それでは、オリジナルストーリーどうぞ。
あのあと、武瑠たちはすぐさま展示が行われる博物館に来ていた。
「うわぁ。すごい人の数だね」
「無理もないよ。何せあの葛飾北斎自筆の作品だぜ?」
「今さらだけど、葛飾北斎ってどんな人だっけ? 有名な浮世絵師ってことは分かるけど・・・」
「葛飾北斎は江戸時代後期の浮世絵師で、彼が描いた絵はゴッホやドビュッシーとかの海外の芸術家にさえ影響を与えるほどのものなんだ。あ、あと『葛飾北斎』はペンネームで、本名は───」
「ごめん。もう説明は大丈夫だから」
長時間の説明が続くと判断した未来はすぐに中断させる。もし、武瑠を止めずにいたら、あと二時間は喋り続けていただろう。
二人は中に入り、目的の展示物を見に行く。そこには長蛇の列が出来ており、最後尾には『待ち時間 30分』と書かれたプラカードを持った人が立っていた。
「30分も待たないといけないの?」
「頑張るしかないね。行こう、武瑠」
二人は並び、目的の物を目にするためにひたすら待つ。30分後。ようやく武瑠たちは展示物の前まで来た。しかし、
「へぇ、これが葛飾北斎の作品なんだ」
「・・・・・・・・・」
「あれ? 武瑠、どうかしたの?」
未来は先程から黙っている武瑠の顔を覗き込む。そのときの武瑠の顔はなんとも微妙な表情だった。まるで『期待はずれだ』とでも言いたげな。
「・・・未来。もう行こう」
「え、ちょっと、武瑠?」
武瑠は未来の手を引き、その場から離れた。
「武瑠、どうしたの? 葛飾北斎のゴーストの手がかりを───」
「さっきの絵。・・・多分、北斎の絵じゃない」
「えッ!? だって、パンフレットには葛飾北斎自筆のって」
「そうだけど・・・、とりあえず、今日はもう帰───」
「おい、坊主」
「え───?」
帰ろうとした武瑠の前に一人の見知らぬの老人が立ち塞がった。
「えっと・・・、どちら様ですか?」
「儂のことはどうでもいい。それよりも坊主。なんで、あれが偽物だと思った?」
「えッ!? えっと、それはなんとなく・・・」
「そんな言い訳が通じると思うか?」
ギロリと老人が武瑠を睨み付ける。その眼光は歳の衰えを一切感じさせない力強いものだった。
「・・・あの作品、熱意というか、なんというか、画家の『魂』というか、何かが欠けているように見えて・・・。まるで、誰かが模写したみたいな・・・」
「・・・そうかい」
そう一言呟いた老人は武瑠たちに背を向ける。
「ついてきな」
「え?」
「なにぼさっとしてるッ! ついてこいって言ってるのが聞こえないのかッ! そこの嬢ちゃんもだッ!」
「「は、はいッ!」」
武瑠たちは急いで老人、『
約一時間後。彼らが到着したのは古ぼけた一軒家だった。
「入れ」
成田に言われるがままに中に入る。そこで彼らを出迎えたのは絵の具特有の香りと筆一色、そして、散らばった中途半端に描かれた絵。
(成田さん、画家なのかな?)
