IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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放課後の話ばっかりですなこやつの小説。


第50話 遠き頂

―――――6月30日(木) 1年1組 SHR前―――――

 

「えぇ~!?ビット増やすのぉ~~!?」

 

 声が大きいですわと声を大にして言ってやりたいセシリアだが、もう遅いわバレた所で何なんだわで直ぐ様開き直り、本音に頼み事の詳細を説明する。

 

「ええ。予備のビットが残り11機ございますので、その中から2機を拝借して、計8機のビットにしようかと」

 

「それを私に手伝って欲しいって事~?」

 

 机の上に顔を横たえながら見上げて来る本音に対し、セシリアは気恥ずかしそうにそっぽを向きながら答える。

 

「私としては別に本音でなくとも構いませんし?本音だって生徒会で忙しいでしょうから、無理にとは言いませんが」

 

 すると、本音は机に突っ伏したまま目を閉じて考え出す。

 またやらかした、このままでは本音に断られてしまう。と、自身の突っ慳貪な態度を心の中でボカスカ殴り伏せるセシリア。

 彼女は懸命に焦りを隠すものの、眼球だけはにっちへさっちへと忙しなく動かしながらその蒼い瞳を何度も本音に向けてしまう。

 

 目を閉じてる本音はそんな状態のセシリアに気付く事もなく、じっくり考える。

 当面、臨海学校以外大きなイベントも選挙活動も無いので、生徒会は早く終わるだろう。

 問題は打鉄弐式だ。自由参加ではあるが、親友の成したい事。手伝いたいに決まっている。だが、大好きなセシリアの頼みも断りたくはない。

 

(…あ!)

 

 どうやら、双方とも手伝える妙案が浮かんだらしい。

 

「分かった!手伝っても良いよ~」

 

 その言葉が聞きたかったと、セシリアは安心によって背骨が溶けそうになるが、グッと堪えて気丈に振る舞った。

 

「その代わり~、アリーナDでもいい~?」

 

「?…ええ、私は構いませんが」

 

 偶然にも、其処はセシリアが最近狙っていた穴場であった。

 本校舎から遠く、利用している生徒が極めて少ないからだ。時間を無駄にする事が嫌いなセシリアもこれ迄は利用を躊躇っていたが、最早四の五の言ってはいられない様だ。

 ただ、簪を尾行した日のトラウマが甦った為、彼女は表情筋が凍り付かない様努めた。

 

「やった~!予約は私がやっとくね~。あそこなら直前でも全然問題無いし~」

 

 うむ、大丈夫だ。

 今日に限っては、ブルー・ティアーズのセッティングが主であるセシリア。アリーナAのフィールドも17:00迄しか入れていない。

 其処で機動訓練を終えた後、本音と待ち合わせるのが良いだろう。

 

 

 

 

 

―――――放課後 17:22―――――

 

 分厚い雨曇から点々と裸体を覗かせる紫色の空の下、ヒグラシの儚い調べを掻き分けながら本音と進む事20分。

 

 アリーナDのピットに入ったセシリアを待ち受けていたモノは、普段では中々御目に掛かれない光景だった。

 人数は20人程だが、何ともまあ騒がしくも真面目な空気が伝わってくる。制服のままな生徒も居れば、橙色のつなぎで全身を覆っている娘も居る。

 その中に当たり前の様にゴーレムが混ざっているが、余計な詮索はしないに限る。

 

 チラっと見えた限りだと、モニターに機械言語を入力したり、ホログラムを投影する為のディスプレイを準備している。それらがまるで供え物であるが如く、中央には水色のISが。

 以上の視覚情報だけでも、彼女たちがISを作っている事は火を見るより明らかだった。

 

 では本音は、見返りとして自身にIS製作を手伝って貰う腹積もりなのかと、考えようとした所で一旦思考が飛ぶ。

 

(アレは更識簪…!)

