IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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第55話 男の約束は鋼より硬く

―――――7月3日(日) 128号室―――――

 

 ヤブキリの針金を引き摺る様な鳴き声が蒸し暑さを増大させる夜、ラウラは液晶携帯を片手にボリュームの下げた声を贈り届けていた。

 

《友達から秘密を聞き出す方法…ですか》

 

 厳格さの中に年長者特有の親しみ易さが籠るその声の主は、名を『クラリッサ・ハルフォーフ』と言う。黒兎部隊副隊長、即ちラウラの部下だ。

 

「もっと言うなら、一人で抱え込ませない方法だ」

 

 ラウラとクラリッサの付き合いは長い。

 だが、元は落ちこぼれであり学園に入るまでは気性も尖っていたラウラは、最初からクラリッサと親しい訳ではなかった。

 

 今では、彼女の方が歳上と言うのもあって、ラウラも彼女を人生の先輩として慕っている。

 

 だが、相談を受けたクラリッサの反応は芳しくなかった。

 

《少佐自ら相談して下さるのは嬉しいのですが、御期待に沿えるかどうか。恋愛相談なら1から100まで助言を与えられるのですが…》

 

 意外にも恋愛脳な彼女。電話越しで普段の声より低く聞こえるせいか、上司の恋煩いが聞けない事への幻滅が滲んでいる様に思えてしまう。

 

「構わん、言ってみろ」

 

 有無を言わせてくれそうにない上司の圧を受けて、クラリッサは纏まっていない単語一つ一つを絞り出す様に答える。

 

《…やはり、話して貰えるようより親密になるしかないのでは?》

 

 その言葉通り、親密度の高い低いで打ち明け易さも変わる事はままある話だ。

 

《例えばですよ?髪型を変えてみるとか、化粧を変えてみるとか、男の心を煽るような可愛らしい服を着てみると―――》

 

「大尉よ、私は男なんだが…それで本当に友情は深まるのか?」

 

 友人を持った事がない故の純粋な疑問、信用し難い見地を披露する部下への指摘。その両方が合わさった疑念の声を、ラウラは上げる。

 対し、クラリッサも又困惑の声を上げる。

 

《?…ですが、友情と愛情は表裏一体と、確かにヤーパンの少女漫画でも…》

 

「…」

 

《…》

 

 日本の漫画とやらで得た知識が果たして役に立つのか、無知ながらも首を傾げるラウラ。自分で言っておいてちょっと自信が無くなってきたクラリッサ。

 両者の同じ様で種類の違う沈黙が、気不味さを3割増しにする。

 

《と、兎も角です。一緒に居る時間は増やすべきかと。出来る限り同じ部屋で寝るとか、模擬戦もその友人とだけにするとか》

 

「…分かった。努力しよう」

 

 クラリッサは尊敬する上司に大した助言もやれず、情けない気分に襲われる。

 そんな今の気分は、先程から感じていた疑問を解消するのに丁度良かった。

 

《…少佐、何故態々私なんぞに御相談を?》

 

 確かに、相談するなら千冬や他の学友も居るだろうに。

 だが、ラウラは特に間を置かずに答える。

 

「その友人が、私やお前たちと同様、普通の人間じゃないからだ。…最初に言うべきだったな」

 

 普段から相談する事に慣れていないラウラは、己の説明不足を反省する。

 自分たちと同じ、普通じゃない。即ち、先天的或いは後天的に、何らかの“処置”を施された人間である。

 クラリッサは、上司の少ない言葉を直ちにそう理解した。

 

《…私が少佐やその御友人と似た境遇だから、気持ちを共有出来ると思ったと?》

 

「…そうだ」

 

 ラウラはクラリッサ以上に、己の不甲斐無さを嗤う様に短くそう答えた。

 戦いの為の異物を付けられ、戦いの為の教育を受け、真っ当とは程遠い人生を歩んで来た者だけの世界。

 例え千冬だろうと、他の学友だろうと、昭弘の抱える闇とそれを覗く事すら出来ないラウラの気持ちなんて、同じ境遇を経た人間にしか解らない。

 

 だがそれを聞いて、クラリッサは自身への情けなさを反転させた。

 自身の助言は、この上無く的確であったのだと。

 

