ありふれた職業で世界最強(女)と文字使い(ワードマスター) 作:アルテール
今年もよろしくお願いします、ということで新たに更新です。
こんな駄目文ですが今年もよろしくお願いします。
……勘違いタグ、消そうかなぁと思うこの頃。最近ハジメちゃんの容姿がレーヴァテインだと言えば感想欄が爆発的に増えたことに驚きました。さすが同志たちよ(握手)
あ、あとハジメちゃんの武器は原作とは違います。
2019年/2/8 ハジメの銃の構造を知った理由を一部変更しました。
ハジメが己の厨二姿に絶望してから数日が経過した。
日色が寝ている部屋に戻ったハジメは最初、魔物の肉を日色に食わせれば目覚めてくれるのではないか?と思ったが元々片腕が無くなったハジメですら悶絶してしまう程の激痛が現在の日色に訪れればショック死してしまう可能性があるため断念することにした。
なので次にハジメが行なったのは派生技能[+鉱物系鑑定]である。かつていつの間にか手に入れていたこの技能だが調べてみたところによると王都の王国直属の鍛冶師達の中でも上位の者しか持っていないという技能らしい。
通常、鑑定系の魔法は攻撃系より多くの式を書き込まなければならず、必然、限られた施設で大きな魔法陣を起動して行わなければならないがこの技能を持つ者は、触れてさえいれば、簡易の詠唱と魔法陣だけであらゆる鉱物を解析できるのだ。潜在的な技能ではなく長年錬成を使い続け熟達した者が取得する特殊な派生技能である。
王国では使う機会がなかったものの現状使わない理由はない、何か有益な鉱石を探すため、ハジメは周囲の鉱物を片っ端から調べることにした。例えば、緑光石に鉱物系鑑定を使うとステータスプレートにこう出る。
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緑光石
魔力を吸収する性質を持った鉱石。魔力を溜め込むと淡い緑色の光を放つ。
また魔力を溜め込んだ状態で割ると、溜めていた分の光を一瞬で放出する。
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なんとも簡素な説明だろう、しかし今のハジメには十分有益な情報だった。
それからもハジメはあちこち彷徨いながらも役立ちそうな鉱物を探していると突如、後にハジメの武器を作るのに必要な鉱石を発見した。
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燃焼石
可燃性の鉱石。点火すると構成成分を燃料に燃焼する。燃焼を続けると次第に小さくなり、やがて燃え尽きる。密閉した場所で大量の燃焼石を一度に燃やすと爆発する可能性があり、その威力は量と圧縮率次第で上位の火属性魔法に匹敵する。
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この説明を見た瞬間、ハジメの脳内に電流が走ったような気がした。
もしかしたら燃焼石は地球で言うところの火薬の役割を果たせるのではないか?だとしたら、攻撃には使えない錬成で最大限の攻撃力を生み出せるかもしれない!と。
そう銃火器の作成である。昔父親の仕事の手伝い中に銃の資料を見つけ、様々な銃の構造を教えてもらったことのあるハジメにはあまりにも嬉しくそして興奮する事実だった。
しかし容易にはいかないだろう、きっと何千回も失敗するはずだ。そう考えたハジメは大量の燃焼石を探すために幾度も二尾狼を狩るついでに集めていった。
そしてハジメがショックを受けてから2日後、いつものように燃焼石を探し集めて戻ろうとしたハジメはふと、現在自分がいる場所がどこかに気づいて足を止めた。
「……ここ、は」
