───人として扱われなかったモノ同士、共に永遠を目指すとしよう
───また、私は毒になる
こんなこと言ってますけど、メインは翼になりますからね。・・・多分。
武瑠たちが二課に入って一週間程たった、ある日の夕方、ノイズが出現していた。広範囲に確認されているため、武瑠たちは別れて討伐している。
「今回も多すぎるでしょッ!」
武瑠は飛び掛かってきたノイズを両断していく。その数はすでに2桁を越え、あと少しで100体討伐に到達しようとしていた。そこに弦十郎から通信が入る。
『武瑠くんッ! 響くんたちの元に敵が現れたッ! すぐに向かってくれッ!』
「マジですかッ!?」
武瑠の周りには無数のノイズ。何がなんでも行かせないと言っているかのようだ。
(早く行かないと響たちが危ない。でも、目の前のノイズを放っておくわけには行かない。なら───)
「呪腕先生ッ! 百貌さんッ! 静謐ッ! 力を貸してくれッ!」
『任せろ』
『任されよ』
『承知』
武瑠は灰色の眼魂、『ハサンゴースト眼魂』を取り出し、ベルトの眼魂と交換する。
《アーイ! バッチリミナー! バッチリミナー!》
ベルトから飛び出したのは両肩、背中に髑髏の装飾がついた黒いパーカー、『ハサンパーカーゴースト』。武瑠はベルトのトリガーを押し込んだ。
《カイガン! ハサン!
呪殺! 毒殺! 百の
ハサンパーカーゴーストが纏われ、頭部を装飾と同じような灰色の髑髏の模様が被さる。
それはイスラム教の伝承に残る暗殺教団の歴代教主に代々受け継がれる名を持つ者。暗殺者の語源とも言うべき存在、『
その名は『仮面ライダーゴースト ハサン魂』。
「押し通らせてもらうッ!」
《ダイカイガン! ハサン! オメガドライブ!》
「我らは郡にして個。個にして郡。百の貌持つ千変万化の影の郡。いざ・・・
⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫
月明かりに照らされた公園。そこで翼と響の前に現れたのは過去に武瑠を襲った鎧の少女だった。彼女が纏っている鎧を見て、翼の顔は驚愕に染まった。それは二年前、己の大切な相棒を失った事件で奪われた欠片ではない聖遺物、『ネフシュタンの鎧』だった。
翼はネフシュタンの鎧を奪還するために刃を向けるが、欠片の聖遺物と完全な聖遺物との性能の違い、そして、それを纏う者の技量の違いにより劣勢を強いられていた。
響は翼を助けようとするも、鎧の少女が持つもう一つの完全聖遺物、『ソロモンの杖』で召喚されたノイズに拘束され動くことができない。
翼は鎧の少女が響に意識を向けている隙を狙ったが、呆気なくいなされ地面に倒れる。鎧の少女はそんな彼女の頭を容赦なく踏みつけた。
「ぐ・・・ッ」
「のぼせ上がるな人気者。この場の主役と勘違いしているなら教えてやる。狙いはハナッから、そいつをかっさらうことだ」
鎧の少女が顎で示したのは拘束された響。狙いが自分と知った響は困惑する。
「鎧も仲間も、アンタにゃすぎてんじゃないのか?」
鎧の少女が翼の頭に体重をかける───その寸前だった。
「───その足を退けろ」
「───ッ!?」
突然聞こえた男の声。そして、気づく背後の気配。
咄嗟に防御の姿勢をとったのは鎧の少女自身のセンスだろう。一秒もしないうちにそれは鎧の少女を蹴り飛ばし、取り出したナイフを、響を拘束したノイズに投げつけた。ナイフが刺さったノイズは灰になって消滅。解放された響はヒーローが来たかのように、それの名を呼んだ。
「───武瑠ッ!」
「ごめん。少し遅くなった」
そう言う武瑠が纏っているのは両肩と背に髑髏の装飾のついた黒いパーカー。マスクには装飾と同じように灰色の髑髏の模様が描かれていた。
「異例型か。思ったよりも早い登場だな。」
「これ以上はやらせないよ」
「なら守ってみろよッ!」
少女の振るう鞭が武瑠に迫る。絶え間なく振るわれるそれを、武瑠は逆手に持ったガンガンセイバー二刀流モードで防ぎ続けた。
「いくらテメェが奇妙な力を持ってようと攻撃できなきゃ怖かねぇんだよッ!」
回避が難しい場所に向かって的確に鞭が振るわれる。防御はさせても、回避と攻撃はさせない。いずれ来るであろう集中力の限界を狙う。しかし、
「───それはどうかな?」
「───は?」
