IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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皆さん、大変お待たせいたしました。
ようやく、4話全ての手直しが終了いたしました。

旧4話では描写が無かったセシリアと一夏との戦いや、同じく描写が薄かった昭弘と箒と一夏による会話なども追加描写しておきましたので、「もう既に読んだ」という方も、是非読んでみてください!

そして、今4話前半で止まっている読者の方には、大変ご迷惑をおかけしました。


第4話 英国貴族の逆襲(後編)

 フィールド上空にて、セシリアはうっとりと見惚れていた。

 彼女は今迄、“男”と言う生物は下等で薄汚いモノだと考えていた。利益と保身の事しか頭にない「情けない生物」だと。

 しかし、自身の真向かいにて佇む天使の如き翼を生やした純白の騎士。その騎士である少年の瞳は、きっとずっと不変であろう輝きを放ちながらセシリアを直視していた。

 

 これじゃ駄目だとセシリアは普段の自分に戻るべく、一夏にある提案を言い渡す。

 

「織斑さん?今なら未だ手心を加えてあげても宜しくってよ?ご安心下さい。専用回線ですので皆さんには聞こえませんし、貴方だって無様な姿を晒したくは無いでしょう」

 

 確かに一夏が勝てる可能性は限りなく低い。圧倒的な大差で負けてしまえば「男の癖に情けない」と、今後ずっと馬鹿にされるかもしれない。それならセシリアの提案を受け入れて、少しでも格好良く負けた方がずっと良い。しかし…。

 

《…断る。それじゃあ今迄特訓に付き合ってくれた昭弘や箒、山田先生に失礼だ》

 

 そう言うと、一夏はより一層瞳の輝きを強める。

 そんな一夏の「男の顔」を見てセシリアはつい一瞬頬を染めてしまう。

 

「…馬鹿ですわね。では思う存分後悔させてあげますわ」

 

 そう言いながらも、セシリアは心の何処かで僅かに期待していた。「この殿方は自分に“何”を見せてくれるのだろう」と。

 

《後悔するのはどっちかな!!》

 

 一夏がそう返すと同時に試合開始のブザーがフィールド上に鳴り響く。

 

 

 

 試合開始から3分後。セシリアは存外な苦戦を強いられていた。強者故の慢心や油断等、原因の大部分はそれらが占めているのだろう。

 だがそれに加え、一夏と白式がすばしっこいのなんの。67口径レーザースナイパーライフル『スターライトMkⅢ』の狙いは定まらず、ぼやぼやしてれば白式の機械刀『雪片弐型』の餌食となる。

 

 何より調子が最高に悪かった。

 すれ違い様に覗かせる一夏の真っ直ぐな瞳を見る度、顔が身体中が沸騰する様に熱くなる。

 

 纏わりつく惚けを振り払う様に、セシリアは4機の高速浮遊砲身「ビット」を射出する。

 

 

 

 観客スタンドは大いに盛り上がっていた。

 未だ初心者の一夏が代表候補生相手に互角に渡り合っているまさかの展開に、全生徒の視線は釘付けだ。

 

 夫々が思い思いの感想を口にする中、箒は無言のまま試合を観ていた。

 

(…頑張れ一夏)

 

 ただ一夏を純粋に想うだけの箒には、今はそんな言葉しか浮かんで来なかった。

 

 すると、隣の席に座っていた本音が呟く。

 

「う~ん何かセッシー調子悪そう。ちゃんと“スイッチ”入ってるのかな~~?」

 

 

 

 

 4機のビットから逃げ惑う白式。何発かの黄緑色の線が命中し、少しずつ白式のSEが減少していく。しかし…

 

(なっ!?)

 

 セシリアは己の目を疑った。白式が、ビットの放ったビームを雪片弐型で吸収したのだ。直後白式は、セシリアが動揺した事で動きが鈍くなったビットの一機を雪片弐型の横薙ぎで破壊する。

 白式の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)『零落白夜』である。

 

 単一仕様能力とは、簡単に説明すればそのISのみが使える特殊能力の事で専用機にしか備わっていない。通常は最適化(一次移行(ファーストシフト))状態では発動せず、二次移行(セカンドシフト)しなければ発動しない。

 しかし白式だけは別で、束が一次移行後でも発動できる様に白式のISコアを弄っている。恐らく初心者である一夏への配慮だろう。

 零落白夜の能力は、白式のエネルギー刃を当てることでビームを無効化することができるのだ。

 そして、もう一つ。

 

(そんな…私のビット(ティアーズ)が…)

 

 中空でなければ呆然と立ち尽くしたくなるセシリア。

 刀がビームを吸収するという非常識と自慢のビットが一機撃墜された驚愕により、今のセシリアの脳内は「混乱」という二文字が支配していた。

 

《何ボサッとしてんだぁ!!》

 

 再度、白式が迫る。

 

(ッ!?不味いッ!)

