ありふれた職業で世界最強(女)と文字使い(ワードマスター) 作:アルテール
はい、そんなわけで主人公は対して活躍しません、どちらかというとハジメちゃんが活躍をしますが筆力がない自分に上手く書けたかどうか……
そして気がつくとお気に入り登録数が2000人突破!
皆様、本当にありがとうございますッ!!(((o(*゚▽゚*)o)))
こんな蛆虫が書いたような文ですがこれからもよろしくお願いします!
橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数が尋常ではない。
階段側である小さな無数の魔法陣からは、百体を上回る骸骨の魔物“トラウムソルジャー”が溢れ、しかも一メートルほどの魔法陣はその数を減らすことなく、未だに骸骨を呼び出し続けている。
“トラウムソルジャー”は空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。
しかし、反対側の通路側から出現した魔物はハジメの目から見てもヤバイと思わせる物だった。
体長十メートル級の四足に瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っている魔物〝ベヒモス〟は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。
「グルァァァァァアアアアア!!」
「ッ!?」
どうやらその咆哮で正気が戻ったのだろう、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「アラン! 生徒達を率いて“トラウムソルジャー”を突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」
「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」
「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」
メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる光輝。
しかし光輝とメルド団長とのやり取りなどお構いなしに、ベヒモスがその巨体を躍動させ、突っ込んでくる。
そうはさせるか!とでも言うように突進による被害を防ぐべく、カイル、イヴァン、ベイルの三人が同時に二メートル四方で最高級の紙に書きつけられた魔法陣を使い詠唱をする。
「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、“聖絶”!!」」」
二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白の輝きを放つ半球状の障壁が橋の中央に生徒達を包み込むように顕現し、ベヒモスの突進を受け止める。
衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。
本来、三十八層に出没する魔物である“トラウムソルジャー”は、二十層までの魔物とは比較にならない力がある。前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は半ばパニック状態である。
隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。
その時、その中の一人である女子生徒が後ろから突き飛ばされて転倒してしまう。呻き声をあげ、どうにか顔を上げると眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。
「あ」
そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされる。
死ぬ――女子生徒がそう感じた次の瞬間、その女子生徒へと襲い掛かる剣を阻むように横から空中を奔り、斬撃が間一髪、女子生徒の顔の寸前で押しとどめていた。
「クソッ、タレ!お前はさっさと下がれ!」
その斬撃の主は日色だ。日色は押しとどめている剣を無理矢理跳ね上げ、胴の空いたトラウムソルジャーを蹴り飛ばし、距離を離させる。
その隙に日色は倒れている女子生徒の襟を掴んで強制的に後ろに下がらせる。女子生徒が「きゃあ!」という悲鳴をあげたが無視だ、今はそんなことよりも標的を日色へと変えたトラウムソルジャーを対処するほうが先決なのだから。
骨の身体のくせにどうしたらこれほどの速度で振るえるのかは不明だが動きが単調なため、対処するのは容易い。日色は自分へと襲い掛かる横薙ぎの一撃を体勢を倒れるように下げることで避け、倒れながら剣を振るう。狙いは骨だけな為、日色のステータスでも折ることができそうなトラウムソルジャーの足だ。
「ハァっ!」
日色の目論見通り、体は骨なため身体能力は高いが防御力はあまりないのだろう。ボキッ!という骨が砕ける音と共にトラウムソルジャーの片足は折れ、体勢を崩してしまう。
それを確認した日色はハジメへと合図を出す。
「今だ、ハジメ!
