ありふれた職業で世界最強(女)と文字使い(ワードマスター)   作:アルテール

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皆さん、お久しぶりです!アルテールです!

最近、更新がなくて申し訳ございません!!
テスト期間に入ったため、勉強に追われ執筆作業の時間があまり取れませんでした。

そんなわけでしばらく更新ができなくなりますがご了承ください!

そして今回の文字数はまさかの一万五千文字以上……やっぱり二つに分けたほうが良かったんですかね?

そして今回、独自設定と独自解釈がございますが矛盾点が見つかってもご都合主義と思ってください自分にはこれくらいが限界です(涙目)

……最近、筆力が落ちてきているような気ガス。


たとえ命を懸けてでも 下

日色を仇敵を見るような瞳で睨みつけるベヒモスを前に日色が執った行動は実にシンプルだった。

 

「逃げるぞ」

「……え?あ、ちょっ!」

 

それは文字通りの逃げの一手。

日色はハジメを有無を言わせず肩に担ぎ、脱兎のごとく全力疾走でメルド団長の元へと走り出す。

それに驚いたのはベヒモスである。まさか一目散に逃げ出すとは思わなかったのだろう、叫び声を上げて慌てて追いかけようと前足を出そうとし――

 

「ハジメ。奴の足に穴を作れ」

「う、うん!【錬成】!」

 

――ベヒモスが脚を踏み出そうとした地面が深く沈み込み、体勢が崩れてしまう。ついでに言えばその穴を二度目の錬成で塞がれてしまうという土産付きだ。

 

「グルァァァァァアアアアア!!?」

 

踏み込むことができず体勢が崩れる+落とし穴を埋められるという妨害をくらいベヒモスが必死に抜け出そうとする前に日色達はメルド団長の元にたどり着いていた。

どうやら香織は他の騎士達の治療をしているらしく、ある程度治療され動けるようになった雫がこちらへと向かってきている。

 

「ハジメ、動けるか?」

「う、うん。大丈夫」

「坊主っ、どうしてここに!そしてあの魔法は何だ!」

 

困惑するように日色へと言葉を零すメルド団長に日色はハジメを降ろしながらメルド団長へと目を向ける。

 

「階段側の戦闘が一時的に安定したので応援に来たんです。そんなことよりもメルド団長早くテンプレ勇者を連れて撤退してください」

「だが、まだベヒモスが……」

「奴は俺が囮になって時間を稼ぎます」

「「「ッ!!」」」

 

そのなんとも無いように呟いた日色の言葉に香織の治療によって回復した雫や日色に下ろされたハジメ、そしてメルド団長が言葉を失った。

 

「恐らくですが奴は敵対し抵抗を行おうとする者を先に狙う習性があります。つまり、俺が抵抗を見せれば俺を集中的に狙うはずです、その間に撤退し、撤退が完了したら全員でベヒモスに一斉攻撃してください、その間に俺は離脱します」

「待てっ!それはつまり……」

 

――自分を時間稼ぎの囮にするということかっ!

メルド団長はその言葉を飲み込み、目を剥いてしまう。確かにそれは勇者である光輝を逃がすためには最も最適な方法だろう、日色が助かる可能性が限りなく少ない事以外は。

その事実を察した雫が悲痛な表情で日色に詰め寄る。

 

「ダメよッ、そんなの!だったら私が――「ダメだ。お前の場合、失った時のリスクが多過ぎる。ポニーはテンプレ勇者の手助けをしろ」――でもっ!!」

 

日色を失いたくない。

その思いに駆られるように雫は日色の考えに反発し、一切引こうとしない。

そんな態度に日色は、ハァとため息をついたあと冷め切った瞳で雫を映し、決定的な事実を突きつけた。

 

 

足手纏いだ

「――ッ!!」

 

 

その言葉が深く雫に突き刺さり、雫の思いを一脚した。

日色の言葉に雫の表情は泣きそうになり、その表情を見られないように顔を下げ表情に影が差す。

分かっている、日色にとってその言葉は彼なりの優しさだと言うことは。そんなのは雫どころかハジメも理解している。

分かっている、自分は香織に治療されたがあくまでそれは動ける範囲では、というだけなのだから。

 

だが、そんな何もできない自分が何よりも雫にとって辛かった。

情けない自分を恨めしく思い雫は血が滲むほど拳を握り締め、唇を噛む。

 

「――死なないでよ」

「当たり前だ、俺を誰だと思っている。ほら、さっさと撤退しろ」

 

言葉を零す様に出した雫に日色はフンッと堂々と言い返す。そんな日色に雫は渋々階段側へと撤退を開始する。

そんな雫を片目に日色は未だに撤退しようとしないハジメへと目を向ける。

 

「……おい、ハジメ。お前も話を聞いていただろう、さっさと撤退しろ」

「――嫌だよ」

「………………は?」

 

撤退を促そうとするとハジメに断固として拒否されたことに日色は目を丸くする。

 

「――おい、さっきポニーとの会話を聞いていただろう。お前のその傷じゃあ足手纏いだ、さっさと撤退――「僕はまだ練成ができる、日色のサポートぐらいはまだできるよ」――なっ!おい、こんな時に屁理屈を――」

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

雫とは違い一切引こうとしないハジメの態度に日色は苛立つように唇を噛み、説得しようとするがベヒモスの雄叫びを聞くと共に「クソッ!」と毒づく。ベヒモスは既に落とし穴から抜け出し戦闘態勢を整えている。再び頭部の兜が赤熱化を開始しており、もう時間がない。

