それではどうぞ。
ある日の朝、大天空寺では、
「………………」
「………………」
「「……………………」」
武瑠と調が火花を散らしていた。
「あ、あのぉ、二人とも。そろそろ朝ごh「「
二人に話しかける響だったが、彼らの剣幕に成す術もなく引き下がり、それをすぐ近くで見守っていたクリス、マリア、未来。そして、新たに武瑠たちの仲間になった英雄の一人……王権の象徴として祝福されて生きながら、王権の象徴として憎まれ死に果てた儚き貴婦人『マリー・アントワネット』の元に戻っていった。
「おいッ! もう少し頑張れよッ!」
「無理だよッ! スッゴい怖いんだもんッ!」
「あれ、いつまで続くのかしら? 毎朝これが続くなんて堪ったものじゃないわよ」
「武瑠もちょっと頑固な所がありますから……」
「私は武瑠の料理も調さんの料理も好きよ? 何で二人で作らないのかしら?」
「それが出来たら、こんなことは起こってませんよ……」
───事の始まりは半月前。まだマリアたちが大天空寺に来たばかりの頃。
武瑠がいつものように朝食を作りに台所へ向かっていると、途中、調と鉢合わせた。
「調、おはよう」
「……おはようございます。早いんですね」
「死んでるから眠る必要は無いしね。この状態になってから睡眠とかも必要無くなったしなぁ」
「……ごめんなさい」
ついつい忘れがちになるが、武瑠は幽霊、肉体が無く、人が必要とする食事と睡眠は必要ない。デリカシーが無かったと謝る調だったが、すでに半年以上経つ幽霊生活に慣れた武瑠は気にしてはいなかった。
「それで、調はこんな朝早くからどうしたんだ?」
「……朝食を作りに来た」
「朝食を? いいよ、別に。俺が作るから」
「……でも、わたしは言ったら居候。ただ世話になるのは嫌」
「別にいいって。ここの食事は幼い頃から俺が作ってるから」
その武瑠の何気ない発言に、調は『俺の方がお前よりも上手い』と言われているようで苛立ち、故についつい言ってしまった。
「……わたしの方が武瑠先輩よりも美味しい料理を作れる」
「……───は?」
今更かもしれないが、武瑠の家事歴は長い。父親の龍が無くなって数日の内に了子や御成に家事のいろはを教えてもらい、それ以降はずっと大天空寺の家事全般を取り仕切っていた。とりわけ料理にはそれなりの自信がある。
そんな彼が真っ向から『お前よりも上手い』なんて言われればどうなるか、火を見るよりも明らかだった。
「いいや。今まで家事全般は俺の仕事だったんだ。調は黙って待っていてくれ」
もし、この場に他の者がいれば、調に青筋が浮かび上がる瞬間が見れただろう。
「……武瑠先輩こそ、この家の主同然なんだから静かに、座って待っていればいい」
「調に出来るかなぁ。家には
「……先輩は知らない。マムやドクターの偏食者たちからも好評だったわたしの実力を」
「……俺がやるから待ってて」
「……わたしが作る」
「俺がやるから」
「わたしが作る」
「俺が───」
「わたしが───」
結局、その日の皆の朝食は先日の残り物となった。以降、大天空寺の台所は平日はほぼ二回、休日は多いときに三回も武瑠と調が取り合いをしている。結果、食事の時間が遅れるときもしばしば。どちらの料理も皆喜んで食べるのだが、毎回遅くなってしまうのは困ってしまう。それに酷いときは決着がつかず、代わりに了子や緒川が作るのだが、今回は二人ともが仕事で手が離せない。
「どうする? これ、決着がつかないパターンだぞ」
「お腹空いたよぉ~」
「でも、今日は緒川さんも了子さんも居ないから二人以外に作る人いないよ?」
「……ダメね。空腹で解決策が思いつかないわ」
「なら、私にいい考えがあるのだけれど」
頭を悩ませる三人にマリーが提案を出そうとするのだが、マリアは彼女の有名な話『パンがなければ、お菓子を食べればいいじゃない』を知っているため、マリーの出そうとしている提案に一抹の不安を抱いていた。
『まあ、他に案が浮かぶわけでもないし』と、マリアたちはその案を聞くのだが、マリアの不安は見事に命中する。
「作る人が居ないのなら
私たちで作ればいいじゃない」
●●●●●●●●●
「調、今日は俺が作るから待ってろ」
「……武瑠先輩は昨日作った。今日はわたしが作る」
二人の間に張り詰めた空気が流れる。今までは起きなかったが、切っ掛けさえ有れば殴り合いになりそうな剣幕。
……しかし、その空気は二つの悲鳴にかき消された。
『『───いやぁぁぁぁぁッ!!?』』
「───ッ!? 今のって、響かッ!?」
「マリアのもあったッ……!」
二人は慌てて悲鳴が聞こえた台所へ向かう。
そこで待ち受けていたのは、
「ちょっと、マリーッ!? 何でお米を洗剤で洗っているのよッ!」
「だって、お米を洗うのでしょう?」
「そういう意味じゃないからッ!」
「ギャアァァァッ!? フライパンがぁぁぁッ!?」
「おい、バカッ! さっさと火を止めろッ!」
「消火器ッ! 消火器はどこッ!?」
「「……………………」」
阿鼻叫喚、地獄絵図、表現はいろいろあるかもしれないが、台所の現状は、二人を絶句させるには十分だった。
「ふぅ。やっと火が消せたぁ……よし、失敗しちゃったけど、次こs「「…………
「誰ッ!? 今はそれどこr───」
マリアが扉の方を向くと、そこには
「「───全員、ここから出ていけッ!!」」
数分後、四人を台所から文字通り叩き出した武瑠と調は残った食材をチェックしていた。
「野菜は……よし。簡単なサラダなら出来るな。あとは卵と肉はほとんどアウト。なに作ろうとしたんだよ」
「お米は全滅。洗剤まみれで食べれそうにない。パンは無事」
「……今度、あの四人に料理教えようかなぁ」
殆ど空になってしまった冷蔵庫を前に項垂れる武瑠。そんな彼に対して口を開いた。
「……武瑠先輩」
「ん~? どうしt「ごめんなさい」……急にどうした?」
「……意地を張りすぎた。わたしが武瑠先輩の言うことを聞いていれば、こんなことにはならなかった」
「……それを言うなら、俺もそうだよ。下らないプライドで調に酷いこと言った時もあったし」
「……なら、今回の事は綺麗さっぱり水に流しましょう」
「そうだな───さて。それじゃあ、ささっと作りますか。力を貸してくれるか、調?」
「……ノープロブレム」
二人はハイタッチし、残された食材から今出来る最高の朝食を考え、互いに意見を出した後、調理に取りかかる。三十分、大天空寺の食卓に『エッグベネディクト風サンドイッチ』が並び、その味に皆は大満足していた。
……一方の響たちは食材の大半をダメにした罰として台所の掃除、ならびに片付くまで朝食抜きとなった。
「お腹空いたよぉ~」
「口を動かす前に手を動かせ」
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