「錬成!!」
瞬間。トラウムソルジャーの足元の地面が突然隆起し、滑り台のように波打って数体のトラウムソルジャーを巻き込みながらも橋の端へと向かい、瞬く間に奈落へと落とした。
橋の縁から二メートルほど手前には、座り込みながら荒い息を吐くハジメの姿があった。ハジメは地面を錬成し、滑り台の要領で魔物達を橋の外へ滑らせて落としたのである。
日色は急いで助けた女子生徒へと駆け寄り、「さっさと立て!死にたいのか!」と若干怒気を含めた声で呆然となすすべとなっている女子生徒の手を強制的に掴み、立ち上がらせた。
「あ、ありがとう……!」
「礼を言う暇があったらさっさと前に進め、冷静に戦えれば俺とハジメを除いて楽勝だろうが」
不機嫌そうに日色は頭を数回掻き、女子生徒の背中を軽くバンッと叩いた。
女子生徒は、パチパチと数回瞬きしたあと「……うん!」と元気に頷いた後、再び駆け出した。
その女子生徒の背中を見送った後、日色は小さくため息を吐くと、此方へとハジメが魔力回復薬を飲みながらやって来た。
「日色!大丈夫!?」
「見たらわかるだろう、五体満足だよ。だが、状況が最悪だな。生徒全員がパニックになってやがる、しかも肝心のテンプレ勇者がメルド団長のところにいて、あの通路側の化物を倒そうと躍起になってるしな。クソッ!あのバカ、状況が理解できてんのかよ!」
日色がハジメに状況を説明していると現状がどれほど絶望な状況か理解して、表情が徐々に不安に染まってきている。
現状、誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔法を振り回しているのだ、このままでは、いずれ死者が出る可能性が高い。騎士アランが必死に纏めようとしているが上手くいっていない。そうしている間にも魔法陣から続々と増援が送られてくる。
(……クソッ、どうする?)
ある程度、事前知識がある日色だがだからこそ行動に移せない。ここで光輝の元へ行き説得することはできるかもしれないが、だからこそ奈落に落ちる危険性があるため、日色は躊躇ってしまう。しかしこのまま何もしなければ更に全滅の可能性が高まるだけだ。
日色は必死に打開策を考えていると、背後でブツブツと呟いていたハジメが突如日色の腕を掴んだ。
「日色!僕が天之河さんを説得しにいくから、皆をお願い!日色だったら天之河さん程じゃないけどみんなに届くと思うから!」
「なっ!馬鹿な事は止めろ!あっちにはあのベヒモスという化け物がいるんだぞ!第一、あのテンプレ勇者を説得できるのか!」
そう言って、ベヒモスがいる方向へ走ろうとするハジメを日色は咄嗟に片手で止め、言葉を零すが振り向いたハジメの決意に満ちた瞳にたじろいでしまう。
「これが最善手だよ、日色!誰も死なせずに皆で帰るにはこれしかないんだ!」
「なっ!おいっ……!」
ハジメはそう日色へと言うと、日色の静止を無視して光輝達のいるベヒモスの方へ向かって走り出した。
日色は咄嗟に手を伸ばすが、それ以上を進むことはできなかった。
「クソッ!」
日色は自分を情けなく思い、悪態を吐いてハジメが向かった反対側、階段側へと走り出し、生徒達へと大声で指示を出す。
「お前ら!いい加減落ち着け!俺より強いくせに狼狽えるな!!前衛側、バラバラにならず近くにいる奴らと隊列を組め!中衛は前衛の補助と騎士団員達の援護!後衛と回復はさっさと魔方陣を描け!!死にたくなければ訓練通りに行動しろ!!」
まるで、逃げている自分から目を逸らすように。
◆
ベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。
障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルド団長も障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。
「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」
「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」
「くっ、こんな時にわがままを……」
メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。
本来、この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。だからこそ、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストである。しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の光輝達には難しい注文だ。
だからこそメルド団長はその辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、光輝は〝置いていく〟ということがどうしても納得できないらしく、また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放ってしまっている。
おそらく自分の力を過信してしまっているのだろう、戦闘経験がないためまずは褒めて伸ばす方針が裏目に出たようだ。
「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」
