ありふれた職業で世界最強(女)と文字使い(ワードマスター)   作:アルテール

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テストが終わったーーー!オワッタァアアアアアアア!!!

今回はリハビリのために三人称に挑戦!
駄目文ですし、物語も進みませんが、ご了承ください。





やっぱり恋愛って難しい、誰かコツを教えてください……(懇願)


幕話 ありふれた少女の恋愛事情

南雲ハジメは困っていた。

 

あの時、日色に救われて以来、彼の顔を見るたびに胸や顔が熱くなる。

最初は風邪かな?と思いもしたが温度計に記された数値は常に平熱、では日色に会うたびに発症する病があるのか?そんなわけがない。

最近では、顔すら見ることが難しくなってきている。

 

 

南雲ハジメは慌てていた。

 

別に男子に告白されたわけでもないし、美少女に声をかけられたわけでもない。

では何故慌てているか?

 

答えは簡単。

 

 

 

 

 

『ハジメ、俺の家に来ないか』

『……………………………………ゑ?』

 

 

 

ハジメの大切な親友、神代日色に家に誘われたからだ。

 

 

春が近づいてきた中三年の三月半ば、高校受験が終わり、今までの勉強した分思いっきり遊ぼうぜ!という期間。

彼曰く適当に決めた高校にハジメも行くために勉強し、見事合格した後、お祝いという理由で日色にハジメは自宅に誘われていた。

ハジメが彼と同じ高校に行こうとした理由は簡単だ。

 

『神代日色と離れたくないから』である。

 

簡潔に言えばハジメは日色に依存していた。

まぁ、本心を偽り、親以外に拒絶されていた彼女を日色は救ったのだ。依存されるのは仕方ないだろう。

どっかのヤンデレ女神とは違って、日色からすればハジメは豹変するまではいい奴認定され、しかもハジメは決して他人に迷惑をかけない。

 

ただ、日色の匂いがすると落ち着く程度である。

 

 

閑話休題

 

 

そんなわけでハジメからすれば友達の家に行くということは一種の憧れとなっている。

親以外に拒絶されていたため恋愛面には疎く、「ウチ来る?」→「今日は親はいないんだ」→「アーッ!!?」みたいな展開は知らないし、そもそも日色(バカ)にそんな展開が起こせるわけがない。

 

だがしかし、ハジメにとって彼の家に行くことは胸の中にある『何か』が燃えているが故に簡単に言えば恥ずかしいのである。…………決してPCで邪な物を見てしまったわけでは無い、無いったら無い。

 

そんなわけで現在、ハジメは日色の家のチャイムで押そうか押さないか行ったり来たりしていた。

 

(うぅ~、ど、どうしよう。やっぱり押せないよ~、で、でもここに来て帰るのは……うぅ~、な、悩むなぁ~)

 

とまぁ、こんな感じ。まさに悩める少女である。

家のチャイムのボタンへと指が伸びたり引いたりして一分か十分後。

悩む少女ハジメに気づいた日色が家から出るが未だにチャイムを押すか押さないかで悩んでいるため、一切気づいていなかった。

 

「ぅ、ぅう~」

「で、いつまでそこにいるんだ?ハジメ」

 

未だに気づかないハジメに痺れを切らしたのか日色はハジメの首元を人差し指でチョンっと突くと突然の声と感触と共にハジメの思考に空白が生まれ、口からは甲高い声が射出された。

 

「ひゃひんッ!!?」

 

ビクンッ!とまるで凍った秋刀魚のように硬直したハジメ、慌てて振り向くとそこに日色がいることにようやく気付いたようだった。驚愕により微かに青くなっていたハジメの表情が一瞬で真っ赤に染まり始める。

 

「ぃ、いいいいいいいいいつからそこに!?」

「2、3分前だな、なんか集中しているからほっといてやろうかと」

「言ってよ!なんだか恥ずかしいじゃん!」

 

うわぁー!と顔を真っ赤にしながら悶えるハジメを無表情で見つめる日色。内心では『おぅ、なんだか小動物みたいだなー、萌えるわー』なんて思っていたりする。

 

 

「…………ところで、まだ入ってこないのか?」

「慰めてよ!」

 

 

 

