ありふれた職業で世界最強(女)と文字使い(ワードマスター) 作:アルテール
今回はなんと文字数一万六千文字突破!えーと、はい、書く事が多すぎて気がつけばこれほどの文字数になっていました。……サソリモドキ回だけでどうしてこんなに書いてしまうんだろう?
まさかサソリモドキの固有魔法をちょっと強くしたらいいんじゃね?なんて思って書いたらこんなことに……どうしてこうなったんだ!?
そんなわけで今回はサソリモドキ戦のみです、爪熊が強くなった理由や日色が活躍したりするのでご了承ください。
そんなわけでどうぞ( ´ ▽ ` )、
「キシャァアアアアアッ!!」
最初に先手を打ったのはサソリモドキだった。
サソリモドキは尻尾の針から紫色の液体を噴射する。紫色の液体は地面につくことなく日色達へとかなりの速度で直進する。
それに応じる様に日色が前に出て、左腕を振るう。
「――
左腕を振るっただけ――他人にはそう見えた動きだが振るった場所に日本人にしかわからない高速で書かれた『守』の文字が現れ、日色の意思に従い紫色の液体へと高速で直進する。
紫色の液体と『守』の文字が衝突する瞬間、『守』の文字が火花と共に弾け、5メートルほどの蒼色の結界を形成する。
紫色の液体は蒼色の結界に着弾すると共に弾け、地面に落ちると共にジュワーという音を立てて瞬く間に床を溶かしていった。溶解液のようだ。
「ハジメ!」
「――分かってるッ!」
それを横目に確認しながら日色が叫ぶと共に日色の背後でハジメがドンナーを抜き様に発砲する。
もちろん初っ端から最高威力だ。ドパンッ!と秒速三・九キロメートルの弾丸がサソリモドキの頭部に炸裂する。
(――私と……同じ!?)
それを見た途端、日色の背中越しにユエの驚愕が伝わって来た。見たことのない魔法と見たこともない武器で、攻撃を蒼色の閃光のような何かが防ぎ、紅色の閃光のような何かが攻撃したのだ。それも魔法の気配もなく。日色の人差し指が一瞬蒼色に輝いたがそれも魔法陣や詠唱を使用していない。日色とハジメが自分と『同類』である、つまり魔力を直接操作する術を持っているということに気づいたのだ。
自分と〝同じ〟、そして、何故かこの奈落にいる。ユエはそんな場合ではないとわかっていながらサソリモドキよりも日色達……何より日色を意識せずにはいられなかった。
一方、日色とハジメは【空力】を用いて移動を繰り返していた。その表情は今までになく険しく、サソリモドキが未だ健在であるどころか微動だにしていないことを【気配感知】で理解しているからだ。
それが事実であるように舞い上がった煙を吹き飛ばし、凄まじい速度で針が撃ち出された。咄嗟に避けようとした日色達だが、針が途中で破裂し散弾のように広範囲を襲う。
「――くぅ!」
「チィッ!」
日色は襲い掛かる針をユエに当たらないように刀で片っ端から叩き落とし、時に文字魔法で防いでいく。
ハジメも苦しげに唸りながら、ドンナーで撃ち落とし、【豪脚】で払い、【風爪】で叩き切る。
どうにか凌ぎ、お返しとばかりにドンナーを発砲するが、再び地面から纏った石の鎧を粉砕するだけで中の外殻には傷一つなく微動だにせず耐えきられてしまう。
だが――
「一瞬でも動きが止まれば隙だらけになるに決まっているだろう?」
――その弾丸の衝撃に怯んだ隙にユエを抱えた日色がサソリモドキの顎へと接近している。
咄嗟にサソリモドキは四本バサミを繰り出すが最初の一本目を体を沈み込ませることで髪を風圧で凪ぐことしかできず、2本目を振るう前に日色が刀を両手で右下から左上へと振り上げる。
構えるは脇構えである金の構え、斬るためではなく叩きつけるために日色は既に『打』の文字を書いた刀を振り上げる。
「吹き飛べ」
瞬間、サソリモドキの体を斜め下から超巨大のハンマーが叩いたかのような衝撃がサソリモドキを吹き飛ばす。
甲高い金属音が響き渡り空気が辺りを響き渡らせる――が、刀から伝わる衝撃を腕を伝わって感じながら日色の表情は優れない。
「――硬いな」
