窓から心地よい風が吹き込む。春の兆しが感じ始めた二月十六日。調はベッドの上で風を感じながら外を眺めていた。
コンコンッ…
「…どうぞ」
『──失礼します』
部屋の扉を開け、ナイチンゲールが入ってくる。
「調子はどうですか、調?」
「…問題ありません。
調は大きくなったお腹を優しく撫でる。
そう。彼女は母親となるのだ。相手は勿論、武瑠である。
なんやかんやあって生き返る事の出来た武瑠。そこに調が全力で猛アタックし、またなんやかんやあって結婚。さらに無事に子供を授かり、出産予定日が偶然にも今日…つまり、調の誕生日と同じ日なのである。
「今日が予定日です。もう少ししたら武瑠たちが面会に来ます。無理のなさらぬようにお願いします」
「はい。武瑠さん、大丈夫でしたか?」
「大丈夫…とは言いがたいですね。一番落ち着きがなく、それが妊娠中の母体に悪影響を与える可能性がありましたので」
「なるほど…」
調は頭の中であたふたと落ち着きのない武瑠を想像する。意外にも少し可愛いな…なんて事を考えているとまたもや扉をノックする音が。入室を許可すると武瑠と切歌御見舞いに来た。
「調、どうだ?」
「うん。のーふろぐれむ」
「そうか…いよいよ今日か…」
「武瑠、あくまでも予定日です。そこを忘れずに」
「分かっては居るんだけどさ、やっぱり怖いと言うか…いざ父親になるってなると…なあ?」
「お兄ちゃん、それを聞かれてもわからないデスよ」
「ふふ…響先輩たちは?」
「みんな予定があるって。多分、気を聞かせてくれたんじゃないかな?」
(切歌、実際の所は?)
(クリス先輩とセレナは嫉妬に狂いそうって言ってたデス)
(無理もないでしょう。このような甘い空間にいたら)
今、まさに幸せの絶頂期とも言える武瑠と調。
そんなときだった。突如調の顔が何かに耐えるかのように歪み始める。ナイチンゲールは勿論、武瑠と切歌もすぐに察した。陣痛が来たのだ。
「ナ、ナナナナナイチンゲールさんッ!!?」
「落ち着いてください。武瑠は調の側に。切歌はお湯の準備を」
「わ、分かったデスよッ!」
ナイチンゲールの指示の元、素早く行われる出産準備。
それから数分後。大天空寺の一室で元気な赤ん坊の産声が響き渡った。
「──…という夢を見ました」
「なるほど。あたしと同じか」
「はい。とっても幸せな夢でした。だけど…」
「だからこその喪失感…違うか?」
「…クリス先輩の言ってた事がよく分かります。と言うわけで、いってきます」
「おう。止めねぇよ。全部、あの胡散臭い魔術師の責任だ」
その日、大天空寺には赤ん坊の産声ではなく、丸ノコの回転音と男の叫び声が響き渡った。
「ちょっと待ってくれッ! 私はよかれと思ってだねッ!」
「ゆ る さ な い」