 

ザシュッ!

 

 零落白夜の一閃が、ブルー・ティアーズの右脚部装甲に直撃すると…

 

(はぁ!?『絶対防御』が発動したですって!?)

 

 これこそが零落白夜の真骨頂。

 ISは、装甲の無い生身の部分もシールドバリアで覆っている。そこに一撃を加えられると、ISは操縦者を保護する為に絶対防御と言う機能を発動させる。しかし絶対防御が発動してしまうと、SEが大幅に減少してしまう。この機能は装甲部分にも存在する。

 零落白夜発動中、雪片弐型の威力は大幅に上昇し、その余り有る程の強大なエネルギーをぶつけることで強制的に相手の絶対防御を発動させるのだ。

 しかしこの零落白夜にも弱点が有り、発動中は自身のSEも著しく減少していく。

 

(訳が…訳が分かりませんわ。貴方は…一体!?)

 

 そんな混乱をどうにか振り払いながらセシリアは白式から距離を取る。

 

 しかし、セシリアは内心謎の喜びに襲われていた。次は何?次は一体どんな凄い事をこの殿方は魅せてくれるのだろう?と。

 セシリアは最早完全に「スイッチ」が切り替わってしまっていた。それは最早「戦士」としてのスイッチでは無く、一人の「女」としてのスイッチ。

 

 

 

(よっしゃ!流れは今こっちに有る!…もしいざとなったら、山田先生から軽く教えて貰った“アレ”も試してみるか。成功するか分かんないけど)

 

 一夏はそんなことを考えながら、先程から動きが鈍っているビットに狙いを定める。零落白夜でビームを吸収しながら、ビットを次々落として行く。

 しかし最後のビットを落とした瞬間ーーー

 

(ビットが増えてる!?)

 

 白式の周囲に、更に2機のビットが浮遊していたのだ。

 だが関係無い、零落白夜で無力化するまでだ。

 

 しかし一夏の考えは甘かった。

 

バシュバシュゥ!!

 

 そのビットが放ったのはビームでは無く「ミサイル」だったのだ。

 

(!?)

 

 ミサイルは2発とも白式に直撃し、周囲には黒煙が撒き散らされていた。

 

 

 

(やった!?)

 

 セシリアは黒煙が撒き散らされている空間にライフルを向けながら、様子を伺う。しかしその表情は何処が寂しげであった。

 直後ーーー

 

バァォンッ!!

 

 黒煙から“何か”が超高速で飛び出す。セシリアが正体を認識した時にはもう遅かった。

 白式が『瞬時加速(イグニッションブースト)』を敢行して来たのだ。

 

 瞬時加速とはISのスラスターからエネルギーを放出し、その放出したエネルギーを一度内部に取り込み圧縮して再度放出する高等技術である。その際に得られる慣性エネルギーによって、爆発的な加速を生み出すのだ。

 

 セシリアは最早驚愕することすらできなかった。

 代わりに想っていた事は、今尚自身に接近してくる純白の装甲を纏った彼のことであった。

 

(…嗚呼、何故今の今迄気付かなかったのでしょう。いえ違いますわね。気付いていたのに、無理に強がっていただけですわね。…一夏さん私は、貴方の事が…)

 

《ウオオオオォォォォォォォォォ!!!!!》

 

 勝利は目前だった。

 

 

 

 

《白式!SEエンプティ!!勝者、セシリア・オルコット!!》

 

「《……え?》」

 

 一夏とセシリアの間の抜けた声が重なる。

 

「えええええ!!?SE切れかよぉ!!?」

 

 度重なる零落白夜の使用により、白式のSEは枯渇寸前であったのだ。その状態で零落白夜を発動しながら更に瞬時加速まで行えば、当然白式のSEはあっと言う間に尽きる。

 

 SEが尽きると同時に白式の操縦者保護機能が働き、ブルー・ティアーズにぶつかる直前で白式は動きを止める。

 それにより、至近距離で一夏とセシリアの目が合う。

 

