高校一年の春にノイズに殺され、生き返るために、仮面ライダーゴーストとなって英雄の眼魂を集めている。
突然暴走した仮面ライダースペクターこと、セレナ・カデンツァナ・イヴ。彼女は響と同じ聖遺物融合症例だった。
今、魔術師のおっちゃんによって、彼女の過去が明かされることになる。
今から六年前のあの日。
F.I.S.の研究所で行われた完全聖遺物『ネフィリム』の機械的制御実験。
それが失敗し、暴走したネフィリムに立ち向かうセレナが使ったのは絶唱。しかし、それですら倒すことの出来なかったネフィリムはシンフォギアが解かれ、倒れ伏すセレナの体に牙を突き立てようとしていた。
それを見ていたマリアは彼女を助けようと手を伸ばすが、瓦礫や焔が彼女たちの間を遮っていた。
「ダメエェェェェッ!」
マリアの叫びが響き渡るが、ネフィリムは気にすること無く、彼女の体に噛みつく
────その直前だった。
《アーイ!》
突然、青い光が口を開けたネフィリムを突き飛ばした。
青い光は光の塊から青いラインが走った一着の黒いパーカー『スペクターゴースト』に姿を変え、床に倒れ伏すセレナの上を漂う。
その時、マリアは驚きのあまり、自分の目を疑った。
何故なら、本来なら絶唱のダメージで起き上がることすら出来ない筈のセレナが立ち上がったのだ。彼女の顔には先程まで流していた血涙の後があり、しかし、その顔には生気が満ち溢れていた。
そして、立ち上がったセレナを見たマリアの視線は、彼女の腰に巻き付けられた一つのベルト……ゴーストドライバーに吸い寄せられる。
ネフィリムが雄叫びを上げる。
そんな中、セレナはベルトのトリガーを引き、ある言葉と共に押し込んだ。
自分を変え、圧倒的な力を手にするための、その言葉を。
「───変身」
《カイガン! スペクター!
レディゴー! 覚悟!
ド・キ・ド・キ! ゴースト!》
ベルトを中心に心電図を思わせる青いラインがセレナの体の上を走り、次の瞬間には彼女の体をトランジェントが装着され、その上からスペクターゴーストが纏わり、頭部に二本の角が伸びた蒼いマスクが装着される。
「───仮面ライダー……スペクターッ! 私の生き様を……その眼に刻めッ!」
「RUAAAAッ!」
吹き飛ばされ、倒れていたネフィリムは起き上がり、スペクターに向かって襲いかかった。
ネフィリムの豪腕がスペクターに振り下ろされ、対してスペクターも拳で対抗する。
ぶつかる豪腕と拳。僅かな均衡の末、勝ったのは───
「───はあああッ!!」
「RUAAッ!?」
スペクターの拳がネフィリムの豪腕を押し返し、ネフィリムが後ろによろけたところを追撃する。
《ガンガンハンド!》
スペクターがベルトから召喚したガンガンハンドの打撃はネフィリムの脳天、がら空きになっている胴体、首裏などを的確にとらえていた。
ネフィリムも殺られるものかと攻撃を仕掛けるが、スペクターはそれらを全て回避、または防御し、隙を見つけてはカウンターを仕掛ける。
スペクターとネフィリムの戦いを見ていたアメリカ政府の重職たちは思った。
これもF.I.S.の研究成果。ちょっとしたサプライズなのだと。
───そんなわけ無い。しかし、そんな呑気な事を思っていられているのは、自分達は安全だ、何かあったらここの奴が捨てゴマになってくれると当たり前のように思っているから……
スペクターの姿を見て、F.I.S.の研究員たちは思った。
あれは何だ? 我々の研究していたものじゃないと。
───当たり前だ。あの力は科学の領域を越え、下手をすれば神秘の領域に踏み込みかねないのだから。
スペクターの戦闘スタイルを見てマリアは思った。
あの戦い方、本当にセレナなの?、と。
───無理もないだろう。今のスペクターの戦闘スタイルは、元のセレナの落ち着いた舞のような動きではなく、的確に、ただ相手の命を狩るためだけに洗礼された……まるで狩人のような動きになっていたのだから。
《ダイカイガン! オメガスマッシュ!》
ガンガンハンドの瞳の紋章とベルトをアイコンタクト。
収束されたエネルギーの塊がネフィリムの片足をへし折り、その白い巨体をひび割れたコンクリートの床に叩きつけた。
決着は着いたか?
