pixivではそこそこ人気なんですけどね。主にBL方面でですが…。
この作品にはホモ要素はありません。
今日も憂鬱な1日が終わった。
帰宅中も、比企谷八幡の足取りは重い。なぜなら、明日になればまた同じことが繰り返されると分かっているからだ。
きっかけは、同じクラスの女子への告白。彼女の馴れ馴れしい態度に勘違いした八幡は、その女子に告白した。しかしあっさりと失敗し、次の日にはそのことがクラス中に広まっていた。
そして毎日笑い者にされる日々。八幡のプライドは酷く傷つけられ、またその思考は日に日に腐っていった。二度と人には期待しない。勘違いもしない。彼はそう決意していた。
「ただいま」
「お兄ちゃんおかえりー」
リビングに入ると、机の上に高校のパンフレットが置いてある。八幡は見覚えのないそれに首をかしげる。
「小町、このパンフレットはなんだ?」
「お兄ちゃん、お父さんの話聞いてなかったの?お父さんの昔の友達から渡されたんだよ。その学校で教師をしてる人なんだって」
よくのく見ると農業高校のものだ。この少子化の時代、ただでさえ日本の農業は人手不足らしいし、こういう高校は尚更大変なのだろうなと八幡は思う。
しかし俺には関係のない話だな、と興味を失くす。自分の志望校は県屈指の進学校である総武高校だ。中学の同級生がいないであろうそこに進学し、人に期待せす過ごすのだ、と。
しかし、本当にそれで良いのか。不意にそんなことを考える。確かに人と繋がろうとしなければ楽だろう。けどそんな生き方は逃げではないのか。今のクラスメイトみたいな連中にバカにされないためには、俺自身が変わる必要があるのではないか。
今の情けない自分を変えたい。そのためにまずは環境を変えなければ。
八幡はパンフレットを手に取り、内容を読み込む。
高校の名前は大蝦夷農業高校。北海道にある、日本一の敷地面積を持つ高校である。
いくつかの学科に別れており、酪農科学科・農業科学科・食品科学科・農業土木工学科・森林科学科の5学科がある。
さらに学生寮が大きく、特に酪農科学科は、1年生のうちはその実習の多さゆえに強制的に寮生活なのだそう。男女共に3人部屋だ。
いつもの俺なら実習三昧に寮生活など真っ平御免だが、今は何故か魅力的に思えた。こんな環境なら、俺の腐った根性も直るのではないか。ついでに腐った目も直るのではないか。
いや目は無理か、と即効で諦める。しかし、気づけば八幡は、自分が農業高校に通うという選択肢を真剣に吟味していることに驚いた。結局この日は判断がつかず、とりあえず眠ることにした。しかし、北海道の農業高校という選択肢が、頭にこびりついたままだった。
◆
そして季節は流れ、春。比企谷八幡は大蝦夷農業高校、通称エゾノー。その酪農科学科のクラス、1-Dの教室にいた。そして今は自己紹介の時間だ。
「担任の桜木だ。受け持ちは国語。これから3年間よろしくな!」
中年の担任が名乗った後、生徒の自己紹介にうつる。
「幕別東中から来ました、相川進之介です。獣医目指してます」
「清水第一中出身、駒場一郎!卒業後は実家の酪農を継ぐつもりです!部活は野球部、甲子園目指します!」
「帯広川西中央中から来ました、稲田多摩子。農業経営を学んで世界にも負けない農業を目指します」
優しそうな人、ガタイのいい人、タマゴみたいに丸っこい人と順に自己紹介をしている。八幡はその様子を見ながら、やはり農業高校は自分の将来をちゃんと考えている奴が多いな、と思う。親が農家で、そのシビアな世界に家業の手伝いという形で関わっているからか。
エゾノーに入学するまでの数ヶ月で、八幡は少しだけ変わった。北海道の農業高校に行く、と決めてそれを両親に宣言してからのことだ。
父に高校案内のパンフレットを渡した、エゾノーで教師をしている轟先生という人にも、自分から連絡を取った。父曰くムキムキらしい。そして進路についての相談をした。
先生は父も母もサラリーマンである八幡が農業高校に行くと言うと驚き、しかし大いに賛成してくれた。 親切に農業高校のカリキュラム等を簡単に説明してくれもした。
最後に八幡が
「農業高校で一番必要なものはなんですか?」
と聞くと、
「筋肉だ」
と告げられた。いや重要な科目とか心構えとか聞きたかったんだか…と思ったが、実習が多いらしいから、あながち間違いではないのかもと思い直した。
それからの八幡は、入試に向けて受験勉強をしたり、酪農について少し勉強したり、小町に進路を話して驚かれたりして過ごした。
目標を持って努力するうちに、クラスで笑い者にされることも気にならなくなった。いつしか心にゆとりが持てるようになったのである。
そしてこの高校に入学したのだった。
時間を現在に戻し、次は八幡が自己紹介をする番になった。
「○○中学出身、比企谷八幡です。千葉県から来ました。よろしくお願いします」
八幡が着席すると、クラスメイトたちがざわめきだす。県外からわざわざ北海道の農業高校に来る人間など珍しいからだ。
休み時間になると、案の定質問攻めにあった。
「千葉ってデ○ズニーーがあるんでしょ!?比企谷行ったことある!?」
「ミッ○ーに会った!?」
なんでエゾノーに来たんだ?と聞かれたら何と答えようか身構えていたが、クラスメイトたちから来たのはそんな質問だった。実家が宅配圏外の位置にあるようなど田舎出身の生徒が多いため、興味津々のようだ。
ぼっちの八幡はそんなところとは縁が無い筈だったが、実は中学卒業後に、卒業祝いだと小町に連れてかれていた。おかげで質問に応えることができ、クラスメイトとの距離が縮まった。やはり小町は天使であると再認識した瞬間であった。
部活も恋も始まらなかった(次回から始まります)。
読んでくださってありがとうございます。不定期の連載になる予定なのでご了承ください。