 セシリアは顔を真っ赤に染めると、無意識に視線を逸らしてしまう。

 一夏はそんなセシリアの表情に疑問を浮かべながらも、賛辞の言葉を贈る。

 

「流石は代表候補生だな。けど、オレだって結構良い試合したと思うぜ?」

 

 しかし尚もセシリアは無言のまま顔を赤く染め、視線を合わせようとしない。てっきり今迄通りの高圧的な態度で来ると思っていた一夏は、大きく拍子抜けてしまう。

 

《い、一夏さん!》

 

 突然下の名前で呼ばれ驚く一夏。その名を呼ぶと同時に、コバルトブルーの瞳を一夏に向けるセシリア。

 その時のセシリアの瞳は宝石の光沢の様に潤んでおり、そんな瞳で見られた一夏は少しだけ頬を赤らめてしまう。

 

《その……ありがとうございました》

 

「あ…いや、こちらこそ?」

 

 軽く頭を下げてくるセシリアに対し、状況が飲み込めていない一夏は良く解らないまま返してしまう。

 だが彼女は昭弘の仇だ。そこは忘れるなと、彼は自身に言い聞かせるが如く言葉を吐き捨てる。

 

「け、けど未だアンタを許した訳じゃ無いからな?勝負には負けちまったから、何も言えないのは分かってるけど」

 

 一夏にそう言われると、セシリアは酷く落ち込んでしまう。

 女の子にそんな顔をされてしまった一夏は、慌てて足りない頭の中から言葉を探し出す。

 

「ただその…。次の試合、頑張れよな!」

 

 一夏は笑顔でセシリアにそう告げる。数秒では何も見つからなかったので、本心をそのまま言葉にしてしまった。

 セシリアを許した訳では無いが、それでも彼女は同じクラスメイトだ。クラスメイトに激励の言葉を贈るのは、何も不思議ではあるまい。

 

 一夏からそう言われて、セシリアは入学後初めて満面の笑顔を見せる。

 

 

 

 

 

《勝者、セシリア・オルコット!!》

 

 昭弘が待機しているピット内に、スピーカーから流れる悲報が木霊する。

 

(…まぁ、オルコット相手に7分持ったんなら上出来過ぎるな)

 

 実際、試合におけるISバトルは10分掛かればかなりの接戦なのだ。普通、お互いの実力に大きな差がある場合はそれこそ3分と掛からずに試合が終了してしまう。

 

 昭弘はブルー・ティアーズのエネルギー充填等が終わるまでの間、ストレッチでもしながら待つことにした。

 ピット内にて、そんな昭弘の吐息が静かに生々しく響き渡っていく。

 

 

 

ーーー15分後

 

《アルトランド、予定より早くブルー・ティアーズのエネルギー充填と武装補充が完了した。オルコット自身もいつでも行けるそうだ》

 

 管制塔から千冬の通信が入ったので、既にストレッチを終えていた昭弘はベンチから重い腰を上げる。

 

「了解」

 

 短く返事をすると、腰に巻き付けてある迷彩柄のウエストバッグから“ドーム”状の物体を取り出す。その物体は反対側が平面になっていて、縦に穴が2つ並んでいた。

 昭弘は、平面が上になる様な形でその物体を手に持つと、そのまま物体を背中に生えている2本の阿頼耶識へと持って行く。物体平面側の2つの穴に、阿頼耶識のピアスがピッタリと挿入される。

 

「そんじゃあ()()()()()()頼むぜ。グシオン

 

 昭弘は背中の阿頼耶識に付けている待機形態のグシオンに、意識を集中させる。

 するとグシオンから青白い粒子が放出され、忽ち昭弘の全身を包み込む。呼応するかの様に、深緑色の装甲が昭弘を覆っていく。背中から両肩と腰へ、両肩から更に両肘へ、腰から更に両膝へと、先ずは頭部以外が装甲に覆われていく。次に後頭部から頭頂部・前頭部へ、乳突部から耳介部・側頭部へと頭部全体を覆っていき、最後に顔面全体にツインアイのマシンマスクがセットされる。

 その形状は全体的に丸みを帯びており、一目で重装甲だと相手に解らせる代物であった。

 

《アルトランド及びグシオン。発進準備完了。どうぞ!》

 

「昭弘・アルトランド。グシオン、出るぞ」

 

