遅くなって、本当にごめんなさいッ!
それではどうぞッ!
とある休日。武瑠は響と未来に御出掛けの誘いを受け、公園で響たちが来るのを待っていた。隣には武瑠と同じように誘いを受けた翼が立っている。
「あの子たち、遅いわね」
「どうせ響が寝坊でもしたんでしょ。いつもこうなんですよ。自分から誘っておいて・・・」
「そう。貴方も大変ね。あの子の付き合いもそうだし、生き返るために眼魂を集めないといけないし」
「そうなんですよ───て、え?」
「ん、どうし───あ」
翼の言葉に己の耳を疑う武瑠。なにせ、自分の体のことを知らないはずの翼がハッキリ、『生き返ったことを』と言ったのだから。しかし、口を抑え、『しまった』とと言いたげな翼の顔から聞き間違いでないと判断する。
「な、なんで、そのことを知っているんですか・・・?」
「・・・すまんな。実は前に貴方が了子さんに話していたの聞いてしまって」
「ああ、あの時か・・・」
「安心してくれ。私からは誰にも言っていない。しかし、あのときは驚いたな。まさか、貴方が名前の通り、幽霊になっているなんて」
「・・・自分でもそう思いますよ」
「それに貴方が羨ましくも思う。なにせ、かの武蔵と対話できるのだからな。本来なら絶対に出来ないことだ」
「今度、うちに来ます? 大天空寺に来れば普通に出来ますよ」
「なんだとッ!? いいのかッ!」
「ええ。・・・まあ、ちょっと驚くと思いますけど」
「だろうな。なにせ、かの大剣豪に会えるのだから。いったいどれ程の人物なのだろう。私の予想は屈強な男性だと思うのだが・・・」
「あははは・・・ドウデショウネ」
そんなことを話している間に、武瑠たちの元へ響たちがやって来る。
「す、すいませんッ! 遅れました~ッ!!」
「ごめんなさいッ! 察しているとは思いますけど、響が寝坊してしまって・・・」
「・・・天空寺の言う通りだったな」
「でしょ? いつもの事だけど、そろそろ学習したらどうだ?」
「ご、ごめん・・・」
「罰として、少しだけ知恵を貸してくれないか?」
「えッ!? わ、わたし、勉強はちょっと・・・」
「そっちじゃなくて、今、大天空寺にいるクリスの服を選んでくれないか? さすがに男の俺がレディースを買うわけにもいかなくてさ」
「ああ。そういうことなら任せてッ! クリスちゃんにぴったりの服を選んであげるからッ!」
「とりあえず、早く行きましょう。時間は有限よ」
数十分後。四人は町中にあるデパートに来ていた。
「ねぇ、これなんてどうかな?」
「うーん。クリスは青よりも淡いピンクとかが似合いそう」
洋服店でクリスに似合いそうな服を選ぶ響と未来。その後ろに武瑠と翼が立っている。
「・・・なあ、いくらなんでも時間がかかりすぎじゃないか?」
「翼さん。コイツらの買い物はいつもそうですよ。俺は慣れました」
「武瑠、いくらなんでも酷くない? 女の子の買い物は時間がかかるものなんだよ」
「そうそう。最近ノイズ退治で忙しかったから、こういう息抜きは必要でしょ?」
「確かにそうだが、だからといって気を抜きすぎるな。もしかしたら、今この瞬間にも現れるかもしれな───」
ピンポンパンポーン
『緊急放送です。店内にノイズが侵入しました。店員の指示に従い、速やかに避難してください。繰り返します。店内に───』
「「「・・・・・・・・・」」」
「・・・・・・・・・」
周りの人々が慌てて避難を始めるなか、四人の間を気まずい空気が漂う。特に翼は今すぐにでもこの場から離れたかった。
そんなとき、全員が持つ二課の通信機から弦十郎の声が聞こえた。
『響くん、翼、未来くん、武瑠くん、聞こえるかッ!』
「・・・こちら天空寺。今、全員デパートにいます」
『もう知っているだろうが、そこでノイズの反応が確認された。よって、北と南の二手に別れて対応してくれッ!』
そう言って、弦十郎は通信を切った。
「・・・とりあえず、行きますか」
