ありふれた職業で世界最強(女)と文字使い(ワードマスター)   作:アルテール

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こんにちは、アルテです。

今回はハジメちゃんの独自設定が含まれています、ご了承ください。
そして安定のなかなか話が進まない案件……



あ、そういえば最近、『黒子のバスケ』を見ているのですが、あの白熱した戦いを観るたびにこう思います。

『あれ?これ、遠藤がいたら最強じゃね?』と、ほら持ち前の影の薄さで小細工しなくても『消えるドライブ(バニシングドライブ)』できますし、シュート打った瞬間、落ち込んだりしていれば存在感が現れるので一瞬視線を奪われますので『幻影のシュート(ファントムシュート)』が行えます。

……まぁ、影が薄くてパスすらもらえないと思いますが。

『あり文字』が終わったら後日談で書いてみたいですね。



南雲ハジメという少女とは 下

「日色君!!?」

 

日色が檜山を殴り飛ばして数十秒後、どうやら騒ぎを聞きつけて駆けつけた香織達が現れた。

どうやら日色と檜山達の戦いは予想以上に騒ぎを大きくしてしまったようだ。

日色は来るのが遅いとでも言うように溜息を吐いて、左腕が白崎や八重樫に見えないように()()()()()駆け寄ってきた香織へと話しかける。

 

「白崎、とりあえず事情は後で話してやるからまずはハジメの怪我を治してくれ」

「う、うん。わかった!」

 

そう言って慌ててハジメの全身につけられた傷を見て「南雲ちゃん!」と慌てて治療しに行ってくれた。

ようやく一息つけるかと思った日色だが新たに緋色の前に現れた雫達に面倒臭そうに視線を向ける。

 

「それで?日色、どうしてこんなことをしたのか説明してもらえるのでしょうね?」

「……別に、俺はあの檜山達に『お礼』しただけだ」

 

その言葉に何を言っているとでも言うように会話に入ってきたのは龍太郎だった。

 

「『お礼』……だと?」

「あぁ、こいつらが南雲の特訓に()()()()()()()()()の『お礼』をくれてやっただけだ」

 

その淡々と告げられた言葉に食いついてきたのは光輝だった。

 

「お礼だと!?ふざけるな!これの何処がお礼だって言うんだ!!」

「全部だ、むしろ俺はこの程度で済んだことに感謝してほしいな。この程度、ハジメの傷に比べればマシな方だろう?」

「だとしてもこれはやり過ぎだろう!聞けば南雲は、訓練をサボって図書館で読書に耽ふけっていたそうじゃないか!それを知った檜山たちは、そういう南雲の不真面目さをどうにかしようとした「だとしても――」……ッ!!?」

 

光輝の言葉を遮るように日色は少しも光輝から視線を逸らさずこう言った。

 

「――男が4人寄ってたかってハジメが動けなくなるまで暴力を加えるのは間違っているだろうっ!お前は白崎やポニーを訓練という名目で動けなくなるまで暴力を振るうのか?」

「そ、それは……」

 

その言葉に光輝は答えることができない。なぜなら肯定すればそれは光輝の正義が間違っており、否定すれば結局は檜山達が悪いことになるからだ。

 

答えることができない光輝を見て日色はまるで興味を失ったように視線を外し、香織に治してもらっているハジメの元へと向かった。

 

「ハジメ、大丈夫か?」

「う、うん、白崎さんのお陰で大体は治ったよ。ありがとう、白崎さん」

「ううん、私は治療師だから。怪我を治すは、私の仕事だよ」

「あとごめん白崎さん、お願いなんだけど檜山達の傷も治してくれないかな?」

 

そう、ハジメが言った事で香織はあ!忘れてたとでも言うようにハッとした顔をして、急いで檜山達の傷を治しに行ったのだった。そんな香織を眺めたあと、日色へと視線を戻すと日色がこう言ってきた。

 

「いいのか?あいつらはお前を傷つけたんだぞ?」

「うん、僕は大丈夫だから。それよりも日色!左腕は大丈夫なの!?白崎さんに治してもらったほうが……」

「そうね、日色。あなた、左腕怪我しているでしょう?香織に治させてもらいなさい」

 

ハジメの言葉に同調して現れた雫の言葉に日色はチッと舌打ちをした。

 

「……気にするな。ちょっとした切り傷だ、放っておけば治るさ」

 

そう言って左腕を見せる日色、腕は袖に隠れて見ることはできないが袖は浅く裂かれ少し血がにじみ出ているだけで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(…………アレ?こんな浅い傷だったかな?)

