ありふれた職業で世界最強(女)と文字使い(ワードマスター)   作:アルテール

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はい、どうも、お久しぶりです!最近友達に「勘違い、いらなくね?」と言われて若干傷ついているアルテールです!

最近はリアルが忙しくなり、全く書けていません!待ってくれている方々、大変申し訳ございません!
そして勘違い要素を除けてもいいんじゃないかと言ってくださる皆様、申し訳ございません。
申し訳ありませんがこの小説は勘違い系のままで行かせていきたいと思います、というよりこの勘違いも物語の伏線の一つなので退けることが既にできなくなってしまっているのです。
………決して書き直すことがめんどくさかったわけではありませんよ?(目逸らし)

そんなわけで申し訳ありませんがこれからもこんな駄目文の『あり文字』をよろしくお願いします(>_<)


ハルツェナ樹海

炎が舞う。

 

浅黄色の髪を持った兎人族の少女が呆然と眺める光景は正しく地獄の世界だった。

樹海からまるで水が紙に染み渡るように炎が放射状に広がり、火の粉が暗がりの空を照らす中、悲鳴の声や高揚した野太い男達の声が聞こえてくる。

 

自分達の住処が炎によって音を立てて、炭化し瞬く間に崩れていく。

己が育った住処がこうも容易く壊れていくことに少女は瞳に涙を浮かべ呆然と眺め続ける。

 

「――――ッ!!」

 

そして、何を思ったのか立ち上がり、未だ悲鳴が聞こえる炎が燃え盛る森の中へと己の体力など気にせず全速力で駆けていく。

少女は走る、燃え盛る故郷の森を。

涙を拭うこともなく、草木が炎に照らされた肌を切り裂き所々に切り傷をも気にすることなく。

 

走って、走って、走り続けて。

 

そして遂に、人族に襲われている己の家族を視認し――

 

 

「【――――――ッ!!!】」

 

 

――少女は、己の腕に嵌めてある()()を輝かせながら喉が張り裂けるような絶叫に近い声で何かを叫んだのだった。

 

 

◆◇◆

 

七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国フェアベルゲンを抱える【ハルツィナ樹海】を目指して日色が運転するシュタイフとそれに牽引される大型馬車二台、そして数十頭の馬がかなり速いペースで平原を進んでいた。

 

シュタイフには日色の他に日色の腕にスッポリと収まるようにユエが前に座り、後ろにはシアが、そしてサイドカーにハジメが乗っている。当初、シアには馬車に乗るように言ったのだが、断固として二輪に乗る旨を主張し言う事を聞かなかった。ハジメやユエが何度も蹴落としたのだがその度に「あ゛~」とゾンビのように復活してくるので仕方なく乗ることを許可したのだ。ちなみにハジメがサイドカーなのは座る場所を公平にするためらしい。

 

「あの、あの!皆さんのこと、教えてくれませんか?」

 

そうして、暫く走り続けていると突然、シアがそのようなことを言い出した。そのような言葉に日色は疑問符を上げて安全運転のためにシアに視線を向けないまま聞き返した。

 

「?……俺達のことは話しただろう?」

「いえ、能力とかそいうことではなくて、なぜ、奈落? という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、お三人自身のことが知りたいです」

「……聞いてどうするの?」

「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけです。……私、この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけました。小さい時はそれがすごく嫌で……もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれましたし、今は、自分を嫌ってはいませんが……それでも、やっぱり、この世界のはみだし者のような気がして……だから、私、嬉しかったのです。皆さんに出会って、私みたいな存在は他にもいるのだと知って、一人じゃない、はみだし者なんかじゃないって思えて……勝手ながら、そ、その、な、仲間みたいに思えて……だから、その、もっとお三人のことを知りたいといいますか……何といいますか……」

 

話の途中で恥ずかしくなってきたのか、シアは次第に小声になって日色の背に隠れるように身を縮こまらせた。出会った当初も、そう言えば随分嬉しそうにしていたと、三人は思い出し、シアの様子に何とも言えない表情をする。おそらく、シアは気になるのだろう。

この世界で、魔物と同じ体質を持った人など受け入れがたい存在であるシアにとって、自分と同じ体質を持つ同士、仲間意識を感じ、どう生きてきたのか知りたいのかもしれない。

その言葉に、日色を少し考えた後、樹海までまだ時間がかかるだろうなと判断すると同時にハジメへと視線を向ける。

 

