目が覚めると古い蔵のような場所に寝ていた。慌てて起き上がる。僕は屋上から落ちて死んだはず。それに死ぬ前に神様にルルーシュと逢わせてってお願いしたんだけどな、神様はやっぱり意地悪だ。
もしかして一命は取り留めて誰かに助けられたとか?それだったら救急車よばれてるだろうしこんなボロい蔵に運んでこないだろ。一日にいろんなことがありすぎて思考力が低くなってる気がする。落ち着け僕、一旦冷静になるんだ。
まずは情報把握だ。体の痛みは固い床に寝ていても感じなかったくらいだから大丈夫かと思い立ち上がる。予想通りどこも痛くなかった。どうやら僕は異常に丈夫らしい。
辺りを見回す。何となく懐かしい感じがするのは気のせいだろうか。それに目線もいつもよりだいぶ低い。それよりおなかが空いてきた。今日の朝も忙しくて何も食べていなかった気がする。ナナリーが朝食は取った方がいいと言っていたな、空返事だけして結局言う通りにしなかったのを今更後悔した。
立っているだけでもなんだか頭がくらくらする。これは結構な重症だ。どこか適当な座る場所を探して腰を下ろす。こんな事になったのは屋上のフェンスに体当たりしたことだ。そう考えて泣きたくなった。何でそんなことしようと思ったんだ。馬鹿にもほどがあるだろう。自分がここまで馬鹿だとは思わなかった。薄っすらと僕を襲う空腹に耐えきれず壁に背をもたれ俯く。
足元が視界に入る。あれ、草履なんて履いたっけ。それに袴まで。懐かしいな、これは小さい頃着ていた武道袴と同じだ。いつこんな服に着替えたんだろう。記憶をた辿っても着替えた覚えはなかった。
そこで初めて僕は今の状況が奇異だと感じた。一体ここはどこで、屋上から落ちたのにも関わらず生きているのは何故なのか。
見覚えのある蔵、幼少期と同じ袴、いつもよりだいぶ低い目線、いくつかの疑問を頭の中で並べると一つの結論に至った。
―――まさか。
でもこの状況を整理して考えるとそう認めざるを得ない。自然と呼吸が荒くなってくる。それなら、君は。ルルーシュは…!
「居た…具合はどう?」
グルグル考えていたら後ろの方から高い声が聞こえた。聞き覚えがあり思わず背筋が震えた。やはりここは“あの”蔵なのかと考える自分とそんなことはあるはずがないと考える自分がいる。頭の中はごちゃごちゃだ。
「…大丈夫?」
応答のない僕に心配そうに声をかけながら、こちらに近づいてくる。だめだ、今君の顔を見たら懐かしくて泣いてしまう。あれ、さっきは逢いたいなんて思ってたのに矛盾しているな、なんて人事のように思った。
「き、聞こえてる?」
俯く視界に君の靴が入り、そこから少し顔を上げれば健康そうな白い生足…いや断じて変な気は起こしてない。顔を合わせない僕をじれったくおもったのか分からないけれど君がすとんとしゃがむ。一気に真っ白なワイシャツに映える黒いサスペンダーが目に入った。
ここまで来ても顔を合わせようとしない僕の様子がおかしいのは誰でもわかるはずだ。彼は心配そうに小さな手を僕の目の前で振り言った。
「…スザク」
ぷつり。君が捨てたはずの名前を呼んで何かが切れた気がした。今まで耐えていた何かが。ダメだ、今泣いたらダメなんだ。奥歯をこれでもかと噛みしめる。
「ル、ルーシュ…っ!」
僕の声も高くて別の意味で泣きたくなった。幼いルルーシュの顔が見える。あぁ、やっぱり僕はうまく笑えていないや。大きなアメジストの瞳に映った僕の顔を見て、そう思った。