ありふれた職業で世界最強(女)と文字使い(ワードマスター)   作:アルテール

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こんな夜遅くに投稿していくスタイル。どうも、眠気に襲われているアルテールです。
今回はあの敵に遭遇するまで、主人公が本格的に活躍し始めるのは次回からです。

未だにハジメちゃんの豹変の性格がなかなか決まらない自分って……

では、どうぞ!


トラップは主にバカ共のせいで引っかかる

次の日、日色達は【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた。

 

ハジメとしては薄暗い陰気な入口を想像していたのだが、まるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

 

『モ○ハンですね、わかります』

 

そんな思考をしている日色は放っておいて、どうやら受付窓口がある理由はステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。戦争を控え、多大な死者を出さない措置だろう。 

 

入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。まるでお祭り騒ぎだ。

浅い階層の迷宮は良い稼ぎ場所として人気があるようで人も自然と集まる。馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、裏路地宜しく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたようで、戦争を控えながら国内に問題を抱えたくないと冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。入場ゲート脇の窓口でも素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。

ちなみに日色は途中見つけた串に刺されタレを塗り美味しそうに焼かれている肉をこっそり買おうとしたのだが雫に強制的に引きずられていた、ハジメ曰く、日色は地味に食べられなくて涙目だったらしい。

 

しかし、迷宮の中に入ると外の賑やかさとは無縁であるように静かだった。

 

縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

 

一行は隊列を組みながらゾロゾロと進み、日色とハジメは最後尾で辺りを見渡しながらついていく、しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

 

と、その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 

ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけまるでボディビルダーのように毛が無く、そして瞳は殺意に濁っており、どこかの夢の国の鼠とは大違いである。……まぁ、某夢の国の鼠も時と場合によっては恐怖を感じるのだが。

 

一行の最前列である光輝達は(頬が引き攣っている雫がいたが)訓練通りに間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃し、その間に、香織と特に親しい女子二人、メガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。クラスメイト達が何度も行ったありふれたフォーメーションだ。

 

光輝は純白に輝くバスタードソード〝聖剣〟を高速で振るい、ラットマンを数体をまとめて葬っている。

 

〝聖剣〟とはハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つであり、光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという“聖なる”というには実に嫌らしい性能を誇っている。ちなみに日色は〝聖剣〟という銘をつけた王国のネーミングセンスに若干呆れていたりする。

 

龍太郎は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。日色は「どんな理屈だよ」と呟いていたがこれもまぁ、魔法という謎現象のおかげなのだろう。

龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようである。

 

雫は、サムライガールらしく〝剣士〟の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。あまりの洗練された技に騎士団員をして感嘆させるほどである。

 

日色は冷めた瞳で、ハジメは自分との力の差に乾いた笑みを浮かべながら彼らの活躍を見ていると詠唱が響き渡った。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

 

後衛の三人が同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て、絶命していく。

 

気がつけば他の生徒達の出番なく、ラットマン達は絶滅していた。光輝達のステータスでは一層の魔物は弱すぎるらしい。

よく言えばオーバーキル、悪く言えば死体蹴りだった。

 

その証拠にメルド団長も苦笑いをしていた。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

気を抜かないよう注意するメルド団長だが初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がり、頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めるしかない。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

そのメルド団長の言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

そんな彼らの活躍を見ながら日色とハジメは最後尾で完全に傍観者気取りで眺めていた。とはいえ、周りへの警戒を怠ることは無く、何が起きてもすぐに対処できるようにしていたが。

 

「やっぱり皆チート過ぎじゃないかなぁ?白崎さんも非戦闘職なのにアレ程の魔法を出せるなんて……」

「まぁ、仮にも全ステータスが100を軽く超えている奴らだからな、俺達とは違ってこの辺りの魔物なんて相手にならないだろう」

 

微かに落ち込んでいるハジメを日色は慰めながら列へと続いていくと。

 

「クッ、数匹抜けたぞ!」

 

そんな声が前方から聞こえてくる。どうやら、前衛組が相手にしていた魔物の――日色が見ると2――いや3匹、ラットマンや犬のような魔物が此方へと向かってきていた。

どうやら前との列を離れすぎたことで日色達が標的に選ばれたらしい。

 