吹き飛ばされたサソリモドキは未だ健在――どころか、石の鎧を全て粉砕しただけで外殻には凹み一つない。宙返りして体勢を整えながら綺麗に着地するほどの余裕があるほどだ。
サソリモドキは最優先で日色とその背中に乗っているユエを殺すため更に散弾針と溶解液を放とうとした。
「日色っ、離れて!!」
しかし、日色が背後に退避するとともにその前にコロコロと転がってきた直径八センチ程の手榴弾がカッと爆ぜる。その手榴弾は爆発と同時に中から燃える黒い泥を撒き散らしサソリモドキへと付着した。
いわゆる【焼夷手榴弾】というやつだ。タールの階層で手に入れたフラム鉱石を利用したもので、摂氏三千度の付着する炎を撒き散らす。ハジメが日色の危機を直感的に感じ、投擲したのだろう。
流石に、これは効いているようでサソリモドキが攻撃を中断して、付着した炎を引き剥がそうと大暴れした。日色はついでとばかりに『油』の文字を書いて、サソリモドキに飛ばすことで炎の勢いを強ませ、更に時間稼ぎを行った。
その隙に、後方に下がった日色にハジメが空中でリロードを片手で行いながら日色の元へと着地した。
「日色、無事!?」
「――あぁ。しかし、あのサソリモドキの外殻が硬すぎるな、摂氏三千度の炎で溶けないのはさすがに物質離れしすぎてないか?」
「だったら、文字魔法での攻撃は?文字魔法ならいくら外殻が硬くてもどうとでもなるんじゃないの?」
そう、どれだけ硬度が高くても文字魔法ならば切断や柔らかくすることは可能だ。それならばサソリモドキなど殺すのは容易い、そうハジメは進言したのだが――
「無理だ」
――日色はそれを容易く否定した。
「見てろ」と呟き、左手で『割』の文字を一瞬で書くと文字を射出する。
日色の名に従い『割』の文字は未だ火だるまとなっているサソリモドキめがけて発射されるが――
――サソリモドキの外殻に触れる前に石の鎧が庇うように遮り、パッカリと二つに両断された。
「あのサソリモドキ、常に地面の石を纏わせて防いでいる。文字魔法が作用するのはあくまで触れた物体だけだから纏わせた石の鎧を壊すことが出来てもその先までは壊すことは不可能だ。しかもさっきの攻撃でわかったがあの鎧、衝撃を受けた途端自ら弾け飛ぶように壊れることで衝撃を和らげているな」
『うーむ、確かサソリモドキにはもうひとつ何か秘密があったような希ガス』
原理としては外部からの攻撃に対して何らかの反応(Reaction)を起こすことで防御効果を発揮する装甲『爆発反応装甲(Explosive Reactive Armour)』が代名詞であるリアクティブアーマーと同じだ。
サソリモドキのあの石の鎧は固有魔法か触れた途端、炸裂し衝撃を和らげているのだ。
「つまり――」
「――私の錬成なら衝撃を和らげることもなくドンナーを食らわせれるということね」
「可能性としては……だがな」
そう日色が呟く頃には【焼夷手榴弾】はタールが燃え尽きたのかほとんど鎮火してしまっていた。しかし、あちこちから煙を吹き上げているサソリモドキにも少しはダメージがあったようで強烈な怒りが伝わってくる。
「キシャァァァァア!!!」
「来るぞッ!」
絶叫を上げながらサソリモドキはその八本の足を猛然と動かし、日色達に向かって突進した。四本の大バサミがいきなり伸長し大砲のように風を唸らせながらそれぞれ日色とハジメに迫る。
ハジメは一本目を【縮地】でかわし、二本目を【豪脚】で蹴りウサギの如き鋭い弧を描くような蹴りで蹴り流し、三本目を日色が刀でいなす事で大バサミを上へと受け流し、四本目を日色は【空力】で大バサミの数センチ上に宙返りして大バサミの上に乗って駆け出す。背中のユエが激しい動きに「うぅ」と唸っているが、どうにか堪えられているようだ。
その隙にハジメは、そのまま空中を跳躍し、サソリモドキの背中部分に降り立った。
【錬成】を使い石の鎧に穴を開けようとするがサソリモドキの固有魔法の抵抗があるせいか予想以上に穴が小さくなってしまった。直径30センチ程空いた石の鎧の隙間にドンナーの銃口を黒光りする外殻にゴツッと押し付けるとゼロ距離で連続で発砲した。
ズガンッ!! ズガンッ!! ズガンッ!!
