ありふれた職業で世界最強(女)と文字使い(ワードマスター)   作:アルテール

46 / 51
こんにちわ、お久しぶりです。アルテールです。

いやー、もうゴールデンウィークも終わりが近いですね。あさってから再び学校が始まると思うと欝になってくるこの頃です。

最近は全く筆が進まないので投稿速度が更に遅くなってしまいますがご了承ください。

それではどうぞ!( ̄▽ ̄)


シアの事情と帝国兵

「私の家族も助けて下さい!」

 

峡谷にウサミミ少女改めシア・ハウリアの声が響く。どうやら、このウサギ一人ではないらしい。仲間も同じ様な窮地にあるようだ。よほど必死なのか、先程から相当強くハジメに蹴りを食らっているのだが、頬に靴をめり込ませながらも離す気配がない。

 

それを理解したのか日色は仕方がないとでも言うように――

 

――シアに文字魔法『衝』の文字を飛ばし、吹き飛ばした。

 

「ギャフンっ!?」

 

突然の衝撃がシアの腹部を襲い、間抜けな悲鳴を上げながら強制的に日色から手を離させる。スライディングするが如く地面を滑り、ようやく止まったかと思うとピクッピクッとあまりの衝撃のせいか若干痙攣している。

 

「断る、わざわざ助ける必要のないお前を助けてやったんだぞ?これ以上面倒事に関わりたくないんでな。ハジメ、金ロリ、行くぞ」

「えぇ」

「ん……」

『今気づいたけど、そういえばコイツバグうさぎじゃんッ!ヤバイって、関わったらダメだって!!星にされちゃうって!』

 

そんな淡々と言葉を零した日色は内心そんな言葉を零しながら再びバイクに魔力を注ぎ込み発進させようとした。

 

しかし……

 

「に、にがじませんよ~」

「………………」

 

ゾンビの如く起き上がり再度日色の脚にしがみつくシア。流石の日色もこれには無視できなくなってきたのか僅かに眉を上げ、無表情で何かを観察するかのようにシアを見る。

 

「………お前、気持ち悪いな」

「――ゾンビみたいね」

「……不気味」

「うぅ~何ですか! その物言いは! さっきから、デコピンとか足蹴とか、ちょっと酷すぎると思います! 断固抗議しますよ! お詫びに家族を助けて下さい!」

 

ぷんすかと怒りながら、さらりと要求を突きつけるシア。案外余裕そうである。ここまで来ると流石に頑丈の一言では説明できないだろう。懇願しながらも「ここで間違えたら未来が変わっちゃいますぅ」と小さく涙声で呟いているところも怪しい。

 

「チッ………面倒くさい奴だな。取り敢えず話聞いてやるから離せ」

「ほ、本当ですか!?」

 

話を聞いてやると言われパアァと笑顔になったシアは、これまたさり気なく日色のローブで拭こうとしたのでデコピンを叩き込んだ後、一瞬にして念糸で編んだタオルを被せてやる。

シアは「はぎゅん!」と額に襲い掛かる痛みに悶え、タオルで顔を拭きながら文句を言い始めた。

 

「ま、またやりましたね!父様にもされたことないのに!よく私のような美少女を、そうポンポンと……もしや殿方同士の恋愛にご興味が……だから先も私の誘惑をあっさりと拒否したんですね! そうでッ――あぁ!?待ってくださいっ!?冗談です!冗談ですから行かないでくださいっ!!」

 

なにやら不穏当な発言が聞こえたので日色はそのまま発進しようとしたのだが再びシアに涙たらたらでしがみつかれてしまった。

 

「……ハァ、どうしてお前らはそのネタを知っているんだ?……まぁいい、誘惑だかなんだか知らんが誘いに乗らないのはお前の性格があまりにも残念すぎるからだ」

 

「それに、容姿だってアイツ等の方も引けをとっていないしな」と言いながら日色はチラリとハジメとユエを見る。

ユエは日色の言葉に赤く染まった頬を両手で挟み、体をくねらせてイヤンイヤンし、ハジメは頬を赤らめ恥ずかしながらも日色に笑顔を向けている。

 