「――っと、話していると魔物が来たな。ハジメ、行けるか?」

「う、うん。だ、大丈夫だよ……多分」

 

そう少し体を震わせながら鞘に入ったナイフを抜きながら呟くハジメに日色は小さく微笑む。

 

「だったら安心だ――じゃ、行くか」

 

そうして日色が腰に差している剣を抜刀の体勢になりながら、襲い掛かる魔物達を迎え撃った。

 

 

最初に日色達に襲いかかったのは一匹のラットマンだった。

 

日色達の距離が二メートルを過ぎた途端、跳躍し一気に毛がついていないムキムキの右腕で殴りかかる。

それに反応するように前に出たのは日色である。襲い掛かるラットマンの右腕に沿うように剣を抜き放ち、右腕を剣で撫でながら軌道を逸らしていき、打ち出された右腕は空を切る。

 

「――シッ!」

 

そのまま剣を反撃とばかりにラットマンの喉元向けて剣を振るう。

振るった斬撃は寸分の狂いもなくラットマンの喉元へと直撃し、肉を切り裂くが――

 

「キィッ!」

 

突然の喉元の痛みにラットマンは悲鳴の叫びを上げるが、それに反して日色の顔色は優れない。

 

(――チッ、浅い!)

 

元々の日色の低いステータスでは一撃で魔物を殺すことはできない、その為に喉を狙ったのだがラットマンの攻撃をハジメにも当たらないように逸らすことに力を使ったことで勢いが足りなかったようだ。

しかし、日色はそれだけでは止まらない。

 

仕留め損なったと認識した途端、身体を一気に旋回。再び勢いを乗せた横薙ぎの斬撃を喉元めがけて振るう。

全身の捻れを利用した斬撃はラットマンの喉を切り裂いて、続けざまに突きによる一撃を喉に放つことで万が一のラットマンの生存の可能性を無くし、絶命させる。

 

次にその止めを指した日色に襲い掛かる狼のような魔物にハジメが回り込むようにナイフを片手に立ちふさがる。

 

「させない!」

「グルァ!」

 

まるで邪魔だとでも言うように勢いよく跳躍し、ハジメの喉笛を噛み付くために襲いかかるが――

 

「錬成!」

 

――突如いきなりハジメの目の前の地面から出現した横幅40センチ高さ1メートル厚さ1センチの石壁が狼の魔物の突撃を阻み、突然の出現に狼の魔物は一切のスピードの減速ができず顔面にまるまるぶつかってしまい石壁に罅を入れながらも脳を揺らしてしまう。

突然現れた石壁、それはハジメのスキル[+高速練成]による錬成である。寝る間も惜しんで錬成を日頃から行っていた成果が今ここで発揮されたのだ。

 

「錬成!――やぁ!」

 

石壁に激突したことで動きを止めてしまった狼の魔物の隙を逃さずハジメは罅が狼の魔物がぶつかったところから放射状に奔り今にも壊れそうな壁を蹴りで壊すことで、狼の魔物へと壁の破片を飛ばし、狼の魔物を怯ませる。

ハジメが生み出した壁の厚さがわずか一センチ程で錬成したのは魔物の勢いをある程度落とすためであり、もし壁が壊れなければ、ハジメが自ら壊すことで破片を飛ばし、相手を一瞬だけ怯ませるためだったのだ。

 

狼の魔物が怯んだ隙に左手を地面に着き、再び錬成を行うことで狼の魔物の足元に十数センチの落とし穴を作り、動けなくなった狼の魔物の喉仏をナイフで切り裂き絶命させる。

 

「グギィ!!」

 

断末魔と共に息の根が止まったことを確認したハジメはフゥと呼吸を整えるために息を吐こうとするがそのハジメの死角から最後の狼の魔物が襲い掛かり――

 

「グギャ!?」

「油断大敵だ、ハジメ」

 

――横から現れた日色が剣を振るい息の根を止めた。

 