そこはかつてハジメに深い絶望を与え左腕を失い、日色を切り裂いた爪熊と遭遇した場所だった。
「―――ッ!」
自然と右手を握り込む力が強くなり、ハジメの心からドス黒い殺意の感情が溢れてくる。
しかし、ハジメが変わるきっかけになったのもまたこの場所なのだ、ハジメは歯を食いしばるとさっさと元の寝床へ戻ろうとして――視界に輝く何かを見て足を止めた。
「あれは……」
慌てて近づいてみるとそこには鉄色に輝くハジメがあの時左腕を切り裂き、捨てたナイフがあった。
かつてハジメが宝物庫から錬成の魔法陣が刻まれている手袋のついでに護身用に手にとったものだったがさすが王国製とでも言うべきだろうか血跡がこびり付いているものの決して未だ刃毀れをしていない、おそらく錬成によって再利用すれば使えそうである。
「――まだ使えそう」
ハジメはナイフを手にとると共に日色とのナイフの訓練を思い出す。
思い出すとともに無意識に持ち手を強く握ってしまうが己を落ち着かせるために腰に差してある鞘にカシャンと収める、これは後に武器として使わせてもらおう。
今のところは銃を作るつもりだが、近接用の武器も必要だろう。そしてなによりも日色との訓練を無駄にしたくないから。
そう思ったハジメはフゥとため息をつくことで気持ちを抑え殺意を研ぎ澄ます。
あの爪熊はいつか必ず殺さなければならない、だがそれは今ではないのだ。
殺意を必死に押さえつけて寝床に戻ったハジメは早速作業に取り掛かった。
しかし銃を作るのは初めてなのだ、作業は難色をきわめ何千回という失敗と共に錬成はメキメキと上達していく。
そして遂にとある物の作製に成功した。
全長の長さは約65センチ、この辺りでは最高の硬度と靭性を持つタウル鉱石を使った六連の回転式弾倉の振出式(スイングアウト)である。長方形型のバレルに王国で手に入れたナイフを錬成によって研ぎ直された後姿を変え、鋭い刃としてタウル鉱石をコーティングした後、付けてある。弾丸もタウル鉱石製で、中には粉末状の燃焼石を圧縮して入れているお墨付きだ。
すなわち大型リボルバー式の拳銃に剣を合わせた銃剣だ。
弾丸は燃焼石の爆発力だけでなく、ハジメの固有魔法【纏雷】により電磁加速され、小型のレールガン化させることや刃に【纏雷】を纏わせることで電磁メスならぬ電磁ナイフとして活用でき、焼き斬るように斬ることや斬ったあとに【纏雷】を流すことで敵にダメージを与えることができるという機能を持っている。
ちなみにレールガンの威力は最大で対物ライフルの十倍、電磁ナイフは試してみると二尾狼ですら抵抗なく豆腐を斬るように斬り裂かれた。王国の宝物庫って結構すごいのかも?と思ったハジメである。
「これなら……殺せる、日色を……守れる!」
ハジメはドンナーの他にも現代兵器を参考に作った兵器を眼前に並べて薄らと笑う。
ただ、剣や防具を上手く作るだけ、そんなありふれた天職〝錬成師〟の技能〝錬成〟が、剣と魔法の世界に兵器を産み落とした瞬間だった。
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タウル鉱石
黒色で硬い鉱石。硬度8、靭性8(10段階評価で10が一番硬い)。衝撃や熱に強いが、冷気には弱い。冷やすことで脆くなる。熱を加えると再び結合する。
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「むぐ、むぐ……ウサギ肉ってまずいのね」
現在、ハジメは拠点にてモリモリとウサギ肉を喰っていた。そう、蹴りウサギの肉である。かつて自分を見下し嘲笑った蹴り技の達人は、今やただの食料だった。ウサギということで多少はマシな味なのではと期待したハジメだったが、所詮は魔物の肉。普通に不味かった。ウサギを食べたことのないハジメはもしかしてウサギ肉は元々まずいのだろうかと疑問に思い、地球に日色とともに帰ったら美味しいウサギ料理を作ってもらおうと心に決めた。
