比企谷八幡のエゾノー生活   作:秒速123km

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タイトル変更しました。
『やはり俺の農業高校での青春は間違っている』
→『比企谷八幡のエゾノー生活』
前のタイトルのほうが良かったって言われたら戻します。


第3話 そして二人は

  翌日、朝の酪農科学科・1-Dは混乱に包まれていた。

 

『誰だよあの美人…』

『タマゴの席に座ってるぞ…』

『まさか……』

『いやいやいやいやそれはないだろ』

 

 謎の女子について遠まきに話し合う男子たち。その正体を知っている八幡は黙っている。まだ昨日の告白を受け止めきれていないのだ。

 

「もしかしてタマちゃん!?痩せたねぇ!」

「なんで急に?」

 

 周りの女子たちが興味深げに尋ねる。なんと答えるのか、八幡も耳をそばだてる。

 

「面倒な『家畜』を競り落とさなきゃいけなくてね。痩せざるを得なかったのよ」

「家の仕事の手伝いってこと?」

「タマちゃんの実家、大農家だもんね〜。珍しい品種も育ててるんでしょ」

「痩せるくらい世話が大変な品種ってこと?そんな牛いたっけ?」

 

 都合よく勘違いした女子たちと話す多摩子。八幡がそれを見ていると、多摩子がチラリとこちらを見た。 そしてニコリと笑った。

 

 

 

 ◆

 

 

 その日の夜、八幡と多摩子の二人は寮のロビーで会っていた。

 

「お前、体は大丈夫なのか?痩せてから貧血気味とか言ってたけど」

「正直ツラいわね。体はダルいし肌は荒れるし」

「おいおい…」

 

 明らかな体調不良だ。

 

「そうまでして痩せてなくてもいいだろ。元の体型に戻せよ」

「いやよ。痩せてる子が好みだって言ってたでしょ?」

「言ったけども」

 

 頑なに今の体型でいようとする多摩子に、八幡はほとほと困ってしまう。

 

「何で俺なんだよ?目は腐ってるしひねくれてるし、どう考えても事故物件だろ」

「私にとっては優良物件よ?相手が一般家庭だと安心して婿入りさせられるから」

「いやそういう条件?」

 

 だったら八軒とかでも…と言いかけた口が、多摩子の唇で塞がれる。そのまま十数秒が過ぎ、ようやく多摩子が離れる。そして心外だ、とばかりに眉を寄せる。

 

「それだけの理由でこんなことしないわ。私はあなたの笑顔に一目惚れしたの」

「それだって大した理由じゃないだろ…」

「私にとってはそれで十分なの」

 

 煮え切らない八幡の態度に、多摩子は苛つく。

 

「結局あなたはどうするの?私と付き合うの?付き合わないの?」

 

 八幡は答えに詰まる。正直なところ、彼の心はかなり揺れていた。

 痩せた多摩子はかなりの美人で、そんな美人から告白されて男として嬉しくない訳がない。2度のキスのせいもあってか、かなり意識してしまっていた。

 

 しかし、と八幡はとどまる。それは本当に自分の気持ちなのだろうか、と。

 単に美人から告白されて、キスされてのぼせ上がっているだけではないか。

 だとしたらそんなものは自分の本心ではない。そんなものは…『本物』ではない。

 

「ああもう、ウジウジと男らしくないわね!」

 

 八幡が自分の気持ちは錯覚であると決着をつけようとしたそのとき、多摩子が声を上げる。

 

「聞かなくても分かるわ。自分の中で勝手な結論出して、勝手に納得しようとしてるでしょう?私はそんな難しいこと聞いてるんじゃない、ただ私と付き合いたいのか付き合いたくないのか、それだけ聞いてるのよ」

「いやでも…」

「大体、自分の恋愛感情を論理的に整理しようとすること自体がナンセンスよ。恋愛なんて衝動的なものでしょ」

 

 まだ引っかかっている八幡に、多摩子はさらに畳み掛ける。

 

「『好きにならなきゃ好きな理由は分からない。』あなたがゴチャゴチャと考えてることは全部、時間の無駄!いいから直感で答えを出しなさい!」

 

「もう一度聞くわ。あなたは私と付き合う?それとも付き合わない?」

 

「俺は…」

 

 

 ◆

 

 

 次の日も野球部の練習は過酷だった。1ヶ月間なんとか食らいついてはいるが、中学時代帰宅部だった八幡にとっては毎日がフルマラソン完走と同義であった。

 

「次、走塁練習やるぞ!準備しろ!」

「「「ウッス!」」」

 

 他の部員と共に、八幡も走る。既に電池が切れかけており、気力で動いているような状況である。

 

「比企谷意外と速いな。陸上やってたのか?」

 

 声を掛けてきたのは同じクラスの松山雄一。丸坊主にガッシリとした体つきは、いかにも野球部といった出で立ちである。1-Dの野球部は駒場、八幡、そしてこの松山の三人である。

 

「いや何も。高校までスポーツやったことなかった」

「その割には運動神経良いよなー。春のスポーツテスト、50メートル何秒?」

「6秒5」

 

 全国の高校一年生の50メートル走の平均タイムが7秒47なので、八幡は中々速いほうである。

 なぜ八幡は足が速いのか。その理由は彼の小学生時代にある。小学生のヒエラルキーにおいて、足の速さは重要どある。足が速ければ一目置かれるのだ。

 当時から既にぼっちだった八幡は、友達が欲しい一心で毎日ランニングをした。

 結果足は速くなり、八幡は『ゴキ谷くん』というあだ名を付けられた。理由は無駄に俊敏なところがキモいから、である。

 

 八幡が悲しい過去を思い出していると、練習が終了した。他の一年生たちと一緒にグラウンドを整備してから部活動を終える。

 八幡は同じクラスということもあり仲良くなった駒場・松山と一緒に、寮へ向かう。

 

「毎日毎日部活三昧ってキッツいなぁ。潤いが欲しいよ、彼女とか。お前らもそう思うだろ?」

「興味ない」

 

 松山の問いかけに駒場はつれなく返す。

 

「比企谷はどうよ?彼女欲しいよな?」

「……まあ、そうだな」

「だよなあ!俺ら高校生だもん!」

 

 八幡が答えるのに若干間ができたが、松山は気にしなかった。

 三人は寮に到着し、風呂場に向かう。その道中で多摩子とすれ違う。

 

「お、タマゴだ。急に美人になったよな、あいつ」

「……ああ」

 

 また間ができつつも、八幡は答える。そのまま通り過ぎようとすると、多摩子が声を掛けてくる。

 

「八幡」

「っ!お、おう」

「明日、一緒に弁当食べない?本当は今日も一緒が良かったんだけど、あなたすぐに友達と食べ始めるから」

「実習の後で腹減ってたんだよ。悪かったな」

「良いわよ。明日からは一緒に、ね?」

「…分かった」

 

 多摩子が立ち去ってから八幡が振り向くと、いつも通りの駒場と、殺意に満ちた松山がいた。

 

「比企谷、タマゴと付き合ってたんか」

「おう、昨日から」

「この裏切り者ーーー!!」

 

 松山は捨て台詞を吐いて走り去っていった。

 

 

 ◆

 

 おまけ

 

「マッ缶を飲んだら体調が回復したわ。これから毎日寄越しなさい」

「マジか」

 

 

 

 

 




「好きにならなきゃ好きな理由は分からない。」
ごめんね青春!から引用しました。満島ひかりが好き。
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