ありふれた職業で世界最強(女)と文字使い(ワードマスター)   作:アルテール

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……おかしい、文字数が1万5千文字を超えたはずなのに戦闘がまだ半分も終わっていない。
あ、どーも、アルテールです。

感想やメッセージでヒュドラの強化アイディアをくれた方々、本当にありがとうございます!
お蔭である程度ヒュドラ戦を書くことができました!……流石に擬人化などは想像できませんでしたが。ヒュドラの設定上の能力はあとがきで書いております。

それでは難易度が二段階程?上がったヒュドラ戦を( ^ω^)_凵 どうぞ!!




最奥での死闘①

ハジメがユエ……結果的にエセアルラウネを撃ち殺し、ユエとの仲がさらに険悪になった日から随分経った。その後、何故か二人のスキンシップが更に激しくなり、日色のメンタルがゴリゴリと削られていくがなんとか彼女達の険悪さは落ち着き、再び迷宮攻略に勤しんでいた。

 

そして遂に、次の階層で日色達が目覚めた階層から百階目になるところまで来た。その一歩手前の階層で日色達は最後の装備の確認と補充にあたっていた。いつものように日色は刀の手入れを行った後、日記を開いて書き始め、ユエは日記を書いている日色を見ながらまったりとしている。その表情は迷宮には似つかわしくない緩んだものだ。

ハジメは銃弾の補充や兵器の点検に忙しいため、もう少し時間がかかるようだ。

 

ユエと出会ってからどれくらい日数が経ったのか時間感覚がないためわからないが、最近、ハジメもユエも日に日にお互いがお互いに対抗しているのか日色に露骨に甘えるようになった。

特に拠点で休んでいる時には必ず密着している。彼女達は横になれば添い寝の如く両腕に抱きつくし、座っていればハジメは背中から抱きつき、ユエは日色の膝の上に座ってくる。ユエが吸血させるときは正面から抱き合う形になるのだが、終わった後も中々離れようとしない。日色の胸元に顔をグリグリと擦りつけ満足げな表情でくつろぎ、ハジメに首根っこを掴まれ、投擲されるのが一種のテンプレとなっている。

 

当然、日色からすればたまったものではない。ユエの外見が十二、三歳なので微笑ましさが先行し一欠片も欲情したりはしないが、実際は遥に年上。その片鱗を時々見せると随分と妖艶になるのは困ったものである。正直言って集中力が切れるため鬱陶しいのだ。

ハジメもハジメである、元々の容姿はありふれた少女だったが現在は地球のアイドルやモデルなどとは比べ物にならない顔つきに男のロマンである銀髪紅眼になっているのだ。しかも日色に積極的に抱きついてきたり、頭を撫でるだけでほぼ全ての男を魅了する笑顔になってしまう。……将来悪い男たちに惑わされたりしないか心配になる日色だった。

 

「……ところでハジメ、今回はやけに慎重だな」

「え?あぁ、次で百階だから。一般に認識されている上の迷宮も百階だと言われていたから、もしかしたら何かあるかもしれないと思って……まぁ、念の為にね」

 

日色とハジメが目覚めた階層から八十階を超えた時点で、ここが地上で認識されている通常の【オルクス大迷宮】である可能性は消えた。奈落に落ちた時の感覚と、各階層を踏破してきた感覚からいえば、通常の迷宮の遥かに地下であるのは確実だ。

銃技、体術、固有魔法、兵器、そして錬成。いずれも相当磨きをかけたという自負があり、日色を守れる力を手に入れたという実感はハジメは持っている。だが、それでも確実に日色を守れるという保証はないのだ、どれほどの実力を持っていたとしても実力とは関係なくあっさり致命傷を与えてくるのが迷宮の怖いところである。

 

だからこそ、現時点で己が出来ることを全て行い、念には念を入れて出来る限りの準備をしておく。ちなみに今のハジメと日色のステータスはこうだ。

 

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南雲ハジメ 17歳 女 レベル63

 

天職:錬成師

筋力:2610

体力:2790

耐性:2770

敏捷:3010

魔力:2310

魔耐:2290

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+高速練成][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・集中・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

 

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神代日色 17歳 男 レベル58

 

天職:筆写士 文字使い

筋力:2630

体力:2760

耐久:2780

敏捷:3030

魔力:2780

魔耐:2270

 

技能:文字魔法[+一文字開放][+空中文字解放]・紙作成[+作業効率上昇][+消費魔力減少]・魔力筆[+消費魔力減少][+空中書き]・本製作[+製作時間減少]・高速演算[+演算速度上昇]・瞬間記憶・剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇]・集中[+超集中持続]・限界突破・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纒雷・天歩[+空力][+縮地]][+豪脚]・風爪・念糸・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

 

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ステータスは、初めての魔物を喰えば上昇し続けているが、固有魔法はそれほど増えなくなった。主級の魔物なら取得することもあるが、その階層の通常の魔物ではもう増えないようだ。魔物同士が喰い合っても相手の固有魔法を簒奪しないのと同様に、ステータスが上がって肉体の変質が進むごとに習得し難くなっているのかもしれない。

 

しばらくしてすべての準備を終えた日色達は階下へと続く階段へと向かった。

 

