IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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長い戦いでした。この3週間、本当に長い戦いでした・・・。シフト増えるわ(最大要因)、展開が全く思いつかないわ、何度も書き直すわで・・・。

と言う訳で、何度目になるかは分かりませんが、大変お待たせ致しました!

シャルとデリーの会話は、後の「解決編」か次回に持ち越そうかと思います。話の構成的に、その方が良いかと判断しました。

武装の「使用制限(ロック)」辺りはうろ覚えでした・・・(小声)


第30話 蛮人と貴人の「決着」

 開始早々。

 セシリアがバイザー越しに見据えていたグシオンリベイクは、巨大マチェット『ギュスターブ』を振り翳し、サブアームに呼び出したミニガンを乱射しながら一気に距離を詰めてきた。そこまでは良い。なればセシリアは距離を取るだけだ。

 問題はその「スピード」。瞬時加速と見紛う程のソレは、ブルー・ティアーズを決して逃してはくれなかった。

 

 今なお向かって来るグシオンに対し、セシリアはビームビットとスターライトMkⅢで牽制する。

 

 

(・・・鈴、ラファールは任せましたわよ?)

 

 その言葉は勿論、鈴音を信頼しているが故であったが、何よりセシリア自身、ビットを甲龍の援護に回す余裕など無かった。文字通り「全て」を出し切らなければ勝てない相手だと、セシリア自身良く解っているのだ。

 

 そんなセシリアが一切の慢心をかなぐり捨てた弾幕を、グシオンはスピードを維持したまま上下左右に躱していく。更に急接近するグシオンが放つ光線の雨は、ジワジワとティアーズの装甲を掠めんと迫る。

 

 しかし、セシリアの表情からは「焦り」の色は一切無い。何故ならーーー。

 

(確かに速い・・・ですが、『シュバルツェア・シュトラール』と比べたら・・・!)

 

 あの「超絶機動」を相手にしていたセシリアなのだ。瞬時加速並とは言え、「曲線軌道」じゃ今のセシリアの動揺は誘えない。

 セシリアは敢えて速度を落とし、グシオンからの攻撃を誘う。グシオンは彼女が予想した通りのルートをそのままなぞりながら、マチェットを袈裟懸けに振るう。

 しかし、ティアーズは脚部スラスターだけを吹かし、グシオンの直上へと回避しながら、更には計5門の銃口から一斉にビームを放つ。これは流石のグシオンも、一旦距離を取らざるを得ない。

 

 セシリアは距離を取るグシオンに対し、今度はミサイルビット2機を展開。ソレから射出された小型ミサイルは、グシオンを執拗に追い回す。

 

 

 昭弘にとって、意外にもミサイルは「厄介な相手」であった。理由はその「追尾能力」にある。

 確かに、逃げ続けていればいずれミサイルの方が燃料切れになるし、何なら射撃武装で撃ち落としてしまえば良い。しかし、どんな軌道で飛ぼうとしつこく迫って来るミサイルは、嫌でも昭弘の意識を分散させる。

 

(・・・無視だ、弾が勿体ねぇ。それより、今はブルー・ティアーズに近寄らねぇと。)

 

 しかし、もう遅い。と言うよりも、相手の動きが速すぎた。

 ティアーズ本体の周囲を護る様に浮遊していたビームビット4機は、既にグシオンを取り囲んでいた。

 「悪夢のオールレンジ攻撃」の始まりである。

 

(・・・序盤で一気に削る算段って訳か。)

 

 例えビットを全機破壊出来たとしても、その時点でグシオンのSEも大きく削れている事は間違いない。

 

 昭弘は固唾を飲みながら、マチェットを握る力を強める。

 

 

 

 谷本の目的は、決勝戦だろうと変わらない。グシオンの援護、そして相手の妨害だ。

 鈴音の場合は、ティアーズの邪魔をさせない事、グシオンへの援護を分断する事が今試合の目的であった。

 そんな2機が真正面からぶつかり合う事は、最早「予定調和」と言っても良いだろう。

 

 一先ず谷本が甲龍に対してすべき事は、兎にも角にも「近づかせない」事であった。近接特化の甲龍に対して、谷本の戦術は実に「セオリー通り」と言えるだろう。

 ()()()()()ならばの話だが。

 

デュルルルルルルルルルルルゥンッ!!!