 そう言い放ち、ISコアの『拡張領域』から巨大な『グシオンハンマー』を呼び出し、グシオンのスラスターに火を付ける昭弘。

 全身装甲(フルスキン)の怪物が、フィールドへと遂にその姿を現す。

 

 

 

 フィールド上空には、既にセシリアがブルー・ティアーズを纏って待機していた。

 

 そこで昭弘はある異変に気付く。

 セシリアの様子が可笑しいのだ。

 

 彼女はISを纏いながらも頬を桃色に染めており、瞼を閉じながら右手を右頬に当てていた。おまけに、まるで何かを思い出しているかの様な笑みも浮かべている。

 

 まさか初心者の一夏に勝てて嬉しかった訳でもあるまい。

 気になった昭弘は、専用回線を使ってセシリアに訊いてみることにした。

 

「随分と御機嫌な様だが、何か良いことでもあったか?」

 

 途端セシリアから先程の表情は消え失せ、代わりに敵意を巻き付けた矢が眼差しから射られる。

 昭弘の知るいつものセシリアだ。

 

《…お前には関係の無い事でしてよモルモット》

 

「ああそうかい」

 

 何処までも淡白な返答に対し、昭弘も又淡白に返す。

 そこから更に続けて、昭弘はセシリアにある提案を言い渡す。

 

「おっと、そうだ。アンタに約束して欲しい事があったんだ」

 

《…何でしょう》

 

「もしオレが勝ったなら、オレの背中から生えているこの2本の突起物を侮辱した事、誠心誠意謝って貰う」

 

 昭弘からの要求に対し、セシリアは右手の親指と人差指で顎を触りながら考える素振りをする。

 

《…良いでしょう。但しもし私が勝った場合、お前には此処『IS学園』から出て行って貰いますわ》

 

「ああ、良いだろう」

 

 昭弘は、その自身の要求とまるで釣り合わない要求を何の迷いも無く受け入れた。

 

 

 

(一夏。私をこの試合に笑顔で送り出して下さった貴方に、非の打ち所の無い「勝利」と言う言葉を贈り届けてみせますわ)

 

 セシリアは自身が愛する男への手土産を心の中で選定すると、少しずつ自身の中に存在する「スイッチ」を切り替えていく。

 

(そしてモルモット。貴様には約束通りこの試合を以て、IS学園から消えて貰いますわ)

 

 昭弘への明確な敵意を皮切りに、セシリアのスイッチは完全に切り替わる。そう「戦士」としてのスイッチに。

 今の彼女は一夏と相対した時とは違う。目の前の昭弘の事を一つの「敵」としか認識していない。

 

 直後、皆が待ち焦がれていた試合開始のブザーが、アリーナ全体を轟かす。

 

 

 グシオンは開始早々ブルー・ティアーズに突っ込んで来るが、セシリアはスラスターを下方へと吹かして上方へと回避する。

  グシオンが横凪ぎに大振ったハンマーは、虚しく宙を切る。

 

(図体の割には意外と速いですわね)

 

 グシオンは体勢を立て直すと更に下方に向けてスラスターを放ち、自身の上方に佇んでいるティアーズへと肉薄する。

 今度は下からハンマーを掬い上げる様に振るが、ティアーズは左半身を後方にずらして最小限の動きで避けて見せる。

 

 が、彼女は歯噛みしていた。

 スターライトMkⅢも、こうも追い回されていては狙いを定める前にあの巨大なハンマーで叩き落とされる可能性が高い。ミサイルビットや“奥の手”も、あの重装甲には効果が薄いだろう。

 

(向こうもビットの事は調べている筈。威力が低いと知っているなら、ビットの攻撃など意に介さない。そうなればビットによる牽制も無意味。寧ろ悪戯にビットを出して、早い段階でビットの動きに順応される訳にも…)

 

 彼女にとっても遺憾だろうが、暫くは回避に徹して相手の弱点を探るのが賢明だ。

 

 こうしてフィールド上では逃げるティアーズ、追うグシオンと言う構図が出来上がった。

 

 

 

 グシオンとティアーズによる単調なドッグファイトが始まってから、既に5分が経過していた。

 

 観客スタンドは先の試合と一転、フィールド上での終わりの見えない鬼ごっこに辟易していた。

 

 そんな中、箒だけは未だに熱い視線をグシオンに送り続けていた。「きっと何かが起こる筈だ」と、そんな根拠の無い期待を胸に抱きながら。

 