ハジメはペロリとウサギを二匹平らげる。
【胃酸強化】を手に入れてから食べようと思えばいくらでも食べられる気がするハジメ。特に固有魔法使用後はお腹が空き収支は五分五分だった。
神水があれば死にはしないが、いつ切れるかわからない以上ある程度は遠慮しなければならない。
ちなみに、蹴りウサギは罠を張って倒した。スタート地点の川から水を汲んできて蹴りウサギを誘導、爆進して来た蹴りウサギが撒き散らした水の上を通った瞬間、〝纏雷〟の最大出力で感電させる。
全身から煙を噴き上げながらも、突進してきたので、電撃で鈍ったところを正面からドンナーで撃ち抜いた。
流石に、電磁加速された秒速三・二キロメートルの弾丸は避けられなかったらしく頭が木っ端微塵に砕け散って絶命した。わざわざ感電させる必要もなかったかもしれない。それくらい、ドンナーの威力は凄まじかった。
ちなみにその後もう一体出会い今度は堂々正面から戦い電磁ナイフを試してみると、蹴りウサギの蹴りを受け流すためにドンナーで触れた瞬間蹴りウサギに感電、蹴りウサギの筋肉が硬直した瞬間、ドンナーを振るえば首を切断され即死した。
「さてと、蹴りうさぎを食べた後のステータスは……」
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南雲ハジメ 17歳 女 レベル:10
天職:錬成師
筋力:220
体力:330
耐性:210
敏捷:430
魔力:380
魔耐:380
技能:錬成[+高速練成][+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・言語理解
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やはり魔物肉を喰うとステータスが上がるようだ。二尾狼三匹目程でもう殆ど上がらなかったことを考えると喰ったことのない魔物を喰うと大きく上昇するらしい。
早速、【天歩】とやらを調べる。まず一番最初にイメージしたのは、蹴りウサギのあの踏み込みだ。焦点速度が間に合わなくて体がブレて見えるほどの速度。【天歩】の横に[+縮地]とあるのはその技能ではないかと当たりを付ける。縮地といえば地球でも有名な高速移動のことだ。
ハジメは足元が爆発するイメージで一気に踏み込んでみる。体内の魔力が一瞬で足元に集まる。踏み込んだ足元がゴバッと陥没し……ハジメは吹き飛んで顔面から壁にダイブした。
「はにゅ!?……痛い、これどうやってあの勇者達はああも自在に動けているの?」
一応成功したが、加減が難しい。蹴りウサギのようなカポエイラの如き動きをするためには鍛錬が必要なのだろう。銃技と組み合わせれば、きっと強力な武器になる。
次は[+空力]だ。だが、これが中々発動しない。名称だけではどんな技能なのかわかりづらい。あれこれ試す内に、ハジメは蹴りウサギが空中を足場にしていたことを思い出す。
早速、ハジメは、踏み出した空中に透明のシールドがあることをイメージする。そして、前方に跳躍してみた。
そして顔面から地面にダイブした。
「ぅううううううっ!!?」
右手で頭を抑え、ゴロゴロと地面をのたうち回る。しばらく身悶え、痛みが引くと憮然とした表情で神水を飲む。
「……一応、出来た。けど痛い……」
前方に跳躍して顔面からダイブした原因は中途半端に足場ができたせいだった。要は躓いて転けたのである。どうやら[+空力]は空中に足場を作る固有魔法で間違いないようだ。
どうやらこれらは【天歩】の派生技能らしくなんだか得した気分だった。