 

「!?」

 

 彼女が驚くのも納得だ。

 連射型に改良された衝撃砲など、今までセシリア以外誰も見た事がない。

 

 しかし、彼女が真に驚いているのは、ソレが自身に「当たる」と言う点だった。

 砲身が見えないのは、相手だけでなく鈴音も同じ事。ならば、散弾の様に空気弾を撃ち出さない限り、当てるのは困難を極める。

 

 「では何故?」と考える前に、谷本は引金を引く事に努めた。

 解らない事を解らないままにしておくのは、彼女も望む所ではないのだろうが、一番肝心な事が相手のSEを減らすと言う事も又、良く理解していた。

 

 

 連射型にセッティングし、その上更なる改良を加えた左肩の衝撃砲。その予想以上の性能に、鈴音は大いに満足していた。

 発射する際、生成された空気砲身を振動させる事で、連射時に集弾されている筈の空気弾を拡散させているのだ。これならば、散弾時の命中範囲をある程度維持し、有効射程も大幅に伸ばす事が可能だ。

 

(それだけじゃないわ!衝撃砲の真髄はこっからよ!?)

 

 鈴音は甲龍の機動力を存分に活かしながら、フィールド中を縦横無尽に飛翔する。

 

 

 連射拡散型衝撃砲に対し、谷本はIS用重機関銃『ブローニングXM2020』とアサルトライフル『FN F2000』で応戦する。

 見えないとは言え、集弾率と弾幕なら此方が圧倒的に有利と踏んだのだろう。

 

(・・・大丈夫、行ける!)

 

 絶対防御をなるべく発動させない為、彼女は肌の露出を極限まで抑える様にラファールの追加装甲をセットしていた。機動力を損なわない様、出来るだけ薄く、出来るだけ小さく。

 

 そんな、衝撃砲対策も万全な谷本であったがーーー。

 

(ッ!!・・・何?この動き・・・・・・!)

 

 元々、甲龍は高機動型の専用ISだ。純粋な機動力では、今迄戦ってきたどのISにも勝ると、谷本も覚悟はしていた。

 しかし、いくら高機動とは言え「撃ちながら飛ぶ」となると、それに応じて空中機動も限定的になる。それは、銃口・砲口を敵機に向ける必要が有るからだ。

 

 だが、甲龍の衝撃砲の射角は無限だ。どの角度、どんな体勢でも相手に銃口を向ける事が可能なのだ。

 これこそが、衝撃砲の真骨頂であった。射撃武装を使っているとは思えない程の、「自由な空中機動」。双天牙月を両手に携えたまま、縦に回転しようと横に回転しようと、急激な加減速・旋回を行おうと、「見えない銃口」はしっかりとラファールを捉えていた。

 谷本は、そんな常に止まらず縦横無尽に動き回る甲龍を、更には見えない弾幕に晒されながら狙わねばならない状況にあった。

 

(・・・・・・けど。)

 

 彼女は、胸中で自身がやるべき事を纏め上げる。

 

「今の私には、どの道、コレしか・・・!」

 

 そう、谷本のやる事は変わらないし、変えられない。

 絶えず「動き」そして「撃つ」。

 そんな谷本自身の単純明確な“実力”を、彼女は信じるしかないのだ。

 

 

 

 ビットによって様々な角度から放たれる閃光を、グシオンは最小限の動きで躱していく。

 

 しかし、ビットのオールレンジ攻撃に加えて、 ティアーズ本体からも止めどなくビームの嵐が降り注ぐ。ビットの合間を縫う様に、細かく分断された光の糸がグシオンに襲い掛かる。

 

(どんな神業だ!?そんだけドカドカ撃ってりゃ、自分のビットにも当たるもんだろ普通は!!)

 

 単純なエイミングの高さ。ライフルの「引き金」に合わせた、ビットの絶妙な配置転換。恐らくはその両方であろう。

 更には、2機のミサイルビット。

 ミサイルが燃料切れで墜ちていったら、また追加の小型ミサイルを発射してくるのだ。

 そんな八方塞がりな状況では、流石の昭弘でも全弾は捌き切れない。

 

 勿論、グシオンもただ逃げ惑っている訳ではない。

 両手両サブアームに呼び出した、計4丁のビームミニガンと滑腔砲で、ビットを蹴散らそうとする。

 しかし、以前戦った時よりも明らかにビットの動きが速くなっていた。6機も同時に操っているのに、だ。

 

 そんな中、グシオンから僅かに遠い中空で炸裂弾が起爆し、1機のビームビットが破片を浴びて墜ちていく。するとーーー

 

(ッ!・・・ビットのスピードが上がりやがった。)

 

 操っている物体が1つ減った為、ビット1機当たりにおけるセシリアの集中力が上がったのだ。単純計算で1機当たり16~17%から、20%に増えたと言った所だろうか。

 結局、ビットを全機落とさない限り、状況は余り変わらないらしい。

 

(・・・やるしかねぇか。)

 

 どの道、先ずはビットに集中するしかない。

 ビットとティアーズ本体に攻撃を分散させれば、飽和攻撃に押し負ける可能性が高い。

 

 昭弘も谷本と同じく、「やり方」を変えるつもりは無い様だ。

 

 

 

 試合前「父親」に言った通り、鈴音は正に“絶好調”であった。

 いつも以上に機体が良く動き、それでいて視点はブレない。かと言って慢心も無く、何処までも冷静で落ち着いていた。

 

 だと言うのに、戦況は今の所拮抗していた。

 

(チッ!速いわね・・・!無駄弾も少ないし、あと地味に堅い!)