「……ハジメ、話してやれ」

「――え、私が言うの?まぁ……いいけど」

 

ハジメは日色の言葉に僅かに眉をひそめるが暇つぶしにいいと思ってこれまでの経緯を語り始めた。

 

結果……

 

「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~、日色さんもハジメさんもユエさんもがわいぞうですぅ~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

 

何故か号泣した。

 

滂沱の涙を流しながら「私は、甘ちゃんですぅ」とか「もう、弱音は吐かないですぅ」と呟いている。そして、さり気なく、日色の外套で顔を拭こうとして手を叩かれている。どうやら、自分は大変な境遇だと思っていたら、三人が自分以上に大変な思いをしていたことを知り、不幸顔していた自分が情けなくなったらしい。

 

暫くメソメソしていたシアだが、突如、決然とした表情でガバッと顔を上げると拳を握り元気よく宣言した。

 

「皆さん!私、決めました!私、皆さんの旅に着いていきます! これからは、このシア・ハウリアが陰に日向にお三人方を助けて差し上げます! 遠慮なんて必要ありませんよ。私達はたった四人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

 

その言葉に三人の冷めた視線が送られる。

 

「現在進行形で守られている脆弱ウサギが何言ってるの?足手纏いでしょうに」

「……さり気なく『仲間みたい』から『仲間』に格上げしている……厚皮ウサギ」

「ありがた迷惑って言葉知ってるか、青リボン」

「予想以上に辛辣!?」

 

あまりにも悲しい答えにシアは涙した。

 

 

それから数時間して、遂に一行は【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。

 

「それでは、ハジメ殿、ユエ殿、そして日色殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。お二人を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

「えぇ、聞いた限りそこが本当の迷宮と関係してそうだから」

 

カムが、日色達に対して樹海での注意と行き先の確認をする。カムが言った【大樹】とは、【ハルツィナ樹海】の最深部にある巨大な一本樹木で、亜人達には『大樹ウーア・アルト』と呼ばれており、神聖な場所として滅多に近づくものはいないらしい。峡谷脱出時にカムから聞いた話だ。

当初、ハジメは【ハルツィナ樹海】そのものが大迷宮かと思っていたのだが、よく考えれば、それなら奈落の底の魔物と同レベルの魔物が彷徨いている魔境ということになり、もしそうならばこの星は亜人族が支配していたはずだ。なので、【オルクス大迷宮】のように真の迷宮の入口が何処かにあるのだろうと推測し、カムから聞いた【大樹】が怪しいと踏んだのである。

 

カムは、ハジメの言葉に頷くと、周囲の兎人族に合図をして日色達の周りを固めた。

 

「日色殿、できる限り気配は消しもらえますかな。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」

「あぁ、承知している。俺達はある程度、隠密行動はできるから大丈夫だ」

 

そう言うと共にハジメと日色は【気配遮断】を使用し、ユエも、奈落で培った方法で気配を薄くした。

 

「ッ!? これは、また……日色殿、ハジメ殿、できればユエ殿くらいにしてもらえますかな?」

「ん?……こんな感じ?」

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや、全く、流石ですな!」

 

そう言って感嘆の混じった言葉を零すカム。

元々、兎人族は全体的にスペックが低い分、聴覚による索敵や気配を断つ隠密行動に秀でている。地上にいながら、奈落で鍛えたユエと同レベルと言えば、その優秀さが分かるだろうか。それは正しく気配を絶つことに関しては達人級と言えるだろう。だが、日色とハジメが持っている【気配遮断】はさらにその上を行く。普通の場所なら、一度認識すればそうそう見失うことはないが、樹海の中では、兎人族の索敵能力を以てしても見失いかねないハイレベルなものだった。日色に至っては嘗て幼少期に雫から気配を薄くする方法を併用しているので既に視界から消え失せてしまっているほどだ。

 

カムは、人間族でありながら自分達の唯一の強みを凌駕され、もはや苦笑いだ。隣では、何故かハジメとユエが自慢げに胸を張っている。シアは、どこか複雑そうだった。おそらく己と三人の実力差を改めて理解してしまったからだろう。

 

「それでは、行きましょうか」

 

カムの号令と共に準備を整えた一行は、カムとシアを先頭に樹海へと踏み込んだ。

 

暫く、道ならぬ道を突き進む。直ぐに濃い霧が発生し視界を塞いでくる。しかし、カムの足取りに迷いは全くなかった。現在位置も方角も完全に把握しているようだ。理由は分かっていないが、亜人族は、亜人族であるというだけで、樹海の中でも正確に現在地も方角も把握できるらしい。