───それは否。
ネフィリムは弱りながらも、へし折れた足を動かして立ち上がろうとしていた。
スペクターは考える。
これ以上の戦いは自分がいるその実験室が崩壊しかねない、と判断した彼女はガンガンハンドを横に放り捨て、ネフィリムに止めをさす為にベルトのトリガーを一度引き、再び押し込んだ。
《ダイカイガン!》
彼女の後ろに巨大な瞳の紋章が浮かび上がり、そこから放出されたエネルギーが彼女の片足に収束されていく。
「───私の生き様、その目に刻めッ!」
《スペクター! オメガドライブ!!》
高く飛び上がったスペクターは宙を足場にし、ネフィリムに飛びかかり、オメガドライブを放つ。
ネフィリムは断末魔の悲鳴を上げる間もなく爆発し、瓦礫が散らばった地面を転がった。
力尽きたのか、起動させる前の繭の状態に戻っていくネフィリムを見ながら、スペクターは先程まで自分が使っていた力に興奮していた。
(シンフォギアと違って……そして、それ以上の……こんな力があったなんて……ッ!)
ほんの少し前まで命の危険に陥っていた者がそんな事を考えるだろうか?
しかし、彼女は自分が得た新たな力に興奮を押さえることが出来ずにいた。
「セレナッ!」
スペクターの後ろから彼女を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると姉が瓦礫の山を越えて、自分の方に近づいて来ていた。
その姿を見て、無事だったことに喜び、スペクターはマリアに駆け寄ろうとする。
───だがしかし、興奮と喜びが彼女を油断させてしまった。
ドスッ、と衝撃と肉を裂く痛みがセレナの背中を襲った。
目の前で変身が解除され、コンクリートの床に倒れるセレナの姿に、マリアの悲鳴が研究室に響き渡った。
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「───その時、彼女の背中を貫いたのはネフィリムの繭が飛ばした自身の一部。完全停止する前に放った苦し紛れの攻撃だったんだろう。
……で、ここからが重要。実はゴーストドライバーには致命傷レベルの攻撃を受けた際、死なないように装着者の傷を癒すシステムが組み込まれていてね。それが、彼女とネフィリムを結合させた。
これが私の知る……そして、君たちが知りたい、スペクターという戦士とセレナ・カデンツァナ・イヴという少女が誕生した物語だ。御満足いただけたかな?」
『………………』
魔術師の言葉に、その場にいた者たちは答えられずにいた。
皆、複雑な気分だった。仮面ライダーの力を手に入れなければ死に、しかし、それが原因で今の彼女の命を脅かしているのだから無理もないだろう。
また、同じ力を持っている武瑠はそれ以上だった。
「それじゃあ、私は失礼するよ。話すことも話したしね」
「……ちょっと待て」
「何かな、月読 調くん?」
「……何で、セレナに力を渡したの?」
「……そうデスよ。てめえ自身が助けてくれれば、セレナは今苦しむことなんて無かったのにッ!」
「うーん……君たちは僕を勘違いしている。僕はそこまで善人じゃない。というか、人じゃないしね。彼女を手助けする事はあっても、救う義理は無いんだよ」
「そんな───」
魔術師の言葉に反論しようとする切歌だったが、それを遮るかのように、クリスが持つ通信機から緊急アラートが鳴り始めた。
『今、東京スカイタワーにノイズ反応が確認されたッ! 急いで向かってくれッ!』
「───ッ!?」
通信機から聞こえてきた弦十郎の声に、武瑠はクリスから通信機を奪い取り、それが間違いないのか問い質した。その場にいたクリス達が戸惑うなか、魔術師が何を慌てているのか問い掛ける。それに対して、武瑠は答えた。
響と未来が東京スカイタワーに出掛けている、と。
<報告書>
20XX年 9月 X日
場所:東京スカイタワー
被害状況
死者数多数…内の半数以上がアメリカ軍兵。死因は鋭利な物による刺殺。
重傷者、軽傷者多数。
行方不明者一名。対象『小日向 未来』
今回は後編と言うことで、ちょっと短めにしています。
次回は境界線上のIRON BLOODEDを投稿する予定です。
それでは、お読みいただきありがとうございました。