ありふれた職業で世界最強(女)と文字使い(ワードマスター)   作:アルテール

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お久しぶりです。更新が遅れて申し訳ございません。

今回は難産でかつてないほど駄目文になってしまいましたご了承ください。
なんとまさかの1万三千文字突破、だというように未だに迷宮に入っていないというこの現状。
どうしてこうなった(白目)


月下での決意

【オルクス大迷宮】

 

それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。

 

にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気があるのは、階層により魔物の強さを測りやすいからということである。階層が深くなるに連れて出現する魔物は強くなっていくが、逆に言うと浅くなるほど弱いということなのだ。故に魔物の強さを段階付けし易いという点を活かして、新兵の訓練などに使われており、しかも出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているためだ。

 

魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。

例えるならば歯車の動きを良くする潤滑油のような役割を持っているのだ。

その他にも、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われており、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。

 

次の日、そんな迷宮に実践訓練を行うために勇者一行は(若干二名程、気分が沈んでいた者がいたが)メルド団長と複数人の騎士とともに冒険者たちのための宿場街【ホルアド】に到着していた。

 

昨日、メルド団長の通達を聞いた日色は即座にメルド団長に直談判し非戦闘職業である自分やハジメを置いていくように頼んだのだがメルド団長はついぞ首を縦に振らず上層部から生徒たちは全員訓練に参加するように、と言われているようで、どうしようもないらしい。

「大丈夫だ、いざとなれば俺が絶対お前らを守ってやるから!」などと男臭く笑って言ったのだが原作を知っている日色からすれば軽く死刑宣告である。ベヒモスが出てくるんだよクソッタレがッ!などと内心毒吐きながら、恐怖で寝れなかったため顔色が悪くなっている原因となっているのだ。ちなみにハジメは言わずもがなである。

 

そんなわけで冒険者たちのための宿場街【ホルアド】に到着し、まずは実戦の空気に慣れろ、ということで迷宮探索は明日になり、王国直営の宿屋に泊まることになったのである。

 

最低二人で一部屋使われるために、日色ともう一人のペアになるのだがまさかの相部屋が南雲ハジメだとは日色にとって予想外だった。男女で同じ部屋なのは問題があるのでは……と、思われたが、誰も何も言わなかったのでなし崩しである。……まぁ、若干二名ほど二人を目の笑っていない笑顔で日色とハジメを見つめていたのだが無視である。

 

そんなわけで若干緊張しながら日色と共に宿屋の部屋に入ったハジメだが、久しぶりに見る普通の部屋につい、ベッドにダイブして一息吐いてしまう。

そんなハジメに小さく苦笑しながら日色は上着を脱いで近くの木製の椅子に掛けた後、自分の鞄から『地球送還魔法考察目録』と書かれている本を取り出し、自分のベットへと座り込んだ。

そうして日色が本を見ている間にうへへへとベットのフカフカさを堪能した後ふと気づいたように「……そういえば」と日色へと話しかけた。

 

「――ん?どうした?」

「そういえば日色、昨日使ってた魔法って何のなの?」

 

そのハジメの言葉に日色は「――あぁ、アレか」と呟いて手に持っていた本を閉じた。

 

「アレは俺の固有魔法、『文字魔法』だ」

「文字……魔法?」

 

日色の言葉に復唱するように疑問符を浮かべながら呟いたハジメに日色は「…あぁ」と頷く。

そして日色は右手をあげ人差し指を伸ばした後、ベットの布団へとゆっくりと文字を書いていく。

 

「この魔法の能力は簡潔に言えば『書いた文字の効果を実際に起こす』魔法だ……こんなふうにな」

「え?――うわっ!?」

 

日色はそう言ってハジメに見えるように布団に『浮』の文字を書き、布団をハジメへと放り投げると次の瞬間――布団がまるで空を飛ぶように布団が空中を浮いた。

その摩訶不思議な現象にハジメは驚きの声を上げてしまう。

 

そんな驚いたハジメを見て微かに笑う日色にハジメは羞恥を覚えるが、慌てて思考を戻し日色の魔法の効果に一つの疑問を零す。

 

「じゃ、じゃあ……それを使ったら地球に戻れたりはできるの?」

「……いや、文字魔法は書いた文字の効果を起こすことができるが今の俺には文字数が一文字しか書けないんだ、成長したらもっと書けるかもしれないけどな」

「それでも十分チートだと思うんだけど……」

 