日色はメルド団長の方を向き、決意をした表情で話しかける。

 

「メルド団長!一度だけ奴の攻撃を凌ぐことはできますか!?後は不本意ですがハジメと共に何とかします!」

「あ、あぁ!可能だ!だが……やれるんだな?」

「やれます」

 

決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくる日色にメルド団長はこんな状況で場違いのように「くっ」と笑みを浮かべる。

まさか、一番低いステータスを持っている少年がこのような決意の瞳をするとは思わなかったからだ。

 

「わかった、まさか、お前さん達に命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

「はい!」

「任せてください」

 

勢いよく返事をするハジメと当然とでもいう風に頷く日色。

メルド団長はその二人の返事に小さく笑うとベヒモスの前に出た。そして、簡易の魔法を放ち挑発する。

やはり日色の推測は正しく自分に歯向かう者を標的にする習性があるようだ。しっかりとその視線がメルド団長に向いている。

 

「チッ、ハジメ。今から作戦を伝えるぞ。死にたくなかったら大人しく従え」

「う、うん」

 

そのメルド団長が注意を引き連れてくれる間に日色はハジメへと作戦を伝える。

それは文字通り命懸けの作戦だ、失敗すれば日色達どころか大勢が死ぬだろう。

その作戦の内容を聞いた途端、ハジメの表情が暗くなるがすぐに決意に満ちた表情となる。

そのハジメの表情を見て、日色は問う。

 

「できるな?」

「――うん」

 

そんなハジメの返事に日色はよしと頷いたと同時期。

ベヒモスが赤熱化を果たした兜を掲げ、突撃、跳躍する。メルド団長は、ギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構え、そして、小さく詠唱をした。

 

「吹き散らせ――【風壁】」

 

詠唱と共にバックステップで離脱する。

 

その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前までメルド団長がいた場所に着弾した。発生した衝撃波や石礫は〝風壁〟でどうにか逸らす。大雑把な攻撃なので避けるだけならなんとかなる。倒れたままの光輝達を守りながらでは全滅していただろうが。

 

再び、頭部をめり込ませるベヒモス。その決定的な隙が生まれた瞬間、日色が叫ぶ。

 

「ハジメ!やれ!」

 

日色の言葉に応えるようにハジメは両手に淡い空色の魔力を迸らさせる。ハジメが名前だけの詠唱に最も簡易で、唯一の魔法。

 

「――【錬成】!」

 

石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。引き抜こうとした途端、ハジメの錬成によって頭部を石で固定したのだ。

その隙に日色がベヒモスへと駆ける。右手と右脚、左手と左脚を同時に出すナンバ走りによる高速移動により瞬く間にベヒモスとの距離を詰める。

 

「――フッ!」

 

踏み込む足は右足、重心を低く下げ鞘に収まった剣を引き抜き、ベヒモスの焼け爛れた傷口へと抜刀する。

 

――我流刀術【天閃】

 

神速の抜刀は寸分の狂い無くベヒモスの傷口を切り裂くが傷は血がほんの数滴しか零れず、とても浅い。日色の低スペックさが実感できた瞬間である。

 

しかし、それはベヒモスを怒らせる事実としては十分だった。

 

「グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

ベヒモスは怒りのままに全身を駆動させ、埋められた頭部を力任せに引っこ抜いた。

己の身体に傷をつけた日色を激怒の炎を瞳に宿らせながら映そうとするが日色はとっくに離脱しておりベヒモスが現れた通路側の魔法陣へと走っている。

 

ベヒモスは雄叫びを上げながら追いかける、もともと低スペックの日色とベヒモスだ。追いつかれるのは時間の問題だろう。

だが、日色の狙いはそこではない、元々自分達の目的は時間稼ぎだ。出来るだけ階段側から離れたほうが失敗したとしても時間は稼げるだろう。

そして遂にベヒモスと日色との距離が10メートルを切った途端、日色は突然立ち止まり、ベヒモスの方向へと向きなおった。

 

ベヒモスは日色が何故止まったのか理解できなかったが好機だと思い、頭上の冠を赤熱化させる。

そして距離を詰め、一気に跳躍する。

 

その一撃は例え勇者だろうと防ぐことができない絶対の一撃、日色が喰らえば間違いなく死に至るだろう。

だが、日色の表情に恐怖は皆無。一切、身体は震えてなどいない。

 

何故なら日色には()()がいるのだから。

 

「ハジメ!行くぞ!」

「――錬成!!」

 

瞬間、日色が身体をまるで何かを飛び越えるかのように沈み込ませた途端、地面から日色を射出させるように()()()()()()()()()()()()()

そう、ハジメの錬成による射出である。

日色が言った作戦、それは単純に言えばハジメの錬成によるサポートで行う高速移動での時間稼ぎである。

 

ハジメの錬成による射出、前回はそれによって光輝達の命を助けたのだがそれを見た時に日色の脳内に一つの疑問が浮かんだのだ。

 

『アレ?それって妖怪首おいてけが使ってた奴じゃね?』

 

もし、仮に射出された時に態勢を崩さず、その石壁を用いて跳躍すれば日色達のような低スペックでも速度を補えるのではないか?

