ありふれた職業で世界最強(女)と文字使い(ワードマスター) 作:アルテール
今回は最後の方は適当になっていますがご了承ください!
それでは( ^ω^)_凵 どうぞ
「……どうしてこうなった」
「……日色、ファイトー…」
「――ユエはいい加減日色の背中から降りて、私が代わりに乗るから」
「……だが断る」
「呑気だな、お前ら」
現在、日色はユエを背負い、ハジメと共に猛然と草むらの中を逃走していた。周りは推定約160センチ程度の雑草が大量に生い茂り日色の肩まで生い茂っている、おそらくユエならば雑草に完全に隠れてしまうだろう。そんな生い茂る雑草を鬱陶しそうにかき分けながら猛然と走り続ける。
何故なら――
「「「「「「「「「キシャァアアアアア!!」」」」」」」」」
――三百体程の爬虫類を思わせる魔物に襲われているからだ。
時は少し遡る。
日色達が準備を整えて再び攻略を開始して以来、楽々と10階層も降りることができた。
これもハジメの錬成や蹴り技、銃技などが上達し、装備も充実してきたこともあるがなによりもユエのお陰が大きい。
全属性の魔法をノータイムで使用し的確に日色のサポートをしてくれる、ただし回復系と結界系の魔法は苦手らしいがユエには【自動再生】があり日色達には神水があるため問題はない……筈だったのだが別の問題が新たに発生した。
あの修羅場以来ハジメとユエの仲が大変悪いのである。
それはもう、お前らは親を殺されたのかというレベルで。
ハジメもユエも日色をサポートする時などは的確にしてくれるのだが何度も敵ごとハジメはユエを、ユエはハジメを攻撃するのである。
しかも食事の時間や休息中にすらも睨み合い、火花を散らすことも多々ある……まぁ、食事中に修羅場などになれば日色がキレる為、食事中のみはマシになるのだが。
そんなこんなで新たに三人が降り立ったのげ現在の階層である。最初に視界に映ったのが樹海で十メートルを超える木々が鬱蒼と茂っており、空気はどこか湿っぽいが前回とは違って決して暑くないのが救いだった。
三人は階下への階段を探して探索していると、突然ズズンッという地響きが響き渡る。何事かと警戒度を高める三人の前に現れたのは巨大な爬虫類を思わせる見た目は完全にティラノサウルスな魔物だ。
ただし、頭に一輪の可憐な花を生やしていた。
もう一度言おう。
頭に一輪の可憐な花を生やしていた。
鋭い牙と迸る殺気が議論の余地なくこの魔物の強力さを示しているのだがついっと視線を上に向けると向日葵に似た花がふりふりと動き、とってもシュールだ。
そんなティラノサウルスが咆哮を上げハジメ達に向かって突進してくる。
日色は取りあえず応戦するため刀を抜こうと――
「【緋槍】」
――ユエの掲げた手から現れた炎は渦を巻いて円錐状の槍の形をとり、一直線にティラノの口内目掛けて飛翔し、あっさり突き刺さって、そのまま貫通。周囲の肉を容赦なく溶かして一瞬で絶命させた。地響きを立てながら横倒しになるティラノ。
そして、頭の花がティラノサウルスの墓場だと示すようにポトリと地面に落ちた。
「……」
『あるぇ?もしかして俺役立たずになってるぅ?』
いろんな意味で思わず押し黙る日色。
最近、戦闘がこのようになることが多い。最初は日色の援護に徹してくれていたのだが何故か途中から対抗するように先制攻撃を仕掛け魔物を瞬殺するのだ、しかもそれに対抗するようにハジメも真似し始めたせいで日色の出番が全くと言っていいほどない。
日色は前衛として前に出ているのだがハジメの銃火器とユエの魔法の前では、正直あまり役に立てない、何故なら自分が一匹すりつぶしている間にハジメやユエが一人で3、4匹程葬っている。
それ故に日色はもしかして自分は役たたずなんじゃないかと思い始めるようになった。まさか、自分が足手まといだから即行で終わらせているとかではあるまいな?と内心不安に駆られてしまう。……実際はその気になれば日色はハジメやユエが3、4匹程葬っている間に7、8匹ほど葬れるのだが日色自身は気づいていない。
日色は無言で柄に触れていた手を離す。
「……最近、俺はあまり動いてない気がするんだが……」
ユエは振り返って日色を見ると、無表情ながらどこか得意げな顔をする。
「……私、役に立つ。……日色のパートナーだから」
ユエはそう言いながら日色からハジメへと視線を変えて――
「…………フッ」
「――――(ギリッ!)」
――日色には見えないようにハジメに嘲笑を浴びせた。
ユエに嘲笑を浴びせられたハジメは歯ぎしりをするほど強く歯を食いしばり、ピンポイントでユエに殺気を浴びせ、それに応じるようにユエも殺気をハジメにぶつける。再びお互いの間に火花が散り始めた。
ユエがさっき呟いたことはハジメに対する宣戦布告――どころか既に攻撃しているに等しい言葉である。
何故なら日色のパートナーということは自分が日色の
すると、再びさっきとは逆の方向からまた別のティラノが頭に華麗な花を咲かせながら此方へと襲いかかってきた。
再びユエがティラノへと手を掲げ――
「【緋――」
ドパンッ!!
