「はあ・・・」
あれから数日たったある日の夕方。高校生活が始まり、今日も無事に授業を終えた武瑠は町にあるCDショップへと向かっていた。目的はとあるアイドルの新曲。だが、武瑠はアイドルに関しては全く興味を持っていない。
では、なぜ武瑠はそれを買いに行っているのか。それは、
「・・・まったく、御成の奴。普通、人に自分の趣味を買わせに行かせるか?」
そう。お使いである。
実は、御成は重度のアイドル好き。所謂、『ドルオタ』と言うものである。だが、彼曰く、
『住職代理がドルオタと知られれば、大天空寺のイメージが壊れてしまいますゆえ』
らしい。だから、武瑠に買いに行かせているのだ。
「イメージを大切にするなら、ドルオタなんか辞めればいいのに・・・」
なお、これを御成に言うと一時間ほど御説教される。
「武瑠ぅぅぅッ!」
「ん? この声は・・・」
振り返ると、リディアンの制服に身を包んだ響が武瑠の方に走って来ているのが見えた。彼女は武瑠の隣まで来ると足を止めた。
「武瑠、久しぶりッ! こんな所で会うなんて奇遇だね」
「御成にお使いを頼まれてな。確か、かざなりつばさとかいう人のCDなんだけど・・・」
「おぉッ! 私も翼さんのCDを買いに行くところなんだ。一緒に行こう」
「まあ、別にいいけど・・・」
「よぉしッ! そうと決まれば、レッツゴーッ!」
「あ、おいッ!」
武瑠の手を引き、走り出す響。
しかし、彼女は目的地の近くで足を止めた。
「響? 急にどうし───」
そのとき、一陣の風が吹き、二人の前に黒い灰のようなものが舞った。
ハッとなり、辺りを見れば、あちこちに見受けられる黒い灰の山。武瑠たちはすぐに分かった。
「「ノイズ・・・ッ!」」
武瑠と響はこの灰の原因を口にする。
『ノイズ』。それは人類共通の脅威として認定されている特異災害。どこから現れるのか、いつから存在しているのか、多くのことが謎に包まれた存在。唯一分かっていることは、無差別に人だけを襲うこと。そして、接触した人はノイズと共に炭素の塊になってしまうということ。
「きゃあああああああッ!」
「「───ッ!」」
彼らの耳に悲鳴が聞こえた。二人はすぐさま悲鳴の聞こえた方に向かうと、一人の小さな女の子が親とはぐれていた。
「君、大丈夫ッ!?」
「う、うん・・・」
「た、武瑠、あれッ!」
響が少し離れた所を指差す。そこには数体のノイズがいた。すぐに物陰に隠れる武瑠たち。ノイズは辺りをキョロキョロと見渡し、獲物となる人間を探している。見つかるのは時間の問題だろう。
「・・・響、この子を頼む。俺が囮になるから、この子をつれて逃げろ」
「えッ!? 武瑠、ダメだよッ!」
「大丈夫だって。俺の逃げ足の速さを知っているだろ?」
「でも、もしノイズに触れたら───」
「───響」
武瑠は響の両肩を掴み、響の言葉を遮った。
「響、このままじゃ、俺たちは全員ノイズに殺される。頼む。俺を信じてくれ」
「武瑠・・・」
ふと、響は自分の両肩を掴む武瑠の手が震えていることに気づく。武瑠も決死の覚悟で響たちを守ろうとしているのだ。
「・・・分かった。でも、絶対に死なないって約束してッ!」
「ああ、約束だ」
響は少女を連れ、ノイズがいる方向とは逆の方へと走り出す。それと同時に、物陰から出た武瑠はノイズに向かって大声で叫んだ。
「ノイズッ! 獲物はこっちだッ!」
ギョロリと一斉に武瑠の方へと向くノイズ。武瑠はすぐさま響たちが逃げた方とは別の方に走り出す。ノイズはそのあとを追いかけた。
「はあ、はあ・・・ッ!」
体を伸ばし、襲いかかるノイズ。それを武瑠は素早く避けた。何度も何度も襲いかかってくるノイズから逃げ続ける。
(よし。この調子なら───)
しかし、武瑠は忘れていた。ノイズには幾つかの種類があり、その中には
「───え」
グサリッと、武瑠の体が空から襲ってきたノイズに貫かれる。その拍子に首に掛けていた刀鍔の紐がちぎれ、地面に落ちた。それと一緒に、武瑠の体がその場に崩れ落ちる。
「嘘、だろ・・・ッ! うぅ、う・・・ッ!」