「そ、そうだなッ!」
「じゃあ、わたしと未来は北の方にに行ってきますッ!」
「なら、私と天空寺は南だな。そちらの健闘を祈る」
「はい。二人とも、気を付けて」
未来の言葉を最後に、四人は二手に別れた。
⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫
デパートの一階、北側。通路の大半がノイズに覆われているなか、二人の少女が二階から飛び降りる。
「Balwisyall Nescell gungnir tron・・・」「変身ッ!」
《テンガン!ネクロム!メガウルオウド!》
シンフォギアを纏った響、ネクロムになった未来が降り立つと、そのとき起きた衝撃にノイズが吹き飛ばされた。響は歌を唄いながら、未来は静かに構えをとる。そんな彼女たちにノイズたちが襲いかかる。その数は十倍以上。圧倒的に不利な状況の中で、二人は不敵に笑った。
「行くよ未来ッ!」
「うんッ!」
響と未来がノイズと戦い始めて十数分後。デパート北側では早くも戦闘が終わろうとしていた。
「これで───」「終わらせるッ!」
《ダイカイガン!オメガシュート!》
翼が『蒼ノ一閃』を放ち、それを後押しするように武瑠が『オメガシュート』を撃ち込む。蒼い斬撃とオレンジ色のエネルギー球が残りのノイズを全て吹き飛ばした。
「翼さん、お疲れ様です」
「まだ気を抜くな。立花たちの所に向かうぞ」
翼の言葉に武瑠が頷き、二人は北側に向かおうとする。しかし、
「行かせると思うか?」
「「───ッ!?」」
上から声をかけられる。その音量はそれほど大きいわけではないが、武瑠たちにはハッキリと聞こえた。二階を見ると、そこには彼らの予想通りの人物が立っていた。
「フィーネ・・・ッ!」
「わざわざ姿を見せるとは。いったい何の用だッ!」
「何の用、か。聞かずとも分かっているだろう」
「・・・眼魂か」
「そうだ。16個集めることで願いを叶えることが出来る代物。単体だけでもそれなりの力を込めているでしょう。私の計画を遂行させるのに必要なの。そして、天空寺武瑠」
フィーネは武瑠を指差す。
「お前自身も実に興味深いわ。完全な霊体、神秘の薄れた現代ではあり得ない存在。貴様も眼魂と一緒についてきてもらおうか」
「だからって、はい、そうですかって言うわけないだろッ!」
「ああ。
───だから無理やり連れて行くわ」
フィーネがそう言った時だった。
ドガァァァァァァァァンッ!!!
天井が大きな音をたてて崩壊した。武瑠と翼は落ちてきた瓦礫を素早く避ける。
───その時、穴の開いた天井から
「─────────」
獅子の耳と尻を生やし、不気味な紫色の模様が描かれた黒い鎧を身に纏った女性。左手には鎧と同じ色合いの弓。顔はハーフマスクで隠されているが、その奥から向けられる視線に、翼の体は恐怖で震えた。
「そいつは聖遺物を取り込んで消滅せず、存在そのものが変異したノイズ。本来の能力はほぼ失っているが、その代わりに
そして、取り込ませた聖遺物は『タウロポロス』」
「タウロポロスって、ギリシャ神話に出てくる、あのッ!?」
フィーネの言葉に、思わず聞き返す武瑠。無理もない。なにせ、彼女の言葉通りならあのノイズは、狩猟と純潔の女神アルテミスの加護を授かって生まれた『純潔の狩人アタランテ』の能力を持っているのだから。
「さぁ───ヤれ」
フィーネの一言で、シャドウノイズが一瞬で翼との距離を詰める。そのスピードに反射出来ず、翼は後ろの壁まで蹴り飛ばされ、そこにめり込んだ。
「がはッ・・・」
「──────」
前に倒れる翼。シャドウノイズはそんな彼女に向かって矢を構える。
「させるかッ!」
武瑠はシャドウノイズに向かってガンガンセイバーの引き金を引く。しかし、それは容易く回避され、周りに散らばっていた瓦礫の一つに当たった。
シャドウノイズが壁を地面を蹴って、武瑠の背後に回る。武瑠は咄嗟に霊体化。シャドウノイズの攻撃が宙を切る。