その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られ、柱は規則正しく一定間隔で並んでいる。目測だがおおよそ天井までは五十メートルはあるだろう。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものでどこか荘厳さを感じさせる空間だった。

 

日色達は少し見惚れながら足を踏み入れると全ての柱が淡く輝き始め、日色達を起点に奥の方へと道標のように順次輝いていく。

 

日色達は暫く警戒していたが特に何も起こらないので先へ進むことにした。感知系の技能をフル活用しながら警戒を怠らず歩みを進める。そして二百メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「……凄い、もしかしてこれが――」

「反逆者の居場所、だろうな」

「……綺麗」

 

如何にもラスボスの部屋といった感じだ。実際、感知系技能には反応がなくともハジメには謎の威圧感がヒシヒシと伝わってくる。ユエどころか日色ですら薄らと額に汗をかいている。

そんな本能からの警鐘がけたたましく鳴る中、それらを知らぬとばかりに立ち止まった三人の中で最初に日色が足を踏み出した。

 

「ようやくゴールが見えたんだ、さっさと行くぞ」

「ん!」

「えぇ!」

 

二人に振り返って小さく不敵に笑う日色に、二人は覚悟を決めた表情で一歩を踏み出した。

そして、三人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

 

その瞬間、扉と日色達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

日色とハジメにはその魔法陣に見覚えがあった。忘れようもない、あの日、日色とハジメが奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。だが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

(これは………まずいぞ……ッ!)

 

何よりもその魔法陣に篭っている魔力量が馬鹿にならない。【魔力感知】により魔法陣から感じる魔力量はおおよそ日色やハジメの()()()だ。もはや笑い話にすらならない。

 

「ハジメ!金ロリ!気をつけろ、冗談抜きでやばいぞッ!!」

「言われなくてもわかってる!」

「……大丈夫……私達、負けない……ッ!」

 

咄嗟に日色が警告するが二人は決然とした表情を崩さずに返答してきた。

そんな二人に日色は小さく苦笑して日色も魔法陣を睨みつける。おそらくこの魔法陣から出てくる化物を倒さないと先へは進めないだろう。

 

そして魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにする日色とハジメとユエ。光が収まった時、そこに現れたのは……

 

体長三十メートル、赤、青、黄、緑、白、黒の色とりどりの六つの頭と長い首を持った鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光が日色達を射貫く。ただそれだけの行動だというのにヒュドラを中心に暴風が吹き荒れ、心臓を握りられているかのように錯覚し、身体が重く感じてしまう。

身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気が日色達に叩きつけられた。

同時にその内の一つである赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開かれた。

 

「来るぞッ!!」

 

瞬間――視界が焔に染め上がる。

恐らく口からドラゴンの代名詞と言える火炎の息吹を放ったのだろう。赤紋様の頭が放った約二メートル程の火球は空中を突き進み――発射されてから約三十センチ進んだところで日色達目掛けてまるで水風船を割ったが如く広範囲に炸裂した。

その規模は火炎放射の様なものでも炎の壁と喩えようとしても物足りない。もはやそれは――炎の大波である。

 

初手で放たれた広範囲の攻撃に日色とハジメは驚愕しながらも【空力】と【縮地】を併用し、ユエも風魔法を用いて同時に三方向へ飛び退く様に散開する。

広範囲に襲いかかる炎の大波をどうにか避け、三人は空中に跳び上がり反撃を行おうとする。

奇しくもその行動により、三人は()()()()()()()()()()を防ぐことができた。

 

瞬間――日色の背筋に悪寒が走る。

 

「ッ!お前ら、防――ッ!!?」

 

日色は叫びながら直感に身を任せて日色の言葉に疑問の表情となっているハジメに抱きつく様に突進し、同時に文字魔法『防』を使い結界を張る。ユエも日色の声に何かあるのではないか?と思い、咄嗟に風魔法で風を操り全身を包む。

 

刹那――

 

ボハンッ!!!と炸裂した火球の炎の一つが地面に触れた途端、爆発した。すると爆発に連動する様にその爆発の近くで新たに爆発が巻き起こり、それに連動する様に更に爆発が何度も連鎖的に巻き起こる。

 

連鎖反応の様に何度も爆発し空間を炎で彩りながら爆炎と爆風が烈風の如く平等に薙ぎ払う。

 

「ぐっ!!?」

「日色ッ!!」

「大丈夫だ!」

『どこの某女王のチャージブレスですかねぇ!?』

 

日色は背中にいるハジメの悲鳴じみた叫びに叫びかえしながらも文字魔法の結界が爆炎と爆風に壊されない様に魔力を込めて意識を向け続ける。

そして漸く爆炎と爆風が収まると同時に爆風に巻き上げられた土煙が辺りを覆い、偶然にも煙幕の煙幕の役割を果たしてくれた。

 

「――ハジメ、大丈夫か!」

「大丈夫。ユエは!」

「…………大丈夫だ、おそらく咄嗟に風魔法で防いだのだろうな」

「…………チッ」

「……なんでそこで舌打ちをするんだ?」

 

日色の視線の先には日色が渡した服を微かに焦がしていながらも無傷で空中を漂うユエの姿がいた。

その姿に何故か舌打ちをするハジメがいたが、日色は持ち前のスルースキルでスルーし、土煙を利用しながら反撃を開始する。

土煙を吹き飛ばすように【空力】を用いて移動しながらハジメのドンナーが火を吹き電磁加速された弾丸が超速で赤紋様の頭を狙い撃つ。

しかし――

 

「キュルァ!?」

「なっ!!」

 

――人間の科学の結晶である弾丸は赤雷を撒き散らしながら赤紋様の頭を抉っていき、傷口を焼くが頭の左部分を三割ほど抉っただけで吹き飛ばすことは叶わず、仕留めきることは出来なかった。

もはや自分のドンナーでは一撃で仕留めることは難しい、その事実にハジメは目を剥いてしまう。

 

だが、その事実に衝撃を受けたのは一瞬である。すぐさま思考を切り替え【念話】で魔力を通して日色に呼びかける。

 

[日色ッ、赤頭を!]