しかしもちろんリスクも存在する。

一つ目は方向、こんな狭い橋の中で射出する方向を誤れば確実に奈落に落ちてしまうだろう。

 

二つ目は角度、ベヒモスの突進を避けるとしても射出される角度が違ってしまえばそのまま直撃し即死してしまう。

 

だが、それがどうした、と日色は思う。

 

日色は知っている。自分の役に立とうと一心不乱に努力している彼女の姿を。

日色は知っている。どんな状況でも他人の心配をする彼女の姿を。

 

だったら、親友である俺が信じなくてどうするのだ。

 

「ぁ、ああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

加速する、加速する、加速する。

 

全身に訪れる風圧を受けながら日色は上空から襲い掛かるベヒモスに上段の構えで迎え撃つ。

その角度、方向は完璧だった。

ベヒモスの体が紙一重低空を飛ぶ日色に当たらず頭上を通り抜け、しかし、日色の剣の射程内である。

 

ベヒモスの跳躍が日色の頭上を通り抜け、同時に勢いよく振るった日色の剣がベヒモスの皮膚を浅く切り裂いていく。

恐ろしい衝撃、力を少し緩めてしまえばベヒモスの勢いに引きずられてしまいそうになる。

 

だが耐える。耐え切ってみせる。

 

そしてベヒモスの下を通り抜けた先にはこっそり錬成の射程内まで近づいて来てくれたハジメがいる!

 

「日色!」

 

日色の名前を呼ぶハジメに日色は着地と同時に猛烈な勢いを逃がすため、受け身を取り何度も転がる。

ようやく止まった頃には日色の全身は擦り傷でボロボロだったが全て軽傷なので良しとしよう。

 

「日色、大丈夫!?」

「あぁ、ハジメの錬成助かったぞ」

 

日色へと心配そうに駆け寄ってくるハジメに日色は立ち上がりながらも微笑で返す。

が、すぐさまベヒモスに意識を戻すとベヒモスはまるで何ともないように頭上の冠を引っこ抜き、再び憤怒の燃え上がる瞳に日色達を映す。

 

そして、再び吼えながら赤熱化を果たした兜を掲げ再度突進をしてきた。今度は跳躍などはしない単純な物量の突撃だ。日色達との距離は5メートル、避けることはできない。

 

「クッ!――え、日色?」

「大丈夫だ」

 

ハジメは咄嗟に石壁を生み出し、その間に距離を離そうと地面に手を触れようとするが日色がハジメの肩に手を置き、大丈夫だとでも言うように前に出る。

困惑するハジメを置いて、日色はポケットから小さな紙を取り出す。

 

その紙の大きさはわずか10センチ程度、紐で丸められておりまるで一種の巻物のようだ。

しかし、次の瞬間。紙の上に『小』という文字が現れ、空気に溶けるように消え失せると紙の大きさが三メートル程まで大きくなった。

 

そして、ベヒモスが日色へと突撃する瞬間、日色は盾にするように紙を広げ、名前だけの詠唱を告げる。

 

「【反鏡】」

 

瞬間、ベヒモスが()()()()()()()()()()()()()()()()

紅緋色の鏡のような壁に触れた途端、ベヒモスが吹き飛ばされたのだ。ベヒモスの身体には新たな抉れ、焼き爛れた傷が生まれている。

 

ここで一つ話が変わるが魔法の知識のおさらいをしておこう。

トータスにおける魔法は、体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動するというプロセスを経ており、魔力を直接操作することはできず、どのような効果の魔法を使うかによって正しく魔法陣を構築しなければならない。

 

魔法陣の式は主に5つ、属性・威力・射程・範囲・魔力吸収である。後は誘導性や持続時間等付加要素、適性がないものは速度や弾道・拡散率・収束率等などの式が必要になってくる。

 

逆に言えばそれらの式が書ければ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

例えば【反光壁】というものを知っているだろうか?

それは神代、眼鏡をかけた天才錬成師が生み出した魔法で光属性初級防御魔法の【光絶】に反発の効果を付与した初級防御魔法で靴底に瞬間展開し、空中多段跳躍として用いていた。

 

だからこそ、日色は考え、そして三日間徹夜をかけて生み出した。

自分だけのオリジナル魔法を。

 

名を【反鏡】

 

光属性初級防御魔法である【光絶】にある効果を付与した魔法である。

その効果は『ベクトルの方向反転』

生み出された光の壁に触れた瞬間の衝撃を瞬時に計算し、指定した方向に力の向きを操作する。

それが【反鏡】の効果である。

しかし、もちろんデメリットも存在する。それは魔力の消費量である。

【反鏡】の魔力消費の燃費はかつてないほど悪く、なんと一度の発動に消費する魔力は数値にすると約250。しかも反射する力はあくまで発動した一瞬に触れた衝撃の一つだけな為、二撃目は反射することも防ぐこともできない。

 

だが日色はその欠点を補う方法を考え、一つのアイディアが思い浮かんだ。

 

『ナニィ?チートな魔法を開発したけど使用時に必要な魔力が足りない?

 

――逆に考えるんだ、自分が使う必要はないと考えるんだ』

 

そうして生まれたのは魔法陣に必要な式の一つ『魔力吸収』の変更である。

魔力を流す対象を使用者ではなく対象者へと強制的に吸い取る式に。

魔法陣に魔力が触れた瞬間、触れた魔力を強制的に吸収し、発動するというものに変えたのだ。

魔物とは体内に魔石という特殊な体内器官を持ち、全身に変質した魔力を直接巡らせることで驚異的な身体能力を発揮する。この変質した魔力が固有魔法を生み出していると考えられているのだが、日色はそこで一つの仮説を立てる。

 

もし、仮に変質した魔力が固有魔法を生み出しているというのならその固有魔法に使う魔力を魔法陣に流せば、魔法は使えるのではないか?