前にいるはずの武瑠の声が横から聞こえる。振り向こうとするが、その前に少女の横腹を衝撃が襲った。
それを見ていた響は己の眼を疑った。
「武瑠が二人ッ!?」
そう。その場には武瑠の姿が二つあった。
これは彼が今纏っている英雄、ハサン・サッバーハの名を持つ歴代教主の一人、数多の人格を持つ『
「くそッ! そんな能力聞いてねぇぞッ!」
「初めて力を貸して貰ってるからねッ!」
二人の武瑠が鎧の少女に迫る。鎧の少女は鞭を振るって妨害しようとするが、一人だけに集中するとその隙にもう一人が攻めてくる。
(なら───)
鞭を地面に打ち付け、土埃で姿を隠す。二人の武瑠は土煙に飛び込むが、そこに鎧の少女の姿はない。
「どこ見てんだよッ!」
跳び上がっていた鎧の少女は武瑠たちに向かってエネルギーの円盤を放つ。意表を突かれた武瑠たちは避けることが出来ずにくらってしまう。
攻撃をくらった武瑠の一人、いや、分身が光の粒子となって消滅した。
「貰ったあッ!」
着地した鎧の少女はトドメをささんと踏み込む。しかし、
「───え」
バタリとその場に倒れる鎧の少女。突然のことに目を丸くする。すぐに立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かなかった。
「やっと効いたか」
「テメェ、な、にを・・・ッ」
呂律が回らない口を動かし、鎧の少女は問う。
「毒だよ。致死性のない痺れ毒だけど」
ハサン・サッバーフの中には、己を構成する全て、己から分泌される全てが毒である存在もいたとされている。通称『静謐のハサン』。その能力は触れただけでも毒を与える。武瑠は始めの一撃に毒を付与させ、鎧の少女の体に毒が回るときを待っていたのだ。
「その鎧のせいなのか、毒が回るのが遅かったけど。とにかく、俺の勝ちだ。君をこのまま連行させてもらうよ」
⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫
(負けるのか? あたしは、また敗けるのか?)
───ドクン
(また見捨てられるのか?)
───ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
(───イヤだ)
───ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
(イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだッ!)
───ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン
(見捨てられるくらいなら、あたしは───)
そのとき、少女の中で何かが外れた。
⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫
「□□□□□□ーーーッ!!!」
「な───ッ!?」
突然、毒で動けないはずの鎧の少女が雄叫びを上げて立ち上がる。その目は赤く染まり、鎧は黒く変色し、より禍々し変貌していた。
「□□□□□ーッ!!」
鎧の少女が地面を砕いて飛びかかる。そのスピードは今の武瑠を凌駕していた。
武瑠は初撃をなんとか防ぐことはできたが、二撃、三撃と続けられる猛攻に耐えることが出来ず、最終的に鎧の少女の拳が武瑠の体を数メートル先まで殴り飛ばした。
「武瑠ッ!」
「□□□□□□ッ!」
鎧の少女は雄叫びを上げ、今度は響に襲いかかった。
「響ッ! 逃げろッ!!」
地面に倒れている武瑠がそう叫ぶが、響は恐怖に足がすくんでしまった。来る痛みに、思わず目を閉じる響。しかし、いつまで経っても痛みを感じることはなかった。恐る恐る目を開けると、目の前には鎧の少女の攻撃を受け止めている翼の姿があった。
「くッ、───はああああッ!」
鎧の少女を根性で突飛ばし、翼は短剣を数本投げつける。そのうちの殆どは叩き落とされ、残りは地面に刺さった。
鎧の少女は再度襲いかかろうとする。しかし、
「───ッ!?」
突然、少女の動きが止まる。いや、動かなくなったと言ったほうがいいだろう。その原因は月明かりで出来た鎧の少女の影に刺さった短剣にあった。
「『影縫い』。月が覗いているうちに終わらせましょう」
「翼、さん・・・?」
「あなたはそこで見ていなさいッ! 防人の覚悟、生き様をその胸に焼き付けなさいッ!」
