ありふれた職業で世界最強(女)と文字使い(ワードマスター) 作:アルテール
今回は皆さん大好きな原作メインヒロインの登場、え?吸血姫かわいいって?知ってる。
なかなか話が進みませんがこれからも『あり文字』をよろしくお願いしますm(_ _)m
そんなわけでどうぞッ!
「さようなら」
ハジメは決然とそう告げると右腕で日色の腕を掴んで引き寄せ、手を離し次にそっと扉を閉めようとする。それを見た金髪紅眼の少女が慌てた様に引き止める。
もっとも、その声はもう何年も出していなかった様に掠れて呟きの様に聞こえるが、必死さは伝わった。その声は勇者(笑)ならば確実に全速力で助けに行くだろう、というか言わなくても助けに行くと思う。
「ま、待って!……お願い!……助けて……」
「嫌」
そう言って変わらず扉を閉めようとするハジメ。ハジメさん、鬼ですか。
「ど、どうして……何でもする……だから……」
「…………」
首から下は動かないが必死に顔を上げ懇願する少女にハジメは反応を示さず、無言で扉を閉めていく。
「……ハジメ、助けようとしなくていいのか?」
躊躇いもなく扉を閉めようとしているハジメに日色は少し顔を痙攣らせながら呟くとハジメは金髪紅眼の少女を見ることすら億劫であるかの様に顔を少し苦めながら言い返した。
「あのね、日色。こんな奈落の底の更に底で明らかに封印されてる奴なんてロクな奴じゃ無いに決まってるでしょ、見たところ封印だけみたいだし……脱出に役立ちそうなものも無い。関わるだけ時間の無駄。それに……」
「それに、なんだ?」
「……いい、なんでもない」
途中、言葉が詰まったハジメに日色は聞き返すがハジメは首を振って誤魔化した。……頰が若干赤みを増しているのはどうしてだろうか?
まぁいいかと日色はふと思った疑問を忘れることにし、考える。
ハジメの言っていることは間違いなく正論だった。
普通、囚われた女の子の助けを求める声を、というか原作ではメインヒロインである少女をここまで躊躇いもなく切り捨てられることには目を剥いたがまぁ、この奈落ならば仕方
がないだろうと思う。
日色は原作知識をまだ完全には忘れておらず、大体の流れは技能【瞬間記憶】で今はもう無い原作知識を書いた紙を読み直している。
この金髪紅眼の少女を助けても大丈夫だということを日色は知っている。
――が、だからといって助けることはまた別だ。
そもそも創作物に書かれた紙の情報をどうやって信じれる?
創作物の世界に行ったんだからその紙の情報を信じれるのは当たり前だ、などと思っている人にこう投げかけたい。
ならば、その薄っぺらい紙に記された情報に命を掛けられるのか?、と
創作物の世界?――どうやってここがその世界だとわかる?神様だとかそんな超常的存在が言ったとしてもそれが本当か嘘か分からないというのに。
日色の中の人が昔、ありえない程香織や雫、ハジメを想像以上に恐怖しているのは正にそれが理由だ。
常に『もしも』の可能性を探り、調べ、予想し、対策しなければならないからだ。
だからこそ神代日色は考える。
ここで金髪紅眼の少女を助けるか否かを。
メリットは勿論ある、原作知識通りなら戦力となるだろう。
だが、デメリットの方が格段に多いのだ。裏切られる可能性、原作知識が訴える将来の危険性。
(………どうする?)
