11月6日。秋の空気が薄れ、冬本番が近づく時期の大天空寺のリビング。
「「う~ん…………」」
「おい。そろそろ鬱陶しくなって来たんだけど?」
「パパッと決めなさいよ? 簡単でいいんだよ、こういうのは」
「「簡単にしていい訳がないッ!」」
「「お、おう……」」
日常ではあまり見せない武瑠と響の気迫に、若干引いてしまうノッブとクリス。
「「プレゼントが準備出来てないッ……!」」
この二人は違った。
「なんでもっと早く準備して無かったんだ?」
「クリスちゃん……これには訳があるんだよ……」
「俺が死んだり、響が内緒で戦ったり、結構迷惑かけたからさ、今年は今まで異常に最高のプレゼントを送ろうって決めて……」
「───で、結局決まらず、今に至ると。お主ら、『自業自得』という言葉を知っておるか?」
「「是非も無い……」」
「あたしの時みたいに聞いてみたらどうだ?」
「いや。
「ノッブ。地下のプールに行こうぜ」
「待ってッ! 見捨てないでッ!?」
「だからって、ワシらにアドバイスを求めるのが間違っとるじゃろ。別の奴に聞け」
「……実は、クリスちゃんたちで四組目なんだ……」
「既に聞いてたのかよ……なら、アイツには聞いたか?」
「アイツ……?」
「食堂のオカンだよ」
「───というわけで」
「「助けて下さい、
「待ちたまえ。今、不名誉な呼び方をされなかったか?」
クリスに言われ、明日のパーティーで出す料理の仕込みをしていたエミヤに助けを求める二人。
「ふむ……なら、今回は今までと変わった趣旨で祝ってみてはどうかね?」
「「変わった趣旨?」」
「そうだな。たとえば───」
●●●●●●●●●
翌日。未来の誕生日パーティーが愈々始まろうとしていたとき、未来はとある一室で拘束……いや。お人形のような扱いを受けていた。
「(えっと……)」
「友里ちゃん。そこのルージュを取って」
「この色で大丈夫ですか?」
「アナスタシア様、この衣装にはこのような髪飾りはいかがでしょう? 未来さまにも大変お似合いかと」
「ええ。素晴らしいセンスね、頼光」
了子、頼光、友里、アナスタシアの手によってメイクアップされる未来。服装もアメジストのような紫のドレスとなり、頭部には淡い紫の華の髪飾りが付けられている。もはや、どこかの国のお姫様と言われても納得してしまいそうなくらいに綺麗にしてもらっている未来だったが、当の本人は困惑していた。
まあ、無理もない。パーティー開始間際に了子に呼ばれ、気づけばあっという間におめかしされたのだから。
「あの、了子さん。なんで、私……」
「それはすぐに分かるわ……と。はい。準備完了。それじゃあ、友里ちゃん。案内をお願いできるかしら?」
「はい。未来さん、こちらです」
友里に連れられ、部屋を後にした未来。
向かった先はいつも訓練に使っているシミュレーションルーム。
「それではどうぞ、ごゆっくり」
「───うそ……」
友里がシミュレーションルームの扉を開く。その先に広がっていた光景に、未来は思わず驚きの声をあげてしまった。
高級な赤いカーペット。その上のテーブルに並べられた御馳走の数々。壁面、そして天井は無数の星が輝いており、室内であることを忘れさせてくれる。
会場には、先程まで未来にメイクを施していた者達以外全員揃っており、皆がドレスや着物、燕尾服などの正装で、片手にグラスを持っていた。
目の前の光景に圧倒される未来。そんな彼女に歩み寄る二人の姿があった。
「お誕生日おめでとう、未来」
「俺たちの誕生日プレゼント、気に入ってくれたかな?」
「二人とも、その格好……」
白いワンピースドレスを身に纏った響と、ペリースを着けた黒いチュニックを着た武瑠に思わず見とれてしまう未来。
「今回は今までと違って、未来をお姫様にしてみました」