そして次の目標は――爪熊。
おそらく、遠距離からの銃撃で片はつくだろうが、念の為に鍛えておく。あの化け物より強い魔物がふらりと現れる可能性も否定できないのだ。あの爪熊を倒したあとは、この階層の脱出口を探し、日色を見捨てるなんて選択肢がない以上最悪日色を背負って戦わなければならない。迷宮では楽観視した者から死んでいくのだから。
ハジメは気合を入れ直した。
◆
迷宮の通路を、姿を霞ませながら高速で移動する影があった。
ハジメである。【天歩】を完全にマスターしたハジメは、【縮地】で地面や壁、時には【空力】で足場を作って立体的高速移動を繰り返して、空間把握能力を意図せず鍛えながらも怨敵である爪熊を探していた。
爪熊を殺すことはもはや決定事項だ。日色を抱えて脱出口を探す以上、この階層の中で最強でなければならない、故に一度心を砕かれた相手である爪熊を殺さなければ自分は決して前に進めない。
「グルゥア!」
途中、二尾狼の群れと遭遇し一頭が飛びかかってくる。しかしハジメの思考は一定に冷静だった。
ハジメはその場で跳躍し宙返りをしながら錬成した針金とナイフの鞘である革を合わせて作り右腰に固定したドンナーを抜き発砲する。
ドパンッ!と燃焼粉の乾いた破裂音が響き、【纏雷】で電磁加速された弾丸が狙い違わず最初の一頭の頭部を粉砕した。
そのまま空中で【空力】を用いて更に跳躍し天井に足を付け、視認したもう一体へと更に発砲する。
再び乾いた破裂音と共に標的となった二尾狼は頭部を粉砕されるが既にハジメはさっきいた場所から消えている。
ハジメは天井に足をつけた途端【縮地】で地面に跳躍、着地と共に三体目へと振るったドンナーの電磁ナイフが牙を剥く。
豆腐を斬るように二尾狼の首が切断され、残りの二体が突然再び現れたハジメに驚愕するが、その前にハジメがドンナーを連続で発砲する。
流石に全弾命中とはいかなかったがどうにか全弾撃ち尽くす前に仕留め切った。
ハジメは肘から先のない左腕の脇にドンナーを挟み、素早く装填する。そして二尾狼の死骸には一瞥もくれずに再び駆け出した。
出会っては殺し、出会っては殺す。蹴りウサギや二尾狼相手にそのサイクルを何度も繰り返しながら進んでいくとようやく宿敵の姿を発見した。
「――見つけた」
爪熊は現在食事中のようだ。蹴りウサギと思しき魔物を咀嚼している。その姿を確認するとハジメは笑った、まるで子供がなくしたおもちゃを見つけたかのように笑った後悠然と歩き出した。
爪熊はこの階層における最強種だ。主と言ってもいい。二尾狼と蹴りウサギは数多く生息するも爪熊だけはこの一頭しかいない。故に、爪熊はこの階層では最強であり無敵。
それを理解している他の魔物は爪熊と遭遇しないよう細心の注意を払うし、遭遇したら一目散に逃走を選ぶ。抵抗すらしない。まして、自ら向かって行くなど有り得ないことだ。
ならば、この爪熊に対して瞳に絶望を映さず、己を前にして背を見せることもなく恐怖に身を竦ませる事もないこの生き物は一体なんだ?
「あぁ、よかった。やっと見つけた。ねぇ、私の腕は美味かった?」
どうしてこの目の前の生き物は嬉しそうに笑っている?
かつて遭遇したことのない事態に、流石の爪熊も若干困惑する。
「散々探した、もしかしたらいないんじゃないかとも思ったわ。あぁ、でもこれでようやく――」
そう言いながらハジメはドンナーを抜き銃口を真っ直ぐに爪熊へ向けた。
ハジメは構えながら思い出す、日色との思い出を。そしてそれをぐちゃぐちゃに壊された目の前の怨敵を思い出す。
恐怖はある、日色がいなくなってしまうのではないかという恐怖が。
怒りはある、日色が傷つけられたことの怒りが。
絶望はある、日色が傷ついているのに何もできない自分への絶望が。