 

 どれだけ接近しようと努めても、ラファールは弾幕を駆使して甲龍を突き放そうとする。

 

 

 谷本は、残弾を気にする事無く撃ち続けた。

 

(考えるな!躊躇うな!兎に角弾幕をッ!!)

 

 しかし、甲龍の勢いは衰える事無く、相も変わらず「見えない弾丸」を連射しながら突っ込んで来る。

 

 谷本目掛けて飛んでくる、無数の「透明なる凶器」。

 

 奥底から沸き上がってくる得体の知れない恐怖を感じながらも、谷本は敢えて避けず、甲龍からの斬撃だけを警戒する様後退しながら弾幕を張る。

 広範囲に、尚且つ只管「疎ら(まばら)」に飛来する弾丸は、避けても避けなくても結局命中してしまう。それなら細かな回避運動よりも射撃に意識を回した方が、寧ろ相手を狙い易いと言う事だろう。

 大事なのはより多く撃ち、より多く命中させる事だ。

 

 

 緊迫したドッグファイトは尚も続く。

 ラファールは5.56mm弾をばら蒔いて甲龍を撹乱し、12.7mm弾を叩き込む。

 何発か食らう甲龍だが、衝撃砲を放ちながら尚も迫って来る。

 

 ある程度接近すると、今度は右肩の散弾型衝撃砲をも導入する甲龍。

 対してラファールは高速切替を使い、取り回しの良いサブマシンガン『FN P90』『Cz EVO3A1 スコーピオン』を其々呼び出す。

 

ドゥルルルルルルルルルルルルルン!!!

 

ダダダゥン!! ダダダゥン!! ダダダゥン!!

 

 P90の弾丸を甲龍の軌道先に送り付け、スコーピオンの三点バーストで確実に弾丸を当てに行くラファール。

 甲龍はある程度食らおうが構う事無く、遂に双天牙月の片方をラファールの左脚に滑り込ませる。

 

ガィィン!

 

 激しい金属音にも怯まず、ラファールは尚も全速後退しながら撃ち続ける。

 しかし、斬撃と同時に放った甲龍の空気散弾がラファールに降り注ぎ、P90が破損する。

 どうにか距離を取った谷本は、サブマシンガン2丁を引っ込めると再びアサルトライフルと重機関銃を高速切替で呼び出し、同様に弾幕を張る。

 

 そんな撃ち合いを続けて、もうどれ程の時間が経過しただろうか。

 何が何でも接近し、斬る。何が何でも後退し、撃つ。それらしか頭に無い彼女たちは、互いのSEにも互いの弾数にも気付いていない。互いの目に映っているのは迫る甲龍、逃げるラファールだけだ。

 そして、遂にーーー

 

カチッ カチッ

 

 先に弾薬が切れたのは、ラファールの重機関銃とアサルトライフルであった。

 これで残武装はサブマシンガン1丁と・・・・・・

 

ジャゴンッ!!

 

 重機関銃に代わる谷本最後の切り札、IS用ガトリング砲『GAU‐0 アトラクター』であった。

 

ーーー行くよ?最終兵器さんッ!

 

 25mmの砲弾が、高速回転する7連砲身から硝煙と共に放たれる。

 

ガァルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!!

 

 今迄とは比べ物にならない量の砲弾が、甲龍を突き刺さんと迫る。

 

 

 

 今正に昭弘が感じている「音速の世界」。完全なるマッドビーストではないからか相手の動きがスローモーションで映る事は無く、目に映る物全てが目まぐるしく変化していった。

 

 それ程まで底上げされているグシオンでも 、振り払えない5機のビット。しかも、1機落とす毎に機動力が上がっていくのだ。

 

 それでも昭弘は、ビットへの攻撃を止めようとはしない。

 

(・・・ッ!そこッ!!)

