IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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やっと7月に突入しました。
昭弘が入学してから未だ3ヶ月しか経っていない事実に、今更ですが驚きました。現実では初投稿から2年近く経過しているのに。

で、私とした事が重要な事を失念しておりました。それはズバリ「衣替え」に関する描写です。昭弘の見目麗しい筋肉を一文字ずつ丁寧に表現し忘れていた自分をぶん殴ってやりたい気分です。
丁度7月に入ったので、今回それに関する話をブチ込んじゃおうと思います。原作ではいつから衣替えだったのか、完全に忘れてしまいましたが。


第51話 戦場を貫く「白」

―――――7月1日(金) 登校時間―――――

 

 IS学園。此処は意外にも、服装に関する規律が緩い。制服の改造等も認められており、女子が男子の制服を、男子が女子の制服を着る事に関しても、明文化された校則は無い。頭髪に関しては完全に自由だ。

 ただ、限度はある。過度な露出はNGであるし、あくまでIS学園指定の制服着用が原則なので、私服での登校も補導される。

 

 そこで気になる点は衣替えだ。

 流石にその位は明確な規則があるだろうと、思わせるのが落とし穴。何と衣替えすら自由なのだ。

 もっと言えば、どの月でも半袖だろうと長袖だろうと構わない、衣替え自体が存在しないのだ。教室内で、生徒が空調を自由に操作出来ない為の措置なのだろうが。

 

「と言うのがIS学園における制服着用の規定なんだけど…昭弘は、知らなかった?」

 

「知る訳ないだろそんなん…」

 

 校舎へと続く小道をゆっくり歩きながら、説明したシャルロットに感じ悪く返してしまう昭弘。

 7月から衣替えだと勝手に思い込んでいた彼は、蒸し暑い6月でも律儀に長袖の制服を捲って凌いでいたのだ。

 それが全くの無意味だったと今気付かされては、抱く徒労感も半端ではないだろう。

 

「でも確かに、先月まで半袖の娘はあんまし見なかったものねー」

 

「私も、7月が衣替えだと思っていたな…」

 

 昭弘の気持ちに、そんな同調を示す一夏と箒。

 解らなくもない。夏と言えば7月と8月を主に連想するのが、大多数の日本人だ。教員から事前に何の通知も無いともなれば、7月から衣替えだろうと自己判断しても可笑しくはない。

 更には、唯でさえ日々の勉学と機動訓練に追われる彼女等だ。仮に6月時点で半袖の生徒を見かけたとしても、大抵の人間は面倒臭がって校内規則なんて一々再確認しない。

 恐らく、3年生でも未だに7月から半袖であると勘違いしている生徒は、少なからず居るだろう。

 

 積極的に詳細な服装規定を調べる人間なんて、生徒では男装するシャルロットくらいだ。

 

「しかし、こうも一斉に半袖の人間が増えると、嫌でも夏だと実感させられるな」

 

 うんざり半分ワクワク半分な判別の難しい表情で、そう言う箒。

 

「うんうん!フランスも四季が日本と似ていて、半袖になるなら6・7月だから、気持ちは凄く解るよ」

 

「「「ほう」」」

 

 短い通学路で服装の事を喋りながら、4人は強力な太陽光を食らう事で白い反射光を放つ校舎へと近付いて行く。

 

 

 そんな4人に、周囲から好奇の目が集まっていた。否、注意深く観察してみると、皆が見ているのは4人ではなく1人だ。

 

 半袖になると言う事は、即ち素肌を曝け出す面積が増える。

 その素肌が袖により圧迫、袖が素肌により引き千切られようとしてるのなら、最早それは筋肉だ。本人の意志により極限にまで発達した、上腕二頭筋と上腕三頭筋だ。

 

 袖には使命がある。人間の素肌を包み隠すと言う、崇高なる使命が。

 肥大化した筋肉はその使命を嘲笑うかの様に、袖を逆に己の存在誇示に利用する。綿で出来てる為、伸びない袖は筋肉を締め付けてしまうのだが、それがより一層上腕二頭筋の隆起と上腕三頭筋の怒張を際立たせてしまうのだ。

 

 昭弘・アルトランド。今日もこの巨漢は、袖と筋肉の熾烈な攻防もそれら全ての生き証人となっている女子生徒たちの視線も意に介する事無く、歩幅も大きく昇降口へと入って行く。

 

 今日も一日は回る、他でもない人によって、そして人を動かす筋肉によって。

 

 

 

―――――2時限目―――――

 

「この時間は自習とする。山田先生、お願いします」

 