 すると、隣で何やら意味深な含み笑いを浮かべている本音に箒は反応する。

 

「しののん~?私の予感が正しければ、きっとここから面白くなるよ~?根拠は無いけど」

 

(無いのか…)

 

 思わず肩の力が抜けてしまい、座っているのにコケそうになる箒であった。自身の無根拠は差し置いて。

 

 

 

 管制塔でも、千冬が「成程」と不敵な笑みを浮かべていた。

 そろそろ試合が動くのを予感するが如く。

 

 

 

 セシリアも、何を仕掛けて来るのかと警戒していた為か、何も起こらない単調な鬼ごっこに心底うんざりしていた。

 

(ま、所詮モルモット。作戦も纏まりましたし、そろそろ終わらせようかしら)

 

 セシリアの作戦はこうだ。

 先ず、ティアーズを区画シールドの方へと相手に勘づかれない様移動させる。そして区画シールドギリギリの所迄接近し、そこでグシオンの攻撃を躱す。勢い余ったグシオンがそのままシールドに激突した所を、ライフルで至近距離から狙撃。シールドへの激突と至近距離からの狙撃により、装甲へのダメージとSEの大幅な減少は必須。

 そうして、ビットとライフルによる連携攻撃にて止めを刺す。

 

 セシリアは早速作戦を実行すべく行動するが、同時に胸糞悪い感情が浮き上がって来る。

 

(…理解に苦しみましてよ一夏さん。どうしてこんな奴を貴方は師事するのか)

 

 その感情の正体は恐らく“嫉妬”。

 何故私でなくコイツを?何故コイツばっかり一夏から輝かしい“笑顔”を向けられる?セシリアはそんな現実と、身勝手な嫉妬を燃やす自分自身が、腹立たしくてしょうがないのだ。

 そんな事を考えている内に、区画シールド付近に辿り着いたセシリア。

 

 

 

(区画シールドに?…そういう事か。丁度良い、こっちもそろそろ仕掛けようと思ってた所だ)

 

 昭弘は露骨に笑った。それもフルフェイスマスクに覆われていては、セシリアに勘づかれる筈もなく。

 

 

 

 グシオンがハンマーを振り被った瞬間、ティアーズは左に避けて自身の元居た空間にライフルの銃口を向ける。こうすれば、グシオンがシールドに激突した瞬間をほぼゼロ距離で狙撃できる。

 しかし、グシオンは自身が銃口を向けている空間に来ない。

 

(ッッ!!??)

 

 瞬間、まるで一瞬の内に身体中を駆け巡る電撃の様な悪寒がセシリアを襲う。それと同時に、ハイパーセンサーのアラートが雷の様に鳴り響く。

 後方に振り向いた時には何もかも遅すぎた。

 

ガァギャィィン!!!

 

 

 

 観客スタンド組一同、口を大きく開けたまま思考停止してしまっていた。一瞬の内に様々な出来事が起きたので、殆どの生徒は情報の処理に時間が掛かっているのだ。

 

 先ずグシオンはハンマーを振り被ってそのままティアーズに突撃すると見せかけ、斜め下方向へと軌道をずらす。ティアーズの丁度真下迄来ると、突如青白い粒子を纏い出して“形状”を変えたのだ。

 直後、凄まじい速度でティアーズの背後に回り巨大な「斧」で叩き墜としたのだ。

 

 

 

「やはりかッ!!山田先生!これから面白くなるぞ!?」

 

 管制塔では、突如騒ぎ出した千冬に唯々困惑している真耶が居た。

 

 

 

 昭弘は土煙が舞っているグラウンドを、『ハルバート』を構えながら油断なく見下ろしていた。

 

 今グシオンの外見は、先程の重装甲とは別物と言っても良い程に変化していた。

 色は深緑色からベージュ色へ、全体的に丸みを帯びていた重装甲は幾らかスマート且つ鋭角的になっていた。頭部は更に小顔で鋭角的になっており、両側頭部からは後方に伸びる橙色の角が左右対称に付いていた。背中からは一対の丸い翼の様なユニットが伸びており、腰には楕円形のシールドがスカートの様に付いていた。

 先程のグシオンが「怪物」だとするなら、今のグシオンはまるで「中世騎士」を彷彿とさせる外見だ。

 

 『グシオンリベイク』。これこそがグシオンの真の姿である。

 

 

