思った以上にミクロムの反響がよかった。
これ、下手すれば現メンバーで最強なのでは?
・・・ああ、OTONAを退けての話ですからね。
太陽が頭を出し、肌寒い空気が暖まり始める休日の早朝。
大天空寺の中庭では武瑠たちがいつもの特訓。そのなかには新しく加わった者がいた。
「いいですか、未来殿。長物を扱うときは相手との間合いを考えてですな───」
「えっと、こうですか?」
呪腕のハサンに教えてもらいながら手に持った武器『ガンガンキャッチャー』を振るのはジャージ姿の未来。その近くでは響がレオニダスと組手、武瑠が武蔵と打ち合いをしていた。
端から見れば、共に己を磨く青春の一ページとなるだろう。しかし、武瑠はそう思わなかった。
(すんごい壁を感じる・・・)
実際、普段なら聞こえてくる二人の会話が武瑠の耳に入ってこなかった。
数分後・・・。
「それでは、そろそろ時間ですので。今日はここまでです」
「ハサン先生。ありがとうございました」
「響くん。私たちもここまでにしましょう」
「はい、師匠」
「お疲れ、二人とも。ロビンに頼んでお風呂を沸かして貰ってるから、二人一緒に入ってきたら?」
「・・・ごめん。気持ちは嬉しいけど、私は後でいいかな? 響、先にどうぞ」
「・・・・・・・・・うん」
(二人の今の姿、違和感しかないんだけど。はあ、なんでこうなった・・・)
⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫
フィーネという女が放ったノイズを討伐したあと。武瑠たちは大天空寺の客間に集まっていた。そこで未来は己が仮面ライダーになった経緯を語る。
「───つまり、ユルセンを使って魔術師を呼び出して、そのメガウルオウダー?って奴を貰ったと・・・」
そう言って、武瑠は机に置かれたアイテム『メガウルオウダー』とメカニカルな眼魂『ネクロムゴースト眼魂』を見る。
「うん。名前は『ネクロム』。武瑠が使ってる物とは違って色々と負荷がかかるけど、それほど問題になることじゃないって言ってた」
「・・・天空寺。おっちゃんとはいったい何者なんだ?」
「分かりません・・・」
「別にいいじゃん。とりあえず、これからは私も戦えるよ」
そのときだった。今まで俯いていた響が口を開く。
「なんで・・・」
「? どうしたの、ひび───」
「なんで仮面ライダーになったのッ!」
突然の響の叫びに、武瑠たちは驚く。しかし、響は御構い無く言い続けた。
「戦うってことは怪我をするかもしれないんだよッ! なのに、なんで力を手に入れたのッ!?」
「わたしは響や武瑠のためを思って───」
「そんなのどうでもいいよッ!」
「・・・・・・どうでもいいってなに? どうでも良くないよッ! 幼馴染みの心配ってどうでもいいことなのッ!? 響にとって幼馴染みはそんなに軽いものなのッ!」
「ちょっ、二人とも落ち着いて───」
「「武瑠は黙っててッ!!」」
「はいッ!」
二人の形相に武瑠は言うことを聞くしかなかった。
二人の喧嘩は見かねた翼が止めるまで続いた。
⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫
(あれから仲直りしてないみたいだし、どうしたらいいんだろう・・・? まあ、問題はもうひとつあるけど)
修行を終えた武瑠は朝御飯が乗ったお盆を持って、地下の研究室に足を運ぶ。そこにはすでに先客がいた。毛布にくるまって椅子に座っているのはあの紅のシンフォギア『イチイバル』を纏っていた少女、雪音クリスだ。
あのあと、武瑠たちは放心状態のクリスを大天空寺で保護することにした。本来なら弦十郎たちに任せるべきだったのだが、武瑠は放心状態の彼女を放っては置けなかった。
(なんでだろうな。彼女とは、なんか似たものを感じる・・・)
その理由を後に知ることになるのだが、このときの武瑠はまだ知らない。
「おはよう。朝御飯持ってきたよ」
「・・・・・・・・・」
「うちは朝御飯は決まって和食だけど、パンとかの方が良かった?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・ねぇ。聞こえてる?」
「・・・・・・・・・うるせぇ。黙ってろ・・・」
(こっちの壁もすんごい・・・)
「とりあえず、朝御飯置いておくからちゃんと食べてね」
そう言って、武瑠は研究室を出る。
そうしようとした時だった。
ジリリリリリリリッ! ジリリリリリリリッ!