 

 ミニガンから放たれた無数の閃光の内、1本がビームビットを貫いた。

 結果、更に速度を増すビット兵器。そして相も変わらず鳴り止まないミサイルアラートと、ブルー・ティアーズからの援護射撃。

 グシオンのSEは、もう大分削れてしまっていた。

 

(ミサイルビット・・・アレはスピードが上がろうと、脅威度はそんなに変わらん。実質、ビームビットさえ仕留めれば・・・。)

 

 逆に、もしミサイルビットを先に撃ち墜としてしまえば、残るビームビット2機の速度が更に上がってしまうだろう。

 それも又、セシリアの狙いなのかもしれない。

 

 しかし、動きこそ速いがビームビットの数は残り2機だけだ。リロードの関係もあるのか、弾幕自体は大分薄くなっている。それを把握した昭弘は、回避と言う選択を捨て、ビームビットを墜とす事に全神経を集中させた。

 昭弘は、ビット1機に狙いを定めると、両腕にマチェットとハルバートを呼び出す。空いた両サブアームにミニガンを持たせ、もう1つのビームビットとミサイルを牽制する。

 そうしてグシオン自体がまるで追尾ミサイルの様に、狙ったビットを追い回す。しつこく追い縋るグシオンに対し、ビットは砲身を向けて反撃しようとするが、急加速したグシオンが先にマチェットでビットを両断する。

 

 

 セシリアの予想通り、ビットはグシオンによって次々と撃破されていった。

 しかし、グシオンのSE残量は既に50%を切っている。射撃兵装に至っては、ビットに残弾の殆どを使ってしまったであろう。

 

(やはりミサイルビットは破壊しない様で・・・。フフッ、愚かな。)

 

 事が順調に運んでいるからか、セシリアは口角を上げる。バイザーで両目が隠れている分、その様はかなり不気味だ。

 

 そして遂に、最後のビームビットが破壊される。途端ーーー

 

ダァォゥンッ!!!

 

 まるで重厚な鎖から解き放たれたかの様に、グシオンは勢い良くスラスターを吹かせる。

 ビームビット(邪魔者)が居なくなったからだろう。グシオンは両手に持った巨大な刃物をギラつかせながら、ティアーズに迫る。

 

 さて、ここからは「近接戦」だ。

 セシリアとしても、本当は距離を取って迎え撃ちたい所なのだが、流石のティアーズでも「今の状態のグシオン」からは逃げられない。余りにも速過ぎる。

 よって、グシオンの斬撃を躱し続けるしかない。

 

 その割に、彼女は何処か楽し気であった。

 

(・・・・・・良いものですわね。「強敵」と言う存在は。)

 

 己との実力が拮抗するであろう好敵手(ライバル)

 その存在は、「目的」に囚われがちな日々における「新鮮なスパイス」として、彼女の心を刺激する。

 

 同時に、その存在は彼女を酷く不安にする。もし敗北すれば、実力の程を思い知らされるからだ。そしてそれは、目的を更に“強大”なものにしてしまい、己の心を圧迫する。

 

ーーーそれを支えてくれるのが“友人”・・・か。

 

 セシリアは「IS学園」に来て知った。目的だけでは駄目なのだと。目的を成す為の近道となり、遠回りにもなる好敵手。それらを見据えて励む自分を見守ってくれる友人。

 “今”と言う瞬間を生きていく以上、目的を持つ人間にはそれらが必要なのだ。

 

ーーーアルトランド。お前はちゃんと“今”を生きているのですか?それとも・・・。

 

 彼女の思考は、グシオンの急接近を知らせるアラートによって、一旦途切れる。

 

 

 ティアーズに追い付いたグシオンは、右手のマチェットを振るうと見せかけて、左手のハルバートを突き出す。フェイクに騙されたセシリアは、避けられないと判断して両腕をクロスさせ、胸部を覆う。斧の先端が腕の装甲を突き、ティアーズのSEが減少する。

 しかし、ティアーズは吹っ飛ばされながらもビームを放ち、何発かがグシオンに命中する。そのまま後退しながら乱射し続けるが、グシオンはサブアームで腰部シールドを掲げながら構わず突っ込んで来る。

 

 斬る、防ぐ、斬る、防ぐ。躱す、撃つ、躱す、撃つ。そんな攻防を何度も繰り返す両者。

 高速で且つ何度も入れ違う2機の軌道は、フィールド上に美しい二重螺旋を描いていった。

 

 

 

 VIP専用の観覧席にて、今日も2人のセレブが身を乗り出しながら試合を観ていた。

 他の紳士淑女らは、そんな()()()()に冷やかな視線を目一杯送り付けていた。しかし、2人は周囲に一切の興味が無いのか、まるで気にする素振りを見せない。

 

 もう完全に一夏の事など眼中にないスコールは、今目の前で繰り広げられる戦力と自軍の戦力を比較し、分析する。

 

(量産機乗り・・・ああ言う娘も居るんだ、IS学園。おまけに専用機とは違って誰にでも扱えるとなると・・・ウチの戦力も、もう少し見直す必要がありそうね。)