安心はある、日色が生きているという安心が。
ならば、全ての元凶は今ここで鏖殺しよう。
さぁ――
「――お前を殺せる」
――想いを全て、殺意に変えろ。
「――死ネ」
その宣言と同時にハジメはドンナーを発砲する。ドパンッ! と炸裂音を響かせながら毎秒三・二キロメートルの超速でタウル鉱石の弾丸が爪熊へと一直線に迫っていった。
◆
ドパンッ! と炸裂音を響かせながら毎秒三・二キロメートルの超速でタウル鉱石の弾丸が爪熊に迫る。
「グゥウ!?」
爪熊は咄嗟に崩れ落ちるように地面に身を投げ出し回避した。
おそらく、銃弾を見て回避したのではなく、ハジメから発せられた殺気に反応して動いたのだろう。その証拠に肩の一部が抉れて白い毛皮を鮮血で汚している。しかし、この場合は咄嗟にハジメの殺気に反応し回避行動に映ったのはさすが階層最強の主であるといったところか。二メートル以上ある巨躯に似合わない反応速度だ。
その一撃に爪熊の瞳に怒りが宿る。どうやらハジメを『敵』と認識したらしい。
「ガァアア!!」
爪熊は咆哮を上げながら物凄い勢いで突進する。二メートルの巨躯と多く広げた太くそして長い豪腕が地響きを立てて迫ってくる姿はとてつもない迫力だ。
「アハッ!そう!私はもう獲物じゃない、敵だ!」
爪熊から凄まじいプレッシャーを掛けられながら、なお、ハジメは不敵な笑みを崩さない。
ここが一つの分岐点だ。ハジメの左腕を喰らい、心を砕き、変心の原因となった魔物を打ち破る。そうしなければハジメは一歩も前に進めない、己の心がどこかで『妥協』してしまう。そうなれば日色を守るなんて夢のまた夢だ。
ハジメはそう確信していた。
突進してくる爪熊に、再度ドンナーを発砲する。超音速の銃弾が爪熊の眉間を狙うが爪熊は突進しながら側宙を行い回避した。その反応速度はあまりにもその巨躯に似合っていないだろう。
いや、それも当たり前なのかもしれない。何故なら図体が大きいなら動きも遅いなどというのはただのイメージに過ぎない。図体が大きいということはそれはつまり筋肉が発達しているということ。大きくなればなるほど筋肉の重量がまし、その重量を支えるために筋肉の力を使ってしまうのだ。
アリが小柄のくせに自分より大きいものを持てるのもそれが理由だろう。
ましてや爪熊は変質した魔力が全身に流れているため本来の筋肉の身体能力と変質した魔力による身体能力が合わさっているのだ、身体能力が高いのは当たり前だろう。
自分の間合いに入った爪熊は突進力そのままに爪腕を振るう。固有魔法が発動しているのか三本の爪が僅かに歪んで見える。
ハジメはそれを視認すると共に脳裏にかつてその爪をかわしたにもかかわらず両断された蹴りウサギの姿が浮かび上がる。ハジメはギリギリで避けるのではなく【縮地】を用いて全力で斜め後ろに回避する。
「――ッ」
刹那、一瞬前までハジメがいた場所を豪風と共に爪が通り過ぎ、触れてもいないのに地面に三本の爪痕が深々と刻まれた。同時にハジメは僅かに呼気を漏らした。見ると脇腹を浅く切り裂かれ血が滴り落ちている。避けきれなかったのだ。
いくら爆発的に上昇した身体能力でもまだ総合的には反応が追いついていない。
爪熊が獲物を逃がしたことに苛立つように咆哮を上げ再度間髪いれず追撃で襲いかかる。
「――チッ」
ハジメは舌打ちを突くとともに風の刃が殺到する。ハジメは【空力】で空中に逃れ、爪熊めがけ三度目の発砲を行ったが爪熊は右爪を地面に突き刺してまるで風車のように身体を右爪を中心に旋回させ、ハジメの紅い閃光を回避した。
「グルゥアア!!」
ハジメの銃弾を回避すると爪熊は咆哮とともに空中にいるハジメへと十字を切るように両腕を振るう。