[あぁ、任せろ]

 

日色に伝えると、土煙から日色が【空力】を用いて土煙を風圧で吹き飛ばすように現れ、痛みに悶える赤紋様の頭へと鞘に収めた刀に魔力を流し、強度を上昇させながら火花が散るほどの速度で鞘走りを行いさらに加速させながら抜刀する。

 

――我流剣術【天閃】

 

空中では踏みしめる足場がないため、刀をうまく振るえないかと思われるかもしれないが日色には【空力】がある。自ら足場を生み出すことによって虚空を踏みしめ、赤紋様の頭を傷口に斬撃を当て、見事首を切断した。

 

まずは一つと日色が内心ガッツポーズを決めた時、白い文様の入った頭が「クルゥアン!」と叫び、吹き飛んだ赤紋様の頭を白い光が包み込んだ。すると、まるで逆再生でもしているかのように赤紋様の頭が元に戻った。

 

「クソッ、回復魔法も使えるのか!」

 

[……こっちも…同じ、頭を吹き飛ばしても……すぐ治る]

 

視界の端ではユエの氷弾が緑の紋様がある頭を吹き飛ばしたが、同じように白紋様の頭の叫びと共に回復してしまった。このままでは堂々巡りである。

ユエから【念話】で伝えられる情報に日色は舌打ちしながら【念話】でユエとハジメに伝える。

 

[白紋様の頭を狙うぞ!このままではキリがない!]

[わかった!]

[んっ!]

 

日色の指示に従いユエとハジメは白紋様の頭を狙いと銃口と手を構える。

 

ドパンッ!

 

「【緋槍】!」

 

最大出力の閃光と燃え盛る槍が白紋様の頭に迫る。しかし、直撃かと思われた瞬間、白紋様の頭が一鳴きすると共に白紋様の頭の目の前に四つの光が生み出され、四つの光は幾何学模様を描くと同時に白色の結界が展開され、閃光と燃え盛る槍を受け止め、包み込んだ。

 

その光景に日色はゾワッ!と背筋が粟立つような感覚に襲われる。

 

白紋様の頭が生み出した幾何学模様の魔法陣を見た瞬間、ひとつのデジャブを感じたのだ。

 

何故なら、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ハジメ!金ロリ!今すぐその場から離れろぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

日色は己の直感に委ねるように喉が張り裂けそうなほど叫び、その叫びにハジメとユエは日色の様子に何かあるのではと思い、つい少し後退してしまう。

 

瞬間――

 

「クルァアアン!!」

「「なっ!?」」

 

――まるで限界まで引き絞られたゴムが元に戻るように未だ直進しようとする閃光と燃え盛る槍を包み込み、伸びていた白い結界がバチンッ!と元に戻り、閃光と燃え盛る槍がハジメ達目掛けて()()()()()

 

驚く二人にその反撃を避けることはできず、さっきまで二人がいた場所に閃光と燃え盛る槍が着弾し、二人は吹き飛ばされてしまう。

 

「がッ!?」

「きゃ!?」

 

日色の言葉に運良く後退していたことで直撃は喰らわなかったものの着弾と共に衝撃波と地面の破片が二人の全身を滅多打ちにし、吹き飛ばされてしまう。その地に伏した二人を睥睨する白紋様の頭とその二人に止めを刺そうとするように青紋様の頭と緑紋様の頭がガパッ!と口を開き、口から息吹らしきものを吐こうとする。

 

「――させるか!」

 

しかし、吐かれる瞬間、日色が二人の前に着地し、人差し指に魔力を灯らせ文字魔法『守』を描く。

 

そして、日色の文字魔法が完成するのと青紋様の頭と緑紋様の頭が息吹を吐くのは同時だった。

日色の文字魔法による結界が三人をドーム状に包むと共に、青紋様の頭から吐かれる氷の息吹と緑紋様の頭から吐かれる暴風の息吹が空中で混ざり合い、ひとつの災害を巻き起こす。

 

 

それは一言で言うならば、吹雪(ブリザード)

 

 

日色達を中心に風速50メートル以上の高密度の竜巻が一つ60センチ(縦の長さ)の無数の氷柱を高速で吹き飛ばし続ける災害である。

猛烈な竜巻の内部は日色が張った結界の範囲以外を除いてマイナス30度以下となっており、次々と加速された大きな氷柱が結界に衝突し、結界が軋みをあげる。

 

「ぐぅうッ!!」

「日色ッ!」

「俺のことはいい!お前らはさっさと神水を飲んで回復しろ!」

 