 

(それに、アルトランドくんとグシオン・・・。反応速度、エイミング、姿勢制御、どれを取っても国家代表レベル・・・。)

 

(・・・・・・もし・・・もし仮に、アルトランドくんが敵に回る様な事態を想定するなら・・・。)

 

ーーーもっと「彼」と「彼のMPS」を強くしないと。

 

 スコールが今後のプランをザックリと展開している中、トネードは唯々昭弘の事を考えていた。

 

ーーー・・・美しいな。

 

 それが、IS・MPSの素人である彼の率直な感想であった。四方八方から張り巡らされる「光の網」を掻い潜るその姿は、確かに華麗にも見えよう。

 そしてその光景は、トネードの「欲」を激しく掻き立てるには十分だった。

 

ーーー君が欲しい。アルトランドくん。君と「彼」が居れば、アタシたちの目指す世界はきっと・・・。

 

 その時、彼の瞳は怖ろしく純粋に輝いており、その紅い瞳に映るグシオンはまるで返り血を浴びた様に赤黒かった。

 

 

 

 1つの空間で繰り広げられている、2つの「戦い」。

 その戦いを、箒とラウラはどちらを応援する訳でもなく、ただ静かに見詰めていた。

 

(・・・・・・まるで読めん。一体どちらが勝つのだ?)

 

 軍属でありIS戦に詳しいラウラでさえも、先の展開がまるで予想出来ずにいた。

 

 一方の箒は、別次元の戦いを繰り広げる4人を観て、強く歯噛みしていた。

 

ーーー私に、もっと“力”があれば・・・。

 

 「篠ノ之箒」として、強くなる事を望む彼女。

 一方で今戦いを繰り広げている4人は、少なくとも「自身の強み」を見出し、それを更に磨き上げる次元に来ている様に、箒には感じられた。

 そんな4人の内の1人に、箒は「完全敗北」を喫した。眼前における4人の「隔絶された戦い」は、箒にその事実を激しく突き付けて来る。

 

 箒の中で蠢く“焦り以上のナニカ”は、増々力を欲する様に増大していった。

 

 

 

 眼球が真っ赤に充血している相川は、口を閉じながら大人しく試合を観ていた。スポーツ観戦が好きな彼女だが、泣き疲れてしまったのか大声で叫ぶ事は無かった。

 彼女が観ているのは1機だけ。谷本とラファールだ。

 

(・・・負けたら承知しないかんね?癒子。)

 

 優勝への道を閉ざした、憎き友人。

 だが同時に、相川は誇りにも思っていた。

 専用機とは違って、弱い弱い量産機。それでここまで勝ち進んでくれた谷本に、相川は同じ量産機乗りとして敬意を払わずにはいられなかった。

 

 そんな相川は、悔しさと同時にまるで自分事の様な嬉しさに襲われていた。

 

 

 

 GAU‐0の利点は、毎分4000発近くにもなる発射速度、25mm砲弾による抜群の破壊力だ。

 しかし、当然弱点もあり、大きさや重量、反動による取り回しの悪さがそれに当たる。

 

 それらを何となく理解している鈴音は、ガトリングの初撃を食らっても比較的平静を保っていた。

 

ーーーーー龍砲左肩部、エネルギー残量無し。

 

 そんな中、頭内に響くアナウンスを聞いた鈴音は、漸く左肩の衝撃砲のエネルギーが切れている事に気付いた。

 

 しかし、尚も甲龍は追い縋る。

 そうするしかないからか、未だにラファールしか見えていないからかは、定かではない。

 鈴音が先程から感じている確かな事は、この戦いにおける「胸の高ぶり」であった。

 

 同時に、ある「疑問」が鈴音の中に生まれる。それは相手の「目的」だ。

 第2世代型の量産機で、何故そこまで食い下がれるのか。彼女をそこまで駆り立てる“モノ”は何なのか。

 砲弾の嵐を掻い潜る中、気が付けば鈴音は専用回線を開いていた。

 

「随分な腕前だけど、そうまで優勝したい理由は何なの?」

 

 ラファールのパイロットは突然の通信に驚くが、「何でもない」様にアッサリと答えを返した。

 

《マァ大した事でもないけど、「織斑くんと付き合えたら良いなぁ」と思って。》

 

ーーー・・・・・・大した事でもない?

 

 谷本のどうでも良さげな言い方は、まるで自身の想い、延いては一夏そのものを馬鹿にされた様に、鈴音には感じられた。

 鈴音は相手の言葉を心の中で反復した後、熱風の様な怒りに心を煽られる。

 

 

 谷本の予想通り、怒りに任せた鈴音は甲龍のスラスターで大気を熱した。

 

(効果覿面だね。)

 

 しかし、怒りをそのまま「良い勢い」に昇華してしまう鈴音に対して、挑発は場合によっては逆効果だ。

 

 先の「嫌な言い方」は、そのまま谷本の本心なのだ。

 

ーーー大した目的で無くて何が悪い?好きだから強くなって何が悪い?