「それで、自分達も正装してみたってわけ。お気に召されましたか、レディ?」
「もう、武瑠ったら……でも、百点満点です。響はスッゴく綺麗だし、武瑠もスッゴくカッコいい」
「えへへ。そうかな? ありがとう、未来」
「だけど、この中で一番綺麗なのは……未来、お前だ」
「そんな御世辞、エミヤさん直伝?」
「本心を言ったまでさ……さあ、みんなが待ってる。俺たちにエスコートをさせて貰えないだろうか、お嬢様?」
「……断るわけ無いでしょ?」
差し出された二つの手を取る未来。
今宵は、素晴らしい誕生日となるだろう。それこそ、彼女の記憶に一生刻まれるような…………
だが、しかし……何事にもハプニングはつくもので……
数時間後。
「ねえぇ……二人ともぉ、聞いてるのぉ?」
「うん。聞いてるよ? だから、今日はもう……」
「やあぁッ! 二人にはまだぁ、言いたいことがたくさんあるんだもん……ごきゅっ……ごきゅっ……」
「あの、未来さん? それ、ワインだから。これ以上はもう止めよう?」
「ワインじゃないもんッ! ブドウジュースだもん……ぷふぇ~……」
「いや、ワインだからッ! 完全にお酒だからッ!」
「未成年は飲酒ダメなんだよッ!」
必死に止めようとする武瑠たちを無視して、グラスに入った赤ワイン色の液体を飲み干し、追加を注ぐ未来。液体に含まれる成分のせいか、未来の頬は赤く染まり、心なしか、目も据わっているように見える。
原因は響のドジ。ブドウジュースと一緒に並べられていた瓶を間違って注ぎ、それを未来に飲ませてしまったのだ。
それからはもう大変。酔った彼女は武瑠と響に長々と文句を言い続け、更にお酒を飲み続ける始末。
他の皆はもう遅いからと、酔った未来を二人に預けて帰っていった。よって、会場に残されたのは武瑠達三人だけ。
……さて。知っての通り、未来は二人の事が大好きである。そんな彼女の理性が酒によって崩壊した今、何も起きない筈がなく……
「……………………」
「あの、未来さん……? 私を見つめて、どう「響の唇って、美味しそうだよね?」……ふぇ? それってどういう───」
未来の言葉に思わず疑問符を浮かべる響だったが、それ以上は続かなかった。何故なら、物理的に防がれたからだ。
───
「────なッ!!?!?」
「……? …………────‡○◇♪▲●□■★♭△ッ!!?!?」
「んちゅ……ちゅ……れろ……むちゅ……────」
「……ッ! ……ッ! ……ッ。……────」
驚く響の口の中に容赦なく舌を捩じ込み、超が着くほど濃厚な口づけをする未来。はじめは抵抗する響だったが、どんどん弱くなっていき、最後には脱力していた。
「……ぷはぁ。ごちそうさまぁ」
「────」
「(ま、真っ白に燃え尽きていらっしゃるッ!? ヤバいッ! すぐに逃げ───)」
だが、武瑠が逃亡するよりも早く、未来が彼の体を押し倒した。
「えへへぇ……もう逃げられないよぉ……」
「み、未来さん? 止めよう? きっと後悔するからッ! 絶対にダメだからって、ちょっとッ!? 上着のボタンを外さないでッ!? ベルトを外すな───って、ズボンとパンツに手をかけるなぁぁぁぁぁぁッ!!?」
「いっただっきまぁ~すぅ♪」
「ちょ、いや……───」
「この後、何があったかは皆さんの想像力にお任せしよう。
ただ、言えることがあるとするのなら、翌日から暫く、未来は部屋から出ることは無く、出てきても武瑠くんや響くんの顔を見た瞬間、沖田くん以上のスピードで逃げ去る姿があったということだけだ。
武瑠くんと未来くんは仲良く滝行を行っていたよ。
いやぁ。しかし、グラスにこっそりとに理性崩壊の魔術を施した結果、あんなことに「あんなことにって、何ですか? おっちゃんさん?」───」
「………………」
「…………───さよならッ!」
「ニ ガ サ ナ イ」