ハジメが日色の家に入って真っ先に見たものは豪邸の玄関といった感じだった。

傷一つない木製の床に靴などを置いてある美しい白い石、一応ハジメの両親も裕福な家庭であるが流石にこれほど綺麗な豪邸に入ったことなどない……友達の家に誘われなかったためだが。

 

「す、凄い家だね。両親は何やっているの?」

「お袋が大手洋服会社の社長、親父が車会社の専務取締役だ。俺の部屋に行くからついてこいよ」

「ま、待ってよ」

 

そう言いながら廊下をスタスタと進む日色にハジメは慌てて靴を脱ぎ追いかけていく。廊下の壁には一定間隔で飾られている美しい絵や写真にハジメは目を取られてしまい――

 

「あ、あれ?日色?」

 

――彼を見失ってしまった。

家の中で迷子になるなんて笑うしかないが取りあえず彼が向かっていた方向へと足を運ばせると2階に続く階段と微かに開いているドアを見つけた。

 

 

「こ、ここかな?」

 

 

恐る恐る、僅かに開いているドアを開いてみるとそこには――

 

 

プチプチプチプチ

 

 

――日色の母親らしい女性が居間らしき部屋で割れやすいものを包むために入っているプチプチを無言で押していた。

 

 

「……………………え?」

「……おい、ハジメ」

 

目の前の光景に目を疑いたくなるが次の瞬間、背後からいつの間にかいた日色に引っ張られドアを強制的に閉められる。

バタンッと閉められたドアに日色はまるで見られたくなかったものを見られたとでも言うようにため息をつく。

 

「………………全く、どうして迷子になるんだ?まぁいい、さて、俺の部屋に向かおうか」

「え?でも、今のは母さ「気のせいだ、ハジメは幻覚でも見たんだろう」

「で、でも「気のせいだ、いいな」……アッハイ」

 

有無を言わさない日色の声色にハジメは口を閉じてしまうと居間のドアからさっきの女性の声が聞こえてきた。

 

 

『あら?さっきまで12時だったのにもう3時になってるわ』

 

 

どうやら3時間もプチプチで費やしていたらしい。

 

 

『仕方ないわねー、ご飯を食べてから続きをしましょうか』

 

 

しかもまだ続ける気らしい。

 

 

ふとハジメは心配そうに日色を見ると、日色は普段のような無表情が一転して苦虫を潰したような顔で顔をしかめていた。初めて彼のこのような表情を見たがなんというか苦労人のオーラを醸し出している。

 

 

「ハジメ、先に階段に登っていてくれ。登ったあと左に曲がったところに俺の部屋があるから……」

「う、うん」

 

 

まるで逆らってはいけないような声の力強さにほぼ反射の域でハジメは頷き階段を上っていった。背後を振り向くと日色が居間へのドアを開き、さっきの女性のところに向かっていた。

 

 

『お袋!何でいるんだ!?今日は仕事だって言ってただろ!』

『あら、日色。それはねぇ、今日の3月7日じゃなくて8月の23日だったの。パッと見で似ているから間違えちゃった』

『何がパッと見で間違えただ!数字どころか文字数すら合ってないだろうが!!』

『コラ、日色。母さんをまるで年寄りみたいな扱いして、まだまだ若いんですからね』

『何が若いだ!お袋の黄金期は十数年前に終わっただろうが!!』

 

『……ところで日色、お友達でも呼んできたの?』

 

『その前に人の話を聞けぇぇええええええええええええ!!!!!!!』

 

 

途中下の廊下から聞こえてきた会話はハジメは聞かなかったことにした、普段の彼からは想像できない会話だったので彼の尊厳が音を立てて崩れそうだったからだ。彼の為にもあまりあの母親のことは聞くべきではないのだろう、どうやら完璧に見える彼も家では苦労しているらしい。

 

 

「……………………すまんな、ハジメ。少し騒がしくしすぎた」

「う、ううん。別に大丈夫だよ」

 

数分後、日色の部屋ではゼェゼェと乱れている呼吸を整えようと深呼吸を行い謝る日色にハジメはブンブンと首を横に振っていた。

 

 

「と、すまん、飲み物を持ってくるのを忘れたな。とってこよう」

 

 

そう言って、え?とハジメが声を出す前に立ち上がってスタコラサッサと日色は部屋から出ていってしまう。

バタンと閉まるドア。階段にトントンと降りていく音と共にハジメはようやく自分が一人で日色の部屋にいることに実感が湧いてきた。

 