武瑠は側に落ちた刀鍔に手を伸ばす。思い返すのはあの時父親とした約束。そして、ついさっきした幼馴染みとの約束。
『英雄の、心を学び・・・、心の、目を開くのだ・・・』
『絶対に死なないって約束してッ!』
「約束を、果たさなきゃ・・・ッ! まだ、死にたく、ない・・・」
だが、武瑠の意識は永遠の闇に包まれた。
────はずだった。
「ん・・・」
肌を撫でる暖かい風。鼻孔をくすぐる花の香り。
目を開けると、そこに広がっていたのは辺り一面に広がる赤い華々だった。バラでもない、カーネーションでもない、なんとも言えない美しさをもった赤い華。遠くには、天に向かってそびえ立つ塔があった。
「ここは・・・? 俺は、死んじまったんだよな・・・」
「生き返りたいかい? そりゃ生き返りたいよね」
「───ッ!」
突然の声に驚き、振り返ると、そこには白いローブを纏い、左手に杖を持った、まるで魔術師のような格好をした男が立っていた。
「だ、誰・・・?」
「私かい? そうだね。とある王を誑かした、しがない魔術師さ」
「何でもいい。おっちゃんは俺を生き返らせてくれるのかッ!?」
「おっちゃんは止めてくれないかな? せめて、『魔術師』と呼んでくれ」
「頼むよ、おっちゃ───」
「ほいッ」
「うわッ!?」
魔術師と名乗る男に掴みかかる武瑠。しかし、見えない何かに弾き飛ばされ、地面に背中を打ち付けてしまった。
「まったく。バカだね、君は」
「・・・ああ、そうだよ。俺は大バカだよッ! 自分が信じていないのに、何が俺を信じてくれだ・・・。約束を守れず、結局死んじまって・・・。でも、それでも・・・ッ!」
そのときだった。武瑠の胸から一つの光の塊が出てくる。それは武瑠の前で目玉のような形をしたものになり、武瑠の手に収まった。
「なんだ、これ・・・?」
「天空寺武瑠。やはり、君は戦う運命を背負っているみたいだね」
「え、どういうこと?」
「君が持つその目玉。それは『アイコン』。そのアイコンには、君の魂が宿っている」
「は? 俺が、これに?」
魔術師の言葉を信じきれず、手に持ったアイコンをまじまじと見つめる。
「この世には同じように英雄の魂が宿ったアイコンが幾つも存在するのさ。つまり、アイコンは
「え、ホントにッ!?」
「おおっと。驚くのはまだ早い。これを使えば、ノイズとかいうあの気持ち悪いものを倒すことだって出来る」
「な───ッ!?」
あまりの事に、武瑠は言葉を失った。
ノイズは一般的な物理的エネルギーを無効にするのが世の中の常識だからだ。
「・・・無茶だよ。いくらなんでも・・・」
「無茶じゃない。君が『仮面ライダーゴースト』になればね」
「ゴースト?」
「さあ、どうする?」
魔術師に問われ、武瑠はもう一度アイコンを見つめる。
恐怖もある。不安もある。しかし、
「・・・よく分からないけど、ゴーストになれば、誰かを救うことも出来るんだよな」
「もちろん。まあ、それは君次第だけどね」
「だったら、なるッ! 仮面ライダーにッ!」
「よく言ったッ!」
パチンッと魔術師が指をならす。すると、武瑠の腰に瞳のバックルとトリガーのついたベルトが現れた。
「な、なにこれッ!?」
突然の事に驚く武瑠。
「まったく。下らない質問の多い奴だな」
「え、響───じゃないッ!? なんだ、こいつッ!?」
「その子はユルセン。あとは彼が教えてくれる」
「しっかりやれよぉ」
「それじゃあ───」
「え───」
幼馴染みと同じ声音をしたお化け、『ユルセン』に驚く武瑠の額に魔術師の指が添えられた。そして、
「ゴーストとして、生き返りなさいッ!」
「ぬおッ!?」
額に走る衝撃。一瞬意識が暗転するも、すぐに戻る。
そのとき、武瑠の目にはあの赤い華に包まれた広場ではなく、自分が死んだ、あの場所が写っていた。
「ここは、いつの間に───ッ!」
武瑠の耳が不気味な音をとらえる。振り返ると、そこには両手では数えきれないほどのノイズがいた。
武瑠は落ちていた刀鍔を拾い、ノイズを見据える。
「俺は、・・・もう後悔しないッ!」
武瑠はベルトのトリガーに手を添え、
「・・・えっと、どうすればいいんだ?」