 

日色が火球に当たったのを目撃したハジメはそのことに疑問を抱くが、もういいだろうと日色が隠してしまったのでわからなくなってしまった。

 

「俺に、白崎の治療はいらん。もういいだろう?俺は訓練施設に戻るぞ」

「ちょっと待ちなさい日色、忘れ物よ」

 

そう言って踵を返そうとする日色に雫が日色へと革製の本を投げた。日色は咄嗟に()()()()で受け取り、それが自分の日記だと知ると「なんでお前がこれを持っている?」というような視線で雫を睨みつける。

雫はやれやれといった感じに言葉を零す。……若干頰が赤く染まっているのはどうしてだろうか?

 

「あの時、あなたが落としていったのよ。これ、あなたの物でしょう?」

「まさか……見たのか?」

「そんなわけ無いでしょうが、それに()()に香織に治してもらわなくていいの?」

 

その言葉に日色はあぁ、と呟いた後、訓練場へと歩き出した。

 

 

「……ク……ソっ、流石に、もう限界……だな」

 

現在、日色は訓練場に――ではなく、訓練場の近くに設置されている井戸の元で顔を汗だくにしながらも座り込んでいた。

日色は、近くに置いてある桶に満タンの水を入れた後――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そして瞬間――辺りが鮮血に染まった。

 

 

緋色の左袖は所々焼け焦げ、真っ赤に染まっており、左腕は出血しておりドクドクと今も血を少しだが流している。

そして、その左腕に浮かび上がる『欺』の文字。

 

そう、日色は左腕の傷を文字魔法で掠り傷のように見せていたのだ。文字魔法の『欺』の効果は『書いた対象を見せたい物に見せる』というもの、つまり日色が受けた傷は予想以上に浅かったのではない、ただ『欺』で傷を偽り、日色はハジメ達と会話している間も奔る激痛を押し殺してハジメ達を欺いていたのだ。

そして現在、『欺』によって隠されていた傷が解放されたことで血が出血し、辺りを染めてしまった。

 

(とは言っても……察しがいいポニーにはある程度バレていただろうが)

 

しかし、雫もこれほどの傷とは思っていなかっただろう、彼女のことだからもしこれほどの傷だと思っていたのなら必ず香織に治療させようとしたのだから。

もし、あのままこの傷を隠さなければおそらく香織はわからないが、オカンな雫はきっと檜山達相手にキレるかもしれず、しかもメルド団長にも伝わり更に大事になっていたかもしれない。日色にとってそんな面倒事は全力で避けたいのだ。

 

(まぁいい、そんなことよりさっさと文字魔法で治さなければ)

 

日色はそう思って桶の中の水を使って左腕を洗い水を血で流していく。

 

「…………ッ!」

 

左腕に奔る激痛が日色を襲うが日色はそれを押し殺して決して悲鳴を上げないようにする。

どうにか痛みに悶えながらも水で傷口を洗った後、日色は再び文字魔法を使い、治すために人差し指を傷口に近寄せて――

 

「ひ……いろ……?どう……したの……それ?」

「……ッ!チッ、最悪だ」

 

――突如声のした方向を振り向くとそこには驚いた表情のハジメがいた。

 

「……何の用だ、ハジメ」

「……え?あ……ひ、日色が……訓練場にいないから……探しに……来たんだけど……でも…その、ち、血が……」

 

日色の左腕が血だらけな事によっぽど動揺しているのだろう、言葉が途切れとぎれで表情が徐々にクシャクシャになって泣きそうになっている。

 

それを見て日色は内心頭を抱える。

この傷がバレたくなかったからわざわざ隠していたのに訓練場の近くで治療しようとしたのが悪手となるとは。

ではなぜ日色が傷を隠していたのか?それは――

 

「もし……かして、その……傷は……檜山達と戦った時の……」

「……お前には関係ない」

「嘘だよ!」

 

その日色の言葉に一気に泣きそうになり涙が零れそうになるハジメ。

その姿を見て日色は内心悪態を吐く。

 

(……だからお前に知られたくなかったんだ、ハジメ)

 

――ハジメに知られたくなかったからである。

ハジメと知り合ってから日色はハジメの性格などある程度は理解している。昔からなのだがハジメは日色が絡むとなぜだかは日色は知らないが思考が時折自分のせいだと勝手に思って落ち込んでしまう癖があるのだ。

日色からすれば自分の為に行動した結果だというのにハジメが勝手に落ち込んでしまうのを避けるために今回このような行動をしたのだがどうやら無駄になったようだ。

 

「その傷は……僕のせいで……」

 