どうやら雫は状況がわかっているようで光輝を諌めようと腕を掴む。しかし――
「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」
「龍太郎……ありがとな」
「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」
「雫ちゃん……」
苛立つように声を出す雫に不安そうに声を出す香織。
その時、背後からひとりの少女が向かってきた。
「天之河さんっ!」
「南雲ちゃん!?」
「な、南雲!?どうしてここに!?」
驚く一同にハジメは必死の形相で光輝へとまくし立てる。
「天之河さん!早く撤退してください!このままじゃ!皆が!」
「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」
「いいから早く撤退して!!」
ハジメを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした光輝の言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。あまりの勢いにハジメの瞳には若干ながら潤んでおり、文字通りの必死さが感じ取れ、光輝は言葉を失った。
「後ろが見えないの!?皆がパニックになってるんだよ!今は日色が指示しているからなんとか耐えてるけどもう時間の問題なんだよ!!」
光輝の胸ぐらを掴みながら指を差すハジメ。
ハジメが指さした方向には生徒達が恐怖を滲ませながらも、所々ではお粗末な隊列を組み戦っているが、大半は訓練のことなど頭から抜け落ちたように誰も彼もが好き勝手に戦っている。効率的に倒せていないから敵の増援により未だ突破できないでいた。敵も増えていくため死傷者が出るのも時間の問題だ。
「天之河さんだけなんだよ!皆の恐怖を吹き飛ばせるのは!みんなを助けられるのは!天之河さんはみんなが死んでもいいの!!?」
呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る光輝は、ぶんぶんと頭を振るとハジメに頷いた。
「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」
「下がれぇーー!」
「――ッ!!れんせ――」
〝すいません、先に撤退します〟――そう言おうとしてメルド団長を振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。
暴風のように荒れ狂う衝撃波がハジメ達を襲う。咄嗟に、ハジメが前に出て錬成により一気に3つ石壁を作り出し、盾がわりに使おうとするが瞬く間に砕かれ吹き飛ばされた。
しかし、一気に三つ石壁を生み出したのが功を奏したのだろう、三枚中二枚が跡形もなく破壊されたが最後の一枚は大きな罅を生み出し、今にも壊れそうになりながらもなんとか耐え切ってくれたおかげでハジメは破片による少々の切り傷で済み、光輝達も対したダメージは無いようだ。
舞い上がる埃をベヒモスの咆哮が吹き飛ばす。
そこにはハジメの生み出した防壁の範囲に入ることができなかった団長と騎士が三人、倒れ伏し呻き声を上げており衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。
「クッ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」
光輝が問う。それに苦しそうながらも確かな足取りで前へ出る二人。団長たちが倒れている以上自分達がなんとかする他ないだろう。
「やるしかねぇだろ!」
「……なんとかしてみるわ!」
そう、言うと共に二人はベヒモスに突貫した。
「香織はメルドさん達の治癒を!」
「うん!」
光輝の指示で香織が走り出す。ハジメは既に団長達の元だ。戦いの余波が届かないよう石壁を作り出している。とにかく耐久性を上げてこれ以上騎士達を傷つけられる訳にはいかない。
そして光輝は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。
「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――〝神威〟!」
極光が奔る。
詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣からは先の天翔閃と同系統だが威力が段違いな極光が迸り、橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。
龍太郎と雫は、詠唱の終わりと同時に既に離脱している。かなりギリギリだったようで二人共ボロボロだ。この短い時間だけで相当ダメージを受けたようだ。
「これなら……はぁはぁ」
「はぁはぁ、流石にやったよな?」
「だといいけど……」
龍太郎と雫が光輝の傍に戻ってくる。光輝は莫大な魔力を使用したようで肩で息をしていた。
それもそうだろう先ほどの攻撃は文字通り、光輝の切り札である。残存魔力のほとんどが持っていかれているためもはや光輝の魔力は少ししか無い。
背後では、治療が終わったのか、メルド団長が起き上がろうとしている。
そんな中、徐々に光が収まっていき土埃が舞うように揺れ動いて――
(………………っ?)