ユエの腰辺りまで伸びたゆるふわの金髪が太陽の光に反射してキラキラと輝き、ビスクドールの様に整った容姿が今は照れでほんのり赤く染まっていて、見る者を例外なく虜にする魅力を放っている。

格好も、日色達と出会ったばかりの頃の様なみすぼらしい物ではない。前面にフリルのあしらわれた純白のドレスシャツに、これまたフリル付きの黒色ミニスカート、その上から純白に青のラインが入ったロングコートを羽織っている。足元はショートブーツにニーソだ。

 

対してハジメの艶やかでありながらもなめらかな銀髪は鏡のように太陽の光を照り返し、辺りを煌めかせる。ユエとはまた別の空想のキャラクターが現実に現れたかのような整った容姿がほんのり赤く染まり、正しく女神と言わせる如きの魅力を放っている。

格好も、奈落に落ちた時とは違い幾重にも鎖に似ている黒い紋様が奔る白を基調とした衣服に下は黒いショートパンツ。その上から藍色に近い黒を基調としたロングコートを纏っている。しかも左袖の部分から肩口あたりまで吸着性のある魔物の皮が使われており、いつでも着脱可能だ。戦闘時には義手を露出することも可能な力作である。

足元はニーソと紅と黒を基調とした蹴り技などで使うギミックをつけたアーティファクトであるロングブーツである。

ハジメの服もユエの服もオスカーの服を魔物の素材に合わせて、日色とユエが仕立て直した逸品である。高い耐久力を有する防具としてもとても役に立つ衣服なのだ。

 

ちなみに日色の服装は黒を基調とした衣服に下は青いラインの入った黒いズボンにハジメと色違いのブーツを履き、その上から金色の刺繍が施されている衣服をスッポリと覆うような赤色のローブを被っている。

 

そんな二人の可憐な少女達の姿を見て、さすがのシアも「うっ」と僅かに怯む。とは言ってもシアも少し青みがかったロングストレートの白髪に、蒼穹の瞳。眉やまつ毛まで白く、肌の白さとも相まって黙っていれば神秘的な容姿を持っているため決して二人に負けず劣らずではないだろう。手足もスラリと長く、ウサミミやウサ尻尾がふりふりと揺れる様は何とも愛らしい。ケモナー達が見れば感動して思わず滂沱の涙を流すに違いない。

 

しかも、シアは大変な巨乳の持ち主だった。ハジメよりも大きいそれはボロボロの布切れのような物を纏っているだけなので固定すらされず殊更強調されてしまっている。彼女が動くたびにぶるんぶるんと揺れ、激しく自己を主張している。

 

要は、彼女が自分の容姿やスタイルに自信を持っていても何らおかしくないのである。ただ、相手が悪かった。相手はこれほどの抜群のスタイルを持つ二人に強烈なスキンシップをされても眉をひそめる程度で済ますあの神代日色なのだから。

 

あぁ、だからだろうか?矜持を傷つけられたシアは遂に言ってはならない言葉を言ってしまったのである。

 

「で、でも!胸なら私が勝ってます!そっちの女の子はペッタンコじゃないですか!」

 

――ペッタンコじゃないですか

 

 

――ペッタンコじゃないですか

 

 

――ペッタンコじゃないですか

 

ユエへと指を指し、峡谷に命知らずなウサミミ少女の叫びが木霊する。恥ずかしげに身をくねらせていたユエがピタリと止まり、前髪で表情を隠したままユラリとシュタイフのサイドカーから降りた。

そう、シアは言ってしまったのである。最近はハジメと比べて自分が着痩せするタイプである事実を気にしていたユエへと。

 

日色がハァ、とため息を吐き、ハジメが「あ~あ」と天を仰ぎ、無言で合掌する。

 

小便は済ませたか?

神様にお祈りは?

部屋のスミでガタガタ震えて

命ごいをする心の準備はOK?

 

一歩一歩歩くたびに圧力が増していくユエに、流石にまずいと思ったのかシアは周りに助けを求めようとするがハジメが合掌しているし、日色は既に興味がなくなっているのかオスカーの住処から持ってきた本を読んでいる。

 

「……………………」

「あ、あのー、……謝ったら許してくれたり」

 

 

「【嵐帝】」

 

アッーーーー!! 