「きゃッ!?」
「ん? こんな朝早くから誰だ?」
突然、研究室にベルが鳴り響く。音源はガジェットモードで机の上に置かれているコンドルデンワー。
武瑠は受話器を手に取った。
「はい。大天空寺ですけど───」
『武瑠くんッ! 緊急事態だッ!」
⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫
武瑠が弦十郎からの電話に出ていた頃。響は縁側で一人ポツンと座り込んでいた。
「・・・はぁ・・・」
「おや、立花殿。今日の特訓は終わりですかな?」
響がため息を吐いていると、御成が廊下の奥から現れる。彼の頭には大きな絆創膏が張られていた。
「あ、御成さん。頭の怪我、大丈夫ですか?」
「ええ、まだ痛みはありますが。まさか、気づかないうちに地下室で寝て、さらには怪我までするとはお恥ずかしい限りです」
「あ、あはは・・・」
頭の絆創膏を撫でる御成の言葉に苦笑いする響。実際はクリスが眠らせて地下室に運んだのだが、御成はその事を覚えておらず、その時の状況からそんな解釈をしているのだ。
「それにしても驚きました。まさか、小日向殿が仮面ライダーになっていたとは。これでノイズもおちゃのこさいさいですな」
「・・・・・・そうですね」
「・・・響殿。何か悩み事ですか?」
「え、いや、そんなことは・・・」
「誤魔化さなくてもよいのです。拙僧には分かります。この御成、お悩み相談もお手のものですゆえ、是非頼ってください」
御成の言葉に響は俯きながら己の内に秘めた思いを言った。
「・・・大切な人を守るために戦うって決めたのに、その大切な人が守る必要がなくなって。それで喧嘩して、仲直りもできてなくて。・・・わたし、どうすればいいんですかね・・・?」
「ふむ・・・。立花殿が今言った『大切な人』とは小日向殿のことですか?」
「・・・はい」
「なるほど。・・・まず始めに言わせてもらいますが、拙僧には小日向殿を戦うための都合のいい理由にしているように聞こえますな」
「そんなことは───」
「確かに小日向殿は力を手に入れ、強くなりました。しかし、だからといって守る必要がないわけではありません。むしろ、力を手に入れたばかりのそんな者こそ、その力に溺れぬよう守らなくてはなりません。もっともこれは拙僧の考えです」
「・・・・・・」
「答えは、あなたの心の中にある。どうするかは立花殿自身が決めることです」
(わたし自身が・・・)
響は己の中で自問自答した。
自分はどうしたいのか。未来にどうして欲しかったのか。
「・・・わたしは───」
⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫
「響、出たよ───・・・て、いないか」
運動後のシャワーから出てきた未来は客間で響を探す。しかし、そこに響の姿はなかった。
未来は座り、客間の机に頭を伏せる。
(響・・・ん?)