ユエの悲痛な叫びが聞こえるが日色は怒鳴るように叫び返し、回復を促す。

今の日色には結界が壊れないように意識を向けるのに集中しなければならないほど余裕がないのだ。

なんとか竜巻を防ぎ続けているとふと神水を飲み、回復しているハジメから声がかかった。

 

「……日色、私を文字魔法で援護できる?」

「一応はできるが……どうするつもりだ?いくらダメージを与えても白紋様の頭に回復させられるし、白紋様には攻撃を跳ね返させられるぞ」

「だったら、跳ね返せない攻撃をすればいい」

「簡単にいうな、何か……そういうことか、確かに試してみる価値はあるな」

 

そう言いつつハジメが出した物を見て、日色は結界に意識を向けながらも小さく笑う。

ハジメは日色の言葉に気を良くしながら、ユエに視線を向ける。

 

「ユエも行けるわね?」

「……ん、言われるまでもない」

「それじゃあ、頼むぞ」

 

そして、竜巻が消え日色は結界を解除すると共に、三人は一気に散開し、一気にヒュドラへと接近する。

 

「クルァア!!」

 

それに反応したのは黄色の紋様を持った頭である。黄紋様の頭がひと鳴きするとともにサソリモドキの時と同じように地面が波打ち辺りの地面が変化し、まるで生きているかのようにグネグネと触手ように形状を変えながら襲ってくる。しかも触手の大きさは10メートル程で先端に刃がついてあるという駄目押しだ。

 

「日色!」

「あぁ!文字魔法(ワード・マジック)!」

 

ハジメは襲い掛かる土の触手を避けながら日色の名を呼ぶと日色は人差し指を動かし『静』の文字を書き、地面に飛ばすと波打っていた地面がまるで最初から何もなかったかのように静止し、土の触手は地面に溶けるように沈んでいった。

日色の文字魔法によって地面が『静』められたのだ。

 

その隙にハジメはヒュドラに、厳密には白紋様の頭に迫る。

 

「クルァアアン!!」

 

その行動に無駄だとでも嘲笑う様に白紋様の頭は再度白色の結界を張る。

ハジメは己のドンナーの一撃やユエの【緋槍】すら跳ね返したそれを視認すると共に手持ちの物を白紋様の頭目掛けて放り投げた。

 

「お前のその魔法は確かに私のドンナーやユエの【緋槍】を跳ね返す」

 

放物線上の軌道を描きながら白紋様の頭目掛けて飛んでいく物体、【焼夷手榴弾】を見ながらハジメは、「だけど――」と呟く。

 

「――範囲攻撃は防げないよね?」

 

瞬間――【焼夷手榴弾】が破裂し、摂氏三千度度の燃え盛るタールが撒き散らされた。

ハジメの推測では白い結界は魔法や遠距離の物理攻撃を跳ね返すものではないかと推測している。

ならば、()()()()()()()()()()()()

 

燃え盛るタールを確かに白い結界は防ぐだろう、だが結界はあくまで一方向でしか展開されていない。故に【焼夷手榴弾】等のような()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

どうやらその予想は的中したようで撒き散らされた燃え盛るタールは白紋様の頭にも降り注ぎ、その苦痛に悲鳴を上げながら悶えている。

 

[今ッ!]

[んっ!]

 

【念話】でハジメはユエに合図を贈り、最上級魔法を使わせようとする。白紋様の頭の反射魔法により最上級魔法を跳ね返られる可能性があるためと一度使うとユエは行動不能になるなるため容易に使えないが、このチャンスで使わなければ確実に白紋様の頭を殺すことはできない。出し惜しみをしている余裕はないのだ。

 

ハジメの合図とともにユエは膨大な魔力を放出させながら手を掲げ、魔法名を呟く。

 

「【蒼――」

 

――瞬間、ユエの視界は反転した。

 

 

「いやぁああああ!!!」

 

「!? 金ロリ!」

「一体何ッ!」

 

突如、絶叫するユエに何事かとばかりに日色とハジメは振り向くとユエは頭を抱えながら涙目のまま絶叫し続けていた。

咄嗟に日色はユエに駆け寄ろうとするが、それを邪魔するように赤紋様の頭と緑紋様の頭が炸裂炎と真空刃を伴った渦巻く竜巻を無数に放ってくる。

 

「邪魔だ!!」

 

日色は文字魔法『速』を使い速度を上げることで無数の竜巻と炸裂炎を避けながら歯噛みして、必死に考える。そして、黒い文様の頭の存在を思い出した。

 

『そういえば、精神攻撃してくる奴いたなぁ!』

 

日色は文字魔法『斬』を黒紋様の頭に飛ばし、ザンッ!!!と頭に張り付くと共に文字魔法を発動させ、切断すると共にユエがくたりと倒れ込んだ。その顔は遠目に青ざめているのがわかる。

 

「ハジメ、しばらく時間を稼いでくれ!」

「わかった!」

 

日色の言葉に応じるようにハジメはユエの元に向かう日色に効果が及ばないように【閃光手榴弾】と【音響手榴弾】をヒュドラに向かって投げつけた。

 

【音響手榴弾】は八十層で見つけた超音波を発する魔物から採取したものだ。体内に特殊な器官を持っており音で攻撃してくる。この魔物を倒しても固有魔法は増えなかったが、代わりにその特殊な器官が鉱物だったので音響爆弾に加工したのだ。