――瞬間、ユエの呟く魔法名を遮るかのように赤雷を纏った閃光が宙を奔り、ティラノの顔面を貫き、赤雷によって肉を焼きながら顔面を粉砕した。
再び地響きを立てながら横倒しになるティラノの上に頭の花が落ちる。
「…………」
無言で掲げていた手を下げるユエに右手に硝煙を上げるドンナーを持ったハジメがくるくるとドンナーを回転させながらホルスターに戻す。どうやらさっきの赤雷はハジメのドンナーによるものだったらしい。
カシャンとホルスターにドンナーを収めたハジメはユエへと視線を向け――
「…………ハッ」
「――――(ブチッ!)」
――嘲笑を浴びせ返した。
額に青筋を立てるユエをハジメは嘲笑付きで視線を逸らし、日色の腕に抱きついた。
それはまさしく「お前如きに日色のパートナーが務まるわけがない、日色のパートナーは私よ」とでも言っているようである。
「――日色、勝手に自分をパートナーと思い込んでいる妄想癖のある寄生虫は放っておいて、早く移動しよう。さっさとここを攻略しないといけないから」
「……キメラ如きが吠えるな」
「「――あぁ!?」」
「……仲いいなお前ら」
ユエはハジメに対抗するようにハジメが抱きついた反対の腕に抱きつき、ハジメを罵倒すると共に二人は再び火花を散らしながらキャッツファイトを開始する。
日色は己の腕に抱きつくそんな彼女達を死んだ目で見ることしかできず、ハァと溜息を吐くのだった。
日色からすればこの現状は全くもって理解不能である。
もともと奈落に落ち、ハジメが豹変して以来自分の腕に抱きついて寝る等のスキンシップがあったが日色はそれらをハジメの精神を支えるために必要なものとして鬱陶しそうにしたが決して拒絶することはなかった。
ハジメも日色も元々はありふれた高校生なのだ、突然命の危険を常に感じる奈落に落ちてしまえば当然精神は摩耗していく、故にハジメは自分と親しかったからこそ自分の傍で休むことで精神を保っているのだろうと思い、依存して欲しくはないため注意は必要だがある程度許容していた。
だからこそ、ユエと出会ったことで同じ女の子同士(ユエを女の子と言えないんじゃないかという突っ込みは無しで)親しくなり磨り減っていく精神をさらに休めることができるんじゃないだろうかと日色は思ったのだが現状を見るに親しくなるどころかむしろ仲が悪くなってしまっている。喧嘩するほど仲がいいとも言えるがこの場合はどうなのだろう?
『うーむ、性別は違うけど原作では確かバカップルだった気がするんだけど……なんでや?』
やはり創作物と現実は違うんだな、と日色は結論づける。
しかし、どうして彼女達は仲が悪いのだろうか?日色はいくら考えても答えは出ない。
(やはり、地球とトータスの価値観が違うからか?)