やっぱり見捨てた方がいいのか?と日色が思っているとすげなく断られた女の子がもう泣きそうな表情で必死に声を張り上げる。
「ちがう!ケホッケホッ………私悪くない!……待って!私………」
訴える女の子の言葉を知らんとばかりにハジメは扉を閉めていき、もう僅かで完全に閉じるという時、最後の気力を振り絞ったのか女の子の叫びが聞こえてきた。
「裏切られただけ!」
「………………………ッ」
その瞬間、もう僅かしか開いておらず今にも閉じられようとしている扉が一瞬止まった。
それは一瞬、されど一瞬。ハジメが一瞬心が動かされたことの証明だった。
別にハジメは封印されている女の子に同情しているわけではない。
奈落に落とされた時、結果的に日色も落ちることとなったので顔も知らない犯人をいつか殺してやるとは思ってはいるが、自分が落とされた事には全く恨んでなどいなかった。
そんなハジメがほんの僅かだが一瞬心を動かされたのは一瞬だけ浮かび上がった嫉妬だ。
顔も名前も知らない者に、誰かに助けを求めることが出来るこの女の子に対する嫉妬。最早過去を思い出す行為に痛みが奔る程傷つけられ、助けを求めることも出来ず壊れてしまった自分とは違う事実に。
とは言っても、それによりハジメは日色に出会うことが出来たので後悔は全く無いが。
ハジメはそのまま扉を閉め切ろうとして――
「――待て、ハジメ」
――その手を日色に掴まれた。
その行動に疑問符を浮かべたハジメは日色へと振り向いた。
「…?どうしたの、日色?」
「扉を開けるぞ、あいつと話をする」
変化のない声色で告げられた日色の言葉にハジメは目を剥き、驚愕した。
「な、何言ってるの?そもそも話って何を――「あいつは裏切られたと言っていた。つまり元々はここに封印されてなかったということだろう?だとすればここから出る方法を知っている可能性がある」――っ、それは」
日色の言葉に苦虫を潰した様な表情を取るハジメ。
その通りだ、あの少女の言い分は元々封印されていなかった証明になり、ここに封印された経緯を聞けば脱出の手がかりを見つけることは可能かもしれない。
だが、それとは別の理由でハジメは了承することが出来なかった。だって――
そうハジメが思った瞬間。
「――――え?」
ポンッと日色がハジメの頭に手を置いて優しく撫でた。
呆然とするハジメに日色は小さく微笑し、優しい声で言う。
「守って、くれるんだろう?」
「………………わかった」
その言葉にハジメは俯いて小さく了承の言葉を呟いた。
(…………ずるい)
扉を開け、女の子がいる封印の部屋へと歩んでいく日色を顔を俯かせて追いかけながら思う。
あんな優しい声であんなカッコいい微笑みで言われて、断ることなんてハジメには出来なかった。顔を俯けた自分の判断に称賛を送りたい。
今の自分の表情を見られたらきっと冷静ではいられないだろうから。
日色を追いかけるハジメの耳はこれでもかという程、真っ赤に染まっていた。
(全く…我ながら何やっているんだか……)
そんなハジメを置いておいて日色は己に呆れながら扉を全開にし、女の子に隙を見せず、歩み寄る。勿論油断はしない。
元々、日色は金髪紅眼の女の子を助けようと思っていなかった、何故ならさっき言っていたようにデメリットの方が多く、この世界が原作通りならばラスボスに目をつけられる可能性が更に増大するからだ。
だが、彼女の気力の振り絞った叫びに日色は心を動かされ一つの思いが湧き上がったのだ。
その、思いは――
『大人が子供を助けなくてどうするんじゃいッ!!』
いや、あの女の子はお前より年上だよ。
どうやら彼の中では封印されていた期間は年齢に入っていないらしい。
「おい、お前。ここから出たいか?出たいのなら応えろ」
日色が戻ってきた事に半ば呆然としている女の子、その女の子を一手一足を見逃さないように日色の背後でハジメが銃に手を触れている。
ジッと、豊かだが薄汚れた金髪の間から覗く紅眼で日色を見つめる。
何も答えない女の子に苛ついたのか「……聞いていないなら帰るぞ」と苛立ちを込めた声色で言い、踵を返そうとする。
それに、ハッと我を取り戻した女の子は慌てて頷いた。
「そうか。今からお前に質問することに答えろ。嘘をついたらお前を殺してさっさとここから出て行く。理解したか?」
「………(コクリ)」
日色の言葉に再度頷く女の子。よしと頷いた日色は質問を投げかけて行く。
「お前は裏切られたと言ったがそれはお前が封印された理由になっていない。裏切られたことが仮に本当だとして、何故お前をここに封印した?」
「私が、先祖返りの吸血鬼……だから。……すごい力持ってる……だから国の皆の為に頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって………おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」
枯れ果てた喉で必死にポツリポツリと語る女の子。話を聞きながら日色は眉を顰め、考える。原作の知識と照合し、矛盾や違うところがないか考えているのだ。
しかし、知っていたものの何とも波乱万丈な境遇だろうか、湧き上がってくる複雑な気持ちを押し殺しながら淡々と質問を続ける。。というか、全裸だということは封印される前に身ぐるみ全て剥がされたということに………いや、やめよう。
「お前はどこかの王族だったのか?」
「……(コクコク)」
「殺せないとはどういうことだ?」
「固有魔法…【自動再生】……怪我しても勝手に治る、首を切り落としてもそのうち治る」
「なッ!!?」
「おい……ハジメ…」
「…ご、ごめん」
女の子の固有魔法の効果につい声を出してしまったハジメに日色が非難の視線を向ける、ハジメは慌てて口を塞ぎながら小さく謝った。しかし、これで女の子にハジメがいることがバレてしまった。まぁ、別に構わないが。
「……話を戻すぞ。お前のすごい力はそれか?」
「これもだけど……魔力、直接操れる……陣…いらない」
それを聞いてハジメは「なるほど」と納得した。
ハジメや日色も魔物を食ってから、【魔力操作】が使えるようになった。身体強化に関しては詠唱も魔法陣も必要ない、他の錬成などに関しては詠唱も不要だ。
ただ、ハジメの場合、魔法適性がゼロなので魔力を直接操れても巨大な魔法陣は当然必要であり、日色に関してはそもそも【文字魔法】があるので
だがこの女の子のように魔法適性があれば反則的に力が発揮する。なぜなら周りがチンタラ詠唱やら魔法陣やら準備している間にバカスカ魔法を撃てるのだから。例えるならば火縄銃で戦闘機に立ち向かうようなものだろうか?