 もし先の一撃でセシリアが気絶していたなら、戦意喪失と見なされ昭弘の勝利となる。

 しかし、砂煙が晴れるに従って昭弘の表情が曇る。

 

(チッ、“化け物”が)

 

 未だティアーズは健在だった。

 ハルバートの直撃を受けた際のダメージこそ有るものの、落下した際のダメージは殆ど見受けられなかった。

 何とセシリアは、頭から落下しているあの一瞬で体勢を戻したのだ。そして地面に激突する瞬間、それこそ生身で着地するみたいに両脚に姿勢制御の全てを集中させ、衝撃を最小限に抑えた。

 

 しかし昭弘が感銘を受けているのもそこまで。今のグシオンは先の重装甲とは違い、ビット兵器によるダメージを普通に受けてしまう。

 相手が攻撃態勢を整える前に、こちらから討って出ねばならないのだ。

 

 

 

(うぅ…未だ眩暈がしますわ。あんな衝撃を食らったのは久方ぶりでしてよ野蛮人めが!)

 

 セシリアが悪態をつく間も与えず、グシオンはスラスター全開にして一気に距離を詰めてくる。

 

 この速度、ティアーズもライフルも間に合わない。

 咄嗟にセシリアは回避を選択するが、グシオンの振るったハルバートはティアーズの左腕装甲に直撃する。

 

(馬鹿なッ!?今のはギリギリ回避が間に合った筈!なんてスピードですの!?)

 

 更にSEが減少するティアーズ。

 尚もグシオンは猟犬の如く追撃を止めない。

 

(チィッ!これでは「あのモード」に切り替える余裕も…)

 

 

 

 

「しかし解せません。どうしてアルトランドくんは最初からあの形態で出撃しなかったのでしょう」

 

 真耶が、恐らく観客全員が思っているであろう疑問を口にする。

 

「“慣れ”さ」

 

 千冬の呆気ない答えに、真耶は目を見開く。

 

「アルトランドはオルコットに重装甲グシオンの機動に慣れて貰う為、敢えて単調な攻撃を繰り返していたんだ。その鈍足に目が慣れてしまったオルコットは、今のグシオンの高機動に付いて行けなくなっているんだ」

 

 恐らく今のグシオンの動きは、セシリアからすれば今迄の5倍にも6倍にも感じられるのだろう。しかし、両機のスペック上の機動力は殆ど差が無いと言っていい。

 

「…けど、所詮は慣れですよね?時間が経てば結局、今のグシオンの動きにも慣れてくると思うのですが」

 

 真耶がそう意見すると、千冬は待ってましたと真耶を指差しながら答える。

 

「そこからが面白いんだ。オルコットが慣れる前にアルトランドがどう攻め抜くか、アルトランドの猛攻をオルコットがどう凌ぐか」

 

 

 

 昭弘は内心焦っていた。

 昭弘の想定よりも遥かに早く、セシリアがグシオンの高機動に慣れてきたのだ。少しずつ、グシオンとの間合いが離れていく。

 

(そろそろ“アレ”を使うか?…いやまだだ、まだその時じゃねぇ)

 

 

 

 

(この辺りで仕掛けると致しましょうか。向こうは恐らく「動き回りながらビットは操れない」と考えている筈)

 

 その思考の後、セシリアはほくそ笑みながら思考を続ける。

 

(確かに()()()()のティアーズは無理ですわね)

 

 

 

 昭弘はティアーズを見て驚愕する。何と動きながらビットを操り始めたのだ。

 

(ッ!?……成程、2機迄なら何の制約も無く操れるって訳か)

 

 だがビット2機分の弾幕なら、多少食らっても問題は無い。

 しかし…。

 

バシュバシュゥッ!!

 

(ミサイルビット!?)

 

 ミサイル兵器はビーム兵器よりも衝撃力が強い。直撃を食らえば、大きく体勢が崩れてしまう。

 その隙に、スターライトMkⅢで狙い撃ちされてはたまったものでは無い。

 

 昭弘は直ちに軌道を斜め上方向に変え、ミサイルを避ける。当然、2発のミサイルはしつこく追尾してくる。

 昭弘は自身の直ぐ後方までミサイルが接近した所でグシオンを反転させ、真正面のミサイルを腰部シールドで防ぐ。

 

ドガガァァン!!

