IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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 皆さんお待たせしました。まさかここまで長くなるとは思いませんでした。
 一応昭弘と箒がメインの回です。
 相変わらず設定とか話の構成とかクッソガバガバですが、気になることがありましたらご指摘ください。


第一章 の1 IS学園~入学~
第3話 憂鬱の大和撫子


―――――2022年4月8日 金曜日―――――

 

 IS学園正門前、喜々として歩を進める若葉の様な乙女達の中に一人、門前にて立ち止まる巨漢が居た。白を基調とした襟の黒い制服を身に纏っている事から、IS学園の生徒であると予想できる。

 

(確か「校舎」って言うんだったか)

 

 昭弘は束から一般教養を粗方叩き込まれており、校舎のような学校に関する単語も大体は教わっている。

 それでも昭弘は実際に学校というものを見て、つい立ち止まってしまった。正門前から見た限りでも真っ白な直方体の建物がいくつも並んでおり、晴れている為か建物に規則正しく並んでいる窓は水色に彩られていた。

 極めつけは校内を囲う様に等間隔で生えている、桃色の花びらで彩られた木々。

 

 昭弘は未だ正門を跨いでいないにも関わらず、真新しいことだらけの学校に驚かされっぱなしであった。束の研究所(ラボ)とも違う、前世では見たことも無い景色ばかりが、昭弘の眼前に広がっていた。

 

 昭弘は、学校という場所に密かに憧れていた。

 彼は前世において、家族や仲間は居ても「友」は居なかった。鉄華団も彼にとっては家族という認識が強く、友という認識は持ち合わせていなかった。『三日月』という例外も居たが。

 学問も同様であり、彼は今まで肉親の仕事の手伝いと戦場での命のやり取りしかしてこなかった。だから束のスパルタ教育も、辛いというよりは新鮮といった気持ちの方が強かった。

 

 昭弘が漸く門の先へ足を踏み入れてから数歩進むと、周りの女子生徒達が急に静まる。

 代わりに、彼女たちの間で小さな言の葉が紡ぎ出されていく。

 

「男子!?何で?」

 

「あれってIS学園(ここ)の制服だよね?」

 

「じゃああの人IS動かせるの?」

 

「ホラこの前ニュースでやってたじゃん。2人目が出たって」

 

「デッカ…あと顔怖っ!」

 

 全校生徒の中で男子は昭弘ともう1人の2人のみ。しかも昭弘は自他ともに認める巨躯の持ち主であり、周囲の視線を集めるのは最早道理と言えた。

 流石の昭弘も、ここまで多くの女子生徒から視線を受けるのは少々むず痒い気持ちになった。

 

 

 少しの痒さを耐えながら、昭弘は昇降口に近づいていった。

 昇降口前にも、正門と同様スーツ姿の女性達が新入生を出迎えていた。束の言っていた「先生」という人達だろうか。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、ふと後ろから声を掛けられる。

 

「おい、そこの」

 

 その声を聞いた途端、昭弘の頭の中から一瞬で思考の渦が消えた。

 頭の中がクリアになった直後、ある女性の姿が浮かんでくる。鉄華団と親交が深かった『タービンズ』という女性ばかりの船団。その船団の中で一際活気のある女性パイロットが居た。彼女は昭弘が三日月以外で唯一背中を預けることができ、そして昭弘が生まれて初めて「異性」として意識した女性だった。

 忘れもしない、あの日彼女は敵対派閥に殺されてしまった筈。否、だからこそ彼女もこの世界に来ているのではないか?自分だって死後、この世界に来たのだ。もしかしたら…もしかしたら…!