武瑠たちは部屋を見渡す。そのとき、ふと壁にかけられた一枚の浮世絵が目に入った。
「この絵ッ!?」
武瑠は驚きの声をあげる。なにせ、その絵は展示されていた絵と同じものだったのだから。だが、武瑠たちはその絵に見とれていた。展示されているものを見ても『これがそうなんだ』としか思わなかった未来でさえもだ。絵の端には『川村鉄蔵』、つまり、葛飾北斎の本名が記されていた。
「これが正真正銘、葛飾北斎直筆の絵。あそこで展示しているものは偽物だ」
「これが、本物・・・」
「私でも分かる。この絵にはすごい思いが込められているって」
「でも、なんで成田さんがこれを?」
「・・・儂がこの絵と出会ったのは、まだ十代だった。偶然、家の蔵から見つけたときのことを今でも鮮明に覚えとる。だが、この絵が葛飾北斎の絵だとは思ってもいなかった」
成田は語った。
一ヶ月ほど前、スーツの男が大金を持って現れ、成田さんに『絵を譲ってほしい』と言ってきたのだ。しかし、いくら金を積まれようが、金儲けしか頭のない奴に譲るつもりはない。スーツの男は何度も成田さんの元に訪れたが、全て断ってきた。
「だが、それが一週間前にピタリと来なくなって、不思議に思ってたら───」
「あの展示会が・・・」
「ああ。まさかと思って見に行きゃ、あの絵が飾られていた。アイツら、贋作を作ったんだよ」
成田は怒った。いっそのこと、警察に連絡でもしようかと考えた。そんなとき、武瑠の言葉が耳に入ったのだ。
「あのときは驚いたよ。いたって普通の坊主がボンヤリとはいえ、あの絵を偽物だと見抜いちまったんだからな。・・・なあ、坊主。この絵を貰ってくれねえか?」
「え、俺がッ!?」
「元々儂には絵の才能がない。そんな奴が持ってても宝の持ち腐れだしよ。それに譲るなら金儲けしか頭にない奴より、弧の絵をしっかりとわかってくれる奴がいい」
成田は壁に掛けていた絵を外し、武瑠の前に差し出した。しかし、
「・・・すいません。これは受け取れません。それに、自分に絵の才能がないからって手離すのは間違ってると思います」
「・・・理由を聞こうじゃねえか」
「確かに、成田さんの絵は北斎の絵とは比べ物になりません。けど、どの絵からも成田さんの熱意が伝わってきます」
「それがどうした。結局、芸術家ってのは作品がうまくなけりゃ意味がねえ」
「それは違うと思います。俺、歴史に名を残してきた芸術家たちが認められたのは作品のうまさじゃなくて、作品に込められた熱意だと思うんです。だから、ド素人の俺でもこの北斎の絵の良さが分かったんだって」
「・・・じゃあ、なにかい? 俺の作品は熱意が足りないって言いてえのか?」
「いや、そうじゃなくて、諦めるなっていうか、えっと・・・」
自分の思いをどう表現すればいいかと悩む武瑠。
そのときだった。
ウウウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
「「「───ッ!」」」
突然、辺りにサイレンが鳴り響く。それは武瑠たちがここ最近耳にしている、
⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫
町の中でサイレンが鳴り響いていた頃、二課でもノイズの出現を確認していた。
「大規模なノイズの反応を検知ッ!」
「一課に通達ッ! 翼、立花くんッ! すぐに向かってくれッ!」
弦十郎は側にいた青髪の少女、『
「結構です。この程度、私一人で十分です」
そう言った翼は一人、司令室を出ていた。
「つ、翼さんッ! 待ってくださいッ!」
響もすぐに翼のあとを追う。司令室の扉が閉まると、弦十郎は思わずため息を吐いてしまった。
「まったく・・・。昨晩のことがあるとはいえ、このままではいけないな」
そのときだった。職員の一人、『
「司令ッ、大変ですッ!」
「どうしたッ!」
「翼さんたちが向かった場所以外にも、小規模のノイズ反応がッ!」
「なんだとッ!?」
⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫
ノイズ出現のサイレンが鳴ってから数分後。武瑠は成田を背負い、未来と共に町のなかを走っていた。未来の腕には、あの絵が抱き締められている。
「はあ、はあ、はあ・・・ッ!」
「大丈夫か、坊主ッ!」
「なんとかッ!」
「武瑠ッ! ノイズがッ!」
「またッ!? どんだけ増えるんだよッ!」
武瑠たちの後ろにはノイズの群れ。まるで、武瑠たちをある場所に誘導するかのように追ってくる。だが、武瑠たちは気づくことはなかった。
「というか、なんで未来は北斎の絵を持ってきてるのッ!?」
「なんとなく、持ってきた方がいいかなってッ!」
「こんなときにそんな理由で持ってくるなッ!」
「てめぇらッ! 口喧嘩してる暇あったら足を動かせッ!」
少しして、武瑠たちは角を曲がるが、行き止まりにぶち当たった。戻ろうにも、すでにノイズが塞いでいる。
絶体絶命のピンチ。しかし、それは対抗策がなければの話。
「・・・成田さん、すいません。今から見るものは黙ってて下さい」
「お、おいッ、坊主ッ!? 何を───」
武瑠は成田を下ろすとノイズと未来たちの間に立ち、腰に手をかざしてベルトを召喚する。そして、眼魂のスイッチを入れ、ベルトに装填した。
《アーイ! バッチリミナー! バッチリミナー!バッチリミナー!》
「───変身ッ!」
《カイガン! オレ!
レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!》
「な、なんだありゃッ!?」
成田が驚きの声を上げるなか、武瑠はベルトからガンガンセイバーを召喚し、それをナギナタモードに変形させる。
「未来、成田さんを頼むッ!」
「分かったッ!」
襲いかかるノイズを、武瑠はガンガンセイバーを振り回して撃退する。弧を描く度に両断されていくノイズたち。上から襲いかかってくるものもいるが、
「クモランタンッ!」
そう言って、武瑠が召喚し、投げつけたのは少し変わった色合いをしたランタン。それは変形して蜘蛛となり、上から襲ってきたノイズを吐いた糸で拘束した。拘束したノイズたちを武瑠の方に飛ばし、武瑠がそれを切り刻む。しばらくして、ノイズたちの姿はなくなった。
「よし。未来ッ! 今のうちに───」
「武瑠ッ、前ッ!」
「───ッ!?」
突然、武瑠の前方から鋭いナニかが襲いかかる。とっさに避けて確認すれば、それは鋭い棘が鎖状になった鞭だった。それが放たれた先にいたのは一人の少女だった。しかし、その体は銀の鎧に包まれ、頭部はマスクの様なもので隠されていた。
「へぇ、今のを避けるか。さすが異例型と言うべきか?」
「君は・・・?」
「名乗るつもりはねぇよ。なにせ、お前を捕らえに来たんだからなッ!」
鎧の少女が武瑠に向かって鞭を振るう。武瑠はガンガンセイバーで弾くが、武瑠のナギナタに対して相手は鞭。手数は向こうが上、しかも鉄以上の硬度を持っている。
(このままじゃ推し負ける。武蔵さんにゴーストチェンジを───)
「させるかよッ!」
武瑠は武蔵の眼魂を取り出すが、それを鎧の少女が叩き落とした。武蔵の眼魂は、そのまま未来のところまで転がる。続けて、鎧の少女はガンガンセイバーを上に弾き飛ばした。
「しま───」
「ちょせぇッ!」
鎧の少女は武瑠に向かって、黒い稲妻を纏ったエネルギー弾をぶつけた。容赦なく放たれた電流に、武瑠は成す術もなく吹き飛ばされてしまった。
武瑠はすぐに起き上がろうとするが、鎧の少女が倒れ付した武瑠の背を踏みつける。
「ま、弱いなりに頑張ったんじゃねえか?」
「くそ・・・ッ」
(このまま、負けるのか・・・)
武瑠は鎧の少女との力の差に諦めかけた。しかし、
「なに諦めてんだッ、坊主ッ!」
「───ッ!? な、成田、さん?」
「てめぇ、儂に『諦めるな』って言ったな。言った本人が諦めてどうすんだよッ! 儂ァ、諦めねぇぞッ! 葛飾北斎に負けねえ作品を描き出してやるッ! だから、───見せろよッ! 坊主の熱意をッ!!」
そのときだった。未来が持っていた北斎の絵が輝きだした。そこに、何もなかった空間からユルセンが現れる。
「来た来た来たあああッ!」
「えッ、あなた誰ッ!? なんで響と同じ声をしているのッ!?」
「そんなのどうでもいいからッ! お前が代わりに眼を描けッ!」
「眼を描けって言われても、一体どうやれば・・・」
「ああもうッ! 説明してやるから、さっさとやれッ!」
「う、うんッ!」
未来はユルセンの説明通りに韻を結んで瞳を描く。それに気づいた鎧の少女が邪魔しようとするが、武瑠はクモランタンに指示を出して妨害。クモランタンから放たれた光に鎧の少女が一瞬怯んだ隙を狙って、拘束から抜け出した。
未来が瞳を描き終わると、北斎の絵は煙に包まれ、宙で裾の長い葡萄色のパーカー、『ホクサイパーカーゴースト』となった。
「絵が服になりやがったッ!?」
「武瑠ッ、今だッ! 北斎の力を使っちゃえッ!」
「ああッ! 北斎さんッ! 俺に力を貸してくださいッ!」
武瑠の言葉を了承するようにホクサイパーカーゴーストは頷き、武瑠のベルトに飛び込む。ベルトに吸い込まれ、武瑠の手に葡萄色の眼魂、『ホクサイゴースト眼魂』として収まった。武瑠は眼魂のスイッチを押し、ベルトの眼魂と交換する。
《アーイ! バッチリミナー! バッチリミナー!》
オレパーカーゴーストが粒子となって消滅する。鎧の少女が邪魔しようとするが、振るわれる鞭をベルトから飛び出したホクサイパーカーゴーストが防いだ。武瑠はトリガーを押し込む。
《カイガン! ホクサイ!