刹那、ハジメの背筋を冷たい悪寒が奔っていく。もはや無意識に【空力】と【縮地】を用いて地面へと右斜め下に宙を蹴る。
瞬間、足に風を感じたかと思うとズバンッとさっきまでハジメがいた場所が十字に六本の格子状に削られた。
「――風も飛ばせるのッ!?面倒臭い!」
ハジメの左足の靴の端が削れ、ハジメの左足が浮き出ている。あと一瞬遅ければハジメの左足の腱が切り裂かれていただろう。爪熊の両腕の射程外にいたのに当たったということはあの風の刃は飛ばせるようだ。
ハジメは身体を宙返りさせることで顔面から地面に落下するのを回避し、地面に着地すると共に【縮地】を用いて一瞬で爪熊へと距離を詰める。
「死ねッ!」
「グガァ!!」
ハジメは【空力】で跳躍しながら爪熊の首元めがけドンナーの電磁ナイフを振るうとコンマ遅れて爪熊が対抗するように爪を振るう。
両者が重なり、再び離れると共に刃を沿うように血が放物線を描くように空中に飛んでいく。
ハジメは爪熊から距離を【空力】と【縮地】を用いて離すが彼女の顔色は優れない。
「……外したッ!」
苦々しくそう呟くと共にハジメの左頬が三本線で浅く切り裂かれ血が微かに零れる。それと同時に爪熊の左肩が切り裂かれた。
「グガァアア!!?」
電磁ナイフで切り裂かれたため血は出ないが軽傷は与えられただろう。本来ハジメは爪熊の喉元を狙ったのだが爪熊の風の刃を避けるために全身を捻らせ回避しようとしたため軌道が逸れてしまったのだ。
ハジメは顔を歪ませながらも再び突進してくる爪熊に今度は二度、連続してドンナーの引き金を引いた。連続して激発の音が洞窟内を轟く。
頭と胴体を狙った弾丸を流石に完全に避けきることはできなかったようで爪熊は側宙させることで致命傷は避けたが脇腹を一発貫かれたようだ。衝撃を受けて突進の軌道が逸れる。
「ガァアア!!」
「ッ!、しまっ――」
しかしそれでも巨体が砲弾の如く突っ込んできたことには限りがなくハジメは咄嗟に避けようとしたのだがズキリッ!と左足が痛んだことで一瞬動きが硬直してしまう。どうやら予想以上に風の爪の威力は左足にダメージを与えていたらしい。
足の怪我で動きが鈍ったハジメを爪熊の体当たりが直撃し、トラックにでも撥ねられたかのようにハジメは吹き飛ばされてしまった。
「がはっ!?」
地面に転がり肺の中の空気が強制的に吐き出され、何度も咳を繰り返すがハジメの口元は小さく笑っていた。
ドンナーの装填数は六発であり、既に五発使い切っている。残りは一発しか残っておらず再装填の暇を爪熊が与えてくれるはずがない。ドンナーの過剰な殺傷力がなければハジメのスペックでは未だ爪熊に叶う相手ではない。
しかし、ハジメの口は小さく笑っていた。
何故なら、もう
瞬間、ハジメが目を隠すように片手で目を覆うと共にハジメが吹き飛ばされた場所に落ちている直径5センチ程の深緑色のボール状鉱石がカッと強烈な光を放った。
その正体はハジメが作った『閃光手榴弾』である。
原理は単純だ。緑光石に魔力を限界ギリギリまで流し込み、光が漏れないように表面を薄くコーティングする。更に中心部に燃焼石を砕いた燃焼粉を圧縮して仕込み、その中心部から導火線のように燃焼粉を表面まで繋げる。
後は【纏雷】で表に出ている燃焼粉に着火すれば圧縮してない部分がゆっくり燃え上がり、中心部に到達すると爆発。臨界まで光を溜め込んだ緑光石が砕けて強烈な光を発するというわけだ。ちなみに、発火から爆発までは三秒に調整してある。苦労した分、自慢の逸品だ。
ハジメは爪熊の突進をくらう直前、ドンナーをホルスターに戻し、懐から『閃光手榴弾』を置いておいたのだ。
当然、そんな兵器など知らない爪熊はモロにその閃光を見てしまい一時的に視力を失った。両腕をめちゃくちゃに振り回しながら、咆哮を上げもがく。何も見えないという異常事態にパニックになっているようだ。