凄まじい炸裂音が連続で響き、サソリモドキの胴体が衝撃で地面に叩きつけられる。
しかし、直撃を受けた外殻は僅かに傷が付いたくらいでダメージらしいダメージは与えられていない。その事実に歯噛みしながら、ハジメはドンナーを振りかぶり【風爪】+電磁ナイフで斬りかかるがガキッという金属同士がぶつかるような音を響かせただけで、やはり外殻を突破することは敵わなかった。
「――このッ!」
「ハジメッ!離れてろっ!!」
――我流剣術【天閃】
ハジメの傷をつけた場所に大バサミから登ってきた日色が正確無比の斬撃を叩きつける。
再びサソリモドキの胴体が地面に叩きつけられる。
――が、日色の斬撃は火花を散らしながら少し傷ついたサソリモドキの外殻の深さを数センチ深く切り裂いただけだった。
サソリモドキが「いい加減にしろ!」とでも言うように散弾針を自分の背中目掛けて放った。
日色とハジメは即行でその場を飛び退き空中で身を捻ると、ハジメは散弾針の付け根目掛けて発砲する。超速の弾丸が狙い違わず尻尾の先端側の付け根部分に当たり尻尾を大きく弾き飛ばすが……尻尾まで硬い外殻に覆われているようでダメージがない。完全に攻撃力不足だ。
空中のハジメを、再度、四本の大バサミが嵐の如く次々と襲う。それを日色がハジメを庇うように前に出て、距離を取ろうと
「――グッ!」
「――ッ、日色ッ!」
ハジメは苦し紛れに【焼夷手榴弾】を吹き飛ばされながらサソリモドキの背中に投げ込んだ。爆発四散したタールが再びサソリモドキを襲うが時間稼ぎにしかならないだろう。
どうするべきか、日色達は策を考えながら地面に体勢を整えて着地すると、瞬間今までにないサソリモドキの絶叫が響き渡った。
「キィィィィィイイ!!」
「「――ッ!!?」」
その叫びを聞いて、全身を悪寒が駆け巡り、咄嗟に【縮地】で距離をとろうとする日色達だったが……既に遅かった。
瞬間――
正確には、絶叫が空間に響き渡ると同時に、突如、周囲の地面が波打ち、轟音を響かせながらまるで日色達を飲み込む口の如く這い上がってきたのだ。おそらくサソリモドキの固有魔法は広範囲の地形操作なのだろう、操作の規模が少しおかしいが。
「クソッ!」
「最悪ッ!!」
これには完全に意表を突かれた。
日色達は【空力】で空を逃れるが、それを捕らえようとするように、地面から無数の円錐の刺が、巨大な肉食獣の牙の如き5メートル程の巨大な土の牙が、海岸に流れるような土の大波が。
圧倒的物量を持って宙に逃げた日色たちへと襲い掛かる。
「嘘でしょ!?流石に洒落にならないッ!!」
「クッ、物量が多すぎる!!金ロリ!振り落とされるなよ!!」
「んっ!!」
日色は【縮地】【空力】そして文字魔法『速』を同時使用することでユエを背負ったハンデのまま加速する。
土の牙を避けるどころかむしろ足場にしながら空中を駆け、円錐の無数の刺を刀で撃ち落とし、大波を文字魔法『静』で固有魔法を打ち消しながら空中で360度からの攻撃に全て対応する。
だが――
(クソッ!押し切られるッ!)
――物量差が多すぎるのだ、今はなんとか凌いでいるが限度がある。サソリモドキが固有魔法を使用してから30秒ほどしか経ってないがその少しの時間ですら凌ぐことが困難になっているのが現状だ。
(――だが、あのサソリモドキの魔力もかなりの勢いで減っているはずだ。余裕を残すなら最高でも60秒程度が限度のはず……限界がないのかもしれないが)
むしろ、これほどの攻撃に10秒も必要ないくらいだろう。これほどの物量による攻撃、防御特化の勇者パーティの一人結界師の谷口鈴がいたのならば凌げるかもしれないが最悪軍を壊滅することもサソリモドキがやろうとすればできるかもしれない。
日色の推測はあっていたらしく急激に物量が少なってきている。
その事実によし、と一瞬思考が逸れた瞬間――
――背後でサソリモドキが此方へとサソリモドキの散弾針の尻尾がピタリと自分に照準されているのが視界の端に見えた。
「―――」
思わず顔を引きつらせる日色。
しかももう片方の溶解液を吐き出す尻尾を別方向で練成を用いながら必死に攻撃を凌いでいるハジメの姿が眼に入った。
「―――」
しかも、ハジメには尻尾を向けられていることに気づいていない。
つまり、この状況で日色は避けることは不可能ではないがその場合、ハジメがあの溶解液に直撃することは間違いないだろう。
だが生憎とこちらには神水がある、たとえハジメが傷ついても神水であれば治しすぐに戦線復帰できるだろう。
むしろ、自分が散弾針を食らってしまうほうが当たる場所によっては自分が死んでしまう可能性が高い。
故に、自分のことに意識して、ハジメは見捨てたほうが正解だ。
それを理解した日色は、すぐさま行動に起こす。
ハジメのことなど一切考えず、自分の為に行動し――
――
視界の端でユエが驚いたような、泣きそうな表情を取っているような気がしたが、それらを全て無視して左腕と右腕を可能な限りクロスさせて急所を守り、更に刀で顔を守り、魔力の直接操作で身体を限界まで強化し筋肉を締めた。
そして瞬間、車に飛ばされたような強烈な衝撃と共に肉を突き破るような音が体を通して伝わり、鋭い針が何十本と日色の体を蹂躙した。
◆
ハジメは【空力】と【縮地】を併用しながらサソリモドキの攻撃を避け、時に練成を行うことで波打つ地面そのものを固定し、短時間に大量に襲い掛かる攻撃を凌いでいた。
「――このっ、数が多いのよ!」
悪態を吐きながらも必死に凌いでいるが流石にもう限界が近い。襲い掛かる針を【豪脚】で叩き落とし波打つ地面を再度錬成で押さえつける。
すぐさま、ハジメは襲い掛かる攻撃の気配を感じて振り向こうとし――
「――日色ッ!!――ぐぅ!!?」
「キャっ!?」
――此方へとユエを投げ飛ばした日色が無数の散弾針に貫かれ、吹き飛ばされたのを視認した。
咄嗟に追いかけようとするが、日色が傷つけられたことに一瞬動揺し、此方へと飛んでくるユエを受け止め損ね、かなりの速度で投げられたのだろう、体勢が崩れてしまう。
その崩れた隙を狙い打つように此方へと溶解液がサソリモドキから噴出された。
(このッ……次から次へと……ッ!!)