そう言って未だに空中に浮き上がっている布団を自分のベットに戻しながら悔しがる日色にハジメは小さく溜息を吐く。確かにそんなチートな魔法を持っていれば黙っているかもしれないだろう、おそらくだが日色のステータスプレートもそれで隠蔽していたのかもしれない。

 

「……とは言っても魔力消費が激しすぎて一日3、4回しか使えないし、ハジメの錬成と一緒で書くためには一度対象に直接触れなきゃいけないからな、役立たずなのは変わりない。残念ながらそこまでチートというわけじゃないんだよ」

「へ、へぇ……」

 

難儀なものだと溜息を吐き、再び手に持った本を読み始める日色にハジメはハハハと曖昧に笑った後、何も喋らなくなった。

少しの静寂の後、唐突にハジメはポツリと呟いた。

 

「……ねぇ、日色。日色は……怖くないの?」

「……何がだ?」

 

ハジメへと視線を向けず、パラリと本を捲る日色。

 

「明日の実践訓練……日色は怖くないの?」

 

そのハジメも言葉に本を捲る日色の手が止まった。ちらりと本から目線を変えハジメを見つめ、「ハジメはどうなんだ?」と呟いた。

 

「……怖いよ。戦うのは……やっぱり怖い。戦わないと帰れないのはわかるけど……やっぱり……ッ、怖いよッ……」

 

ハジメはベットの上で布団を抱きしめて目を瞑り震えながら声を零す。

きっとハジメは不安なのだろう、いや、それも当たり前か、突如日常が壊れ、命懸けの戦いに巻き込まれるのだ不安にならない訳が無い。

例え正史では将来『魔王』と呼ばれるほどの力を持ったとしても、今はただの『南雲ハジメ』という少女なのだから。

日色の返答はない、落胆されたのだろうか?

 

そんなことをハジメが微かに思った瞬間――

 

――ドサッとハジメと背中合わせに日色が座ってきた。

 

「――えっ?ちょっ!日――「安心しろ――」……え?」

 

突如ハジメに肌が触れるほど近づいてきた日色にハジメは驚愕の声が出るがハジメの声に被さるように呟いた日色の声に言葉が詰まってしまう。

 

 

 

「――俺だって怖い、戦うのはな」

 

 

ハジメの震えが背中越しから伝わる日色の体温の暖かさで止まった。

ハジメは暖かくそして頼りがいがあるその背中に無意識に寄りかかってしまいそうになる。

そんなハジメに日色は「だから――」と告げる。

 

 

「――今だけは隣にいてやるよ」

 

 

だからもう怯えなくていいんだ、ハジメ。

 

そう、ハジメは言われたような気がした。

その言葉を言うと共に日色は再び無言になり本を捲る音が聞こえる。ハジメは小さく「……そっか」と呟き、日色へと重心を預け、もたれかかる。

 

(……日色の身体……あったかいなぁ……)

 

小さな部屋の中で、小窓から差し込む月明かりが、寝台で背中を合わせる二人を照らし出す。まるでそれは、背中を合わせた少年少女の一つの物語の始まりだとでも言うように。

 

背中越しに日色から感じる体温にハジメは安心感と父性を感じていると徐々に眠気が襲ってきた。

ゆっくり、ゆっくりと目蓋が落ちていき、意識が闇へと落ちていく。

 

そして遂に眠気に負け、深い眠りへとハジメが着く直前――

 

――コンコンとノックの音が響き渡った。

 

「日色君、起きてる?白崎です。ちょっと、いいかな?」

「ちょっと、話があるの。開けてくれないかしら」

 

そんな彼女達の声にハジメの眠気が一瞬で覚ざめ、冷や汗がボタボタと背中から流れて出る。

え?いやいや、待って、ちょっと待って欲しい。こんな状況で白崎さんや八重樫さんに見られたらどうなるのだろうか?

