IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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3位決定戦は、面倒なので描きませんでした(正直者)


第31話 勝利の果て(前編)

 全スタンドの観客各々が異なる湧き上がりを見せる中、セシリアは未だに「信じられない」と牙月を握る右手を見詰める。

 

 SEが切れた事でセーフティがかかり、動きを止める自分以外の3機。

 そんな中セシリアとブルー・ティアーズだけが、喜びよりも少しの混乱を内包させながら周囲を見渡していた。

 

 やがて10秒程時間が経ち動けるようになった3機の内、甲龍が駆け寄る様に飛翔して来る。

 そして嬉しそうに笑いながら右手で拳を作り、それをセシリアの眼前にボンと突き出した。

 

《言ったでしょ?必ず勝たせるって》

 

 そう得意げに言う割には、一目で判る程鈴音の息は荒々しかった。如何に極限状態の中であの青龍刀を投擲したか、鈴音の息使いが全てを物語っていた。

 そんな彼女を見たセシリアは、漸く自分たちが優勝したと言う事実に到達する。

 

「ええ、勿論信じておりましたわ。…ありがとう鈴」

 

 青黒いバイザーを外したセシリアはお返しの様に満面の笑みを浮かべ、同じ様に右拳を突き出す。

 右拳と右拳がコツンと軽く衝突した直後、観客スタンドは更なる歓声を辺り気にせず上げた。

 

 

 しかし歓喜に浸るセシリアの心には、少なからず翳りが見え隠れしていた。

 

 全力で飛び本気で狙い、最善を尽くした上での勝利だと言うのに、何故かセシリアは勝った気がしなかったのだ。

 

 

 

 谷本は俯く事しか出来なかった。

 

 大会が始まって以来、初めて経験する敗北。その事実は後悔となって、彼女の心をきつく締め上げる。

 

《…ピットに戻るぞ。先ずは身体を休めろ》

 

「…」

 

 不思議な程淡々とした昭弘に、谷本はトボトボと続くしか無かった。

 

 

 ピットに戻り、ラファールから普段よりも重い身体を下ろした谷本。

 そのまま彼女は暫く棒立ちした後、先程まで自身が纏っていた深緑色の甲冑を優しく撫でる。数ある量産機の内の一つでしかないそれを、彼女は慈しむ様に見詰めていた。

 

 ふと気が付けば、ラファールに添えていた優しい平手は硬い握り拳へと変わっており、それに同調するかの様に彼女は奥歯を食い縛りながら「涙」を垂らし始める。

 

―――あんなに頑張ったのに、こんなに好きなのに、どうして

 

「本当に…ゴメン…」

 

 涙ながらの謝罪は、一体誰に対してのものなのか。

 昭弘(パートナー)相川(ライバル)たちか愛機(ラファール)か、それともそれら全てに対してか。

 

 留まる事を知らない、彼女の涙。

 

 昭弘はその光景を、何も言わずに見る事しか出来なかった。

 彼もマスクの中で小さく泣いていた。己の声が漏れぬ様、外部への音量をシャットアウトしながら。

 

 過去の己と重ねるまでに、強くライバル視していたセシリア。彼女に負けた事への悔しさは、やがて今の自分の否定へと矛先が向きそうになる。

 そんな負の感情を押し流す様に、昭弘はマスクの中で涙の水滴を4つ5つ垂らす。

 

 今の昭弘が、谷本にとやかく言える筈が無かった。

 

 

 

 ある程度落ち着いた頃合いを見計らって、箒とラウラが昭弘たちの下に赴く。

 既にグシオンの全エネルギーが尽き掛けていた昭弘は、泣き顔を見られたくないので隅っこでコソコソとグシオンを解除する。

 

 「凄まじい戦いだった」「最後は惜しかった」等々在り来たりな感想を出し合う中、箒が本題を切り出そうとする。

 

「昭弘、あのだな…」

 

「分かってる。表彰式が終わったら一夏の様子を見に行こう」

 

 箒の台詞を先読みしていた昭弘。

 未だ敗北への無念はささくれの如く残っているが、過ぎた事より一夏が優先だ。

 

 駄目元で一応ラウラも誘ってみるが…。

 

「遠慮しておく。奴と顔を合わせたくないと言うのもあるが…少々やる事もあるしな」

 

「分かった、谷本は?」

 

 一夏の御見舞いに行くか行かないかと言う簡単な選択なのだが、谷本は悩む素振りを見せる。

 一体「何に」対して悩んでいるのか昭弘たちが疑問に思っていると、谷本は漸く答える。

 