ハジメはユエを抱えたまま、【空力】で回避しようとするが体勢が崩れたせいで間に合わない。
背筋がキュッと縮まる感覚を味わうが――瞬間、ハジメ達を守るかのように『守』の文字が溶解液の進路に割り込んだ。
再度発動される結界が溶解液からハジメ達を守りきり、それを合図に波打っていた地面が一時的に静まった。
日色に自分を犠牲にして守られた、それを理解した途端ハジメの顔色は蒼白に染まり、サソリモドキが攻撃の手を止めたこの隙を逃すなとハジメの経験が音を鳴らす。
だが、あくまでこの生まれた隙は一瞬に過ぎない、今ハジメが日色を助けに向かえば瞬く間に二人共嬲り殺しだ。
だから――
ハジメはそう思い、考えた策に憎しげに歯を食いしばった。
「――っぅ!!ユエ!日色にコレを飲ませてッ!!」
「……でも」
「早くしてッ!本当はお前なんかに日色を預けたくないけど、日色を助けるにはこれしかないのッ!!私が抑えるからさっさと行って!!」
ハジメの考えた策はユエに日色の容態を見に行ってもらうことだった。
自分が迎えばサソリモドキに日色ごとやられてしまう、時間稼ぎを行う者が必要だ。
本来ハジメはユエを信用していない、いつでも裏切る気配を見れば即座に殺すと決めている。だが、今この危機的状況には、日色を助けるためにはユエに託すしかないのだ。
最初、ハジメはユエを身代わりにしようと思ったがそれをしてしまえば
だからこそハジメは託すしかなかった。
ユエはハジメが差し出した神水の容器を持つと一瞬、躊躇したように見えたものの「日色を助ける」というハジメの言葉に決意を持った瞳で受け取り、吹き飛ばされた日色の元へと走り出した。
ハジメはそれを横目に見ながら片手にドンナーを構え、こちらを睥睨するサソリモドキへと銃口を向ける。
「キシャァアアアアアアアアアアッ!!」
「――さっさと死ね、サソリモドキ!」
◆
「日色!」
「――ガァッ!……ユエかっ」
ユエが日色の元に向かうと日色は必死に深々と突き刺さった針を抜こうとしていた。
どうやら神水の入った容器はいくつか貫かれて使い物にならなくなったらしく、日色は神水無しで針を抜いているため所々が血だらけになっている。
「日色……コレ、飲んで」
「これは……神水か。悪いな、世話をかける」
日色はユエから血だらけになった右腕で神水を受け取り、一息で飲み干すと再度無理矢理針を全て引き抜いた。
カランカランと地に全て落ちた針を確認し、顔を上げるとユエの表情が無表情が崩れ今にも泣き出しそうになっていた。
「しかし……あのサソリモドキをどう攻略するか……いっそのこと捨て身特攻するべきか?いや、だとしてもリスクが……」
ユエの心配を余所にサソリモドキを攻略すべく思案する日色にユエはポツリと言葉を零す。
「……どうして?」
「あ?何がだ?」
「どうして逃げないの?」
自分を置いて逃げれば助かるかもしれない、その可能性を理解しているはずだと言外に訴えるユエ。それに対して、日色は呆れたような視線を向ける。
「何言ってんだ金ロリ、そんなことすれば約束を果たせないだろう」
「……え?」
日色の言葉にユエは何を言っているかわからない、とでも言うように困惑の表情を取る。
当たり前だ、日色が言った約束は封印部屋から出すことだけのはずだ。
そうだ、だって、日色はちゃんと此処から出してくれると――
――待て。
そこまで考えてユエの思考が停止した。
確かに日色は自分を此処から出してやると言ってくれた。それは間違いなく決定的な事実だ。
だが、
――だったら、だとしたら。
「言ったはずだぞ、金ロリ」
ユエは、呆然といったように立ち上がった日色をゆっくりと視線を向けてしまう。
――日色が言った
「お前を此処から、
「――ぁ」
呼吸が止まった。
あまりにも淡々と呟いた日色の言葉がユエの心に染み渡り、ユエはストンと何かが心に落ちたのを感じた。
昔、ここに閉じ込められてしまったときになくしてしまった何かが。
ユエは日色に言葉以上の何かを見たのか顔を俯かせいきなり日色の背中に抱きついた。
「――ッ、いきなり何だ?」
「日色……お願い、信じて」
そう言ってユエは、日色の首に手を回し日色の首筋にキスをした。
「ッ!?」
否、キスではない。噛み付いたのだ。
日色は首筋にチクリと痛みを感じた。そして、体から力が抜き取られているような倦怠感が全身に巡っていく。自分のことを吸血鬼と名乗っていたのでおそらく自分は現在吸血されているのだろうと日色は推測した。
『信じて』――――その言葉は、きっと吸血鬼に血を吸われるという行為に恐怖、嫌悪しても逃げないで欲しいということだろう。
「――できるだけ、早くしてくれ」
日色はそれに苦笑しながらも、必死に視界の先で時間稼ぎを受け持っているハジメのことが気が気ではなかった。本来なら今すぐ助けに行きたいところだ。
しかしその日色の思いに反してユエは日色の血を飲んだ時にあまりの美味さに身を震わせ力をつけながらも驚愕していた。
吸血鬼の主食とも言え、嗜好品でもある血液。随分と長いこと口にしていなかった為『空腹は最高の調味料』と言われるがそれを抜きにしても日色の血液はユエが今まで飲んだ血液の中でぶっちぎりで最高だった。