「う、うわっ!ひ、日色、ありがとう!」

「気にするな。それにしても上手かったぞ、その錬成の使い方」

「えへへ、そ、そうかな?」

 

日色の称賛にハジメは妙にくすぐったい気持ちに襲われ照れてしまい、つい頬が緩んでしまう。

取りあえず、こちらに向かってきた魔物はこれで全てなのでこれで一息つけるだろう。

 

「ところでハジメ、魔力は大丈夫か?」

「う、うん。錬成は工夫してある程度消費は抑えてるからあと二、三回は大丈夫だと思うよ」

「……そうか、あと一回程になったら魔力回復薬を飲んでおけ、余裕はある程度ある方がいいからな」

「…うん、わかってる。改めて思うけどやっぱり、こうして命を奪うのはなれないや」

 

ハジメは鞘にナイフを収め、我ながら情けないよと苦笑しながら日色に呟くと日色は若干呆れた表情でハジメの額を小突いた。

 

「イタッ!」

「全く、何を当たり前のことを言っている。そう簡単にハジメが命を奪うのに慣れてしまったら逆に困るだろう、別に情けないことじゃない」

「そう……なの、かな?」

「あぁ、今のままで大丈夫だ。ほら、さっさと進むぞ、前の奴らと距離が少し離れてしまったからな」

 

そう言い、前へと向かう速度を速める日色の言葉にハジメは心が軽くなったのを感じた。命を奪ったことに対しての気持ち悪さや忌避感は残っていても、それを気にするのは当たり前で、決して情けないことではない。そう言ってくれる日色にハジメはまた励ましてもらったな、と思いながら日色の後を追いかける。その足取りはいつもより軽くハジメは感じた。

 

その後も日色とハジメは時々抜けてくる魔物相手に時に騎士たちの手を借りながらも戦闘訓練を行っていった。

二人とも、時に魔物を足止めし、時に片方が囮になりながら、お互いを支え合いながらも確実に相手を仕留めていく。もともと4倍さのステータス相手に反応できる日色とそんな日色に教えられたハジメだ、お互いを支え合い、支援しながら戦うことで一切の怪我を生み出すことは決してなかった。

 

ハジメは『錬成』を、日色は少しながらも『剣術』を交えた戦闘術を多用しているため魔力のステータスの伸びがよく、レベルも4つも上がっていた。そんな二人に度肝を抜かれたのは騎士たちである。

非戦闘職であるため、「この二人に戦闘は無理だろう」全く期待していなかった――が、蓋を開けてみるとどうだろうか?

 

お互いの息の合うコンビネーションに、戦闘方法の創意工夫。己のスキルの予想外の使い方、そして冷静な判断に行動。

この二人の戦い方は前線で戦っている光輝達に引けをとっておらず、『全体を見る』という戦闘方法の中ではクラスメイト達の中で群を抜いていた。

 

「ハジメ!」

「うん!、任せて!」

 

襲い掛かるトカゲのような魔物を日色は蹴り飛ばし、地面に叩きつけられた瞬間、ハジメの『錬成』がトカゲの前足を地面に固定させ、その隙にハジメがナイフで喉仏を斬り裂いた。

 

「ギュィッ!」

 

悲鳴を上げながら命を落としたトカゲの魔物を確認した後、ハジメはようやく安堵の息を吐いて、日色の元へと向かった。迷宮に入っておよそ2、3時間。ハジメと日色の戦闘回数は2桁を超えており、現在の階層は19階層まで来ていた。今回の実戦訓練は21階層までが目標なのでもう少しで終わりである。

 

「やったね、日色!今回も完璧だよ!」

「……まぁ、そうだな。事前に戦い方を相談していたのが功を奏したんだろう、ところでハジメ、魔力は大丈夫か?そろそろ厳しいだろう、魔力回復薬を飲んでおけ」

「う、うん。わかった」

 