もっと根本的な理由で仲が悪いのだが自覚のない元凶には一切理解できない。
いつか聞いてみようか、とさらっと彼女達にとって残酷なことを考えながら傍から見ればいちゃついている様に見える三人だが日色の【気配感知】に続々と魔物が集まってくる気配が捉えられた。
十体ほどの魔物が取り囲むように日色達の方へ向かってくる。統率の取れた動きに、二尾狼のような群れの魔物か?と日色は訝しみながら二人に「……さっさと離せ」と呟き、魔物が近づいていることを伝え二人に移動を促して現場を離脱する。数が多いので少しでも有利な場所に移動するためだ。
円状に包囲しようとする魔物に対し、日色達は、その内の一体目掛けて己の存在がバレないように隠れながら接近した。
そうして、生い茂った木の枝を払い除け飛び出した先には、体長二メートル強の爬虫類、例えるならラプトル系の恐竜のような魔物がいた。……頭からチューリップのような花をひらひらと咲かせて。
「……かわいい」
「……流行りなの?」
「――あの花は光合成しているのか気になるな」
そのラプトルの姿に三者三様、ユエが思わずほっこりしながら呟き、ハジメはシリアスブレイカーな魔物にジト目を向け、有り得ない推測を呟く。日色の場合、この状況でその感想はおかしい。
ラプトルは、ティラノと同じく、「花なんて知らんわ!」というかのように殺気を撒き散らしながら低く唸っている。臨戦態勢である。花はゆらゆら、ふりふりしているが……
「シャァァアア!!」
ラプトルが、花に注目して立ち尽くすハジメ達に飛びかかる。その強靭な脚には二十センチメートルはありそうなカギ爪が付いており、ギラリと凶悪な光を放っていた。
「ハジメ、花」
「――わかった」
しかし、日色の淡々とした単語だけの指示にハジメは宙に浮くラプトルの頭のチューリップを的確に撃ち抜いた。
ドパンッという発砲音と同時にチューリップの花が四散する。
さっき呟いた日色の指示は言葉にすると『ラプトルの頭のチューリップのみを撃ち抜け』である。
ラプトルは一瞬ビクンと痙攣したかと思うと、着地を失敗してもんどり打ちながら地面を転がり、樹にぶつかって動きを止めた。シーンと静寂が辺りを包む。ユエもトコトコとハジメの傍に寄ってきてラプトルと四散して地面に散らばるチューリップの花びらを交互に見やった。
「……死んだ?」
「……いや、生きているようだ」
日色の見立て通りピクピクと痙攣した後、ラプトルはムクッと起き上がり辺りを見渡し始めた。そして、地面に落ちているチューリップを見つけるとノッシノッシと歩み寄り親の敵と言わんばかりに踏みつけ始めた。まるで『野郎、ぶっ殺してやる!!』と言っているようである。
「え、何、この反応?どういうこと?」
「……イタズラされた?」
「いや、イタズラされたガキじゃあるまいし……」
ラプトルは一通り踏みつけて満足したのか、如何にも「ふぅ~、いい仕事したぜ!」と言わんばかりに天を仰ぎ「キュルルル~!」と鳴き声を上げた。そしてようやく日色達の存在に気がついたように日色達を見るとビクッとする。
「今気がついたの?どんだけ夢中だったのよ」
「……やっぱりイジメ?」
「…………」
ハジメがツッコミ、ユエが同情したような眼差しでラプトルを見る。ラプトルは暫く硬直したものの、日色が無言で殺気を出したことで勝てない相手だと悟ったのかすぐさま全力で逃走した。その走り姿はあまりにも必死で「ひぇええええ!!?」という声が聞こえてきそうである。
「ホント、一体なんなの?」
「……イジメられて……哀れ」
「金ロリはいい加減イジメから離れろ。絶対違う」
理解ができない状況に日色とハジメは混乱するがそもそも迷宮の魔物自体わけのわからない物ばかりなので気にするのを止めた。包囲網がかなり狭まってきていたので急いで移動しつつ、有利な場所を探っていく。