 

 負けられないのは、谷本だって一緒だ。ISが、ISに関わる全てが好きだからだ。

 そして何より、彼女自身が言ったのだ。「届かない頂など無い」と。そんな彼女がここで負けては、余りに格好が付かない。

 

 ラファールは身体ごとガトリング砲を甲龍に向けたまま、完全に後ろ向きの状態で飛行し始める。その姿勢は安定した照準を生み出し、絶え間ない砲弾は甲龍の接近を許さない。

 しかし、極めて連射性の高いガトリング砲は、直ぐに弾切れを起こしてしまう。

 

(そうなる前に、削り切るッ!)

 

 決して近付けさせない。かと言って離れ過ぎては、命中率が悪くなる。その事を意識しながら、彼女は脚部スラスターと全身のバーニアを微調整し、甲龍との適切な距離を保つ。

 

 鉄塊を絶え間無く噴射するラファールに対し、甲龍は大きく上下に回避軌道を取りながら迫る。

 

 

 最適なコースで、ラファールをシールド際まで追い詰めようとする甲龍。

 しかし、間隔の短い弾幕は、やはりどうしても何発かが命中してしまう。更に、命中したそれらは25mm砲弾。一発一発のダメージは大きい。

 それでも、鈴音は弱味を見せない。

 

(さぁ、もっと弾を吐き出しなさい!)

 

 如何に撃たせ、如何に避けるか。

 鈴音はそんな思惑を、激情と共に甲龍へと乗せる。

 

 GAU-0の弾が切れた時こそ、勝負の別れ道だ。

 

 

 

 ビームビットの無い今のティアーズは、マッドビーストを発動しているグシオンの敵ではない。現に近接戦以降、グシオンのSE以上にティアーズのSEは大分削れてしまっていた。

 ミサイルビットも、サイズ的にもうミサイルは入っていないだろう。

 

(だと言うのに何だってんだ、この「威圧感」は。・・・何でそんなに、楽しそうに笑っていられるんだ?)

 

 まだ“何か”隠している。それは昭弘にも解っていた。

 それを抜きにしても、昭弘はセシリアに少なからず恐怖していた。「前の世界」ですら、滅多な事で恐怖などしなかったと言うのにーーー

 

(ッ!)

 

ーーー・・・・・・またオレはこうして「過去」を思い出す。・・・何故だ?何故オレは「此処の皆」と関わっていると、いつもこうなるんだ?

 

 「過去」を想う。それは昭弘にとって、余りにも不慣れな感情であった。今迄ずっと、振り返らずに“今”だけを生きて来た彼なのだから。

 

 そんな昭弘の動揺に呼応するかの様に、グシオンの動きも段々と精細さを欠いて行った。

 

 

 グシオンの僅かな挙動の変化を、セシリアは見逃さなかった。

 

(好機ッ!!今の奴にならミサイルビットの不意打ちも・・・!)

 

 ティアーズは今迄通りの軌道を維持し、グシオンの攻撃を待つ。そうして、マチェットとハルバートによる斬撃を真横に回避するティアーズ。その直ぐ後ろには、ミサイルビットが控えていた。

 

カチッ

 

 グシオンがミサイルビットから離れるより先に、セシリアはミサイルビットの「自爆スイッチ」を押していた。

 

ドォォゥン!!!

 

 小規模な爆風が、またもグシオンのSEを奪っていく。

 

 

 「ミサイルビットも撃ち落としておけば良かった」と後悔するより先に、昭弘は兎に角動きながら頭のモヤモヤを掃おうとする。しかし、考えれば考える程、脳内の霧は濃くなるばかり。

 

 そんな調子の昭弘などお構い無しに、ティアーズは最早後退もせずにビームを乱射しながら突っ込んで来る。そのまるで後先を考えない戦い方は、“今この瞬間”に徹底している様に、昭弘には感じられた。

 

ーーー・・・・・・・・・“今”?