《…ならば尚の事、例え煙たがれても傍に居てやるべきではないかと。御友人が内なる闇を吐けるまで、いえ吐いた後も。少なくとも、私がその御友人ならそうして欲しいです》

《その粘り強さこそ、我々が脱帽したラウラ・ボーデヴィッヒ少佐でしょう?》

 

 その一言が聞けたラウラは、やはり自身の判断は間違っていなかったと、彼女に相談して良かったと、心からそう思った。

 

「…ありがとう、大尉」

 

 故にそれしか言葉が見つからない自身を、きっと神は赦してくれよう。

 

 だがこれから駄目元で訊いてみる事を、仏は赦してくれるだろうか。

 

「…最後に一つ。『阿頼耶識システム』…大尉も知っているな?」

 

《?…ええ、勿論です》

 

「何故そんな名前になったと思う?」

 

 その辺りでクラリッサは漸く察しがついた。ラウラの言う友人とは、会見で仏頂面だったあの青年だと。

 

 関係性を深く聞き入りたい彼女だが、今は上司の話が優先だ。そんな訳で、彼女は頭が面白可笑しくなる前に思考を戻す。

 

 クラリッサは少女漫画等、日本の文化に精通していると彼女自身自負している。仏教に関しても、浅いながらも一般人以上の知識はあるつもりだ。

 そんな彼女でも―――

 

《確かに…ただ機械と神経を繋ぐだけなら、阿頼耶識と言う名前は妙です。業か、或いは因果に関係しているのでしょうか…》

 

「因果応報…。神経を繋ぐ事で、何らかの代償を支払うと?」

 

 代償。その二文字から逃れられる人間は、ラウラも含めて皆無だ。だが、その恐ろしさを身を以て知っている人間は、ラウラも含めてごく少数でしかない。

 

《それは何とも…。と言うより、たかが名前です。失礼ながら、深く考える必要性を私は感じません》

 

 彼女の意見は尤もだ。阿頼耶識だなんて、所詮はオカルトの領域と言える。誰が実物をその目で確かめた訳でもない。

 

《ヤーパンのアニメでも、設定も意味も解釈も考えず、ただ格好いいからって理由で名前を付ける馬鹿な監督や脚本家も居ますし》

 

 分かったから一々日本のサブカルチャーまで引き合いに出すなと、ラウラは突っ込みたい気分を机を指で連打する事で我慢する。

 

「まぁ…それもそうか」

 

 だが、クラリッサの意見にはラウラなりに理解を示す。意識システムも神経システムも、確かに名称としてはイマイチ語感が悪い。

 

「夜分に悪かったな大尉。貴重な意見をありがとう」

 

《いえ、またいつでもご連絡を》

 

「ああ、ではな」

 

 ラウラは頼りになる部下を労うかの様に、丁寧に別れの言葉を告げた。

 

 

 夜闇を白く染める様な息を吐くラウラ。

 結局この日も、阿頼耶識システムが何なのか解らなかった彼は、既に何度も読み返した「纏め」に虚ろな瞳を向ける。

 

・阿頼耶識

 仏教における、人間が持つ8つの心の一つ。意識の主人、或いは意識の核。財を保存する蔵の様な役割を持ち、意識においては因果応報の大本となる「行い」を保存する。

 肉体を超越する不滅の器官であり、行いによって常に変化しながら流れる性質を持つ。それは「時間」と言う概念が在る限り過去から未来永劫流れ続け、生まれ変わりとも言われる輪廻転生を幾度と無く引き起こす。

 尚、これら輪廻転生や因果応報は未だ観測されておらず、科学的証明も不可能であるとされている。

 

 何度読み返しても、昭弘とMPSの神経直結に何の関わりがあるのか、まるで見出だせないラウラであった。

 

 部屋を閉め切っていたラウラには、外のヤブキリが鳴き止んだ事なんて、いや鳴いていた事すら気付かない。

 

 

 

 その十数分後、やたらご機嫌な一夏が機動訓練から帰ってきた。

 訳を訊く気分でもなかったラウラは、もうシャワーを浴びた旨だけ一夏に伝えた。

 

 

 

 

 

―――――7月4日(月) 放課後 アリーナD―――――

 

 堅くて速い。シンプルなそれは闘争と言う場において極めて有効であると、今ラウラは思い知らされていた。

 どんなに逃げても即座に距離を詰められ、どんな猛攻でも勢いを止められない。

 

(糞ったれ!最悪な相性だ!)