「私、表彰式が終わってもピットに残ります。整備科の先輩方にもお礼をしたいしそれに…」

「合間を見て、ISの事色々と教えて貰おうと思うんです」

 

 3人共感心が過ぎて目を見開く。

 

 既に1年生の全試合は終了した。谷本自身も決勝で敗れたばかりで、悔しさから脱していないだろうに。

 だのにもう、谷本は先を見据えて自ら動こうとしているのだ。

 

 そんな彼女の「IS熱」によってか、同じく敗北した3人も胸が熱くなるのを確かに感じた。

 負けたのなら、猶更落ち込んでる場合ではない。次勝つべく、行動あるのみだ。

 

 

 

 それは外の空気を吸いに、昭弘と箒がピットから出た直後の出来事であった。

 

「やぁ」

 

 一度見たら忘れられない、麗しきアッシュブロンドの髪。相も変わらず露出度の高い上半身。

 まるで昭弘がピットから出て来るのを見計らってたかの様に、その髪の持ち主は壁にもたれ掛かっていた。美しい人間は、どんな場所どんな体勢でも様になる。

 

「…どうも、ローエンさん」

 

 先日の事もあってか、ロイに対して僅かに身を引きながら挨拶する昭弘。

 箒は相も変わらずロイに対して激しい眼光を飛ばしているが、箒を単なる置物とみなす様にロイは昭弘へ語り掛ける。

 

「今時のMPSが一体どこまで進化しているのか、君の戦いを見ていると考えさせられるものがあるな。アタシとしては、試合結果が不服でしょうがない」

 

 心底腹立たしそうな反応を見せるロイだが、昭弘はあくまで静かに返す。

 

「結果は結果です」

 

「…フッ、アタシよりずっと大人なんだな。それとも…」

 

 そう言うと、ロイは冷えきった瞳を箒に向けた。

 

「周りが餓鬼過ぎるから、そんな心持ちになるのかな?」

 

 明らかなる自身への口撃を受けて、箒は眼光を更に強める。それでも口を堅く閉ざしている分、良く耐えている方であろう。

 

 何も言わない箒を見てロイは詰まらなそうに溜め息を吐くと、再度昭弘を見やる。

 

「アルトランドくん。「時」が来たら、アタシたちは君を迎え入れようと思っている。君の“本質”が活きる「本当の居場所」にね」

 

―――本質?本当の居場所?

 

 当然、昭弘はロイが言っている事にまるで見当が付かない。感じるのは、自分の事を何でも知っているかの口振りなロイに対する、底知れぬ気味悪さだった。

 

 表情を歪める昭弘を見て、ロイは物寂しげな顔を見せながら近付こうとするが―――

 

「近寄るなッ!」

 

 人気の無い空間で、箒の怒声が響く。大会初日と似た様な光景が、その空間に再現されていた。

 だがロイは変わらず、哀しそうな目で昭弘を視界の中心に捉えていた。

 

 すると何処からか声を拾ったリィアが、ロイの後方からゆらりと現れる。

 

「らしくもないわねロイ」

 

 トラブルはゴメンであると、呆れ果てる妹。

 流石に潮時と見たロイは、去り際に一言だけ添えて行った。

 

「いずれ君は知るさ。「此処は自分の居場所じゃない」とね」

 

 歩を進めながら、ロイは何時までも寂しげな眼差しを昭弘に向け続けた。

 

 対してリィアは、踵を返す一時だけ昭弘に警戒の籠った視線を送った。

 

 

 

 2人が去った後、箒は先程までの剣幕を一気に崩し、不安気に昭弘を見上げる。

 強がりながらも、やはりロイの放った言葉が気懸りな様だ。

 

「…大丈夫だ箒。オレはIS学園(此処)で良いし、IS学園(此処)が良い。これからもずっとな」

 

 此処で得た楽しみ、苦しみ、そして悔しさ。もう決して心から消え去る事のないそれらは、昭弘にとって戦場に代わる日々の糧となっていた。

 

「…私もだ」

 

 昭弘の言葉によって不安を洗い流された箒は、そう力強く頷いた。

 

 

 

 そうして多少の時間が過ぎ3位入賞ペア×2、準優勝ペア、優勝ペアの表彰式が恙無く行われた。

 

 そこで優勝ペアは、例年通りお望みの景品が何なのかリクエストを受けたのだが―――

 

 

 

 