 

 遠目からでも、その水色の髪で直ぐに判る。セシリアが一方的にライバル認定している、本音のルームメイトであり親友だ。

 その傍に居るのは、これまたセシリアのライバルである昭弘だ。

 

 何故奴等が此処にと考えようとした時、セシリアの目を劇物が襲う。

 セシリアを尻目に、簪に駆け寄る本音。少し遠いからか話の内容は耳に入らず、2人が親し気に話し合っている光景だけを視覚が捉えたのだ。

 それだけならまだしも―――

 

(…いや、嫉妬している訳では御座いませんのよ?増してや「本音に抱き着かれて羨ましい」等と、微塵も思って御座いません事よ?英国淑女たる私がその様な下賤な…)

 

 踵を高速でタンタンタンタンと床に打ち付けながら、自身にそう言い聞かせるセシリア。

 

 そして、簪に少しの間作業を抜ける理由を説明した本音は、再びセシリアの下へ。

 激しい動揺の為か製作メンバーへの挨拶を失念してしまったセシリアは、本音が戻ってきたタイミングで彼女たちへ簡易的だが丁寧な御辞儀をするに留めた。

 

「セッシーどうかした~?気でも立ってる~?」

 

「は、はぁ?飛ぶのが待ちきれないだけですわ」

 

「あ~ビット8機って、初めての試みだもんね~」

 

「そう、ただそれだけですわ」

 

 そのやり取りを、昭弘は言語をタイプしつつ呆れ顔で眺めていた。

 

(…アイツ本当に分かり易いな)

 

 誰を好きになるのかは当人の自由だが、せめて素直になるかそれが駄目なら上手に隠すかした方が良いのではと、思った昭弘であった。

 

 

 

 セシリアの第三世代専用機ブルー・ティアーズは、ビットを6機までしか設置搭載出来ない。追加のビットを搭載するには拡張領域に詰め入れるか、或いは本機の直近に浮遊させると言った方法がある。

 高速切替が苦手なセシリアは、後者の方式を選んだ。

 

 セシリアは、ビット6機までの運用となっているブルー・ティアーズを、8機へと仕様変更する。

 その間本音にやって貰う事は、ビットを定位置で浮遊させる為の固定軸形成だ。

 元々、ブルー・ティアーズは本機もビットも様々な運用を想定して設計されている。

 専用のプロットを書き換え、後はコアに追加の浮遊兵器として読み込ませるだけなので、セシリア以外に整備系へ精通した者が1人居れば2時間程度で終わる。

 

 尚、イギリス独自のビット兵器技術が日本に漏れるのではと言う懸念は、この際意味が無い。

 アラスカ条約により、ISに関する技術は原則独占禁止とされているからだ。唯一の例外は、本来なら禁止されているVTシステム研究等の特例措置が認められた場合だけだ。

 

 

 話は作業へと移る。

 

 大きな入口をピット内の中心線とする様に、入口から見て右側では打鉄弐式に大勢の生徒が群がっており、左側ではブルー・ティアーズを2人の生徒が囲っている。

 

 キーボード以外青で統一されたコンソールをブルー・ティアーズ本機に接続し、画面とISを見比べながら慣れない手付きで進めていくセシリア。

 ビットを増やすなんて初の試み、例え持ち主であっても整備士でないのなら致し方あるまい。

 

 対して本音は、にこやか且つスムーズに液晶padを指で叩いていく。

 

 

 作業が始まって5分後位だろうか。無言での作業に耐え切れなかったのか、本音は手を動かしながらもセシリアに話し掛け始める。

 

「セッシーはオリムーの為に強くなりたいの~?」

 

 柔らかな笑みを絶やさぬまま、本音は変わらぬ口調で言う。

 

 そうだ、本音は未だ知らないのであった。

 一夏ではないと教えても良いのだが、「じゃあ誰の為なの~?」と聞かれるに決まっているので、結局そこだけは話さないでおいたセシリアであった。

 

「…私は、自分自身の為に強くなりたいのですわ」

 

 それもまた嘘偽りがない為、堂々とセシリアは宣言した。

 

「どうして~?」

 

 途端、セシリアはピタリと固まる。

 

 絶大な地位と肩書きを得て、家を守りたい。その目的を、セシリアはIS学園では言いたくなかった。

 此処での日常に、自分の過去を持ち出したくはないからだ。

 

 だが、それだけではなかった。

 どうして、何故、自分は国家代表を目指す。本当に、守るべき家の為に、或いは好きな人の為に地位が肩書きが欲しいだけなのか。

 