(駄目……コレ……飲まれ……)
永遠に飲んでいたくなるような芳香で濃厚な味わい。そして舌触りの良さと喉を通り抜ける感覚に延々と飲めるほどの飲みやすさがあるのにもかかわらず、かつてないほどの濃く、深い味わい。まるで神々の美酒に例えれるほどの至高という言葉すら物足りない味が細胞一つ一つをまで染み渡り、蘇らせるような感覚が全身の奥深くまで駆け巡る。
もはや日色の血液の味は快楽の絶頂どころの話ではない、少しでも気を抜けば冗談抜きで文字通り
そんな神々しい美血を吸血し始め3秒後。
「――ッ、ハジメ!!」
「――
攻撃を避け損ねたのだろう、サソリモドキの四本の大バサミの一つを避け損ねたハジメは吹き飛ばされ、日色の叫びと共に日色達のところまで落ちてきた。全身には幾つもの裂傷や擦り傷顔の眉毛部分に決して浅くない裂傷が走っており、そこから血が流れ白くなった眉毛を紅く染め上げていく。
しかし、吹き飛ばされる直前に【閃光手榴弾】を投げたらしく前方でサソリモドキが視力を失いパニックに陥っていた。
「ハジメッ、無事か!?」
「大丈夫っ!むしろ日色は――って、ユエッ!何をしてるの!羨ま――今すぐ日色から離れて」
ハジメは振り向くと共に日色に抱きついているユエを視認して、若干声を荒げるが途中何故か一瞬言葉を詰まらせ、すぐさま冷静に言葉を零しながらユエへと銃を構えた。
そしてその引き金が引かれようとする前に日色がハジメを制止した。
「――待て、ハジメ。簡潔に状況を説明するから話を聞いてくれ、ユエが吸血鬼だということは知っているだろう。ユエは今、俺から吸血しているから俺たちは動けない、だから………」
「キィシャァアアアアアアア!!」
「クソッ!もう、復帰したのか!?」
サソリモドキの咆哮が轟く。どうやら【閃光手榴弾】のショックから回復したらしい。こちらの位置を把握しているようで、再び地面が波打ち、土の棘が、土の牙が、大量に日色達へと襲いかかる。
「――日色、ひとつだけ教えて?」
攻撃性のある土の猛威がサソリモドキの意思に従って襲いかかろうとする中、凛としたハジメの声が明確に空間を響き渡る。
「私は、何をしたらいい?」
そのハジメの質問に、そのハジメの疑問を問いかける声に日色はこんな状況でありながら小さく笑って回答した。
「――俺達を、守ってくれ」
「――わかった」
――瞬間、日色達に襲いかかった巨大な土の牙が、大量の土の棘が、総てただ一つの例外もなく、突如出現した土の壁に遮られ、吹き飛ばされ、弾かれた。
ハジメが地面に右手を置き行った錬成は、ハジメ達を中心に半径5メートル程を中心に波打つのを止め石の壁がハジメ達が囲むように形成される。
周囲から大量の土の棘や巨大な土の牙、時に土の大波が生み出されるが総てハジメの錬成によって防がれ、弾き飛ばされたのだ。
「生憎とコレは私の
地形を操る規模や強度、攻撃性はサソリモドキの方が圧倒的に上だろう。だが、錬成速度と錬成の応用性はハジメの方が上だ。
土の棘は何度も形成される防壁に防がれる、巨大な土の牙は真横や真下から突然高速で形成される石の壁が弾き飛ばし、土の棘を弾く防護壁となってしまう。土の大波はハジメの錬成範囲5メートルに入った途端、崩れるように停止し、地面に落下してしまう。
ドグッガギッゴガッガギッギギギギギギギギギッッ!!、と何度も土と土がぶつかり合い、お互いを削りあっていく。
ハジメが錬成をしながら防御に専念していると、ユエが漸く日色の首筋から口を離した。
どこか熱に浮かされたような表情でペロリと日色の血がついた唇を舐める。その仕草と共にやつれていた肌はツヤツヤと張りのある白磁のような白い肌となり、頰は夢見るような薔薇色となっていた為、何処か妖艶さを感じさせる。
何処か影が居座っていた紅の瞳は温かな光を薄らと放っていて、その細く小さな手は、そっと撫でるように日色の首筋に置かれている。
「……ごちそうさま」
そう言うと、ユエは日色から降りサソリモドキに向けておもむろに片手を掲げた。同時に、その華奢な身からは想像もできない莫大な魔力が噴き上がり、彼女の魔力光なのだろう――黄金色が暗闇を薙ぎ払った。
そして、美しい神秘に彩られたユエは、魔力色と同じ黄金の髪をゆらりゆらゆらとなびかせながら、一言、呟いた。
「【蒼天】」
その瞬間、サソリモドキの頭上に直径六、七メートルはありそうな青白い炎の球体が出来上がる。
直撃したわけでもないのに余程熱いのか悲鳴を上げて離脱しようとしながら固有魔法で地面を操り、防壁を作り出そうとするが奈落の底の吸血姫がそれを許さない。
ピンっと伸ばされた綺麗な指がタクトのように優雅に振られ、青白い炎の球体は指揮者の指示を忠実に実行し、土の防壁を紙を燃やすが如く容易く燃やし尽くしながら逃げるサソリモドキを追いかけ……直撃した。
「グゥギィヤァァァアアア!?」
サソリモドキがかつてない絶叫を上げる。明らかに苦悶の悲鳴だ。着弾と同時に青白い閃光が辺りを満たし何も見えなくなる。ハジメと日色は腕で目を庇いながら、その壮絶な魔法をハジメは呆然と、日色は何かを考えているような無表情で眺めた。
