戦士開眼シンフォギアゴースト   作:メンツコアラ

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 いよいよクライマックスですッ!

 

─────────

 私は立花響。翼さんの新曲CDを買いに行ったある日、ノイズに襲われて、その日からシンフォギア装者になって、毎日みんなを守るために戦っている。

 了子さん、・・・フィーネから告げられた武瑠の真実。ものスゴく悲しくなった。ものスゴく苦しくなった。ものスゴく寂しくなった。

 ・・・でも、クリスちゃんに言われたんだ。『武瑠の代わりに、命を燃やせ』って。それに、まだわたしには守るものがある。だから、わたしは諦めないッ! 挫けないッ! 恐れないッ!

 ───だから、さ。見守っててね、武瑠・・・。





復活! 燃えよ闘魂!

(ひび、き・・・)

 

 朦朧とする意識の中、未来は空へ飛び立つ響たちを見る。自分も行かなければ、と足に力を入れようとするが、限界が来た体は言うことを効かなかった。

 

 そんなとき、彼女の肩にそっと手が添えられた。見ると、彼女の隣にはいつの間にか魔術師が屈んでいた。

 

「大丈夫かい?」

 

「魔術師、さん・・・」

 

「あとは彼女たちに任せて、私たちは安全な所に避難しよう。安心しなさい。彼女たちは絶対に勝つよ」

 

 そう言って、魔術師は彼女を抱え、その場を離れていく。そのとき、未来は悔しくて仕方がなかった。

 

(私に、もっと力があったら・・・)

 

 彼女の思いに、魔術師が気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 空へ飛び立つ響たち。彼女たちが纏うシンフォギアはホワイトカラーをベースに、それぞれ黄、赤、青の装飾、翼が装着された物に変貌していた。その姿が持つ力は元の姿よりも遥かに強い。

 

 響は空中で並び、フィーネを見下ろす。

 

「みんなの歌声がくれたギアが、わたしに負けない力を与えてくれる。クリスちゃんや翼さんに、もう一度立ち上がる力を与えてくれる。歌は戦う力だけじゃない。───命なんだッ!」

 

「高レベルのフォニックゲイン。・・・二年前の意趣返しか」

 

『んなこたぁ、どうでもいいんだよッ!』

 

 クリスの声がフィーネの頭の中に響く。

 

「念話までもッ! 限定解除されたギアを纏って、すっかりその気かッ!」

 

 フィーネがソロモンの杖を使い、ノイズを召喚し、響たちを襲わせる。しかし、今の響たちにとっては、ただの雑魚でしかなかった。

 

『またノイズか。いい加減、芸が乏しいんだよッ!』

 

 クリスの攻撃が、ノイズを一瞬で撃ち落とす。

 

『世界に尽きぬノイズの災禍は、全てお前の仕業なのか?』

 

 翼の問いに、フィーネは念話で返す。

 

『ノイズとは、「バラルの呪祖」にて相互理解を失った人類が、同じ人類のみを殺戮するために造り上げた自律兵器。それらが納められた「バビロニアの宝物庫」は開け放たれたままでな。そこからまろびいずる10年に一度の偶然を、私は必然に変え、純粋に力とし使役しているだけのこと』

 

 そう言ったフィーネはソロモンの杖を掲げ、ノイズを召喚する。その規模が先程とは段違い。天地から崩壊したカ・ディンギルを囲むように、1万近くのノイズが現れた。

 

「あっちこっちからッ───!」

 

「狼狽えるなッ! 所詮はノイズッ! 今の私たちの敵ではないッ!」

 

「よっしゃあッ! どいつもこいつもまとめてぶちのめしてくれるッ!」

 

「そうだねッ! 行こうッ! 翼さんッ! クリスちゃんッ!」

 

『ああッ───!』

 

 三人は歌を唄い、翼を羽ばたかせ、大量のノイズに飛びかかる。

 