 セシリアは改めて考えさせられた。自分と言う人間について。

 この学園に来て昭弘(ライバル)と出会って、一体自分の何が解ったのか。

 

「…御免なさい、訂正しますわ」

「私は、強くなりたいのでは御座いません。私は正真正銘、ブリュンヒルデをも超える「世界最強」の存在になりたいのです」

 

 セシリアの途方も無い目的を聞いて、本音は思わず作業の手を止める。

 自分だけの「人間的な強さ」を身に付けたいと言うのなら、本音にもまだ解る。

 だが「世界最強」は、本音にとってはどうにもピンと来ない言葉であった。そんなに強くなって一体何になるのだろう、と。

 

「自身の目的も、それに必要な名誉も称号も褒賞さえも、結局の所二の次に過ぎませんわ」

「最強を目指す理由なんて、ただ一つ。この小さくも大きな惑星の中で、大好きなISを自分が一番使いこなせると証明したい。私もアルトランドも皆も、誰しもがそんな「傲慢以上の何か」に突き動かされてるに過ぎません」

 

 セシリアの言葉は、まるで小学生の純粋な夢に格式張った飾りを付けているみたいであった。

 しかし、言い切ったセシリアからは後悔の念などまるで滲み出ていなかった。自身の言葉を、信じて疑わない様に。

 その様を、不覚にも本音は「格好いい」と思ってしまった。

 

 本音は、自身の割り当てられた作業に意識を戻す。

 

 と同時に、考えずにはいられなかった。自分はセシリアの何を知っているのだろう、と。

 誇り高き貴族令嬢で、時には愛する殿方の為に奔走する可愛らしい一面も持つ乙女だと、勝手に思い込んでいたのだ。

 だが、セシリアの中に潜む本懐は、そのどれでもなかった。頂きに魅入られ、其処を目指して戦い続ける、一周回って清廉さすら帯びている野心を育てていた。

 その様は可愛らしい乙女から程遠く、去れど誰よりもISの本質を捉えていると言えた。

 

 それを今更知れた事が、本音は嬉しくもあり、悔しくもあった。

 

 

 そうしてまた沈黙が続くと、今度はセシリアが難しそうにキーボードを操作しながら問う。

 

「そう言えば、私を手伝って下さるのはありがたいのですが、本音には一体どの様なメリットが?」

 

 まさか自身の事を想って?と、乙女チックで都合の良い妄想を、セシリアは一瞬だけ思い浮かべてしまった。

 

「だってセッシーの事手伝いたかったし~。それにビット弄れるのも勉強になるから、カンちゃんのIS製作に役立つかもって思って~」

 

 セシリアは少しだけムッと口を湾曲させる。

 本音に手伝って貰えるのはセシリア自身嬉しいし楽しい。だが、簪の為と言うのは少々余計であった。

 

 布仏本音、彼女が聖母の如く優しい女性だと言う事は、セシリアも熟知している。日々、色んな人間の為を思って行動しているだろう事も。

 だが今この時だけは、他の人間の事を考えないで欲しいと、我儘と独占欲を掛け合わせて増幅させるセシリアであった。

 

「…そうですか。また随分と仲が宜しいのですわね。まるで()()()()ですわ」

 

「えへへ~、それ程でも~」

 

 セシリアがわざと嫉妬の念を込めてそう口にするも、本音は特に気付かず。それは果たして、幸と言うべきか不幸と言うべきか。

 

 

「…本音…捗ってる?」

 

 セシリアがどうにか心を切り替えようとしている最中、その声を聞いて再び激しく振り向く。

 

「カンちゃ~ん!どうしたの~?」

 

「…そろそろ小休止してこいって…言われたから…」

 

 いつもの事だ。

 ISをずっと1人で作り続けて来た簪は、基本的に休むと言う事を知らない。つまりは、休憩の重要性を理解していないのだ。

 

「ずっとブッ続けじゃ、作業効率落ちるもんね~」

 

「そう…かな?良く解らない…」

 

 子供の様に首を傾げる簪を見て、本音は愉快そうに笑う。

 