 

 一瞬の内にそんな淡い期待を織り交ぜながら、昭弘は遂に後ろを振り返りながら叫んだ。

 

「ラフタッ!!」

 

 そう叫んだ後、昭弘が()()()のとその少女が反応を示すのはほぼ同時だった。

 

「!?……ラ、ラフタ…とは、私のことを言っているのか?」

 

 昭弘のそんな淡い期待は虚しく空を切る。

 相手は別人だった。長い黒髪を頭頂部と後頭部の間で纏めており、身長は女子にしては高めだろうか。鋭く真っ直ぐな目をしていた。

 

 唯でさえ目立つ昭弘が突然叫べば、生徒も教師も「何事か」と昭弘へ視線を移す。しかし昭弘はそんな視線を気にすること無く、先ずは人違いをしてしまった相手に謝罪をする。

 

「…すまない、人違いだった様だ。いきなり叫んで悪かった」

 

「い、いやこちらこそ、急に呼び止めてしまって悪かったな」

 

 その後、昭弘は一応周りの人々にも謝罪の言葉を贈った。

 

 

「ところで、オレに用か?」

 

「もう1人の男がどんな奴なのか、ずっと気になっていてな(一夏(アイツ)のライバルになるやもしれんしな)」

 

 どうやら、彼女としては昭弘の人となりが知りたかっただけらしい。

 だが彼女の心なんて読める筈のない昭弘からすれば、その言い方じゃナンパに近い。まぁ一々気にする昭弘でもないのだが。

 

「成程な…ん?その口ぶりだと、もう1人の方とは知り合いか?」

 

 昭弘はつい気になってしまったことを女子生徒に尋ねる。

 

「なっ…!…フンッ!あんな奴のことなんて知らん!!」

 

 何故か顔を赤らめながら否定する女子生徒。だが反応からして、知り合いなのは確かだろう。

 

 

「自己紹介がまだだったな。もうニュースとかで聞いているかもしれんが『昭弘・アルトランド』だ。もし同じクラスなら宜しくな」

 

「宜しく頼むアルトランド。私は……『箒』だ」

 

 その名前を聞いて、昭弘は「もしや」と感じた。髪型や目つき、身体的な特徴も束が話していた妹と合致する。

 もし彼女がそうなのだとしたら、苗字を言いたくない理由も納得できる。当の束は、良くも悪くも指名手配犯なのだから。

 

「…気にするな箒。オレも大声で叫んじまったからな。これでお相子にしようぜ」

 

「そう言って貰えると助かる」

 

 言葉を小気味良く交換しながら、2人は入学式を行う「体育館」に向かっていた。

 昭弘は基本口数は少ないが、無感情な機械ではない。折角の学校で誰とも関わりたくないと言えば嘘になる。無口なりに交友関係はできれば深めていきたいのである。

 

 束のことは抜きにして、此処で箒と出会ったのも何かの縁だと思うことにした。

 

 

 

 入学式が恙無く幕を下ろした後の、1年1組。

 その教室は、喧騒とは違う異様な雰囲気に包まれていた。原因は、本来ならこの教室に居ない筈の男子生徒だろう。

 

 2人の男子生徒の1人『織斑一夏』は、ソワソワしながら最前列中央の席で両手を組んで座っており、顔色も青ざめていた。男子が自身ともう1人しか居ない現状では、肩身も狭くなろう。

 一夏は黒髪で、顔立ちも非常に整っていた。その外見もあってか、周りの女子生徒からは興味と羨望と欲望が入り混じる熱い視線をなすがまま受けていた。

 

 対するもう1人『昭弘・アルトランド』は、険しい顔で参考書を読んでいた。電話帳と同等の分厚さがあるその参考書には、赤青黄三色の付箋がいくつも貼られていた。こちらは重しの如く落ち着いており、座席は一番後ろの扉側。

 身長180cm後半くらいの巨躯で、全体的にガチムチしてそうな体つきをしていた。黒の短髪で太い眉毛、睨まれたら身が竦んでしまいそうな鋭い眼光。そして制服越しでも判る背中上部の“突起の様な膨らみ”。

 