描く浮世絵! 三十六景!》
武瑠の体にホクサイパーカーゴーストが纏われ、荒波を模した葡萄色の模様が描かれたマスクが被さる。袖は紐のような装飾でたすき掛けをされ、背中には帯の結び目、頭には華の装飾で飾られていた。
江戸時代後期に活躍し、日本だけでなく、世界の人々でさえ魅了した神絵師、葛飾北斎。その力を纏ったゴーストの新たな姿。
『仮面ライダーゴースト ホクサイ魂』
「さあ、描き尽くしてやるよッ!」
武瑠のもとへ、ガンガンセイバーを引っ張ったクモランタンが飛び付く。クモランタンはそのまま変形、ガンガンセイバーと合体し、『ガンガンセイバー ハンマーモード』として武瑠の手に収まった。武瑠はガンガンセイバーを構え、鎧の少女に迫る。
「馬鹿正直に正面突破かよッ!」
鎧の少女が振るった鞭を、武瑠は跳躍して回避する。鎧の少女は空中で逃げ場のない武瑠を攻撃しようとするが、
「おっとッ! そうはさせないよッ!」
どこから取り出したのか。武瑠は手に持った数本の筆を投擲し、鞭を地面に磔にした。鎧の少女は力ずくでそれを外すが、その数瞬の隙に懐に入り、武瑠はガンガンセイバーを振り上げた。それと同時に、ガンガンセイバーの軌跡に描かれた荒波が鎧の少女を飲み込む。
「まだまだあッ!」
武瑠はガンガンセイバーで地面を一撫でし、地面に突き立てた。すると突然、鎧の少女の足元から浮世絵で描かれた富士山が現れ、その小さな体を打ち上げた。武瑠はこの隙を逃さんとトリガーを引く。
《ダイカイガン! ホクサイ! オメガドライブ!》
「オン・ソチリシュタ・ソワカ、オン・マカシリエイ・ヂリベイ・ソワカ」
武瑠は妙見菩薩の真言を唱え、ガンガンセイバーにエネルギーを溜める。十二分に溜まるとそれを解放し、打ち上げられた鎧の少女に飛びかかった。
「万象を見通す玄帝、北辰より
空中でありながら、ガンガンセイバーが振るわれる度に起こる荒波。それは絵でありながら現実的、且つ神秘的な光景を生み出し、見ている者総てを魅了する。まさに、
「
成す術もなく浪に飲み込まれた鎧の少女は技から解放されると、そのまま地面に墜落した。鎧のおかげで落ちたときのダメージはないが、肝心の鎧は所々ひび割れ、酷いところは欠けている。
(ちくしょうッ! なんだ、今の技ッ!? シンフォギアの絶唱でもない。なのに、なんて威力)
「ぐ・・・ッ!?」
突然、鎧の少女の顔が苦悶に歪む。見れば、割れた鎧の下から見える肌に網目の様な模様が走り出したではないか。
(ちっ、鎧の侵食か。これ以上は・・・)
「・・・異例型ッ! 覚えてろよッ! 今度会ったときは、絶対に───ッ!」
そう言い残した鎧の少女は立ち上がり、その場を去っていった。
⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫
鎧の少女を撃退した後、警報も解除され、武瑠たちは成田の家に戻った。
「成田さん。これ・・・」
武瑠は成田に北斎の眼魂を渡そうとする。しかし、
「要らねぇよ」
「え、でも、これは・・・」
「坊主が断ったのは絵の方だ。それに儂はそんな目玉みたいな奴は全く知らん。お前さんが好きに使え」
「・・・ッ! ありがとうございますッ!」
「よかったね、武瑠ッ!」
「ああッ!」
「───だが、しかしッ!」
喜び合う武瑠と未来を、突然、成田が止める。
「だが、しかし、一つだけ、坊主に頼みがある」
「え、俺に、ですか?」
「ああ。あのときの、お前さんが戦っていた時の姿を題材にしていいか?」
「・・・いえ、俺なんかで良ければいくらでもッ!」
数週間後。とある絵のコンクールで、成田の作品が最優秀賞を獲得した。その絵に描かれていたのは荒波のなか、まったく動じることもなく筆を振るう一人の仮面を被った亡霊だった。
はい。てなわけでオリジナルストーリーは終了です。今回も響たちに会うことなく物語が進みました。
ホクサイ魂はゴエモン魂を改造した感じですかね。ここでの葛飾北斎はFGOの第一再臨前の姿です。