武瑠は少し離れた場所に移動し、懐からムサシ眼魂を取り出す。しかし、そこにフィーネがあるものを投げつけた。
「これ、まさか『不知火』かッ!?」
武瑠は逃げようとするが、すでに辺りに金色の粒子が散布され始めていた。それが霊体になっていた武瑠の体を実体化させる。
しまった、と武瑠が思った時には遅く、シャドウノイズの放った矢が眼魂を弾き飛ばした。眼魂はそのまま翼の所に転がって行った。武瑠はすぐに回収しようとするが、そこにシャドウノイズが踵落としをする。
咄嗟に防ぐが、今度は空いた腹にストレートパンチ。防御が崩れる武瑠。そこへシャドウノイズの回し蹴りが決まり、武瑠の体が通路に叩きつけられた。
「がはッ・・・」
武瑠は立ち上がろうとするが、シャドウノイズが腹を蹴飛ばす。
通路を転がる武瑠の体は、瓦礫に当たって漸く止まった。武瑠は瓦礫を支えに立ち上がろうとする。そんな彼に、シャドウノイズが一歩、一歩と近づいて行く。
「無駄だ。貴様に勝ち目はない」
「くッ・・・」
冷たい笑みで見下ろすフィーネ。だが、
「それはどうかな?」
一本の短剣がシャドウノイズの進行を止める。それを投げたのは翼だった。
⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫
「くッ・・・・・・」
目の前でシャドウノイズにヤられる武瑠に、翼は歯を食いしばる。
体の節々が痛む。起き上がるのもやっとだろう。
(また、か・・・また、誰も守れないのか・・・。防人として、人々を守る剣として生きてきたのに・・・また・・・)
『諦めちゃうの?』
「え───」
声が聞こえた。
初めて聞く、透き通った女性の声に翼は戸惑うが、すぐにそれがどこから聞こえて来たのか分かった。
(武蔵の、眼魂・・・?)
目の前に転がる武蔵の眼魂。一瞬、聞き間違いかと思ったが、また声が聞こえた。
『諦めちゃうの?』
(・・・嫌だ)
『敵わないから。勝てないから。そんな理由で、また同じ後悔をするの?』
(・・・嫌だッ!)
翼は痛みを訴える体に鞭打って立ち上がろうとする。
「もう二度と、後悔しないと誓ったのだ・・・こんなところで諦めてたまるか・・・ッ!」
『・・・吹っ切れたみたいね。でも、今のままじゃ、アレには勝てない。だから───私を手にとって』
(私を? ・・・眼魂のことか?)
翼は武蔵の眼魂を手に取る。
───そのときだった。
「───ッ!?」
翼の頭の中にある情報が流れ込む。
『───あとはどうするか、分かるわね?』
「・・・ああッ!」
⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫
短剣を投げつけた翼に視線が集まる。
今の彼女が纏うシンフォギアはぼろぼろで、とても戦えるような状態ではない。しかし、彼女の顔は自身に満ちていた。
「なんだ、まだヤるつもりなのか? 勝てもしないのに」
「・・・確かにそうかもな。
───だからとて、それで諦めるほど、私の剣は錆びていないッ!」
そう言って、翼は左手に持っていたムサシ眼魂のスイッチを押す。
「翼さん、何をッ?」
翼の行動が理解できない武瑠。
彼は眼魂は自分や未来が使うアイテムがなければ使えないと思っている。しかし、眼魂には別の使い方もあった。ユルセンや魔術師はその方法を教えてはいなかったが、武蔵が眼魂を通じて教えたのだ。今、この状況を打破できる方法を。
「───告げるッ!
汝の身は我にッ! 汝の剣は我が手にッ!
聖杯のよるべに従い、この意この理に従うのなら応えよッ!」
翼の言葉に眼魂は光の粒子となり、それが翼の足元に大きな魔法陣を作る。
「誓いを此処にッ!
我は常世総ての善と成る者ッ! 我は常世総ての悪を敷く者ッ───!」
魔法陣が脈動し、その度に光が強くなる。
「汝 三大の言霊を纏う七天ッ!
抑止の輪より来たれ 天秤の守り手ッ!