 

(ひぇっ!?ど、どうしよう!?日色の部屋に一人でいるなんて、うぅ~は、恥ずかしいよ~//)

 

 

どこに恥ずかしがる要素があるんだ?と思ったそこの君、そこはあまり気にしてはいけない。乙女の事情だ。

ハジメは一度日色の部屋をぐるりと見渡す。

 

 

日色の部屋はたくさんの小説や漫画が本棚に綺麗に整理されており、床や窓にはホコリ一つなくゲーム機などは綺麗に棚に入れられており、いわば普通の男の子の部屋とでも言った感じだった。

 

中でもハジメの注意を引くものが一つ、それはベットに置かれている天日干しされ、綺麗に畳んであるシャツである。

 

 

「……日色の……シャツ……」

 

 

まるで餌に吸い寄せられた虫のようにハジメは無意識にベットに近づき、シャツを手に取ってしまう。

そしてそのまま、シャツを自分の顔に近づけ――

 

「はっ!……僕は何をっ…………?」

 

 

次の瞬間、ハッ!、と正気に戻り、ハジメは自分の顔に近づけたシャツを慌てて遠ざけて――

 

 

遠ざけて――

 

 

「べ、ベットに戻さなきゃ……日色に変な奴だと思われちゃう……」

 

 

遠ざけ――

 

 

「ベットに……戻さなきゃ……」

 

 

遠ざ――

 

 

「ベットに………」

 

 

徐々に再びシャツを自分の顔に近づけていく。おい、何やってんだ主人公。

そんな何処かの声を無視して、ハジメは謎の興奮と共に腕を自分に引き寄せて顔に日色が来ていたシャツを近づけ――

 

――シャツを抱き締め、めいいっぱい匂いを吸い込んだ。

 

 

「……ん、スゥ……フゥ……スゥ……」

 

 

天日干し特有の気持ちの良い太陽の匂いと微かに残った彼の匂いが混ざり合い、ハジメは吸うたびに落ち着きと幸福感が押し寄せて――

 

 

 

 

「ハジメ、何やっているんだ?」

「ピャイッ!!!!??」

 

 

 

 

――飲み物とお菓子を持って来た日色に見つかりましたとさ、ちゃんちゃん。

 

 

 

 

「あー、見なかったことにしておいとくからさ。その、なんだ?元気出してくれ、ハジメ」

 

 

返事がない、ただの屍のようだ。をまさに実行したかのように、暗いオーラを迸ながら部屋の隅っこで体育座りで落ち込んでいるハジメ。皿にクッキーやケーキ等の色とりどりなお菓子を乗せて、二つのコップと炭酸飲料やフルーツジュースを持ってきた日色が慰めているがあまり効果がないようだ。

と、暫く声をかけ続けているとハジメが涙目になりながら微かに振り向き、一言小さく零した。

 

 

「……………………怒ってない?」

「いや、何故怒る?」

 

 

逆に日色が聞き返すと、ハジメはホッ、とため息をつき暗いオーラが霧散し始める。

 

 

 

 

 

「まぁ、見た時は若干引いたがな」

「どうしてそこで上げて叩き落とすの!!?」

 

 

 

無自覚に打ち出された上げて落とす日色の言葉のミサイルにハジメは悲しみの涙を流した。

 

 

「もう!ひどいよ、日色!」

 

まさに怒り心頭です、とでも言ったハジメに日色は一切変わらない表情で「すまん」と謝る。残念、全く反省していないようだ。

 

 

「日色!本当に分かって――」

「あー、はいはい。わかったからちょっと食え」

 

「――むぐっ!?」

 

 

未だに説教しようと口を開いたハジメの口にホイっ、と持ってきたクッキーを放り込む。

ハジメは慌てて口に入ったクッキーを飲み込み、再び日色に文句を言うために口を動かすと、サクサクとした食感にまろやかに広がる甘味、まるで高級なお菓子でしか味わえないような美味しさが口内に襲いかかり――

 

「(ゴクンッ)……おいしい」

「おっ、そうか。作ったかいがあったな」

 

再びもう一枚とクッキーへと伸ばしたハジメの手がピタッと停止した。

 

