も多いのではないでしょうか。
いつになるかは何とも言えませんが、なるべく今月中に投稿しようと思います。




疲れた・・・。
少なくとも、今日はもう何も書きません・・・。

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