日色の指示通りに魔力回復薬の蓋を開け、口をつけるハジメを横目に日色は周りに注意を向ける。

どうやら現在は小休止に入ったため、辺りの警戒は騎士たちが代わりに行ってくれるらしい。

ふと前方を見ると日色は香織と目が合った。香織は日色へと微笑んでいるが、正直言ってあまり関わりたくない日色はサッ、と目を背け香織をガーン!!と落ち込んでいた。……ちなみに香織の隣では雫が若干勝ち誇った表情をしているのが気になるところである。

 

日色はそんな彼女達を横目に見、すぐに視線を変えようとすると突然、背後からねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線を感じた。その視線は教室などで感じていた類の視線とはとは比べ物にならないくらい深く重い。

 

日色はその視線の主が誰かは悟っているものの、その主の目的を考え、いい加減うんざりする。

 

(……玉砕覚悟でさっさと告っちまえばいいのに、ハジメがアレだから可能性はあると思うんだが……)

 

日色はそう思いながら 深々と溜息を吐くのだった。

 

一行は20階層を探索する。

迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。現在は四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはないだろう。

 

二十層の一番奥までたどり着くと、鍾乳洞を思わせる複雑な地形の部屋に出た。一行は滑らかなツララ状にとげとげとした壁や足場に横列を組めず、縦列を形成して進んでいく。

すると、先頭を行く光輝達やメルド団長が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

メルド団長の言葉に一行は目を凝らすと、壁の一部が揺らいでいるのが見えた。その揺らぎが大きくったと思った瞬間、その場に褐色の毛に覆われたゴリラの如き魔物達が出現した。出現と同時に威嚇のドラミングを始める。

どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

そのメルド団長の言葉が言い終わるか否か、そのロックマウントが飛びかかり、メルド団長が言う豪腕を振るう。

飛びかかってきたロックマウントの豪拳を龍太郎が迎え撃ち、光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができないようだ。

 

ロックマウントもまた、状況の悪さに態勢を立て直そうと後ろ向きに飛び退いた。着地と同時に仰け反りながら大きく息を吸い、直後。

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

激しい咆哮が部屋中に響き渡せた。

この咆哮こそがロックマウントの持つ固有魔法“威圧の咆哮”である。魔力がのった雄叫びには相手を麻痺状態にする効果があり、前衛にとって非常に厄介な技であると言えるだろう。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

その“威圧の咆哮”をまともに喰らい、硬直してしまう光輝達前衛組。……ちなみにちゃっかり日色は耳を塞いで凌いでいたりする。

 

その怯んだ隙にロックマウントは横飛びに移動し、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって一瞬溜を作り、見事な砲丸投げのフォームで投げつけた。硬直した前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫っていく。

香織達は、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた――が魔法名を告げようとした香織達が目の前の衝撃的光景にピシッと音でも立てたように硬直してしまう。

 

なんと、投げられた岩もロックマウントだったのである。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫っていく――フゴフゴ荒い鼻息と血走った目付きで。

 

その光景に香織も恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまう。

 

「こらこら、戦闘中に何やってる!」

 

咄嗟にメルド団長が向かってくるロックマウントを切り落とし、苦言を呈する。青褪めたまま香織達が「す、すみません!」と謝るものの、持ち直せてはいないようだ。

まぁ、お気づきの方もいるだろうがそんな様子を見てキレる若者が一人。正義感と思い込みの塊、我らが勇者(笑)天之河光輝である。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしく、『キサマァ!許さんぞー!』とばかりに怒りを見せ、その光輝の怒りに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

 

『あっ………(察し)』

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。そしてそれと同時に日色の目が死んだ。

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。

もちろん逃げ場などなく曲線を描く極太の輝く斬撃が叫び声をあげることも許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。哀れなロックマウントに合掌。

 

パラパラと部屋の壁から破片やら埃やらが落ちる中、「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った我らの勇者(笑)光輝様。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ! と声を掛けようとして、案の定笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らったのだった。

 

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。ざまぁである。

 

その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

その言葉にその場にいた全員が指さす方向に目線を向ける。するとメルド団長が一瞬目を細めて、感心したように目を大きく開き、キラキラの正体を語ってくれた。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しいな」

 