 

答えは是だった。

つまり、ベヒモスが吹き飛ばされたのはベヒモスの固有魔法によって赤熱化した兜に触れた瞬間、兜に込められていた魔力を6割強奪し、魔法が発動。ベヒモスは自分の魔力を奪われた挙句、自分の突撃した衝撃を丸々喰らったことになる。簡潔に言えばベヒモスは自分の魔力で発動した魔法でダメージを食らったのだ。一つの博打だったがその仮説が正しかったのは日色にとって助かった。

 

それが日色がこっそり作っておいた5個作っておいた魔法陣、別名『一方通報(アクセロリータ)の紳士壁』である。

まぁ、欠点はまだあり魔法陣の大きさは日色が使うには三メートル程の大きさになるので結局、持ち運びは文字魔法頼みになることやベヒモスのように魔力を込めた攻撃でなければタイミングよく発動できず、本当にギリギリまで追い詰めて大量の魔力を消費しなければならないので、使い方を限定された魔法なのだが。

 

 

吹き飛ばされたベヒモスに注意を向け、日色はハジメに魔法の効果を説明しながら内心溜息を吐く、残りの魔法陣はさっき使ったから3つ、それまでに撤退が完了するか?

わからない、もし魔法陣が尽きれば確実に自分は死ぬだろう。

 

(……まぁ、きっとなんとかなるだろう)

 

今は自分の最善を尽くすべきだ。

 

 

日色とハジメが足止めしている間、メルドは回復した騎士団員と香織を呼び集め、光輝達を担ぎ離脱しようとする。

 

トラウムソルジャーの方は、どうやら幾人かの生徒が冷静さを取り戻したようで、周囲に声を掛け連携を取って対応し始めているようだ。立ち直りの原因が、実は先ほど日色が助けた女子生徒だったりする。地味に貢献しているハジメと日色だった。

 

「待って下さい! まだ、日色君と南雲ちゃんがっ」

 

撤退を促すメルド団長に香織が猛抗議した。

 

「坊主の作戦だ! ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する! もちろん坊主がある程度離脱してからだ! 坊主達が足止めしている間に坊主が帰還したら、上階に撤退だ!」

「なら私も残ります!」

「ダメだ! 撤退しながら、香織には光輝を治癒してもらわにゃならん!」

「でも!」

 

 なお、言い募る香織にメルド団長の怒鳴り声が叩きつけられる。

 

「坊主達の思いを無駄にする気か!」

「ッ――」

 

メルド団長を含めて、メンバーの中で最大の攻撃力を持っているのは間違いなく光輝である。少しでも早く治癒魔法を掛け回復させなければ、ベヒモスを足止めするには火力不足に陥るかもしれない。そんな事態を避けるには、香織が移動しながら光輝を回復させる必要があるのだ。今は日色達が抑えているがそれは時間の問題なのだから。

 

「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――〝天恵〟」

 

香織は泣きそうな顔で、それでもしっかりと詠唱を紡ぐ。淡い光が光輝を包む。体の傷と同時に魔力をも回復させる治癒魔法だ。

メルド団長は、香織の肩をグッと掴み頷く。香織も頷き、もう一度、必死の形相で戦い続ける日色を振り返った。そして、光輝を担いだメルド団長と、龍太郎を担いだ騎士団員達と共に撤退を開始した。

 

トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。しかし、それが逆によかったかもしれない。もっと隙間だらけだったなら、突貫した生徒が包囲され惨殺されていただろう。実際、最初の百体くらいの時に、それで窮地に陥っていた生徒は結構な数いたのだから。

 

騎士団員達のサポートがなくなり、続々と増え続ける魔物にパニックを起こし、魔法を使いもせずに剣やら槍やら武器を振り回す生徒がほとんどである以上、もう数分もすれば完全に瓦解するだろう。

 

それを悟っている生徒たちの表情は絶望が張り付いている。もはや連携をとっていても限界である。

誰もが、もうダメかもしれない、そう思ったとき……

 

「――【天翔閃】!」

 

純白の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。

橋の両側にいたソルジャー達もその斬撃の衝撃で押し出されて奈落へと落ちていく。

 

直ぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、生徒達は確かに、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段を見た。今まで渇望し、どれだけ剣を振るっても見えなかった希望が遂に見えたのである。

 

「皆! 諦めるな! 道は俺が切り開く!」

 

そんなセリフと共に、再び【天翔閃】が敵を切り裂いていく。光輝が発するカリスマに生徒達が活気づき、勇気を与えてくれる。

 

「お前達! 今まで何をやってきた! 訓練を思い出せ! さっさと連携をとらんか! 馬鹿者共が!」

 

皆の頼れる団長が【天翔閃】に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。

いつも通りの頼もしい声に、沈んでいた気持ちが復活する。手足に力が漲り、思考がはっきりとクリアになっていく。これも香織の魔法である。精神を鎮め、リラックスできる程度の魔法だが、光輝達の活躍と相まって効果は抜群だ。

 

治癒魔法に適性のある者がこぞって負傷者を癒し、魔法適性の高い者が後衛に下がって強力な魔法の詠唱を開始する。前衛職はしっかり隊列を組み、倒すことより後衛の守りを重視し堅実な動きを心がける。

治癒が終わり復活した騎士団員達も加わり、反撃の狼煙が上がった。チートどもの強力な魔法と武技の波状攻撃が、怒涛の如く敵目掛けて襲いかかる。

 