途中、何回か魔物に出会うこともあったが三人が瞬く間に片付けていく。樹海の魔物は、一般的には相当厄介なものとして認識されているのだが、三人からすればただの雑魚である。何の問題もなかった。

 

しかし、樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれ、日色達は歩みを止めざるを得なくなった。数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。カム達は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。そして、何かを掴んだのか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。シアに至っては、その顔を青ざめさせている。

 

「………見つかったな」

 

無表情で呆れたように呟く日色にハジメとユエも相手の正体に気がつき、面倒そうな表情になった。

その相手の正体は……

 

「お前達……何故人間といる!種族と族名を名乗れ!」

 

虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。

 

樹海の中で人間族と亜人族が共に歩いている。

その有り得ない光景に、目の前の虎の亜人と思しき人物はカム達を裏切り者を見るような眼差しを向けた。その手には両刃の剣が抜身の状態で握られている。周囲にも数十人の亜人が殺気を滾らせながら包囲網を敷いているようだ。

 

「あ、あの私達は……」

 

カムが何とか誤魔化そうと額に冷汗を流しながら弁明を試みるが、その前に虎の亜人の視線がシアを捉え、その眼が大きく見開かれる。

 

「白い髪の兎人族…だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員か―――」

 

そう告げながら虎の亜人がカムの弁明を聞かず、問答無用と言わんばかりに攻撃命令を下そうとし――

 

 

「――吼えるな、静かにしろ」

 

 

――天が落ちた。

 

否、日色の言葉と共に天から落ちるように威圧が敵対者へと平等に重圧のように襲ったのだ。

【威圧】という魔力を直接放出することで相手に物理的な圧力を加える固有魔法である。

あまりの威圧に虎の亜人は声を紡ぎ出すことができず口をパクパクと閉口してしまう。

 

「俺はお前達亜人族とハウリア族に何があったかは知らないし、興味もないが生憎と仕事でな。こいつらの命は約束が果たされるまで保証しているんでな。殺るというのなら来るがいい………ただし、一人も生き残れると思うなよ」

 

そして、同時にハジメやユエも日色と同じように威圧感を出したことで遂に腰が抜けたのか霧に姿を隠している亜人族達が動揺し、霧の奥から草木が擦れる音が聞こえてきた。

 

(冗談だろ!こ、こんな、こんなものが人間だというのか!まるっきり化物じゃないか!)

 

虎の亜人は冷や汗を大量に流しながら、ヘタをすれば恐慌に陥って意味もなく喚いてしまいそうな自分を必死に押さえ込み代わりに内心で盛大に喚く。とは言っても日色達からすればわざわざ手加減して威圧しているのだが。

 

「俺はお前達がこの場を引くというのなら追いはしない。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか。俺はどちらでも構わないが?」

 

無表情のまま感情のこもっていない声で告げる日色の言葉には誇張や嘘は見受けられず、事実を淡々と語っているように見える。

その背筋に寒気が走るような表情に虎の亜人は確信した。確信せざる負えなかった。

 

此奴は無理だ、と。

 

もし仮に攻撃命令を下し、自分だけ全力で逃走を図ろうとしても生き残れる景色が想像できない、文字通り一瞬で肉塊に変えられるだろう。

 

だが、例えそうだとしても虎の亜人はこのまま尻尾巻いて逃げるわけにはいけなかった。虎の亜人は、フェアベルゲンの第二警備隊隊長だった。フェアベルゲンと周辺の集落間における警備が主な仕事で、魔物や侵入者から同胞を守るというこの仕事に誇りと覚悟を持っている。故に、同胞に危害が及ぶ可能性がある目の前の化物達を、例え部下共々全滅を確信していても安易に引くことなど出来なかった。

 

「……その前に、一つ聞きたい」

 

全身から冷や汗を流し、今にも屈しそうになる体を支えながら絞り切るような声で必死に冷静を装いながら日色へと尋ねる。その声に日色の鋭く冷たい瞳が虎の亜人を映す。

 

「……何が目的だ?」

 

端的な質問。しかし、返答次第では、ここを死地と定めて身命を賭す覚悟があると言外に込めた覚悟の質問だ。虎の亜人は、フェアベルゲンや集落の亜人達を傷つけるつもりなら、自分達が引くことは有り得ないと不退転の意志を眼に込めて気丈に日色を睨みつけた。