 

 その単語を心中で復唱した後、昭弘は漸く気付いた。恐怖、そしてセシリアをライバル視する全ての理由が。

 

ーーーそうか・・・オルコットは、“過去のオレ”なのか。

 

 只管に“今”を生きる。

 セシリアの過去など知る由も無い昭弘は、彼女を「前の世界」の自分と重ねてしまっていたのだ。

 実際に体感した昭弘だから解る。あの日、あの時、“今”と“少しの未来”だけ考えていても尚、激動の様に過ぎ去って行った日々。そして、それだけで昭弘は、その日々を十分楽しめていた。過去を振り返らずとも。

 それと似た様なモノを、昭弘はセシリアから感じ取っていた。明確な目的を持ち、此処での日々を全力で楽しむ彼女から。

 だから怖いのだ。「過去の自分」と重ねたセシリアに負けるのが。それに負けると言う事が、今迄此処で過ごして来た自分自身を否定する様で・・・。

 

(・・・・・・・・・今のオレは、過去のオレより強いのか?)

 

 それは誰にも解らない。

 それでも昭弘は、“今の昭弘”で戦うしかない。過去を想わずにはいられない、今の昭弘でだ。

 

(・・・確かに負けるのは・・・怖い。だがそれ以前にーーー)

 

ーーーオレは、過去のオレに勝ちたい。

 

 短くも、此処「IS学園」で過ごしてきた日々。その日常は、昭弘の記憶を鮮やかに彩っていた。そして知った。己の価値観とは懸け離れた、新たなる「世界」を。

 だから勝ちたいのだ、否、信じたいのだ。「鉄華団」にも勝るとも劣らない、こんなにも素晴らしい仲間が居る、今の昭弘の強さを。過去に想いを馳せる事を許してくれた、「戦いの楽しさ」を教えてくれた、この居場所を。

 

 直後、グシオンは再び「狂獣」を取り戻す。

 

 迫るティアーズに対し、グシオンは目にも止まらぬ速さで背後に回り込み、ハルバートを振り下ろす。ティアーズは寸での所でそれを躱すが、回避先を読んでいたグシオンはサブアームに呼び出していたミニガンを斉射する。命中はしたが、グシオンの残弾はこれで全て空だ。

 

(寧ろ好都合だ。これで迷いなく近接戦に集中出来る。)

 

 昭弘はグシオンの両手にハルバートとマチェット、両サブアームに腰部シールドとグシオンハンマーを呼び出し、フル装備でティアーズに突撃する。

 

 

 ティアーズは迫るグシオンに向かって、牽制射撃を行うが・・・。

 

ガチンッ!

 

「!」

 

 こちらも、マガジンを含めた全ての残弾が費えてしまった様だ。

 

(まだまだッ!)

 

 セシリアは最後のミサイルビットを、自身の背後に隠す。機を見て叩き込むつもりの様だ。

 そんな事お見通しである筈の昭弘だが、勢いを止める事は無かった。

 

 ティアーズはグシオンの動きを一瞬封じる為、敢えて防御態勢を取った。絶対防御が発動しない限り、1発分なら持つと踏んだのだろう。

 しかし、昭弘も又ティアーズが動かないと読んでいたのか、ハンマーを大降りに掲げる。最大の攻撃力を以て、一気にSEを減らすつもりだ。

 

ガゴォゥンッ!!!!!

 

 膨大な衝撃が、上から雪崩れ込む。SEが大幅に削られる中、どうにか吹っ飛ばされずに堪えたティアーズ。そしてーーー

 

チュドォォン!!!

 

 ハンマーの直撃前、グシオンの背後に回しておいたミサイルビットが特攻し、爆散する。

 その隙に大きく距離を取ったセシリアは、「どうだ!?」と爆炎を見詰めながら唾を飲み込むが・・・。

 

バォゥン!!

 

 グシオンは爆炎から飛び出し、今度こそティアーズを仕留めんと迫る。

 

「チィッ!!!」

 

《終わりだ!!オルコットォォォォォッッ!!!!!》

 

 既に互いのSE残量はギリギリだ。弾丸1発でも掠れば、それで終わる。

 それが解っているセシリアは、後退しながら何かを捻り出す様に、強く瞼を閉じる。

 

ーーー間に合え!間に合え!!間に合え!!!

 

 数秒後、彼女の右手に護身用のコンバットナイフ『インターセプター』が呼び出される。普段近接武器を一切使用しないからか、呼び出すのに時間が掛かってしまった様だ。

 ソレを、迫るグシオンに向かって勢い良く投擲する。

 

ガキィン!!!