程なくして直径五メートルはありそうな太い樹が無数に伸びている場所に出た。まるで空中回廊のように隣り合う樹の太い枝同士が絡み合っている。きっと昔のハジメならば『ファンタジー、スゲー!』と目を輝かせるだろう。その証拠に――
『巨大樹の森じゃん!やっべ、マジやっべ!女型の巨人が来るぞ!!』
――などとハッチャケている奴がいるし。
日色とハジメは【空力】を用いて片手にユエを抱えて、頭上の太い枝に飛び移る。中・遠距離を担当するハジメとユエに樹の下に集まってきた魔物達を殲滅してもらおうと考えたのだ。
五分もかからず眼下に次々とラプトルが現れ始めたので日色も自分の文字魔法で殲滅の手助けをしようとし、人差し指に蒼い魔力を灯らせて――硬直した。
ハジメやユエも焼夷手榴弾を投げようとして硬直したり魔法を使おうとして硬直していた。
何故なら……
「…なんでどいつもこいつも頭に花をつけてるの!」
「……ん、お花畑」
「シュールすぎるな」
ハジメ達の言う通り、現れた十体以上のラプトルは全て頭に花をつけていた。それも赤や白、黄色といった色とりどりの花を。チューリップの歌が日色とハジメの脳内にリフレインされ始めたがすぐさま停止させる。
ハジメは【焼夷手榴弾】を投げ落とすと同時に、その効果範囲外にいるものから優先してドンナーで狙い撃ちにした。連続して発砲音が轟き、その度に紅い閃光がラプトルの頭部を一発の狂いもなく吹き飛ばしていく。ユエも同じく周囲の個体から先程も使った【緋槍】を使って仕留めていく。
日色は文字魔法で『油』と書いて燃焼の勢いを加速させたり、刀に『斬』の文字を書いて、斬撃を飛ばし一体ずつ仕留めていく。
群れの中央で【焼夷手榴弾】が爆発し、摂氏三千度の燃え盛るタールが飛び散り周囲のラプトルを焼き尽くしていくことにこの階層の魔物にも十分に効いているようだとハジメは胸を撫で下ろす。流石に【焼夷手榴弾】が通用しなくなり、攻撃手段がひとつ無くなるとなると困るのだ。
結局十秒もかからず殲滅に成功したが、日色とハジメの表情は優れない、日色は顎に手を置いて何やら考えている。ユエがそれに気がつき首を傾げながら尋ねた。
「……日色?」
「…………やはりそうか。ハジメ、金ロリ、近くにある一番高い樹に移動するぞ」
「……どうしたの?」
日色はそう呟くと共に刀を収め、すぐさま移動しようとする。その行動に疑問を持ったユエが疑問の声を投げかけるとその疑問にハジメが答えた。
「ユエはまだ気づいてないの?」
「?」
「…敵が弱すぎるのよ」
ハジメの言葉にハッとなるユエ。
確かに、ラプトルも先のティラノも、動きは単純そのもので特殊な攻撃もなく簡単に殲滅できてしまった。それどころか殺気はあれどもどこか機械的で不自然な動きだった。花が取れたラプトルが怒りをあらわにして花を踏みつけていた光景を見た後なので尚更、花をつけたラプトル達に違和感を覚えてしまう。
だとすればどうして日色は移動しようとしたのだろう?そう思ったユエだがその疑問を察した日色によってその疑問は解かれた。
「【気配感知】に軽く60匹以上の魔物が急速接近中だ。しかも、誰かが指示してるみたいに全方位から囲むようにな。手っ取り早く殲滅するには一番高い樹から金ロリの魔法で殲滅させたほうがいい、魔物が弱い理由もだいたい推測がついたしな。金ロリ、できるな?」
「ん!」
「よし、だったらさっさと行くぞ」
日色達は高速で移動しながら周囲で一番高い樹を見つける。そして、その枝に飛び乗り、眼下の足がかりになりそうな太い枝を砕いて魔物が登って来にくいようにし、日色はついでに文字魔法である
息を潜めながら日色達は静かにその時を待つ。ハジメとユエが途中そっと日色に身体を寄せてきたが不安なのだろうと思い拒絶はしなかった。
そして第一陣が現れた。ラプトルだけでなくティラノもおり、ティラノは樹に体当たりを行い、ラプトルはカギ爪を使って樹を登ろうとするが――
――ティラノの突進はまるで力が自ら逃げるかのようにヌルンッ!と滑り突進に失敗してしまい、ラプトルは鉤爪を使うがこれまたヌルンと木の幹が鉤爪を滑らせて削ることすらままならない。
