まさか、1ヶ月以上かかるとは思ってませんでした。
こんなにも時間がかかっているのに読んでくださった方々、誠にありがとうございます。
それではシンフォギアゴースト新話をどうぞ。
武瑠がシンフォギア装者として。そして、敵として姿を表した未来と対峙していた時間から少しだけ遡り……。
「ふむ。これも紅茶と同じ茶葉から出来ていると聞いたが、これほど変わるとはな。そして、この茶菓子も繊細な造形と味わいがいい。
御成。緑茶の御代わりを。茶菓子も忘れるな」
「はいッ! ただいまッ!」
「手伝いますよ、御成殿」
ヴラドからの注文を受け、颯爽と台所へ消えていく御成と彼の手伝いに行く風魔。どういうわけか、その顔には満面の笑みが浮かべられていた。
若干キモいと思いながらも、とりあえず今は……と了子、調、切歌は武装組織フィーネの現状を話し合っていた。
「───で、今回のノイズ出現なんだけど。御二人はどう思う?」
「……多分、マリアやマムがしたんじゃない」
「二人はスッゴい優しいんデスッ! わたしたちが無茶したときとか、血の繋がった家族みたいに怒ってくれたデスッ!」
そんな優しい人たちが無闇にノイズを召喚する筈がない。
二人の答えに、了子はドクター・ウェルの独断と考えるのだが……その行動の意味はなんだ? ソロモンの杖があるとはいえ、ノイズ程度に破れるほど武瑠たちは弱くない。マリア・カデンツァナ・イヴがいるとしても彼女は時限式。長期戦になれば敗北するだろうし、分断されたところで倒されるほど武瑠たちも弱くない。
ドクター・ウェルに対して了子が考えを張り巡らすなか、調があることを思い出したのか、おずおずと手を上げる。
「……多分、あくまでも可能性なんだけど、シンフォギアに対してなら勝てるかもしれない手段がある」
「……神獣鏡のシンフォギアね? たしかにシンフォギア装者に対してなら対抗は出来るでしょう。けど、まだ神獣鏡の装者は見つかっていないって言ってなかった? それに、仮に見つかったとしてもいきなり実戦は無理があるわ。他所から人材を調達するにしても、それなら最初から使った方がいいし」
「まさかとは思うデスけど、神獣鏡と適合した戦闘経験豊富な人物がこの街で見つかった……とかデス?」
まさか、と切歌の言葉を否定する了子。そんな人物がいたのなら既に武装組織フィーネの戦力として使っている筈なのだから。
それにもし切歌の言う通り、この街でそんな人物が居たのだとしても武装組織の一員になれば指名手配されてしまう。仮に拉致したとしても行方不明で捜索。その情報が二課に回ってくれば、すぐさまバレてしまう。
ドクター・ウェルの目的が全く見えず、了子たちは深い溜め息を吐く。
そんな彼女たちの前にコトリ…と三つの湯飲みが置かれた。
「溜め息を吐いてたら幸せが逃げてしまいますぞ」
「……御成さん、ありがとうございます」
「おきになさらず。いくら悩んでも答えが出ないときは一息入れるのが吉でございます。ささっ、熱いうちに」
御成の言葉に『いただきます』と答えた了子たちは湯飲みに口をつけ、調度よい温度に調整されたお茶を味わいながら一息入れる。
「そういえば了子殿。少し気になった事があるのですが」
「なに? 私に答えられる範囲ならいいわよ」
「いえ。先ほど神獣鏡のシンフォギア装者が見つからないと言っていたでしょう? そのシンフォギア、クリスくんや武瑠殿が使用することは出来ないのですかな?」
「武瑠くんはどうか分からないけど、クリスは無理よ。彼女たちの歌と聖遺物にも相性ってものがあるの。」
「なるほど。つまり、シンフォギアを使ってない武瑠殿や拙僧にはチャンスがあると」
「調べてないから何とも言えないけど、男性よりも女性の方が精神的な意味で相性がいいから武瑠くんたちよりも未来ちゃんの方がいいと思う───」
───今、私は何と言った?