 

二つの手榴弾が強烈な閃光と音波でヒュドラを怯ませる。しかしその怯みも一瞬で一時的に視力を失ったことでがむしゃらに攻撃を行ってくる。しかしその隙に日色はユエを抱き上げ柱の陰に隠れた。

 

「おい!金ロリ!しっかりしろ!」

「……」

「おいっ!」

 

日色の呼びかけにも反応せず、青ざめた表情でガタガタと震えるユエ。日色はクソッと悪態を付きながら、ペシペシとユエの頬を叩き、神水を飲ませた。暫くすると虚ろだったユエの瞳に光が宿り始めた。

 

「……日色?」

「ハァ、ようやく目覚めたか……一体何をされた?」

 

パチパチと瞬きしながらユエは日色の存在を確認するように、その小さな手を伸ばし日色の顔に触れる。それで漸く日色が其処にいると実感したのか安堵の吐息を漏らし目の端に涙を溜め始めた。

 

「……よかった……見捨てられたと……また暗闇に一人で……」

「は?何の話だ?」

 

ユエの様子に困惑する日色。ユエ曰く、突然、強烈な不安感に襲われ気がつけば日色に見捨てられて再び封印される光景が頭いっぱいに広がっていたという。そして、何も考えられなくなり恐怖に縛られて動けなくなったと。

 

「闇属性系の魔法か……相手は全属性の魔法を使えるということか」

『多分、原作とは全然違うよねぇ!?やっぱり信じなくてよかったぁ!』

「……日色」

 

敵の厄介さに悪態をつく日色に、ユエは不安そうな瞳を向ける。ユエにとって日色に見捨てられるということはよっぽど恐ろしいことなのだろう。当たり前だ、何せ自分を三百年の封印から命懸けで解き放ってくれた人物であり、吸血鬼と知っても変わらず接してくれるどころか、日々の吸血までさせてくれるのだから。

 

例えるならば日色は一種の麻薬と一緒だ。さも当然のようにユエはあっさりと救われて、自分で道を決めさせて、ユエは孤独ではなくなった。ユエは確かに救われた、救われたからこそ再び一人になるなんて耐えられず、依存してしまう。

だからこそ植えつけられた悪夢はこびりついて離れず、ユエを蝕む。

 

「日色っ!まだ!」

「チッ、もう時間か」

 

叫んだハジメの声に日色はヒュドラが混乱から回復したことを察した。日色は立ち上がろうとするがユエは、そんな日色の服の裾を思わず掴んで引き止めてしまった。

 

「……日色…………私を……追いてかないで……っ!!」

 

泣きそうな不安そうな表情で震えるユエ。日色は何となくユエの見た悪夢から、今ユエが何を思っているのか感じ取った。そんなユエに日色は小さくため息を吐く。

そして――

 

――ズドンッッッ!!!??、という見事に威力を調整されたデコピンがユエの額を打ち抜いた。

 

「――にゅッッ!!!??」

 

デジャブを感じるかのようにユエはあまりの激痛におもわず後ろに倒れこみ、悶絶してしまう。

痛みに悶える中、呆れた様な日色の声がユエの耳に聞こえてくる。

 

「お前の都合なんて知らん、というかついてくるかどうかはお前の意思だろうが」

「………………え?」

 

目尻に流していた涙がピタリと止まり、ユエはマジマジと日色を見つめる。日色は一切ユエから目を背けず、しかしユエの手を引くこともないまま立ち上がった。

 

「――追いていかれたくなかったら、勝手について来い。言っただろう?お前はどうしたい?、ってな」

 

その言葉にユエは未だ呆然と日色を見つめていたが、いつかの様に無表情を崩し万感のしかし決意を込めた表情で勢いよく立ち上がった。

 

「……んっ!」

「よし。だったらさっさと行くぞ、ハジメにシュラーゲンを使わせるから俺達は援護だ」

「……任せて!」

 

静かにつぶやく様な口調が崩れ覇気に溢れたやる気がいつもと断然あるユエに日色はどうしてこんなに張り切っているか疑問に思い首を傾げたがまぁいいか、と思い考えないことにした。別に理由がわからなくても困らないからだ

二人は一気に柱の陰から飛び出し、反撃に出ながら一人でヒュドラの攻撃を必死に凌いでいるハジメに日色が【念話】で作戦を伝える。

 

[ハジメ、シュラーゲンを使えッ!俺たちが時間を稼ぐ!]

[――わかった!]