 

大峡谷に哀れな犠牲者の悲鳴が響き渡り、きっかり十秒後、グシャ!という音と共に日色達の眼前に墜落した。

 

ユエは「いい仕事した!」と言う様に、掻いてもいない汗を拭うフリをするとトコトコと日色の下へ戻り、シュタイフに腰掛け、本を読む日色に下からジッと見上げた。

 

「……おっきい方が好き?」

 

その言葉に日色は一瞬も躊躇せずこう一言。

 

「それよりも本だ」

 

 

知ってた。

 

 

 

 

「え……それじゃあ、皆さんも魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると……」

「まぁ、な」

「えぇ」

「……ん」

 

現在、日色達はシアをシュタイフのサイドカーに、ユエを日色の前に乗せて悪路をものともせず【ライセン大峡谷】を爆走していた。

最初は谷底では有り得ない速度に目を瞑っていたシアも暫くして慣れてきたのか、次第に興奮して来たようだ。日色がカーブを曲がったり、大きめの岩を避けたりする度にきゃっきゃっと騒いでいる。

 

何故、日色達がシアを連れて峡谷を爆走しているのか?

それは数分前に遡る。

 

数分前、シアは己の自己紹介を行った後、日色達の意思を無視して助けを求めた理由を説明した。

 

兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアを含めハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。

 

そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。

兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのである。彼女は亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操る術と、とある固有魔法まで使えたのだ。

 

それがシアが言っていた『やっと見つけた』という言葉に関係するものである。

 

その固有魔法は【未来視】、その能力は任意で発動する場合仮定した選択の結果としての未来が見えるというものだ。しかし、当然のように対価は存在し一回の使用で枯渇してしまうほどの莫大な魔力を消費してしまうのである。また、自動で発動する場合もあり、これは直接・間接を問わず、シアにとって危険と思える状況が急迫している場合に発動する。これも多大な魔力を消費するが、任意発動程ではなく三分の一程消費するらしい。

 

話を戻そう、そんな魔力を操作する力を持った少女に対し一族は大いに困惑した。当然だ、兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。

 

しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。

また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。

 

故に、ハウリア族は女の子を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。……ちなみに【未来視】を持っていながらもなぜバレてしまったのか疑問に思ったハジメが質問すると友人の恋路が気になり使ってしまったことでバレてしまったというなんとも悲しい理由だった。三人の目が冷めたのは言うまでもない。

行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。

 

しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。

女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差が存在し、どうにか【ライセン大峡谷】に逃げ込めたものの全員が捕らえられてしまうのは時間の問題だった。

 

そんな危機的な状況にまるで天啓であるかのようにシアの【未来視】が発動し、一つの未来を映したのだ。そう、自分達を助け出してくれる日色達の姿が。

それを見た途端、シアの行動は速かった。魔力が回復するたびに【未来視】を使用し、日色達に出会える場所を探し一人で探しに行ったのである。

 

そうして魔物に何度も追われ、命からがら日色達と出会い現在に至っているらしい。

 

だからこそ、自分の家族を助けて欲しいとシアは説明した。

 

その言葉に日色の返答はこう一言。

 

「断る」

「」

 

 

知ってた。

 

 

が、結論を言えばシアの頼みを受けることとなった。

面倒事(というか死亡フラグ)に巻き込まれないように日色は断ったのだが、ユエが「…樹海の案内に丁度いい」とシアに賛成の意を示してしまい、ハジメも「日色がいいなら構わない」と言ってしまったので結局は樹海に行かないといけないし……となったので樹海の案内を代価にシアの頼みを引き受けることとなったのだった……ちなみにユエがシアに賛成の意を示した時に再び『ペッタンコ』の言葉を言ってしまったのでビンタを食らったというのは余談である。

 

(とはいっても………)

 

と、日色はどうしてこうなったと心の中で嘆きながらも思考を切り替えるように思案する。

シアの聞いた話を日色の知っているもはや朧げな原作知識と対照させてもおそらくは相違点はないだろう、確か原作では既に兎人族は半分程度捕らえられていたような気がするが気のせいかと思い、思考を打ち切る。