「さっさと――退きなさい!」

 

中でも殲滅する速度が突出しているのが雫だ。高速で剣を振るい瞬く間にトラウムソルジャー達を殲滅する。

全ては、早く日色を助けるために。

凄まじい速度で殲滅していき、その速度は、遂に魔法陣による魔物の召喚速度を超えた。

 

そして、遂に階段への道が開ける。

 

「皆! 続け! 階段前を確保するぞ!」

 

光輝が掛け声と同時に生徒たち全員が走り出す。ある程度回復した龍太郎と雫がそれに続き、バターを切り取るようにトラウムソルジャーの包囲網を切り裂いていく。

 

そうして、遂に全員が包囲網を突破した。背後で再び橋との通路が肉壁ならぬ骨壁により閉じようとするが、そうはさせないと光輝が魔法を放ち蹴散らす。

 

その行動にクラスメイトが訝しそうな表情をする。それもそうだろう。目の前に階段があるのだ。さっさと安全地帯に行きたいと思うのは当然である。

 

「皆、待って!日色君と南雲ちゃんを助けなきゃ!日色君達がまだたった二人で戦っているの!」

 

香織のその言葉に何を言っているんだという顔をするクラスメイト達。そう思うのも仕方ないだろう、日色とハジメは役立たずというのがクラスメイトたちの認識なのだから。

 

だが、困惑するクラスメイト達が、数の減ったトラウムソルジャー越しに見えた日色達の姿を見て言葉を失った。

 

「な、なんだよ、あれ?」

「あの魔物と、戦ってる?」

 

次々と疑問の声を漏らす生徒達の視線の先には日色とハジメが満身創痍になりながらも戦っていた。

服はいくつも破け、擦り傷や切り傷は全身に絶え間なく、もはや息絶え絶えと言えるだろう。

だが、それでも決して倒れずたった二人だけで戦っていたのだ。

 

「そうだ! 坊主達がたった二人であの化け物を抑えているから撤退できたんだ! 前衛組! ソルジャーどもを寄せ付けるな! 後衛組は遠距離魔法準備! アイツらはもう限界だ!アイツが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

そのメルド団長のビリビリと腹の底まで響くような声に気を引き締め直す生徒達。中には階段の方向を未練に満ちた表情で見ている者もいる。無理もない。ついさっき死にかけたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然だろう。しかし、団長の「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように戦場へと戻っていった。

 

そんな中、クラスメイトの一人である『彼』はいた。クラスメイト達と同じく本気で恐怖を感じていた『彼』は直ぐにでもこの場から逃げ出したかった。

 

しかし、ふと脳裏にあの日の情景が浮かび上がる。

 

それは、迷宮に入る前日、ホルアドの町で宿泊していたときのこと。

 

緊張のせいか中々寝付けずにいた『彼』は、トイレついでに外の風を浴びに行った。涼やかな風に気持ちが落ち着いたのを感じ部屋に戻ろうとしたのだが、ふと外の景色を見るとネグリジェ姿の香織を見かけたのだ。

 

『彼』は初めて見る香織の姿に思わず物陰に隠れて息を詰めていると、ある衝撃な光景が目に映った。

 

香織が日色の腕に腕を絡ませ、まるで恋人のように寄り添っていたのだ。

香織の表情は幸せそうな笑顔で、日色も満更ではなさそうだった(あくまで個人の主観です)

 

それを見て『彼』は頭が真っ白になった。『彼』は香織に好意を持っている。しかし、自分とは割に合わず光輝のような相手なら、所詮住む世界が違うと諦められた。

だが、日色の場合は違う。

 

日色は香織を無下に扱い(あくまで個人の意見です)むしろ邪魔だと思っている(あくまで個人のry)、だというのに日色が傍にいるのはおかしいだろう。自分ならもっと彼女を思いやってあげられる。自分ならもっと彼女に応じれる。自分が傍にいるべきだ。と端から聞けば頭大丈夫? と言われそうな考えを『彼』は本気で持っていた。(あくまry)

 

そしてただでさえ溜まっていた不満は、もはや憎悪にまで膨れ上がってしまっていた。

その時のことを思い出した『彼』は向こうで未だベヒモスの足止めとして戦っている日色を眺め、今も祈るように日色を案じる香織を視界に捉え……

 

憎悪の混じった三日月のような暗い笑みを浮かべた。

 

 

一方、その頃ハジメはもう直ぐ自分の魔力が尽きるのを感じていた。回復薬はもはや一個しか残っていない。チラリと後ろを見るとどうやら全員撤退できたようである。隊列を組んで詠唱の準備に入っているのがわかる。

 

ベヒモスは相変わらずこちらへの攻撃を絶やすことはないが、日色の身のこなしとハジメの錬成によるサポートによりギリギリではあるが足止めすることには成功していた。

 

後は、タイミングを見測りベヒモスを錬成で時間を稼ぎその間に距離を取るだけである。

日色もそれは承知しているのだろう、日色の方を見ると擦り傷だらけの身体でチラリと此方を見、コクりと頷いた。

額の汗が目に入る。極度の緊張で心臓がバクバクと今まで聞いたことがないくらい大きな音を立てているのがわかる。

 

チャンスは一瞬だけだ。

 

「グガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

再び兜を赤熱化させ全身をバネのように沈みこませ一気に突進を行うベヒモス。

それに反応するように日色が立ち向かうように最後の『反鏡』の魔法陣を右手に携え、駆け出す。

 

