IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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第45話 第一歩

―――――6月25日(土) 夕方―――――

 

 IS学園人工島端で、まるで一人だけ除け者にされた様に虚しく聳え立つその建物はアリーナD。外観こそ整ってはいるが、閑散としたその様相は最早廃墟にすら思えてくる。

 

 しかし本日、その外観とは裏腹に内部は中々の賑わいを見せていた。

 心なしか、普段なら冷たく纏わり付く潮騒も、今日に限っては生徒たちの活気をより激しく際立たせていた。

 

 ピットの中心付近に集まっているのは、十数名の女子と一人の巨漢、そして一人の無人ISだ。

 

「…あ、え…えと…」

 

「簪、先ずは打鉄弐式の現状を皆に教えてやれ」

 

 人生初の現場指揮に戸惑いを隠せない簪を、昭弘が軽くフォローする。

 彼女は言われるがままに液晶端末から打鉄弐式のデータを送ると、口頭で説明する。

 

 簪が事細かに説明したものをザックリ纏めるとこうだ。

 

 ISTTでも披露して見せた通り、IS自体は既にバリバリな実戦機だ。

 後は最大武装である独立稼動型誘導ミサイル『山嵐』と、シールドパッケージである『不動岩山』を取り付け、授業が無い夏休みの間までに完成させる。これだけだ。

 

 言葉にしてしまえば単純だが、実現への問題は山積みだ。確かに武装の実物は完成しているが、実際にそれを動かすシステム面はまだまだ道中ば。

 特に山嵐に関しては、最大48発のミサイルを同時発射する為のマルチロックオン・システムが最大の鬼門であった。

 

 簪は、このマルチロックオンを破棄する事にしたのだ。

 

「…いや…これ、は…」

 

 簪から送られてきたデータに目を通した如月が、青白い顔に苦笑いを浮かべていた。

 そう、代わりのシステムがまたとんでもない代物だったのだ。

 

 マニュアルによる個別ロックオン・システム、これだけならまだ解る。

 追尾中のミサイル軌道を自由自在に変更すると言う「FMS(フェイクマニューバシステム)」。何かの冗談かと皆は思った。

 

「こ、これって最早「ビット」と同じじゃあ…?」

 

 鷹月の言葉を、簪は何食わぬ顔で首を横に振りながら是正する。

 

「…ううん。ビットは前進から…停止まで、全ての三次元的機動…を脳波で行うけど、これは…言うなればミサイルの軌道を変える…だけ」

 

「つまり…発射する前にミサイルの軌道を設定しておくと?」

 

 恐る恐る確認する鷹月に、簪は「自分の演算処理能力なら余裕だよ」と言わんばかりのキョトンとした顔で頷く。

 そんな顔で頷かれてもと、皆一様に息苦しそうな表情をする。

 

 ミサイルの発射口は8門のミサイルポッド×6機、計48門。1門につき着弾距離、弾速、ミサイル同士の間隔、その他諸々を考慮した軌道プログラムを作るとなると、気が遠くなる様な作業になる。

 それ以前に、ロックオンによる追尾機能とのシステム的な統合も必要だ。

 ハイパーセンサーへのロックオンシステム構築だけでも難しいのに、これでは例え人手が揃っていようと9月までに完成させるなんて無理な話だ。

 

 簪には悪いが、決して現実的な設計とは言えないだろう。

 

 

 皆でその事をなるべく角が立たない様に簪へ説明すると、彼女はシュンと肩を竦めながらも納得してくれた。

 彼女自身、未だハイパーセンサーにしか手を加えておらず、FMSに関しては構想段階である事が幸いした。

 少し前までは、これを数年掛けてでも作ろうと目論んでいたのだから末恐ろしい執念である。

 

 となるとやはりマルチロックオンへの路線回帰だが、打鉄弐式を最強のISに仕立てたい簪はどうしても諦めきれないのか、頭を掻きながら代替案を模索する。

 

 何故そこまでミサイルを自ら操る点に拘るのか、皆が簪に疑問の眼差しを向けると、戦術面に詳しい昭弘が予想を交えて説明する。

 

「幾ら弾数があろうと、単に後方を追尾するだけのミサイルじゃ高機動型のISには通用しない可能性がある。見方によっては、全方位視野と得意の小回りで幾らでも対応可能だ」

「そうならない様、独立稼動型誘導以外の手段も打ち出しておきたい…要するに戦闘中の「駆け引き」が可能な武装にしたい。そんな所だろう簪」

 