「はい、織斑先生」

 

 珍しい事もあるもんだと、1組生徒一同隣同士で互いの顔を見合う。

 だが、生徒たちにとっても丁度良かった。ここ最近授業の進度が加速度的に上昇していたものだから、纏めるなり頭を整理する時間は皆少しでも欲しかったのだ。

 

「すまないがアルトランド、お前も来て貰うぞ。携帯も持ってくれ」

 

「?…はい」

 

 昭弘は「また何かやらかしたか?」と自身に問い掛けながら静かに席を立ち、千冬の後に続く。

 その巨大な背中を、一夏と箒が心配そうに見詰める。シャルロットが千冬と真耶に怒られた「あの日」を思い出し、恐怖で縮こまる。

 

 皆が昭弘全体を見納める中、制服の上背部から浮き出る2本の突起物を注視していたラウラは、ただ目を逸らさない様に右目の焦点を合わせていた。

 

 

 

―――本校舎 地下1階 特別室―――

 

 この空間の用途を、殆どの生徒は知る由も無い。認識としては、空き教室程度のそれだ。場所が場所なので、抑々が存在すら知られていないのだろうが。

 

 だが、実際に入ってみると空間の方が寧ろ少ないくらいだった。形状と色の違うコードがゴウゴウと地べたに張り巡らされており、それらはノートPCやら何かよく解らない箱状の機械やらへと収束していた。

 正式名称「特別諜報室」と呼ばれるこの部屋は、言わばIS学園の「諜報キット」みたいなものだ。

 かの生徒会長殿が学園の何処にも見当たらないのであれば、大抵この部屋に来ていると思って貰っていい。

 

 大小の機械音が部屋を埋め尽くす中、生きた声を発するのは昭弘と千冬だけだ。

 

「さてと、先ず最初に話す事はちょっとした新情報だ」

 

 千冬の言葉を皮切りに、昭弘は目の色を変えつつ胸ポケットからメモ帳を引っ張り出す。

 

「前もって言っとくが、そこまで重要なもんじゃないぞ。アフリカ現地で活動している非営利団体の知り合いから聞いた、噂程度の情報だ」

 

 それでも構わないと言わんばかりに昭弘はボールペンを携えるので、千冬は何でも無さそうな軽い調子ながらも答え始める。

 

「たった一言、「白い機人」が部隊を率いていた…とさ」

 

 白い機人。機人とはMPSの事だろう。ISに見えない人型の機械だから、現地ではそう呼ばれているに過ぎない。

 

「深緑色や迷彩柄なMPSの中で、その1機だけは純白に輝いていたらしい。…妙だとは思わんか?指揮官用に区別する為とは言え、密林で1機だけそんな色じゃいい的だ」

 

 千冬がもたらした情報は、確かに大局には関わりそうにない小さなものだ。

 だが、そのMPSの事がどうにも気になった昭弘は、千冬が抱く疑問に対して自身の憶測を述べる。

 

M・A(モノクローム・アバター)における象徴的な意味合いでもあるんでしょうか。或いは、自身に引き付けた敵を容易く殲滅出来ると言う、搭乗者の絶対的な自信か…」

 

「案外、単に搭乗者の趣向だったりしてな」

 

 千冬が何気無く言い放ったその一文により、純白のMPSに対する昭弘の興味はもう一段階上がった。

 そして何故か、爪先から頭頂部に至るまで、その形状を事細かに想像する事が出来た。

 

「……変な事聞きますがその白いMPS、どんな形状か聞いてますか?あと、頭に黄色い角みたいなものとかはありますか?」

 

「うん?全体的な違いは色だけだ。…いや、確か頭に黄色い突起物があるとも言ってたな。一本角なのか二本角なのか知らんが」

「何か心当たりでもあるのか?」

 

 逆に訊き返されて、冷静になった昭弘は何故こんな事を訊いたのか理由を探る。だが、見つかったのは理由とは到底言えないものだった。

 

「………いえ。何となく、そんな想像をしてみただけです」

 

 嘘ではない。本当に、ごく直感的に昭弘はそう思ったのだ。

 そしてそれは千冬の回答により、興味から予感へと変化していった。

 

(………まさかな)

 

 白いボディに、黄色い角を持った鉄人。その勇姿は、神経細胞の隅々にまで、昭弘の脳裏に固く根差していた。

 アレは間違いなく、昭弘が知る中で当時最強のMS。そしてそれを操る男も、比類無き操縦技術と巌の如き意志、どんな武器よりも鋭い覚悟を持っていた。

 親友だった、互いに切磋琢磨したライバルだった、鉄華団不動のエースだった。

 