 

 ラウラが今相対しているのは、ここ最近すっかり存在感が薄れてしまった「重装甲グシオン」だ。

 本来ならただ堅い事しか取り柄の無い、決して強くはない機体だ。

 だが、バウンドビーストを使われてしまえば話は別だ。反応速度と機動力の大幅な上昇は重装甲時の欠点を補い、極大極太のハンマーをより有用な武器へと変える。

 

 それが解っているからこそ、ラウラは冷や汗を隠せない。装甲の薄いシュバルツェア・シュトラールにとっては、一撃一撃が致命傷だ。

 今も迫って来るあの深緑色の力士が、我を忘れて暴れ狂うマッコウクジラに思えてくる。

 

 

 通常のISでは有り得ない、最早形態変化にも近い重装甲と軽装甲の切り替え。それを可能としているのが、グシオンの特殊な主領域だ。

 グシオンも例に漏れず、待機形態時はコアの主領域に装甲を格納している。何も2種類の装甲を詰め入れている訳では無く、主領域内ではリベイク装甲が重装甲に覆われた状態なのだ。

 

 もっと簡略化すると、リベイクが本体で重装甲はそれを覆う外殻でしかないと言う事だ。

 故に、リベイク状態で起動したい時は内側だけを、重装甲状態で起動したい時は丸ごと呼び出す。展開中も、重装甲への変更は主領域から深緑色の外殻を引き出し、リベイクに戻りたいのならパージして主領域に外殻を戻すのだ。

 リベイクの腰部シールドと背部ユニットは、この重装甲から拝借したものだ。

 

 重装甲時のデメリットは主に2つ。

 

 第一に機動力の低下だ。

 PICのお陰で重量は問題無いが、防御力を上げるべくスラスターの内半数を装甲で覆ってしまっているのだ。

 

 第二には、武装が1つしか使えない点だ。

 コアは本来、拡張領域内の物体しか実体化出来ない。しかしグシオンの場合、主領域でも戦闘中に外装の出し入れを行っている。

 もし主領域内のすべてを実体化した重装甲状態だと、コア側が拡張領域内の武装を「あと僅かしか実体化出来ない」と錯覚してしまうのだ。実体化の容量オーバーと言う奴だ。

 射撃兵装1丁では効果的な弾幕は張れないし、重装甲高機動ならその防御力を活かして接近戦に持ち込むべきだ。よって、昭弘の選んだ重装甲グシオンに最適な武装が、最も破壊力のあるグシオンハンマーと言う訳だ。

 

 

 そんなグシオンの秘密など知る由もないラウラは、めげずに攻め方を変える。

 先程はモーニングスターで一撃を与えたが、SEを削り切れず逆襲のハンマーが掠り、大ダメージを受けてしまった。

 よって隙の大きいスターは封印し、レイピアで少しずつSEを削るチクチク攻撃に打って出たのだ。

 

 空中を何度も蹴りながら最小限の動作で斬撃をお見舞いし、鉄槌をギリギリで躱していく。良い調子だと、ラウラは感じた。

 

「あっ」

 

 だが、チーターがいくら翻弄したり引っ掻いたり噛みついてみせた所で、水牛には勝てない。いずれは、体当たりの餌食となる。

 

ゴッッ!!!