やがて、魔法の効果時間が終わったのか青白い炎が消滅する。跡には、背中の外殻を赤熱化させ、表面をドロリと融解させて悶え苦しむサソリモドキの姿があった。
あのハジメが使う摂氏三千度度の【焼夷手榴弾】でも溶けず、ゼロ距離からレールガンを撃ち込まれてもビクともしない、日色の文字魔法すら防いだ化け物の防御を僅かにでも破ったユエの魔法を称賛すべきか、それだけの高温の直撃を受けて表面が溶けただけで済んでいるサソリモドキの耐久力を褒めるべきか、日色としては悩むところであった。
トサリと音がして、ハジメが驚異的な光景から視線を引き剥がし、そちらを見やると、ユエが肩で息をし、日色に支えられながら座り込んでいる姿があった。どうやら魔力が枯渇したようだ。
「無事か、金ロリ」
「ん……最上級……疲れる」
「…そうか、よくやった。後は俺がやるからゆっくり休んでろ」
「ん、頑張って……」
日色の賞賛に無表情だが嬉しそうに少し頬を緩めるユエに日色はポンポンと頭を優しく叩くと、錬成に魔力を使いすぎたのか同じく肩で息をしているハジメの元に向かっていく。
「ハジメもだ、よく時間稼ぎしてくれた。あとはゆっくり休め」
「ま、待って、日色!私はまだ――」
日色はハジメに賞賛と休息の意を込めて言葉を贈ったのだがハジメは魔力枯渇でフラフラになりながらもまだ戦えるとばかりに立ち上がろうとして――
――ポンッと日色はハジメの頭を優しく撫でた。
「いいから、休んでろ。もう、体は限界が近いはずだろう?神水で治せ」
「ひ……い、ろ?」
優しさとともに思いやりを感じるその日色の言葉、だがハジメには違和感を感じずにはいられなかった。
確かに日色の言葉には不器用ながらも優しさを感じるだろう、だが日色の声色は一定で変化が無く無機質さをハジメは感じてしまったのだ。
そう、まるでハジメが檜山グループに
日色は謎の予感を抱えているハジメの頭から手を離し、サソリモドキの方を向くと腰に差している刀に左手を添え、体勢を少し下げる。
そして、瞬間――
――日色が消えた。
ドォンッッッ!!?という地面があまりの衝撃に耐え切れずひび割れ、抉れ、粉砕すると共に刹那遅れて粉砕音が聞こえてくる。
しかしハジメは辛うじて日色の動きを視認していた。
日色が体勢を低くした瞬間、滑らかにサソリモドキへとすり足によって接近する、最初の一歩は極自然な踏み込み、しかしそれは停止状態から加速したとは思えない、
「キィシャァアアッ!!」
しかし、それ程の速度すら視認しているのかサソリモドキは固有魔法を用いて地面を波打たせ、巨大な土の牙を、大量の刺を、日色そのものを飲み込むがごとく土の大波を巻き起こし、それらが全て日色という敵対者へと殺到する。
だがそれらの攻撃は全て日色には通じなかった。
初陣として襲いかかるのは30をも超える巨大な土の牙、それらが全て日色を引き裂き、貫き、粉砕するため襲い掛かる。
「――――」
それに対し日色は反撃も、いなす事さえ行わない、徹底的な回避一択のみ。
【空力】と【縮地】を併用し、一切の減速すらなく牙の弾幕を縦横無尽に駆け抜けていく。
まるで土の牙そのものが日色を避けていくかのように日色の服にすら触れることすら叶わず、むしろ足場として利用され、全ての土の牙が誰もいない地面を貫いていくだけだった。
残ったのは、まるで電流のごとく日色の道筋を示す、蒼雷の残光だけである。
第二陣の攻撃は100をも超える土の刺。それらが全て日色を穴だらけにするために殺到する。
日色一人に襲い掛かる土の刺はまるで戦場での弓矢の豪雨のようだ。
ここでようやく日色は刀を引き抜いた、左手を鞘に添えて腰を少し下げ、鞘走りによって加速させ抜刀し――
「――――ッ!!」
――生み出された土の刺が2メートル進む前に全てが斬撃によって叩き落とされた。
文字魔法『斬』を刀に書いておくことにより無数の斬撃を飛ばすことで一つも取りこぼしが無いように丁寧に丁寧に一つ一つ切り裂き、叩き落としているのだ。
あまりにも現実離れした絶技、これほどの絶技を行うのは決して技量だけでは不可能だ。
では、これほどの絶技を行える理由は一体なんなのか?それは一つの技能が原因である。
――技能【集中】
あまり触れられていなかったこの技能だがこの技能を持っている者は【トータス】の中では極僅か、【人族】【魔人族】【獣人族】の中で一人いるかいないかの激レアな技能である。
その技能の効果は『他の技能の上達速度の増加』である。
【集中】の技能を持っているものが他の技能を使うとその技能の上達速度が圧倒的集中により増加し、いち早く派生技能を手に入れることができるのだ。
ハジメが爆発的に【錬成】の派生技能が増えていったのも、日色が三日で新たな魔法を作り出したのもこれが理由である。
だが、その【集中】という技能にはもう一つの隠された能力がある。いや、派生技能が存在する。
話は変わるが、人間の脳や肉体にはリミッターが掛けられていることを知っているだろうか?