カチリ……と足りなかったパズルのピースがハマる感覚。
───男性よりも女性の方が適合しやすい。だから武瑠よりも
「繋がった…そういうことだったのかッ!」
「りょ、了子殿?」
「道理で痕跡が見つからないわけだッ! 彼女は拐われたのだからッ!」
「ど、どうしたんデスか……?」
「……急に叫ぶから驚いた」
切歌たちの質問に、了子が自分が興奮している理由を答える。
その直前だった。
「「「───ッ!」」」
「「「───……?」」」
了子……いや。フィーネ、ヴラド、風魔が何かを感じ取ったのか、三人の纏う雰囲気がガラリと変わった。三人の間に漂う張りつめた空気に他の三人……調、切歌、御成が疑問符を浮かべ、三人を代表して調がどうしたのかと問いかけようとした瞬間、
「───伏せろッ!」
ヴラドの叫びとほぼ同時、六人の視界は光に包まれた。
夜の世界に閃光が走り、爆炎に包まれ、瓦礫の山と化す大天空寺。
所々で木片や瓦礫が燃える中、その下……大天空寺の地下にある居住区画には上の茶の間にいたはずの了子たち6人が煤だらけの状態でいた。
「なんとか、間に合ったみたいね……」
肩で息をする了子の手には砕け散る宝石が数個。
「宝石魔術、だったか? さすがだな」
「それの私バージョンって所かしら。いざと言うときの為に準備していたんだけど、なんとか成功したわね」
念のために調たちの安否を確認する了子。
結果、御成が気絶しているが、三人に大きな怪我はなし。傷も小さく日常や戦闘には問題ない程度のものだった。
「───して、先の攻撃は?」
「間違いなく武装組織フィーネの……いいえ。ドクター・ウェルの攻撃でしょうね。ただ……」
「……今の攻撃、火薬とかじゃない。匂いがしなかった」
「じゃ、じゃあ、さっきの爆発はなんなんデスかッ!?」
「分からないわ。魔術的な物でもなかったし……「なら、私が説明してあげましょうか?」あら? ならお願いしようかし……───ッ!?」
思わず応答してしまったが、突然奥から聞こえた聞こえないはずの声にヴラド、風魔が前に、その後ろで了子が調たちを守るように立ち、札を構える。
「魔術による砲撃。神代の魔女の一撃は中々の物でしょう?」
了子たちの視線の先。本来なら居ないはずのその男は黒い靄に包まれ、その背と頭に翼の装飾を着けた少女を連れ、眼鏡の位置を直しながら嘲笑うような笑みを浮かべていた。
「ジョン・ヴェイン・ウェルキンゲトリクス……ッ!?」
「どうもフィーネ。本日はこの寺にある眼魂の回収と囚われている捕虜、セレナ・カデンツァナ・イヴを返してもらいに来ました。
しかし、古くさい寺の地下にこんな施設があるとは。さすが先史文明の巫女といったところでしょうか」
「それはどうも。でも、誉めるなら少し静かにノックしてくれないかし───らッ!」
ドクター・ウェルに向かって札を投げ、魔力が込められたそれはまっすぐ彼に向かうが、少女が作り出した魔方陣に防がれる。
術式がダメなら物理で───とヴラドは槍を生成。風魔は苦無を取り出し、攻撃を仕掛ける。シャドウノイズから放たれる魔力砲を掻い潜り、ドクター・ウェルに肉薄したヴラドたちは武器を振るい、彼の首を切り裂き、彼の心臓を貫くのだが、
「な……───ッ!?」「───ッ!?」
爆発するドクター・ウェルの体……否。一瞬前までドクター・ウェルのいた場所に彼の姿は無く、代わりにいたのは風魔に首を切飛ばされ、ヴラドの槍に貫かれた西洋人形。
その人形はヴラドたちが驚く間もなく閃光、爆炎、爆風を放ち、壁に叩きつけられたヴラドたちは実態を保てず、眼魂の姿に戻ってしまう。
了子はなんとか後ろの三人を守ったが、代わりに自分の防御が疎かになり、酷い火傷を負ってしまった。その苦痛に耐えれず、了子は膝を着いてしまう。
「甘いんですよ。私が何の対策も無しに突撃するとでも思ってたのですか?」
煙の奥から姿を現すドクター・ウェルとシャドウノイズ。
了子は苦痛を堪えて構えようとするが、ドクター・ウェルがシャドウノイズに指示を出し、術式で拘束する。
一方の調、切歌は何が起きたのか分からず、激しく困惑しているが、ドクター・ウェルは知ったことじゃないとシャドウノイズに指示を出し、転移魔術で彼女たちを自分達の拠点に強制移動させた。