月明かりの中、男女二人が狭い個室で距離を近づけ、背中合わせ。

 

……考えなくても修羅場になることが確定するだろう。

 

「あぁ、入ってきていいぞ」

「ちょっ、日色!?」

 

そんなハジメの危機感を知らずに部屋に招き入れようとする日色にハジメは慌てて日色の口を黙らせるために日色の方向へと立ち上がりながら身体を動かして――

 

ズリッ

 

「ゑ?」

「ん?――うぉっ!!?」

 

――ベットのシーツに足を滑らしてしまいハジメは日色の方へとスッテンコロリンと倒れてしまった。

もちろんそれに驚いたのは日色だ、突如転んで此方へと倒れてきたハジメに目を剥いて反応が遅れてしまう。

 

結果どうなったか?それは突如日色へと倒れこんできたハジメを成す術も無く押し倒されたのだ。

そう、それは第三者が見ればハジメが日色を押し倒したような体勢に。

 

「え?ちょっ、日色君?どうしたの!?」

「あ、ちょっ!香織っ!?」

 

そんな日色の驚いた声に反応したのはドア越しにいる香織である。慌てて扉を開き、部屋の中にいる日色達の光景を視認する、してしまう。

そして、そこから先はお察しである。

 

「……ふ、ふふふふふふ」

「もうっ!お邪魔しま……って! な、なななななな何をやってるの、二人とも!」

「ちょっ!白崎さん!八重樫さん!違うんだ、これはっ!」

「フフ、何が違うのかな……?南雲ちゃん?ねぇ、日色君にイッタイナニヲヤッテイルノ?」

「ハジメがいきなり襲いかかってきたな」

「ちょっ!日色!誤解を招く言い方しないで!白崎さんの目がさっきから一切笑ってないんだけど!!?」

「……ッ!? と、とにかくすぐに離れなさい二人ともぉ! 不純異性交遊なんてダメよ! 駄目なんだからね!?」

「……フフッ、フフフフフフフフフフフフッ♪」

「すぐに止めます!止めますから白崎さんを止めてくださいっ!さっきから白崎さんが笑いながら椅子を振りおろそうと掲げているのが怖いんですけどっ!!?」

 

雫が顔色を真っ赤に染め、恥ずかしそうに顔を両手で隠し(ただし指の間からバッチリと見ている)香織は瞳に光が無いレイプ目になって寒気がするような笑い声を零し、確実に対象を撲殺することに適した手頃な椅子を掲げている。そんな彼女たちに弁明をするかのように日色の腹の上でハジメは両手で必死にそんなことをしようとしたんじゃないんですっ!と横に振り続けている。

そんなカオスな状況の中で日色は小さく呟く。

 

「で、ポニーと白崎は何の用だ?」

「今、こんな状況でそれを聞くッ!?」

 

そんなマイペースな日色の言葉にハジメの悲鳴のようなツッコミが突き刺さった。

 

 

「で、一体何の用だ?夜這いか?だったらあのテンプレ勇者に構ってもらえ」

「殴るわよ?」

 

カオスな状況から数分後、事態が収束した後、取りあえず誤解は解けたため日色は白崎達が訪問した理由を聞くために取りあえず紅茶モドキを四つ入れ、トレイに置いて持ってきた。

雫と香織を日色のベットに座らせた日色は、紅茶モドキを全員に手渡した。香織やハジメもありがとうと言いながら紅茶モドキの入っているコップを貰った。

 

途中日色のジョーク(?)に雫は静かに拳を構え、香織は顔を真っ赤にし「よ、夜這い?ち、ちちちちちちちちち違ッ!」と言っていたのはご愛嬌。

 

そんな月明かりの中始まった四人だけのありふれたお茶会の中でハジメは、なんでこうなったんだろうと若干現実逃避しながら紅茶モドキを一口。

水出しの紅茶モドキのためお世辞にも美味しいとは言えないが身体が温まり心は安らぐだろう。

 

茶菓子も無くキレイな部屋でも無いため決して御伽噺のお茶会とは言えないがそれでも月明かりの中ネグリジュの姿にカーディガンを羽織った香織と似たような服装をした雫は並大抵の男子が見たら天使と勘違いされ、つい赤面してしまう程のものだろう。まぁ、案の定日色は一切顔色を変えていないが。

 

「それで、何の用だ?」

「えっと、私は別に大したことじゃないんだけどさ、この世界に来てから日色君と二人で話すことなんてなかったし、なんか寂しかったから……雫ちゃんが日色に用があるっていうから付き添いに……」

「ふーん、といっても何か話すことなんてあるのか?」

「何言ってんの、ステータスのこととかこの世界に来てから何をしてたからとかあるでしょう?」

「割と頑張った」

「「適当!?」」

 

会話に入ってきた雫の言葉に怠けたように帰ってきた適当な返答に香織とハジメがツッコミを入れる。

日色はそんな彼女たちの言葉にめんどくさそうに目を細め、「じゃあ、質問しろよ。適当に答えてやる」と呟き、ハジメが内心で結局適当なの!?と驚かせたりした。

 