 

「樹海の深部、大樹ウーア・アルトの下へ行きたい」

「大樹の下へ……だと? 何のために?」

 

てっきり亜人を奴隷にするため等という自分達を害する目的なのかと思っていたら、神聖視はされているものの大して重要視はされていない【大樹】が目的と言われ若干困惑する虎の亜人。【大樹】は、亜人達にしてみれば、言わば樹海の名所のような場所に過ぎないのだ。

日色は少し躊躇するようにチラリとハジメとユエを見て、小さく頷くとさらに言葉を紡ぎ出した。

 

「そこに、本当の大迷宮への入口があるかもしれないからだ。俺達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアがいるのは俺たちが案内のために雇ったからだ」

「本当の迷宮?何を言っている?七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」

「ありえないな」

「なんだと?」

 

ここが本当に七大迷宮だというのなら魔物が弱すぎる。何より解放者達の試練の場だというのに亜人が平然と進めるのは可笑しい。仮に進める程の実力を持っているなら話は別だがもしそうならそもそも亜人族がここまで人間族に虐げられるわけがない。

その旨を伝えると虎の亜人は困惑した。

 

当然だ、樹海の魔物を弱いと断じることや、【オルクス大迷宮】の奈落や解放者、迷宮の試練などといった聞きなれない未知の単語。普段なら、『戯言』と切って捨てていただろうが現状それをしてしまえば同胞に危害が加わる可能性がある。

つまり、虎の亜人には目の前の化物達が機嫌を損ねて同胞へと矛を向けさせないようにしながらも、その化物達の目的が自分達が害になるかどうかを未知の単語を必死に噛み砕き、理解しなければならないのだ。

 

それを瞬時に思考し、日色達の言葉を必死に理解しながら出した答えは――

 

「……お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」

 

その言葉に、周囲の亜人達が動揺する気配が広がった。樹海の中で、侵入して来た人間族を見逃すということが異例だからだろう。

 

「だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方もがおられるかもしれない。お前に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

 

――上にポイ投げすることだった。

 

これはある意味当然の結論だろう。目の前の日色達程の驚異を自分の一存で野放しにするわけには行かず、だからといって戦闘すれば自分を含めて瞬く間に全滅だ。

ならばこそ、樹海に侵入した他種族は問答無用で処刑するという掟を破り、上に指示を仰ぎながらも日色達から目を離さないように監視することで被害を自分だけの最小限にする。

つまり、これは日色達が自分達を害さないことを前提に提案された部下の命を守りながらも日色達の監視を行うという一つの賭けであった。

 

それを理解した日色は感心した。この緊迫した状況で瞬時に状況を理解する冷静さがあり、プライドを捨ててでも部下の命を守りながらも亜人族の同胞を守ろうとする行動力があり、そしてその命懸けの綱渡りに等しい行為を行う度胸がある。

 

『なんでこんな優秀な奴が警備してんの?もっと昇格しそうな気がするけどなぁ、あっ………(察し)』

 

日色の中の人はどうしてこんな奴が未だ警備の位についてるのか考え、ブラック企業にいた上司を思い出して理解した。

 

 

あ、此奴俺と一緒の苦労人だ、と。

 

 

日色の視線に同情の視線が含まれたのは言うまでもない。

 

日色は少しハジメとユエに目を向けた後、二人が了承したのを見て日色の同情の視線など知らない虎の亜人へと返答する。

 

「……いいだろう。さっきの言葉、曲解せずにちゃんと伝えろ」

「無論だ。ザム! 聞こえていたな! 長老方に余さず伝えろ!」

「了解!」

 

虎の亜人の言葉と共に、気配が一つ遠ざかっていった。ハジメは、それを確認するといつでも抜けるようにと柄に置いた左手を離し、【威圧】を解いた。空気が一気に弛緩する。それに、ホッとすると共に、あっさり警戒を解いた日色に訝しそうな眼差しを向ける虎の亜人。部下達が「今なら!」と臨戦態勢を取り、隊長の制止を振り切り一人飛び出し、最初の一歩を踏み出した瞬間――

 

ドパンッ!!