そのあまり、不可思議な現象にユエとハジメは目を剥いた。
「日色、何…したの?」
「ん?あぁ、文字魔法だ」
恐る恐る聞いたハジメに日色はなんともないように人差し指に灯した蒼色の魔力をハジメ達に見せる。
なんて事はない、日色が行ったのはただ大樹の幹に『滑』の文字を付けただけである。
ティラノの突進が失敗したのも『滑らされて』しまったからで、ラプトルの鉤爪も『滑らされて』いるため幹に引っ掛けることができない。
しかしあくまでこれは牽制であり、限界はある。時間が経てば登ってくるものはいるだろう。
しかし――
ハジメはドンナーの引き金を引いた。発砲音と共に閃光が幾筋も降り注ぎ滑りそうになりながらも鉤爪で樹にしがみついていたラプトルを一体も残さず撃ち抜く。
撃ち尽くしたドンナーからシリンダーを露出させると、手首を振るうことで薬莢をすべて排出し、脇に挟んで装填する、この間約三秒。
――その先にはハジメの兵器による蹂躙が待っている。
装填中の間隙を埋めるように発砲直前に落としておいた【焼夷手榴弾】が爆発し、辺りに炎を撒き散らす。装填が終わると共に再び一匹一発的確に連射し、打ち抜いていく。既に20匹も殺しているがハジメには満足感など一欠片も無く紅の瞳は常に新たな獲物を補足し続けている。
「日色?」
「……まだだ、もう少し待て」
ユエの呼び掛けに文字魔法でハジメの援護をしながら答える日色。ユエは日色を信じ、ひたすら魔力の集束に意識を集中させる。
そして遂に、眼下の魔物が総勢70匹以上を超え、今では多すぎて判別するのが難しいが事前の【気配感知】で捉えた魔物の数に達したと思われたところで、日色は、ユエに合図を送った。
「今だ!」
「んっ! 【
ユエが魔法のトリガーを引いた瞬間、ユエを中心に冷気が吹き荒れ、大樹を凍りつかせ、伝わっていくように眼下が一気に凍てつき始めた。ビキビキッと音を立てながら瞬く間に蒼氷に覆われていき、魔物に到達すると花が咲いたかのように氷がそそり立って氷華を作り出していく。その風景は傍から見れば美しく咲く華のよう、日色達がいる場所は例えるならば雄しべと雌しべが生えている花の中心だ。
魔物は一瞬の抵抗も許されずに、その氷華の柩に閉じ込められ目から光を失っていった。氷結範囲は指定座標を中心に五十メートル四方。まさに【殲滅魔法】というに相応しい威力である。
「はぁ……はぁ……」
「お疲れ様、よくやったな」
「……ん…ふふ……」
周囲一帯、まさに氷結地獄と化した光景を見て混じりけのない称賛をユエに贈りながら頭を優しく撫でる日色、最上級魔法を使った影響で魔力が一気に消費されてしまい肩で息をしながらもユエは撫でられるのが気持ちよさそうに目を細める。途中、ハジメも「私も頑張った、撫でて!」とでも言うように頭を差し出してきたので日色はもう片方の手で撫でることとなった。
しかし、すぐに日色が険しい表情で立ち上がる。少し遅れてハジメも日色が立ち上がった理由を察した、何故なら【気配感知】がさっきの倍以上、150匹程捉えたからだ。
「日色、さっきの倍以上来る」
「!?」
「チッ、分かってる。大方さっきの花が原因だろうな」
「……寄生?」
「そういうことだ、このまま本体を倒さなければ、この階層の全てを相手にしなくてはなくなってしまう」
日色は物量で押しつぶされる前に、おそらく魔物達を操っているのであろう魔物の本体を探す為、座り込んでいるユエに神水を渡そうとする。しかし、ユエはそれを拒んだ。訝しそうな日色にユエが両手を伸ばして言う。
「日色……だっこ……」
「!?」
「…………吸血しながら行くにしてもこの状況でそれを言うのか」
驚いているハジメを差し置いて日色の言葉に「正解!」というようにコクンと頷くユエ。確かに、神水ではユエの魔力回復が遅いし、不測の事態に備えて回復はさせておきたいが、この状況でそれを普通頼むだろうか?