香織の見つけた青白く発光する鉱物。その名をグランツ鉱石と言い、加工したものは涼やか且つ煌びやかな宝石となる。この世界においては婚約指輪に使う宝石として貴族のご婦人ご令嬢方に非常に人気があるものだ。ざっと言えば宝石の原石みたいなものである。ちなみに求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

「素敵……」

 

香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリと日色に視線を向けた。ちなみにその行動に気づいた雫はこっそり闘志を燃え上がらせ、もう一人は恨みや妬みを心に湧き出していたが。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

メルド団長が焦るのも無理はなかった。迷宮で最も警戒しなければならないのは魔物ではなくトラップであり、致死性のトラップも数多い為、フェアスコープと言う道具によっての安全確認が必須なのだ。

 

〝フェアスコープ〟とは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものの道具である。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できるのだが索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。

 

しかし、檜山は「チッ、うっせぇな」と小さく呟き、聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

 

「――ハジメ、今すぐ数歩下がれ」

「え?日色、どうしたの?」

 

そして、それと同時に日色はハジメへと呼びかけた。

その言葉に疑問の言葉をかける日色にハジメは疑問符をあげ、聞き返そうとするが、日色が瞬間、真剣な表情になり、ハジメへと怒気のある声で言葉を投げかける。

 

「いいから従え!!――アレは、()()()!」

 

その怒気のある言葉にハジメが困惑するその頃、メルド団長が檜山を止めようと追いかけており、その中騎士団員の一人がフェアスコープで周囲を確認すると顔を青褪めさせて叫ぶ。

 

「団長! トラップです!」

「ッ!?」

「クソッ!」

「え?――うわっ!」

 

しかし、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。慌てて日色はハジメの声を無視し、ハジメを部屋の外へと突き飛ばす。

檜山が「よっしゃあ」とグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップである。

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

しかし、ハジメは日色に突き飛ばされたことで魔法陣の中に()()()()()()

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長の言葉に生徒達は行動を移そうとするが、遅い、遅すぎる。

光が輝き、全員の視界を真っ白にを染める中、日色は次の出来事に言葉を失った。

 

助けようとした。逃がそうとした。自分の命を置いて、助けたハジメが再び日色へ手を伸ばして、()()()()()()()()()()()()()

 

「日色っ!」

「ッ!、バカ野――」

 

――郎と日色が言い終わる前に視界が真っ白に染まり、一瞬の浮遊感に包まれた。

 

日色達は空気が変わったのを感じ、次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

ハジメは尻餅を吐き、尻の痛みに呻き声を上げながら、ハジメは周囲を見渡す。

クラスメイトのほとんどはハジメと同じように尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

どうやら、先の魔法陣は転移させるものだったのだろう。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外である。

 

ハジメ達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはあり、天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。ハジメ達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

生徒達はメルド団長の轟く声に、必死になって階段へと向かおうとする。ハジメもそんな中、急いで指示通りに動こうとしたがふと、日色を見ると、日色は一切体を動かさず、メルド団長が指示した階段の逆の方向を見つめていた。

一切目を逸らさず、歯を食いしばりながらとても険しい表情で。

 

「――日色?」

「……クソッ。やっぱり、変えられないのか」

 

小さく呟かれた日色の言葉をハジメは理解することができなかった。

しかし次の瞬間、生徒達が向かう上り階段の手前に、赤黒い光で描かれた数多の魔法陣が浮かび上がり、そこから足場を埋め尽くさんばかりの大量の骸骨が現れる。

そして、日色が一切目を逸らさず見つめている通路側の橋から直径十メートル近い魔法陣が不気味に発光し、周辺を赤黒く照らす。

 

その大きな魔法陣から現れたのはこれまで相手取ってきた魔物とは一線を画す巨大さを誇る魔物だった。

 

瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているトリケラトプスのような体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物。

 

その名を呆然と見つめるメルド団長の呻く割にやけに明瞭に響く言葉で呟いた。

 

 

――まさか……ベヒモス……なのか……

 

 

物語が、回り始めた。




これは……ハジメちゃんは原作より強くなってると言っていいのかな?
最近、勘違いが少ないためタグ詐欺じゃないかと思い始めているこの頃。
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