 

 2発ともグシオンの腰部シールドに吸い込まれる様に直撃し、周囲に黒煙を撒き散らす。

 昭弘は黒煙から脱すると、見たくも無い光景をその目に焼き付けてしまう。ティアーズがライフルをしっかりと構えてこちらを狙っているのだ。

 

 昭弘は咄嗟に腰部シールドを構える。

 しかしライフルが銃口を光らせることはなく、代わりに飛来してきたのは…。

 

《お行きなさいッ!ティアァァァズ!!》

 

 通信越しで聴こえるセシリアの怒号と共に、合計6機のビットが昭弘へと向かっていく。

 

(しめたッ!万全を期す為に態々ビットとの連携攻撃に出たか!!)

 

 6機のビットがグシオンを取り囲む瞬間、それは寧ろ昭弘にとって最大の好機。

 

ジャキッ!!

 

ドゥゥルルリリリリリリリリリリリリ!!!

 

ダァォダオォォン!!!

 

 『M134B ビームミニガン』と『炸裂弾頭搭載型滑腔砲』が火を噴いた。

 

 

 

 セシリアは突然の事態に身を固める。よもや、まだ武装を隠していたとは。

 

 ビットがグシオンを囲む直前、グシオンの背中に生えている2つのユニットから“新たなる腕”が一本ずつ生えてきたのだ。そしてビットが取り囲んだ瞬間、計4本の腕に夫々ミニガン2丁と滑腔砲2丁が呼び出された。

 それらが放つ無数の「黄緑色の線」とビット近くで炸裂する「花火」により、ビームビット2機とミサイルビット2機が地に墜ちる。

 

 しかしセシリアの硬直も一瞬で、直ぐ残り2機のビームビットを引き戻す。

 

(……そんなに…そんなにも撃ち合いを御所望でしたら悪夢を見せて差し上げますわ!)

 

 心の中にある容赦も躊躇も狂笑で吹き飛ばすセシリア。

 直後、彼女の両目を青藍色のバイザーが覆い隠す。

 

キュィィィン

 

 不気味な起動音を放ちながら、バイザーの端から端まで続いている一本線の様なカメラアイが紅く輝く。

 

ーーーブルー・ティアーズ、『中距離高速戦闘特化モード』に移行。スターライトMkⅢを『アサルトモード』に切り替えます。

 

 ブルー・ティアーズの中から、無機質な音声が静かに響く。

 

 

 

(残り2機…居ない!?)

 

 2機のビームビットはいつの間にかティアーズの直ぐ傍まで戻っていた。

 それらに向かって、ビームミニガンと滑腔砲による一斉射撃を行おうとする昭弘。

 

 だが、速い。

 ティアーズは、まるで悶え苦しむ蛇の様な軌道を描きながら超高速でグシオンに接近してくる。両肩付近には2機のビットを浮遊させていた。

 

ミ゛ィ゛ィン!!ミィミィィン!!ミ゛ィ゛ィ゛ィ゛ン゛!!

 

デュゥーーン!!デュデュデュデュデュデュゥン!!!

 

 2機のビットとアサルトモードのスターライトMkⅢによるビームの嵐を食らい、グシオンのSEが大きく減少する。

 

(チィッ!さっきのミサイルビットと言い、公式戦の映像を当てにしすぎたな。だがもうここまで来れば小細工は関係ねぇ。そうだろうオルコット)

 

 昭弘も賢しい思考は頭の角に追いやり、負けじとビームミニガンと滑腔砲で応戦する。

 

 

 

 観客スタンドは熱狂の渦に包まれていた。

 先程の退屈な鬼ごっこが一変、フィールド内では激しい銃撃戦が繰り広げられていた。

 

「アキヒーもセッシーもカッコイ~~!」

 

「ああ!本当に凄いぞ昭弘!」

 

 箒もまるで野球観戦でもしている様に、らしくもなく握り拳を高く掲げてしまう。

 

 2機共「動く」「狙う」「撃つ」という動作の他に「操る」という動作まで取り入れていながら、動きの精細さをまるで欠いていないのだ。その様は最早芸術的とさえ言えた。

 狂笑を浮かべながら区画シールド沿いを流水の如く動き回るセシリアとブルー・ティアーズは、生徒たちを大いに魅了した。その美しい黄金色の髪に余りにも不釣り合いで不気味なバイザーが、その魅力に拍車を掛けていた。

 そしてそんなティアーズを機械的な無表情で迎え撃つグシオンは、生徒達に大いなる恐怖と畏怖を抱かせていた。

 