 初撃を決めたのは響。いつものように腕の装甲をスライドさせ、大型ノイズを殴り付ける。すると、普段とは違い、大型ノイズの巨体を貫通し、その後ろにいた別個体の巨体も粉砕した。その衝撃波は周りのノイズも一掃する。

 

『スゴいッ・・・!』

 

 己が纏うシンフォギアの出力に驚く響。

 

 そんな中、翼とクリスも響に続いて攻撃を仕掛けた。

 

「~~~~♪ッ!」

 

 翼は己のアームドギアを大剣に変形させ、得意の技『蒼ノ一閃』を放つ。その斬撃も響と同様に威力が上がってた。

 

「ーーーー♪ッ!」

 

 クリスは下半身の装甲をアームドギアと一体化させ、巨大な飛行ユニットに変形させる。

 

『やっさいもっさいッ───!』

 

 クリスは飛行ユニットから無数のレーザーを放ち、空を飛ぶノイズを撃ち抜く。

 

『スゴいッ! 乱れ撃ちだッ!』

 

『んなわけねぇだろッ! 全部狙い射ってんだッ!』

 

『えへッ。だったら、わたしが乱れ撃ちだッ!』

 

 響は己の拳が放つ衝撃波を飛ばし、地上のノイズを次々撃破する。翼、クリスも負けじと攻撃をくり出し、次々にノイズを討伐していく。

 

「どんだけ出ようが、今更ノイズッ!」

 

 クリスが己の纏うシンフォギアの出力に、勝利を確信する。

 

 ───そのときだった。翼があることに気づく。

 

「あれはッ・・・!」

 

 翼の視線の先。そこにはソロモンの杖の先を自身の腹に添えるフィーネの姿があった。

 

 フィーネはニヤリと笑うと、それを自身の腹に深々と突き刺した。

 

 突然の行動に、響たちは困惑する。しかし、ソロモンの杖とフィーネの腹の皮膚が一体化を始めたことにより、フィーネがソロモンの杖と融合し始めていることに気づく。

 

 さらに、

 

「・・・ッ!? 見て、ノイズがッ!」

 

 辺りに残ったノイズがフィーネに向かって飛びかかる。一体、また一体とフィーネに飛び付き、彼女の体を不気味な色の肉塊が包み込む。その光景に響はフィーネが取り込まれていると判断するが、実際は違う。その事にクリスが気づく。

 

「取り込まれてるんじゃない・・・()()()()()()()()()()()()()ッ!」

 

 ノイズを取り込んでいく中。フィーネは肉塊の一部を伸ばし、カ・ディンギルの根本の内部にある、カ・ディンギルの動力源、完全聖遺物『デュランダル』も取り込む。

 

 

 ソロモンの杖、ネフシュタンの鎧、デュランダル、そして、大量のノイズ。フィーネはそれら4つを融合させて造り出した巨体を起き上がらせた。

 

 それは紅の龍を思わせる異形の姿。首にあたる部分には、手にデュランダルを持ち、その異形の巨大と己の体を融合させたフィーネの姿があった。彼女の今の姿に名を付けるのであれば、『黙示録の赤き竜』が相応しいだろう。

 

 フィーネは黙示録の赤き竜の頭部を動かし、その先を少し離れた街に向ける。

 

「まさかッ!? 止め───」

 

 想像が出来たのか、響が叫ぶ。しかし、すでに遅かった。

 

 黙示録の赤き竜の頭部から強力な光線が放たれる。それは街を一瞬にして火の海に変えてしまった。

 

 その威力に驚愕する響たちに、フィーネは冷たい笑みを向ける。

 

「逆鱗に触れたのだ。相応の覚悟は出来ておろうな?」

 

 

 

 

 

 

⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫

 

 

 

 

 

 

 

 魔術師が本拠地としている世界。あの時、亡霊の戦士が生まれた世界で、一人の青年が寝転がっていた。

 