 それだけ特徴を持っているにも拘わらず、一夏とは対照的に誰からの視線も受けていなかった。正確に言えばチラリと視線を一瞬向けられる程度だった。

 その巨体に険しい顔つき、何より「普通の世界」では有り得ない異質な雰囲気。

 そんな相手に、熱い視線を送ることなど当然憚れるものだろう。一夏に対する視線が「興味・関心」なら、昭弘に対する視線は「警戒・恐怖・若干の興味」といったところか。

 

 

 そんな中、1年1組の副担任教師である『山田真耶』が入室すると、先程まで教室中に流れていた会話がピタリと止んだ。

 

「皆さん初めまして!これから一年間此処1年1組の副担任を務めさせて頂きます、『山田真耶』と申します!宜しくお願いしますね!」

 

 沈黙…の中で一人だけ「よろしくお願いします」と返す者が居た。昭弘である。

 教室という空間に慣れていない彼は、良くも悪くも空気が読めないのだ。しかし「先生には敬意を払うように☆」と教わっているので、昭弘としてはそれに従ったまでだ。それ故に何故周囲の視線が自分に集まっているのか、昭弘には理解できなかった。

 

 どの道気不味い空気が場を支配しかけていたので、真耶は焦って進める。

 

「そ、それじゃあ先ずは自己紹介から行きましょうか」

 

 そこから順々に自己紹介が行われていき、直ぐ様昭弘の番となった。

 

「それでは続いて出席番号3番『昭弘・アルトランド』くん、どうぞ!」

 

 呼ばれたのでゆっくりと席を立つ昭弘。

 軽く見回してみると、先程出会った箒を見かけた。同じクラスであることを幸運に思いながら、昭弘は自己紹介に入る。

 

「昭弘・アルトランドだ、宜しく頼む。出身国は()()『日本』だ。先ずは皆に説明しておくことがある」

 

 

 

―――

 

―――さてと!アキくんにはIS操縦者としてではなく、正確には『MPS(モビルパワードスーツ)操縦者』としてIS学園に入学して貰うよ!

―――MPSってのはさっきお前が説明した、「少年兵達に秘密裏に出回っている」っていう…

―――そ!まぁ実際は連中のクッソ出来の悪い『擬似ISコア』じゃなくて、束さんお手製のちゃんとしたISコアを使ったヤツだから、実質ISなんだけどね☆

―――随分と回りくどいな

―――世間は今、ISのお陰で女尊男卑の風潮が強いってのは説明したよね?男性よりも女性の立場が強い社会。そんな状況で『男性のIS適合者』が見つかったら、どうなると思う?

―――……何となくだが、その男性IS適合者に「良からぬこと」が起きる感じか?

―――まぁね。例えば「権力を持った女尊男卑至上主義者の手先に暗殺される」とか「過激な男尊女卑復古主義のグループに誘拐されて洗脳される」とか。因みにもう1人の男性IS適合者である『織斑一夏』くんは、姉が物凄い力を持った人だから変な小細工要らない感じかな!!

―――…MPSはその「隠れ蓑」って事か?

―――ソ☆MPSは現在開発段階の擬似ISコアで、しかも操縦者の肉体に人体改造を施す劣化品ってことにすれば、少なくとも女尊男卑主義者たちは見向きもしないんじゃない?

―――だがそれで本当にIS学園に入学できるのか?入学できたとしてバレないか?

―――そこん所は束さんが()()()()()()をしとくからダイジョブ!んで入学の名目は「崇高なISから色々と学ばせて貰う」みたいな感じで―――

 

―――

 

 

 

(本当にそれだけが理由なのか?)