その時、異変に気づいたのはハジメだった。
埃の動きがおかしい、まるで何かが光輝達の方向へと
それを視認した瞬間、ハジメは勢いよく光輝達の方向へと駆け出す。
別に気のせいかもしれない、だがハジメには妙な予感がしたのだ。何か嫌な予感がすると。
「みんな!今すぐそこから離れてッ!!」
ハジメのその悲鳴に叫びが光輝達の耳に届き、光輝がえ?という疑問の声を出そうとする瞬間――
――
完全に反応が遅れた。回避は不可能、防御なんてもってのほかである。
光輝達は目の前に襲いかかるベヒモスの突撃を呆然と見つめ――
「錬――成ッ!!」
――寸前、ハジメが錬成の最大効果範囲の5メートルの範囲に光輝達を捉える場所へと辿り着き錬成を繰り出した。
一つは衝撃を抑えるため、光輝達の目の前に魔力を絞りに絞って石壁を生み出し、もう一つ、石壁を真横から生える様に
ハジメの[+高速練成]とは一瞬で石壁などを生み出す技能である。逆に言えば壁を一瞬で生み出すことで物を
高速で生える様に生み出された石壁は光輝を含めた雫や龍太郎達に直撃し、メルド団長達のいる方向へと吹き飛ばした。
瞬間、轟音と衝撃。
ベヒモスが石壁に直撃した瞬間、瞬く間に石壁を粉砕し、強大な衝撃を撒き散らした。
光輝達は、ハジメの咄嗟の機転で直撃は喰らわなかったが、衝撃波をモロに浴びて吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がりようやく止まった頃には、満身創痍の状態だった。
そして、それはまた5メートルという近距離にいたハジメも例外ではない。
「――ぁ、グ、ギィッ!ゴホッゴホッ!!」
ハジメはあまりの衝撃に全身を打ち付けられ、地面に叩きつけられた。あまりの衝撃に内臓に少しダメージが入り、何度も咳き込んで少量の血を吐いてしまう。
視界が歪む、意識が錯乱する。
ようやくハッキリと視界ではどうにか動けるようになったメルド団長が光輝達の元に駆け寄って来ており、他の騎士団員は、まだ香織による治療の最中だ。
「お前等、動けるか!」
メルド団長が叫ぶように尋ねるも返事は呻き声だ。先ほどの団長達と同じく衝撃波で体が麻痺しているのだろう。
ハジメはどうにか身体を動かそうとするがもぞもぞと少しずつしか体を動かすことしかできない。
メルド団長は香織を呼ぼうと振り返ろうとして、突如背後から悲鳴のような叫びにギョッとした。
「南雲ちゃんっ!!は、早く逃げて!!」
「な、何っ!!」
メルド団長は慌てて倒れているハジメの方を向くと、そこにはハジメへと徐々に近づいてくるベヒモスの姿があった。ハジメは光輝達を助けるために錬成の効果範囲である五メートルまで距離を縮めていた。光輝達はメルド団長達の方へと吹き飛ばしたためベヒモスに最も近いのはハジメなのだ。
メルド団長はすぐさま助けに行こうとするが――勇者である光輝の救出を優先するべきである騎士団長としての判断か、ハジメを助けるべきか一瞬躊躇してしまった。
そして、その一瞬の躊躇が分かれ目だった。
ベヒモスが再び、突進し始めたのだ。標的は――最も近いハジメである。
「南雲ちゃん!!」
香織の悲鳴が聞こえた。
◆
(……あぁ、コレ、死んじゃうのかなぁ?)
ハジメは朧げな思考で、まるで他人事のように考えていた。
死にたくはない、確かに死にたくはないがこれはこれで仕方がないことだろう。
あの時、ハジメが助けなければ光輝や龍太郎、そして雫はおそらく死んでいただろう。
そうなった場合、日色はどうなるだろうか?彼のことだ、きっと悲しむに違いない。
それだけは嫌だった。
日色が悲しむのだけは嫌だった。
だから、この行動に後悔はない。
あぁ、だというのに――
――どうして泣きそうになるんだろう。
(まだ……死にたくないなぁ……)
嫌だ、終わりたくない、まだ終わるわけにはいかない。
そうどこかでハジメは思ってしまっている。まだ、日色と一緒にいたいと。
だが、その願いはもう叶えられないだろう。目線を向けるとベヒモスが頭部の兜全体をマグマのように燃えたぎらせてこちらに向かって突撃していた。
おそらくあれを喰らったら即死だろう。
逃げることは不可能だ。助けも間に合わない。
だからハジメは目を瞑る。その瞬間が来るのをおとなしく待った。
そして……
そして――
◆
そしてベヒモスはハジメのかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。
轟音が、響き渡った。
ハジメがいた場所には放射状に幾重にも巨大な罅が奔っており、土煙がその場所を隠すように舞っていた。
アレ程の威力だ、どうあがいてもハジメの死は確実だった。
しかし――
(……………………あれ?)
ハジメに最期の瞬間は未だ訪れてなどいなかった。
その事実にハジメは、疑問を抱き、恐る恐る瞼を開ける。
そこには――
「グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!?」
――目の前にいるベヒモスが文字通り、後方へと
光輝の神威を食らって無傷だった肉体には抉られた傷口があり、その傷口はまるで高温の熱で焼かれたような火傷が生まれて、咆哮は苦悶に満ちている。
わからない。何が起こったか、何故ベヒモスが傷ついているのかが理解ができない。
そんな幾つもの浮かんでは消えていくグルグルと回る思考の中、ハジメは目の前にいる『彼』に守られたという事実をようやく認識した。
いるはずがない、こんなところに彼が居ていいはずがない、本来彼は50メートル後方で生徒達と一緒に戦っているはずなのだ。
まさか、ハジメのために、ハジメを守るために危険を晒してここまで走ってきたとでも言うのか?