人間には潜在能力というものが備わっており、従来よりも質的や量的に高い能力が内在しているとされている。危機が迫っているようなときに普段の力の何倍もの力が出せる「火事場の馬鹿力」という慣用句があるように。人間の筋肉は過剰な筋出力をした場合、筋繊維などにかなり大きな負荷がかかったり、莫大なエネルギーを消費したりするため、身体はぼろぼろになってしまう。そのため筋肉や骨の損傷を防ぐために、人間の脳にはあらかじめ安全装置(リミッター)がかけられていて、意識的に発揮できるパワーに制限がかかっている。普段人間が100%の力を出せないのは自らの身体を守るためなのである。
それを破るための技能が【限界突破】だ。魔力消費によって一時的に肉体のリミッターを外し基礎ステータスの三倍のステータスの力を得る、もともと高い身体能力が100%使われしかも肉体を魔力によって底上げする、それが【限界突破】の能力だ。
では現在日色が使っているのは【限界突破】か?――否だ。
何故なら【限界突破】とはあくまで
では日色の使っている技能はなんなのか?
これまた話は変わるが、貴方は『ゾーン』というものを知っているだろうか?
スポーツで素晴らしい結果を出すことができた試合やプレーの最中に、『リラックスしているのだけど、ものすごく集中している』『試合が自分の思うように進み、負ける気がしない』『体と心が完全に一体化していて、自然に体が動いているような感じ』『体の調子も良く、気持ちもワクワクしている』『なにもかもうまくいって最高の気分。絶好調』等というこんな感覚を持ったことはないだろうか?
ゾーンとは、スポーツ選手が、極度の集中状態にあり、他の思考や感情を忘れてしまうほど、競技に没頭しているような状態を体験する特殊な感覚のことである。
単に調子がいい、とても集中している、というだけでなく、「心と体が完全に調和した無我の境地だった」「体が勝手に動き、苦痛を感じなかった」「試合をやっている自分を上空から眺めていた」など、選手にとって「何か特別なことが起こった」と感じさせるような感覚であり、疲れを知らず、そのプレイにのみ没頭できる極限の集中状態で、実力を100%引き出せる状態である。
『ゾーン』とは選手の持っている力を最大限に引き出してくれるが、それだけでなく、この体験は選手にとって、スポーツの喜びと生きる喜びが一つになる、とても幸福な体験でもある。その幸福感、充実感は、結果以上に、「スポーツは素晴らしい!」、「もっともっと続けたい」と思えるモチベーションとなるのである。
決して特別な人だけに起こるものでは無く、ほとんどの人にとって、それは偶発的に、たまたま起こるものであり、起こそうとして起きるものでもない、それこそが『ゾーン』である。
知っているだろうと思うが『神代日色』の前世である『■■■■』はブラック企業に就職していた。一週間休み無しなど普通にあり、三徹等も一ヶ月に5回以上必ずあった。
だが、そんな中『■■■■』は老衰で死んだ。
もう一度言おう、『■■■■』は
わかるだろうか?この異常性が。この男はブラック企業に就職しながら定年退社したのである!
この男生まれながらにしてひとつの才能があった。
それは、『一つのことに対して没頭もとい超集中するという才能』である。
その才能はブラック企業に就職してからも効果を発揮し、メキメキと才能が研ぎ澄まされていった。
そう『ゾーン』である。この男は、仕事中に何度も『ゾーン』に入ることで仕事を行っていたのだ!……そうしなければ仕事が終わらなかったから。
『ゾーン』は引き出すたびに持っている力を最大限に引き出し、幸福感、充実感を与え、モチベーションとなる、なってしまう。
結果、『■■■■』は定年後にはあらゆる物事にほぼ『ゾーン』に入れ、消化できるスーパーアルティメット社畜となったのだ!