日色は面倒臭そうにため息を吐くとユエを抱っこ……するのではなくおんぶしてハジメと共に本体探しに飛び出していった。
そして現在に戻る。
ハジメ達は現在、二百近い魔物に追われていた。草むらが鬱陶しいと、吸血は済んでいるのにユエは日色の背中から降りようとせず、後ろからは魔物が、
ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
と迫ってくる始末だ。
しかも背の高い草むらに隠れながらラプトルが併走し四方八方から飛びかかってくる。
「鬱陶しい!」
日色は刀を抜き放ち、全てを一瞬で絶命させて樹海を抜けた先、今通っている草むらの向こう側にみえる迷宮の壁、その中央付近にある縦割れの洞窟らしき場所へとひたすらに駆け続ける。
ユエもハジメも魔法と銃弾を撃ち込み致命的な包囲をさせまいとする。
カプッ、チュー
なぜ日色がその場所に目星をつけたのかというと、襲い来る魔物の動きに一定の習性があったからだ。ハジメ達が迎撃しながら進んでいると、ある方向に逃走しようとした時だけその方向には行かせまいというように動きが激しくなるのだ。あとは日色の文字魔法『探』で行かせないようにしている場所を発見しため現在、その方向へと向かっているのである。
カプッ、チュー
「というかユエ、いい加減降りて!吸血するたびに恍惚な表情をとるのが気持ち悪いから」
「……不可抗力」
「嘘言わないで、ほとんど消耗していないでしょ!」
「……キメラは黙ってて」
「……殺す」
「――お前ら、次騒がしくしたらメシ抜きな」
「「………………」」
日色の鶴の一声で押し黙る二人。どうやらハジメは日色のラショウが、ユエは日色の血が飲めなくなるのはさすがに嫌らしい。
この状況で余裕な三人は三百体以上の魔物を引き連れたまま縦割れに飛び込んだ。
縦割れの洞窟は大の大人が二人並べば窮屈さを感じる狭さだ。ティラノは当然通れず、ラプトルでも一体ずつしか侵入できない。何とか日色達を引き裂こうと侵入してきたラプトルの一体が鉤爪を伸ばすが、その前にハジメのドンナーが火を噴き吹き飛ばした。そして、すかさず錬成し割れ目を塞ぐ。
「ふぅ、これでとりあえずは大丈夫」
「……そうか、ありがとな。……金ロリはさっさと降りろ」
「……むぅ、仕方ない」
日色の言葉に渋々、ほんと~に渋々といった様子で日色の背から降りるユエ。余程、日色の背中は居心地がいいらしい。……日色からすれば吸血するたびに妖艶な荒い息が耳に触れたりするので迷惑なのだが。
錬成で入口を閉じたため薄暗い洞窟を三人は慎重に進むとやがて大きな広間に出た。広間の奥には更に縦割れの道が続いている。もしかすると階下への階段かもしれない。ハジメは辺りを探る。【気配感知】には何も反応はないがなんとなく嫌な予感がするので警戒は怠らない。気配感知を誤魔化す魔物など、この迷宮にはわんさかいるのだ。
日色も何らか嫌な予感を感じているのか右手が刀に触れている。
瞬間、全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできた、その数は優に百を超え、尚、激しく撃ち込んでくる。三人は一瞬で背中合わせになりそれぞれで迎撃する。
ハジメは咄嗟に錬成で石壁を作り出し防ぐことに決めた。石壁に阻まれ貫くこともできずに潰れていく緑の球には大した威力もなさそうである。ユエの方は速度と手数に優れる風系の魔法で迎撃し、日色の方は――
「――フッ!」
――――派生技能【
瞳に蒼色の残光を灯らせ、文字魔法『速』により加速した身体能力と【超集中持続】の情報処理能力で刀を振るい己に向かってくる全ての緑色の球を叩き落とす。
「金ロリ、おそらく本体の攻撃だ。どこにいるかわかるか?」
「……」
「金ロリ?」
ユエに本体の位置を把握できるか聞いてみる日色。吸血鬼の鋭い五感はたとえ【気配感知】など索敵系の技能を持っていなくても有用な索敵となることがあるのだ。
――が、日色の質問にユエは答えない。訝しみ、再度ユエの名を呼ぶ日色だが……
「……にげて……日色!」
瞬間、いつの間にかユエの手が日色へと向いていた。ユエの手に風が集束し強力な風の刃が日色とその後ろにいるハジメに襲い掛かる。
「チィ!」
「きゃっ!?」
刹那、【超集中持続】を発動していた日色は右手でハジメの身体を抱きしめ、転がるように回避する。
コンマ数ミリで日色の髪をそよぐように風の刃が通り過ぎ、背後の石壁を綺麗に両断される。
「ユエ、裏切ったの!?」
「違う、おそらく操られているんだ」
まさかの攻撃にハジメは驚愕の声を上げるが、日色の言葉とユエの頭の上にあるものを見て事態を理解する。そう、ユエの頭の上にも花が咲いていたのだ。それも、ユエに合わせたのか?と疑いたくなるぐらいよく似合う金色の花が。
「さっきの緑玉が原因か、クソッ!」
『そういやぁ、そんな奴いたの忘れてたぁ!!胞子ボンボンしてくる奴!!』
日色は己の迂闊さに毒づきながらハジメと共に風の刃を回避する、ここは奈落なのだからその可能性も常に考えておくべきだったのだ。
「日色……うぅ……」
ユエが無表情を崩し悲痛な表情をする。ラプトルの花を撃ったとき、ラプトルは花を憎々しげに踏みつけていた。あれはつまり、花をつけられ操られている時も意識はあるということだろう。体の自由だけを奪われるようだ。
(長い間、寄生されたらどうなるかわからない!一秒でも早くあの花を斬り裂く!)