 

日色の作戦に従う様にハジメは日色と入れ替わる様に退避し、それを追撃する様にヒュドラの緑紋様の頭と赤紋様の頭が炸裂炎と竜巻のブレスを空中でぶつかる様に吐くことで炸裂する筈の炎を暴風で覆い、膨大な酸素を常時供給させることで竜巻の内部をハジメの【焼夷手榴弾】に近い温度に変化させる摂氏3000度以上の灼熱の竜巻が日色に襲いかかる。

 

『【合技 ボム・サイクロン】ですね、わかりたくありませんッ!!』

「――ハァッ!!」

 

それに対して日色は刀を鞘に納め、全身の捩れを利用しながら左足を空気が鳴るほど力強く踏みしめた。

右手が柄に触れると共に瞳に蒼い残光が生まれ、己の動きを最適化させていく。

 

――技能【超集中持続】+我流剣術【天閃】

 

そして――抜刀。

 

瞬間――灼熱の竜巻に蒼い剣線が奔り、半ば灼熱の竜巻を斬り裂く。

だが、完全には切断するには至らず竜巻を切り裂いた部分から噴出するように摂氏3000度以上の灼熱の炎が日色へと襲い掛かる。

しかし、侮るなかれ日色の剣術はそれだけでは止まらない。

 

日色の神速の斬撃が通過した部分の空気が弾かれたことで真空の空間が生まれ、その空間の空気が元に戻ろうとする作用により灼熱の炎が日色を焼き尽くすことはなくその目の前で引き寄せられ、縫い付けられるように停止する。

そして、二回転目の遠心力と更なる一歩の踏み込みを加え、日色のさらに威力の増した【天閃】がもう一度繰り出された。

 

「――【天閃】……二撃ッ!!」

 

日色が習得しようとした抜刀術の元々の技は『隙の生じぬ二段構え』として生み出されているのだ。だとすればその抜刀術を日色(バカ)が習得しようとしないはずがない。

瞬間――さっきよりも何倍にも長く、そして深い蒼い剣閃が炎を含めた灼熱の竜巻を今度こそ斬り伏せる――

 

――どころか斬撃はヒュドラの胴体そのものを切り裂き、決して浅くない斜線の傷口を生み出した。

 

「【緋槍】!【砲皇】!【凍雨】!」

 

痛みに悶えるヒュドラの隙を突くようにユエが矢継ぎ早に魔法のトリガーを引いた。

有り得ない速度で魔法が構築され、炎の槍と螺旋に渦巻く真空刃を伴った竜巻と鋭い針のような氷の雨が一斉にヒュドラを襲う。

攻撃直後の隙を狙われ死に体の赤紋様の頭と緑紋様の頭を庇うように黄紋様の頭が【金剛】らしき固有魔法を使い、盾になろうとするが日色が白紋様に接近していることに気づき、一鳴きすることで地面を波打たせ柱を生み出すことで即席の盾を生み出させ、矢継ぎ早に日色へと噛み付きを繰り出していく。

 

「クルァンッ!!」

 

ユエの魔法はその石壁に当たると先陣が壁を爆砕し、後続の魔法が襲い掛かる。青紋様の頭が出来るだけ攻撃を打ち消そうとしているのか口から何度も氷の息吹を吐き出した。

しかし、量が量なので完全に打ち消すことはできないようだ。

 

「「「グルゥウウウウ!!!」」」

 

完全に打ち消すことのできなかった魔法が三つの頭に直撃し、三つの頭は悲鳴を上げのたうつことしかできない。

黒紋様の頭が、魔法を使った直後のユエを再びその眼に捉え、恐慌の魔法を行使する。

 

ユエの中に再び不安が湧き上がり、視界がかつての封印部屋の暗闇に塗りつぶされる。

しかし、日色の言葉と痛くも暖かみのあったデコピンを当てられた箇所から暖かみを感じ、体に熱が入ったように気持ちが高揚し、不安を押し流していった。

 

「……もう効かない!」

 

ユエは、日色を援護すべく、更に威力よりも手数を重視した魔法を次々と構築し弾幕のごとく撃ち放つ。どうせ強力な魔法を当てられてもすぐに治されてしまうのだ、だったら絶え間なく攻撃したほうが注意を惹きつけられるはずだ。

 

回復を受けた赤紋様の頭、青紋様の頭、緑紋様の頭がそれぞれ攻撃を再開するが、ユエはなんとか魔法で凌いでいた。相手の攻撃は一つ一つが最上級魔法の威力だがそれに対し中級魔法程度で凌いでいるユエの魔法の技術がどれだけ異常かよくわかるだろう。

 

一方、日色は三つの首がユエに掛かり切りになっている間に、一気に接近する。白紋様の魔法は最悪シュラーゲンの攻撃すら弾き返してしまう可能性があるため、魔法を展開する暇すらないほどの連撃を浴びせるには接近したほうがいいからだ。黒紋様の頭がユエに恐慌の魔法が効かないと悟ったのか、今度は日色にその眼を向ける。

 

「――――がッ!?」

 

瞬間、日色の視界が反転し、視界に様々な悪夢を映し出される。

 

ハジメに裏切られて射殺される自分の姿が。

ユエに裏切られて身体を焼き尽くされる自分の姿が。

物語のラスボスに無残にやられる自分の姿が。

 

日色の胸中に湧き上がる不安が日色の動きを停めらせ、その隙に黄紋様の頭がサソリモドキに勝る魔法で地面を操り、日色へと襲い掛かる。

だが――

 

「――舐めるなッ……!」

 

――日色は無理矢理悪夢を吹き飛ばし、襲い掛かる土の触手をミリ単位で紙一重避け、文字魔法で『炎』の文字を書き、黒紋様の頭目掛けて射出させ突然燃え上がったことに困惑と悲鳴をあげる黒紋様の頭を抜刀術で首と頭をお別れさせる。

 