 

 しかし、最後の切り札もグシオンの腰部シールドに阻まれてしまった。

 

 これで遂に、ブルー・ティアーズは完全に丸裸となってしまった。

 セシリアは、青褪めながらも必死に機体を動かす。

 絶対に負けたくない。今迄この瞬間に至るまで、一体どれ程の時間と労力を費やして来たのか、他でもないセシリア自身が一番良く知っている。

 だが現実に、もう「敗北」は目の前まで来ている。よもや、シュトラールの様に拳足で立ち向かえる程の技量など、セシリアにある筈もなく。

 

ーーーまた・・・また負けると言うのですかッ!!?・・・・・・結局、また・・・。

 

 己の弱さに、思わず落胆するセシリア。同じ相手に負けると言う悔しさが、「また」と言う単語を何度も吐き出させた。

 

 守りたい家が、愛する人が遠のく。

 

 それでも、噛み締めるしかなかった。「悔いは無い、持てる全てを出し切った、今はこれが限界なのだ」と。

 

 

 その時だった。

 

 

 

 遂に、GAU-0の全砲弾が尽きてしまったラファール。一方の甲龍は、まだ僅かに右肩衝撃砲のエネルギーが残っていた。

 直後、鈴音も谷本も始めて己のSEを確認する。そして、互いにもう5%を切っていると確認した両者は、一気に距離を縮め始める。

 甲龍は双天牙月を振り翳しながら。ラファールはフルオートに切り替えたスコーピオンを構えながら。

 

 弾丸を掻い潜り、刃をやり過ごしていく2機は、狭い空間に似て非なる放物線を描いていく。

 

 しかし、そんな近距離で全ての攻撃を躱し切れる筈も無く、「終わり」の瞬間はあっと言う間に訪れる。

 それは、両機のSE残量が1%に達した時だった。高速戦闘の最中、偶然にも互いの銃口が向き合う。僅かな弾丸、僅かなエネルギーを、目の前の敵にぶつけようとするーーー

 

 

 それは「刹那」の出来事であった。

 鈴音の視界の端に、ティアーズとグシオンが入り込んだのだ。丁度、ティアーズがグシオンに対してコンバットナイフを投げた直後だ。

 

 空気砲をラファールに向けたまま、鈴音は一瞬の内に思考する。

 試合も終盤。このタイミングで射撃武装ではなく、ナイフを、しかも投げると言う事はーーー

 

ーーーティアーズの武装はもう・・・

 

 瞬間、鈴音はティアーズとグシオンに向けて牙月をブン投げた。理由は彼女にも解らない、極めて“感覚的なモノ”だ。

 それとも、目の前の敵にしか集中出来ない極限状態の最中、鈴音だけが思い起こしたと言うのだろうか。これが「タッグマッチ」だと言う事を。

 

 だが、確かな事が1つだけあった。

 それは鈴音が「あの約束」を片時も頭から離さなかったと言う事だ。「セシリアを勝たせる」と言う口約束を。

 

 そして甲龍の手から双天牙月の片方が離れた瞬間、互いの弾丸が命中し、アナウンスが響き渡る。

 

《甲龍、及びラファールリヴァイブ。SEエンプティ!!》

 

 互いの動きがピタリと止まる中、巨大な青龍刀だけが回転しながら突き進んで行った。

 

 

 

 向かってくるソレに対し、セシリアは思考を放棄して無我夢中で手を伸ばす。

 「後付武装(イコライザ)は他者の使用に制限がかかっている」「だが初期装備(プリセット)なら」「持ち主のSEが尽きたら或いは」。そんな事を考える余裕など、あればとっくに勝利している。

 

 伸ばした手には、まるで牙月の柄が自然と吸い寄せられていく様に、ピタリと収まった。

 そして、既にマチェットとハルバートを大きく振り上げているグシオンに向けて、振り返り様に一刀をブン回した。

 

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 

 

「ウォオ゛ォォォォォォォラ゛ァァァァァァァァァァッッ!!!!!」

 

 

 

ーーー頑張れ。セッシー。

 

 本音は手と手を組みながら、そんな事を念じていた。

 今の彼女には、セシリアに「勝って欲しい」「負けて欲しい」と言った感情は無く、ただセシリアの「思う様」に戦って欲しかった。

 それこそが、彼女の大好きな『セシリア・オルコット』なのだから。

 

 

 

ガァギャァァァァァンッ!!!!!

 

 激しくぶつかる金属同士。向かい合ったまま、同じ姿勢で硬直する2機。

 先に「シールドエネルギー」が尽きたのはーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《グシオンリベイク!SEエンプティ!!》

 

《優勝!オルコット・凰ペア!!》

 

 甲龍から託された牙月の切っ先は、グシオンの鋼鉄のボディに到達していた。

 グシオンが放ったマチェットの刃は、セシリアの肩峰直前で静止していた。

 

 それが、この試合のごく“一部”であり、“結果(全て)”であった。




オレものほほんさんから「頑張れ」って念じて貰いたい。

次回、試合後における各々の心情を描写します。ある意味ではこっちが本編と思う方も多いのではないでしょうか。
いつになるかは何とも言えませんが、なるべく今月中に投稿しようと思います。




疲れた・・・。
少なくとも、今日はもう何も書きません・・・。

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