閑話休題
そして現在、スーパーアルティメット社畜である『■■■■』は『神代日色』となり、その才能を存分に発揮していた。
それこそが『神代日色』を『神代日色』とたしめている真骨頂。特典など関係なく彼自身が元から持っていたもの。
――派生技能【
その効果は『己のポテンシャルを100%発揮し余計な思考や感情、感覚、神経を無くし、情報処理能力や、反射速度などの知覚機能を何倍にも上昇させる』というものである。しかも、その効果は集中力によって上昇量が変動する。
爪熊が突然、圧力が増し、身体能力や状況判断が尋常ではないほど高まったのもそれが理由だ。己に適した動き方を最適化させたのだ。
しかし弱点もあり、一つはそう簡単に使えるものではなく、何かのきっかけがなければこの技能を使うことは不可能となっている。例えば……嫁入り前の親友の顔に傷がついた事、などというキッカケが。
二つ目は集中力が持続するまでという制限時間が存在している。
では、このスーパーアルティメット社畜である『神代日色』が【
三陣目に襲い掛かる土の大波と相対しながら、日色は刀を収め、体勢を低くし、いつもと同じ抜刀体勢に入る。
使うのは最初に覚えた、己の剣術、望み、焦がれ、手にした
もはや、現在の日色の視界には色彩はない、余分な感情も、余分な思考すら消え失せている。
だが、そんな
――我流剣術【天閃】
そして日色は――抜刀した。
答えは簡単、集中力が最低でも原作ハジメの【天歩】の最終派生技能【瞬光】の知覚能力、情報処理能力の
瞬間――土の大波に蒼色の閃光が走ったかと思うと切り裂かれ、粉微塵となった。
「キシャァ!?」
己の渾身の固有魔法がいとも容易く切り裂かれたことに驚愕の声を上げるサソリモドキに日色は既に射程範囲に接近している。
既に日色は刀を袈裟懸けに構え、瞳に蒼色の残光を灯らせながら、踏み込みを終えている。
神速の踏み込み。そこに至ってはもはや拍の概念などと言うものは存在しない。無拍子?零拍子?そんなチンケなモノとはこの踏み込みは比べ物にならない。
あまりにも現実離れした、あまりにも人間業ではない『零』でありながらも『無』境地に達した神業の踏み込みだった。
咄嗟にサソリモドキは四本の大バサミを伸長し大砲のように風を唸らせながら日色に迫る。おそらく大バサミにも石の鎧をしていることから、盾にして防ごうとしたのだろう。
だが、その足掻きは無駄だった。
日色は小さく呼吸を吐きながら袈裟懸けに振り下ろす。
望むのはひとつの斬撃、外を斬るのではなく内を斬り裂く透刃の一撃。
――我流剣術
「――【霞桜】ッ!!」
振り下ろした斬撃が咄嗟に盾にした大バサミに触れた瞬間――知ったことかとでも言うように衝撃がサソリモドキの大バサミから肉体に伝わり
サソリモドキは悲鳴をあげることすらできず、躯を両断された左右はゆっくりと傾き、そのままズズンッと地響きを立てながら倒れ絶命した。
辺りが静寂に包まれる中、日色は手にした刀の刀身を視て、小さく苦笑した。
「……ハジメに怒られるな」
あまりにも刀に負担をかけすぎたのだろう、刀には幾つもの亀裂が走っており、次に何か硬いものにぶつかればいとも容易く粉砕されそうなほど刀は疲弊していた。
日色は刀を壊さないように、丁寧に鞘に戻しながら、ピクリとも動かないサソリモドキを念の為というように【豪脚】で頭を潰し、「よし」と呟いた。止めは確実に! というのが最近できた日色とハジメのポリシーである。
振り返ると、無表情ながら、どことなく嬉しそうな眼差しで女の子座りしながら日色を見つめているユエと神水で傷を治し、怪我一つない身体で此方に笑顔で走ってくるハジメがいた。迷宮攻略がいつ終わるのか分からないが、どうやら新たな頼もしい仲間ができたようだ。
パンドラの箱には厄災と一握りの希望が入っていたという。どうやらこの部屋に入る前に出したその例えは、中々どうして的を射ていたらしい。そんなことを思いながら、日色は彼女達の元へと歩き出した。
《技能説明みたいな何か》
【集中】
集中力が一定ラインに達したら自動で発動する技能。発動している間は派生技能を手に入れやすくなる。
派生技能【
簡単に言えば黒子のバスケのゾーン状態。技能【集中】の戦闘バージョン。
書いたように『己のポテンシャルを100%発揮し余計な思考や感情、感覚、神経を無くし、情報処理能力や、反射速度などの知覚機能を何倍にも上昇させる』効果を持ち、その者の集中力の深度によって効果が上昇する。爪熊は1.5倍、日色は最低でも3倍といった感じに。
ただしあくまで集中力の深度に左右されるためかなり不安定、発動条件も日色を除いてキッカケがなければそう簡単に発動できるものではなく。どれぐらい集中力が持つかによって制限時間も決められてしまう。……まぁ、これも日色にはあまり関係のないようなものですが。