 頭に手を置きながら、昭弘の発言に小さく頷く簪。

 単純な追尾能力では駄目、駆け引き、手段…。

 昭弘の説明に紛れていた単語を抽出し、瞼を閉じながら脳を絞っていた簪は、やがて“手数”と言う言葉に行き着く。

 

「…肝心なのは…手数。山嵐をより実戦的に…運用するには、誘導弾と…それとは異なる「動き」をする…ミサイルがあれば…」

 

 十分、駆け引きに使える。何も全てのミサイルを操る必要性は無い。

 山嵐に求められているものは、極大火力で敵を殲滅する事だけではない。ミサイルの数で敵を錯乱させる事だ。

 それは即ち誘導弾でありながら、普通の誘導弾とは「一味違う」追尾能力を持ったミサイルだ。

 

 ここまで解れば、戦いに慣れてない整備士たちでも色々と意見が出てくる。

 途中で追尾機能をカット出来るミサイルだの、6機のミサイルポッドに各々異なる機能を付けるだの、と。

 

「…皆、ありがとう。見えてきた…気がする」

 

 皆の意見をしかと頭に留めた簪が、新たに思い付いたミサイル。簡単に言ってしまえば「射出後は直進飛行で途中から敵機を追尾するミサイル」と言う、新たなFMSである。

 これなら全てのミサイルを操るトンデモ方式よりも、大幅に製作期間を短縮出来る。

 もしこれを通常のミサイルと同時に発射すれば、追尾型で追い回し、途中追尾型に回り込ませると言った挟撃戦法も可能だ。

 更にはこの途中追尾方式を応用出来れば、先の意見通り飛翔中のミサイルを何度も誘導と無誘導とに切り替えられる点にも期待が持てる。

 

 簪の新構想を聞いた一同は湧いた。

 レーダー誘導にするのか赤外線誘導にするのか、レーダー誘導の場合はアクティブ方式にするのかセミアクティブ方式にするのかそれともパッシブ方式となるのか、ハイパーセンサーとどの様に組み合わせるのか等々。

 

 そんな議論の過熱を昭弘が一旦制する。

 

「少し落ち着いてくれ。問題は他にも小山の如く散見してる。何から手を付けるか、先ずは順番を決めるぞ」

 

 山嵐や不動岩山を取り付けた後も、やるべき事はある。言わば打鉄弐式の再設定だ。

 新たな武装を加えると言う事は、それに対応する形で機体の各部出力、今装備している武装にも微調整が必要になってくる。

 先日簪が昭弘の指摘を元に打鉄弐式の機動修正や微調整を行っていたが、アレも言わば山嵐の為だ。

 

 それに、整備科志望者一同ずっと気になっていた事が、無人ISの存在だ。

 

《重量物ノ運搬ヤ演算処理デシタラ、御役ニ立テルト思イマスガ》

 

「あっ、それ普通に助かるかも」

 

 ゴロの言葉に岸原が納得する。

 

 実際、そんな目論見も簪の中にはある。

 故に彼女は、完全自操ミサイルもどうにか作り上げられると楽観視していたのだろう。だが、ゴロは先程自操ミサイルの件で一切口を挟まなかった。

 つまり、ゴーレムの演算処理を以てしても流石にそれだけは手に余ると言う事だ。

 

 だが真の狙いは別にあった。

 それを説明すべく今度はらしくもなく腕を組み、目を瞑りながら文章を短く解り易いものに縮める簪。

 

「……大雑把に言うと…ゴーレムの機動、中身、各部位への指令伝達について…知りたい…としか」

 

 記号・数式やそれらに対応した文章を削り取り、出来上がった文章がそれであった。

 流石に抽象的過ぎたのか、皆曖昧な返事をするしかなかった。

 だが小難しく考えても仕方がない。一先ず、簪が目指す打鉄弐式にはゴーレムとの共通点が多く存在する、とだけ覚えておく一同であった。

 

 

 いよいよを以て、これら全てを踏まえた上での総括と言うか、大まかな作業工程を話し合う若き整備士たちと昭弘と簪。

 

 短くも濃密なやり取りの結果、取り組みの順序は以下の通りとなった。

 先ず最初に、ハイパーセンサーへのマルチロックオンシステムプログラムの構築。同時に、ミサイルを途中追尾型へと変貌させる新たな誘導プログラムも作成。

 その後、各ミサイルポッドに役割を割り当てる。

 それらが片付いてから不動岩山を組み込み、最後にゴーレムを参考にした打鉄弐式の最終調整となる。

 