両者の距離が瞬く間に接近する瞬間。

 

「ハジメ!」

「【錬成】!」

 

日色の足元に高く天へと高速で生えた石壁が日色を空中へと押し上げる。

ハジメの錬成により地面から3メートルも高く跳躍した日色は魔法陣を襲い掛かる赤熱化した兜へと魔法陣が()()へと向くように広げる。

 

「【反鏡】」

 

そして赤熱化した兜が魔法陣に触れ――瞬間。

ベヒモスの一撃が丸々【反鏡】によって力の向き(ベクトル)を変えられ、石橋へと襲い掛かる。

日色は【反鏡】の向きの反転の性質を使い、空中で受けることで力の向きを地面に変更したのだ。

 

地面は破裂するように粉砕され、幾重にも無数で巨大な放射状の罅が奔り、地面を削り取っていく。

そして、その隙をハジメは決して逃さない。

最後の回復薬を一息で飲み干し、両手の手袋の魔法陣に空色の魔力を迸らせ、残り全魔力を用いて錬成を行う。

 

「…錬――成!!」

 

空色の魔力が地面を伝わり、罅割れ陥没した石橋を錬成させ、ベヒモスの赤熱化している頭部を幾重にも石壁を錬成し、地面に埋める。これで数秒は稼げるだろう。

 

「ハジメ!走れ!」

「……う、うん!」

 

その隙に、ハジメの元へと駆け寄って来た日色によって片腕を掴まれ、一瞬転げそうになるも何とか持ち直し、日色に手を引かれながら全力でベヒモスから距離を離す。

日色達が猛然と逃げ出した数秒後、地面が破裂する様に粉砕されベヒモスが咆哮とともに起き上がる。羽虫風情の分際で己に無様を晒された怨敵を、ハジメと日色を捉えた瞬間――

 

――あらゆる属性の攻撃魔法がベヒモスへと殺到した。

 

夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスへと直撃する。やはりダメージはない様だが余りの猛攻にベヒモスは地面に縫われ、前に進むことはできない。

日色達は頭を低く下げながら全力で走る。正直言って頭上を致死性のある魔法が突き抜けていくのは生きた心地が全くしないがチートなクラスメイト達を信じて駆けるしかないだろう。

 

既にベヒモスとの距離は三十メートルも広がっている。このまま行けばきっと問題なく皆の元へ辿り着けるはずだ。

そう思い、日色は前を向いてハジメの手を引きながら走り続ける。

 

だが。

いや、だからこそ、日色は気づくことができなかった。

 

代わりにそれに気づいたのはハジメだった。

彼女はこんな命懸けの状況でも日色を見ていたのだから。

 

空を駆ける数多の魔法の中、その中の一つがクイッっと軌道を僅かに曲げたのだ。……日色達へ向かって。偶然ではない、明らかに日色を狙い誘導されたものだ。

 

誰が?一体どうして?そんな疑問や、困惑、驚愕がハジメの脳内を駆け巡るが今はそれどころではない。

軌道は確実にハジメもとい日色を狙って来ている、かなりの速度な為日色を呼ぶ暇など無い。このままでは日色に直撃し、吹き飛ばされ奈落に落ちるか、最悪焼き殺されるか、最低でもたたらを踏んでしまうのは確実だろう。

 

だったら、どうする?

 

答えは、決まっていた。

そしてハジメは――

 

――トンッと日色の背中を勢いよく押した。

突然の背後からの衝撃に日色の体勢は崩れるが数歩ハジメと距離が離れ、驚いた表情で此方を振り向き此方へと手を伸ばしている。

 

自分は今、どんな表情をしているのだろう?

 

出来れば、日色に裏切られたと思われなければいいなぁ、とハジメは思い。

 

瞬間――横からハジメの横腹で炸裂した火球の衝撃によってそんな思考は消しとばされた。

 

 

何が、起こった?

 

日色の思考はまさにそれ一色に染まっていた。

突然の背後からの軽い衝撃、咄嗟に後ろを振り向くと此方を突き飛ばしたハジメの姿があった。

わからない。何故ハジメが日色を突き飛ばしたのか?

わからない。何故、ハジメが笑っているのか?

 

ハジメは笑っていた。

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自分のために浮かべる笑みではなく、誰かを安心させるような弱々しい笑み。

 

何故、そんな笑みを浮かべている?

 

何故――

 

――そんなに泣いているんだ?ハジメ。

 

日色は無意識にハジメへと手を伸ばす。

今にも警鐘を鳴らす胸騒ぎにつられて。

そして、刹那――

 

「ハジ――――ッ!!?」

 

――ハジメの脇腹に火球が突き刺さる。

同時に炸裂し、着弾時の衝撃波がハジメと日色の身体を打ちハジメを元来た通路の方向へ、日色を階段側へと吹き飛ばす。

日色がハジメを叫ぶ声は着弾時の衝撃波で搔き消された。

 

吹き飛ばされた日色は数度転がり何とか体勢を立て直すが、視界が霞み、平衡感覚が狂わされたことですぐには動く事ができない。そしてそれはまたハジメも例外では無かった。

いや、むしろもっと酷いのではないだろうか?ハジメのお陰で直撃を避けた日色ですらそうなのだ、直撃を食らったハジメは脇腹に軽い火傷を負い、ゴロゴロ転がってグッタリと倒れている。

 