そんなわけで始まった会話は基本的に香織が話し、日色が返して、そこにハジメ達が混ざるという形式だったが初めての異世界生活にどれだけ困惑したかや魔法という新しいものにちょっとワクワクしたことなど、言葉は普通だが所々の言葉に香織が不安が募らせていることがハジメにもよくわかった。

 

空になったカップをカチャリと戻して、目の前の存在に不安そうな表情を隠しもせずに顔をうつむかせ気味に、香織は思っていることを言葉に変え吐露する。

 

「どうしてこうなっちゃったのかな……」

「さぁな、日頃の行いが悪かったかそれとも単純に運がなかったか。まぁ、神なんて存在がいるならば一発殴ってやりたいところだろうな」

「ハハ、日色らしいね」

 

そんな日色の答えにハジメは小さく苦笑する、他の香織達もそんな日色の答えに勇気づけられているようだ。

その会話を気にしばらくの沈黙が訪れたが次に日色が雫を見ながら「……で、ポニーは何の用だ?」と呟いた。

それに雫は「いい加減雫と呼びなさいよ」と毒づきながら、「まぁいいわ……で、日色」と呟いた。

 

「なんだ?」

「あなたが私と訓練した時に言った言葉の意味ってどういうことよ」

 

その雫の言葉にえっ?と反応したのはハジメと香織である。

 

「ちょっ!日色!?八重樫さんとも訓練してたの!?」

「そんな!羨ま……言ってくれたら私も一緒に手伝ったのに!」

 

慌てて日色へと詰め寄るハジメ達に何慌ててんだお前らとでも言うように「ハァ?」と疑問符を浮かべた。

というか香織、お前今途中まで何を言おうとした。

 

「別に訓練ってほどじゃない、そこのポニーに軽く誘われたから少しだけ付き合っただけだ」

 

軽く脅迫じみた誘いだがな、という言葉は日色は飲み込んでおく。ここで下手なことを言って再び雫と立ち会うのは遠慮願いたいのだ。……香織が恨めしそうに雫を見ているのはどうしてだろうか?

 

「……話を戻すわよ、それで日色。あなたが言っていた『こんな役立たずが仲間を見捨てて一人勝手に王城から逃げ出したらクラスメイト達はどう思うんだろうな……?』、って言葉の意味、説明してもらえるかしら?」

「ひ、日色君、そんなこと言っていたの?」

 

身を乗り出すように聞いてきた香織に日色はうわーとでも言うように頭を抱え、どうして過去の自分はそんなことを言ったのか内心頭を抱えた。

 

「……説明するのが面倒臭いから説明しなくていい――「だめよ」……マジか」

 

言葉が言い終わる前に雫に拒否された日色はめんどくさいなとでも言うように溜息を吐いた後、意を決したように「あー、そうだな」と言葉を零し――

 

 

 

「――俺は、あと数日たったら王城を旅立つから」

 

 

――と、なんともないように衝撃の言葉を呟いたのだった。

 

 

「「「………………………………は?」」」

 

三人の思考が停止した。

素っ頓狂な疑問の声が無意識に零れてしまい、日色の言った言葉の意味を理解することができない。

だというのに日色は何故ハジメ達が疑問符を浮かべているかがわからないとでも言うように首を傾けている。

数秒後、いち早く再起動した雫が「えーと、ちょっと待ってね」と呟きながら少しの間眉間をほぐしながら日色へと話しかける。

 

「えーと、旅立つ?」

「あぁ」

「誰が?」

「俺が」

「どこを?」

「王城を」

「いつ?」

「明確には決まってがないが五日以内には……もういいだろう?明日は早いんだ、もう寝させて――」

「いい訳がないでしょうが!!」

 

ダルそうに溜息を吐く日色に雫が叫び日色の肩を掴んでガクンガクンと揺さぶる。

そんな雫に日色は内心『解せぬ』と思いながらも「じゃあ、何が悪いんだよ」と呟くと、その言葉に雫はブチリッと青筋が浮かび上がった。

 

「全部よ!ぜ、ん、ぶ!!どうしてそんな重要なことを言わないのよ!あぁ、もう!昔の頃と一切変わってないわね!!日色ッ!そこに正座しなさいっ!」

「いや――「い、い、か、ら、言、う、こ、と、を、聞、き、な、さ、いッ!!!」……わかった」

 