 

 その後も事細かに、足りない部品は何か役割分担はどうするか等々、日が沈んでも尚話し合いは続いた。

 

 

 

 20:00過ぎになるだろうか。

 日もとうに落ち、海の音を緩やかに誘う暗黒には、虫の音が不規則に絶え間なく鳴り響いていた。

 だが既にアリーナDの内外問わず人も疎らな為、闇に響く虫の調べは寂しさを助長するだけだった。雄のクビキリギスも、雌が寄ってこない事への哀愁をその調べに織り混ぜている。

 

 打鉄弐式の話も纏まり、大体の人間は既に解散していた。

 今作業に取り掛かっても中途半端な所でアリーナの利用時間が訪れるので、今日の所は妥当な引き際だろう。

 

 では今アリーナDには、職員や設備員しか居ないのかと問われるとそうではない。

 外を覆う自然の協奏曲を掻き消す勢いで、フィールド内はISの奏でる音で埋め尽くされていた。

 

 音の源となっているISは、グシオンリベイクと打鉄弐式。

 グシオンは単一仕様能力「バウンドビースト(ISTTにて使用した、筋力面にリミッターを掛けたマッドビースト)」を使って打鉄弐式へ迫り、打鉄弐式はそれを「春雷」で迎え撃つ。

 

 打鉄弐式製作に時間を割けば、その分ISの稼動時間は奪われる。それが原因で腕が鈍ってしまっては、例え打鉄弐式を完成させても本末転倒だ。

 故にこうして時間の合間を縫う形で、試合形式の空中機動を行う事と相成った訳だ。

 

 打鉄弐式を使えるのは、恐らく今日限り。明日以降は打鉄かラファールをどうにかして借りながら、尚且つ作業に支障が出ない範囲で稼動させるしかない。

 だから、簪にとって今この瞬間は貴重な時間だ。

 彼女はまるで今生の別れを惜しむ様に、一突き一薙ぎに至るまで魂を込めて振るう。

 

 だが相手は、バウンドビーストを発動しているグシオン。今の未完成な打鉄弐式との間には、性能的に大きな壁があった。

 おまけにそのグシオンを操るのはあの昭弘。彼は射撃武装を封じているが、それでもどうにか喰らい付けるかどうかな状態の簪であった。

 両手両サブアームに斧・山刀・金槌・楯を同時展開し猛牛の如く突っ込んで来るグシオンは、春雷と夢現しか装備が無い簪にとって悪夢と同義であった。

 

 

 惜しい場面は何度かあったものの、終わってみれば完敗であった簪。

 彼女は息を荒げながら、吐き出す様に昭弘へ物申す。

 

「ハァ…ハァ…やっぱり…グシオンって…色々とズルい気がする…ハァ…ハァ…」

 

 だが昭弘は特に悪びれる様子も無い。

 

《本気でっつったのはお前だろう》

 

 ただ動かすだけでは、腕の鈍りは解消されない。それは簪も解ってはいる。

 

 だからこそ気になる部分もあった。それを、簪は息を整えてから昭弘に訊ねる。

 

「けど…態々射撃武装を封じてまで、どうして…バウンドビーストを使った…の?普段通りドカドカ撃つグシオンの方が…私としては、脅威だけど…」

 

 途端、まるでハイパーセンサーに映る景色がピタリと静止した様な感覚に襲われる簪。

 そんな得も言われぬ威圧を漂わせるグシオンと昭弘を、簪は恐怖を追い遣る様に見据える。

 

《………何でだろうな》

 

 それが、昭弘から返って来た言葉であった。

 自分でも解っていないのか、解っているが敢えて話さないのか、その表情無きマスクからは判別のしようがない。

 

《…ま、細かい事は良いじゃねぇか。それよりエネルギーの補充だ。それが終わったら直ぐ続行だぞ》

 

 はぐらかされたが、時間の許す限りISを動かしたい点は簪も同じだ。

 気にはなるが、ここは思考を切り替えるしかない。

 

 

 

 そんな2人を観客スタンドから観戦している2つの影が。

 

 彼女たちも又、打鉄弐式の製作メンバーであった。

 中々お目に掛かれない専用機同士のバトルだからと、途中まで観て行こういう話になったのだ。

 

 が、やはりそこは色恋に花咲かせたい女子高生。若き男女の組み合わせを観ていると、話が別方向に弾んでしまう。

 