そう言いながら落ち込むハジメに日色はあぁ、クソッ!と頭を抱えた後、立ち上がってハジメの頭をデコピンを食らわせた。

ズドンという音が響き、落ち込んでいるハジメはデコピンを食らったことで「痛いッ!」と呻くことになった。

 

「勝手に落ち込むなバカが、これは俺が行動した結果だ」

「で、でも…っ」

「お前の意見は聞いてない。いいか、これはお前には関係ないことだ、勝手に自分のせいにして俺の目の前で泣くな、正直言って目障りだ」

 

その日色の言葉にようやくハジメは嗚咽を零しながらコクりと頷き、ヒックヒックと徐々に泣くのを止めてくれた。日色は「……漸く泣き止んだか」と呟いてハジメの頭をポンと右手を置き、ワシャワシャワシャと撫でる。

 

「えっ!?ちょ!日色!?」

「泣き止んだなら早く戻るぞ、メルド団長が確か俺達を呼んでいただろう?どっかの泣き虫のせいで遅れてしまったら困るからな」

 

その言葉に泣き虫ハジメはうぅ~とまた迷惑をかけたことに落ち込んでしまうもふと思考に日色の傷をそのままで大丈夫なのかという疑問が浮かび上がった。

 

「で、でも、日色。その傷は本当に大丈夫なの!?白崎さんに見せてもらった方が――」

「あぁ、大丈夫だ――と言ってもお前のことだから心配するんだろう?せっかくだ、ちょっと見せてやるよ」

 

そう言って日色は「見てろ」と言ってハジメに見えるように水で洗ったことである程度血は流されている傷だらけの左腕を掲げた後、右手の人差し指を近づけ、瞬間――

 

――日色の右手の人差し指が高速で動いた――と思ったら左腕に青い『治』という文字が浮かび上がると淡い青色の光となって左腕を包んでいき、そして光が消えると左腕の傷がほぼ全て治っていたのだ。

 

「えっ!?き、傷が…っ!」

「なっ?だから言っただろう?大丈夫だ、ってな」

 

そう言って日色はヒラヒラとまるで痛みなど元からないように左手首を動かす。檜山によって切り裂かれた切り傷は血が止まり、いつの間にか切り傷には瘡蓋が出来ており、火傷の痕や痣はまるで元から無かったように消えてしまっている。

その不可思議な現象にハジメは目を見開いて瞠目する。

 

「今のは……!?」

「あぁ、俺の魔法だ。詳しくは時間がないから話せないが俺の魔法は少し特殊でな、今までクラスメート達には隠していたんだ。すまんな」

「で、でも……ステータスプレートには書いてなかったよ?」

「映らないようにしたんだよ、わざわざ手の内を全て出すわけ無いだろ?ほら、さっさと戻るぞ、後でポニーとかに説教されるのは嫌だからな」

 

そう言って、日色は溜息を吐いた後スタスタと王城へハジメを差し置いて歩いていく。

取り残されたハジメは慌てて「ちょっ!ひ、日色、待ってよ!」と叫んで慌てて日色の後を追いかけていった。

 

慌てて追いかけてくるハジメを視界に入れながら日色は彼女にバレない様に歯をくいしばる。

 

(だからといって……痛みが引くわけではないけどな)

 

日色の左腕に奔る痛みは未だに和らいでなどいなかった。

 

 

その後、雫がメルド団長に事情を説明したらしく、日色は厳重注意を受けたものの特に咎められる事は無かった。

どうやら雫と龍太郎、そして香織が目覚めさせた檜山四人組に、何をしていたのかを尋もn……説得(笑)を行った末に『元々は檜山四人組が悪く日色は少しばかりやり過ぎではあったが、そこまで重症ではなかったため』らしい。

 

そして現在、訓練終わりにいつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだがメルド団長が野太い声で

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

と言われ、ざわざわと生徒達は喧騒に包まれながらも夕食の時間が終わり、自由時間になった頃、ハジメは薄暗い自分の部屋で一人ベットの上で体育座りになって蹲っていた。

 

思い出すのは今日のこと、自分のせいで傷ついてしまった日色のことである。

日色が檜山達に立ち向かったことで左腕が血まみれになるという重傷を負った。

 

『一体誰のせいで彼は傷ついたんだろうね?』

 

またあの声が聞こえた。

不気味にハジメを嘲笑うような笑いを含めながら謎の声がハジメへと語りかける。

 

『少し考えたらこうなると君はわかってただろう?彼が、日色が決して君に何かあったら見て見ぬ振りをするわけがないって』

「………………」

 

ハジメは答えない、一層顔をうずめ身体を震わせるだけだ。

 

『ねぇ、答えてよ【南雲ハジメ】、いったい誰が日色が傷ついた原因になったんだい?』

 

そんな問いにハジメはハハッと小さく自分を自虐する様に笑う。

そんなことは言われなくてもわかっている。

あの時、日色が檜山達に立ち向かう原因になったのも。

あの時、日色が左腕を斬られる原因になったのも。

 

「……全部、僕のせいだ」

 

ハジメは目尻に涙を浮かべながら小さく呟く。

日色は言った、お前には関係がないと、お前のせいではないと。

 

 

 

 

 

本当に?