 

ただ、日色が気になったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

シアは魔物と同じく魔力を操作することができるので亜人族にとって不倶戴天の敵として忌み嫌われていると言っていたが、それ自体おかしい。

そもそも亜人族が虐げられている理由は人族の場合は、聖教教会が魔力を持たぬ種族は神に愛されていない故に魔法が使えない種族である亜人族は神から見放された悪しき種族と主張されているからだ。

逆に言えばシアという存在が生まれてしまえば正教教会の虐げる言い訳は使えなくなる。むしろ、手厚く保護され今の現状を変えることが可能なのだ。

 

その前例が海人族だ。

 

海人族は、亜人族としてはかなり特殊な地位にある種族である。西大陸の果、【グリューエン大砂漠】を超えた先の海、その沖合にある【海上の町エリセン】で生活しているのだが、彼等は、その種族の特性を生かして大陸に出回る海産物の八割を採って送り出しているのだ。そのため、なんとも現金な話だが亜人族でありながらハイリヒ王国から公に保護されている種族なのである。

 

もちろん、普通に教会に訴えたところでもみ消されて秘密裏に暗殺されるのがオチだろうがシアの固有魔法は未来視、多くの運命を予言し続けて民衆を味方に付けるなんて簡単だろう。使い勝手は悪いが予知を続け、その未来を亜人族に伝え続ければいずれは噂になり、最終的には民衆を仲間にすることができる。民衆を味方に付けた後異端とすれば多くの反感を買うのは当然だ。

 

ましてや同じ亜人族同士のくせに忌み子として虐げるのなど日色からすれば論外である。普通に考えればむしろ好意的に接し、出来るだけ距離を縮めようとするだろう。

何故ならばシアはこんな家族のために命を顧みず一人で助けを呼びに行こうとするほどのお人好しな性格だ。これが演技ならば驚きだがおそらくそれはないだろう、何よりそんな軽い演技で日色やハジメが誤魔化せられるわけがない。

シアと距離を縮めれば、人族からの迫害もなくなる可能性も生まれ、仮に命の危険にさらされようとも魔力操作を使えるシアが助けてくれるだろう。

 

だからこそ、日色にはシアを差別した理由が理解できない。虐げることで何のメリットがあるのか疑問符を上げるばかりである。

 

そう思っていると横のサイドカーで何故か顔を填めて泣きべそをかいていた。

 

「……いきなりどうした?情緒不安定なのか?」

「壊れたんじゃないの?」

「ん、……手遅れ」

「手遅れって何ですか!それに壊れてません!

私は至って正常です! ……ただ、一人じゃなかったんだなっと思ったら……何だか嬉しくなってしまって……」

 

「「「…………」」」

 

どうやらシアは魔物と同じ性質や能力を有するという事、この世界で自分があまりに特異な存在である事に孤独を感じていたようだ。家族だと言って十六年もの間危険を背負ってくれた一族、シアのために故郷である樹海までも捨てて共にいてくれる家族、きっと多くの愛情を感じていたはずだ。それでも、いやそれ故に、『他とは異なる自分』に余計孤独を感じていたのかもしれない。

 

おそらくユエがシアを助けようとしたのもユエは意識的か無意識的に自分とシアの境遇を重ねているからなのだろう。共に、魔力の直接操作や固有魔法という異質な力を持ち、その時代において『同胞』というべき存在は居なかった。故にユエはシアを助けようとしたのだろう。

 

日色は何も言わない。何も行動に起こさない。

 

何故なら彼女達の辛さを自分は体感していないから。

生半可な慰めや行動は今の彼女達にとって失礼だから。

一見血も涙もないように見えるがこれも彼なりの不器用な優しさだった。

 

ちなみにハジメからすれば「あっそ」と言えるレベルで興味がないことだった為話を聞いていなかったのは余談である。

 

暫く走り続けていると突然サイドカーから此方に顔を向けたシアが不安そうに話しかけてきた。

 

「そ、そういえばあの……日色さんは私達の家族を守ってくれるん……ですよね」

「あぁ、それが依頼内容だからな。それがどうした?」

「そ、その……もし、帝国兵と出会ったら……日色さん……どうするのですか?」

「…………何が言いたい?」

 