「アルトランドくんってモテないわよねー」

 

 ハルバートを縦に振るうグシオンを観ながら、四十院がそんな感想を零す。

 

「えー?今正に更識さんとISによるランデブー中じゃあないデスかー」

 

 この光景を見て尚昭弘がモテないと言わしめる、四十院の考えが気になるセレーヌ。

 

 しかし四十院は呆れる様に瞼を閉じると、つらつら自身の意見を述べ始める。

 

「1組の彼を見てみれば、アナタも納得するわよ。篠ノ之さんにオルコット嬢、2組の凰さん、デュノア「元」氏。あれだけの美少女と親密なのに、()()()()噂は全く立たず」

 

 IS学園と言う一つの閉鎖空間。そこで寝食を共にする女子高生同士の情報網を、侮ってはいけない。

 一つ所に小火が出れば、学年の垣根を越えての山火事となる。

 

 そんな空間で、複数の女子と親交を持つ男子。

 当然、その光景を目撃した女子は様々な憶測を立てて友人と情報共有し、それが噂へと変化する。

 現に一夏の場合は、様々な曲解が至る所で生まれた。

 だのに昭弘の場合は何の狼煙も立たない。

 

「何故かしらねー」

 

「おっかないから、噂にし辛いとかじゃないデスか?」

 

「それもあるわね。絶対」

 

「織斑くんと言う、絶対的イケメンの存在も大きかったデスし。第一篠ノ之さんは、織斑くんへの片想いで多分確定デスよ?」

 

「或いは当の本人が、その同性である織斑くんやボーデヴィッヒくんとも親密ってのも何か関係してるのかしら?」

 

 あーだこーだと、互いの観点から憶測を立てる両者。

 

 四十院もセレーヌも気付いていない様だが、要するに「乙女センサー」と言う奴である。

 人とは、時に主観によって理的な考えが出来なかったりする。何となく、感覚的、明確な理由は無い等、そう言った感情によって物事を判断するのだ。

 こと「恋バナ」に関してはそれが顕著で、時に男女が放つ雰囲気だけで「そっちの話題」へと事が進んでしまう。

 

 つまりは、昭弘に噂が立たない理由は「女の勘」で片付けられるのである。

 例えば、昭弘が鈴音と仲睦まじく会話している。「あの2人は無いな、私の勘がそう言ってる」これだけだ。

 現に今四十院とセレーヌは、昭弘と簪の関係が進展するとは微塵も感じていなかった。

 

 逆に言えば、大概の女子にそう思わせる昭弘にも謎の凄みがある。人一倍不愛想で、更には「おっさん」や「兄貴分」と言うイメージが強いからだろうか。

 そんな訳で、昭弘がモテない男と思われてもまま仕方が無い部分はある。

 

 実際女の勘とは馬鹿に出来ないもので、昭弘に関しても概ね当たっている。

 現に昭弘は、セシリアとも鈴音ともシャルロットとも異性の関係へと進化する兆しがまるで無い。

 故に簪との関係も、番狂わせ無く「友人」として普通に続いてしまいそうで怖い。

 

 ないとは思うがもし昭弘本人がその事を気に病んでいるのだとしたら、「ドンマイ」としか言いようがない。

 女の好みまでは、神ですら言い当てられない領分だ。

 

 

 

 充填、模擬戦と只管繰り返す時間は、存外に早く過ぎて行った。

 どの戦いも、グシオンのSEを大きく減らすには及ばなかった簪であった。

 

 そうしてピットへと戻り、先にISを解除した簪はある異変に気付く。

 

「…何…してるの?」

 

 簪はそう声を掛けるも、動揺に支配された今の昭弘には届かない。

 戦いに夢中で忘れていた。単一仕様能力を使うと、エネルギーが切れるまでグシオンを暫くの間解除出来ない事を。

 当然このままアリーナ外に出ては校則違反。かと言って、そろそろアリーナの閉館時間も近い。

 鋼鉄のフルフェイスマスクのお陰で簪に焦りを気取られていない点だけは、不幸中の幸いか。

 

 こうなってしまえば、ぶっつけ本番だが止むを得ない。グシオンを背中の阿頼耶識へと収束させるしかない。半ば気合いで。

 

(落ち着け…無理に阿頼耶識から引き剥がす必要は無いんだ。要は展開されてなければ良い。阿頼耶識と接続させたまま、待機形態に戻すだけ…)