 彼の頬を撫でる暖かい風。それが運ぶ花の香りが、青年を、・・・天空寺武瑠を目覚めへ誘う。

 

「・・・ん、んぁ? ・・・あれ、ここって・・・」

 

 上半身を起こした武瑠は辺りを見渡す。見覚えのある光景に、自分は今度こそ死んじゃったのか、と思った時だった。

 

「───武瑠」

 

「───ッ!?」

 

 後ろからかけられた声に武瑠は驚く。7年程聞くことはなく、だけど決して忘れることのない声。振り返ると、そこには彼が思った通りの人物が立っていた。

 

 少し厳つい顔つきの、和風の服に身を包んだ男性。武瑠は男性の名前を知っていた。

 

 彼の名前は『天空寺 龍』。7年前、武瑠の目の前で亡くなった、武瑠の父親だった。

 

「父さんッ・・・!?」

 

「久しぶりだな、武瑠。7年ぶりか。大きくなったな」

 

 7年ぶりに見る父親の姿に、武瑠は嬉しくなる。だが、同時に申し訳ないという思いが込み上げてきた。

 

「父さん・・・ごめんッ・・・。俺・・・、俺ッ・・・」

 

 約束を守れなかった自分が情けなく、同時に悔しく思い、涙を流す武瑠。そんな彼に、龍はそっと頭を撫でた。

 

「武瑠・・・よく頑張ったな。お前のことは誇りに思うぞ」

 

「え、本当・・・?」

 

「ああ。お前は、私の自慢の息子だ」

 

「・・・ッ! 父さんッ!」

 

 武瑠は嬉しさのあまり、龍に抱きつく。7年ぶりに感じる父親のぬくもり。龍も武瑠の体をそっと抱き返した。

 

「・・・父さんッ。俺、ちゃんと、みんなを守りたかったッ・・・」

 

「・・・武瑠、聞きなさい」

 

 龍は武瑠を自分から引き剥がし、互いの顔が向かい合うようにする。

 

「武瑠、お前しかいない。お前が人々の心を繋ぎ、未来へ導くんだ」

 

「父さん・・・」

 

「命を、想いを繋げ。お前なら、きっと出来る」

 

「・・・分かった。俺が、やるッ! やって見せるッ!」

 

「ああ。任せたぞッ!」

 

 そう言って、龍は武瑠に抱きつき、己の魂と武瑠の魂を一体化させる。龍の魂と融合した武瑠の魂はより強固なものになり、武瑠の体に熱い魂の焔が駆け巡る。

 

(ありがとう、父さん・・・。───ッ!)

 

 武瑠は響たちのことを強く思う。

 

 みんなを助けたいッ! みんなの元に戻りたいッ!

 

 その想いに答えるように、武瑠の体は光出した。

 

 

 

 

 

⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫

 

 

 

 

 

 限定解除したシンフォギアを纏う響たちと、黙示録の赤き竜となったフィーネとの対決が始まってから数分。戦況は、響たちの劣勢となっていた。

 

『この野郎ッ! これでもくらえッ!』

 

『はあああッ───!』

 

『とぅりゃあああッ───!』

 

 クリスが黙示録の赤き竜に向かってレーザーを、翼が『蒼ノ一閃』を、響が衝撃波を放つ。しかし、その巨体はほぼ無傷。なんとかついた傷も、ネフシュタンの持つ再生能力がすぐに修復させる。

 

『いくら限定解除されたギアであっても、所詮は聖遺物の欠片から造り出された玩具に過ぎないッ! 最初から貴様たちには勝ち目など皆無だったと知れッ!』

 

『チッ! 調子に乗りやがってッ!』

 

『だが、私たちのギアではダメージを与えることすら出来ていないのは事実ッ・・・!』

 

 どうすればフィーネを倒せるか、と頭を悩ませる響たち。

 

 

 ───そのときだった。

 

 

「───悩む必要はないッ!」

 