 そこまで頭に浮かべた所で、昭弘は思わず己を大声で嗤ってしまいたくなる。何を下らない事をと。色合いが似ているだけだと言うのに。

 

 あの時あの荒野でアイツがどうなったかなんて、死んだ昭弘には解らない。もしかしたら、殆ど0に近い確率で、この世界に来たのかもしれない。

 だがそれは、根拠も法則性も無い、希望的観測以下のメルヘンチックな考えでしかない。

 

 そんな都合の良い話、あったとしたら何らかの報いが来ても文句は言えない。

 

 

 

「さて、アルトランド。お前を呼び出した理由は勿論これだけではない」

 

 そう言うと、千冬は部屋全体を示す様に見回す。

 

「今から我々がやる事は、単刀直入に言えば篠ノ之束博士の現在地特定だ」

 

 言っている千冬本人が、その無理難題性を一番理解していた。彼女は箒や一夏と同様、束の携帯電話番号を知っている数少ない人間だ。

 当然、その番号を利用してあらゆる方法で束の足取りを追ったが、結果は言わずもがな。

 この部屋にも、もう何度足を踏み入れたか彼女自身覚えてない。

 

「切っ掛けは、お前が話していたクロエとか言う少女だ。束の携帯は駄目でも、彼女の携帯なら或いは…と思ったのだ」

 

「確かに、クロエは束と行動を共にしてますが」

 

 言うと同時に、昭弘は何故態々この時間帯に呼ばれたのか理解が及ぶ。前回、クロエと連絡を取れたのが、この時間帯であったからだ。

 ただ、この日の自習は千冬の中で以前から予定されており、昭弘の為だけと言う訳ではない。

 

「しかし、向こうから掛けて来なけりゃ、逆探知なんて無理なんじゃ」

 

「私は逆探知なんて一言も言ってないぞ?今時、電話番号さえ判っていれば、現在地の特定なんて当たり前だ」

 

 GPSと言う奴だろう。だから先ず始めに、クロエの電話番号が検索してヒットするのかどうか、試す必要がある。

 それが駄目なら、「この部屋」を使うのだろう。かつて、束を追った時の様に。

 

 で、最早試すまでも無かったのかもしれないが、やはりクロエの電話番号も何処にもヒットしなかった。

 携帯電話会社とグルなのか束自身で携帯電話を作ったのか衛星や基地局をハッキングしたのか方法は定かではないが、現状、束とクロエの携帯電話番号は「存在しない」扱いになっているらしい。

 

 と言う訳で、いよいよこの部屋を占拠している黒四角い機械たちの出番だ。

 

「こいつらは私が教官の任を終えた時、プレゼントとしてドイツ軍技術部から貰ったものだ」

 

 当時は正直そこまで要らなかったとでも言いたそうな低いトーンで、そう説明を始める千冬。

 先ず、機械に携帯電話をスキャンさせ、現在地の知りたい相手の電話番号を子機に入力。後は、子機に入力した電話番号へ、スキャンさせた携帯電話で連絡を取る。

 千冬も詳しい原理は解らないが、どうやら電波自体を直接追跡する機械らしい。

 

 当然、これらはIS学園が超法規的機関であるからこそ許される事だ。電話を掛けるだけで相手の居場所が特定出来るなんて、どう悪用されるか解ったもんじゃない。

 

「…凄いっすね、ドイツの科学技術は」

 

「ドイツに限らず、今の科学技術を甘く見ない方が良いぞアルトランド」

 

 不敵な笑みを浮かべる千冬。ISが世界にもたらしたものは、何も女尊男卑の風潮や新たな抑止力だけでは無い。

 量子力学の更なる発展は勿論の事、エネルギー問題の大幅な改善、特に通信関係の技術進歩が目覚ましい。

 

 それでも尚、天災の魔法的とも言える科学力には敵わない。今回の追跡も、やらないよりはマシと言うだけで殆ど駄目元だ。

 

「分かりました。ついでに、件の白いMPSに関しても、クロエから聞き出してみます」

 

「ああ、宜しく頼む」

 

 

 

 そして、深呼吸をしてから液晶画面をタップした昭弘だが、千冬の予想通りクロエはちゃんと電話に出てくれた。当然、昭弘の携帯はスピーカーモードにしてある。

 

 昭弘が話を進めていく傍ら、千冬はイヤホンらしき物を左耳に当て、モニターを監視しながら箱状の機器に付随しているホログラム化されたつまみを慎重に動かして行く。

 