 

 鉄塊はシュトラールの横っ腹に直撃し、遠く彼方へ吹っ飛ばした。当然、そんなものを食らってシュトラールのSEが持つ訳無い。

 

 試合終了のブザーが鳴り、今回は昭弘の勝利に終わった。

 

 

 壊滅的に相性の悪い相手とは言え、負けず嫌いなラウラは悔しさでグランドを殴り抜きそうになった。

 それを止めたのは、心に去来する別の感情であった。頭にあるのは、負けた自分ではなく勝った昭弘の事だった。

 

 力を振るう昭弘の事だった。

 

 

 

―――ピット内

 

 一つの広い空間では、格納庫と同じ洋楽DJが作り上げた様なエレクトロ系の楽曲が、BGMとしてゆったりと流れ渡っていた。

 寂しい波の音と、良くマッチしている。

 

 そんな中に、グループが2つ。カタパルトの方角には昭弘とラウラ、入口の方角には水色のISを囲む20人程。

 ピットの広大さも相まって、両グループの距離は少なくとも50m以上はあろうか。

 

「付き合ってくれてありがとよ」

 

 上半身を露わにし、肉の鎧に付着した汗を真っ白いタオルで拭き取る昭弘は、半透明なスポーツ飲料をグビグビと口から体内へ流し入れるラウラにそう感謝を述べる。

 昭弘は今回、バウンドビーストを発動させた重装甲グシオンの性能を試しておきたかったのだ。

 

「構わん。私もスターの威力を詳細に把握しておきたかった」

 

 因みに、スターの一撃で重装甲グシオンに与えられたダメージは、凡そ10%だそうな。グシオンでさえこれなのだから、生身に当たって絶対防御を発動させたらほぼアウトと思っていいだろう。

 だが、ラウラは悩ましそうに頭に爪を立てるばかりだ。

 

「これは課題だ。近接武器しか無い以上、もうシュトラールではグシオンに勝てん。新しい武装を探すか、スターの運用を変えるか…」

 

 唸るラウラを見て、昭弘は少し得意気な顔で言った。

 

「単一仕様能力のお陰だ」

 

 まるでその言葉を待っていたかの如く思考の切り替わったラウラは、唸りを静める。

 ラウラの突然の沈黙は、湿った空気を更に重苦しくした。

 

 やがてラウラは頭から手を離すと、紅い瞳を大しけ前の海面みたく波立たせながら、鋭い眼差しを昭弘に送る。

 

「…何故、そんなにも単一仕様を使う?」

 

 ラウラは知っている、単一仕様能力には「代償」が伴う事を。

 

 例えばシュトラールの場合、機動力を大幅に向上させるゴルトロムを使うと、Gが掛かり過ぎて操縦者保護機能でも完全には相殺しきれない。

 結果、ISから降りた後数十分か数時間、五体に尋常でない程の疲労が浮き出るのだ。激しい空中機動に晒される為か、三半規管も乱れる。

 以上の事を踏まえると、連戦を考えるなら気安く使えない能力と言える。現に今も、ラウラは歩くのがやっとな状態なので、帰りは昭弘におぶって貰うつもりだ。

 

 白式の零落白夜も、SEの減少と言う名の代償を支払わなければならない。

 

 グシオンも、アレ程の力を解放出来るのだ。何の代償も無い筈がないと、ラウラは勘繰った。

 

「そんなん…強いから使うに決まってるだろう」

 

 すると、昭弘は自身の背中を指差す。大した副作用でもないので、ラウラを安心させる為にも教えておいた方が良いと判断した。

 

「そら見ろ、阿頼耶識にグシオンが装着されたまま、暫くの間外れなくなるんだ」

 

 だが、ラウラが放つ儚い眼光は変わらない。

 

 そもそも「ビースト」とは何だ。何故白式と同じく、二次移行も無しに単一仕様が使えるのだ。どう言う原因で阿頼耶識から外れなくなる。

 そんな疑問が、一つの穴から湧き水の如く広がる。

 

「少し前までは、待機形体に戻す事すら出来なかったんだが、イメージと気合でこの状態まで漕ぎ着けた。オレ個人としては、かなりマシになったと―――」

 

 ゴツゴツとした右肩に華奢な左手が乗せられて、気を取られた昭弘は台詞を中断する。

 紅い瞳の煌めきは、弱々しく揺れながらも確実に頭蓋を貫通する様な硬質さを持っていた。

 

 それは、昭弘が久しく見ていない「漢の目」だった。

 

「突き放さないでくれ昭弘」

 

 それは唐突な言葉の筈なのに、「何が言いたい」と昭弘は言えなかった。

 

「お前が何を成そうとしているのか、問い詰めるつもりはない。だがな…心配くらいはさせてくれよ」

 