 突然の声に、響たちとフィーネはその声がした方を向く。見ると、未来を安全な場所に運んだ魔術師が戻って、黙示録の赤き竜の目の前に立っているではないか。

 

「貴様ッ! 何者だッ!?」

 

「初めまして、フィーネッ! 超先史文明期の巫女よッ! 私は魔術師ッ! 君たちにあることを伝えに来たのさッ!」

 

「あることだと?」

 

「ああッ! ───君が負けるという予言をね」

 

 魔術師が下したフィーネの敗北宣言。その言葉に、フィーネは笑いを堪えることは出来なかった。

 

「フフフッ・・・フハハッ、ハハハハハハハハッ! 笑わせてくれるッ! 私がこの小娘たちに負けるだとッ!? 私にダメージを与えることが出来ていないこいつらに、そんなことが出きるはずなど───」

 

「おいおい。何を勘違いしているんだい?」

 

「───なに?」

 

「私が何時、彼女たちが君を倒すと言った?」

 

「なんだとッ・・・!?」

 

 魔術師の言葉に響たちも困惑する。今、フィーネに立ち向かっているのは自分たち三人だけ。未来は満身創痍な状態で戦える状態じゃない。では、一体誰が?

 

「君の疑問に答える前に、ある戦士の話をするとしよう」

 

「なに・・・?」

 

「彼の物語は、彼自身が死んだことから始まった。英雄の力を身に纏い、彼と共に歩むのは、血濡れし歌を唄う歌姫たち」

 

「死んだ・・・、英雄の力・・・。・・・まさかッ───!?」

 

 魔術師が言う『ある戦士』が誰を指すのか。それに気づくフィーネ。

 

「なにバカなことをッ! 貴様の言う戦士は消滅したッ! そんなことが起こるものかッ! もし起こると言うのなら、その前に全てを終わらせるッ!」

 

 黙示録の赤き竜の頭部が再び響たちに向けられ、今までとは比べ物にならない程の光線が放たれようとする。

 

 ───しかし、

 

「───なにッ!?」

 

 空から、一つの光が飛びかかり、光線の発射を阻止する。その光が地面に降りると霧散し、中から一人の戦士が現れた。響はその戦士の名前を口に出す。

 

「武瑠ッ・・・! 武瑠が戻ってきたッ・・・!」

 

「生き返ったのかッ!」

 

「あん野郎ッ! 心配かけさせやがってッ!」

 

 武瑠の復活に歓喜の声を上げる響たち。一方、フィーネは怒りに染まっていた。

 

「また・・・、また邪魔をすると言うのかッ! 亡霊風情がッ!」

 

 

「───了子さんッ! あなたを止めるッ!!」

 

 

 武瑠の体から紅蓮のオーラが溢れ出し、それは武瑠の目の前で一個の眼魂、紅と黒の、燃える焔を思わせる眼魂『闘魂ブーストゴースト眼魂』となった。

 

 武瑠は何時ものように、眼魂のスイッチを押し、ベルトに装填しようとする。しかし、フィーネがそれをさせまいと、黙示録の赤き竜のヒレから多数のレーザーを放つ。

 

 レーザーが地面に着弾したときに起きた爆炎に包まれる武瑠。フィーネは呆気ないと笑うが、

 

 

《一発闘魂!アーイ!》

 

 

「───なんだとッ!?」

 

 炎の中。武瑠は気にすることなく、ベルトのトリガーを引く。すると、そこから闘魂ブースト眼魂と同じ色合いをした、焔のようなパーカー『闘魂ブーストゴースト』が飛び出す。

 

 燃え続ける火柱の中。武瑠は胸の前で韻を結ぶと、ベルトのトリガーを押し込んだ。

 

《闘魂カイガン!ブースト!

  俺がブースト!奮い立つゴースト!