《MPS軍団を率いていた、謎の白いMPS…ですか》

 

「ただの噂だがな。…何か心当たりあるか?」

 

 クロエは小動物の様な声で短くウーンと唸った後、更に脳内を探る様に間を置いてから答える。

 

《ごめんなさい、私も今始めて聞きました》

 

「…だろうな」

 

 予想通りの回答だったと、昭弘は落胆を隠す様にそう返す。

 が、案の定苦戦している千冬は「もう少しだけ長引かせられないか?」と、険しい表情で合図を送る。

 

「そのMPSは、束の計画と何か関係あると思うか?」

 

《いえ、計画に直接的な影響を及ぼす人物を、態々前線に出すとも考えられませんし》

《ただ、目立つボディで前線に立っていれば、嫌でも多くの敵から狙われます。もしそのパイロットがまだ生きているとしたら、引き受けた数多の敵機を一網打尽にした「軍神」として、現地では崇拝されてるのかもしれません》

 

 かのSHLAとの紛争がどれ程の激戦だったのか、その場に居なかった昭弘には解らない。

 だが確かに、もし生きていればクロエの言う通り、正真正銘M・Aの主力である可能性は高い。

 

 どちらにせよ、束の計画にMPSとそれを率いるM・Aが重要な役割を果たしているのは間違いない。噂であれ、連中の戦力面の輪郭が少し見えただけでも、良しとする昭弘であった。

 

《他にお聞きしたい事が無いのでしたら、私もそろそろ勉学の時間ですので…》

 

 昭弘は千冬の様子を伺う。彼女は空気が抜ける様に頭をカクンと傾けると、付けていたイヤホンを外した。これ以上は無意味と判断した様だ。

 

「いや、もう十分だ。勉強頑張ってくれ」

 

《とんでも御座いません。では、失礼します》

 

 昭弘の耳元で通話が切れると同時に、室内に張り巡らされていた緊迫の糸もプツリと切れた。

 

 

 昭弘は呼吸を整えた後、千冬がまじまじと見ているモニターを脇から覗き込む。

 

「反応位置は大西洋上をザックリと示してはいるが、詳細な緯度経度は残念ながら不明だ…」

 

「やはり、アフリカ周辺を根城にしているみたいですね。少なくとも今は」

 

 ある程度の位置を予想していた昭弘は、海上と聞いてもそれ程動じなかった。束に掛かれば、ラボなんて海上も氷上も山頂も関係無い。

 ただ、世界中に拠点を持つ彼女の事だ。また何時移動するか分かったものではない。

 

「まったく、我が物顔で全世界に居座りおってあの兎。次は地中海か?黒海か?それともサハラ砂漠か?」

 

 予想通りの結果とは言え、千冬は束の居所がまたしても掴めなかった事に苛立ちを隠せなかった。とてつもなく強力な妨害電波でも発しているのかは解らないが、大西洋全体なんて最早特定とは言えないだろう。

 

「…と、そろそろチャイムが鳴るな。すまない、無駄な時間を取らせてしまったなアルトランド」

 

「…いえ」

 

 気を遣ってそう返した訳ではなかった。それは昭弘自身、白いMPSの存在を単なるホラ話とは考えていないからだ。

 

 証拠となる画像は確かに存在しない。だが、千冬だって信用の置ける人間から聞き込んでいる筈だ。根も葉も無い話を吹き込まれたとは考えにくい。

 それに、M・Aは近い将来、昭弘にとって敵対勢力となるかもしれない部隊だ。強敵揃いと想定しておくに越した事はないだろう。

 

 

 いやもしかしたら昭弘自身、その白いMPS乗りと自分を重ねている部分もあるのかもしれない。

 

 もし自分が束の元に居なかったら、M・Aの様な戦闘集団に拾われていたら、実際に隊を率いて殺し合いの蜷局を駆け抜けていたのだろう。「あの時代」の様に。

 殺して、生きて、手にして、失って、そしてまた次の戦場へ。それが正しかったのか間違っていたのかなんて、今となっては昭弘にも解らない。

 

 顔も名前も判らない、かの白いMPS乗り。

 彼はそんな日々を送り、何を思っているのだろうか、何を感じているのだろうか。何処に辿り着こうとしているのだろうか。

 

 心にそんな問いを残した昭弘の吐息が、薄暗い室内に変わらず漂っていた。




さて漸く昭弘も白いMPSを知る所となりました。果たして激突する日は来るのでしょうか。

特別情報室やら何やらはクッソ適当に考えました。

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