そう考えた日色は肉薄して抜刀しようとするが突然ユエが片方の手を自分の頭に当てるという行動に出た。接近したらユエの頭を切り飛ばすつもりなのだろう。
ならばハジメに撃ち落としてもらおう、そう思ったがそれすら読んでいたのかユエを操り、花を庇うような動きをし出したのだ。上下の運動を多用しており、外せばユエの顔面を吹き飛ばしてしまう。
「――チッ」
ユエは確かに不死身に近い。しかし、上級以上の魔法を使い一瞬で塵にされて尚【再生】できるかと言われれば否定せざるを得ない。そして、ユエは、最上級ですらノータイムで放てるのだ。特攻など分の悪そうな賭けは避けたいところだ。
ハジメの逡巡を察したのか、それは奥の縦割れの暗がりから現れた。
アルラウネやドリアード等という人間の女と植物が融合したような魔物がRPGにはよく出てくる。ハジメ達の前に現れた魔物は正しくそれだった。もっとも、神話では美しい女性の姿で敵対しなかったり大切にすれば幸運をもたらすなどという伝承もあるが、目の前のエセアルラウネにはそんな印象皆無である。
確かに、見た目は人間の女なのだが、内面の醜さが溢れているかのように醜悪な顔をしており、無数のツルが触手のようにウネウネとうねっていて実に気味が悪い。その口元は何が楽しいのかニタニタと笑っている。
『ヲトコの夢を返せこのやろぉおおおおおおおおおおおう!!』
この状況でも呑気だな。
「ハジメ!」
「――わかった」
日色の言葉に応じてハジメはすかさずエセアルラウネに銃口を向けるがハジメが発砲する前にユエが射線に入って妨害する。
「日色……ごめんなさい……」
悔しそうな表情で歯を食いしばっているユエ。自分が足でまといなっていることが耐え難いのだろう。今も必死に抵抗しているはずだ。口は動くようで、謝罪しながらも引き結ばれた口元からは血が滴り落ちている。鋭い犬歯が唇を傷つけているのだ。悔しいためか、呪縛を解くためか、あるいはその両方か。
ユエを盾にしながらエセアルラウネは緑の球を日色達に打ち込む。
ハジメは、それをドンナーで打ち払い、日色は刀で叩き落とす。球が潰れ、目に見えないがおそらく花を咲かせる胞子が飛び散っているのだろう。
しかし、ユエのように日色とハジメの頭に花が咲く気配はない。ニタニタ笑いを止め怪訝そうな表情になるエセアルラウネ。おそらく日色とハジメには耐性の技能があるからこそ効かないのだろう。
エセアルラウネの胞子は一種の神経毒である。胞子を吸い込んだものの神経を一時的に停止させ、代わりにエセアルラウネの命令を胞子が受信し、増幅させ、身体に命令する電気信号を送ることで操っているのである。
そのため、【毒耐性】により日色とハジメには効果がないのだ。つまり、日色達が助かっているのは全くの偶然で、ユエを油断したとは責められない。ユエが悲痛を感じる必要はないのだ。
エセアルラウネは日色とハジメに胞子が効かないと悟ったのか不機嫌そうにユエに命じて魔法を発動させる。また、風の刃だ。もしかすると、ラプトル達の動きが単純だったことも考えると操る対象の実力を十全には発揮できないのかもしれない。
(不幸中の幸いというわけか)
風の刃を回避しようとすると、これみよがしにユエの頭に手をやるのでその場に留まり、文字魔法『防』でハジメごと覆うように結界を生み出し、念の為にサイクロプスより奪った固有魔法【金剛】を使用する。
この技能は魔力を体表に覆うように展開し固めることで、文字通り金剛の如き防御力を発揮するという何とも頼もしい技能である。まだまだ未熟なため、おそらくサイクロプスの十分の一程度の防御力しか出せないが、文字魔法の『防』が予想以上に高性能なため今のところ使い道は保険程度でしか使用していない。
どうやってこの状況から打破しようか?と日色は考えているとユエが悲痛な叫びを上げる。
「日色……私はいいから……殺って!」
何やら覚悟を決めた様子で日色に叫ぶユエ。日色の足手まといになるどころか、攻撃してしまうぐらいなら自分ごと斬って欲しい、そんな意志を込めた紅い瞳が真っ直ぐ日色を見つめる。
そんなこと出来るはずないだろう! 必ず助けてみせる! 普通はこんな熱いセリフが飛び出て、ヒロインと絆を確かめ合うシーンだ。日色はふとハジメをチラリと見つめ――
――瞬間、日色は少し慌て気味に文字魔法をユエの足元へと飛ばした。
書いた文字は『穴』、ユエの足元に文字が着弾すると共にユエぐらいの深さの穴が生み出される。
え?というユエの言葉と共に重力によりユエの体は穴へと落下する。
刹那――
「死ね」
ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!