 

――っと、ハジメの右腕がいつの間にか跳ね上がり銃声と共に一条の閃光が飛び出した兵士の頬を掠めて背後の樹を抉り飛ばし樹海の奥へと消えていった。

理解不能な攻撃に凍りつく兵士の頬に擦過傷が出来る。もし人間のように耳が横についていれば、確実に弾け飛んでいただろう。聞いたこともない炸裂音と反応を許さない超速の攻撃に誰もが硬直している。

 

「今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射出来るわ。どっちが早く攻撃できるか………試してみる?」

「な、なっ……詠唱がっ……」

 

そのハジメの銃弾に飛び出した兵士は腰が抜けたのか崩れるように座り込んだ。

虎の亜人は飛び出した兵士を背負い、仲間に預けた後小さく頭を下げた。

 

「部下が迷惑をかけてすまなかった。だが、下手な動きはあまりしないでくれ。我らも動かざるを得ない」

「安心しろ、お前達が手を出さない限りは攻撃はしない」

 

そう返答する日色の言葉に虎の亜人は小さく頷いた。他の部下たちも警戒はしているものの動くことはないようだ。包囲はそのままだが、漸く一段落着いたと分かり、カム達にもホッと安堵の吐息が漏れた。だが、彼等に向けられる視線は、日色やハジメに向けられるものより厳しいものがあり居心地は相当悪そうである。

 

暫く、重苦しい雰囲気が周囲を満たしていたが、そんな空気なんて知らんとばかりに足を崩して座り本を読んでいる日色にその雰囲気に飽きたのか日色の膝に膝枕とばかりに頭を乗せ横になるハジメに、日色の横で日色の肩に体重を預けるようにもたれかかるユエ。それを見たシアが場を和ませるためか、単に雰囲気に耐えられなくなったのか「私も~」と参戦し、敵地のど真ん中で、いきなりイチャつき始めた(亜人達にはそう見えた)日色に呆れの視線が突き刺さる。

 

時間にして一時間と言ったところか。調子に乗ったシアが、ユエに関節を極められて「ギブッ! ギブッですぅ!」と必死にタップし、それを周囲の亜人達が呆れを半分含ませた生暖かな視線で見つめていると、ハジメが何かが近づいてくることに気がついたのか半目の状態で起き上がると同時に、急速に近づいてくる気配を感じた。

 

場に再び緊張が走る。シアの関節には痛みが走る。

 

霧の奥からは、数人の新たな亜人達が現れた。彼等の中央にいる初老の男が特に目を引く。流れる美しい金髪に深い知性を備える碧眼、その身は細く、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせるも、その肉体は苛め抜いたかのように鍛えられた痕が確かにあり、全身から溢れ出る気配(オーラ)は他の亜人族とは隔絶している。威厳に満ちた容貌は、幾分シワが刻まれているものの、逆にそれがアクセントとなって美しさを引き上げていた。何より特徴的なのが、その尖った長耳だ。彼は、【森人族】いわゆるエルフの……大方長老なのだろう。

 

「ふむ、お前さんが問題の人間族かね? 名は何という?」

「……日色だ。神代日色。お前は?」

 

日色の言葉遣いに周囲の亜人が長老に何て態度を!と憤りを見せるが日色は無視した。亜人達を、片手で制すると、森人族の男性も名乗り返した。

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。【解放者】とは何処で知った?」

「…………オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だ」

 

目的などではなく、解放者の単語に興味を示すアルフレリックは表情には出さないものの内心は驚愕していた。なぜなら、解放者という単語と、その一人が『オスカー・オルクス』という名であることは、長老達と極僅かな側近しか知らない事だからだ。日色は目的などではなく、解放者の単語に興味を示すアルフレリックの極僅かな表情の変化を見て当たりだと確信した。

 

「ふむ、奈落の底か……聞いたことがないがな……証明できるか?」

「これだ」

 

あるいは亜人族の上層に情報を漏らしている者がいる可能性を考えて、日色に尋ねるアルフレリック。それに対し日色は【宝物庫】から地上の魔物では有り得ないほどの質を誇る魔石をいくつか取り出し、アルフレリックに渡す。

 

「こ、これは……こんな純度の魔石、見たことがないぞ……」

 

虎の亜人が驚愕の面持ちで思わず声を上げ、アルフレリックも眉をピクリと動かして内心驚愕を漏らしていた。

 

「そして、これ。オスカー・オルクスが付けていた指輪だ」

 

そう言って、日色が見せたのはオルクスの指輪だ。アルフレリックは、その指輪に刻まれた紋章を見て今度こそ内心の驚愕を隠しきれず目を見開いた。そして、気持ちを落ち付かせるようにゆっくり息を吐く。