 

 男は白衣に身を包んでいた。

 

 細身で長身。髪は縮れ毛の様にボサついており、顎髭の処理も適当と言わざるを得ない。更には、センスの悪い銀縁メガネを掛けていた。

 周囲から「所長」と呼ばれているその男は、大勢の研究員らしき男たちに混ざって研究所内を行ったり来たりしていた。

 

ピリリリリリリ ピリリリリリリ 

 

 仕事用の黒い携帯電話が突如鳴り響いたので、所長は画面もろくに確認せず気だるげに応答する。

 

「ハイ、此方◯◯◯◯研究所ですが」

 

《久しぶりだな下衆野郎》

 

 その少女の様な声だけで、所長は相手の名前を言い当てる。

 

「ボーデヴィッヒくんじゃあないか。いきなり「下衆野郎」とは穏やかじゃないね」

 

《しらばっくれるな『VTシステム』を内蔵させた張本人が。それなりの権限がある奴の中で尚且つレーゲンとVTシステム双方の開発に精通しているのは、研究所では貴様だけだ》

 

 早速問い詰めに掛かる若き軍人に対し、所長は尚も気だるげに返す。

 

「仕方がないさ、仕事なんだもの」

 

 誰からの指示なのか自身の独断なのかまでは言わず、所長は更に続ける。

 

「それよりデータありがとね、拝見させて貰ったよ。…他には?」

 

《…》

 

 少しの沈黙を破って、ラウラは返答する。特に怒り狂った様子も無く、あくまで事務的に。

 

《別に、今後の仕事仲間に「挨拶」をしたまでだ》

 

「仕事仲間…って事は()()()()()が出たんだね」

 

 一夏と白式のデータ収集は、どちらかと言うと「表の任務」と言った意味合いが強かったのだ。そんな任務の内に隠された「真の任務」こそ、VTシステムの完全制御。

 悪い言い方をすれば、ラウラは良いように踊らされていたのだ。

 

 そしてつい先程下った正式な指令こそ、『シュバルツェア・シュトラール』の戦闘データ収集と言う訳だ。様々なISが集うIS学園なら、確かにデータ収集には打って付けかもしれないが。

 そしてそのデータを、今後も所長が直接貰い受けると言う訳だ。

 

「ま、お互い良い事尽くしじゃないの。君は戦闘データ収集と言う名目で、シュトラールの調整や強化が出来る訳だし。「休暇を貰えた」と思えばいいんじゃない?レーゲンとVTシステムの開発者である僕も、確実に表彰もんだし」

 

 他人事の様に、所長は軽口を叩く。結果次第では惨劇も十分有り得たと言うのに。

 そんな何処か倫理観のぶっ飛んだ男に、ラウラは再度訊ねる。

 

《最初から解っていたのか?こうなる事が…。抑、何故態々IS学園で実験を?》

 

「まぁ成功確率は、君が一番高いと思っていたね。軍部にそう助言したのも僕だし」

「だって『織斑千冬』だよ?常人なら望んで受け入れちゃうって」

 

 VTシステムの完全起動を果たすには、ISコアが強く求める「織斑千冬像」を拒絶する必要があるのだ。そうする事で己の意思表示を明確にしなければ、ISコアの要求に応じる傀儡になり果てるのみ。

 確かに女性の憧れでもあり「力」の象徴でもある織斑千冬は、誰しもが望む姿なのだろう。それを拒絶出来る程強い“なりたい自分像”こそがVTシステムの完全制御、延いては自分とISの進化に繋がるのだ。

 

「どれだけ除け者にされようと挫折しようと這い上がる。常人を遥かに凌駕した君のメンタルこそが、君が選ばれた最大の理由だ」

 

 科学者らしからぬ考え方だが、理論や数字だけではISに通用しないのも事実だ。決して数値化出来ない感情も又、重要なファクターを占めている。

 

「IS学園に君を入れたのも、君の中にある織斑千冬像を崩壊させる為さ」

 

 違う人生を歩んでいる千冬のもう一つの顔を見せる事で、ラウラの中にある千冬のイメージを変えたかったのだろう。

 何れにせよそれでも成功確率が高い様にはどうしても思えなかったラウラは、その辺りの事も一応訊いておく。

 

《もし私が失敗していたら?》

 

「夜逃げでもしてたかね。責任取りたくないし」

 

《貴様…!》

 

 言葉の真偽は兎も角、ラウラはこの男の「こう言う所」が嫌いな様だ。無責任、無感情、適当。この男にはそれらの言葉が良く似合う。

 