 

 例えグシオンが展開状態だろうと待機形態だろうと、阿頼耶識に接続されている点は変わらない。

 ならば原理上、単に装甲を折り畳む事なら可能な筈だと昭弘は考えた。

 

(集中しろ…阿頼耶識を粘土で塗り固める様なイメージだ…)

 

 呼吸を整え、焦りを掻き消す昭弘。

 するとグシオンの量子化が少しづつ始まった。

 普段と比較すると遅いが、指先足先から徐々に青白い粒子へと変化していく。

 

 そして1分程経過し、どうにか普段の待機形態であるミニドームへと戻ったが…

 

(…やはり外れないか)

 

 予想していた出来事にそのまま直面した昭弘に対し、簪が軽く声を掛ける。

 

「…随分、解除に…時間が掛かったね」

 

「ほっとけ、そんな時だってある」

 

「…早く…外したら?」

 

「後でいい。付けててもそこまで邪魔にならんしな」

 

 簪の指摘をのらりくらりと躱した昭弘は、間を置く事無く更衣室へと向かった。

 

 

 

 寮の消灯時間までまだ時間はあるが、それでも人間は時間を気にせずにはいられない生物だ。

 アリーナDから寮へと続く道を、早足気味で進む昭弘と簪。昆虫の大合唱の中で、ヤブキリがシリリシリリと鳴いて2人の足を急かす。

 

 気が付けば、もう生命の息吹が溢れる季節になってしまった。

 怒涛の日々を過ごしてきた昭弘、目的の為に機械的で変わり映えの無い日々を生きてきた簪。種類は違えど、2人が季節の変わり目に意識を向ける余裕が無かった事等容易に想像がつく。

 

 虫たちが放つ生命の音を聞きながら、両者共似たような事を考えていると、途端に簪がその小さな口を開ける。

 

「何だか私たち…最近一緒に居る事…多いね」

 

 そう言われてみればそうだなと、昭弘は歩きながら思った。

 未だ1週間にも満たないとは言え、なんやかんやで簪はここ最近昭弘が最も接している時間の長い相手だ。

 あの如何にも排他的な態度の根暗小娘が、こんな武骨な大男と親交を持つなんて人生分からないものだなと、そんな感想を昭弘は抱いた。

 

「むさ苦しいか?」

 

「うん。…けど、昭弘はお姉ちゃんと本音の…次くらいには好きだし…別に苦じゃないよ」

 

「むさ苦しさは否定しないのかこのガキ」

 

 と言いながら、昭弘は簪の背中を軽く平手打ちする。

 それを受けた簪は一瞬瞼を強く閉じた後、声に出さず軽く笑った。

 

 入学からもう直ぐで3ヶ月。

 何か事が起こる度、少しずつ広がって行く友好の輪。家族とも組織とも違うその輪を、昭弘は偉く気に入っていた。

 運命共同体の様に繋がりを固く重く縛るでもなく、上下関係も存在しない関係性は、彼にとって居心地が良かった。

 この輪がずっと続けば良いと思うのは、きっと昭弘だけでは無い筈だ。

 

 

 そんな切実な願いを、背中の阿頼耶識がせせら笑っているのが昭弘には解った。

 「お前はいずれ気付く。長い間此処には居られない事に」と、未だグシオンの繋がった阿頼耶識が脳内に直接響かせてくるのだ。

 無論それは単なる錯覚に過ぎない。阿頼耶識もグシオンも、言葉なんて発しない。

 だが繋がったまま外れないグシオンを間近で感じていると、血ではない冷たい何かが身体中を駆け巡る様な気がした。

 

 だのに、昭弘は先程単一仕様能力を発動させた。

 何故態々グシオンと深く繋がったのか。解るような、解らないような。

 

 

 いや、恐らく昭弘は解っている。後はそれを認めるだけだ。




ミサイルに関する事細かな部分も、今後の話で描写していきます。ハイパーセンサーとフェーズドアレイレーダーを、上手い事関連付けられる様に描けたら良いなと思います。

原作組の誰を整備科志望者にするか悩んだ結果、彼女たちになりました。
岸原さんは眼鏡キャラで何となく整備科っぽい感じがしたから。
如月さんは、特に理由無しです。原作にしか出て来ないキャラっぽいから、設定が変え易いと思ったのかもしれません。
セレーヌは抑オリキャラなんで、別に良いかなと思いました。出し過ぎないようにはします。
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