 

 

 

 

 

そんなわけないッ!!!

自分が檜山達に反抗して、逃げていれば日色が立ち向かうことはなかった。

自分が日色を止めなければ、日色が左腕を斬られる事はなかった。

彼に傷をつけたのはまぎれもない――

 

『そう、君のせいだよ。ハジメ』

 

薄暗い部屋の中、窓から入ってくる月明かりの光がハジメの長い影を作り出している。

しかしどうしてだろうかハジメの足元から伸びた影がハジメを見つめ、嘲笑っているようにハジメには見えてしまう。

 

『最初っからそうだ、君は日色の足を引っ張っているだけでなんの役にも立っていない』

「違うッ!僕は――『だったら――』」

 

謎の声と共に影が揺らめき、ハジメを嘲笑う。

ハジメは必死に叫び返そうとするがそれを遮るかのように声が響く。

 

『――どうしてあの時、君は抵抗しなかったの?』

「……え?」

『あの檜山達に虐げられた時、どうして君はなんの抵抗をせず受け入れていたの?』

「そ、れ……は……」

 

思考が空白に染まった。

ハジメは聞こえてくる声に慌てて言い返そうとするも零れる声は小さくまるで何かに言い訳するように言葉が甲高くなっていた。

 

「そ、それは……もし傷つけたら日色が悲しむから――」

『日色が悲しむ?じゃあどうして日色が檜山達に立ち向かったの?いや、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

えっ?と自分の口から無意識に声が出たのを感じた。

影は笑う、まるでハジメが必死に隠そうとしている物を徐々に暴こうとしているかのように。

 

『ハハッ!正直に言いなよ【南雲ハジメ】。ボクは知ってる、ボクだけは君の歪みに気づいてる。君は――』

 

やめろ、聞くな。それを聞いてはいけない。何処かでハジメはそう感じていた。

しかし、自分の耳に囁いてくる謎の声にハジメは声をかけることができなかった。

 

 

『君は――ただ、日色に嫌われたくなかっただけだろう?』

 

 

呼吸が止まった。

ハジメは目を見開き瞠目する。いくら口を開いても酸素を吸えず、謎の声の意味を知ることができない。

 

『もし、檜山達に抵抗をして檜山達を傷つけたら日色は自分から距離を離すかもしれない。君はそう思ったから抵抗しなかったんでしょう?虐められる悲劇のヒロインであろうとしたんでしょう?』

「ち、ちが――」

 

否定の言葉を言おうと思っても口からは言葉にできず小さく空気が溢れるだけだ。

 

『違わないよ、君は自分のことしか考えてない。一人だったから、孤独だったから、もう一人になりたくなかっただけだ』

「………ぁ、ぅ……」

 

声は出ない、言葉は出ない。

いくらハジメが否定しようと思っても何処かではハジメは肯定してしまうのだ。

 

『君はただ、寄生虫の様に日色に甘えているだけなんだよ』

「……ぼ、くは」

 

ハジメはもはや病人の様に声を出すことすらできなかった。全身が汗だくになり全身がガチガチと無意識に震えてしまっている。

そんなハジメに影は笑ってこう言った。

 

『だからさぁ、()()()()

 

その言葉にハジメはピクッと反応すると共に今まで震えていた震えが一切止まった。ハジメはゆっくりと顔を上げ、自分の影へと目を向ける。

 

「…………………」

『代わってよ、代わりにボクが上手くやってあげる。檜山も、白崎も八重樫も天之川も、みんなみんな()()壊して、日色と共に地球に帰るんだ。だから――』

 

影が一際大きく揺らぐ、まるで影が宿主を引きずり落とし()()()()()()とする様に。

そして――

 

「…うるさい」

 

――瞬間、ハジメの一声であれほど揺らいでいた影がまるで金縛りにあった様に停止した。

あれほどハジメに囁いていた謎の声が静まり返り、微かに驚いたような小さな声が聞こえてきた。

 

『…………まったく、君はいつになったら代わってくれるの?』

「……………………」

 