質問の意図がわからず聞き返す日色に意を決したようにシアが尋ねる。その瞳は揺れていて真実を答えて欲しいという気持ちが喋らずとも伝わってくる。

 

「今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵……人間族です。日色さんと同じ。……敵対できますか?」

「…………未来を見たのか?」

「はい……帝国兵と相対する日色さん達の姿を……」

「だったら何故聞く?何の疑問もないはずだ」

「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと……」

 

その言葉に辺りの空気が空気が少し重くなったように感じた。おそらく、シアは不安なのだろう。未来を見たとしても目の前の日色達が本当に守ってくるのか?と本当に彼らを巻き込ませていいのか?という二つの矛盾する不安を抱えているのだ。前者はまだしも後者を気にするということはきっと彼女は余程のお人好しなのだろう。

 

しかし、日色はその不安をあっさりと払拭するようにあっさり言ってのけた。

 

「それがどうかしたのか?」

「えっ?」

 

疑問顔を浮かべるシアに日色は心底興味がなさそうに言葉を告げる。

 

「人間族と敵対することが何か問題なのか?」

「え?だ、だって同族じゃないですか……」

「お前だって同族に追い出されてるだろうが」

「それは、まぁ、そうなんですが……」

「ハァ……俺達はお前が樹海探索に詳しいというからそれを対価に樹海までの護衛という依頼を受けただけだ。護衛はあくまで樹海までだそこから先は知らん。忘れたわけじゃないだろう?」

「うっ、はい……覚えてます……」

「だから樹海案内の仕事が終わるまでは守る、それが仕事だ。人間族だろうが亜人族だろうが知ったことか。依頼は果たす、それだけだ」

「な、なるほど……」

 

淡々という日色の言葉にシアはほぼ無意識に首を縦に振りながら納得するシア。あまりにもあっさりと言ってしまうので反応に困りシアには頷くことしか出来なかった。

すると日色とハジメの感知系の技能に幾つもの反応と同時に悲鳴や高揚した叫び声が聞こえてきた。

 

「――ッ!日色さん!もう直ぐ皆がいる場所です!それにこの声………人間族、おそらく帝国兵です!!」

「~~っ!わざわざ大声で怒鳴らなくても聞こえているッ!近道するから全員振り落とされるなよ!!」

 

日色はシュタイフに更に魔力を注ぎ、さらに速度を加速させる。壁や地面をが物凄い勢いで後ろへ流れていく。

多大な魔力供給によりシュタイフが蒼い燐光を放ちながら走ること30秒ほど。

 

最後の大岩を迂回するのではなく直進し、シュタイフの錬成機構により瞬く間にジャンプ台に変形させスピードを一切減速させないままシュタイフは空を駆ける。

そして、大岩の先に今まさに捕らわれようとしている兎人族と帝国兵達の間にギャリッ!ギャリッ!と地面を削りながら着地した。

兎人族たちを捕らえるのを敢えて楽しむように追っていた帝国兵が操る馬は突如落下してきたシュタイフに驚き、立ち上がったせいで背中に乗っていた帝国兵達が落ちてしまう。

 

「う、ぐ……なんだぁ……」

「……おい、さっさと家族の下に行って来い」

「あぁん!?何だてめぇ!」

 

後頭部や尻をさすりながら起き上がった帝国兵達は偉そうな言葉に叫ぶ声を日色は無視して、シアへと視線を向け帝国兵と同じく突然の出来事に困惑している兎人族達への説明をして来いと日色はシアに指示し、シアは「は、はい!」と頷き、謎の男女と共に現れた愛しの娘の姿を見て「シア!無事だったのか!」と名を叫んでいる家族の元へと走っていった。

 

それを横目に日色はカーキ色の軍服らしき衣服を纏った30人程の帝国兵達へと淡々と告げる。

 

「此奴等は貰っていく、異論は認めないからさっさと失せろ」

「…………は?何だよお前。人間だろ?なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ?しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か?情報掴んで追っかけたとか?そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

 