翼は剣を上に掲げ、それを唄った。
「Gatrandis babel ziggurat edenal───」
翼を中心とした一帯の空気が変わる。
「Emustolronzen fine el baral zizzl───」
一歩、また一歩、鎧の少女に歩み寄る。
「Gatrandis babel ziggurat edenal───」
その歌声は美しく、魅力的で、なによりも悲しいものだった。
「Emustolronzen fine el zizzl───」
翼は鎧の少女の頬に手を添える。
歌い終わると、翼の口から血が流れ、辺りに衝撃が走った。
⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫
「うぅ・・・ッ。いったい何が───」
ふらつく頭を押さえながら起き上がる武瑠。ふと前を見たとき、武瑠は目の前の光景に目を見開く。
そこには先ほどまで生えていた芝生はなく、大きく抉れていた。中心には翼の姿。
「翼さんッ!」
少し離れていた所で倒れていた響が走り寄る。武瑠もそのあとに続いた。そこに弦十郎と了子も車に乗ってやって来る。
「無事か、翼ッ!」
翼はゆっくりと振り返る。そのとき、武瑠たちは息をのんだ。なにせ、彼女の顔からは尋常じゃないほどの血が流れていたのだから。その瞳は光を失っていた。
「わたしとて、人類守護の務めを果す防人・・・。こんなところで、折れる剣じゃありません・・・」
そう言った翼は糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。
⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫
鎧の少女との戦いから数時間後。翼はとある自衛隊病院に搬送された。その病院のロビーのソファには思い詰めた顔で俯く響の姿。そこに武瑠が飲み物を持って現れる。
「はい、ココア。未来には遅くなるって電話しておいたから」
「うん。ありがとう・・・」
「・・・気に病む必要はないと思うよ。命に別状はなかったし、あのぜっしょう?は翼さんの意思で唄ったんだから」
「でも、わたしは翼さんのことを考えずに一緒に戦いたいって言った。奏さんの代わりになるって言った。なのに・・・」
ポツリ、ポツリと響の手に雫が落ちる。
そのときだった。
『それは違いますぞ?』
「え───」
武瑠の懐からハサン眼魂が飛び出し、響を光で包み込む。
光が収まると、響は病院のロビーではなく、夜の闇に包まれた岩山にいた。
「ここは?」
「ここは眼魂の中。一種の精神世界のようなもの」
響は声の聞こえた方へと振り返る。そこには右腕を黒い包帯で隠した髑髏仮面の男がいた。
「あなたは・・・?」
「私は呪腕のハサン。ハサンの名を襲名した者の一人です。以後お見知りおきを」
ペコリとお辞儀をする呪腕のハサンに、響もお辞儀をする。
「さて。今の響殿は今の状況に混乱しておられるでしょう。私があなたをここへ呼んだのはあなたの間違いを教えるためです」
「わたしの、間違い?」
「はい。単刀直入に問います。なぜ、あなたは戦うことを選んだのですかな?」
「それは・・・」
「あなたは奏さんの代わりにと仰っていましたが、人は誰かになることは出来ません。我々ハサンが別の代のハサンになれないようにね。なれるのは自分自身だけなのです」
「自分、自身・・・」
「断れる戦いを、あなたは断らなかった。おそらく、今のあなたはそのときの気持ちを忘れている。今一度問います。あなたはなぜ戦うことを選んだのですかな?」
呪腕のハサンの問いに響は思い返す。なんで自分は戦おうと思ったのか。なんで自分は力を振るうことを選んだのか。それは、
「・・・守りたいから。目の前にいる誰かを助けたいから。みんなの明日を、大切な人たちの未来を護りたいからッ! それが、わたしの戦う理由ッ!」
「迷いは晴れましたかな?」
「はいッ! ありがとうございますッ!」
「結構、結構。もし、また悩みがあれば、大天空寺に来なさい。力になる英雄はたくさんいる。それでは」
また目の前が光に包まれる。そのときの彼女の瞳に迷いは欠片もなかった。
報告。活動報告にて、ある連絡をさしていただきました。
確認したい人はどうぞ。