しかも不死身、絶対的なものではないだろうが勇者ですら凌駕しそうなチートである。
「……次の質問だ、お前はここから出る方法を知っているか?地上への脱出の道のりを」
「……わからない。でも……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われている」
「反逆者?」
聞きなれない単語に何とも不穏な響きにハジメが聞き返した。
「反逆者……
女の子曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した7人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。その果てというのが現在の七大迷宮と言われているらしい。
この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の最深部には反逆者の住まう場所があるらしい。
「……だから、そこに行けば地上の道があるかも……」
「なるほど……な」
神代の魔法使いがえっちらおっちらとこの迷宮を登ってくるとは思えない、神代の魔法使いならば転移系の魔法で移動しているはずだ。――女の子の話が本当ならば、だが。
「……助けて……」
日色が一人思索に耽り一人で納得しているのをジッと眺めながら、ポツリと女の子が懇願する。
日色はハァ、とため息をつき――踵を返した。
「ま、待って!……いかないでッ!……なんでもするから……ッ!」
日色が自分を助けてくれない、そう理解した女の子は必死に呼びかける。
その悲痛な叫びに日色は立ち止まり、体は向けず顔のみ振り向いて、こう言った。
「――さっさと出ろ、金ロリ」
その言葉に、女の子がえっ?と疑問の言葉を零した瞬間――
――女の子を縛っていた立方体がどろっと液体のように融解し、地面に落ちた。
女の子が長い期間一切身動きが取れなかった封印が、いとも簡単に。
――文字魔法『解』
どれだけ強い封印だろうと日色には関係ない、封印は『解』けばいいのだから。
体の全てを解き放たれた女の子は地面にぺたりとそのまま女の子座りで座り込んだ。どうやら立ち上がる力すらないらしい。一糸纏わぬ女の子の裸体は痩せ衰えていたが、それでもどこか神秘性を感じさせるほど美しかった。
日色はお気に入りの赤い外套を脱ぎ、女の子に被せようとする。流石に全裸のままでは自分としても困るからだ。
が、その手を女の子がギュッと握った。弱々しく力のない手だ、その証拠にフルフルと震えている。日色が疑問に思い少女の様子を見ると女の子が真っ直ぐに日色を見つめている。顔は無表情だがその奥にあるハジメとはまた違う紅眼には彼女の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。
そして、小さく震えながら、しかしはっきりとした声で女の子は告げた。
「………ありがとう」
「……約束を守っただけだ」
繋がった手は握られたままだ。一体どれだけの月日を彼女は過ごしたのだろうか?彼女の表情は会話している間も動いていない、それはつまりそれらを忘れるほど長い間封印されていたことの証明だった。大切な人に裏切られて。もしかしたら固有魔法【自動再生】の所為で発狂すら出来なかったのかもしれない。
「……名前、何?」
ブカブカな外套をよそよそと微笑ましく着替えながら囁くような声で少女が日色に訪ねてきた。
「日色だ、神代日色。後ろにいるのが南雲ハジメ。お前は?」
日色は後ろにいるハジメへと振り向き、指を指すとハジメはふんっ!と何やら不貞腐れていた。……なにか機嫌の悪いことでもあったのだろうか?
女の子は「日色、日色」と、大事なものを心に刻みつけるように繰り返し呟いた。そして名前を聞かれると思いついたように日色にお願いした。
「…日色……名前、付けて」
「は?つけるだと、忘れたのか?」
日色の返答に少女はフルフルと首を振る。
「もう、前の名前は要らない。……日色が名前を付けて」
「とは言ってもな、ハジメ!何か――「日色が付けて」」
元々あまりネーミングセンスがないことを理解している日色だ。ハジメに任せようかと思ったが残念ながら拒否されてしまった。
日色はハジメの助けを諦め、安易に決めることにした。
「ふむ、金ロ――「却下」――チッ」
即刻で却下された。因みに日色がつけようとした名前は『金ロリ』である。いや、もうそれ名前というよりか渾名では?