「そろそろ失礼するよ?僕も暇じゃないんでね。あと一応言っとくけど、一度こっちにシュトラール戻してね。拡張領域のロック、解除してあげるよ。そんじゃ健闘を祈るね~」

 

 その言葉を最後に、所長は通話を一方的に切る。

 

 今後ドイツのIS事情は確実に変わっていく。それだけ、今回の功績は大きい。

 アラスカ条約に定められている特例措置により、暫くの間ドイツに限ってはVTシステムの私用・開発・研究が認められるようになるだろう。

 当然細かな制約はかかるのだろうが、それでもこのアドバンテージは大きい。

 

 だからあながち、所長が暇でないと言うのも嘘ではない。

 ラウラが成し遂げたVTシステム完全起動と言う眉唾物のデータ。そのデータを基とした更なるシステムの向上、開発に着手せねばならないのだ。

 上手く進めば最終的にはVTシステムによる全ISの二次移行が可能となり、更には『織斑千冬(ブリュンヒルデ)』を完全制御下でトレースする事が出来るようになるかもしれない。

 

 

 世界を巻き込む大戦に、間に合えばの話だが。

 

 

(そう言えば彼、IS学園で何かあったのかな?少し大人びた様な気がするけど…まぁどうでも良いか)

 

 手に持つ端末を弄りながら、所長は一瞬だけそんな事を考えた後直ぐに忘れる。

 どの道、所長が知る必要はない事なのかもしれない。

 

 何が誰が切っ掛けだろうと、結局制御に成功したのはラウラ自身なのだから。

 

 

 

 

 

 話は再びIS学園へ。

 

 一年生の表彰式も終わり、多くの生徒たちは全アリーナの清掃を自主的に手伝っていた。

 

 その一人である相川は、ゴミ拾い用のトングを片手に他愛の無い話を繰り出す。

 

「終わっちゃったねー」

 

 鏡も「そーだねー」と溜め息混じりに返す。彼女たちの一言には、目的を達成出来なかった事への無念が色濃く残っていた。

 

 そんな中本音はゴミの溜まった袋を持ったまま、僅かに青空の覗く空を見上げていた。

 

「本音!雲数えてないで手を動かす!」

 

 鏡がそう注意すると、本音はゴミ袋を縛ってゲートへと駆けて行く。

 

「ゴメ~ン用事思い出しちゃった~。これだけ捨てて行くよ~~」

 

 そう言い、本音は新しいゴミ袋を鏡たちに渡す。

 

「行っちゃったよ…清香?」

 

 相川はそんな様子の本音を見た後、改めて左手に持っているトングを見詰める。

 

 こんな事をしている場合なのか。

 彼女はそう言いたげに視線をトングから逸らすと、鏡に向き直る。

 

「ゴメンナギっち、私も急用。直ぐ戻るから!多分!」

 

 そうしてトングを渡された鏡は、当惑を顔と身体全面に醸し出しながら「えー」とだけ発音した。

 

 

 

 1年生の表彰式が終わったのち、職員会議までの小休止中である千冬は管制塔からフィールドを見下ろしていた。ただ何となく、されど意味有り気に。

 

コンコンコン

 

 感覚が常人よりも遥かに鋭敏な彼女は、背後の扉奥に相川が佇んでいる事など知っていた。今は一人で居たかった彼女だが、ノック音を聞いては流石に此方から開けるしかない。

 

「し、失礼しますぅ織斑先生ぃ」

 

 少々萎縮気味の相川を見て、千冬は無言ながらも入る様促す。

 

 

「それで?」

 

 相川用に緑茶を淹れながら、千冬は一応訊ねる。

 

 相川はありがたく頂戴した後、静かに答え始める。

 

「その、何だか急に織斑先生に会いたくなっちゃって。鬱陶しかったら今すぐにでも出て行きますので!」

 

 先にそう言われると、却って断り辛いのが人間の心情と言うもの。

 

「好きにすればいい。私もフィールドを眺めてただけだ」

 

「…どうしてフィールドを?」

 

 相川の問いを受けた千冬は、控えめに且つとても楽し気に笑った。子供の無邪気さを隠す様に。

 

「…思い出していたんだ。5日間の戦いをな」

「どの戦いも凄まじかった。昔の私を思い出したよ。中でも一番心が躍ったのは、やはり決勝戦だな」

 