先ほど見せられた悪夢は日色にとって既に受け入れた悪夢だ。例えその悪夢が訪れたとして日色はできる限り抗い生きると、その時はその時だと決めたのだ。…………世間一般ではそれを思考放棄というのだが。

 

蒼色の残光を残しながら日色は掻き消えるように土の触手を避けながら黄紋様に接近する。

それに対し受けて立とうと言うのか黄紋様の頭は自らの頭を巨大化させ、【金剛】らしき魔法を使って自ら噛み付き攻撃を日色に行った。

しかし、その攻撃が日色の身体に傷をつける前に日色が袈裟懸けに刀を振り下ろした。

 

――我流剣術浸透斬撃【霞桜】

 

刀が黄紋様の頭に触れると共に衝撃となった斬撃が黄紋様の頭の内部を斬り裂き、内側から破裂させた。

 

「今だ!ハジメッ!」

「わかってる!」

 

首を残して無残の姿になった黄紋様の頭をすかさず回復させようと白紋様の頭が視線を向けるが、その瞬間の隙を突くようにハジメが【空力】と【縮地】で飛び上がり背中に背負っていた対物ライフル『シュラーゲン』を取り出し空中で脇に挟んで照準する。

それに気づいた白紋様の頭が反射魔法の結界を生み出し、日色が「クソッ!」と悪態をつくがハジメの表情は変わらない、不敵な笑みのままだ。

 

「貫けッ!」

 

ハジメが【纏雷】を使いシュラーゲンが紅いスパークを起こす。そのスパークは最初の頃よりもだいぶ威力は上がり二尾狼の【纏雷】の約4倍の威力である。弾丸はタウル鉱石をサソリモドキの外殻であるシュタル鉱石でコーティングした地球で言うところのフルメタルジャケットだ。シュタル鉱石は魔力との親和性が高く【纏雷】にもよく馴染む。通常弾の数倍の量を圧縮して詰められた燃焼粉が撃鉄の起こす火花に引火して大爆発を起こした。

 

ドガンッ!!

 

大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共にフルメタルジャケットの赤い弾丸が、更に約一・五メートルのバレルにより電磁加速を加えられる。その威力はドンナーの最大威力の更に十倍。単純計算で通常の対物ライフルの百倍の破壊力であり、威力を比べれば戦艦の大砲などこれに比べれば玩具のようなものだ。異世界の特殊な鉱石と固有魔法がなければ到底実現し得なかった怪物兵器である。

 

発射の光景は正しく極太のレーザー兵器のよう。かつて、勇者の光輝がベヒモスに放った切り札が、まるで児戯に思える。射出された弾丸は真っ直ぐ周囲の空気を焼きながら白紋様の頭が生み出した結界に直撃した。

 

反射魔法の結界は必死に弾丸を跳ね返そうと、ゴムのように引っ張られながらも一瞬は耐えたもののすぐにパンッ!!という音と共に粉砕され、背後の白紋様の頭に直撃するも何もなかったように貫通して背後の壁を爆砕した。階層全体が地震でも起こしたかのように激しく震動する。

 

後に残ったのは、頭部が綺麗さっぱり消滅しドロッと融解したように白熱化する断面が見える白紋様の頭の残骸と周囲を四散させ、どこまで続いているかわからない深い穴の空いた壁だけだった。

 

一度に半数の頭を消滅させられた残り三つの頭が思わず、ユエの相手を忘れて呆然とハジメの方を見る。ハジメはスタッと地面に着地し、煙を上げているシュラーゲンから排莢した。チンッと薬莢が地面に落ちる音で我に返る三つの頭。ハジメと日色に憎悪を込めた眼光を向けるが、彼等が相対している敵は眼を離していい相手ではなかった。

 

「【天灼】」

 

それは正しく天の怒り。

かつての吸血姫。その天性の才能に同族までもが恐れをなし奈落に封印した存在に敵対した事への天罰だとでも言うかのように三つの頭の周囲に六つの放電する雷球が取り囲む様に空中を漂ったかと思うと、次の瞬間、それぞれの球体が結びつくように放電を互いに伸ばしてつながり、その中央に巨大な雷球を作り出した。

 

ズガガガガガガガガガッ!!

 

中央の雷球は弾けると六つの雷球で囲まれた範囲内に絶大な威力の雷撃を撒き散らした。三つの頭が逃げ出そうとするが、まるで壁でもあるかのように雷球で囲まれた範囲を抜け出せない。天より降り注ぐ神の怒りの如く、轟音と閃光が広大な空間を満たす。

 

そして、十秒以上続いた最上級魔法に為すすべもなく、三つの頭は断末魔の悲鳴を上げながら遂に消し炭となった。

 

何時もの如くユエがペタリと座り込む。魔力枯渇で荒い息を吐きながら、無表情ではあるが満足気な光を瞳に宿し、日色へと向けてサムズアップした。ハジメがその行動に苛立ったのか眼光に僅かに殺意を滲ませる。

日色はそんな二人を落ち着かせながら、ヒュドラの僅かに残った胴体部分の残骸に背を向けユエの下へ行こうと歩みだした。

 

直後――

 

「日色ッ!」

 

――ハジメの切羽詰まった声が響き渡る。何事かと見開かれたハジメの視線を辿ると、ズゾッ!!と圧倒的プレッシャーを纏いながら胴体部分から銀色に輝く七つ目の頭がせり上がり、ある一方向を睥睨していた。

 

その方向とは――ユエ!!