残ったのは拘束された了子、並び立つドクター・ウェルとシャドウノイズ。
ドクター・ウェルは睨み付ける了子を無視し、廊下に落ちたヴラド眼魂とフウマ眼魂を拾い上げる。
「───さて。セレナ・カデンツァナ・イヴは既に確保済み。こちらの目的はすべて達成されました。このまま退却してもいいのですが……あなたという存在はこれからの計画の障害になりかねませんからねぇ。ここで消さしてもらいますよ」
「……消される前に質問していいかしら?」
「いいでしょう。冥土の土産に何でも答えてあげますよ」
「じゃあ質問。未来ちゃんを拉致した目的は?」
了子の確信をついたような問い掛けにドクター・ウェルは感心しながら答えた。
「分かっていましたか。ええ。確かに小日向未来の身柄は此方が預かっています。しかし、それは仕方のないことなのです。彼女はシェンショウジンに適合できるかもしれない数少ない人物なのですから」
ドクター・ウェルの答えに了子はまず安堵。とりあえずではあるが行方不明だった未来の安全は保証されたのだから当たり前だろう。
じゃあ、次の質問……と了子は別の質問を投げ掛ける。
───なんで魔術師を止めて科学者になった?
「…………何のことですか?」
「あら? 冥土の土産に答えてくれるんじゃなかったの?」
「質問の意味が分からないんですよ。なんで私を魔術師だと思ったのですか?」
「判断材料は幾つかあるわ。
そこのシャドウノイズの攻撃。神秘が衰退したこの時代で、あなたは彼女の攻撃を魔術によるものだと理解していたわ」
「このシャドウノイズを作り出したのは私です。元が分かれば、どんな手段を使うのか理解できますよ」
「それだけじゃないわ。貴方、言ったわよね? 『なんで私を魔術師だと思ったのですか?』って。貴方は自分は魔術師じゃないって言ってるでしょうけど、魔術師という存在を否定していない時点で少なくても知ってはいる。
最後にさっきの身代わり人形。あんなものを準備するほど、シャドウノイズは賢い訳じゃない。それは作った私が一番分かっているわ」
一通り自分の考えを言った了子は『どうなの?』と問いかける。
それから僅か五秒。しかし、問い掛けた本人からすれば十分にも感じる時間を置いて、ドクター・ウェルは突然笑いだした。そして、了子の質問に肯定する。
「素晴らしいッ! さすが先史文明の巫女ッ! あれだけの情報で導きだすとは。……しかし、あなたは少しだけ間違っている。
まず、私は魔術師ではなく魔術使い。魔術師とは『根源』へ至るために魔術を用いる者。私は別の目的で使っていますから魔術使いです」
「別の目的って『英雄になる』ことかしら? なら、絶対に無理でしょうね」
「ふんッ! どうとでも言うがいいさ。近い内、私はすべてを超越した存在となるn「残念だけど、それも無理よ」──なにぃ?」
了子の言葉が癪に触ったのか、彼女の髪を引っ張りあげ、彼女の顔を自分の顔に向けさせる。
髪が数本抜ける感触を味わいながらも彼女は笑って見せた。
「ふざけたことは言わない方が吉ですよ。何せ、今の主導権はこちらが握っているのですから」
「それはどうかしら? こっちには最終兵器が存在するのよ」
「最終兵器? どんなものかは知りませんが、シャドウノイズの相手が勤まるとでも?」
「ええ。ノイズならともかく、ノイズとしての特性を失ったシャドウノイズならね。だって、その人間は」
────現時点で人類最強よ。
そのときだった。
まるで了子の言葉に答えるかのように、突然了子の後方にあったエレベーターの扉が文字通り吹き飛んだ。扉だった金属塊はそのままドクター・ウェルの方へ飛び、彼の顔面に直撃。鼻と歯をへし折り、了子から離した。
廊下に倒れたドクター・ウェルは血を流す顔を片手で隠しながら、扉を吹き飛ばしたその男を……先史文明の巫女に人類最強と呼ばせる
「待たせたな、了子くんッ!」
「待たせ過ぎよ。こんなにいい女を放って置くなんて」
「そんな軽口を叩けるなら大丈夫だな。さて……───」
ドクター・ウェルを視認し、指を鳴らしながら近づく男、弦十郎の姿は処刑人とも言えるだろう。それほどの圧力を感じさせるものだった。