仕方ないな、と日色は頭を掻きながら新たな名前をつぶやいた。
「『ユエ』――俺の故郷で『月』を表す言葉だ。これでいいか?」
「ユエ?……ユエ……ユエ…」
「あぁ、お前のその髪、金髪だからな。月に似ているだろ?」
そう言う日色の言葉に女の子がパチパチと瞬きする。相変わらずのようだが瞳だけは輝いているように見えた。……まぁ、日色からすればロクな名前が浮かばなかったので原作に逃げただけだが。
「……んっ。今日からユエ。ありがとう」
「そうか。よかったな、
…………………………………………………………………………?
日色の言葉にキョトンとなる女の子、もといユエ。
「………………今、ユエって」
「確かにユエと名付けたな。
屁理屈だった、とてもしょうもない屁理屈だった。どうしてこの男は空気を読もうとしないのだろう。
「……ぅ、うぅ〜!」
「おい。何故腹を叩く」
ユエは無表情ながら少し怒りが混じったような表情でポカポカと日色の腹を殴る。力が無いため痛くも痒くもなく、殴る速度もかなり遅い。日色は何故叩くのか不思議だとでも言うように言葉をこぼす。
その光景を見ながらハジメは若干ユエに殺意を抱き、ドパンッ!しようかと思い――
――常時使用していた【気配感知】が反応を示したことに凍りついた。とんでもない気配を感じる魔物が直ぐ傍に存在することに気がついたのだ。
場所はちょうど――日色達の真上!
「日色ッ!!」
「――ッ!」
ハジメが日色を叫んだのと、ソレが天井から降ってきたのはほぼ同時だった。
咄嗟に日色はユエを掴み片腕で抱き上げると全力で【縮地】と文字魔法『速』の併用で離脱する。一瞬で移動した日色が振り返ると、直前までいた場所に地響きを立ててソレが姿を現しながら落ちてきた。
体長5メートル程の胴体に、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして何よりもその尻尾の先端には鋭い二本の針が付いている。一番わかりやすく例えるとサソリだろうか。
何よりも、地面に触れた途端、地面が生きたように動きサソリの全身を石で覆っていき、鎧のようになっている。
ユエが封印されていた部屋で反応を示さなかったと言うことはユエが封印から解けると放出される魔物だったのだろう。【気配感知】では明らかに強敵と感じる気配がビンビンに伝わってくる。
ふとユエを見れば一心に凪いだ水面のような静かな覚悟を決めた瞳で日色を見ていた。ユエは喋らずともこう言っているのだ。自分の運命を日色に預ける、と。
「全く、めんどくさいことになった」
日色はユエのその瞳を見て苦笑する。そして一瞬でユエを背負いポーチから取り出した神水を無理矢理飲ませる、異物を突っ込まれたせいか涙目になっているのは無視である。
しかし神水の効果でユエの衰えきった体に活力が戻ってくる感覚に目を見開き、強く日色の肩を握ったのを感じた。
「死にたくなければ離すなよ、金ロリ。ハジメ、いけるな?」
「当然ッ!」
日色の言葉に微かに紅雷を走らせる銃を構え、待ってましたと言わんばかりにサソリモドキへと殺意の込められた笑みを浮かべるハジメ。日色も試作刀を右手で引き抜き、左手に蒼い魔力を燈らせながら臨戦体勢に入る。
「来いよ、サソリモドキ。邪魔をするなら殺してやる」
『サソリって美味しいんだっけ?出来ればかっ◯えびせんみたいな味だととっても嬉C、ラショウと合う事を願い申す(迫真)』
そんな場違いな思考とともに新たな戦闘が始まった。
封印さん「誠に遺憾である」
そんなわけで今回は新たなヒロインユエのあだ名は、金ロリになりました。……うん、間違ってはないかな?そして一瞬で解かれた哀れな封印さんは泣いていい。
そして日色の中の人が原作キャラに怯える理由の一つが判明しましたね。本の世界だから、小説の世界だからそうに決まっている等という考えは日色にはありません、彼はもしかしたら……というイフを常に考えて勝手に恐怖しているためあんなオーバーリアクションになっているんです。……いや、まぁ元々の性格のせいもあるんですが。
次回は全面的に戦闘回&日色のちょっとした覚醒です。……まぁ、きっとそこまでいかないだろうと思いますけど。