 注意を別の何かに誘導して安心させる。それが、ラウラには耐えられなかった。壁を作られているみたいで。

 

「お前の境遇を理解していて、苦しみを共有出来る…そんな奴が居たっていいだろう?私の様に」

 

 何もかも一人で抱え込むな。

 そんな言葉も、まるで重みと安心感が違った。戦いの為に作られた、昭弘と同じくこの学園で自分が異質と自覚している、ラウラが言えば。

 

 ラウラだって、軍人である以前に熱いモノを持った人間と言う事だ。

 そして、それを教えたのは他でもない昭弘だ。

 

 ラウラはとうとうそのまま左手を力ませ、打って変わって猛禽類の如く昭弘の右肩を掴む。そして、鼻先と鼻先が触れる程近くで、ラウラは脅迫にも似た胸の内を捻り出す。

 もし覚悟を決めた人間が居たとしたら、きっと今のラウラみたいな目をしているのだろうと、昭弘は思った。

 

「言ってくれよ昭弘。阿頼耶識は…ビーストは代償を伴う危険な能力だと。私が傍で、耳を塞がず聞いていてやる。…友達だろう?私とお前は」

 

 男の友情を舐めるな。そんな表現がこれ程相応しい台詞など無いと言える様な、熔ける程に熱く強い言葉だった。

 理屈なんて関係ない。同じ男である昭弘が、ここまで言われて「それでも言えない」と返せる訳がない。

 

 ラウラを侮っていた、傷つけまいと気遣っていた。仲間の事ですぐ精神が壊れてしまう、弱い人間だと。

 だがもうその必要は無い。昭弘にとってのラウラは、もう「漢」なのだから。それはどんな絶望を耳にしたって、決して朽ち果てはしない。

 

 この男になら言える。いや、言わねばならない。例え全ては無理だとしても。

 それが、友の証だ。

 

「……お前が予想している通りだ。この力は少しでも加減を誤れば、グシオンと一体化しかねない能力だ」

 

 昭弘の白状を聞いたラウラは左手を離し、最後には顔も離した。昭弘が言うまでも無く、誰にもばらしたりしないと、身体全体で示す様に。

 

「だがオレには、どうしてもこの力が必要なんだ。理由は話せないが…」

 

 今は無理に話さなくて良い。友達が必要だと言うのなら、それを信じるだけだ。

 だが、妄信する程ラウラも世間知らずなお人好しではない。

 

「なら約束しろ。決して死なないとな」

 

 そう言って、ラウラは右手を鉤爪の様に広げて肩の付近まで持って行く。それに倣い、昭弘も同様に手を掲げる。

 

「ああ、約束だこの野郎」

 

 そうして、互いに加減する事無くハンドシェイクを交わした。大きさの違い過ぎるそれらは、去れど同じ肉密度を誇っている様に見えた。

 

 

 その後、昭弘は向こう岸の手伝いに行く為、巨体を更衣室へとのしのし向かわせた。

 

 巨大な背中から生える突起物を、ラウラは感情の落ち着いた右目で追った。そうするしかなかった。

 

(…私たちには、戦う事しか出来ない…か)

 

 ラウラだって、出来る事なら昭弘には単一仕様を使って欲しくはない。

 だが皮肉にも、似た境遇だからこそ能力を使う気持ちが、ラウラには解った。

 

 ラウラも戦士だ。力を奮う事でしか、前へは進めない。その摂理から逃れられない事は、同じ戦士である昭弘も一緒だ。

 

 それだけは、嫌でも解ってしまった。戦いと言う磁場に引き寄せられるのが、戦士の宿命であり性質なのだから。

 

 

 だがもう、ラウラは阿頼耶識システムなどと言う悪しき予感に怯えはしない。

 ラウラがそうである様に、昭弘もラウラと言う男を信じてくれたのだから。




タイトルを「男の友情」にするかどうかで、結構悩みました。
やっぱ大人になっても、男の炎は熱くて良いですね。

次回、閑話休題を挟むか検討中です。
もし挟まない場合、そのままシャルロットの話へと進みます(おおよそ5話程度?)
それが終わればいよいよ第一章の最後、銀の福音遍です。レゾナンスでの水着選び辺りからスタートする予定です。

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