 本音と簪による、ほんわかとした雰囲気。

 

 だが単純に作業の邪魔、何より自分に見せつけるなと、二重の苛立ちに押されたセシリアはつい冷水を浴びせてしまった。

 

「お言葉ですが、別の所で休まれては?冷やかしでしたら、間に合っていますので」

 

 初対面とは思えない程、ズバズバと心の内を威圧気味に放つセシリアに、内気な簪は心底慄く。

 

「べ…別に私…冷やかしに…来た訳…じゃ…ボソボソ」

 

「何ですの?はっきり言いなさいな」

 

 それだけで簪は縮こまってしまい、甲羅に籠るヤドカリ宜しく本音の影に隠れる。

 

「カンちゃん気にしないで~。セッシー率直だから~」

「セッシーもだよ~?美人が台無し~」

 

 本音が宥めるも、セシリアの不機嫌は収まらない。

 

 本音の事を差し引いても、セシリアは簪の様な手合いが嫌いだ。

 臆病で何も言えない、まるで今は亡き母の顔色を只管窺っていた生前の父を彷彿とさせる。

 

「「英国令嬢は排他的」ってか」

 

 本音と簪に意識を向け過ぎていた為か、巨大な筋肉の城が接近していた事に、その声で漸く気付いたセシリアであった。

 

「…アルトランド」

 

 まるで簪の意思を代弁する様に、昭弘はずいとセシリアの前に立つ。

 

「コイツはちゃんとした挨拶をしに来ただけだ。布仏の友達だからってな」

 

 昭弘の言葉を聞いて、セシリアは再び簪に向き直る。

 

「ご…ごめんなさい…。ど…どのタイミングで挨拶…すれば良いのか…分からなくて…」

 

 そう、ヘコヘコとセシリアに謝る簪。

 

(いや、ですからそう言う態度が…)

 

 それでも、声には出さないでおいたセシリア。簪の事が気に入らない点は変わらないが、挨拶に来たとなれば話は別だ。

 どうやらセシリアも、簪へのライバル意識が過ぎた様だ。このまま威圧的に接しては、自身が悪者になってしまう。

 

「…いえ、こちらこそ初対面の御方に接する態度では御座いませんでしたわね。謹んで、お詫び申し上げますわ」

 

 そう言いながらセシリアは表情を少し和らげ、それを確認した簪も犬の様に破顔した。

 

 こうしてセシリアと簪の初コンタクトは、恙無くとは行かなかったが無事に終わりを迎えた。

 フォローを入れたのに、礼を言わない言われないセシリアと昭弘は、最早一周回って流石と言った所か。

 

 人見知りで臆病だが、悪い人間ではない様に感じた。恐怖を押し殺してでも親友の友人に挨拶しに来る程度には友好的であるし、裏表も無さそうではある。

 ライバルのそんな為人が解っただけでも、一先ずは良しとしたセシリアであった。

 

「セッシー、様子が変だったよ~?何か焦ってなかった~?」

 

「ああ、それはだな―――」

 

「いいからさっさと自分の巣に戻りなさいなこの肉男」

 

 己の反射的な言葉に、嘗てこれ程感謝を覚えた事はないセシリアであった。

 言った直後になって漸く、思考が反射に追い付いた。昭弘め、さては勘付いたな、と。

 

 対して、昭弘は小馬鹿にした様に口角を釣り上げニヤニヤしながら戻って行く。どうやら、セシリアの予想通りだった様だ。

 

 先程礼を言わなくて正解だったと思ったセシリアは、昭弘を睨みながらシッシッと手首をスナップさせた。

 

 ただ、弱みを握られたとは毛程も思わない分、セシリアもなんやかんやで昭弘を信頼していると言えた。

 

 

 

 途中いざこざもあったが、どうにかビット追加作業が完了した2人。

 

 早速蒼き鎧を纏ってフィールドへと舞い上がったセシリアは、最初に入念な動作確認を行った。

 今の所、本機が静止した状態ならば、ビットは8機ともセシリアの指示通り動いた。少なくともビットとIS本体とを結ぶ指示系統には、何ら問題らしい問題は無い。

 