雫ちゃん、マジ怒である。

あまりの怒気により、あの日色もおとなしく正座し、ハジメと香織はとばっちりを受けないように雫から怯えるように距離を離すしかない。

まさか雫がこれほど怒るとは思ってもいなかったのだろう、香織は「こんな雫ちゃん、初めて見た……」と小さく驚いたように呟いている。

ガミガミガミ!と日色へと説教している姿はもはや角を生やし雷が落ちたオカンにしか見えない、そんな雫へとハジメは日色に助け舟を出すために雫へと話しかけるが――

 

「貴方っていつもそうよねッ!なんでそう大事なことをもう手遅れな時に言うのよ!!日色には圧倒的に報・連・相が足りてないのよッ!!報告連絡相談がっ!!!」

「あ、あの~、や、八重樫さん?そこまでにしておいたほうが……「あぁッ!?」……ヒィ!ご、ごめんなさい!」

 

――残念、その助け舟はオカン雫の睨みによってあっという間に撃沈してしまった。

しかし、一応効果はあったのだろう、雫は一度深く息を吐いたあと冷静さを取り戻し、睨むような視線を日色へと向けた。

 

「……それで?貴方が出て行く理由は?まさか無いなんてないでしょうね?」

「そ、そうだよ!日色君はこの世界の人たちを助けようとは思わないの!?」

 

雫の言葉に続くように日色へと言葉を投げかける香織に日色はハァと溜息をついて「なぁ、白崎――」と言葉を返した。

 

 

「救うって誰を救うんだ?」

 

 

「…………え?」

 

そんな、なんともないように疑問を香織に投げかけた日色に、香織は無意識に疑問の声を零してしまう。慌てて口を開き「そ、それは勿論――」と声を出そうとするが再び疑問を零す日色の言葉に遮られた。

 

「魔人族だって人の姿をしているんだぞ?人族を助けたいのなら魔人族を殺す――要は人殺しを強制的にやらされそうになってんだぞ俺達は、そこんとこちゃんと理解しているのか?」

 

そのような冷めきった瞳で香織を見つめる日色に香織はゴクリと無意識に喉を鳴らしてしまう。わかっていたはずだ、これから自分達は殺し合いをするのだと。香織はちゃんと理解している、だがだからこそ思ってしまうのだ。自分達は勇者だから大丈夫だろうと、相手は悪なのだから気にする必要は無く、自分達は正義だから必ず勝てるのだ、と。

異世界召喚という余りにも現実離れした現象にクラスメート達には現実感というものが薄くなってしまっているのだ。

 

「でも、魔人族を倒さないと地球に戻ることは出来ないのよ?仕方ないじゃない」

 

言葉に詰まった香織をフォローする様に会話に入ってきた雫の言葉に日色は少し眉を顰め、そして雫の言葉に呆れたように言葉を吐き出した。

 

「根拠は?」

「……え?」

「だから根拠だよ根拠。どうして地球に戻れると思ったんだ?あのイシュタルのジジィ共がもしかしたら魔人族を倒せばなんとかの神が元の世界に戻してくれる『かも』しれないと言っただけだろうが。証拠は?根拠は?実際に俺達は元の地球に送還されたのを見たのか?実際に神様に会ったのか?いや、そもそも神なんているのか?この異世界に召喚されたのが何兆分の一の確率で俺達の教室で起きた『現象』で、あのジジィ共がその『現象』を神だと思っているだけかも知れないのに?ちょっと考えただけでこれだけの疑問が出てきたんだぞ、なぜお前ら、テンプレ勇者達は疑問に思わない?これだったら王立図書館で情報を集めていたハジメの方が何倍もマシだ。だというのにあのテンプレ勇者め、何が訓練をサボっているだよ…脳筋か?脳筋なのか?どこの誰が喜んで殺しの技術を学ばなきゃ行けないんだよ……」

「日色、だんだん只の愚痴になってきているよ」

 

徐々にただの愚痴になり謎の苦労人オーラを放出させてきた日色にハジメはブレーキをかける。しかし、日色を落ち着かせながらもハジメは内心日色の言葉をその通りだ、と肯定していた。異世界に飛ばされ、いきなり殺し合いをさせられるのは冷静に考えればおかしいのだ。

 