勝手に推測し、勝手に結論づけた小隊長は、さも自分の言う事を聞いて当たり前、断られることなど有り得ないと信じきった様子で、そう日色に命令した。おそらく背後にいるハジメとユエはお金で傍に侍らしていると思われたらしく、奴隷商人という単語に兎人族達がビクッと震えた。

 

「断る」

 

当然、日色が従うはずがない。

 

「……今、何て言いった?」

「――なんだ?言葉の意味が理解できないほど脳が退化した馬鹿なのか?こいつらは今は俺のものだ、あんたらには一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰るんだな」

 

ぽかんとした小隊長らしき帝国兵の男は聞き間違いかと問い返し、返って来たのは不遜な物言い。小隊長の額に青筋が浮かぶ。

 

「……小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

「――なんだ?もしかして理解していることがわからないほど馬鹿だったのか?それはすまなかったな、失礼なことをした。なら今から理解が出来ないお前に理解できるように懇切丁寧に説明してやろう」

 

その言葉を日色が零した瞬間、青筋を浮かばせ怒りを漲らせた瞳で日色を睨んでいた表情がスっと無表情へと変化する小隊長。周囲の兵士達も剣呑な雰囲気で日色を睨んでいる。

そして、視線はユエとハジメへと移り、二人のえもいわれぬ魅力を放っている美貌に一瞬呆けるものの、よほど近しい存在なのだろうと当たりをつけ、再び下碑た笑みを浮かべた。

 

「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃん達はえらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

 

その言葉に日色は僅かに眉をぴくりと動かし、ユエは無表情でありながら誰でも分かるほど嫌悪感を丸出しにして、目を細めたハジメの瞳には既に彼らの姿は映っていなかった。

もはや。目の前の男が存在すること自体が許せないと言わんばかり、ユエが右手を掲げようとし、ハジメはホルスターへと手を触れた。

だが、日色は彼女達を制止し、小隊長の男へとため息を吐いて問いかける。

 

「――ハァ、敵ということでいいんだな?」

 

そんな日色の言葉に想像した通りにハジメが怯えないことに苛立ちを表にした小隊長が恫喝の言葉を叫び――

 

「あぁ!? まだ状況が理解できてねぇのか! てめぇは、震えながら許しをこッ――――あ?」

 

――瞬間、怒鳴るように恫喝の言葉を叫ぶ小隊長の言葉が止まった。

 

そう、止められたのだ。いつの間にか口から脳へかけて突き刺さった刀、【刺刀・ツラヌキ】によって。

己の身に何が起こったか一切理解が及ばぬまま小隊長の男は数瞬、全身が脱力し日色が抵抗なく刀を抜くと共に後ろに倒れ、死後硬直による痙攣を起こした。

 

何が起きたのかも分からず、呆然と倒れた小隊長を見ることしかできない兵士達を睥睨しながら日色はツラヌキを振るい血を刀身から飛ばした後、カシャンと鞘に収める。

 

「しょ、小隊長!?貴様───」

 

どうにか現実をいち早く理解したのか副長らしき男が怒声を叫びながら己の獲物を抜こうと剣の柄に触れ――

 

――瞬間、七つの蒼き閃光が空中を翔ける。

 

七つの閃光は副長を含めた七人の帝国兵の頭を同時に胴体から分離させ、一瞬遅れて血飛沫の華を咲かせた。

 

――我流刀術【七閃】

 

それは某堕天使エロメイドが使う相手の意表をついて攻撃する刀術だ。鞘内に収めた刀身に日色の【念糸】を巻きつけ外へと伸ばすことで僅かな鞘を動かす動作で七つの斬撃を同時に放つ技である。日色の化け物じみた身体能力で動かされた【念糸】は瞬く間に対象を物言わぬ肉片へと変えるだろう。

 

突然、小隊長を含め仲間の頭部が裂け飛ぶという異常事態に兵士達が半ばパニックになりながらも、武器を日色達に向ける。過程はわからなくても原因はわかっているが故の、中々に迅速な行動だ。人格面は褒められたものではないが、流石は帝国兵。実力は本物らしい。

 

「奴を殺せ!」

「詠唱を始めろっ!」

 

「…………」

 

早速、帝国兵の前衛が飛び出し、後衛が詠唱を開始する。だが、そのような行動も全て日色の前では全くの無駄と化す。

 