 

 そんなことを考えながら、昭弘は自身の説明に入る。

 

「皆ニュースを見てるかもしれないが、オレはMPS研究の為、この学園に入学している。だから基本的に、実技などもオレ専用のMPSを使わせて貰うことになる。性能面で皆に迷惑をかけないよう努力はする。これから一年間、宜しく頼む」

 

 昭弘の所属は『T.P.F.B.(To People Free Body)』という企業で、主に中東やアフリカで活動している。

 「自由な身体を人々に」という名の通り表向きは戦争で身体の一部が欠損してしまった孤児や少年兵を保護している団体に、安価で高性能の義足等を提供している。

 

 しかしその「本業」は、複数の傭兵団や反政府軍と秘密裏に交渉し、その少年兵にMPSと接続させる為の人体改造手術を行っている。手術に成功した少年兵はMPSごとその傭兵団に引き渡し、手術代も含めて多額の使用料を頂戴する。手術に失敗した少年兵は機密保持の為に殺処分されるが、年々手術の成功率は上昇している。

 ここまで来ると「武器商人」と言った方が正しい。

 

 傭兵団にとっても高額とは言えMPSという強大な戦力が手に入るので、T.P.F.B.のような組織を重宝しているのだ。MPSは現時点ではISよりも性能面では遥かに劣るものの、戦闘ヘリ以上の機動性・防御力・攻撃力を持っておりコストパフォーマンスも悪くない。

 何より皮肉なのは少年兵にとってもメリットがある点だ。手術に成功さえすれば、MPSという強力な装甲が手に入るのだから。組織内でも、貴重な戦力として上等に扱って貰えるようになる。それこそ扱いを誤れば、MPSによる謀反を起こされかねない。

 尚、阿頼耶識システムに使われている生体ナノマシンは、成長期の子供にしか定着しない。

 

 昭弘の場合は、家族と海外旅行中テログループに遭遇。両親と弟は殺され、昭弘もテログループに誘拐され少年兵に仕立て上げられる。

 戦場で左脚を負傷し、その場で見捨てられた所をT.P.F.B.に保護されたが、彼らが尽力しても左脚は動かず。その為、脊髄に生体ナノマシンを注入しそこから生えてきた突起物に特殊な電気信号を定期的に流すことで、左脚を見事蘇生。

 その後、突起物先端のピアスから『新たな物質』が発見され、その物質を研究する過程でMPSが創られた。

 T.P.F.B.は「このMPSをISの様に人の役に立たせたい」という理由で、昭弘をIS学園に入学させた。

 

 以上が、束とT.P.F.B.で考えたシナリオである。

 

 

 その後もスムーズに各人の自己紹介が続いていき、織斑一夏の番がやってきた。ボーッとしていたのか反応の悪い一夏に対し真耶が涙目になり、一夏は慌てて真耶に謝罪していた。

 

「えーっと…織斑一夏です。………以上です!」

 

 ズコーッ。

 

 昭弘も含め、クラス中の生徒が拍子抜けたように態勢を崩す。少し前のバラエティ番組のような一体感だ。

 直後ーーー

 

「イッテ!」

 

「自己紹介もまともにできんのか馬鹿者」

 

 一夏の頭上に出席簿が振り下ろされる。1年1組の担任である『織斑千冬』が、遅れて入室してきたのだ。どうやら、職員会議とやらが長引いてしまったようだ。

 

「ゲッ!千冬姉!イッ!!」

 

「『織斑先生』だ馬鹿者。山田先生、いきなりクラスのことを任せてしまい、申し訳ない」

 

「いえいえ!お気になさらないで下さい」

 

 真耶に一礼すると千冬は教壇に立ち、再びクラス全員に向き直る。気のせいか、その姿は岩山に立つ獅子と重なった。

 

「私がこれから一年間、諸君の担任を務める『織斑千冬』だ。私の役目は未だ15歳のお前達を16歳に鍛え上げることだ。私の言うことには逆らってもよいが逆らうならそれ相応の覚悟をしておくように」

 