ふと、誰かの足音が聞こえる。顔を上げると現代の服装に身を包んだ北斎と同じような服を着たピンク髪の少年がいた。
「あ、未来。やっはろーッ!」
「やっはろーです、アストルフォさん」
未来に『アストルフォ』と呼ばれた、一見少女にしか見えない彼はかのシャルルマーニュ十二勇士が一人。あまり知られてはいないが、多くの物語で活躍した英雄『アストルフォ』である。
未来はアストルフォと挨拶を交わすが、アストルフォはそんな彼女の顔を覗きこむ。
「ど、どうしたの? 急に私の顔を覗き込んで」
「未来、元気ないね。響と仲直りできなかったの?」
「はぅ・・・」
「おいおい。もう一晩経つのにまだ出来てなかったのかい?」
「・・・・・・・・・はい」
二人の容赦ない言葉に未来は頭を押さえる。
「はぁ・・・。本当は響の気持ちを分かってるのに、それを素直に受け取れない。お前さんも不器用だねぇ」
「返す言葉もありません・・・」
トホホと涙を流す未来。そんな彼女にアストルフォはある提案をした。
「ならいっそ、殴りあったら?」
「え───」
「ほら、日本の諺にもあるじゃん。雨降って土地歪むだっけ?」
「雨降って地固まる、な」
「そうそう、それッ! お互いの気がすむまで喧嘩して、終わったら後は仲直りすればいいだけじゃん」
「そうかもしれませんけど・・・」
「ああ、もうッ! ここでうじうじしてても何も始まらないぞッ! 伝えたいことがあるなら最短で、最速で、まっすぐ一直線に伝えなきゃッ!」
(最短で、最速で、まっすぐ一直線に、か。・・・そうだよね。響だったら絶対にそうするよね)
「ありがとうございます、アストルフォさん」
「いいってことさ。自分で言うのもなんだけど、僕はポンコツだからこれくらいしか出来ないのさッ!」
そう言って胸を張るアストルフォ。『いや、それって自慢にはなりませんよね』と未来が思ったのは言うまでもない。
そこに突然、ユルセンがどこからともなく現れた。何かあったのか、とても慌てているように見える。
「なにやってんだよッ! 町でノイズが暴れているッ! 武瑠はもう向かってるぞッ!」
「───ッ! 分かったッ! すぐに行くッ!」
未来はすぐさまメガウルオウダーを持って大天空寺を出ようとする。しかし、本殿で響とバッタリと出会う。
「あ、響・・・」
「未来・・・」
二人の間に流れる沈黙。そして、
「「ごめんッ! ・・・て、え?」」
「なんで謝るの響。悪いのは私なのに」
「ううん。未来は悪くないよ。悪いのは未来を都合のいい理由にしていたわたしだもん」
「それを言うなら私もだよ。私だって響や武瑠を理由にしていた。それに私は響の気持ちを否定したんだし」
「わたしだって。未来の気持ちを否定した。未来を悲しませた。本当に、ごめん」
「響・・・」
「あー、なんかいい空気になってるところ悪いけどさ」
「「キャアアアアッ!?!?」」
いつの間にか側にいたユルセンに、二人は驚き叫ぶ。
「ユ、ユルセンちゃんッ!? いつからそこにッ!?」
「お前らが無言で抱きしめ合おうとしたところからだよ」
「はぅぅ・・・」
ユルセンの言葉に響は顔を両手で隠す。その指の隙間から見える肌は茹で蛸のように真っ赤だった。
「それよりも早く下に行けッ! いいものを置いてあるからよッ!」
「いいもの?」
「いいから早くしろッ!」
ユルセンに急かされ、二人は大天空寺の階段を下る。降りた先には一台のバイクが置かれていた。ヘッドの部分は狼を模しており、その色合いはネクロムを思わせる。
「これって───ッ!」
「未来ッ! お前専用のバイク『マシンネクロム』だッ!」
「すごいッ! ありがとう、ユルセンちゃんッ!」
未来はヘルメットを被って、迷うことなくエンジンをかける。
「えッ!? 未来、バイク乗れるのッ!?」
「前に武瑠と一緒に免許を取ったから大丈夫。響、後ろに乗ってッ!」
「うんッ!」
響は渡されたヘルメットを被り、未来の後ろに乗った。
「待ってて、武瑠ッ! 今行くからッ!」
マシンネクロム
魔術師が未来のために作り出したバイク。ネクロムを思わせるカラーリングが特徴で、ヘッドの部分が狼を模している。ゴーストガジェット同様、モード変形することが可能。アニマルモード、バイクモードでも単体行動が可能で、忠犬のように未来に付き従う。
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はい。今回だしたオリジナルバイクの設定です。
未来さんがどんどん強くなってるような気がするのは俺の気のせいだよね?