――念糸派生技能【瞬間構築】『蒼影剣』

――我流刀術【七閃】

 

空を翔ける蒼影剣が後衛の帝国兵達を無残に切り裂き、一瞬で絶命させ、帝国兵の前衛は同時に【七閃】によって胴体が斜めに両断される。もはや戦闘時間など5秒も必要ない、文字道理三十人ほどいた帝国兵は日色に秒殺された。

 

あまりにもあっけなく、ほんの一瞬で仲間が殲滅されたことで仲間の血飛沫を浴び力を失ったように、その場にへたり込んだ最後の生き残りの一人は悪い夢でも見ているのでは?と呆然としながら視線を彷徨わせた。

無理もない。彼等は決して弱い部隊ではない。むしろ、帝国の中では上位に勘定しても文句が出ないくらいには精鋭だ。

 

そんな中、これほどの惨状を作り出した者が返り血を浴びることはなく柄から手を離してゆっくりと兵士に歩み寄る。赤いローブを靡かせて此方へと歩いてくる姿はもはや死神としか言い様がない。

 

「ひぃ、く、来るなぁ!い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か!助けてくれ!」

 

命乞いをしながら這いずるように後退る兵士。その顔は恐怖に歪み、股間からは液体が漏れてしまっている。しかし兵士の声に応じるものはどこにもいない、なぜなら既にただ一つの例外もなくその兵士以外は絶命しているからだ。それを理解したと同時に兵士の首元にツラヌキが添えられた。

再び、ビクッと体を震わせた兵士は、醜く歪んだ顔で再び命乞いを始めた。

 

「た、頼む!殺さないでくれ!な、何でもするから!頼む!」

「……この兎人族達はこれで全部か?」

「質問に答えろ」

「………こ、答えたら殺さないか?」

「――今すぐ死ぬか?」

「ま、待ってくれ! 話す! 話すから! ……多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」

 

()()()()()()』それは、つまり老人など売れそうにない兎人族は殺したということだろう。兵士の言葉に、悲痛な表情を浮かべる兎人族達。

その言葉に日色は小さく舌打ちすると、もう用済みとばかりに深淵のような冷たい瞳がさらに冷たい絶対零度へと変わる。そう瞳に殺意を宿したのだ。

 

「待て!待ってくれ!他にも何でも話すから!帝国のでも何でも!だから!」

 

日色の殺意に気づいたのか兵士が再び必死に命乞いする。しかしその返答を無視するかのように日色は柄を握り――

 

――ドパンッと()()()()()が最後の生き残りの頭を吹き飛ばした。

 

ドサリと脱力するように仰向けに倒れる首から上がない兵士を横目に日色は背後の少女――右手のドンナーから硝煙を昇らせながら此方を見やるハジメへと視線を見やる。

 

「……ハジメ、何故撃った」

「――ドンナーの威力検査、どっちにしても殺すんだから別に構わないよね?」

「…………チッ、まぁいい」

 

淡々と答えるハジメは何かを諦めたように小さく舌打ちを行った後、兎人族達の方を見ると兎人族達はあまりにも容赦がない日色とハジメに完全に引いているようでその瞳には若干の恐怖が宿っていた。それはシアも同じだったのか、おずおずと日色に尋ねてきた。

 

「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」

 

その言葉に何の感情も浮かんでいない無表情で冷たい視線を向ける日色に「うっ」と唸るシア。自分達の同胞を殺し、奴隷にしようとした相手にも慈悲を持つようで、兎人族とはとことん温厚というか平和主義らしい。日色からすれば目撃者を残してしまえば自分達や兎人族の情報が帝国に知られるのを避けるために助ける気は元からなかったので文字通り何言ってんだお前?といった感じだ。

 

日色は口を開こうとしたがその機先を制するようにユエが反論した。

 

「……一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎ」

「そ、それは……」

「そもそも守られているだけのあなた達がそんな目を向けること自体お門違いよ」

「……」

 

ハジメとユエが兎人族達を不機嫌そうに睨む。守られておきながら、日色に向ける視線に負の感情を宿すなど許さないと言わんばかりである。当然といえば当然なので、兎人族達もバツ悪そうな表情をしている。