 瞬間、今迄惚け面で千冬を眺めていたクラスメイト達が一斉に黄色い歓声を上げた。流石の昭弘でも、思わず両耳に人差指で栓をする程の声の波だった。にも拘らず「キャーーー❤️」とか「もっと罵ってーー❤️」といった少女達の狂喜に満ちた言葉が、昭弘の指を貫通して耳の奥に響く。

 だがその反応も真耶の予想通り。そう彼女こそ、この惑星において最強のIS使い織斑千冬。通称『ブリュンヒルデ』だ。

 

 当の千冬はそんな生徒達に呆れ果てた反応を示すと、神妙な面持ちとなって昭弘の方に顔を向ける。

 

「すまないなアルトランド。本来なら私が君のことを説明すべきなのにな」

 

「あ、いや…気にしねぇで下さい」

 

 ぎこちない敬語でそう返す昭弘。

 一応、千冬だけは束と昭弘の交友関係を知っている。と言っても、束から「アキくんは束さんとは旧知の間柄だからサポートよろ~☆」程度のことしか知らされていない。無論、束とT.P.F.B.の関係も知る所ではない。

 

 

 その後も自己紹介は続き、箒の番まで回ってくる。

 その表情は、昭弘から見ても決して明るいと言えるものではなかった。まるでこれから秘密が暴かれるのを待っている様な自供する様な、そんな表情だった。

 

「皆さん、初めまして。……篠ノ之箒です」

 

 すると、教室中で少なくないざわつきが起きた。

 

「もう皆さんも察しが付いてるかと思いますが、私は篠ノ之束の妹です。……以上です」

 

 それ以上言葉が見つからなかったのかもう何も言いたくなかったのか、箒はそれだけ伝えると自身の席に力なく腰を下ろしていた。

 

 

 

 SHRも終わり、短い休み時間がやってきた。

 各々がグループを作り、早速会話のキャッチボールを繰り返している。

 

 箒も一夏に話しかけようとするが、当然彼の周囲には人だかりができていた。

 自身の想い人を囲ってキャイキャイと質問を投げかける女子達を忌々しく思いながら、箒は教室を後にする。

 

 しかし、箒は内心一夏と話さないで少しホッとしていた。先程の自己紹介の件で、今自分がどんな顔をしているのかは容易に想像できる。今の醜く歪んだ顔を、一夏に見せたくない。折角数年ぶりに逢ったのだ。一夏の前では凛々しい顔でいたい。

 そんな儚い乙女心が、今の箒を引き留めていた。

 

 

 人通りの少ない廊下でそんな物思いに耽っていると、教室の方から巨大な影が近づいて来た。

 

「…まともに自己紹介もできない私を笑いに来たのかアルトランド」

 

「そこは織斑も一緒だろう」

 

 昭弘に仏頂面のままそう返されて、大きく視線を逸らしながら箒は続けた。

 

「私に近づかない方がいい。お前まで好奇の目に晒されるぞ?」

 

「生憎もう晒されてるんでな」

 

 その後、少しの間を置いて昭弘は言葉を連ねた。だがその声は更に低く重く、ここからが肝であるという昭弘の思惑が伺い知れた。

 

「…なぁ、箒」

 

「…何だ?」

 

「……篠ノ之博士が憎いか?」

 

 長い廊下を支配したその重苦しい言葉に押さえ付けられる様に、箒もまた低く強く言葉を返す。

 

「ッ!……ああ…!憎いに決まっている!あの人がISなんて創らなければ、私たち家族は離れ離れになることは無かった!一夏とも離れることなんて無かった!私があの人の妹というだけでこんな特別視されることも無かった!私は「私」なのに!!そして…こんな風にすぐ姉のせいにする自分も嫌いだ…」

 

 想いを爆発させる箒。

 

 昭弘は押し潰されそうになる自身の心を必死に保ちながら、箒の話を黙って聞いていた。

 昭弘は知っている。束がどれだけ(いもうと)を愛しているかを。ほぼ毎日箒の話をし、その際昭弘が眠たそうな素振りを見せれば胸倉を掴み「ちゃんと聞いてんのか」と凄んで来るくらいだ。そのぐらい束は妹のことが大好きなのだ。