貴方は勇者です、貴方は強力な力を持っています、だから私達の代わりに私達の敵を全滅させてくださいと言われているようなものだ、それにハイと躊躇なく答えるものがいたとすればそれは文字どうり命を捧げた軍人か、ただのサイコパスである。ましてやありふれた高校生である自分達がそう簡単に命を奪うことなどできるわけもない。……まぁ、日色がこれほどまで考えていたのは予想外だったが。

 

ハジメはちらりと日色から視線を外し香織達を見ると、香織は悲痛そうな表情で両手を胸で握り、雫は目を伏せ、自分の認識が甘い事を理解したのか、ベットの上に置かれた手を強く握っている。

そんな彼女達を差し置いて日色はフゥと一度息を吐いた後、再び口を開いた。

 

「……それに、ハジメも気づいているだろ?この国の歪さに」

「……うん、異常な程の神への信仰だよね」

 

日色はそのハジメの言葉にその通りだ、とでもいうようにコクリと頷いた。

 

「そうだ、この国の信仰の深さ、それが余りにも深すぎる。正直言って狂気じみているレベルでな。冷静に考えてみろ、人間族の存続の危機にいるかもわからない神様が選んだどこの馬の骨も知らない少年少女を勇者として一切疑わず尊敬の気持ち悪い視線を向けているんだぞ。普通におかしいだろうが」

「そ、それもそうね……」

 

さらりと毒を吐く日色に雫達は苦笑いするしかない。

 

「――以上が、俺が王城を離れる理由だ。幸いにも俺は役立たずだしな、どうせいなくなってもクラスメイトたちの支障にはならない」

「あなたの場合、そうなるように動いてたからでしょうが」

 

日色の思惑をようやく理解した雫は手を強く握りしめ、歯を食いしばる。

日色の狙い、それは自分の重要性を最底辺に下げることでクラスメイト達の認識を下げ、いなくても構わないような状況に持ち込んだのだ。

自分達には圧倒的に情報が足りない、故に日色は自分の存在価値を下げ、自分が王城を離脱することで単独で情報を集めるのだ。もし、これで仮に雫や香織達が離脱してしまえば重大な役割が空いてしまうことでクラスメイト達に混乱が生じてしまうだろう、内部分裂が起こってしまうかもしれない。光輝によってまとめあげられたクラスメイト達は少しでも重大な人物が居なくなってしまえば亀裂が奔ってしまうのだ。

 

「だ、だったら私も一緒に――「「だめよ(だ)」」――ど、どうしてっ!」

 

慌てて香織が日色についていく事を言葉にしようとすればそれを言い切る前に日色と雫に遮るように拒絶された。

 

「香織、今貴女が抜けたら皆が混乱するわ。今は光輝のおかげでどうにかなっているけど『無能』の肩書きをつけられた南雲ちゃんはともかく私や貴女がいなくなったら混乱を招くわ。日色も……それが分かっているから今まで言わなかったのよ」

「そんな……」

 

悲痛な香織の声が溢れる。慌てて日色の方を違って欲しいという願いを込めて顔を向けるが、日色は何も喋らない。つまり、それは肯定の意を示していた。

そんな香織を置いて、雫は日色へと視線を向け再び質問を行う。

 

「日色、本当に行くのね」

「……あぁ」

「だったら南雲ちゃんはどうするのよ。もちろん、どうするかなんて考えているのよね?」

 

その雫の言葉に日色の眼は見開き、口を開いてまるで『忘れてました』とでも言うような驚愕の表情を取った。

 

「…………………………あ」

「……忘れてたのね」

 

雫は頭に手を置いて、肝心なところを忘れてしまっている日色に溜息をついてしまう。

またまた日色への怒りが湧いたがここで出しても仕方ないだろう。雫はハジメへと視線を向けて微かに表情に影が差したハジメへ声をかけた。

 

「それで、南雲ちゃん。貴女はどうするの?このまま此処にいるか、日色と共に行くか。貴方の自由よ、好きに決めなさい」

「え?あ、ぼ、僕は……」

 

その雫の言葉にハジメは慌てて口を開くが、学校にいる彼女とはまるで別人のように表情に影が差し、声も少々小さく、心細い。

 

「……少し、考えさせて欲しいな。まだ……答えが出来ていないんだ……」

「そう、意外ね。てっきり日色についていくと即答するかと思ったのに……」

「あの……八重樫さん?僕をなんだと思っているの……?」

「ふふ、冗談よ」

 

そう言ってハジメをからかって小さく笑う雫にハジメの表情は若干引きつっている。

そうして笑い終わると雫はベットから立ち上がった。

 

「それじゃあ、私は部屋に戻るわ。香織はどうする?」

「……えっと、私は日色君達とまだ話したいことがあるから……」

「……そう、それじゃあ早く戻って来なさいよ。日色、南雲ちゃん、おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」

「うん、おやすみなさい。八重樫さん」

 

そう挨拶を残し、小さく手を振って雫は部屋を出て行った。

 

 

バレてはいなかっただろうか?