 

「なるほど……確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリア族も一緒にな」

 

アルフレリックの言葉に、周囲の亜人族達だけでなく、カム達ハウリア族も驚愕の表情を浮かべた。虎の亜人を筆頭に、猛烈に抗議の声があがる。それも当然だろう。かつて、フェアベルゲンに人間族が招かれたことなど無かったのだから。

 

「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」

 

アルフレリックが厳しい表情で周囲の亜人達を宥める。しかし、今度はハジメの方が抗議の声を上げた。

 

「待って、なんで勝手に私達の予定を決めてるのよ?私達は大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに興味はないの。問題ないなら、このまま大樹に向かわせてもらう」

「いや、お前さん。それは無理だ」

「何……?」

 

邪魔をするの……と左腕に黒腕の義手を一瞬で装着し、臨戦態勢を取るハジメにむしろアルフレリックの方が困惑したように返した。

 

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。……亜人族なら、というか大樹付近に住んでいる兎人族ならば誰でも知っているはずだが……」

 

アルフレリックは、「今すぐ行ってどうする気だ?」とハジメを見たあと、案内役のカムを見た。ハジメは、聞かされた事実にポカンとした後、アルフレリックと同じようにカムを見た。そのカムはと言えば……

 

「あっ」

 

まさに、今思い出したという表情をしていた。ハジメの額から青筋が浮かび瞳からハイライトが消える。

 

「カム?」

「あっ、いや、その何といいますか……ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか……周期のことは意識してなかったといいますか……」

 

しどろもどろになって必死に言い訳するカムだったが、ハジメとユエのジト目に耐えられなくなったのか逆ギレしだした。

 

「ええい、シア、それにお前達も! なぜ、途中で教えてくれなかったのだ! お前達も周期のことは知っているだろ!」

「なっ、父様、逆ギレですかっ! 私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って……つまり、父様が悪いですぅ!」

「そうですよ、僕たちも、あれ? おかしいな? とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって……」

「族長、何かやたら張り切ってたから……」

 

逆ギレするカムに、シアが更に逆ギレし、他の兎人族達も目を逸らしながら、さり気なく責任を擦り付ける。あまりの醜さに日色は呆れたようにため息を吐いた。

 

「お、お前達! それでも家族か! これは、あれだ、そう! 連帯責任だ! 連帯責任! ハジメ殿、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」

「あっ、汚い! お父様汚いですよぉ! 一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」

「族長! 私達まで巻き込まないで下さい!」

「バカモン! 道中の、ハジメ殿の容赦のなさを見ていただろう! 一人でバツを受けるなんて絶対に嫌だ!」

「あんた、それでも族長ですか!」

 

亜人族の中でも情の深さは随一の種族といわれる兎人族。彼等は、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら互いに責任を擦り付け合っていた。情の深さは何処に行ったのだろう……流石、シアの家族である。総じて、残念なウサギばかりだった。

 

青筋を浮かべたハジメが、一言、ポツリと呟く。

 

「……ユエ」

「ん」

 

いつも喧嘩し合うユエですらもここではハジメと意見が一致したのか一歩前に出たユエがスっと右手を掲げた。それに気がついたハウリア達の表情が引き攣る。

 

「まっ、待ってください、ユエさん! やるなら父様だけを!」

「はっはっは、何時までも皆一緒だ!」

「何が一緒だぁ!」

「ユエ殿、族長だけにして下さい!」

「僕は悪くない、僕は悪くない、悪いのは族長なんだ!」

 

喧々囂々に騒ぐハウリア達に薄く笑い、ユエは静かに呟いた。

 

「【嵐帝】」

 

――――アッーーーー!!!

 

天高く舞い上がるウサミミ達。樹海に彼等の悲鳴が木霊する。同胞が攻撃を受けたはずなのに、アルフレリックを含む周囲の亜人達の表情に敵意はなかった。むしろ、呆れた表情で天を仰いでいる。彼等の表情が、何より雄弁にハウリア族の残念さを示していた。

その光景を見ながら日色はため息を吐く。

 

「蛙の子は蛙………か」

 

その声に含まれている感情が『呆れ』だったのは言うまでもない。




申し訳ありませんがテスト期間に入りましたので更新がしばらくできません

本当に申し訳ありません!!次回の更新が2週間程度先になると思うのでご了承ください・゜・(ノД`)・゜・
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