   ゴー!ファイ!ゴー!ファイ!ゴー!ファイ!》

 

 武瑠の体を、節々に焔の模様が描かれた紅蓮の装甲が包み込み、その上から闘魂ブーストゴーストが纏われ、頭部に紅蓮のマスクが被さる。

 

 それは武瑠の父、龍の熱い魂と武瑠自身の燃える魂が一つとなり、具現化した姿。その焔は太陽のように輝き、燃え続ける。

 

 その姿の名は、

 

  『仮面ライダーゴースト 闘魂ブースト魂』。

 

 

「来いッ! 俺の呼び声に答えろ、───デュランダルッ!!

 

 武瑠はフィーネに右手を向け、その剣の名を呼ぶ。すると、フィーネの手に収まっていたデュランダルはフィーネの手から独りでに離れた。

 

「なッ!? デュランダルがッ!」

 

 デュランダルはそのまま真っ直ぐ武瑠の右手に向かう。武瑠がデュランダルの握りを掴むと、デュランダルを焔が包み、その姿を変質させる。

 

 焔のような刀身に、鍔の部分にサングラスを模したカバー『メガシェイド』がついた紅蓮の剣。その名は、

 

「闘魂装填ッ! サングラスラッシャーッ!」

 

 武瑠の手のなかで姿を変えたデュランダル。その光景に、フィーネは驚きを隠せない。

 

「馬鹿なッ!? デュランダルが融合していた私の元を離れ、さらには己の存在自体を変えるだとッ!? そんなことが起きるものかッ!」

 

「だが、実際に起きたッ! 不滅の聖剣は天空寺武瑠を主とし、その姿、存在を彼に合わせたッ! それは紛れもない事実ッ! さあ、天空寺武瑠ッ! 思いっきりやっちゃえッ!」

 

「言われなくてもッ!」

 

 魔術師にそう答えた武瑠は、メガシェイドを開け、その奥にある二つの窪みにオレゴースト眼魂、そして、ベルトから抜き取った闘魂ブースト眼魂を装填する。

 

《メガマブシー!メガマブシー!メガマブシー!》

 

 武瑠は正眼の構えを取る。瞬間、天にも届くほどの紅い光の放流がサングラスラッシャーから溢れだした。

 

 

「宝具解放ッ! これは太陽の如く燃え続ける、我が魂の焔の一閃ッ!」

 

 

 光の放流は刃となり、より眩しく、より強力なものになっていく。

 

(あれは、ヤバいッ! あれをくらえば、私は負けるッ・・・!)

「その力、振るわせてなるものかあぁぁぁぁッ!」

 

 直感で感じ取ったフィーネは武瑠に黙示録の赤き竜の頭を向け、光線を放つ。

 

 武瑠はフィーネに向かって、その紅蓮の光の刃を振り下ろした。

 

「燃えろッ! そして、輝けッ!

 

 ───輝き続ける不滅の一閃(メガオメガシャイン)ッ!!!」

 

 紅蓮の刃は光線を容易く切り裂き、黙示録の赤き竜さえも両断する。さらに、

 

「どうしたッ!? なぜ再生しないッ!?」

 

 ネフシュタンの再生能力が働かず、崩壊を始める黙示録の赤き竜。どう足掻こうと、フィーネの敗北は確定していた。

 

「おのれえええッ! この身砕けて、なるものかああああああッ!!」

 

 フィーネのその言葉を残し、黙示録の赤き竜は大爆発を起こして消滅した。

 

 

 

 

 

⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫⚫

 

 

 

 

 

 戦いは終わった。夕陽に染まるリディアンに響たち、ボロボロのネフシュタンを纏うフィーネ、そして、彼女と肩を組み、支えて歩く武瑠が帰ってきた。リディアンの地下にいた者たち、そして、魔術師に支えられた未来が彼らを出迎える。

 

 武瑠に運ばれる中。フィーネは武瑠の行動に疑問を抱いた。

 

「お前、何を馬鹿なことを・・・」

 