それを代表するかのようにシアのお父さんらしい濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性が代表するかのように前に出て謝罪をした。

 

「日色殿で宜しいか?私はカム・ハウリア。シアの父であり、ハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地を救っていただき、脱出までご助力くださるというのにこの仕打ち、大変申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのです」

 

その言葉に日色は気にしてないという様に手をヒラヒラと振るい、「気にするな、ただし代わりに樹海の案内を忘れるなよ」と呟いてハジメとユエを連れて無傷の馬車や馬のところへ行き、兎人族達を手招きする。樹海まで徒歩で半日くらいかかりそうなので、せっかくの馬と馬車を有効活用しようというわけだ。

 

シュタイフを馬車に連結させ、馬に乗る者と分けて一行は樹海へと進路をとることにした。

 

「……ハジメ、どうして最後撃ったの?」

「何?」

 

無残な帝国兵の死体を風の魔法で吹き飛ばして処理をしながらユエがシュタイフの連結部位に万が一の事故が起こらないように点検を行っているハジメへと声をかけた。

ユエが言っているのは帝国兵との戦いのことだ。あの時、日色が一人で戦っていたが途中までハジメは静かに見守っていたのにどうして最後の生き残りの兵士を撃ったのかユエは気になったのだ。

何故ならあの時ハジメはドンナーの威力検査などと言ったが本当にドンナーの威力を試すのならわざわざ頭を狙う必要はないむしろ鎧部分を狙うべきだろう。

だからこそユエは聞いているのだ、どうして撃ったのか?と

 

「あぁ、アレ?日色の考えがわかったから……かな」

「日色の考え?」

 

作業を続けながら返すハジメの返答にユエは疑問符を上げた。

そんなユエを見ずに作業を続けながらハジメは言葉を続ける。

 

「…………多分日色は、私達に殺しをして欲しくなかったと思う」

「……殺し?」

「……えぇ」

 

ハジメは作業を一旦止め、顔を上げた視界の先にいる兎人族へと指示を行っている日色へと目を向ける。さっき初めて魔物ではなく人を殺したというのに日色の表情には無理をしているようには感じられずいつものような無表情であり続けている、だがハジメにはさっきまでの違いに気づいていた。

日色の手――いや、正確には右手が極僅かに震えていたのだ、その震えは決して止まることはなく震え続けている。

 

ハジメの推測では、日色はハジメ達に殺人をさせたくなかったのだ。だからこそハジメやユエを制止し、己が一人で戦った。ハジメ達が殺人を行い、人を殺したことがトラウマにならないように。彼の優しさがそうさせたのだ。

だからこそハジメは最後の生き残りを自らの手で殺した、日色だけが殺し続けないように。あの優しい日色が自分だけを責めないように。

 

現在のハジメには敵であれば容赦なく殺すという価値観が強固に染み付いているせいか、殺す前だろうと殺す後だろうと動揺するどころか何も感じなかった。いやもしかしたら、日色と出会った最初から他人を殺しても『何も感じなかった』のかもしれない。

 

そう説明するとユエも日色を心配そうに見つめた、異世界は常に命と隣り合わせの世界だ。これからも生きるためには、地球に帰る方法を探すためには殺人はこれっきりにはならないだろう。

初めて行った殺人を日色はどう思っているのかとハジメとユエは心配するように思った。

 

 

 

 

 

 

 

『…………言えない、帝国兵たちの目が完全に野獣○輩の目だったからつい斬ってしまっただなんて言えない…………あれは正当防衛だよね!?自分のケツを守るためにやったんだから正当防衛だよね!!?というかなんで俺は野郎なのにケツを狙われてんの?ホモなの!?もしかして帝国はホモの国なの!!?』

 

 

そして何も知らず、勝手にケツが掘られる恐怖に怯えている馬鹿が一名。

 

 

 




シアの家族は日色達がオスカーの住処に出るのが早かったので原作より助けられた人数が多いです。

あ、ちなみにハジメちゃんの服装はファンキルの剣神レーヴァテインの服装の上に飛行型レーヴァテインの黒より藍色のコートをきた感じだと思って頂ければ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。