 昭弘は箒にそのことを話したい。しかし指名手配犯である束と自分の関係がバレれば、無用な混乱が起きるだけだ。

 

 感情と理性に挟まれた昭弘は、やがて意を決したかのように堅い口を開く。

 

「箒、お前が篠ノ之博士のことをどう思うかは自由だ。だがな、これだけは言わせてくれ」

 

 そう言うと、昭弘は箒の顔を真っ直ぐに見据える。

 

妹のことを大切に思わない姉なんて存在しない。…オレはそう思う」

 

「!……知ったような口をッ!」

 

「ああ、知ったような口かもな。けど逆に、篠ノ之博士は箒のことが嫌いだと、どうでもいいと、実際にそう言ったのか?」

 

 昭弘にそう言われて、箒は口を噤んでしまう。確かに言われた事は無いし、態度でそう示された事も無い。

 だが直ぐに言葉を探して言い返そうと思った。あの人に限ってそんな事は無い筈だと。

 

「人の想いなんて解からないものさ。言葉にしてないなら尚のことだ」

 

 昭弘もこの世界(ここ)に来るまで解らなかった。オルガがどんな想いで自分を鉄華団に引き入れてくれたのか。オルガが自分たちの為に、どれだけ思い悩んでいたか。

 昌弘にしたってそうだ。最後の最後庇われるその瞬間まで、昭弘には弟の心が解らなかった。

 

 箒も気付いていた。「お前は本当に姉の事を解っているのか」と、昭弘に諭されている事を。

 そして何も解っていないからこそ、何も言い返せなかった。

 

「それにな、オレはこうも考えているんだ。人が人を大切に思うのは「違う」からじゃないかって」

 

 自分とは決定的に違うモノを持っているからこそ、放っておけなくなる、もっと知りたくなる。他者に対する原初のそれが、やがて情へと進化していく。

 

「さっきお前も言ったよな、「私は私だ」と。その通りだとオレも思う。そして篠ノ之博士も、きっとそう在ることを望んでいるんじゃないのか?」

 

 人と人との「違い」によって、争いは起こる。それがどんどん広がっていき紛争、戦争になる。しかしその違いが無ければ、人が人に関心を示さなくなるのもまた事実だ。

 

(………「違う」から…か)

 

 押し黙る箒。しかし、先程のような陰鬱な表情は抜け落ちていた。

 姉への憎しみが消えた訳ではない。だが姉の本心を何も知らないままでは、何も始まらない。そう、「違う」箒を、束がどう思っているのか知るまでは。

 

 箒自身「もしかしたら」と思ったのだろう。姉が自分の事を本当に愛しているのだとしたら、と。

 

「まぁ、言いたいことはそんだけだ。…そろそろ5分前だ、戻るぞ」

 

「“昭弘”!」

 

 その名を呼ばれて、驚きながら振り向いてしまう昭弘。ラフタじゃないと頭では解かっていても、その声で名を呼ばれると心は機敏に反応してしまう。

 

「その……ありがとう」

 

 箒から感謝の言葉を送られ、昭弘もその仏頂面に微笑を浮かべる。

 二人は並びながら、1年1組に戻っていく。

 

 

 

 教室の前まで来て、箒は一夏以外の男子を下の名前で呼んでしまったことに漸く気づき、密かに顔を赤らめた。




 という感じの話でした。実際女子高に昭弘みたいな巨体の強面が来たら、最初はこんな感じの反応に・・・なるんじゃないかなぁと思いました。
 次回はあのイギリスのお嬢様がちょっかいをかけてきます。昭弘とはどういう関係になるのかは、皆さんのご想像にお任せします。
 あと、ちゃんと一夏と昭弘も次回から絡ませていきますのでご安心ください。
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