「理由なんてないです。ただ、了子さんを助けたかったから助けたんですよ」

 

 武瑠は彼女を手頃な瓦礫の上に下ろし、自身は彼女の隣に立つ。

 

「『了子』ではない・・・。私は『フィーネ』だ・・・」

 

「俺からすれば、『了子』さんは『了子』さんのまんまですよ。父さんが亡くなったあの日、独りぼっちになった俺を隣で支えてくれたのは、紛れもなくあなただから」

 

「・・・・・・・・・」

 

「もう終わりにしましょう。俺たちは、きっと分かりあえる」

 

「・・・ノイズを作り出したのは、先史文明期の人間。『統一言語』を失った我々は、手を繋ぐよりも相手を殺すことを求めた。そんな人間が、分かりあえることなど・・・」

 

「───出来るッ! 言葉なんて切っ掛けだッ! 人が言葉よりも強く繋がることだって出来ますッ!」

 

「戯れ言をいうなぁッ!」

 

 フィーネはネフシュタンの鎧の鞭を剣のように鋭くする。武瑠は咄嗟に警戒体制を取るが、フィーネの目的は武瑠ではなかった。

 

「───フンッ!」

 

「な───ッ!?」

 

 グサリッ、とフィーネはそれで自身の心臓を貫く。崩壊寸前のネフシュタンでは再生など出来るわけもなく、確実に致命傷になっていた。

 

「貴様に助けられるくらいなら、この命を自ら絶つッ! この身が朽ち果てようと、魂が絶えることはないッ! 聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形があるかぎり、私は何度でも蘇るッ! どこかの場所ッ! どこかの時代でッ! 世界を束ねるためにッ! 私は永遠の刹那に存在し続ける巫女、フィーネなのだからぁッ! アッハハハ───」

 

「・・・・・・・・・」

 

 血を流しながら、フィーネはそう叫ぶ。そんな彼女に、武瑠は変身を解き・・・抱き締めた。

 

「───ッ!?」

 

「・・・感じる。了子さんの、命の温もりが・・・」

 

「お前、何を───ッ!」

 

 そこでフィーネは気づく。自分の魂を優しく包み込む温もりを。その温もりは心を穏やかにし、フィーネに安心感を与えた。

 

「確かに、あなたは何度でも蘇る。・・・だから、伝えてほしいんです。どこかの場所、どこかの時代で。

 

 世界を一つにするのに、力なんて要らないってこと。

 

 言葉を越えて、俺たちが一つになれるってこと。

 

 繋がった先に、無限の可能性があるってこと。

 

 俺じゃ、伝えることが出来ないだろうから。了子さんにしか、出来ないから」

 

「お前・・・」

 

「父さんと約束したんです。人々の心を繋いで、未来へ繋ぐ。そのために、俺は『今』を守ります。だから、『未来』をあなたに託します」

 

「・・・・・・馬鹿だな、お前は」

 

 そう言ったフィーネは、武瑠をそっと抱き返す。

 

「武瑠・・・血の繋がりのない愛しい子・・・。私の想い、私の願いをあなたに託すわ」

 

 ───チュッ。

 

「え───」

 

『な───ッ!?』

 

 フィーネ・・・いや。了子の唇が武瑠の額に触れる。近くにいた者たちが驚くが、了子は彼らを無視し、武瑠の頬にそっと触れる。

 

「・・・あなたの持つ、無限の可能性を信じなさい」

 

 その言葉を残し、了子は灰になって、この世を去っていった。

 

 了子の最期を見届ける中。武瑠はふと、自分の手が何かを握っていることに気づく。見ると、それは了子が愛用していた蝶のアクセサリーだった。

 

 武瑠はそれを握り締め、涙を流しながら呟く。

 

 

 

 ───ありがとう、義母さん。

 

 

 

 

 

 




 次回はエピローグ。なので、予告のアバンとかは無しです。

 それではまた。


─────────

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