「………………え?これ日色が作ったの?」

「ん?まぁな、基本的な料理は俺が担当しているからな。この程度はお前でもできるさ」

 

 

そんなわけあるか。

日色の料理の腕は軽く高級料理店に匹敵するほどの腕前を持っており、毎日両親を喜ばせている程だ。

決して日色のような腕を持った中学生など世界に数人しかいないだろう。

 

「ま、そんなことは置いておいて。ひとまず乾杯しようぜ」

「いや、僕にとっては重要なことなんだけど……」

 

料理もできる完璧クール系少年(バカ)の実力にハジメは自分の無力さを嘆いた。

が、不屈の精神を備えたハジメにとってそんなことなんてもう慣れたものだ。決して泣いてなどいない、無いったら無い。

炭酸飲料の入ったコップを日色が掲げるとうぅ~と声を零しながらハジメもそれに応じてコップを掲げ、ともにカシャンと鳴らす。

 

「ほら、乾杯」

「……乾杯」

 

とまぁ、自分の無力さに嘆いた少女と単なるバカのパーティーはなんとも締まらない感じで始まったのだった。

 

 

そんなわけで二人だけのパーティーは始まったわけだが特に特別なことをしているわけではない。

日色が用意したお菓子を食べながら、ゲームをするというだけとなっている。

 

カチャカチャカチャカチャとコントローラーを高速で押す音が部屋に響き、テレビの画面内で二体のキャラが高速で動き回っていた。

 

「ふははははは!!どうだ!ハジメっ!防戦一方じゃないか、このままくたばるがいい!!」

「フッ!甘いね日色!このキャラによる逆転技を忘れてるでしょ!」

「なっ!しま……」

「もう遅い!これで終わりだァ!」

「ぐわぁああああああああああああ!!」

 

 

『GAME SET!』

 

 

とテレビから聞こえてくる音声と共にコントローラーを置いて両手両膝をついている日色と勝った!とでも言うように人差し指を立て片膝立ちで勝利のポーズをしたハジメが満面の笑みでいた。

 

「フフフ、これで4連勝目だね。日色」

「クソッ、次だ!次こそ勝ってやるよ!」

 

勝ち誇っているハジメに日色が悔しそうな表情でビシッと指を指す。

ハジメは「ふふ、いいよ」と再びゲームに取り掛かる。

 

彼と共に居るたびに楽しさが増し、よく笑ってしまう。

 

トクンッ!トクンッ!と彼と会うたびにハジメの胸は何度も熱くなる。

数年前までは一欠片も思わなかったようなことがハジメにとって今では自然のことになっている。

 

「そういえば……」

 

ゲームをしていると隣で日色に声をかけられた。

 

「どうしたの?日色」

「いや、何。ハジメは将来の夢はあるのかと思ってな」

 

将来の夢、それはハジメにとってあまりに気にしなかったことだ。まぁ将来のことが決まっているということもあるがいじめに遭っていたハジメにとって未来のことはあまり考えない。現在が辛い彼女に未来なんてものはあまり考えたいことではないのだ。

 

 

だけど、

 

 

今の彼女は違う。

 

 

稀に見る自分の両親を見て、時々思ってしまうのだ。

 

 

自分の将来のことを、隣にいてくれる人のことを。

 

 

もし、

 

 

もし、自分の隣で共に歩んでくれる人がいたとすれば――

 

 

それは――

 

 

その時にいてくれる人は――

 

 

ハジメは無意識に、彼へと目を向けてしまう。

日色はハジメが自分を見ていることに気づいたのか、こちらを向き――

 

 

「――どうした、ハジメ?俺の顔を見て?」

「――ッ!?な、なんでもないよ!!」

「そ、そうか」

 

つい彼を見てしまったハジメは顔を真っ赤にして慌てて目を逸らし、ゲームに集中する。

思考を打ち切り、画面内のキャラを動かして日色のキャラを倒そうと動かしていく。

 

 

意識してはいけなかった。

 

 

思ってはいけなかった。

 

 

もし、ハジメがそれを自覚してしまっては――

 

 

 

 

 

――もう、彼女は自分を抑えることはできないから。

 

 

 

彼女の恋の蕾はもう、今か今かと開花の瞬間を待っていた。

 




次から高校編です、異世界までもう少し!

頑張れ日色!負けるな日色!修羅場になることは確定したけど、頑張ってね!

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