「……なんで……どうしてっ!」
ハジメは込み上げてくる感情に身を任せて、目の前にいる『彼』へと疑問の言葉を叫ぶ。
『彼』の役に立ちたかった、『彼』を死なせたくなかったから命を晒したのに『彼』に助けられてしまった。
なんで、とどうして、と叫ぶハジメに対し『彼』は左手に持っている焦げて千切れボロボロになった三メートル程の
艶やかな黒髪をさっぱりとした短髪に切り揃え、瞳は氷のように無機質で刃の如く鋭い、容姿は大変整っており黒色の眼鏡をかけた少年はハジメへと小さく微笑む。
「――親友だからだ」
そう言って傷一つない『彼』は、神代日色は笑ったのだった。
◇◆◇
わざわざ命懸けでハジメちゃんを助けに行ったら拒絶された件について。
……泣いていいだろうか?
いやね、本当はハジメが指示した通りに後方でエッサホイサエッサホイサと戦っても良かったんだけどさ、ハジメが頑張っているのにお父さんが頑張らないわけにはいかんでしょうっ!!(ドヤァ!!)
……あ、はい、嘘です。ごめんなさい。自分そんな度胸無いです。
別に『気づいてたら体が動いてたんだっ!』みたいな厨二的なことも起こったわけでもないし、そんなのはテンプレ勇者の役割だ、俺は正直言って隅っこで事が済むまでじっとしていようと思ってたよ。
だって、あのクソ檜山の火球に巻き込まれて奈落に落ちたくないし、わざわざベヒモスと戦いたい戦闘狂でもないしな。
しかし。だがしかしだ、ある時俺の脳内に天啓が振り降りたのだ。
アレ?別にハジメ、性別が違うんだから檜山に火球で落とされることなんてないんじゃね?、と。
そもそも原作で檜山がハジメを奈落に落としたのはハジメ(男)に好意を持っている香織が原因なのだ。檜山は香織に好意を持っており、そんな香織を手に入れるために邪魔なハジメを『野郎オブクラッシャー』するためにハジメに火球を撃ち、奈落へと叩き落したのだ。
だが、しかぁしっ!!!
今のハジメは女っ!つまり香織がそっちのけの人では無ければ火球を撃たれることはないのだ。
つまり、ハジメが奈落に落とされることはない!
だから、助けに行っても大丈夫なのですっ!!
え?原作のことを考えたらそれでいいのか、だって?
――知らんな、そんなもの。きっとテンプレ勇者が何とかしてくれるさっ!(キラッ!)
親友であるハジメにそんなことさせるわけ無いだろうっ!
何?本当は魔王になったハジメに殺されないか心配なんじゃないか、だって?
………………………………………………………………………………君のようなカンの良い餓鬼は嫌いだよ。
そんなわけで現在、俺はベヒモスの目の前にいます。……ハジメに拒絶されたせいで若干、涙目なのは秘密だ。
ちなみにベヒモスは俺が前日、このために用意していた魔法陣の効果を受け、決して大きいわけではないがダメージを食らい、俺を仇敵を見るような目でこちらを睨んでいる……どうしよう、恐怖でちびりそうなんですが。
しかしまぁ、後ろにはハジメがいるんだ。大人の威厳を見せてやるために引くわけにはいけない。
「……なんで……どうしてっ!」
背後で俺に言葉を零すハジメに応ずるようにもはや自分自身の言葉か言語さんによるものなのかわからなくなってしまった口が開く。
「……なんで――だと?決まっているだろう?――親友だからだ」
さぁてっと、ひと仕事いきますか!
娘ができたお父さんや妹がいる兄が最強だってことを見せてやらぁ!!
そう言って俺は腰から剣を引き抜いたのだった。
最後に日色がハジメを守った時に使った魔法は文字魔法ではありません、筆者が独自設定と独自解釈で生み出したオリジナル魔法です。詳細は次回。