───
魔法陣から溢れ出た光の奔流が翼を包み込む。その光がシンフォギアを、天羽々斬を変質させる。
身に纏うは紅と蒼の装い。腰には四本の刀。普段と違い、後ろ髪を全て纏め上げている。
その姿は彼女が、宮本武蔵が武瑠に初めて見せた姿そのものだった。
「なんだ・・・なんなんだ、その姿はッ!?」
「なんだ、か。聞かずとも分かるだろ?」
「ッ・・・! シャドウノイズッ!」
フィーネの声にシャドウノイズが矢を放つ。翼は左腰の刀を一刀抜き、それを
翼は右腰の物も抜き、シャドウノイズに切りかかる。シャドウノイズは素早く避けるが、翼はそのスピードに食らいつく。その動きは、先程とまったく違った。
「なんだよ、あれ? まるで、武蔵さんの・・・」
「そりゃそうだろ? なんせ夢幻召喚しているんだから」
目の前の翼の動きに見覚えがある武瑠。それを肯定するかのように、何もない空間からユルセンが現れた。
「ユルセンッ!? 急に出てくんなよッ! ・・・それよりも、お前、アレが何か知ってるのかッ!?」
「まぁな。あれは
「ど、どうしようッ! 神話じゃ、アタランテは俊足だ。逃げ続けられたら負けちゃうよッ!」
「お前なぁ・・・。速さ自慢なら負けねぇだろッ! お前にはアイツがいるんだから」
「アイツ・・・って、誰?」
「ビリー・ザ・キッドだよッ! 早撃ちガンマンのッ!」
「あ、そうかッ!」
武瑠はベルトの眼魂をビリー・ザ・キッド眼魂に交換する。すると、ベルトからビリー・ザ・キッドのパーカーゴーストがシャドウノイズに向かって飛び出し、その動きを一瞬だけ封じた。
その一瞬で翼は肉薄。シャドウノイズの弓の弦を切り裂いた。
シャドウノイズは怒ったのか、弓を投げ捨て、翼に殴りかかる。しかし、その間にビリー・ザ・キッド魂となった武瑠が獣を連射し、その動きを封じる。
「すまん、天空寺ッ!」
「別にいいですよ。それよりも俺が援護しますから、とどめ、お願いしますよ?」
「フッ、任せろッ!」
そう応え、翼はシャドウノイズに一直線に走る。その斜め後ろから武瑠が射撃。攻撃しようとしたシャドウノイズの動きを牽制しているところに翼が切り込む。シャドウノイズは逃げようとするが、また武瑠が牽制。そこに翼の剣が煌めく。シャドウノイズの肌を切り裂いた。
同じような攻防が数度続く。
武瑠が邪魔をし、その隙に翼の攻撃。そのコンビネーションにシャドウノイズも強行手段を取った。
「───ッ!」
体を低く構え、自身に何かを蓄積させる。
「アイツ、なんかやべぇことするみたいだぞッ!」
「なら、食らう前に」「終わらせるッ!」
《ダイカイガン!ビリー・ザ・キッド!オメガドライブ!》
武瑠はトリガーを押し込み、ガンガンセイバーを腰に収め、翼は刀を顔の横に構える。
「さぁ、早撃ち勝負だ。先に抜いてもいいよ」
「行くぞッ! 剣豪抜刀ッ!!」
翼の刀から光が刃となって天に溢れる。
そこにシャドウノイズが闇を纏い、かなりのスピードで突撃してきた。並の人間なら捉えられないだろう。しかし、ビリー・ザ・キッドの魂を纏った武瑠の眼はしっかりと捉えていた。
「撃ち抜け、
武瑠が銃を抜き、その引き金を三回引く。そのスピードはシャドウノイズ以上で、あまりの速さに銃声が一回に纏まって聞こえるほどだった。
三つの弾丸がシャドウノイズを貫く。急所を外したのか、消滅には至ってない。
だが、シャドウノイズの足を止めた。翼が刀を握る手により力を込める。
「切り裂けッ!
翼が光の刃を振り下ろす。シャドウノイズが光に包まれ、跡形もなく消滅していった。
「終わったのか・・・」
それを確認した翼のシンフォギアは解除され、本人は前に倒れる。それを慌てて抱き止める武瑠。疲れたのか、翼は眠っていた。
「お疲れ様です、翼さん」
その時の彼女の顔は、年相応の可愛らしい寝顔だった。
シャドウサーヴァントをノイズという形で、夢幻召喚を眼魂を使用して発動させました。
違和感無く書けたかな?