それを見た日色は喉の水分が蒸発した様に錯覚した。

急いで立ち上がろうとするが今までベヒモスの衝撃波で喰らった全身の傷と無防備な状態で火球を喰らったからだろう必死に立ち上がろうとするが腕に力が入らず、まるで底無し沼に入ったかの様に全身から力が抜けていく。

 

「…クッ………ソ……!ハジ……メッ!!」

 

しかし日色は諦めず何度も立ち上がろうと挑戦するがいずれも虚しく力が抜け、立ち上がることができない。ハジメを見るとハジメも何とか意識を取り戻したらしく再びフラフラとゆっくり立ち上がろうとしていた。

 

「日色ッ!!」

「し……ず、く?」

 

すると、背後から日色の元へ駆け出している雫の声が聞こえた。背後を振り向くとどうやら制止を振りきって此方に向かっているらしく、その証拠に涙目になりながら必死の表情で此方に向かう雫の背後にメルド団長が追いかけて来ており、さらに背後では今にも駆け出そうとしている香織を光輝が必死に抑えつけていた。

おそらくだが香織が此方に向かおうとして光輝に取り抑えられ、その隙に雫が此方ヘと駆けて来たのだろう。

 

「……雫……頼むッ!早く、ハジメ…を!」

「……ッ、えぇ!」

 

日色の言葉に雫はハジメのいる場所に目を向け、一瞬目を見開いたが、すぐに頷きハジメのいる場所へと方向を変え、さらに走る。現在雫と日色の距離は10メートル、日色とハジメとの距離は7メートル程である。ハジメも漸く立ち上がり三半規管をやられたのかフラフラとなりながらも此方へと少しでも進もうとするが……

 

「グァガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

ベヒモスもいつまでも一方的にやられっぱなしでは無かった。ハジメが二メートルほど進んだ直後、背後で咆哮が鳴り響く。

ハジメは思わず振り変えると、赤黒い魔力を噴き上げ、赤熱化を行ったベヒモスの眼光がしっかりとハジメを捉えていた。

そして、赤熱化した頭部を盾のようにかざしながらハジメに向かって突進する!

 

「ハジメェえええ!!!」

 

フラつく頭、霞む視界、迫り来るベヒモス、遠くで焦りの表情を浮かべるクラスメイト達の悲鳴と怒号。そして、絶叫するようにハジメの名前を叫ぶ日色。

日色の声に反応したハジメはなけなしの力を振り絞り、必死にその場を飛び退いた。直後、怒りの全てを集束した様な強烈な衝撃が橋全体に激震する。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走っていく。

 

「がぁ!」

「日色!」

 

その衝撃でさらに後ろに飛ばされた日色は間一髪走って来た雫に受け止められる。

霞む視界の中、メキメキと橋が悲鳴をあげる音が聞こえ――遂に橋の耐久限度を超えた。

 

「グウァアアア!?」

 

悲鳴をあげながら崩壊し傾く石畳を爪で引っ掻くベヒモス。だが引っ掛けた場所さえ崩壊し、抵抗も虚しく奈落の底へと消えていった。ベヒモスの断末魔の叫びが奈落を木霊する。

それはまたハジメも例外ではなく、何とか脱出しようと這いずるが、しがみつく場所も次々と崩壊していく。

日色がハジメを叫ぶ声が聞こえる。

ハジメはふと対岸にいる日色を見て――

 

「――――。」

 

呟いた。

 

 

日色は見た。

まるで一瞬が永遠に感じるかのように時間が減速する錯覚をする中、ハジメが奈落へと落ちていく姿を。

 

日色は見た。

その瞳に絶望を抱きながら、かすかに涙を滲ませているハジメの姿を。

 

日色は見た。

ハジメが刹那の中、届かない声で口を動かしたのを。

 

そのハジメが動かした口の動きを言葉にすればこうだろう。

 

『よ、か、っ、た』

 

 

「           ぁ      ッ    」

 

こんな状況で、こんな自分が命を落とす状況で。

それでも日色を助けられたことに微笑むハジメを――

 

――見ているままなど出来るわけがなかった。

 

カチンっ、と日色の何かが切り替わる。

 

 

石橋が崩壊していく中、日色は全身傷だらけで震える身体に鞭を打ち、強制的に立ち上がる。

受け止めてくれた雫が突如立ち上がった日色に「日色?」と困惑の声を零すが日色は雫の方へは振り向かなかった。

 

「……悪い、雫。後は…頼む」

「……え?日色?何を――」

 

日色が振り向かず雫に呟いた言葉に雫は困惑し、咄嗟に日色を止めようと彼の右手へと手を伸ばした。

胸騒ぎがした。

何か嫌な予感がした。

今ここで、日色を止めなければ何か取り返しのつかない事が、起こりそうな気がしたのだ。

そして直後――

 

――日色がハジメが落ちた奈落へと駆け出した。

 

「――日色!?」

 

雫は日色の手を掴もうと手を伸ばしたが一瞬遅かった。

雫の指が日色の手を微かに撫でるように触れたが――瞬間、日色の姿が加速した。

 

――文字魔法『速』

 

日色は立ち上がった瞬間、文字魔法で自分の身体に『速』の文字を書いたのだ。効果は読んで字の如くである。

崩れ落ちていく足場を日色はパルクールのごとく跳び、走り、障害物を乗り越えながら下へ下へと駆けていく。

慌てて雫も追いかけようとするが背後から追いかけてきたメルド団長によって取り押さえられてしまった。

 

「メ、メルドさん!?は、離してください!まだ日色が!!」

「ダメだッ!これ以上犠牲を出すわけにはいかん!!」

「そんな!」

 