なにせ、変身に関して一切説明されずに送り出されたのだ。こうなることは明白だった。そこに、ユルセンがすかさずフォローに入る。
「なにやってんだよ。アイコンのスイッチを入れて、ベルトに装填して変身だッ!」
「アイコンのスイッチ? えっと・・・、これか」
武瑠は懐から黒いアイコン、『オレゴーストアイコン』を取りだし、横のスイッチを押し、ベルトに装填した。
《アーイ! バッチリミナー! バッチリミナー!》
「な、なんだッ!?」
突然、ベルトから音楽が流れ出す。同時にベルトから蛍光オレンジで縁取られた黒いパーカー、『オレパーカーゴースト』が飛び出した。出てきたオレパーカーゴーストは音楽に合わせて踊り出す。
「トリガーを引いて、押しこーむッ!」
武瑠は言われるがままにトリガーを操作した。すると、
《カイガン! オレ!》
武瑠の体が光だし、パーカーと同じ色合いの装甲が包み込んだ。胸の中心には瞳の紋章が描かれている。
「え、え、なにこれッ!?」
自分の身に起きた出来事に驚く武瑠。そんな彼に数体のノイズが襲いかかるも、オレパーカーゴーストが叩き落とす。叩き落とされたノイズは灰になり消滅。襲いかかるノイズを全て倒したオレパーカーゴーストは、今度は武瑠に向かって飛び付いてきた。
「うおッ!?」
咄嗟のことで身構える武瑠だが、彼の体にオレパーカーゴーストが纏われた。
《レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!》
のっぺらぼうのように模様がなかったマスクの上に、一本の角が生えたオレンジ色のマスクが被さる。
今この瞬間。武瑠は命を燃やす戦士、『仮面ライダーゴースト オレ魂』となったのだ。
「な、なんだよ、これッ!? 俺、どうなってんのッ!?」
「落ち着けよ。お前はもう死んでいるから死なないよ。思いっきりやっちゃえッ!」
「え、お、おう。なんかよく分からないけど、分かったッ!」
改めて、武瑠はノイズを見据える。ベルトに手をかざし、握りと剣身の間に瞳の紋章が描かれた剣、『ガンガンセイバー』を召喚した。
「今度こそ、俺は俺を信じるッ!」
大まかな設定と追加設定
天空寺武瑠
幼馴染みの響と一緒にCDショップに向かう途中、ノイズに遭遇。響と途中で見つけた女の子を逃がすために囮になるが、鳥型のノイズに体を貫かれ死亡。
しかし、謎の存在『魔術師』の手によって、ゴーストとして甦り、仮面ライダーゴーストとなって戦うことを決意する。
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魔術師
年齢不明、身元不明。何もかもが謎に包まれた男。本人曰く、『とある王を誑かした、しがない魔術師』。武瑠を生き返らせたその訳は・・・。
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ユルセン
魔術師の使い魔的存在で、現在は武瑠のサポーター。何故か響と同じ声をしているが、その理由は分からない。
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仮面ライダーゴースト
武瑠が変身する仮面ライダー。アイコンに宿った魂を纏い、その魂の力で戦う戦士。なぜノイズを倒すことが出来るのか。それを魔術師に聞くと、『私がそう製作し、調整したから』らしい。
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アイコン
目玉ようなアイテム。漢字で書くと『眼魂』。魔術師が言うには、英雄の魂が宿っているものを16個集めると願いを叶えることが出来る。
オレゴーストアイコン
武瑠がオレ魂に変身するときに使用したアイコン。メインカラーは黒。中には武瑠自身の魂が宿っている。つまりは武瑠の依り代。
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ゴーストドライバー
魔術師が作り出した、武瑠がゴーストに変身する際に使用するベルト。武瑠の魂と一体化している。