 

瞬間――七つ目の銀色に輝く頭は、ユエをその鋭い眼光で射抜き予備動作もなく極光を放った。その極光はハジメのシュラーゲンの比較にすらならないほどの破壊力があると一目見て誰もが理解できてしまう。

極光は瞬く間にユエに迫るが、ユエは魔力枯渇で動けない。

 

しかし、ユエに直撃し丸ごと消し飛ばす数瞬の前に日色が青紋様と緑紋様の頭の攻撃を防いだ時の再現のように再び立ち塞がることに成功した。

銀色の頭が出てきた瞬間、悪寒と同時にユエのもとへ飛び出していったことでなんとか間に合ったのだ。

咄嗟に文字魔法『防』を発動し、蒼色の結界を生み出してユエから極光を防ごうとする。

 

しかし、その結果はあの時とは全く違ったものだった。

 

結界は濡れた紙を破くが如く容易く破壊され、極光が日色を飲み込む。後ろのユエも直撃は受けなかったものの余波により体を強かに打ちぬかれ吹き飛ばされた。ハジメも極光が結界を突き破り、地面に着弾すると共に乱反射するように拡散し、幾つもの光線をなんとか【空力】と【縮地】で避けながら日色の名前を叫ぶことしかできない。

 

極光が収まり、ユエが全身に走る痛みに呻き声を上げながら体を起こす。極光に飲まれる前に日色に助けられた光景に焦りを浮かべながらその姿を探す。

 

日色は最初に立ち塞がった場所から動いていなかった。両腕を前に突き出し、仁王立ちしながら血だらけになった全身から煙が上がっている。地面には融解した刀と鞘の残骸が転がっていた。

 

「ひ、日色?」

「ひ、いろ……?嘘……そんなッ」

「…………」

 

なんとか光線を回避し、此方のもとに来れたハジメも目の前の現実に掠れた声で言葉を零すが日色は一切答えない。瞬間――まるで糸が切れた人形のようにグラリと揺れると前のめりに倒れこんだ。

 

「「日色ッ!!」」

 

少女達の悲鳴が木霊するの中、地面が日色の血で紅に染め上げられ、倒れた衝撃で外れた眼鏡は極光でレンズが割れており、落ちた眼鏡のフレームを地面に溢れるように流れる日色の血が彩っていく。

 

それはちょうど黒のフレームを緋色へと変えていくように。

 

戦闘は、まだ終わらない。




【それぞれのヒュドラの頭の役割と能力解説】

赤紋様の頭――炎系攻撃担当。口から空中で炸裂する炎の球を吐き出す。炎の球は空中で炸裂し、水風船が割れるがごとく辺りに炎を撒き散らす。炸裂した炎は大波の如く辺りに撒き散らされ地面などに触れると自動的に爆発し、そこから連鎖的に広範囲で爆発を巻き起こす。ちなみに爆発に直撃すると現在の光輝ぐらいのステータスならば最善を尽くしても片足と片腕は無くなる程の威力。日色達は当たればどうということはないを実行し、一撃も食らっていない、化け物である。元ネタはモン○ンのリオ○イアのチャージブレス。

青紋様の頭――水系攻撃担当。口から冷気を吹き出したり、30センチ程の氷柱を生み出して高速で発射したりできる。冷気を発射する為、その気になれば気温をマイナス30度程まで下げることができる。最も活躍できなかった可哀想な奴。一時期、作者は某ジョ○ョのホワ○ト・ア○バム ジェ○トリー・ウィープスのように銃弾を跳ね返すようにしてみようかな、なんて思っていたが描写できず断念した。

緑紋様の頭――風系攻撃担当。口から真空刃の竜巻を発射できる。竜巻の内部の風速は軽く50メートル超えている。範囲は小さいが高密度なため当たれば例え日色たちでも重傷は免れない。風であるため赤紋様や青紋様と同時にブレスを吐くことで強大な災害を発生させるなどという攻撃も出来る。元ネタは某七つの罪のハ○ザーのライジングトルネード。

黄紋様の頭――土系攻防担当。サソリモドキ以上の地形操作と己を巨大化させることや硬くすることができる。そんなに変わっておらず地形操作の魔法の強化しかされていない。

黒紋様の頭――デバフ系支援担当。変わっていない。せいぜい強制的に悪夢を見させるぐらい?

白紋様の頭――回復系支援担当。多分六つの首の中で最もチートな首。回復魔法に合わせて作者が「日色が反射魔法を作れるなら解放者の奴らも作っているはずだよね、引きこもりなんだから」なんて事を思ったせいで生まれてしまったチート能力『反射魔法』を覚えている。反射魔法は一方向から攻撃ならば物理、魔法問わず一定の威力ならば強制的に跳ね返すチート魔法であるため、その気になればドパンッ!や【神威】すら容易く跳ね返す。一応弱点として一方向しか展開できないという弱点はあるが大半の魔法が一方向なため弱点といえるものではない。つまり集中的に攻撃してもほぼ全ての攻撃が反射される最強のヒーラーなため並大抵の冒険者は倒すことなど不可能に近い。ちなみに日色達はハジメのシュラーゲンによるゴリ押しで突破した。

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