雫の瞳に涙が滲みながらの懇願も歯を食いしばりながらも悔やんだ表情のメルド団長に拒否され、強制的に肩に担がれて元の階段側へと戻らされてしまう。

自然と日色と開いていく距離に雫は涙を流さんばかりの声で叫ぶしかない。

 

「――――――ッ!!!」

 

その声はもう、彼には届かない。

 

 

走る走る走る。

もはやそれは落下しているといっても間違いないのかもしれない。

 

瓦礫を足場に安全性を度外視して降りていくと、遂には踏みしめる瓦礫が無くなり日色も奈落に落ちたハジメのように自由落下になってしまう。

 

が、日色にそれに対する恐怖は一切ない。

踏みしめるものがないと理解した途端、左手に輝いている『速』の文字をちらりと見ると『速』の文字の輝きが徐々に薄れ、文字が空気に溶けていく。

それを確認した途端、日色は新たに文字を書いていく。

 

イメージは翼、輝きながらも夜空を駆ける流星の如き速度。

 

「――飛べ!」

 

新たに書いた文字は『飛』である。このまま何もせず落ちていってしまえばハジメを助けることはできない、だからこそ落下速度を速める必要がある。

日色は翼を力強く大空を羽ばたくイメージを行う、方向はもちろん真下だ。

 

そして瞬間、今までの落下速度の数倍の速さで日色の落下速度は加速した。

 

「ぅ、ぉおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

風圧が尋常ではない、体感ではおよそジェットコースターの3倍の風圧だ。

日色は吹き飛ばされそうな風圧に耐えながら、更に加速する。

そしていくら時間が経っただろうか、数秒?数十秒?それとも数分?まぁどうでもいい。

ついに日色は落下する彼女を見つけた。

 

「ハジメェエエええええええええええええええええええええええ!!」

 

どうやら意識を失っているのか、だらりと脱力して落下しているハジメを見つけた途端、日色は更に速度を加速させる。もはや奈落の底が微かだが見えてしまっている、このままでは二人共地面にぶつかり落下死するだろう、しかも『飛』の効果時間も限界が近い、もう時間がないのだ。

 

ハジメとの距離を20メートル、10メートル、5メートル、3メートルと縮ませ、遂に――

 

――日色はハジメの元にたどり着く事ができた。

 

 

が、

 

 

「ぐぅッ!!」

 

アレ程加速しながら体勢が整っていない状態でハジメの身体を抱きしめたのだ。もちろん体勢は崩れ、きりもみ状態になってしまう。

世界が廻る、三半規管が異常をきたす。

それにより日色は中身をリバースしそうになるが根性で押し留める。

 

なんとか体勢を整えようとイメージを働かせようとしたがもう、魔法の限界時間が近いのだろう上手く体勢を整えることができない。

 

「クソッ!」

 

廻る視界の中、必死に体勢を整えようとするがもう奈落の底との距離はもはや50メートルをきっている。底に着くまであと5秒しかないだろう。

万事休すか!と日色が思った瞬間、腕の中から声が聞こえた。

 

「ひ、いろ?」

 

ハジメの声だった。明確に意識は覚醒していないのか、声は小さいが日色にとってはそれで十分だった。

ハジメが生きているというだけで日色にとっては十分すぎた。

 

「あぁ、日色だ!クソッタレ!」

 

活力が再び漲った。

日色はハジメに言葉を返しながら廻る視界の中、壁からせり出ている横穴を視認する。

そこからは地下水が流れており奥に続いているようだ。

 

(――あそこだ!)

 

日色はそれを見つけた途端、真横に羽ばたくイメージを行い、強制的に落下の軌道を変える。

そしてちょうど落下の軌道上に横穴が来るように移動した瞬間、『飛』の文字魔法が役目を終えたように解除された。

だが、それだけでは足りない。日色の落下速度とハジメの落下速度が合わさっているのだ、このまま落ちてしまえばたとえ底が水でも死んでしまうだろう。

だから、日色はハジメを抱っこしたまま左手に文字を書く。

書く文字は『浮』

 

「間に合ぇええええええええええええええ!!」

 

日色の文字魔法が発動するのが先か、落下するのが先か。

その結果を日色が認識する前に日色とハジメはウォータースライダーの如く猛烈な勢いで奥に地下水が流れている横穴に落下し、途中壁の一部に体を強打し意識を失った。

 




今回出てきたオリジナル魔法の詳細

【反鏡】別名『一方通報(アクセロリータ)の紳士壁』

本作出てきたオリジナル魔法、光属性初級防御魔法である【光絶】に『ベクトルの方向反転』の性質を付与し、魔法陣に触れた魔力を吸収し発動する魔法。
相手の魔力を使うため、詠唱はいらず、魔力もいらない手軽な魔法だが、魔法陣が3メートルという大きさなので日色のような物を小さくする魔法や『宝物庫』のようなアーティファクトがなければ持ち運びが難しく、あくまで魔法陣に触れた魔力だけなので魔力の無い攻撃には無用の長物化&発動するのは魔力が込められている状態なのでベヒモスの赤熱化は反射できるが光輝の『天翔閃』などの場合は近距離まで接近し、光の斬撃が剣から発射される前に剣に魔法陣に当てなければならないというデメリットを持つ。
しかし、あくまでこれは日色が三日間で考えた『対ベヒモス用の防御手段試作一号』でしかないため今後の改良による活躍が期待される。
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