 問題を抱えているのはセシリアの方だった。

 本人もある程度予想はしていたのだろうが、本体も動かしながらとなると未だ全機操るのは難しい。

 単に本体の周囲を浮遊させた状態による計9機の編隊飛行なら成功したが、その状態で複雑には動かせない。

 

 その後も、新生ブルー・ティアーズのテストは続いた。

 

 

 

―――テスト飛行終了

 

 セシリアは白いベンチに脚を組んで腰掛けながら、ブルー・ティアーズのエネルギーが充填されるのを待っていた。

 前髪によって隠れた俯き顔は表情を伺い知れないが、厳しい現状に直面した事ぐらいは解る。

 

 セシリアは普段通り4機のビームビット、2機のミサイルビットを駆使してダミーを囲み、新しい2機のビームビットを浮遊固定砲として試してみた。

 しかし、そう事は上手く運ばなかった。

 2機のビットを両肩付近に展開させる事は、結局動きながら8機のビットを操ると言う事。その為、操っている6機への集中力は更に分散され、結果的にビットの機動力低下を招いたのだ。

 

 8機と言う壁は、決して低くはない様だ。

 

 だが、だから何だと言うのだ。時間が許す限り、鍛錬に励むのみだ。たかが8機のビット兵器操れない程度では、世界最強どころか国家代表すら昭弘を超える事すら夢の夢。

 セシリアは、少なくとも臨海学校までには8機以上を操れる状態になっていなければならない。よって少しでも長くビットを操りたい彼女は、早く充填が終わるまいかと優雅さの欠片も無い貧乏揺すりを再発させてしまう。

 

 時間と目標に支配された今の彼女には、最早普段の高貴な雰囲気はどこにも滲み出ていなかった。

 

 セシリアは顔を上げた。無機質で何の変化も無い床なんて、もう見飽きたからだ。

 そんな彼女の視界に、今も尚精力を活動に注ぎ込んでいる集団が入り込む。そちらに視点を合わせると、桃色の髪を両サイドで小さく縛った、物柔らかな少女と目が合う。

 少女はセシリアを見てニパリと笑うと、大きく余った袖をパタパタさせながら腕全体で手を振る。

 

 少女に対し、セシリアも又小さく気品溢れる笑みを零し、優雅に手を振り返した。

 

 今日、彼女が余裕を取り戻せたのは、この刹那だけだった。

 

 

 

 

 

―――昨日 日中帯のある時

 

 それは恐怖か武者震いか。青いフレームで覆われた液晶携帯を持つセシリアの手は、夏であるにも関わらず凍える様に震えていた。

 

《…では、決心はついたと言う事で宜しいですね?オルコット嬢》

 

 担当官のダンディなテナーボイスが、手の震え幅をより大きくする。

 やはり取り消そうか。どう考えても、国家代表でもない自分には過ぎた代物だ。

 

 いや何を馬鹿な。これしか方法は無い、解り切ってる事ではないか。取り消した所で、昭弘をも超えられない惨めな日々が続くだけだ。目的が果たせなくなるだけだ。

 

「ええ。…決断が遅くなってしまい、申し訳御座いません」

 

《その点はまだ十分間に合いますのでご安心を。一番の問題は、アレが常人に操れる代物では無いと言う事です。…重ねて問いますオルコット嬢、本当に宜しいのですね?》

 

 一度目よりも更に低く圧の籠った声で、男は最終確認に入る。

 

「…はい。必ずや自在に操ってみせましょう」

 

 セシリアの決意が、大人の威圧に勝った瞬間だった。

 男は自身の敗北を認める様に、セシリアの望みを再度言葉として表す。

 

《…貴女の覚悟、しかと聞き入れました。では、臨海学校時に送り届ける手筈となっていた「ストライク・ガンナー」は却下。高火力大型遠隔無線誘導兵器「マキシマム・ティアーズ」を、代わりの装備として配送致します》

 

「何から何まで忝いですわ。宜しくお願い申し上げます」

 

 セシリアは相手に見えない無意味な御辞儀をし、そのまま通話を切った。

 

 

 まだ手は震えていた。

 

 セシリアはその震えを長く堪能するかの如く、深く息を吸い、そして長々と吐き出した。

 

―――

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