ハジメは答えない。

何も答えないハジメに謎の声は溜息を吐き、『……まぁいいや』と呟いた。

 

『代わりたくなったらいつでも呼んでよ、ボクはいつまでも待ってるから』

 

謎の声はそう呆れながら言うと共に徐々に声は遠ざかって、消えていった。

月明かりが照らす薄暗い部屋の中、一人になったハジメは倒れこむようにベットに横になりながら小さく泣いた。

 

「……僕の……ぅう…せいで………ごめん………なさいっ……!…グスッ……ひ、いろ………っ!」

 

誰も聞こえないように、誰にもバレないように、一人静かにハジメは泣き続ける。

何度も、何度も……

 

 

 

正史の『南雲ハジメ』とこの【南雲ハジメ】という名の少女には幾つかの違いがある。

ひとつは性別。

そしてもう一つはこの世界のハジメは幼い頃からイジメに遭い、孤独だったということ。

 

幼い頃から【南雲ハジメ】という少女は多くの虐めにあっていた。

 

最初は自分の趣味を馬鹿にされ、次に物を隠された。そして虐めはだんだんエスカレートし殴られることもあった。本来なら虐められた者は先生に報告し助けを求めるだろう、しかし、【南雲ハジメ】という少女はそれをしなかった。

その少女は幼い頃から普通の子供とは少々ズレており人一倍、精神が成熟していたのだ。

 

『親に迷惑をかけてはいけない』

『誰かを傷つけてはいけない』

 

両親に言われるそんなありふれた言いつけをズレている少女はきちんと冷静にその意味を考え、律儀に守っていた、()()()()()()()

 

親に迷惑をかけないように、虐めにあってもそれを言わず、決して虐めのことを悟られないようにいじめられた証拠すら見つからないようにした。

誰を傷つけてはいけないから、自分の表情で誰かを傷つけないように自分の感情を隠し、どんな時も曖昧に笑うことにした。

 

誰にも助けを求めずに、どれだけ馬鹿にされても、どれだけ虐められても、どれだけ虐待を受けていたとしても、少女はいつもの様に笑ってありふれた少女の様に生きていた。

 

しかし、どれだけ隠しても所詮子供である、いつしか両親に虐めのことがバレてしまった。虐めの暴力により身体に残った痣がついに見つかってしまったのだ。

そのことに両親は泣きながら少女を叱った、どうして教えてくれなかったの、と少女は言った、お母さんとお父さんに迷惑をかけたくなかったから、とそういうと両親は泣きながら少女を抱きしめた。ごめんなさい、ごめんなさいと言いながら。

 

それを聞いては少女はこう思った。

 

『あぁ、迷惑をかけてしまった』

 

それが少女の心が壊れた原因となった。

我慢した、どれだけ辛くとも少女は両親に迷惑をかけたくなかったから。幾たびも虐げられ続けた少女の心はもはや擦り果て、『迷惑をかけない』という思いだけが少女の支えになっていたのだ。

だからこそ少女は壊れた。支えが無くなってしまったことで。

 

では、幼い頃から誰にも助けられず虐められ遂に耐えられず壊れてしまった少女は一体どうなってしまったのだろうか?

 

答えは『解離』だった。

砕かれ、壊れた少女の心は人間の防衛本能としてその時の憎悪の感情とトラウマになった記憶を切り離し、少女のその時の記憶を曖昧にしたのだ。

 

ではここで疑問が生まれる。

その時の感情と記憶はどうなったのか?

 

答えは簡単。

裏でその記憶と感情は成長し、一つの人格として存在しているのだ。

時にもう一つの人格へと囁きかける様に、時に身体の所有権を奪おうとする様に。

 

それが正史の『南雲ハジメ』との決定的な違いだった。

この南雲ハジメという少女には障害を持っている。

 

 

障害の名を【Dissociative Identity Disorder】通称DID

日本語で【解離性同一性障害】

 

 

つまり、南雲ハジメという少女は二つの人格を持った多重人格者なのだ。

 




そんなわけで『過去に壮絶な虐めを食らったなら二重人格設定いけんじゃね?』等というアホみたいな思考が脳裏によぎったことでハジメちゃんが痛々しい二重人格になってしまいました!
ごめんなさいッ!!(土下座)

ちなみにハジメちゃん(裏)はイジメによる憎悪や絶望の感情でできているため結構やばいです。もし表に出てきたなら勇者大好きメンヘラ女よりもやばいことに……

まぁ、そんなことになったら原作自体が破綻するためそう簡単には出てきませんけどね、現状ではハジメちゃん(表)が主導権を持っていますからそんな『お前は出てくるな!』みたいなことは起こりません。
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