「私はライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。君たちが訪ねてきたケイネスの妹だ。よろしく、特異災害対策機動部二課の諸君……と、失礼。今は国連直轄の組織『S.O.N.G.』だったかな?」
いつの間にか武瑠の隣に座っていた金髪の女性……ライネスの妖しい笑みに武瑠、翼、クリス、未来の四人は警戒心を強める。
「あ、あの……なんで、わたしたちの事を知っているんですか?」
「知っていて当たり前さ。君たちは文字通り、世界を救った英雄。今、世界中で知らないものはほとんど居ないだろう。特に君は全世界に健康な裸体を中継したからね」
「ちょ───ッ!?」
「ブフゥッ!?」
「こ、小日向ッ!?」
「だ、大丈夫です。ちょっと食べ過ぎて鼻血が出ただけですから」
((嘘だな))
───しばらく御待ちください。
「───で? あんたは何の用であたしらに接触した?」
響たちは隣の机で休ませ、クリスがライネスに質問する。質問された彼女は優雅に紅茶を飲んでいた。
「おい。無視すんなよ」
「そう急かさないでくれよ。折角の紅茶が台無しになってしまうじゃないか」
(……この女性、つかみ所が無い。何者なんだ?)
「そう警戒しなくてもいいよ、風鳴 翼くん。私は君たちに害を与えるつもりはない。ただ、興味本意で近づいただけだよ。
何せ、あの世界の救世主が亡くなった兄を訪ねて来るんだ。その目的は何か、理由は何か……気になるとは思わないかい?」
そう問いかけてくるライネスだったが、その目は『目的を話せ。逃がしはしないぞ』と武瑠たちに訴えかけてくる。
どうするべきか……武瑠たちは悩んだ。
眼魂の事を伝えていいのか? 教えたとしても信じて貰えるだろうか。悩んだ末、武瑠は理由は言わず、目的だけを話すことにした。
「……俺たちはイスカンダルの聖遺物とイスカンダルに強い思いを持つ人を求めて、ケイネスさんを尋ねました。理由は言えません。でも、俺たちはそうする必要があるんです」
「そんな回答で私が納得すると思うかい?」
「思ってません。それでも、俺たちが言えるのはそれだけです」
少し目付きが険しくなったライネスを真っ直ぐな瞳で見つめ返す武瑠。数瞬の沈黙の末、先に折れたのはライネスだった。
「……分かったよ。君のその瞳に免じて聞かないであげよう。ただし、一つだけ条件がある」
「条件、ですか?」
「何も聞かないでいるんだ。それくらいの条件を呑んでくれてもいいんじゃないかい?」
キブ&テイクだよ……と答えるライネスだったが、ギブとテイクが釣り合ってないと思った武瑠たちは別の条件なら……と妥協案を出そうとするのだが、
「もし、私を同行させてくれるなら、
『───ッ!?』
(ま、まさか、イスカンダルに強い思いを抱いている人を知っているのか?)
(いや……こういう掴み所のない奴に限って、『そんなことは一度も言っていない』って、最後には裏切るんだ)
(どうする、天空寺───)
翼、クリスの視線が武瑠に向き、決断を委ねられた本人は────
「誘惑には勝てなかった……」
「「おいッ!」」
数十分後。武瑠たちはライネスに連れられ、『時計塔』と呼ばれる建物の廊下を歩いていた。
「うわぁ……スゴい建物ですね。なんというか、不思議な空気が漂っているといいますか」
「ここって学校なんですよね?」
「そうだとも。魔術部門の三大部門の一角『時計塔』。西暦以後の魔術師たちにとって中心とも言える場所さ。君たちの出身校はリディアン音楽院だったかな? あそこを歌専門の学校と言うのなら、ここは魔術専門の学校だな」
廊下を歩いていると出会う生徒らしき人物たち。彼らからチラチラと向けられる視線に、武瑠たちは居心地の悪さを感じた。
「なんか、注目されすぎじゃねぇか?」
「それは君たちが世界を救った英雄だからさ」
「……それ以外も有りそうですけど」
聞き耳を建てれば『なんでロードと……』など聞こえ、よく確認すれば向けられる視線の中には悪意が混じった物もあった。
「まあ、多少は許してくれ。私と行動していれば、特に攻撃されることもないだろう」
「攻撃されるんですかッ!?」
冗談だよ……とライネスが笑うが、とてもそうは思えない武瑠たちだった。
「……で、そろそろ教えてくれませんか? なんで、俺たちをここに連れてきたのか」
「言っただろ? 情報を提供すると。
ここに君たちの目的二つを同時にクリア出来る男がいる。その男の名前はウェイバー・ベルベット。君たちが探しているのは、私の元兄上だ」
「
「えっと……それってどういう関係?」
「おっと。まずはそこから説明しないとだね」
ウェイバー・ベルベット。
一介の魔術師で、現代魔術科の教師。二十数年前、とある事情でエルメロイ家の借金を肩代わりしていた彼は、同時にエルメロイ家が持つ『ロード』の座を維持していた。
「ロードって何ですか?」
「魔術協会を支配する最高位の魔術師の事だ。我々、エルメロイ派にとって、その地位は絶対。二十七年前にケイネスが死に、次期ロードの座を妥協案として私が受け継ぐことになったのだが、当時の私では若すぎてね。だから、彼にロードとなって貰っていたのさ」
だが、ライネスが成人した日。ウェイバーはハリウッド映画の製作費用並みにあった借金を返済し、『責任は果たした』と彼女にロードの座を譲った。
以後は時計塔にある『エルメロイ教室』の教師として日々奮闘しているのだとか。
「その時、今までの御礼として彼にイスカンダルのマントを渡したのさ。元兄上にとって、イスカンダルはかけがえのない存在だからね。
……と、ここが彼の部屋だ」
「ここが……」
「天空寺 武瑠。入る前に一つだけ忠告をしておく」
「ああ。恐らく、元兄上、ウェイバー・ベルベットは
───君の事が大っ嫌いだ」
すいません。
今回は短くなってしまいました。
バトルは次になる予定です。
それでは今回はここまで
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