その隙を逃すハジメではない。再びドンナーを構えてすかさず発砲する。電磁加速された絶大な威力の弾丸が暴れまわる爪熊の左肩に命中し、根元から吹き飛ばした。
「グルゥアアアアア!!!」
その生涯でただの一度も感じたことのない激烈な痛みに凄まじい悲鳴を上げる爪熊。その肩からはおびただしい量の血が噴水のように噴き出している。吹き飛ばされた左腕がくるくると空中を躍り、やがて力尽きたようにドサッと地面に落ちた。
「……偶然にしてみれば出来過ぎな気もするけど。……まぁいいや、これで私と同じね」
ハジメとしては左腕を狙ったつもりはなかった。まだ其処まで銃の扱いをマスターしているわけではない。直進してくる敵や何度もやりあった二尾狼等、その動きを熟知していない限り暴れて動き回る対象をピンポイントで撃ち抜くことは未だ難しい。
故に、かつて奪われ喰われたハジメと同じ左腕を奪うことになったのは全くの偶然だった。
ハジメは、痛みと未だ回復しきっていない視界に暴れまわる爪熊を注視しながらドンナーを肘から先がない左脇で挟み込む形で再装填すると再度発砲した。
爪熊は混乱しながらも野生の勘で殺気に反応し横っ飛びに回避した。
どうやらハジメの殺意こそ爪熊にレールガンでの回避という離れ業を成功させている主な原因のようである。
既に爪熊はこの短時間で視力を少し回復させたのか残り一本になった右腕を構えこちらを強烈な怒りを宿した眼で睨んでくる。
それを理解したハジメは素早く決着をつけようとドンナーを構える、このまま完全に視力を回復させる前に電磁ナイフで止めを刺そうとしたのだ。
しかし、瞬間爪熊の違和感に気づく。
「……何?」
爪熊の纏う雰囲気が変わったのだ。今までの雰囲気も十分恐怖を感じる程の威圧感を感じさせたが今の爪熊は格が違う。正しく変貌といったかのように。
まるでハジメとは見ているものが違うかのような
ハジメの本能がかつてないほどの警鐘を鳴らす。
ハジメは咄嗟にドンナーを構え、刃による防御を行おうとして――
――ハジメが自分がどうなったのか気づいたのは
爪熊の紅く輝く瞳の残光を残して姿を消し、咄嗟に構えたドンナーごとハジメの身体を吹き飛ばす。
ハジメの体は一切地面にバウンドせず、迷宮の壁に直撃した。
「―――――――がッ!!?」
ハジメは肺からの空気と共に血を吐き出し、地面に倒れこむ。
爪熊が行ったことはシンプルだ、ただハジメに接近し爪を振るった。ただそれだけ。
ただし、それらの行動がハジメですら反応できないほどの速度だったが。
ハジメが生き残れたのは咄嗟にドンナーを構えたことと爪熊の視界が完全に回復しておらずそれにより右爪がドンナーに直撃した奇跡により生き残ることができたのだ。
ただし、衝撃はそのまま食らったため骨は一、二本折れ、全身にろくに力が入らない状態なのだが。
「――な、にが……!」
何が起こったのか理解ができず困惑するハジメは徐々に近づいてくる爪熊に気づくと何をされたのかはわからなかったが、誰がしたのかを理解した。
徐々に両眼に紅い残光を残しながら近づいてくる爪熊に立ち上がることのできないハジメは憎悪の瞳で見上げるしかなかった。
◆
そしてその同時刻
「…………………ッ………こ……こ、は……………………………………っ…………?」
一つの洞窟の中、一人の少年が眼蓋を開き弱々しく言葉を零した。
神代日色が目を覚ます。
原作との違いを作るにはどうしたらいいんだろう?→だったらハジメちゃんを強くしよう!→でもそう簡単に決着をつけるわけにはいかないなぁ……→そうだ!爪熊も強くしたらいいじゃん!→そしてこうなった、反省はしているが後悔はしていない。
ちなみに爪熊の技能を新たに一つ増やしました。