 しかし、楽し気に語る千冬に対し相川は少し意気消沈気味だ。一番心の躍った戦いが自分の試合でなかった事に、予想通りとは言えやはりショックを覚えた様だ。

 

 決勝戦で思い出したのか、千冬は相川に奇妙な質問をする。

 

「なぁ相川よ。お前はアルトランドとオルコット、どっちが「勝った」と思う?」

 

 質問の意図が相川は解らなかった。当たり前の結果を答える前に、千冬の意図を必死に考える相川。

 しかしどんなに頭を巡らしても答えは変わらず、「オルコットさんの勝ち」と言うしかなかった。

 

「…だろうな。いや、お前が正しいよ。ただ実際に戦った当人たちは、どう感じているのかと思ってな」

 

 千冬がそこまで言っても、やはり相川は解らなかった。

 それは当然の事だ。相川の様な策で戦うタイプの人間にとっては、基本的にルールと結果が全て。そして千冬が言う様に、それは正しい事だ。

 

 千冬の想いが読めない事に、相川はどうしても疎外感を覚えてしまう。

 毎日顔を合わせてるのに毎日授業を受けているのに、自分は彼女の事を何も知らないのだなと、相川は改めて痛感した。

 

 だからか、彼女は話の流れを敢えてブッタ切る事にした。

 

「あのっ、織斑先生はどう思いましたか!?私の試合!」

 

 自分が千冬にどう映っているのか。それを知りたいが為の一言であった。

 

「良くも悪くも「ブッ飛んだ試合」だったな。フィールドを黒煙で覆い尽くすわUGBを躊躇無く落とすわ。私も毎年色んな試合を観てるが、UGBを戦術に組み込む生徒は初めてだ。フィールドの整備は大変だったそうだぞ?」

「それとお前の武器だが、AA-12とは渋いチョイスだ。アレが中々曲者でな、威力こそ高くはないが広範囲に散弾を連射出来る分、武器の破壊には打って付けなんだ。更には―――」

 

 意地の悪そうな笑みを浮かべながら、今度は子供の無邪気さを隠そうともせずに自身の正直な感想を長々と述べる千冬。一人で居たそうにしていた彼女は最早影も形も無い。

 

 しかしその「笑み」から千冬がどういう人間なのか、少しだけ解った様な気がした相川だった。

 

―――もっと貴女が知りたい

 

 そんな事を考えている相川など構わず、千冬は尚も楽し気にバトルの感想を言い連ねた。

 

 

 

「「ハァ」」

 

 似た様に間の抜けた溜め息を漏らす、セシリアと鈴音。

 原因はやはり優勝者への「景品」にあるのだろう。

 

織斑一夏と付き合える

 

 そんな根も葉もない噂に耳を傾けていた自分自身を、2人は強く殴りつけてやりたい気分なのだ。

 

「アタシ一体何の為に…」

 

 溜め息交じりにぼやく鈴音。それだけが優勝する目的ではないのだろうが、トホホと肩を落とす気持ちも解らなくもない。

 

「…それでも、私たちが優勝したと言う事実に変わりはありませんわ。気持ちを切り替えましょう」

 

 彼女たちが今大会の勝利者なのだ。だのに胸を張らないでいては、負けて行った者たちに失礼極まりない。

 

 それに、まだやるべき事は残っている。それは「当の本人」に自分たちの優勝を伝える事だ。

 それで一夏がどんな反応を示すか、セシリアと鈴音は楽しみでしょうがないのだ。

 現に彼女たちは、今正に一夏の待つ保健室へと向かっていた。

 

 

 それは、丁度出店通りの終盤地点付近であった。

 

 

 彼女たちと同じ方角に向かおうとしていた、大柄な青年と不愛想な少女に、偶然にも鉢合わせてしまった。

 

 

 

 

 

後編へ続く




次回予告:昭弘とセシリアが思い描く「勝利」とは・・・?そして、勝ち続けたセシリアを待ち受けていたモノとは・・・?

アレですよね、勝ったとしても納得できない事ってありますよね。まともな勝利を殆ど味わった事のない私が言うのもなんですが。
ラウラの一件は、この回を以て完全に片付けたつもりです。理系方面は全くの無知なので、何か「ふんわり」とした感じになってしまったかもですが。


次回でタッグトーナメント編は最終回です。
昭弘、セシリア、一夏がメインになる予定です。

シャルも必ず出します。折角の最終回ですし。

新編では当初の予定通り、一夏、シャルに焦点を当てていきたいと思っております。

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