 

耐えることができただろうか?

 

雫は香織との共同部屋にある自分のベットで布団を被りながら小さくそう思う。

現在の彼女の手は小刻みに震え、まるで自分を抱きしめるように両腕を手で掴み、怯える子供のように身体を震わせている。

 

知りたくなかった。

 

日色が王城を離れようとしていることに。

私達から離れようとしていることに。

 

分かっている。

 

自分たちが何よりも必要なのは地球に戻る方法ということに。

だからこそ、日色が取ろうとしている行動は正しいものだろう。

 

だけど、

 

もし、

 

日色がそれが原因で死んでしまったら?

 

「…………違う」

 

止めよう、考えてはいけない。

そんなことは決して起こらないのだから。

だから、大丈夫だ。きっと、大丈夫。

 

さぁ、明日は早いのだ。早く寝ないと。

 

 

 

 

 

 

――ホントウニ?

 

 

 

 

 

雫の頬には小さな一つの透明の水滴が零れていた。

 

 

場所は変わって宿から少し離れた青白い月明かりが照らす小川沿いの歩道。

そこに二人の人影、日色と香織が居た。

 

何故、彼らがそんな場所にいるか?それは香織が日色と二人きりで話がしたいと言ってきたのでハジメにはいち早くベットで寝てもらうことにしたのだ。

ハジメも最初は渋っていたがすぐ済むからという日色の言葉に仕方なく頷き、一足早くベットで寝てもらった。

 

「――で、わざわざ二人きりで話したい要件とは何だ?」

 

月明かりの下、日色は月が映る川を少し眺めたあと、目の前の香織の方へと振り向いた。

 

「……ねぇ、日色君。やっぱり、王城から旅立つのを変更することはできない…かな?」

 

そう言って服をかすかに握りしめながら言葉を零す香織に日色は小さく「……あぁ」と呟く。

 

「……どうして?」

「地球に戻らなければならないからだ。クラスメイト一丸となって魔人族を全滅させても元の地球に戻してくれる確証がない以上、国を回って情報を集めないといけないからな」

 

淡々と感情を感じさせない声色で語る日色に香織の表情に影が差し、胸のあたりで服を握りしめる力が強くなる。胸から溢れそうになる何かを香織は無理矢理押し込んでどうにか「…そっか」と呟くことができた。

 

「日色君は、変わらないね。どんな時でも真っ直ぐで……ねぇ、日色君。初めて私と出会ったこと覚えてる?」

「……いや、覚えていない」

 

日色は少し顎に手を置いて昔のことを思い出すような仕草を数秒したがすぐに軽く頭を横に振るい、否定の言葉を零した。

 

「中学二年の時にね、小さな男の子とおばあさんが、不良っぽい人に囲まれてたときの事なんだけど…」

「――あぁ、あの時のことか。確かそんなこともあったな」

 

まるで大切な思い出を語るかのように話す香織に日色は昔のことをようやく思い出したようで、手の平をポンッと叩いた。

 

「あの時、私は怖くて何もできなかったの。強い人の助け方しか知らないから自分は強くないから誰か強い人が助けてあげてと思うだけだった、だから日色君が助けに言ってくれたのはすごく嬉しかったの」

 

そう言って、朗らかに微笑む香織に日色は「別に助けようとしたわけじゃない」とぶっきらぼうに言葉を零す。

 

「あれはただの八つ当たりだ。それに助けることだったらあのテンプレ勇者の方が多くの人を助けているだろうが?」

 

日色は波打つように流れている川を微かに見たあと、香織の方を向きまるで自分を自虐するように言葉を吐き捨てた。

その言葉に香織は小さく笑って――

 

「違うよ、日色君」

 

その言葉を否定した。

 

「――何?」

「日色君はね、自分では気づいてないのかもしれないけど。光輝君や雫ちゃんのように強い人だから暴力で解決できるような人じゃないんだよ。私が初めて日色君に出会った時は光輝君達と同じ強い人だと思ってたんだけど、本当は違ったの」

 