「シャ、シャドウノイズッ!」
ドクター・ウェルの指示を受け、彼の前に出たシャドウノイズは術式を飛ばすが、
「───ムンッ!」
「なッ!? 術式を素手で弾き返しただとッ!? そんな出鱈目なッ!」
「これで終わりか? なら次は此方からッ!」
踏み込みで廊下を砕き、シャドウノイズに正拳突きを繰り出す弦十郎。しかし、シャドウノイズが張った物理防御の魔法陣がその拳を拒む。それを見たドクター・ウェルはほっと一安心
……するはずだったのだが、
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオリオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァッ!」
「な───ッ!?」
連続で繰り出される拳。それが防御壁を砕き、シャドウノイズの体に突き刺さる。
……が、先程のドクター・ウェルと同様。シャドウノイズの体が一瞬で西洋人形に早変わりし、中に仕込まれた爆弾が爆発した。
さすがの弦十郎も無傷ではすまず、右こぶしに軽傷を負ってしまい、また、その場にいたはずのドクター・ウェルは姿を消し、弦十郎たちは彼らを逃す結果となってしまった。
●●●●●●●●●
「───以上が大天空寺で起こった出来事だ」
『お陰で大天空寺は崩壊。比較的無事だった龍の研究室を使ってるけど今までみたいなサポートは出来そうに無いわ』
二課仮本部。
弦十郎の報告とモニター越しの了子の通信を聞かされ、翼は握っていた拳の力が強まり、クリスは悔しそうに唇を噛んでいた。他の者も翼たちと同じように悔しいという感情が態度に表れていた。
「眼魂が奪われ、さらには小日向が向こうについた。……我々はしてやられた、という事ですね」
「クソが……ッ! あたしらはまた何も出来ねぇのかよッ!」
ダンッ!、とクリスが近くにあった壁を殴り付ける。
今、この場にいる者たちは皆、クリスと同じ心情だろう。しかし、それ以上に辛い思いをしている者が他にいた。
「未来……なんで……」
死んだと思っていた幼馴染みが生きていたかと思えば、今度は敵として現れる現状に、響の心の中では悲しみ、困惑、焦燥等といった負の感情がごちゃ混ぜになっていた。
もちろん弦十郎たちが何とか声を掛けようとしたが、今の彼女の耳には届かない。
弦十郎たちは仕方なく、今重要視すべきドクター・ウェルの今後の動向に目を向けた。しかし、
「超越した存在、か……」
「未来さんの行方不明から色々とバタバタしてましたから、調さんたちに情報を聞き出す暇がありませんでしたので……」
まさに八方塞がりとも言うべき現状に皆が頭を悩ます。
そんなときだった。
「───行き先なら分かってます」
「た、武瑠ッ!? 大丈夫なのかッ!?」
扉を開け、司令室の中に入ってきたのは魔術師に支えられた武瑠だった。ボロボロだった彼を心配してクリスが駆け寄るが、武瑠は大丈夫と手で制する。
「武瑠くん。今のはどういう事だ?」
「後で報告しようと思って、調たちに聞いておいたんです。月の落下を防ぐために、彼らはフロンティアって物を起動させようとしてます」
「フロンティア……? 了子くんッ!」
『遥か昔にカストディアンが用いた巨大な星間航空船よ。正式名称は「
「───よしッ! 明日早朝より指定座標に移動ッ! 各自、出来る限りの準備をするようにッ!」
『『『───了解ッ!』』』
「…………了解」
弦十郎の言葉に皆が敬礼する。
物語は着実にクライマックスへ近づいていた。
ユルセン『次回ッ! 戦士開眼シンフォギアゴーストGッ!』
ドクター・ウェル
「こうなるのも予想の範疇」
マリア「こうするしかないの……ッ!」
───自ら茨の道を進むマリア。
調「ドクターのやり方じゃ世界は救えないッ!」
切歌「わたしたちはわたしたちを信じるデスッ!」
───己の信じた道を進むザババの二振り。
───そして、
「取って置きのをくれてやる」
「───Croitzal ronzell gungnir zizzl……」
《纏うは撃槍! 片翼の無双!》
『聖詠! 片翼の魂!』