 

 更に戦いは熾烈さを増していく。

 ティアーズは、両肩に浮遊させていたビットを自身から遠ざけるとまるでグシオンを囲い込むかの様に「ティアーズ、ビット、ビット」による3方向からのオールレンジ攻撃に出たのだ。

 

 グシオンはこれを生物的な機動を以って躱していくが、何発か直撃してしまう。

 しかしグシオンは区画シールドを背にする事で死角を減らし、オールレンジ攻撃の効果を半減させる。まるでシールド上を脚部スラスターで滑る様に移動しながら攻撃を掻い潜り、ビームミニガンと滑腔砲にて応戦する。

 

 そして滑腔砲が放った炸裂弾頭がビット付近で爆発し、ビット1機を撃破する。

 未だにSE残量ではティアーズが上だが、ビット1機が落とされたことにより少しずつ昭弘に軍配が傾き始める。

 

 

 

(チィッ!ですが未だSE残量はこちらが上!)

 

 なればやることは単純にして明確。こちらのSEが尽きる前に、グシオンのSEを削り切るのみ。

 セシリアはそう己を鼓舞し、今迄以上にグシオンに接近しながらビームの雨を降らせる。

 

 彼女は決して負けられない。一夏の為に。

 そう、彼は言ってくれた。真心の籠った「頑張れ」を。

 なれば「頑張った末に負ける」のでは無く「頑張った末に勝つ」事こそが、大好きな彼への手向けとなるだろう。その想いは、昭弘を学園から追い出したいという邪な思いを優に凌駕していた。

 

(にしても強い。私が今迄戦ってきた者達の中でも、恐らく3本の指に入る程に)

 

 今のセシリアは、昭弘をモルモット呼ばわりしていた数分前の自分を恥じていた。それ程迄に、セシリアから見て昭弘の実力は別格であった。

 

 

 

(なんつー気迫だ。ビット1機落としたってのにまるで勢いが衰えねぇ)

 

 「それ程自分をこの学園から追い出したいのか」とも昭弘は考えたが、やはり違う。たかがその為だけに、これ程迄にねばるとは昭弘には思えなかった。

 もしかしたら、彼女もまた自分と同じく何か“譲れないモノ”の為に戦っているのかもしれない。

 

 だが負けられないのは昭弘も同じだ。家族を侮辱した事、セシリアに絶対謝らせねばならない。

 

 昭弘は全ての銃口を残りのビット1機に向ける。

 その際ティアーズからの猛攻を受けてしまうが、最後のビットの撃破に成功する。

 

 

 

(もうビットが!?しかし奴のSEも残り僅か。後はこちらが先に削り切れば!)

 

 

 

(後少し!後少しだ!!絶対こっちが先に削り切る!)

 

 お互いに譲れない想いをトリガーに込め、そして唯々指を引き続ける。今の2人には最早「回避」という考えすら無かった。

 

「ウォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ラ゛ァァァァ!!!」

 

ドゥルリリリリリリリリリリ!!!

ダダォォン!!ダダォォン!!

 

 

 

「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」

 

デュデュデュデュデュデュデュデュデュデュデュデュデュデュデュゥン!!!

 

 

 

ビーーーーーーッ!!!

 

 試合終了のブザーが、アリーナ全体に短い静寂をもたらす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ブルー・ティアーズ!SEエンプティ!!勝者、昭弘・アルトランド!!》

 

 管制塔からのアナウンスが鳴り響いた数秒後、観客スタンドからはまるで雪崩の様な拍手喝采が巻き起こった。

 

 

 

 セシリアは、俯きながらビットに戻ろうとする。その表情は情けない自身を卑下している様であり、去れど後悔の色はどこにも見当たらなかった。

 

 すると昭弘から専用回線で通信が入る。

 

「…何ですの?謝罪でしたら来週の月曜日にちゃんと…」

 

《その件じゃない》

 

 昭弘に自身の言葉を遮られ、僅かに眉を顰めるセシリア。

 

《…お互い良い戦いだった。…そんだけだ》

 

 セシリアはそんな昭弘の言葉に少し驚いた顔をすると、口角を僅かに上げながら言葉を返す。

 

「…ええ、()()()()()()

 

 この日、漸くセシリアは昭弘のことを苗字で呼んだ。




やっとだ・・・やっと話を進められる。

追記:第55話にて、グシオンの装甲変化に関する説明を描写しておきました。
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