――ハジメが全弾発砲した。
ハジメの六連射による弾丸がさっきユエがいた場所の頭、心臓に三発ずつ的確に打ち出され、ユエがいなくなったことで一発が落下中のユエの頭に生えていた金色の花を打ち抜き、残りの五発がエセアルラウネの頭部と胸を貫き、緑色の液体を撒き散らしながら爆砕した。そのまま、グラリと傾くと手足をビクンビクンと痙攣させながら地面に倒れ伏した。
広間に六発の銃声が響き渡る。
広間を冷たい空気が満たし静寂が支配する。そんな中、くるくると宙を舞っていたバラの花がパサリと地面に落ちた。
そしてハジメがこう一言。
「――――チッ、外した」
その言葉がどんな意味を持つか理解できるだろうか?
そう、ハジメが狙ったのはエセアルラウネではない、ユエの方である。
あの時、日色が慌て気味に文字魔法を使ったのはふと見たハジメの表情が三日月のように裂けた笑いだったからである。
それを見た瞬間、日色は察した。
『あ、これアカン奴や』
その予感は的中した。
むしろハジメからすればこれは絶好のチャンスだった。
この最近現れたこの寄生虫を殺してしまえば、日色が悲しんでしまう。
だが、あの時ユエはこう言った。
『……私はいいから……殺って!』
それを聞いた瞬間ハジメは一つの結論を出した。
(じゃあ結果的に撃たれてしまっても事故よね!だってユエからも許可もらったし!)
結果、これである。ハジメは発砲し日色の文字魔法がなければ死にはしなかったものの『お見せできないよ!!』状態になるだろう。
静寂になった洞窟の中、ユエは風魔法を使い、スッポリと埋まった穴から静かに這い出てきた。
「金ロリ、無事か?何か違和感とかないか?」
「……別に【自動再生】あるから大丈夫でしょ」
そう気軽な感じでユエの安否を確認するハジメと日色。だが、ユエは未だに頭をさすりながらジトっとした目でこうなることとなった元凶ハジメを睨む。しかしハジメもそれに対抗するように逆に睨み返してきた。
「……撃った」
「ユエが私ごと殺っていいって言ったからね」
「……軌道、完全に私だった」
「――撃つ瞬間、手が滑ったのよ。それに別に撃たれてもユエは大丈夫でしょ」
「……喧嘩売ってる?……キメラモドキ」
「寄生虫風情に喧嘩なんて売るわけ無いでしょ?」
「「………………ッ!!(ガンのくれ合い)」」
ユエとハジメはお互いの顔がぶつかるのではないかという程、顔を近づけ火花を散らしながらにらみ合った。
「……私も手が滑――(ビュッ!!←上級風魔法を込めた右手をハジメに向ける音)」
「――らないように私がしっかり握っておくから(ガシッ!!←ユエの右手を自分から逸らしながら掴む音)」
「「………………ッ!!(メンチの切り合い)」」
「…………何やってんだお前ら?」
ユエとハジメは黄金と真紅の魔力を放出しながら火花を散らし、彼女達の上空でスタ○ドらしき金色の雷龍と紅色の魔王が雷やら閃光やら現代兵器やらで大乱闘を起こしているがスタ○ドを見ることのできない日色は相手を射殺すのではないかというほど殺意とともに睨み合い続けている彼女達の姿に首を傾げるしかなかったのだった。
ヒュドラはどう強化させよう……?