そう、日色がクラス達に人気な理由は光輝達のようにヒーローとして助けてくれるからではない。日色の強さはそんなものではない、そのことはハジメも雫も、そして香織も知っている。

 

「日色君は、光輝君とは違って暴力で解決するんでもなくて、陰ながら困ってる人を助けてくれる優しい人なんだよ。他人の成長を願って、そのきっかけを作って、それでも自分は他人として陰ながら支えてくれる。だから私の中で日色君は誰よりも優しくて強い人になったんだよ」

 

それが、神代日色の強さ。全て自分の為と言いながら陰ながら誰かを助けようとし、あくまで表向きは他人として接し続ける。自分の為ということは逆に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

日色は言葉を失った。

思わなかった。

まさか、香織に自分がそう思われていたなんて、一欠片も思っていなかったのだから。

 

 

「――死なないで、日色君」

 

 

気がつくと香織が正面にいて日色の手を包み込まれていた。

彼女の声色は普段のような元気な彼女らしくなく、不安にまみれている。

瞳は潤んで、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。

 

「ずっと不安なの。日色君がいつか遠くに消えてしまうんじゃないかって」

「…………」

「今日の夢だってそう……日色君がいたんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……最後には……」

 

徐々に、彼女の声に嗚咽が混ざっていく。

 

「……最後には……消えちゃうの……」

 

日色は沈黙を保っていた。

香織の体勢が徐々に日色へと傾いていき、日色の胸へと香織の頭が触れ、小さな嗚咽が青白く輝く月下に響いていく。

 

香織は身体を震わせて日色の胸で嗚咽を漏らしていると、日色は溜息を吐いて「おい、白崎。顔を上げろ」と呟いた。

その言葉に香織は「……ふぇ?」未だに止まらない嗚咽を漏らしながら顔を上げると――

 

――ズドンッッ!!という音と共に香織の額に激痛が走った。

 

「――ふにゅッ!!??」

 

突然の激痛に香織は額を抑え痛みに悶えて涙目になってしまう。

 

「な、何するの――!!?」

「震えは止まったか?」

「―――え?」

 

いきなり何をするのか?

抗議の視線を香織は日色に向けるが、淡々とつぶやく日色に香織はおそるおそる手に視線を向けると、不安と恐怖で震えていた香織の手は既に震えは止まっていた。

 

「お前が俺を心配するのは嬉しいが、勝手に死ぬ前提で話をするな」

「で、でも――」

「でもじゃない。いいか、白崎。お前に心配されなくても俺は死なん。何があろうと生きて地球に帰ってやるよ」

 

そう、香織の不安を打ち消すように日色はそう宣言した。

傲慢に、そして大胆不敵に。

その言葉に香織は目を見開いて驚愕し――

 

「ふふ、日色君らしいなぁ」

 

――つい、笑いを吹き出して、いつものようにくすぐったそうに笑った。

不安はある、恐怖も少し薄れただけだ。だがそれでも、覚悟はできた。

 

だからきっと大丈夫だ。

 

「ほら、明日は早いんだ。早く戻―――っておい」

 

日色は明日に備えて早く戻ろうと香織に声をかけようとすると、次の瞬間――

 

――香織に自分の腕を絡まれてしまった。

 

「ごめんね日色君。今だけは……こうさせて?」

「……拒否権は「ないよ」……チッ」

 

日色は歩きにくいため、香織を離そうとしたが、香織の声色に強い意志を感じたため、日色は舌打ちをしたあと諦めることにした。

 

夜空を照らす月が二人の少年少女の道を照らす。

香織は腕から感じる日色の体温を感じながら、小さく思う。

 

(日色君は……私が守るよ)

 

そんな決意をした香織を置いておいて、対象者となった日色は彼女に片腕を抱かれながら思う。

 

『あ゛ーッ!腕に胸が当たってんのに死の恐怖を感じすぎてそこまで喜べねぇ!!てゆうかなんなの?どうしてハジメに起こるフラグが俺に建ってんの?どうして落下フラグ成立してんの?馬鹿なの?アホなの?死ぬの?死ぬのは俺だけどなっ!アッハッハッハッ!!!(乾いた笑み)……念の為に『アレ』の数増やしておこう』

 

やっぱり、この男にはどうあがいてもシリアスが通用しないのだろうか?

 




最近筆力と語彙力が圧倒的に無くなって来ているこの頃、誰かコツ教えてくれませんかね?
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